かわいいって言えよ

    作者:斗間十々

    「そういえば、一昔前に人面犬って流行ったよな」
     仕事が終わった夜の道を、愛犬と散歩している恋人達。ふと足を止めて呟いた彼の言葉に、彼女は小さく噴き出した。
    「何それ、すっごく懐かしい。顔がオジサンなんだっけ?」
    「そう、オッサン」
     彼女は笑ってヨークシャーテリアを抱き上げた。くりくりした瞳が愛らしい。
    「かーわいい。こんな所にオジサンの顔がついてたら、かわいい子もかわいいって言えなくなるわよ。ねー」
     ヨークシャーテリアはくふんと首を傾げる。その仕草がなんとも愛らしくて彼女は犬を抱き締めた。
    「おい」
     その背後からオッサンの声。
     びくっとした恋人達が振り向いたが、そこには誰も居ない。居たのは、チワワのように小さな犬。
    「……犬? ひっ」
     彼女は息を飲んだ。その顔は、オッサン。しかも、かわいくない。
    「おい、かわいいって言えよ」
    「……!」
     涙目になる彼女が縋るように彼を見れば、同じように後ずさっている。指差す方向を見れば、オッサン犬がまた増えた。チワワサイズでぷるぷるしているオッサン顔が2匹、3匹――わらわらと合計7匹。
    「かわいいって言えよ」
     迫ってくる。悪夢である。
    「おい、かわいいって言えよ」
    「む、む、む、無理――――!!!」
     その瞬間、悪夢が群れをなして恋人達、そして愛くるしい犬にまでも襲い掛かっていった――。
     

    「よお、皆。集まってるな! さっそくだが、悪夢みたいな都市伝説が発生した」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)の一言に、灼滅者がごくりと唾を飲み込んだ。
    「オッサンだ。犬のオッサン……いや、人面犬だ」
    「えっ」
    「しかも集団だ」
    「……うっ」
     犬に群がられるのは良いにしても、確かにそれはノーサンキュー。何人かは黙り込んでしまった。
    「いいか、説明始めるぜ」
     少しやけっぱち気味にヤマトは口を開く。
     まず人面犬を出現させる方法。人面犬の都市伝説は、ひとけの無い、暗い夜道に現れる。
     そこで『人面犬』のことを話題に出す。それから自分がかわいいと思うものをかわいがり、そして、こう言う。
    「人面犬ってかわいくない」
    「…………」
    「かわいくないって言うんだ。そしたら後ろから人面犬が声をかけてくるからな」
     そしてかわいいと言われなければ次々、わらわらと増えて合計7体にまで増える。
     黒いの、茶色いの、茶ブチ、色々なタイプが勢揃い。ただし、――オッサン。
     そんな直視もし辛い都市伝説だが、彼らもそれなりの力はあるため、気を抜いたり、目を逸らしたりしないでくれとヤマトは言った。
    「攻撃パターンは3つだ。まず、震えて見つめられるとその眼力は遠くにまで届き、対象1人にトラウマを起こさせる。かわいいと言えと強請れば、その顔のギャップに相まって、声の届いた1人を今度は硬直させる。そして最後。近い人の足に擦り寄ってくるんだが、これをされると意気込みというか……色々ブレイクされる」
     これは意外ときちんと対策を持って望まないといけないかも知れない。
    「どれもこれも別に心にダメージとか効果がある訳じゃないが、人によってはあるかもしれないな。……気を強くもって望んでくれ」
     これも真顔でヤマトは告げた。
    「ね、もし、かわいいって言ったら……?」
     説明を聞いていた灼滅者の1人がそろそろと片手を挙げる。ヤマトは難しい顔をした。かわいい――かわいい――。
    「まず、あのオッサン人面犬をかわいいって言えるかどうかにかかってるな」
     ヤマトは真顔でそう言った。
     オッサンの顔は、どこをどうして、何のためにそこまでと言いたいほどに、『かわいくない』要素を詰め込んだ顔らしい。
     一同難しい顔になる教室内を見渡して、ヤマトは大きく咳払いをした。
    「とにかく! このままでは恋人達が飼い犬ごとオッサン顔の人面犬にたかられて、襲われてしまうってことだ。それはあんまりな結末だろ?」
     そんな犠牲者を出さない為にも、実現してしまったかわいくない都市伝説を必ず灼滅してくれとヤマトは頼んだ。
     相手は小さなオッサン人面犬の集団、おまけに夜道。
    「精神的に怖いものがあるかもしれないが、皆、頼んだぜ!」
     やはりどこか投げやりにも見える笑顔で、ヤマトは灼滅者達を見送った。


