路地裏の宣告者

    作者:桐蔭衣央

     ある夜、悩みを抱えた若い男、江井司・栄男(えーし・えーお)が街を彷徨っていた。
     彼女に振られ、仕事はうまく行かず、職場の人間関係にも嫌気がさして、何もかも放り投げたいような心境で。
     そんな時、彼は暗くて人通りも無いような路地裏に入り込んだ。
     そしてその路地裏の隅っこに、小さなテーブルを出した辻占い師を見つけたのだ。
     栄男は、占ってもらうのも良いかと、ふと思った。
     なにせ、先行きがわからない不安でいっぱいだったから、なにか先が見通せるような予言とか、こうすれば安心だとか、そういう言葉が欲しかったのだ。

    「占ってもらえます?」
     そう話しかけてから、はじめて辻占い師の様子を見た。
     黒っぽいフードを目深にかぶり、異様なほど白い手が見えている。
     辻占い師は、手元にタロットカードらしきものを置いていたが、それを開いたりすることもなく、また顔を上げもせず、こう言った。
    「あんた、死ぬよ。この路地裏を出た所で」

     栄男はとても嫌な気分になった。
     なんだ、辻占い師などではなく、ただの変な奴が嫌な事を言っているだけか。そう思った。
     声なんかかけるんじゃなかった。
     後悔しながら、栄男は路地裏を歩き去った。
     そして大通りに出たところで。

     A男は、わき見運転のワゴン車にはねられて死んだ。

     救急車の音を遠くに聞きながら。辻占い師はフードの奥でひっそりと笑い声を立てた。
    「死は全ての救済。安息を得られただろう……?」

    「ここまでが、私の見た予知です……」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が、不安げに言った。
     その横で、風早・真衣(Spreading Wind・d01474)がうなずいた。
    「その、辻占い師の噂は、知っていました。よく当たる占い師という噂が尾ひれをつけて、暴走して、都市伝説として実体を持った、もののようです」
     真衣は幼げな顔に憂いを浮かべた。
     その辻占い師は相談者の死を予言し、それが必ず当たるのだ、と恐怖されているのだと言う。
    「そもそもの、よく当たる占い師さんとは、まったく違うモノに、なってしまったんですね……」
     槙奈も眉をひそめる。
    「本当、噂って怖いですね……。いえ、噂を実体化してしまうサイキックエナジーが怖いのでしょうか……。それで、皆さんには、この都市伝説・辻占い師を倒してほしいのです。そして、栄男さんも助けてあげてください」

     場所は隣県のとある路地裏。時間は今日の夜。
    「栄男さんが辻占い師に接触する数分前に、なんとか皆さんで誘導するか、悩みを聞いて励ましてあげるかして、路地裏に入らないようにすれば、栄男さんは辻占い師に会う事もなく、車にはねられて死ぬ事もないでしょう」
     槙奈は両手をぎゅっと握りこんだ。そんな彼女を、真衣が気遣わしげに見ている。
     「車も、辻占い師の手下が運転手を惑わして、わざと事故を起こさせるように仕組んでいるようです。こんな風に、占いに来た人に死を宣告し、宣告どおりに殺す、というのを繰り返しています。許せません……」

     辻占い師は、栄男が通りかかる時間帯にしか路地裏に現れない。なので、栄男を他所に誘導するのならば、その後速やかに殲滅者が辻占い師に接触し、戦闘か足止めをしないと逃してしまうだろう。
    「でも、少人数では絶対に勝てない相手です。油断しないでくださいね」
     辻占い師は護符を使った催眠攻撃、足止め攻撃をしてくるという。また、手下の回復をすることもある。
     手下は身長150センチ位の影法師が3体。細い鋼の糸を使って攻撃してくる。
    「皆さんなら油断しなければ大丈夫だと思いますが……。無事に帰ってきてくださいね」
     槙奈はそう言って、灼滅者たちの顔を見た。
    「あの……栄男さんのこと、助けてあげて下さい。悩む事って、私にも沢山ありますし……皆さんらしく、励ましてあげてほしいです」


