後ろの正面だぁれ

    作者:四季乃

    ●Accident
     宿題なんて、放っておけば良かった。
    「オラ、財布出せよ。それともなに、ボコられてぇの?」
     四人の不良達に四方を固められ脅されながら、心の底から己を呪った。
     放課後、クラブに励んでいたのだが、部室に宿題のプリントを忘れてしまったらしい。
     どうしてクラブ終わりに、鞄の中身を整理しようなんて思ったのだろう。
    「さっさとしろよ。なに、マジでボコってほしいの?」
     怖くて身動きが取れず逃げる事も適わず、ろくな呼吸も出来ない自分に不良達が畳み掛ける。
    「新藤サーン、こいつボコって欲しいみたいなんスけど、どーしますー?」
     右に立っていた不良がケラケラと笑いながら、自分の正面に立っている赤毛の男に話しかけた。
     新藤と呼ばれた男はガタイが良く、恐らく百八十センチを越える長身だと思われる。
     暗闇の中で、表情は良く見えない。
     ただこれだけは、はっきりと見えたのだ。
    「丁度暇してたんだ…ちょっと付き合えや」
     雲の隙間から降り注ぐ月光を照り返す、ゾッとするほど艶かしい黒曜石の角が。

    ●Caution
    「夜の学校って、少し不気味で怖いですよね」
     両手を温めるように、ペンギン柄のマグカップを包み込んでいた五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は苦笑を一つ零した。
     彼女はどうやら、とある夜の学校で罪も無い一般人の命を奪うと言う悪行を繰り返すダークネス――羅刹の動きを察知したようだった。
    「羅刹は非常に粗暴な性質をした種族で、例え一人と言えど、灼滅者が束になって掛かっても倒せるかどうか分からない程の強敵です」
     しかし、予測した未来に従えばきっと、ダークネスの予知をかいくぐり灼滅する事が出来るはずだ。
     姫子はテーブルにマグカップを置くと、灼滅者達を真っ直ぐに見つめた。

     羅刹は新藤と言うガタイの良い長身の男で、とある警備の甘い学校をテリトリーにしている不良三人を手下に加えているらしい。
    「この羅刹は、忘れ物等で学校にやって来た生徒や、こっそりと忍び込んだ人間に絡んでは、遊び半分で痛めつけて、最終的には命を奪っています」
     このような所業を見過ごす訳にはいかない。
    「そこで皆さんには…大変申し訳無いのですが、どなたかお一人、あるいはお二人で、学校へ忍び込んで羅刹と接触する囮となってもらえないでしょうか」
     羅刹とその手下は、鍵の掛かっていない裏門から入ってすぐ右手にある体育館裏に居るようで、そこを出入りする人間をチェックしているらしい。
    「裏門から入れば、すぐ向こうから接触してくるはずです。囮役の方が羅刹達の気を引き、油断している所を残りの方々が奇襲を仕掛けるのです」
     幸い手下は何の力も与えられていない、ただの一般人に過ぎない。
     しかし、羅刹の強さを囃し立てて悪びれも無く恐喝を繰り返す不良なので、改心させるためにも、少しくらいなら怖がらせても大丈夫だろう、と姫子は小さく笑みを作った。
    「羅刹は鬼神変と神薙刃を使用します」
     体育館裏は、文字通り体育館と道路沿いの低い塀とに挟まれた場所で、塀の傍には桜の木も植わっており茂みも多い。
     また、体育館のすぐ傍にはプレハブの部室が幾つか点在しており、潜むのは難しくないだろうと姫子は言った。
    「これ以上悲しむ人を増やさないためにも…どうか皆さん、よろしくお願いいたします」
     姫子は灼滅者達に、深く頭を下げた。
    「皆さんのご無事を、祈っております」


    参加者
    篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    天城・桜子(淡墨桜・d01394)
    城・射雲(物語の紡ぎ手・d01583)
    神泉・希紗(可愛いものハンター・d02012)
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)
    天野・空風(貧韻士・d11810)