    参加者
    日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)
    松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)
    乙宮・翡翠(楽園にふれるなかれ・d06304)
    レイ・シュヴァイツァー(蒼月に煌く白薔薇・d08372)
    エデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)
    アーナイン・ミレットフィールド(目に見えているものしかない・d09123)
    的場・智哉(黎明の子爵・d12465)

    ■リプレイ

    ●ビバ、かわいい談義!
     暗い夜道に8人の若者が歩いていた。
     手にしたランプに照らされて、手に持っているものも明るく夜道に映し出される。
     それはキツネだったり、くまだったりのぬいぐるみ達。
    「犬派猫派って言うけど、狐の可愛さにはかなわないと思うのよね」
     リアル風味のキツネのぬいぐるみを愛でるのは松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)。
    「コンとかあざとく鳴くんじゃなくて、ギャー! って感じの野生の鳴き声がいいのよ!」
     かなりの力説である。
     しかし力説具合ならレイ・シュヴァイツァー(蒼月に煌く白薔薇・d08372)も負けてはいない。
     普段から自分の姿、持つ物にまでこだわっているレイも日々蓄積した自分の理論が確立されていて、手に持っているロシアンブルーのぬいぐるみもどこか気品溢れている気すらする。
    「これ可愛いでしょう。私はにゃんこは特に好きですが、動物は愛くるしいので何でも大好きですよ」
     話を振られた乙宮・翡翠(楽園にふれるなかれ・d06304)は思わず和んでえへっと笑う。手に持っているのはくまのぬいぐるみ。
    「他の子の猫さんや狐さんも可愛いねー」
     言いながら、ふと脳裏に今回の都市伝説が頭を過ぎって思わず顔が強ばってしまう。ちょっと覚悟をしていかないと、と、思わずくまを抱き締めた。
     そんな姿も、どこか微笑ましい。
     的場・智哉(黎明の子爵・d12465)は一歩下がって話に花咲かせる3人をそっと見遣った。
    「人面犬を誘き寄せるための作戦とはいえ、可愛いものを愛でる女性陣が可愛いよね」
    「ええ、勿論です。私もシュヴールが可愛い限りでは御座いますが……折角、素敵な女性陣の皆様がいらっしゃるのに男子が出しゃばるのもアレですからね」
    「シュヴール?」
     話しかけたヴォルフガング・シュナイザー(Ewigkeit・d02890)の応えに智哉が首を傾げれば、これですとヴォルフガングはスレイヤーカードを手に見せた。その中に今は収まっている霊犬のことだと智哉は知れて、自然智哉もふっと笑みを浮かべる。
     かわいい談義は終わりが尽きない。そろそろ頃合いかとアーナイン・ミレットフィールド(目に見えているものしかない・d09123)は咳払いをした。
    「……『人面犬』なる存在が現れるならば、きっとこのように暗い道で御座いましょうね」
     一般人を遠ざけて、キィワードをぽつりと零す。
    「人面犬ってアレですよね! ザ・都市伝説ってやつなのです!」
     日輪・かなめ(第三代 水鏡流巫式継承者・d02441)もぐっと拳を握って見せた。
    「私、知ってます。妖怪だとか遺伝子操作で作り出された生物兵器だとか、色々な説があるんですよね。こわーい」
     エデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)も加われば、人面犬談義もこれはこれで盛り上がる。
     キィワードの連なりに、ヴォルフガングはそっとスレイヤーカードを降ろす。ふわりと現れるボルゾイ型の霊犬、シュヴールがふふんと鼻を鳴らし、隣で警戒を始める。
     翡翠のびくつきも少し大きくなる。――どんなにかわいくないんだろうかと思うと、それだけで。
     レイはその様子にふふっと笑う。
     レイの姿はパンク風の黒のゴスロリ姿。ミニスカートは寒いけれど、女の子だから。可愛くしなければとメイクも決めて。
    「可愛いは正義なのですっ!! ね!」
    「ええ――」
     アーナインはニイと口端を上げて歪に笑った。そして、言う。
    「それに引き換え、『人面犬』なる存在は、どうしてああも可愛くないので御座いましょうな。ええ、まったく可愛くないもので御座います。あれ以上可愛くない存在も御座いますまい」
     なんてひどい、物凄い暴言の連打である。
    「そんな怖い人面犬は、魔女っ娘ルルがポップにキュートにやっつけてくれます! 可愛いは正義!」
     ダメ押しにエデがマテリアルロッドを可愛く振った。
     そして、それこそがこの都市伝説を生み出すトリガー。
     灼滅者達の後ろにかさりと気配が生まれた。グルルルと唸り出すシュヴール。そして、野太い声。
    「おい」
    「ひっ!?」
     翡翠が心なしか涙目になっている。思わず振り返ってしまった先に居たのは、オッサンだったからだ。
     正確に言えば、オッサン顔の犬。
    「かわいいって言えよ」
     オッサンが言った。直後、かなめが振り向きざまビシィ! っと指差した。
    「だめだ! おまえたちはー! ……なのです! 可愛さでは猫さんに劣り、尻尾のモフモフ感では狐さんに劣る! その上、おじさんの顔をしてれば笑いが取れると思ってるのですかー! 弛んでます! お顔のお肉以前に、心が弛んでいるなのですよー!」
    「かわいいって……」
     人面犬がぶるぶる震えだした。理不尽なダメ出しが強すぎたのだろうか、オッサンの顔が悲しそうに歪む。
    「かわいいって」
    「かわいいって」
     そんなオッサンの顔がわらわらと路地に集まり出す。輪唱するように寄ってくる声で翡翠はもう泣きそうだ。
     人面犬の1体がずずいと翡翠に近付いた。
    「かわいいって言えよ」
    「可愛くないったら、可愛くない――!」

