愛しのバレンタイン先輩

    作者:光次朗

    ●イケメンな先輩
     片田舎にあるその高校には、有名な先輩がでる。
     いるのではなく、でる。
     人呼んで、バレンタイン先輩。
     どんな先輩かと尋ねれば、皆が口を揃えることだろう。
     これ以上ないぐらいのイケメンだと。
    「あたし、チョコ作ってきたんだ」
     佐藤サトコが頬を染める。
    「実はわたしも。かっこいいよね、バレンタイン先輩」
     田中タナエの手にも、手作りチョコ。
    「えー、なんか整いすぎててマジキモイ。早く消えてくださいっていいにいこっかな」
     鈴木スズカは鼻で笑った。
     いわく──バレンタイン先輩に手作りチョコを渡して愛を告白すれば、カレシになってくれるかも。
     いわく──面と向かって罵倒すれば、チョコのように食べられちゃうから気をつけて。
     校内で囁かれるオトメの噂。
     そして噂は、もう一つ。
     ──あんまりモテモテになりすぎちゃうと、バレンタイン先輩消えちゃうんだって。

    ●イケメンな都市伝説
    「バレンタイン先輩が現れた」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はいつものポーズでそう告げた。
     場に漂うダレソレ感。
    「バレンタイン先輩は、オトメの夢と希望を一身に受けた都市伝説だ。特徴は、とにかくイケメン、らしい」
     わかるようでまったくわからない。集まった面々はそれぞれイケメンを想像してみる。しかし、この時点で千差万別だ。
    「バレンタイン先輩に手作りチョコを渡して愛を告白すれば、バレンタイン先輩と付き合うことができるかもしれない──そんな他愛のない噂が元だが、やっかいなのは、バレンタイン先輩に悪口をいうと食べられてしまうという噂もある点だ。放っておけば、鈴木スズカが食べられてしまう。おまえたちには、それを阻止して欲しい」
     噂が広まっているのは、片田舎にある横真下高校。バレンタイン先輩は、会いたいと願っていればいつでも、中庭に出現する。ちなみに、なんのアクションも起こさなかった場合は、微笑んで手を振って、そのまま消える。
    「噂はもう一つ、バレンタイン先輩は、一日に十人から手作りチョコ付きの愛の告白をされれば、そのなかの誰かを選べない罪の意識から、消滅するというものだ。消滅した場合、もう二度と出てくることはない。そしてその日、バレンタイン先輩は二人の女子生徒から告白される。つまり、その後おまえたち全員が告白をすれば、合計十人……戦闘せずとも、都市伝説を消滅させることができる」
     目的は二つだ──ヤマトは続けた。
     一つ目は、鈴木スズカが被害に遭うことを阻止すること。
     二つ目は、都市伝説を消滅させること。
    「二つ目については、方法が二通りあることになる。おまえたちでバレンタイン先輩を呼び出し、罵詈雑言を浴びせ、逆上して襲いかかってきたところを戦闘で倒すか、ひとりずつが順番に手作りチョコを渡して告白するか」
     ちなみに、佐藤サトコが告白をするのは一時間目の休み時間。
     田中タナエが二時間目の休み時間。
     鈴木スズカがわざわざ呼び出して罵倒するのは、三時間目の休み時間だ。
    「もちろん、バレンタイン先輩は一日中何度でも、放課後であっても出現する。片田舎とはいえそこそこ規模のある高校だ、制服を着てれば怪しまれることもないだろう」
     また、告白する場合、男性として思いをぶつけることも可能。女装しても問題ない。
    「バレンタイン先輩は、心もイケメンだからな」
     相手が男だからといって逆上するということはないらしい。
    「戦闘になった場合の戦闘能力は、スピード重視の遠距離型だ。攻撃を当てるのも避けるのも厄介だな。戦闘になる場合はもちろん、他の生徒に被害が及ばないよう考慮してくれ」
     ヤマトは高校までの地図と、男女の制服を差し出した。
    「どれぐらいのイケメンだったのか、聞かせてもらえるとありがたい。健闘を祈る!」


