●とあるカードゲーマーのソウルボード
「このカードがボクに勝利をもたらしてくれます」
「何ィ? ハッタリを抜かしやがって!」
夢の中、特撮に使われるような岩場で二人はカードデッキを片手に対峙していた。
「イメージして下さい。ボクの力の前に無惨に負ける貴方の姿を」
「クッ、まだ終わっちゃいねえ!」
この夢の中では使用されたカードが具現化されるらしく、二人の背後では呼び出されたクリーチャー達が激しい戦いを繰り広げている。
終始侵入者の少女の方が優勢で、余裕の笑みを浮かべている。
「さあ、最後のアタックです!」
「ぐわああああああああああー!?」
敗北したソウルボードの主が、まるで自分が攻撃されたかのように崩れ落ちた。
「ボクはもっと、もっと強くならないといけません……さあ、次の勝負を始めましょうか?」
「うわあ、もうやめてくれえええ!?」
少年の悲痛な叫びは、この悪夢が醒めるまで止むことはなかった。
●
「ふふ、皆さん揃ってますね? では説明を始めます」
集まった灼滅者達を確認して五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は口を開いた。
「一人の少女が闇堕ちしてダークネスになりかけています」
少女の名前は千堂・一夏(せんどう・いちか)、中学3年生で趣味はトレーディングカードゲームである。
彼女は自分が弱いせいでカード仲間の足を引っ張っていると思い込んでおり、そのストレスが原因で闇堕ちしかかっているらしい。
「趣味に熱くなることは悪いことではないですが、のめり込み過ぎも良くないですね」
彼女は夜な夜なカードゲーマーの夢にソウルアクセスし、勝負を挑み続けている。
今のところ彼女は元の人間としての意識を遺しているが、遠からず完全なダークネスになってしまうだろう。
「出来ればその前に皆さんには彼女を救出してほしいのです」
もし彼女が完全にダークネスになってしまえば灼滅するしかなくなってしまう。
「私の未来予測で次に彼女が狙うターゲットはわかっています」
彼女がターゲットにソウルアクセスした後からソウルボードに侵入すれば、逃げられることなく接触できるだろう。
「それからソウルボードの中では、彼女は5体の配下を従えています」
剣士風の配下2体と学者風の配下が3体、剣士風の配下は見た目通り剣で近接攻撃をしてきて、学者風の配下は遠距離から回復系のサイキックを操ってくる。
「もし彼女の心にカードゲーム本来の楽しさを訴えることができれば、敵の戦闘力を下げることができるかもしれません」
強くなることだけがカードゲームの面白さではないということを彼女に思い出させることができれば、彼女をダークネス化から救うきっかけになるかもしれない。
「どうか彼女がダークネスになってしまう前に救ってあげて下さい。私は皆さんなら大丈夫だと信じていますよ」
参加者 | |
---|---|
山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763) |
虚神・祢音(斬鎌舞踏・d00846) |
桜庭・理彩(闇の奥に・d03959) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
氷室・結実(極道巫女・d09506) |
聖光院・七(ひとりぼっちのスナイパー・d10233) |
君津・シズク(積木崩し・d11222) |
才谷・某(無名の影祓い・d13415) |
●出陣
「どうやら入っていったようですね」
住民の寝静まった住宅街、才谷・某(無名の影祓い・d13415)は千堂・一夏が今晩ターゲットにすると未来予測された者の家に一夏が入っていくのを、物陰から確認していた。
「カードゲーム文化はよく判らないけど、シャドウの被害者を増やす訳にはいかないわ」
シャドウに強い敵意を持つ桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)は、新たなシャドウの誕生を阻止するため、静かに闘志を燃やしている。
「ところで、仲間の足を引っ張るって……カードゲームって団体競技なの?」
「一夏さんがやっているゲームは、2本先取のチーム戦の大会があるんですよ」
一人のカードゲーマーとして一夏を助けたいとこの事件に臨んだ聖光院・七(ひとりぼっちのスナイパー・d10233)は、持参した一夏が遊んでいるのと同じカードゲームのデッキを祈るように胸元でぎゅっと握りしめた。
「私はカードゲームって全然わからないんだけど、上手い人たちだって最初は初心者だったんだよね?」
きっとその時に『楽しかった』って思えたから、強くなりたくて頑張れたんじゃないかなあ、と山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)はのんびりした調子で続ける。
「要するに、強くなければ足手纏いと、そう思い込んで居るのじゃろ? ゲームに限らず、すべからく勝負事には付き物の悩みよな」
