アスファルトに開いた大穴をじっと見下ろす怪人の姿。
『車両進入禁止』『工事中』『安全第一』
幾多の立て札に囲まれておりながら、そこに居るはずの人影は見当たらない。
その代わりにあるのは炎上する建設車両、投げ出されたヘルメット、そしてよく見るわりに名前が出てこない赤く光る棒。
「……壊す、道路は壊す。そうだ、道路は壊す……」
自分に言い聞かせているかのごとく、怪人は呟く。
「いつの日か、北斗のコンクリートが尽きるその日まで、俺は……壊し続ける!」
天高く輝く7つの星に怪人が吼える。
無骨でありながら美しい、岩の如き体が星明りに照らされ、白く輝いた。
「北斗の街に現れたコンクリート怪人を覚えているものはいるか」
科崎・リオン(高校生エクスブレイン・dn0075)が灼滅者達に視線を巡らせる。
「……察しのいい者は気付いただろう。そうだ、灼滅されたはずの北斗コンクリ怪人アスファルガーが、再び北斗の街に現れる」
灼滅から僅か数日での未来予測、復活までの期間を考えればその日数はなんと、10日にも満たない。華菱・恵(ランブルフィッシュ・d01487)が危惧していた通りの事態となった。
そしてご多聞に洩れず、アスファルガーもまたドイツ風に『北斗コンクリ怪人アスファルガー・ディ・ファウスト』と名を改めた。
「アスファルガー・ディ・ファウストが現れるのは前回と同じく国道のど真ん中。それも、アスファルガーが灼滅されたその場所だ」
補修工事を行おうとした矢先、突如現れたアスファルガーが作業員達へと襲い掛かり、そして再び道路を破壊、セメント工業の促進計画を始めようとしている。
「奴の武器は強固な肉体と『北斗コンクリ拳』だ。その拳は、以前よりもはるかに重く強化されている。安易に受け止めよう、などとは思わぬ事だ」
一回りも二回りも大きくビルドアップされたその体から繰り出される連打は重機をも軽々と粉砕し、肉体は堅牢でありながら柔軟、熱にも寒さにも強い新技術がふんだんに使われている。
そして絶対的な強さへの自信ゆえか、戦闘員は1人も従えていない。
「北斗コンクリ怪人アスファルガー・ディ・ファウスト……コンクリート怪人でありながらアスファルトを名乗る半端な怪人を、これ以上のさばらせるな。……武運を祈る」
参加者 | |
---|---|
天津・麻羅(神・d00345) |
華菱・恵(ランブルフィッシュ・d01487) |
珠瀬・九十九(藍色ナインテイル・d02846) |
久野儀・詩歌(絞めて嬲って緩めて絞めて・d04110) |
高柳・綾沙(湖望落月・d04281) |
乾・剣一(高校生ファイアブラッド・d10909) |
藤堂・十夜(カニスディルス・d12398) |
天瀬・由千夜(悪を断つ一刀・d12573) |
●再臨! コンクリ怪人アスファルガー・ディ・ファウスト!
「ディ・ファウストってなんだろうね。コンクリ、関係ないよね?」
久野儀・詩歌(絞めて嬲って緩めて絞めて・d04110)が首をかしげる。
工事中の看板が掲げられ、閑散とした国道。ほんの少し前まで作業していた形跡こそあるが、そこには作業員らしき姿は無い。
「少し響きがカッコいいが……」
藤堂・十夜(カニスディルス・d12398)が、握り締めた自身の拳を見やる。
「すー……にゃむ……。崇め奉るのじゃ……」
華菱・恵(ランブルフィッシュ・d01487)の腕の中、天津・麻羅(神・d00345)がうつらうつらと半目を開けて寝言を漏らしていた。
「――はっ、意識が飛んでおった。彼奴の攻撃かっ!?」
文字通り飛び起きた麻羅の頭が、恵の鼻スレスレを掠める。
「アスファルガーはまだ――」
麻羅を下ろしながらそう言いかけて、道路の向こうに視線を移した。
「……いや、丁度今来たところだな」
こちらへと近づいてくる人影が、足を止めた。
真冬にも拘らず、着衣は薄いシャツ、破れかけたジーンズ、そして謎の肩パッドのみ。
道路灯に照らされた頭が、黒い路面とは対照的に白く輝いた。
「我が名は北斗コンクリ怪人アスファルガー・ディ・ファウスト。……お前達、何者だ」
待ってましたとばかりに、天瀬・由千夜(悪を断つ一刀・d12573)が刀を掲げ、麻羅が近場の看板によじ登った。
「京の都のご当地ヒーロー、拙者、天瀬由千夜がお相手致す!」
「わしの名は天津麻羅、高天原の神なのじゃ! この地の民を誑かす邪神めが、このわしが成敗してやるのじゃっ!! 」
アスファルガーが、怪訝そうに麻羅を睨み付ける。
「邪神……? この俺の事か?」
いかにも! と、ふんぞり返ろうとした麻羅が、看板から転げ落ちた。
「待ってたよ、アスファルト怪人……じゃなかった、アスファルトじゃないほう怪人」
高柳・綾沙(湖望落月・d04281)がチェーンソー剣を引っさげ、アスファルガーを指差す。
「……何?」
アスファルガーの眉間が、ピクリと動く。
珠瀬・九十九(藍色ナインテイル・d02846)が頬に手を当て、アスファルガーをまじまじと眺め、そして小さく鼻で笑った。
「コンクリートっぽさが足りないですわね。その、外見的特徴がどうにも」
「聞けば北斗以上のセメント生産量を誇る産地だって色々あるって話じゃ――」
「――黙れ!」
乾・剣一(高校生ファイアブラッド・d10909)のため息混じりな言葉を、アスファルガーの咆哮が遮った。
「……これだけは確かだな。貴様らは、俺の……北斗の敵だッ!」
――ガガガガガッ!!