    参加者
    陰条路・朔之助(雲海・d00390)
    英・糸子(仕合せ糸の紡ぎ手・d00575)
    花巻・紫緑(指先細工・d02114)
    本山・葵(緑色の香辛料・d02310)
    雁音・夕眞(冷徹の犬・d10362)
    鏡見・アイ(リンゼのようなもの・d11337)
    越坂・夏海(残炎・d12717)
    オーベール・マルタン(ロークワト・d12979)

    ■リプレイ

    ●愛の告白×10
     早朝──横真下高校、中庭にて。
     英・糸子(仕合せ糸の紡ぎ手・d00575)は、心にある人物を思い浮かべていた。
     都市伝説、バレンタイン先輩。
     会いたいと願えばいつでも会える──エクスブレインの情報を元に、チョコを胸に抱えてひたすら願う。
     糸子以外の全員は、念のため旅人の外套や闇纏いを用意して、物陰から糸子を見守っていた。もちろん、周囲を警戒するためだ。そして、告白を見てニヤニヤするためだ(後者メイン)。
     対都市伝説の作戦は、ごくシンプルだった。八人全員がバレンタイン先輩に告白、一般人の二人が告白するのも見守って、合計十人。消滅までを見届け、ハッピーエンドという筋書きだ。
     この日のために、八人は皆で集まってチョコレートを作り、用意も完璧。
    「バレンタインせんぱい!」
     糸子が声をあげ、全員が身を乗り出す。
     いつのまにか、バレンタイン先輩が姿を現していた。茶色がかった髪、色白の顔。彫りが深いがくどいというわけではなく、さわやかな微笑みを湛えている。
    (「うう……! 演技だけど、フリだけど!」)
     糸子は鼓動が速くなるのを自覚していた。たとえ演技でも、なかなかさらりとできるものでもない。
    「なんだい、赤い顔をして……緊張しているのかな」
     バレンタイン先輩は、見た目から想像する通りの高めの声だった。
    「可愛いね、眼鏡のレディ。君の頬に触れたいけれど、そんなことをしては繊細な君はもっと赤くなって、トマトのようになってしまうかな。食べてしまいたくなったら、困ってしまうね」
     歯の浮くようなセリフを、完璧にいってのける。
    「バレンタインせんぱい、あの、これ受け取って! いっしょうけんめい、わたしの想いを込めたから……」
     糸子はバレンタイン先輩を見上げると、かわいらしくラッピングされたチョコレートを差し出した。
    「すきです、せんぱい」
    「僕にくれるのかい? 嬉しいな」
     手作りチョコはその場で食べるのが礼儀、バレンタイン先輩はすぐに包みを開き、口に入れた。
    「これは……広がる甘さの中に辛さのハーモニー! 嬉しいよ、スイートホットハニー」
     糸子作、キムチ入りチョコ。
     しかしバレンタイン先輩は、笑顔でそれを食べきった。
    「イケメン!」
     糸子は思わず声に出す。外見ではない、その心意気が。
    「ありがとう、マイスイートホット」
     そういって、バレンタイン先輩は姿を消した。
     これは、なかなか手強そうだ……いろんな意味で。八人の認識が一致する。

     二番手、本山・葵(緑色の香辛料・d02310)。
     ホームルーム前の中庭で、バレンタイン先輩を念じる。
    「うあ~、こういうの慣れてねえからドキドキするぜ」
     チョコを抱え、そわそわと待っていた。チョコを作ること自体不慣れで、皆に手伝ってもらってやっとの思いで完成させたのだ。
    「やあ、かわいい子猫ちゃん。君の早鐘が僕にまで聞こえてくるよ。君はそうやって、特急心臓リズムで僕の心までも加速させるのかい? 僕はもう、特別切符の上り線さ」
     現れたバレンタイン先輩は、キラキラと輝いていた。輝きが漫画的に目視できるほどだ。背後には薔薇を背負っているのが見える気すらする。
     いや、実際に背負っていた。
    「せ、先輩! あんたにチョコを渡したくて、作ってきたんだ!」
     葵はもう勢いで、チョコを突きつけた。
     一生懸命作った、見栄えがいまいちのハート型チョコレート。
    「こ、こんなんで悪いけど……よかったら貰ってくれないか?」
    「もちろんさ、かわいい照れ屋さん」
     嫌な顔などするわけもなく、すぐに食べ始める。 
    「ああ、おいしいよ超特急レディ。世界に一つだけのハート、僕のハートにしかと届いたとも。ハートとハートでダブルハートさ」
     嬉しそうに笑って、そのまま消えていった。
    「消えた……なんかすげえな」
     戦闘よりも疲れるかもしれない。葵は汗を拭った。