    ■リプレイ

    ●沈黙
     月の無い夜だった。
     墨を流したような真っ暗な夜空に、ちらちらと小さな星が瞬き、冷たい風が吹き渡っている。
     昼間の賑やかさと打って変わって、人気の絶えた静まり返る学校は酷く不気味だった。
    (「なんつーか羅刹以上に気に入らない、虎の威を借る狐が居るね」)
     猫に変身して木の枝の上から現場を見渡していた、水瀬・瑞樹(マリクの娘・d02532)は心の中でそう呟いた。
     悪びれも無く恐喝を繰り返す不良。それが、三人も。
    (「…不良は殴れるなら後で一発殴っておこうかな」)
     瑞樹は「やれやれ」と首を振り、下方の茂みで丸くなって身を潜めている小さな少女の背中に視線を落とした。
     その少女、天城・桜子(淡墨桜・d01394)は作戦開始のその瞬間を待ち構えており、傍のプレハブでも城・射雲(物語の紡ぎ手・d01583)が身を屈めて息を殺して潜んでいる。
    (「ダークネスはもちろん、一般人でも灼滅者でも、悪事はいけませんね」)
     それによって誰かの命が奪われるのであれば、尚更。
     羅刹や不良達によって命を奪われた人達の事を思うと、胸が痛い。
     射雲は唇を固く結ぶと、気を引き締め、それから別のプレハブへと視線を向けた。
     その視線の先には天野・空風(貧韻士・d11810)が居て、彼女は袖で口元を隠し、暗闇の中で一人ひっそりと笑みを零していた。
    (「夜の学校に入ったのは初めてね。なんだか私も不良になったみたいだわ。ふふ」)
     しかし、空風は、ふと思い出したように揃えた指でポン、と口を押さえ、笑みを引っ込めた。
    (「いけない、私ったら」)
     それからそろりと辺りを窺い、変わりの無い様子に、ほうっと息を吐く。
     耳を澄ませていると、偶然そんな風に安堵した空風の姿を見てしまい、別のプレハブの影に居た篁・凜(紅き煉獄の刃・d00970)は小さくフッと笑った。
    (「さて、二人は上手く接触出来ると良いのだが」)
     凜が裏門へと視線を巡らせるその途中、隣のプレハブに潜んでいた神泉・希紗(可愛いものハンター・d02012)の姿が見えた。
     希紗はと言うと、囮役の二人から送られてくる音声に耳を傾けていた。
    (「鬼退治は神泉の使命。不良達も少しは怖い目に遭うといいんだよ」)
     希紗の気合は十分。負ける気なんて、微塵も無い。
     奇襲組の態勢は整った。あとは囮組が敵と接触するのを待つだけだ。

    ●挑発
    「セキュリティが甘い学校っすね。こんなんで大丈夫か、人ごとながら心配になるっすよ」
     問題の学校に到着し、例の裏門にやって来ると、鍵が掛かっているどころか、既に開け放たれているのを目にして、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は呆れたように呟いた。
    「それじゃ暦さん、行きやしょうか」
     今回囮役のパートナーである一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)の方を振り返り、ギィは言う。
    「そうだね。早く片してしまおう」
     通話状態にした携帯を服に忍ばせ、暦はギィと共に歩き出した。
    (「待ち伏せで絡むか。良く有るパターンだね」)
     暦は裏門を潜る前から見えていた体育館の脇に視線をやったが、暗くて良く見えはしない。
     あまりそちらを意識し過ぎるのも良くない。
     そう思い、視線を前に戻した、その瞬間の出来事だった。
    「よお、お二人さん。こんな夜更けにどうしたんだ?」
    「ふたりっきりで何しに来たんですか~?」
     暗闇からの、あまりにも下品な呼びかけに、ギィは眉根を寄せて不機嫌な顔を作り振り返ると、不良が三人、ニヤニヤと汚らしい笑みを浮かべて近付いて来るのが見えた。
     一体何処から涌いて来たのだろうか。
     暦は表情を崩さず彼等を尻目に見やり、それから身体全体で振り返った。
    「なるほど、この人達が例の」
    「あーん? 何言ってんだお前」
    「そんな事よりお前等さー、金持ってねぇ? 俺等貧乏で金がねぇんだわー」
     不良達はあっという間に暦とギィの二人を取り囲むと、肩に腕を乗せたり、顔を覗き込んだりと文字通り絡んで来た。
    「あんた達にやる金なんて、これっぽっちもないっすよ」
     ギィがきっぱりとそう口にすると、不良達の顔が鋭いものになってくる。
    「あぁん? てめぇマジで言ってんのか?」
    「痛い目見ないと分かんない訳?」
    「痛い目、ねえ」
     不良の脅しに屈さず、暦はじぃっと不良達の貧相な顔を観察していたのだが、その行動が癪に障ったらしい。
    「てめぇ、何ジロジロ見てんだよ!」
     不良の一人が暦をギロリと睨み付け、突然胸倉を掴んで来たのだ。
    「暦さん!」
     グンッと身を引っ張られた反動で、今まで不良の身体で遮られていた場所に、別の男が佇んでいるのを確認する事が出来た。
     その男はエクスブレインの話の通り、ガタイの良い長身の男で、小さな星の輝きを不気味に照り返す黒曜石の角を持っていた。
    (「あの男が、新藤」)
     新藤はジーンズのポケットに両手を突っ込み、背筋がひやりとするような冷たい笑みを浮かべて、こちらを眺めていた。