    ●かわいいは正義。かわいくないは……
    「私がルルになってやっつけちゃってもいいかも! 可愛くない人面犬は悪なんだよ!」
     エデが振っていたマテリアルロッドをくるくるっと回してポーズを取った。テレビアニメ『魔女っ娘ルル』のように可愛く振る舞えば、向かってくる人面犬に魔法の矢をこれでもかと撃ち込んでいく。
     初めからとんでもなくかっ飛ばすエデの勢いに、げへぇっとかわいくない悲鳴を上げる人面犬。
    「シュヴール。貴方は今回メディックで皆様をサポートして下さい」
     その隙にさっと霊犬シュヴールに指示を出すヴォルフガング。シュヴールは忠実にタっと距離を置き、ヴォルフガングは人面犬とシュヴールを交互に見遣る。
    「……」
     少し黙ってから、微妙な間を置いて。
    「やれやれ困りましたねシュヴール。貴方と同じ種族として扱いの困る都市伝説ですねぇ」
     同じと言っていいものだろうか、外見で物事を判断しないヴォルフガングもさすがに小さく苦笑する。
     その隣を風のように走る――いや、理不尽なダメ出しをそのまま拳に変えたかなめが走る。
    「ほぁーたたたたたたぁ!! ……あたぁ!!」
     ビシィ!
     真正面に出てきていた人面犬を情け容赦なく拳の連打。
    「可愛くないので遠慮無く行きますなのですよ!!」
    「か、かわい……」
     人面犬はぶるぶるしている。それでもやっぱり、かわいくない。
     翡翠はそんな人面犬を見ながら盾の守りを固めていた。
     天国の両親、義理の両親、義理の兄やクラブの仲間など大切な人たちに向かって、見守っていてと静かに祈りながら。――祈っているはずなのだが、目の前の人面犬は直視し辛すぎるものだった。
    「お姉ちゃん、かわいいっていえよ」
    「ひぃぃぃ!?」
     翡翠の足に擦り寄る人面犬。ぞぞぞぞっと全身を悪寒が駆け巡り、せっかく降ろした盾の守りも吹き飛んだ。
     それに乗じて7体の人面犬は動き始める。
     その薄ら笑いの瞳でじっと見つめられ、知子にも見えない恐怖が取り巻いてくる。
    「怖いっていうよりキモイわ。ひたすらにキモイのだわ!」
    「がふがふっ!」
     思わず知子も我先にと符を五芒星型に一気に放つ。3体の人面犬が纏めて撃たれ、恨みがましい目でまた見つめられた。
    「きめえの! その目で見るなぁ!」
    「ぐっふっ、ふ!?」
     まるで嫌がらせのようににじり寄る人面犬達を放たれた鋼糸がぐるぐる巻きに絡みついた。驚いて顔を上げる人面犬を捕縛しているのはレイ。
    「可愛くないからって人の迷惑な事をする輩は、おしおきですっ! 覚悟しなさい!!」
    「ぐふぅっ」
     まだまだ元気な人面犬はピコピコと尻尾を振っている。しかしその隙を見せた人面犬に、死角から斬撃が襲い掛かった。がくっと転びかける人面犬の前でニイ、と唇の端を吊り上げるのは、アーナイン。
    「楽しゅう御座いますか。アーナインめは、楽しゅう御座いますよ」
     楽しそうに、愉しそうに人面犬へと話しかける。ただ、その目は笑っていない。
    「ひ、ひひ……」
     人面犬の瞳がアーナインを見つめ返した。震える瞳はどこか怯え混じりだったようにも見える。アーナインは見えない敵を生み出すであろう、その瞳を受けようとも口端の笑みを深めるばかり。
     仲間の人面犬が攻撃される中、灼滅者達へ近付く人面犬達が、わらわらと智哉にもむらがってきた。
    「うっ間近で見ると絵図らが酷いな……本当におっさんだ」
     来るなと言いたい所だが、数が減るまでは引きつけ役に徹しなければならない。
     智哉はすぅっと息を吸い込んだ。腕輪にハメ込まれたコインが浮き上がる。
    「防御シールド展開! これより敵を引き付ける!」
     展開されたオレンジ色のシールドが、灼滅者達を守りに包んだ。

