革命の日、少女は踊る踊る

    作者:相原あきと

     都内にある某ゲームセンター
    「邪魔だ。下手くそ。どけガキが」
    「ぅっ」
     高校生の男の人たちに下手なんだからという理由で追い出された。
     あたしはとぼとぼとゲームセンターを出て家へと帰る。

     両親が死んだ後、お兄ちゃんと一緒におじさん夫婦に引き取られた。
     お小遣いは毎日もらったけど、仕事ばかりでおじさんもおばさんも家で見る事はほとんどなかった。
     だから、いつの頃からかお兄ちゃんと一緒にゲームセンターで遊ぶのが日課になっていった。
     わたしのお兄ちゃんはゲームが上手い、特に音楽に併せて画面を流れてくる矢印と同じ矢印を踏むダンスゲームは一番だ。
     一番上手いとココに名前が載るんだよ? とお兄ちゃんが教えてくれた。お兄ちゃんの名前はいつも画面の一番上に輝いていた。
     そんなお兄ちゃんがいなくなって1ヶ月が経つ。おじさん達は警察に連絡したからすぐに見つかるさと言っていたが、それだけだった。
     わたしは1人でゲームセンターへ行く、お兄ちゃんがそこで、あのゲームで踊ってるんじゃないかと思って。
     でも、最近は行っても高校生の男の人達に占領されている。
     とても邪魔だけど、下手なわたしは言い返すこともできない。
     悔しかった……お兄ちゃんなら、あんな下手くそ達なんか!

     その日、少女は『声』を聞いた。
     革命の日。
     翌日、件のゲームセンターで男子高校生に勝負を挑み、その絶技で高校生を黙らせた少女は、最高得点者の画面で大好きな兄の名前の上に自分の名を刻むのだった。

    「みんな、淫魔については勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
    「今回、みんなにお願いしたいのは、淫魔へと闇堕ちしかかっている一般人の救出なの。対象は風吹・小葉(ふぶき・このは)、小学4年生の女の子。彼女はたった1人のお兄ちゃんが行方不明になって、唯一の思い出の場所であるゲームセンターに通ってるわ。でも、思い入れのあるゲームは高校生に占領されてて……」
     そのゲームは曲に併せて画面を矢印が流れ、タイミングよく足下の矢印パネルを踏むと得点になるという体感ダンスゲームらしい。
     男子高校生に下手だからと追い出されたけど、そこを淫魔につけ込まれた。
     次の日、超絶技を身につけてリベンジし男子高校生を逆に追い出すと言う。
    「接触のタイミングはその瞬間よ。男子高校生達がプライドをずたずたにされてゲームセンターから逃げ出すから、入れ替わりでその子に接触して」
     それ以外のタイミングではバベルの鎖で予知され逃走される。
    「今はまだ元の人間としての意識を残している状態だけど、このまま放置すれば彼女は確実に闇堕ちしちゃう。だから……もし彼女が灼滅者の素質を持つのであれば、闇堕ちから救出して欲しいの。だけど、間にあわないようなら……完全に淫魔となる前に灼滅して」
     珠希はそう言うと少女を思ってか、少し辛そうな表情で言う。
    「彼女はダンスゲームをお兄ちゃんより上手くできたのだから、きっと帰ってきてくれると思ってるの。それはもちろん、理屈じゃないし、勝手な思いこみよ。もし、彼女を助けるなら……ダンス勝負を挑んで、淫魔の力で上手くなっても限界があるとか……負けを認めさせて欲しいの」
     逆にダンス勝負で負けたり、勝負を挑まず戦い始めた場合、助けられたものも助けられなくなり、選択肢は灼滅の一択となるだろう。
    「彼女はサウンドソルジャーのサイキックに似た攻撃をしてくるけど、その効果は全員に及ぶから気をつけて。たぶん、ダンス勝負で彼女に勝った人が狙われやすいから注意してね」
     そこまで言うと珠希は一度言葉を区切り、少しだけ逡巡してから口を開く。
    「彼女のお兄さんがどうなったか……それは私にもわからないわ。ただ、彼女にとってお兄さんは唯一の心の拠り所だったんだと思う。もし助ける事ができたなら……」
     ぐっ飲み込み。
    「教えてあげて。信頼できる人たちは、もっと、もっとたくさん世界にはいるってことを」