    ●鉄槌
    「おいおい。そいつ女じゃねぇか。女は大事にしろってオカーサンに言われなかったのか?」
    「ギャハハハ! 新藤さんが言っても説得力ねぇっすよ!」
     新藤の言葉に、不良三人が声を揃えて笑い出す。
     どうやら、新藤には絶対服従のようで、逆らう気配など微塵も感じられない。
     余程、この男を慕っていると見える。
     ギィはそんな彼等の姿を見て呆れ果て、溜息を零した。
    「うっさいっすね、この腰巾着ども」
     その一言で、不良達の笑い声がぴたりと止まる。
     一変してピリッと肌を刺すような鋭い空気に変わり、ゆっくりと振り返った不良の一人が、ギィにガンを飛ばした。
    「てめぇ、マジむかつく。調子乗ってんじゃねぇぞ」
    「新藤サン、やってやりましょうよ」
     不良とは対照的に、新藤は面白そうにギィと暦を眺めており、余裕の笑みを浮かべてすらいる。
     暦はそんな新藤の姿を見、周りの六つの気配に視線を巡らせると――ゆっくりと片手を掲げた。
    「じゃあ、お仕置きと言う事で」
    「あ? 何言ってん…」
     暦の胸倉を掴んだままの不良が、暦の不可思議な行動に怪訝な顔を浮かべ口を開いたのだが、最後まで言えなかった。
     何故なら、腹に重たい一発を貰ったからだ。
     短く呻いた不良は、あまりの激痛に耐え切れず、身体をくの字に曲げて膝をつく。
    「オ、オイッ!?」
    「大丈夫か!?」
     心配して駆け寄って来た不良の片割れに足払いをかけて転ばせ、そのまま暦は流れるような動作でもう一人の顔面を殴り飛ばした。
     三人は折り重なりあうように、実に呆気なく倒れ込む。
    「おい…情けねぇなお前等…」
     そう言いつつも笑っている新藤は、己に迫り来る危機に未だ気付いていないようだった。
    「新藤とか言ったっすか? 暴虐もここまでっすよ」
    「何言ってんだ、お前?」
     にやりと笑ったギィの言葉に、新藤が僅かに首を傾げ、歯を見せて笑う。
     その、刹那!
    「私と力比べしよっ!」
    「あ?」
     突然聞こえた少女の言葉。
     振り返った新藤の目に映ったのは、幼い子供が振り上げる異形な拳だった。
     内に秘めた怒りを閉じ込め、容赦無く振り下ろされた希紗の強烈な一撃を喰らった新藤は、苦痛に顔を歪め、血を吐いた。
    「ぐっ…ぅ……!」
     凄まじい力によって地面に叩きつけられた新藤を見て、不良達は悲鳴を上げた。
     だが新藤は羅刹だ、たった一撃では沈まない。
     すぐに態勢を整え、口の中に溜まった血を吐き出したその身体が、すぐにぐらりと揺れる。
    「死角から、失礼しますね」
    「今は花を咲かせていないけど……桜に代わってお仕置きよ!」
     ティアーズリッパーを別方向から二度受けた新藤が振り返ると、着物姿の少女と、長い髪の幼子が揃ってこちらを見据えていた。
     連続で仕掛けられ、流石の羅刹も苛立ちを隠せないようだ。
    「次から次へと…」
     ギリッ、と歯を食いしばり、新藤は空風に向かって左腕を振り上げた。
     見る見る内にその片腕が、異形な形へと巨大に変貌していく。
    「調子乗ってんじゃねぇぞ、テメェ等よぉっ!」
    「あなたの言える台詞じゃないよ!」
     空風に鬼神変が振り下ろされる寸前、瑞樹のレーヴァテインが叩き込まれる。
     それでも尚、攻撃を諦めない新藤にギィの戦艦斬りが落ちれば、たまらずガタイの良い羅刹でも流石によろけたようだった。
     息をするのもままならぬ容赦の無さで、またもや死角から斬り付けられ、鮮血が迸るからたまらない。
    「我は刃! 闇を払い悪を滅ぼす、一振りの剣なり!!」
     姿を現した銀色の髪を持つ少女、凜の言葉に新藤の顔が一変。
    「てめぇ等…ぶち殺してやる!! たっぷり痛めつけてやるから覚悟しろやっっ!!」
     底冷えのするような怒気を放った羅刹は、巨大化したままの拳を思い切り振り下ろす。
    「!」