     三番手、花巻・紫緑(指先細工・d02114)。
     性別、男。
     しかし彼には女装しようという気はなかった。彼だけではない、今回バレンタイン先輩に告白するメンバーのうち、四人は男だったが、全員女装するつもりはない。
     男らしく、男として、男に手作りチョコを渡すのだ。
    「やあ、優しげな眼鏡ボーイ。何か用かな?」
    (「うわ真面目にイケメンなんですけど何これ! これが顔面格差社会ですね畜生……っ」)
     紫緑は現れたバレンタイン先輩に心中でわなないた。薔薇を物理的に背負っていてもカッコイイ。きっとこういうイケメンは何をしてもイケメンなのだ。
    「あの、俺……バレンタイン先輩の顔もですが、心も素敵だって聞いて気になって、それから憧れて考えたら眠れなくなって……」
     潤んだ瞳で、演技開始。手作りチョコをおりゃっとみぞおちに突き刺した。
    「気持ち悪いのはわかってます、でも、好キデス! 良かったら、受け取ってください!」
    「ブフォア」
     バレンタイン先輩は吐血しつつもイケメン笑顔でチョコを受け取り、包みを開ける。
    「気持ち悪いわけがないじゃないか。嬉しいよ、夜なべして僕のことを考えてくれていたんだね、寝不足眼鏡ボーイ」
     包みの中には、様々な形のチョコレート。まるで精巧なガラス細工にチョコレートをぶっかけたかのような、整った形が揃う。
    「いただくよ」
     食べた。
     ガシャンバリバリバリ。チョコを食べたときには決してしない音がした。
    「まるでガラスのように繊細な味だよガラスの少年……血の味がするほどにおいしいよ」
     事実、自作のガラス細工に湯煎したチョコをぶっかけたものだった。
    (「心もイケメン……!」)
     良い子はマネをしてはいけません。

     四番手、オーベール・マルタン(ロークワト・d12979)、男。
     深緑の長髪に、金色の瞳。充分にイケメンの部類である彼もまた、男としてチョコを渡すためにスタンバイ。
     ただし、手作りチョコはある意味でガラス細工よりも危険だった。皆と共に作る際、見よう見まねで様々なものを投入したのだ。
     止められてやめたものもあったが、そのまま入れてしまったものも多い。何だろうと思いつつ入れた、しょっぱいものとか。色が近い、めんつゆ的なものとか。
    「こんにちは、金の瞳の君。まさか君も、チョコレートをなんていうのかな。はは、いやまさかね、冗談さ」
    「チョコ、うまい。……たぶん」
     オーベールは口を開くと、カタコトで告げた。
    「やる」
    「おお、驚いたよ。まさか本当に、チョコレートだとは」
     本当にチョコレートかどうかは怪しいしろものを差し出され、バレンタイン先輩はその場で完食してみせた。
    「新しい味、新しい世界……君の愛だと解釈して良いんだね? なんだか色々目覚めそうだよ」
     遠くを見つめる。若干目が回っていた。ガラス細工チョコからこのなんでもありチョコ、先輩にとっては軽く試練だ。