アスファルガーの開かれた両の手から、散弾のように撃ち出されるセメントが看板を撃ち抜き、コーンを跳ね飛ばし、アスファルトを削り取りながら灼滅者へと迫る。
「……ッ!」
図体ゆえに身を隠す場所の無い十夜は、石の弾丸の真っ只中に居た。
●打ち砕け! アスファルガーの岩の肌!
「助かったのじゃ、デカいの!」
十夜の陰から、麻羅の顔が覗く。
「……特に庇うつもりはなかったんだが……」
そう呟く十夜を無視して、アスファルガー目掛けて駆け出す麻羅。両腕を大きく振り回すその姿はまさに「駄々っ子パンチ」と呼ぶにふさわしい。
「受けてみよ、神ダイナミッ――」
アスファルガーに足をかけられた麻羅がぽん、と宙に投げ出された。
「うぷっ!」
アスファルトに麻羅がすっ転び、ごーろごろごろと路面を転がった。
――ドルン!
エンジン音に、アスファルガーが振り返る。
「解体工事、着工だ」
綾沙がチェーンソー剣を横に振り抜こうとした瞬間、アスファルガーの手刀がチェーンソー剣の上から叩き付けられた。
――ガガガガ!!
チェーンソー剣がアスファルトに触れ、無数に傷を刻む。
恵が飛び散る破片の中を駆け抜け、雷を纏った拳を振るう。
「おおおッ!」
「ふんッ!」
アスファルガーの掌が、恵の拳を受け止めた。
「執念によって蘇ったか、アスファルガー!」
「……何の話だ」
譲らぬ2人の視線が交錯する周囲を、剣一が巡らせた夜霧が静かに覆っていった。
「お前は1度負けている! そんなお前に北斗を名乗る資格など無い!」
視線を恵に向けたまま、アスファルガーがセメント製の眉をしかめた。
「……ますます、何を言ってるのかわからぬ……なッ!」
恵の拳を振り払い、大きく後ろへと飛び退いたアスファルガーは腰を低く構え、深く息を吐き出し、静止したままこちらを睨み付ける。
「…………どういう事ですの?」
九十九が龍砕斧、バルディッシュを握り締め、由千夜と顔を見合わせた。
「わからないでござるが……ともかく、退くわけにはいかぬでござる!」
由千夜が刀を脇に構え、アスファルガーの眼前にその姿を晒す。
――ガキッ!
「ぬんッ!」
刀を弾いた腕から、わずかにセメントが剥がれ落ちる。
由千夜はすぐさまそこを飛び退き、夜霧の中へと紛れた。
「まずはその防御、崩させていただきます」
「――むッ!?」
夜霧の中から、由千夜と入れ替わりで飛び出したバルディッシュの刃が、アスファルガーの腕に深く食い込んだ。
●激闘! アスファルトに突き立つ拳!