     もっとも幼い少女に振り上げた拳は、そのまま地面をえぐるような強烈さを持って桜子にめり込む。
    「いぃったぁ!?」
     あまりに凄まじい攻撃に桜子の顔が歪む。
    「きっつ、そう何発も耐えられないかな!?」
     しかし、ダメージを負った桜子の身体目掛けて、光条が飛んで来るではないか。
    「大丈夫ですか。回復は、任せてください」
     最後に現れた射雲のジャッジメントレイが放たれたのだ。桜子の顔がパアッと輝く。
     これで灼滅者が全員集まり、羅刹の完全包囲が完了した。
    「畜生が…小賢しい真似をしやがる…」
     己を取り囲む灼滅者達を鋭い目付きで睨み付けながら、新藤が唸る。
    「そんなに遊んで欲しいなら、望み通り遊んでやるよ!! 死んで後悔するんじゃねぇぞ!」
     その言葉と共に、ぶわり、と辺りの風が激しく渦巻く。思わず目を細めた瑞樹に向かって風の刃が迫り来る。
    「君の好きにさせるものか!」
     瑞樹の前に躍り出て、新藤が放った神薙刃を受け止めたのは、真っ赤なコートを翻す凛だった。
    「凛さん!」
    「大丈夫かい?」
    「は、はい!」
     攻撃を邪魔され、ますます新藤の機嫌が悪くなる一方で、目の前で繰り広げられる光景に、暦にたっぷりと殴られ隅に蹴飛ばされていた不良達は震えきっていた。
    「これくらいで腰を抜かすんだ」
     羅刹に縛霊撃を繰り出した暦は、不良達を尻目に「やれやれ」と呆れる。
     そんな姿を横目に、希紗はくすりと笑い、
    「本当の強さがどんなものか…わたしの力を見せてあげるよっ!!」
     と、神薙刃ををお見舞いしてやると、風の刃をまともに喰らった新藤が吐血。
    「残念だけどまだまだ続くからね」
     瑞樹と空風が新藤を挟み込むように鬼神変の連続攻撃を叩き込むと、新藤が地面に片膝をついた。
     その一瞬の隙を見逃す筈もなく、さっきのお返しとばかりに桜子が契約の指輪から魔法弾を発射させて、次々と肢体に弾丸を撃ち込んでいく。
     肩、横腹、脚に次々と鋭い痛みが貫き、攻撃を浴び続ける新藤の身体の至る所からは夥しい量の血液が溢れ出ている。
     それでも新藤は倒れない。
    「しゃらくせぇっっっ!」
     新藤は鮮血を振り撒きながらも、力強く吼えた。
     それどころか、腹の底から低く唸り声を上げると、神薙刃にて希紗を斬り裂き、手当たり次第に拳を振り回す。
    「オラかかって来いやっ! ぶっ殺してやる!!」
     血走った目は怒りに染まり、我を忘れ、思わず背筋がゾッとするような狂気だった。
    「あなたは勝手が過ぎます。何としても、止めて見せます」
     射雲は、悪しきものを滅ぼす鋭い裁きの光条を、新藤へ向けて放つ。
     そのあまりの眩さに、新藤が「うっ」と目を瞑ったのだ。
    「目を瞑ると危ないっすよー」
     赤きオーラの逆十字を出現させ、新藤の肉体を次々と切り裂いていく。
     ここまで来ると羅刹の身体もボロボロで限界が近く、最早立っているのが精一杯のようだった。
    「畜生…てめぇ等……俺を…コケにしやがって…ふざけんなよ…!」
     息も切れ切れに、新藤は吐き捨てる。
     そして渾身の鬼神変をギィに叩き付けたのだが、その反動で腕から血飛沫が舞う。
    「哀れなものだね。負けを認めなよ。みっともないよ」
    「ンだとコラァああっっ!!!」
     新藤が振り返る。
     しかし、標的を目にするよりも早く、己の腹にめり込んだ超硬度の拳によって、新藤の身体が遂に崩れ落ちた。
     カッと両目を見開き、ゆっくりと仰向けに地面に倒れ込む。
    「ガハッ!」
     吐き出した己の血が顔に掛かる。
     真っ赤な視界の端に立っている暦の、冷静な瞳を見つけて、新藤は喉の奥で呻いた。
     そして。
    「く…そ、、がぁああぁあああああぁあぁあっっ!!!」
     夜空に向かって叫ぶ羅刹の吼える声は、彼の命が尽きるまで続いた。
     あまりにも醜く、往生際の悪い叫びに、灼滅者達は顔をしかめてしまうほどであった……。