     五番手、陰条路・朔之助(雲海・d00390)。女性だが男子制服着用。
     女装も可といわれているなか、あえて男装でのトライ。
    「あ! バレンタインせんぱぁい!」
     見た目は完璧な男子高校生となった朔之助は、現れたバレンタイン先輩に内股乙女走りで駆け寄った。
     もじもじと緊張を全身で表しながら、バレンタイン先輩を見つめる。
     走り方や仕草は、少女漫画を読みあさって研究した。そこまで頑張ったのに男装姿。目指すところはどこなのか。
    「先輩の為に……心を込めて作りました! 僕の熱い気持ち、受け取ってください!」
     バチンこウインクをかまし、ドスの効いた声で告白。ずいっとたこ焼きを差し出す。
     否、たこ焼きのチョコレートがけ(青のり鰹節付き)を差し出す。
    「嬉しいな、ボーイ……違うね、君はガールだ。そんな格好をしていても、君のかわいさまでは隠しきれないよ、ボーイッシュレディ」
    (「おおっ?」)
     わざわざ男装せずとも男と間違われることの多い朔之助は、ちょっと感動した。バレンタイン先輩、このあたりもイケメンたる由来だ。
    「遊び心たっぷりの手作りチョコレート、とてもおいしいよ。こんな発想ができるなんて、君は素敵な天才ハカセレディだね。一緒に食べて、君のかわいらしい唇についた青のりを僕が拭ってあげられたら……なんてね」
     満足げに微笑んで、バレンタイン先輩は消えていく。
    「まぁ本気の告白じゃねぇけど……まさかの人生初告白が都市伝説相手になろうとは」
     朔之助は呻いた。

     五人が無事に渡したところで、最初の休み時間。佐藤サトコが真っ赤な顔で手作りチョコを渡すのを、万が一の事態に備えて全員で鑑賞。おー、と物陰から拍手。
     そしてサトコもカウントして七番手、越坂・夏海(残炎・d12717)。男。
     現れたバレンタイン先輩の目を見て、臆することなくはっきりと、愛を告げた。
    「先輩! 俺、先輩のこと好きです! 心意気も男前で憧れなんです!」
     ド直球だった。バレンタイン先輩は目を見開き、それからふわりと微笑む。
    「嬉しいよストレートボーイ。そんなふうに思いを伝えられて、嫌な気がする生物はきっと宇宙の彼方まで探索してもいないだろうね」
     喜びの表現が宇宙規模。
     夏海はこれまたド直球の手作り生チョコの入った、かわいらしい水色の紙バッグを差し出す。
    「あの、これ俺の気持ちです。受け取って下さい!」
     ちなみにラッピングは自ら買いに走ったものだ。バレンタインの手作りコーナーで浮きまくり、店員には二度見されたが、それでもめげなかった。
    「ああ、なんておいしいんだ……素晴らしいよ、これぞチョコレートだね。チョコレートがチョコレートとして存在することの意義を知った思いだよ」
     かみしめる、普通というものの尊さ。イケメン笑顔で、夏海を見つめる。
    「これには、隠し味が入ってるね。そう、君の愛、さ」
    「そうですね! お時間ありがとうございました、失礼します!」
     一ミリも照れることなく、最後までド直球で、夏海も任務完了だ。
     
     八番手、雁音・夕眞(冷徹の犬・d10362)。男。
     女装はしていなかったが、朔之助と同じく、少女漫画で研究──結果、オネエになっていた。
     バレンタイン先輩を呼び出す前に、用意した目薬を差して瞳を潤ませる。
    「あの……っ、バレンタイン先輩!」
     鼻にかかった声で、名を呼んだ。
    「男からなんて迷惑だと思うんですけどぉ。すき、なんですぅ……!」
     完璧だった。完璧に、オネエだった。
     迷惑もなにも、男からの告白はこれで四人目。しかし、やはりバレンタイン先輩はまったく迷惑がることなく、薔薇を背負ってにこりと笑う。
    「迷惑だなんて、あるわけがないさ。愛の前には性別の違いなんて些細なことだよ、オー・ネエ・ボーイ」
    「一生懸命、作りましたぁ。一口でいいので、食べてくださぁい」
     くねくねうるうると、チョコを差し出す。料理については壊滅的な腕前なので、皆の協力を得つつ、最低限だけ参加した。できあがったのは湯煎で溶かして固めたチョコレート、水色ベースでメルヘンにラッピング済みだ。
    「とてもおいしい。嬉しいな、君の気持ちが溢れかえっているのを感じるよ。このチョコのように、僕の心も解けてしまいそうさ」
     バレンタイン先輩はキラリと歯を光らせた。その歯にチョコがついてるなんてことは決してないのもイケメンポイント。