氷室・結実(極道巫女・d09506)は腕を組みながら少しイライラとした様子でそう呟いた。
強さを求める姿勢自体は悪くはないが、それにばかり目を奪われて周りに仲間がいるということが見えなくなっている一夏に苛立っているのである。
「そろそろ頃合いです。行きましょう」
一夏がターゲットの家に入ってから十分な時間が経っていた。
あまり長く間を空けてはターゲットが危険だと虚神・祢音(斬鎌舞踏・d00846)は仲間達を促す。
「色々気にするのもきっちり救出してからの話、さっさと終わらすよ!」
淳・周(赤き暴風・d05550)が威勢良く一歩を踏み出し、他の灼滅者達がそれに続きソウルボードの主の家の戸を潜って行った。
●夢の中の戦場
「もっと強いのかと思っていたんですけど、がっかりです」
「ぐわああぁあああっ!?」
ソウルボードの主がカードから具現化したユニットが、闇の剣士の漆黒の剣によって切り伏せられる。
「さすがボクの分身、君は今日もボクの期待に応えてくれるね……」
自陣に戻って自身にかしずく闇の剣士を一夏は労った。
「さあ、正義の味方の登場だ! 現実だろうとソウルボードだろうと助けを呼ぶ声があれば即参上するぜ!」
そこへ岩場の高いところから、周が大きな声で口上をあげながら、まるで特撮のヒーローのように現れる。
「……こんなところに乱入者? 対戦を邪魔するなんて無粋ですね」
勝負の途中で水を差されて一夏は不機嫌さを隠さない表情で周を睨んだ。
「ここは危険です。下がってください」
「……あ、ああ」
一夏の注意が周に向いた隙に祢音は対戦者、ソウルボードの主を戦闘の被害が及ばない場所まで誘導する。
何度かの敗北のために精神的ダメージを受けた彼は虚脱しており、祢音の指示に大人しく従った。
「千堂さん、今度は私が貴女にファイトを申し込むわ!」
一夏の正面に立った君津・シズク(積木崩し・d11222)が、デッキを片手にそれを突きつけるようにしながら宣言する。
「いいでしょう。今度は貴方にボクの力を見せてあげますよ」
一夏の言葉にシズクは静かに首を振ってからデッキを仕舞った。
「いいえ、私がカードで戦いたいのは本当の千堂さんよ。だから今はこのハンマーで貴女を叩き直す!」
代わりに取り出したロケットハンマーに影を纏わせながら、シズクはロケット噴射の勢いに乗って一夏に殴りかかる。
轟音!
「……貴方もそんなことを言うんですね」
一夏の前には闇の剣士が庇うように立って、剣の腹でシズクのロケットハンマーを受け止めていた。
「きっとボクの力の前に負けるのが怖いんだ!」
苛立った様子で一夏は、影を宿した手でシズクを突き飛ばす。
なりかけとはいえダークネスの力を前に、シズクは吹き飛ばされて大きく距離を離された。
「あくまでボクの邪魔をするというのなら、追い払うまでです……『コール』!」
一夏が唱えると、もう1体の闇の剣士と更に3体の黒の学者が一夏を囲むように現れる。
そして闇の剣士が1体、シズクに追撃を加えるべく飛び出した。
「そうはさせないわ」
その動きを読んでいたかのように理彩が間に割り込んで螺穿槍で闇の剣を弾く。
「隙ありだぜ!」
いつの間にか岩場から降りてきていた周が、開いた闇の剣士の胴に炎の拳を打ち込んだ。
炎に身を包まれながら闇の剣士は堪らず後退する。
「一夏ちゃん、私たちを対戦相手だと思って、思いっきりぶつかってきて!」
竹緒は事前に予習して用意してきたカードゲームのユニットを模した魔法使い服の殲術道具を身に纏うと、マジックミサイルを黒の学者に向けて連射した。
「思いっきり? 無駄ですよ。カードゲームでなくったって、ボクには勝利のイメージが見えているんですから」
魔法の矢が1体の黒の学者に殺到して傷つけるが、一夏は余裕の態度を崩すことなく配下に指示を下す。
「黒の学者のブースト、闇の剣士で攻撃です」
黒の学者の支援を受けて力を増した闇の剣士が灼滅者達に迫る。
「さぁ、死神の時間だ! 私の咎よ、闇を切り裂け!」
その攻撃を祢音がスレイヤーカードから取り出した大鎌で受け止めながら、炎の翼を展開した。
「千堂の攻撃がちと厄介じゃな」
ワイドガードで前衛の守りを強化しながら結実は分析する。
一夏のトラウナックルを受けたシズクには、トラウマが重ねてかかっているようであり、そのことから一夏のポジションはジャマーであると推測された。
「一夏さん、カードゲームは相手がいるから成り立つもの。自分だけを見ていたら、対戦相手に失礼ですよ?」
七はガトリングガンから漆黒の弾丸を放ちながら、一夏に言葉を投げかける。
ビハインドのパパはそれに合わせて霊障波を放った。
「貴方にはわからない。強くなければ自分を認めてもらえないんだ! ……そしてボクはこの力で強くなったんです」
一夏が七とパパの攻撃を避けた先で、竹緒のマジックミサイルによって傷ついていた1体の黒の学者が直撃を受けて消滅する。