    参加者
    夜月・深玖(孤剣・d00901)
    風早・真衣(Spreading Wind・d01474)
    風見・遥(眠り狼・d02698)
    羽守・藤乃(君影の守・d03430)
    御崎・柚衣(花団子・d03675)
    素破・隼(ただの時代劇好き・d04291)
    遠吠・はがね(棺桶より産まれし者・d04466)
    忌古神・タヨリ(業を廻る夢・d10876)

    ■リプレイ

    ●地図と電話
     8人の男女が、携帯電話を手に持って連絡先を交換し合っている。傍目には学生グループの交流にしか見えないが、本人たちは真剣そのものだった。この携帯電話のコールに作戦の是非がかかっているようなものなのだ。
     羽守・藤乃(君影の守・d03430)が、赤外線やらバーコードが飛び交うアドレス交換に戸惑っていた。彼女が持っている携帯はシニア向け簡単ケータイだ。
    「世間の早すぎる流れには、追いつけないのです……」
     藤乃はひっそりとため息をついて、登録を終わらせた。

     遠吠・はがね(棺桶より産まれし者・d04466)が地図を広げ、皆が作戦を確認しあう。
     敵を包囲し、栄男を安全な場所に誘導するため、3班に分かれる作戦だ。
    「栄男殿の誘導と励ましでござるが、やはり女性の励ましの方が元気が出るでござろうな。ここはひとつ、拙者が女装するでござるよ!」
     嬉々として素破・隼(ただの時代劇好き・d04291)が手をあげた。
     隼に視線が集まった。え、その身長で女装……? と全員の目が言っていた。隼は身長180.5センチの大男だ。
    「え、何でござるかこの空気。バレンタインの時には、完璧な女装と賞賛されたでござるよ?」
     バレンタインに何やってるの。という視線が隼に突き刺さる。
     結局、話し合いにより、栄男対応は本物のかぐわしき乙女、風早・真衣(Spreading Wind・d01474)と御崎・柚衣(花団子・d03675)がやる事になった。
    「女装、できないでござるか……」
     隼が背中を丸めてションボリしている。前回以来、女装が好きになりかけているらしい。がんばれ、次回は180.5センチのゴスロリ娘を期待しているよ!

     他の班分けは、栄男が来る路地裏の入口班に風見・遥(眠り狼・d02698)と隼と藤乃、反対側の出口班に夜月・深玖(孤剣・d00901)と忌古神・タヨリ(業を廻る夢・d10876)とはがねの3人ずつだ。

    「少し前に、TVにも出てた有名な占い師が、今回の事件と似たような事をしていたな。あんな下衆な奴がいるから、こんな都市伝説が生まれてしまうのか……」
     はがねが腕を組み、静かに言った。
    「占いは信じないが……辛い時には縋りたくなる物なのかな」
     深玖が真衣のライドキャリバー、ぜんじろうに手を置いて首をかしげる。栄男の誘導には連れて行けないので、真衣が彼に預けたのだ。
    「占いって、もっと素敵なものです、よ? 占う人によって、は?」
     やや不確定な口調で、真衣が言う。
    「なんで疑問系なんだよ」
     遥が真衣の頭にポンと手を置いた。
    「それよりお嬢さん、気をつけろよ? 迷子にならずに早く合流しろよ」
     それは保護者めいた口調だった。遥自身は否定するが。
    「うん。はるかちゃんも気をつけて、ね? 怪我は嫌です、よ」
     大きな目で遥を見て、真衣が頷いた。

    「可愛いお嬢さん達の励ましなら元気が出るだろうな……若干羨ましいけど、気にしないでおくよ。がんばれ」
     深玖がニコニコと笑いながら、真衣と柚衣に手を振る。
    「みんながんばろー! おー!」
     タヨリがぴょこんと拳をふりあげたのを機に、灼滅者達はそれぞれの持ち場に散った。