十夜の広げた両腕から、ヴァンパイアミストが展開し、月をも覆い隠してゆく。
その中から、闇に紛れて影の刃がアスファルガーを襲った。
低空から迫る詩歌の斬影刃が、アスファルガーのセメントを削り取り霧の空へと弾き飛ばす。
「脆いな、アスファルガー。お前はコンクリートを名乗るには程遠い」
「伝聞で知ったんだけど、コンクリは砂糖を入れられただけで固まりづらくなるんだってね。そんな軟弱な物で道路作ろうとか、お笑いだよねぇ」
詩歌が、これ見よがしにせせら笑う。
「そうだそうだー、アスファルトじゃないほう怪人ー」
綾沙がわざとらしく叫んだ。
「知った口を……いや、貴様ら相手に言葉は不要、ただ、打ち倒すのみ……!」
アスファルガーの振り上げた拳が霧を払い飛ばす。
力を込めたその腕から、パラパラとセメントが剥がれ落ちた。
「北斗コンクリ――」
「えっ、アタシ?」
「させるかッ!」
「――百烈拳!!」
――ドドドドドドド!!
削岩機の如き轟音が、大量の土煙を巻き上げて綾沙、そして恵その前へと飛び出したを覆ってゆく。
「……まるでアスファルトのように脆い攻撃だな。……まぁ、突貫工事のその体では、そんな程度か」
舞い落ちる砂と破片の中から、アスファルガーの拳を捕らえた恵の姿が覗く。
頬を砂で汚した恵が、下からアスファルガーを鋭く睨み上げた。
「何だと……うぐッ!」
顔を苦痛に歪めたアスファルガーが、脛を抱えて、その場にしゃがみこむ。
アスファルガーの眼前には高笑いする麻羅が居た。
「見たか! これぞ神キックの威力!」
アスファルガーの指の隙間から、ゴッソリと削れたアスファルガーの脛の肌が覗く。
「地中に埋まったコンクリは邪魔らしいからな、丁寧に刻んでやるから安心しろ」
綾沙の振り下ろしたチェーンソー剣が、無防備なアスファルガーの背をズタズタに傷を刻み込んでゆく。
「今度は、私の番だ!」
丁度いい高さに落ち込んだアスファルガーの顔面を、恵の拳が撃ち抜く。
「ぐあッ……!」
破片を撒き散らしながら、大きく後ずさるアスファルガーを、由千夜が追った。
「拙者に断てぬ物など、あんまりない!」
――キィン!!
小気味良い音が霧を吹き飛ばす。
黒いアスファルトに、アスファルガーの白い右腕が突き立った。
●コンクリートよ永遠に……そして
アスファルガーが無くなった腕を押さえ、無理やりな笑顔を浮かべる。
「ふんッ……体が、軽くなったわッ……!」
アスファルガーの荒い呼吸が、距離を置いても耳に入った。
「そろそろ貴方にも見えるのではなくて? 北斗七星の8つ目の星が」
振り上げたバルディッシュが天を指す。
釣られるように、アスファルガーが空を見上げた。
「……いや、7つしか見えな……ぐッ!」
――ドガッ!
風の刃が、アスファルガーの体をさらにそぎ落とす。
「卑怯な……!」
「いえ、私もまさか本当に見上げてくれるとは……」
申し訳なさそうに九十九が苦笑いを見せた。
「なぜ、俺達がお前を貶すのか、その理由がわかるか?」
アスファルガーの背に、赤い十字が侵食するように深く食い込み、アスファルトへと釘付ける。
「ぬうッ……」
「僕の影業の前では、君の身体はもはや脂肪の塊に過ぎないよ」
アスファルガーの残った腕が、詩歌の影に絡みつかれ、そして影の奥底へと引きずり込まれていた。
「俺の身体は……セメント製だ!」
吼えるアスファルガーへ、両腕を振り回して迫る少女の姿があった。
「今度こそ受けてみよ! 神ダイナミック!!」
――ドオン!!
天高く打ち上げられるアスファルガー。
麻羅との衝突でアスファルガーの残された右腕も影に飲み込まれ、そして千切れていた。「お前にコンクリートを想う気持ちがあるなら、お前がコンクリートの代わりを務めてみろ! その大穴に飛び込んでな!」
落下するアスファルガーの眼下に、大口を開ける大穴。
アスファルガーが最初に灼滅されたその大穴に向けて、アスファルガーは落ちてゆく。
「コンクリートよ……永遠に!!」
――ドオオオオン!!
噴火する火口の如く、大小様々な石の破片が宙を舞う。
大穴から、狼煙が天へと昇った。
「是にて灼滅完了、一件落着! ……ふあ~……疲れたぁ……」
由千夜が刀を納め、額の汗を拭う。
「コンクリート舗装を積極的に採用しようとする動きもあるそうじゃないか……アスファルガー・ディ・ファウスト、お前は早すぎたんだ」
「今度こそ、静かに眠りとイイわ」
綾沙が大穴へ近づき、そっと中を覗き込んだ。
「……たぶん、アスファルトで塞がれると思うケド」
灼滅者達は、北斗七星の輝く星空を見上げた。
作者:Nantetu |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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