     九番手、鏡見・アイ(リンゼのようなもの・d11337)。灼滅者たちのなかではラスト。
    「心までイケメンな先輩の胸を借りて、トキメキをチャージするぞーっ! よっし!」
     つけまバリバリでメイクばっちりの美少女アイは、本日寝坊のため、登場時はノーメイクだった。あのどちら様ですかと仲間たちにいわれたとかいわれてないとか。
     バレンタイン先輩が出現するやいなや、ダメもとで眼鏡を差し出す。
    「あの、先輩! これ、かけてもらえませんか!」
    「やあ、これは……福井県嶺北地方の中央部に位置する鯖江市で製造された眼鏡だね。もちろんいいとも」
    (「眼鏡を一目見て、そこまで言い当てるなんて……!」)
     鯖江のご当地ヒーローであるアイは、早くも心を掴まれかけた。さらに快くメガネ男子になったバレンタイン先輩に、胸が高鳴る。
    「先輩イケメンすぎてやばい惚れる……!」
     心の声のつもりが、ダダ漏れ。勢いのままに、手作りチョコポップを差し出す。
    「えっと、チョコもらってください! 好き!」
    「かわいいね、ありがとう鯖江産眼鏡レディ。とってもおいしいよ」
     鯖江産眼鏡をかけて、チョコポップを食べるバレンタイン先輩。軽いノリで告白を続けるつもりだったアイは、言葉に詰まってしまった。
     思い出す、過去の恋。胸がきゅっと締め付けられる。もう痛まない傷だと思っていたのに。
    「おいで」
     なにもかもわかったように微笑んで、バレンタイン先輩は両手を広げた。アイは下唇を噛んで、少しだけ胸を借りる。誰にも気づかれないように、声を殺して涙をこぼした。
    「えへ。かっこいいね、バレンタイン先輩! ね、やっぱ彼女とか居る? 居ないなら立候補したいんだけどなー」
     すぐに、軽いノリを取り戻す。バレンタイン先輩はありがとうと笑って、姿を消した。

     そして十人目、田中タナエ。
     バレンタイン先輩にチョコ入りラーメンを渡し、先輩は笑顔でそれをズルズル完食。陰から見守る八人。
    「君で十人目なんだ……なんということだ……みんなステキだ、みんなスバラシイ、誰か一人なんて選べない……僕はなんて罪深き男なんだ……」
     異変はそれだけだった。バレンタイン先輩はいつものように笑って、いつものように消えていく。
     しかし、次に鈴木スズカが念じたときには、もうバレンタイン先輩は現れなかった。
     都市伝説は、消滅したのだ。

    ●イケメンの残り香
    「さすがにすげえイケメンだったよな……バレンタイン先輩」
     すべてが終わり、葵がつぶやく。ほんとだよねとアイものった。
    「想像以上だったよね。でもこういう都市伝説なら、いいなー」
    「イケメンだったけど、わたしはあんまり好みじゃなかったなぁ。せんぱいよりも、しっつーのがタイプかも!」
    「女の子がそういう冗談いっちゃダメ!」
     冗談っぽくいう糸子に、照れながら紫緑が応じる。
    「あのイケメンっぷり、見習いたいな」
    「ん、まあ、なんていうか……あれだ。あーおもろかった」
     素直に感心する夏海の隣で、夕眞の感想は至極わかりやすい。
    「消えちゃうのは……ちょっとかわいそう。だいぶ、かわいそう」
     オーベールがつぶやいた。しかし、放っておけば危害を加えていたのも事実だ。気を取り直し、余分に用意していたチョコを取り出す。
    「……みんなで、チョコ、たべよう」
    「いいねー! 食べよう!」
    「あ、すみません、ガラス細工のはもうないんですけど」
    「それはイラナイ」
     盛り上がる面々を背後に、朔之助は一人、バレンタイン先輩がいたはずの場所を見つめていた。
    「さよなら……初めての人よ」
     これが、黒歴史というやつか。

    作者:光次朗 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 11
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