    ●撲滅! かわいくない!
    「なあ、かわいいって言えよ」
    「可愛いって言われたいなら、まず可愛くなればぁ?」
     強請ってくる視線を撥ね除けて、エデは魔法のステッキ――のようにマテリアルロッドをかざし、ガガガッと容赦なく人面犬を魔法の矢で撃ち据える。
     しかし、場は入り乱れていた。
     人面犬のかわいくない攻撃から引き起こされる、精神的ダメージにある者は自分にしか見えない恐怖に襲われ、ある者は攻撃の手が狂ってしまい。
    「えーと、どっちから、どっちから治す!?」
     知子は天照狐精鏡神札と名の付いた護符揃えを手に思わずあたふたと仲間達を見渡した。
    「……ッ!」
     その間にシュヴールの清らかな瞳がレイの幻惑を解放する。
    「電光一閃、逆竜門ッ……あ、あれ!?」
    「カナメ、しっかりなのよ!」
     かなめもまた動きが鈍っていた。すかさず知子は符の先をかなめに向け、尚その身にこれ以上災いが降りかからないよう、防護する。
    「ありがとなのですよ!」
    「確かに厄介で御座いますねぇ」
     それを横目に見ながら、アーナインはひた、淡々と死角からの斬撃を繰り返す。すぐ傍に見えない幻覚が襲ってきても、アーナインの手は止まらない。それ以上に、戦うことがとても楽しい。
    「ひっ……ひひ!」
     人面犬がまた卑屈に笑った。逃げるようにアーナインから離れ、レイへと向かう。
     ぎょっとしたのはレイ。
    「ちょ……私に触れようとは……させませんよ!」
    「ひぃっ」
     引き攣った笑みを浮かべながら制止空しくレイに擦り寄ってくる人面犬。
    「こらぁ!」
     それを、だっと走ってきた智哉が代わってその身に受けた。つまり、すりすりされた。どう堪えてもぞぞっと走る悪寒を智哉はやはり止められない。
    「このっ……」
     ナイフへがオレンジ色に光る。フェイントもなく、ただただ速く、力強く踏み込み、炎を纏う一閃が人面犬を薙ぐ。
    「燃え尽き、そしてもう見ることがないことを願うよ」
     心の底から呟く先、倒れた人面犬は掻き消えていた。
    「次々いくよっ。可愛くないものには容赦しませんっ。ポップにキュートに……ぶちやれーッ!!」
     ポップにキュートなはずのエデの一撃、マテリアルロッドは鮮血の色にオーラを纏っていた。その力をもってして、人面犬の体力を奪い取る。
    「かわっ……!」
     地に伏せる人面犬。
    「全く……」
     ヴォルフガングも息を吐く。震えて見つめられた目線はスマートに対処したかった所だが、やはりその威力にはあらがえず、見たくない幻影が隣に見える。いや、見ない。あくまで目を逸らしながら、
    「あくまで冷静沈着に対処したいですね。特に今回はダンピールの卿等が多いですから!」
     言って踏み込めば、同じように緋色を纏って人面犬の体力を奪い去った。
     あまり――したくはなかったが。
    「ううう、可愛くない~!」
     一歩怯んだままの翡翠もまた、それでも確実にその数を減らしていっていた。
     見たくないもの。可愛くないもの。灼滅すれば怖くないはず!
    「わーんっ!」
     翡翠が人面犬の1体を槍で貫けば、なんとなく力が沸いてきた気がした。
     直後、くわっとかなめの片腕が異形巨大化する。凄まじい膂力で殴り抜ければまた1体掻き消える人面犬。
    「おじさんなのか犬さんなのかはっきりするなのですよー!!」
     そしてツッコミ。
    「ひっ……」
     引き攣った人面犬達はたじろいだようにも見える。
    「かわいいって言えよ」
    「かわいいって言えよ」
     直後、これでもかと騒ぎ立て出す人面犬達。
     おもいっきりかわいくない、彼らに。その価値観を押しつける迷惑な人面犬達に叩き付けられたのは。
    「「かわいくなーい!!」」
     灼滅者8名からの総ツッコミにして、総攻撃だったという――。