    ●道案内
     日が落ち、辺りは夜になっていた。暗くなった街を、江井司・栄男が彷徨っていた。頭の中身は悩みでいっぱいだ。そして、件の路地裏の近くにさしかかった時。
    「あの、すみません。市民センターってどう行けばいいのでしょうか」
     2人連れの少女に声をかけられた。普段あまりないことに驚いてよく見ると、ふたりとも中学生くらいの、かわいらしい子たちだった。
    「あ……ああ、市民センターなら……」
     栄男は戸惑いつつも道を教える。頭の切り替えが追いつかなくて、うまい教え方にならなかった。道ひとつ満足に教えられないなんて、と栄男は自己嫌悪になった。
     案の上、少女たちは微妙な顔をした。お花の髪飾りをした少女――柚衣が言う。
    「私達すぐ迷子になっちゃうので、申し訳ないですが案内して頂きたいです」
    「申し訳ありません……案内をお願いいたし、ます」
     もう一方の少女――真衣がいとけない動作でぺこりと頭を下げた。
     いい子たちだ、自分に挽回のチャンスを与えてくれるとは。栄男は感動した。もう辺りも暗いし、道に迷った女の子を道案内するのは善行のはずだ。
    「いいよ」
     栄男は少女達を先導して、来た道を引き返した。彼は知る由もなかったが、それは、彼が死の運命から引き返した瞬間だった。

    「なにやら元気がありません、ね?ご迷惑でした、か?」
     真衣が栄男に問うた。
    「いや、迷惑なんて」
     とっさに答えて、栄男は、自分は確かに疲れた顔をしているだろうと思った。寝不足だし、気分が落ち込んでいる状態が続いていたから。
    「見知らぬ相手なら吐き出せることもある、です?」
     真衣がこくんと首を傾げた。
    「いや、大人になると色々あるんだよ……」
     栄男は苦笑した。しかし柚衣が話を引き出すのがうまかったので、栄男は歩きながらぽつぽつと、仕事の事、彼女に振られたこと等を話した。
    「ついてない時って、ありますよね。でも頑張ればその分、後でご褒美が待ってるって思うんです」
     柚衣が心をこめて栄男を励ます。栄男のほうも、2人が一生懸命聞いてくれるので、話し終わった時にはなんだか気分が軽くなっていた。
     
     市民センターに着くと、真衣と柚衣は丁寧にお礼を言った。
    「バレンタインには遅いけど、御礼チョコです。有難う御座いました!」
     柚衣が栄男にチョコを差し出す。
    「え、いいの?」
     栄男はびっくりした。柚衣はにこにこしている。それを見て、真衣がポケットをごそごそした。出てきたのは一粒の飴……苺ミルク味。
    「あまい、です。元気でますよ?」
     チョコと飴をもらって、栄男は嬉しくなった。道案内で助けたはずが、逆にこちらが助けられた感じだ。

     歩き去る2人を見送りながら、栄男は、自分がかなり浮上していることを自覚した。手の中のお菓子を見る。
    「頑張ればその分、後でご褒美が待ってる……、か」
     あの2人、実は天使かもしれない、と栄男は思った。

    ●合図
     路地裏の入口付近で、地べたに座って携帯ゲーム機で遊んでいる(フリ)の少年は、遥だ。彼の携帯電話に、着信が入った。
     着信はツーコールで切れた。栄男誘導、成功の合図だ。
     発信元は柚衣。栄男に案内されて歩いている時に、こっそり携帯を操作したのだ。
     遥は、少し離れた所に立っている藤乃に目配せした。藤乃はうなずいて、反対側の出口班にもツーコールを発信した。

     出口側では、ツーコールを受け取ったタヨリがぴこぴこと跳ねた。
    「おー、誘導成功だってー!」
    「励ましはうまくいったかな? その辺は苦手だ。ただ、斬る方はやらせてもらおう」
     壁に背を預けていたはがねが、その身を起こす。
    「罪も無い人を殺すなんて業の深い事……、絶対許せないよね!」
     タヨリがどこか楽しげに言う。はがねと深玖は、路地裏に目を向けた。
     その時、大通りの方から黒っぽい影法師が路地裏にすすすっと入っていった。
    「動きが早いな」
     辻占い師と配下の合流を確認したはがねが、眉をぴくりと動かした。
    「逃げられたら厄介だね! まあ逃がさないけどね! ポチっとな!」
     タヨリが携帯電話の発信ボタンを押した。ワンコール。突入の合図だ。