「貴女は強い力に振り回されているだけだ。カードゲームでも自分が扱いきれないカードを使っても楽しくないでしょう?」
某がジャッジメントレイでシズクの傷を癒しながら、一夏に語りかけた。
「ボクが力に振り回されている? 本当にそうかその身で確かめさせてあげますよ!」
某の言葉に激昂した一夏から闇の力が膨張したように灼滅者達は感じた。
●楽しむためのファイト
「まずは厄介な方から、落ちなさい」
理彩が日本刀を一閃すると、漆黒の弾丸が飛び、直撃を受けた黒の学者の1体が毒に蝕まれる。
「まずは1体づつ、確実に」
そこに竹緒の魔法の矢が追撃して、2体目の黒の学者が光の粒となって消えた。
「カードの楽しさは勝つことか? そんなんじゃねえだろ!」
周のレーヴァテインが闇の剣士が防御のために構えた刀身を叩く。
「チッ、さすがに堅い!」
一夏を守る闇の剣士は強く、突破するための隙を中々見い出すことができなかった。
「私も闇堕ちから救出されたシャドウハンターなの。今度は私が助ける番よ!」
「ボクを、助ける?」
シズクのロケットハンマーから打ち出されたデッドブラスターを、弾道を読んでいたかのように最小限の動きで避けながら、一夏はその言葉を不思議そうに繰り返す。
「この力を手に入れて、ボクは真のイメージを手に入れました。ボクが誰かに助けてもらうことなんてない!」
一夏が展開したカードが光の矢のように宙を疾走した。
「……ぐぅ!?」
射線を読んだ周が身を挺してそれを受けるが、カードには心を惑わす術が施されており、ダメージ以上に周の心を侵す。
「ふざけるな! たとえ強くはなかろうと、貴様の仲間は貴様自身を受け容れているからこそ、『仲間』であったのではないか?」
一喝しながら結実が放った氷柱の雨が一夏に降り注いだ。
「仲間? あの時だってボクがもっと強ければ、負けさえしなければ……今のボクなら仲間の役に立てるんだ!」
一夏の声に応えるように闇の剣士達が氷の槍を叩き落す。
「イメージしてください、本当に求める自分の姿を。それは『一人で勝利するあなた』? それとも『仲間たちとカードを楽しむあなた』ですか?」
七のガトリングガンの一斉射が最後に残った黒の学者を薙ぎ払った。
「カードゲームは負けることで自分の強さを量り、相手を研鑽しながら強くなるものです。そんな力で得た強さなんて間違っている」
某の放った癒しの光が周に刺さったカードを払って、周を催眠から解放する。
「強くなることに焦って、仲間と楽しむことを忘れてしまっては、それは力ではなく悪夢だよ」
炎を纏った大鎌が祢音の手の中で踊り、1体の闇の剣士をその場に縫いつけた。
「この力が悪夢だと言うの? 違う、そんなのボクのイメージじゃない!」
動揺する主を気にするように、もう1体の闇の剣士が一夏に視線を向ける。
「貴方に邪魔はさせないわよ」
その隙を突くように踏み込んだ理彩が、日本刀と剣を鍔迫り合いさせて、闇の剣士を押さえ込んだ。
「私は悪夢からの解放者! 貴女の限界は、私が突き破ってやる!!」
祢音と理彩が闇の剣士を押さえた隙間を縫って一夏の許へシズクが駆け抜ける。
尾のように引っ張ったロケットハンマーを、活を入れるというにはあまりに豪快に一夏にクリーンヒットさせた。
放物線を描くように10メートルほど飛ぶ間に、一夏から憑き物が落ちるように闇が霧散していくことを灼滅者達はイメージした。
●戦いの果てに
「ボクは何て思い違いを……仲間にも酷いことをいっぱい言ってしまいました。他の対戦した人達にだって……」
項垂れる一夏に先ほどまでの闇を感じることはもうなかった。
「御主はまだ恵まれた方よ。家族も仲間もまだ居ろう。帰る場所が在るという事、少しは有り難く思うておけ」
「氷室さん……」
「帰る場所が在るということは、やり直せるということじゃからな」
フン、と鼻を鳴らしながら結実はそっぽを向く。
「一緒に帰りましょう、仲間のところへ。みなさん必ず、あなたを必要としています」
と言いながら七は項垂れていた一夏に手を差し伸べた。
「一夏ちゃん! 今度私にもカードゲーム、教えて?」
もう片方の手を竹緒が握って二人で一夏を立ち上がらせる。
「今度と言わず皆もこの機会に始めてみない? 教えてあげるしデッキも貸すわ」
そう言いながらシズクは荷物から次々とデッキを取り出した。
「それから千堂さん、学園に来ない? カードゲームのクラブだってあるのよ」
「あ、私もカードゲームのクラブに入っているんですよ!」
そしてシズクと七が一夏に勧誘の声をかける。
「えっと……こんなボクでも、一緒に遊んでくれるの……?」
おずおずとした様子で尋ねる一夏に、二人は一度顔を見合わせてから答えるのだった。
「「もちろん!」」
作者:刀道信三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 8
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