    ●さよなら、かわいくないもの
    「ふぅ……、可愛いは正義。勝ったわ♪ 世の平和と可愛いものは私が守りますっ」
     人面犬の姿はどこにも無く、レイの清々しい笑顔が煌めいた。
    「どーせ可愛くないなら、おじさんの体にチワワさんの頭が付いてる方が面白かったですよねー?」
    「え、えっ、それは……」
    「顔は犬のままで声がおっさんくらいならアリだったんじゃないかしら。せめてもうちょっとごつい犬種だったらバランスとれたと思うのマジで」
    「えええっ!」
     かなめと知子の言葉に、余計な妄想がもわもわと出来上がり、慌てて翡翠は頭を振る。
     エデが隣でくすくす笑ながら、おもちゃのコンパクトをぱたんと閉じる。
    「あんな人面犬を生んだ親の顔が見てみたい。ううん、見なくても分かる、きっとそっくりの酷い顔! って、言いたかったです」
     ツッコミがありすぎて、届かなかった心残りのダメ押し。また1つ人面犬談義で盛り上がりそうだった一行から、アーナインはすっと1人頭を下げた。
    「それでは、アーナインめは帰らせて頂きますね」
     戦闘が終わればこの場に用はない。アーナインはそそくさと踵を返していく。
     その背を見遣りながら、まだ暗い夜道の中、ヴォルフガングはシュヴールに面向かった。
    「やはり貴方が可愛いですよ」
     そうシュヴールを撫でてやり、灼滅者達は揃って帰路についたのだった。
     最後に智哉がぽつりと、小さく呟いたことは、
    「あんなに可愛くない攻撃初めて見たよ」
     あますことなく正直な今日の感想だったという。

    作者:斗間十々 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 11
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