    ●お仕置き
    「はい! そこに正座するっ! 二度と弱い者いじめなんてしちゃ駄目なんだよ!」
     希紗はぷんぷんと怒りながら、横一列に正座してうな垂れている不良達を叱り付けた。
     その顔は青痣だらけで、唇の端は切れて、頬がぷっくり腫れている。
     暦に散々殴られた不良達は、あまつさえ羅刹との戦いを目の当たりにしているのだ。
    「安心するんだ。命までは取らない。その手前までは何でもするけれど」
     拳を作って見せるだけで不良達は心底縮み上がって、口々に「ごめんなさい!」「すみません!」とひたすら謝り続けた。
     どうやら思った以上に効果があったようで、緋焔に付着した血を懐紙で拭いながら凛がちらりと視線を向けただけで、不良の一人が気絶した。
     それを見た空風が小さく口元に笑みを浮かべる。
     一方、ボロボロと塵と化していく羅刹の姿を見つめていたギィは、ふぅ、と吐息を零した。
    「灼滅できたっすね。今の自分たちで灼滅できる程度のダークネスはまだましっす」
    「羅刹とは初めてだけど……個体としてのスペック高いわね」
     桜子自身が負った傷の痛みを思う。
     命を奪われてしまった者達はきっと、これ以上に痛かったのだろう。そう思うと胸が痛む。
    「せめてもの報いになれば良いのだけど…」
     瑞樹は眼鏡を指で押し上げながら、そっと呟いた。
    「…そうですね。ですが、皆さんが無事で、本当に良かったです」
     ホッと安堵して呟かれた射雲の言葉が、酷く胸に染みる。
     一人も欠けることなく灼滅する事が出来た。ただ今は、その事実で心が満たされているのだった。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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