     灼滅者たちが合図を受けて路地裏に入ると、そこは思ったよりも暗かった。数メートル進んだ先に、辻占いの小さな机が見えた。
     遥は、辻占い師の正面に立った。
    「占いかー。本当に当たんのかよー。今までの実績とかあんの?」
     軽い口調で声をかける。フードを目深にかぶった辻占い師が、微動だにしないまましゃがれた声を出した。
    「実績か……今まで幾数の人間に安息を与えてきた」
     死という名の安息を。語外の意味を、灼滅者は読み取った。
    「俺達の未来も、占えるのか?」
     遥とは反対側からあらわれた深玖が、飄々と言った。
     
     彼らをはじめとして灼滅者が6人、辻占い師を包囲するように歩き出てきた。剣呑な雰囲気を察した影法師が3対、辻占い師の前に壁を作る。
     深玖とはがね、遥が武器を構えた。それぞれの刃が冷たく光る。3本の刃物に囲まれて、辻占い師が不気味な笑い声を出した。
    「そうさな、お前たちの未来は、死だ」
     瞬間、辻占い師の周囲に青白い五芒星が現れた。結界の蒼い光に巻き込まれた前衛が、バチバチと反発を受けて後ずさる。
    「当るも八卦当らぬも……ってのが常套句なのに、無理矢理に当ててくるとは、アグレッシブなやつだよー」
     ダメージを受けた遥が、のんびりと言う。
    「治すでござるよ!」
     隼が素早く放った光輪が、遥の傷を癒す。遥もドラゴンパワーで自身の守りを固めた。

    「人の心の弱りにつけ込むとは恥知らずなこと。決して逃がしませんから……覚悟なさいませ」
     キリリとまなじりを上げた藤乃が、マジックミサイルを影法師に撃つ。影法師は横に避けたが、空中で角度を変えたミサイルが追撃し、影法師の身体に風穴を空けた!
     その藤乃に、辻占い師が導眠符を放った。しかしその攻撃は、はがねが間に立って阻んだ。
    「悪いが、ダメージは引き受けさせてもらう」
     ダメージは重かったが、はがねはひるまない。
    「ふっ…この程度!」
     丹田に力を入れて、鏖殺領域を発動させた! 凄まじい殺気が質量をともない、辻占い師のローブを裂く。

     同時に、藤乃に風穴を開けられた影法師を、深玖の無敵斬艦刀が襲った。巨大な鉄塊を細身の身体で軽々と操り、緋色のオーラをまとった紅蓮斬を叩き込み、一体を屠った。
     その深玖に、足音なく近づいた2体目の影法師が、鋼色の糸を巻きつけた。ヒュッと鋭い音がして、3体目の放った鋼糸が、深玖の首筋を切り裂いた!
     大量の血を流しながら、深玖はたまらず膝をつく。隼とタヨリが慌てて回復して血は止まったが、それでも傷は深いままだった。
     苦しい息をする深玖の前に、遥とはがねが立ちはだかって庇う。だが、彼らも影法師の糸を喰らってすぐに傷だらけになってしまった。とても回復が間に合わない。

    「弱い。弱い者には救いが必要だ。死という救いが」
     苦戦する灼滅者を見て、辻占い師が言った。
    「お菓子の様に君の頭の中も甘々だよねえ、なーんて!」
     タヨリが言い返す。彼の白い指が空を指差した。
    「ほら、上を見なよ! その悪業、絶対潰してみせるよー!」

    ●路地裏からみえる空
     タヨリが指差す頭上から、風を切る音がした。何かが高速で近づいてくる音が、ふたつ。
    「お待たせしました! 栄男さんはもう大丈夫です!」
     柚衣の声がした。と思うと、空飛ぶ箒に乗った彼女が路地裏に急降下してきた。
     そのまま柚衣は空中で壁を蹴り、三角とびの要領で身を翻し敵の間合いに飛び込む。必中のマジックミサイルが影法師にダメージを与えた!

     続いて真衣が、箒にまたがって舞い降りた。
    「夜月様……怪我、しました、ね?」
     心配そうに、癒しの矢で回復する真衣。飛行中で不安定な姿勢の真衣を、辻占い師が浮遊する符で翻弄し、傷を負わせた。真衣が小さく悲鳴をあげる。
     それを見た遥のこめかみで、血管が切れる音がした。
    「てめぇ、うちのお嬢さんにふざけた真似してんじゃねぇぞ?」
     次はさせないと言葉の代わりに敵を睨みつけ、遥は手近な影法師に居合斬りで大ダメージを与えた!

     そこに主を得て動き出した真衣のライドキャリバー、ぜんじろうが機銃掃射で敵を牽制した。
     藤乃の影から伸びた影が、影法師をごごごっと飲み込む。影法師はそのままぐずぐずと崩れていった。
    「はがねさん、そちらにもう一体行きましたわ!」
    「おっと逃げられないぜ」
     己の脇をすり抜けようとした影法師にすばやく駆け寄り、はがねはティアーズリッパーで切り裂いた。神速の斬撃を受けた影法師が四散する。
     余裕のできた後衛が仲間の傷を回復し、灼滅者達は形勢を逆転した。

    「もうあんた一人だよー!」
     タヨリが辻占い師を挑発し、大きく回した両手からオーラキャノンを放った。
     その攻撃で、辻占い師のフードがはね上がる。フードの下は頭髪のない青黒い異形の顔。目は白く濁っていた。誰かが小さく息を呑んだ。

     深玖が辻占い師の左側から、下段の突きで太腿を刺して動きを止める。
    「良い所見せろよ、遥」
     笑う深玖の斜め後ろから、遥が走り寄った。駆ける姿勢のまま、遥は鞘口をきった。刀の白い光が、真横に薙ぐ。
     その一閃は骨を断つ勢いで辻占い師の首を切り、首は皮一枚で胴体からぶら下がった。
     胴体は倒れなかった。首はゆらゆらと揺れながら、灼滅者達を見て、笑った。

     凄いばかりの形相のまま、黒い砂の像が崩れるように、辻占い師は消えていった……。

    ●路地裏の勝利者
    「占い師こわいでござる……」
     沈黙の後、隼が息を吐いた。
    「私たちの勝利、ですね。みんな、怪我は大丈夫ですか?」
     表情を緩ませた柚衣が、あたりを見回した。

    「深玖、血だらけだなー。こりゃ濡れタオル行きじゃねぇの?」
     深玖の顔を覗き込んで、遥がからかうように言った。ちなみに濡れタオルとは、過去、遥が重症を負った際に、真衣によってなされた悪気のない窒息看護である。
    「いや、これ服に血がついてるだけだって。皆が回復してくれたから大丈夫だよ」
     もちろんわかっててからかっているのである。
    「看護、いらない、です?」
     しかし本気で心配した真衣はすでに、水の滴るタオルを手に持ってスタンバイしていた。
    「真衣嬢、瀕死必須の濡れタオルは勘弁……!」
     深玖はじりじりと後ずさった。みんな、寝てる人に濡れた布や紙をかぶせちゃダメだよ! 危ないからね! 筆者との約束だ!

     そんな彼らの様子を見て、藤乃がほほ笑んだ。
    「仲が良いですわね」
     まあ、そうなのかな、という感じではがねが頷く。
    「栄男殿はこれから大丈夫でござるかな」
     隼が路地裏の狭い空を仰いで言った。柚衣が笑顔で答えた。
    「私なりに精一杯励ましたよ。私はチョコをあげたし、真衣ちゃんがキャンディーあげてたの。最後には笑顔でしたよ」
    「私たちが厄払いしたのですもの、これから良い事ばかり……であるよう、祈りますわ」
     藤乃も、そう言って空を見上げた。空の隙間から星がちらほら見えた。

    「良い事ばかり……いいね! 僕がみんなの運勢を占ってあげるよー!」
     突然タヨリが手で筒を作り、その中を覗く。
    「むーん、ハイ! これから良い事しか起こらないってさ!」
     その適当すぎる占いに、一同は笑った。
    「楽観的だな」
    「でも、いいですね、それ」

     これから良い事ばかり。そんなことはあり得ない。戦いの中で生きる灼滅者ならば尚更だ。
     あり得ないと知ってても。
     仲間がいて、帰る場所があるかぎり。
     
     せめて、世界が優しく良い方向へ向かっていくようにと、彼らは願うのだった。

    作者:桐蔭衣央 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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