    参加者
    姫神・巳桜(初恋プリズナー・d00107)
    天上・花之介(連刃・d00664)
    西土院・麦秋(ニヒリズムチェーニ・d02914)
    鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)
    柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)
    サリィ・ラッシュ(ブルホーン・d04053)
    清浄院・謳歌(正義の中学生魔法使い・d07892)
    奏森・あさひ(騒ぐ陽光・d13355)

    ■リプレイ


     都内某所のゲームセンターから、男性高校生がばつが悪そうな顔で逃げるように去って行く。
     ダンスゲーム機の前に立ち高校生達を冷たく見つめる少女、風吹・小葉(ふぶき・このは)に最初に声をかけたのは清浄院・謳歌(正義の中学生魔法使い・d07892)だった。
    「小葉ちゃん、だよね?」
    「そうだけど?」
     小葉が不信そうに返してくる。周囲には謳歌の他に7人の中高生。
    「ダンスゲーム、上手いんだね。ボク達も好きなんだ。勝負しない?」
     奏森・あさひ(騒ぐ陽光・d13355)が屈んで小葉に目線を合わせながら言う。
    「みんな、あたしが小さいからって下手だと思って……いいよ。勝負しよう」
     小葉の瞳が本人の意思とは関係無く怪しい耀きを放つ。即ち、淫魔としての影だ。
     勝負に持ち込んだ灼滅者達は、事前に打ち合わせた作戦通りに動いた。
     西土院・麦秋(ニヒリズムチェーニ・d02914)の提案で皆で楽しく踊ろうと言う話になり、数台が並ぶダンスゲーム機には、麦秋、謳歌、あさひ、姫神・巳桜(初恋プリズナー・d00107)が乗る。
    「4人同時に? 無理よ。そんな簡単じゃないわ」
     小葉が呟く。
    「ダンスは皆で一緒に楽しめてこそ、でしょ☆」
     有名アイドルグループの曲が流れだす。誰もが知っている曲だ。
    「小葉ちゃんも知ってるわよね~? 一緒にどう踊りましょ♪」
     麦秋が小葉にウィンクするが、小葉はそっぽを向く。
     説得には骨が折れそうね、と思いつつ麦秋は仲間達に合図を送りダンスをスタートする。
     それはお世辞にも巧いダンスでは無かった、しかし4人の踊りには笑顔と楽しさが溢れ、観客として見る残り4人、天上・花之介(連刃・d00664)、柩城・刀弥(高校生ダンピール・d04025)、サリィ・ラッシュ(ブルホーン・d04053)、鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)も気が付けば手拍子でリズムを取っていた。
    「小葉ちゃんを助けるためにも、絶対に負けないからっ!」
    「意味わかんない」
     小葉の返事に全力で踊りながら謳歌が笑う。今は解らなくてもいい、でもそれが謳歌の覚悟なのだ。だから言葉を続ける。
    「いなくなったお兄さんはどんな人だったの?」
    「えっ」
     小葉の動揺が走る。なぜ、お兄ちゃんのこと……。
     小葉にとって兄は、ただ一人の味方だった。そしていつも泣いていた小葉に、『いつも笑顔、スマイルを忘れるな』と笑顔で――。
    「みんな、楽しんでる?」
     手や全身も使って楽しそうに踊る巳桜の声に、小葉は我に返る。
     するとちょうど目があった。
    「ほらスマイルスマイル、そんな怖い顔をしていたら帰ってきたお兄さんもびっくりしてしまうわよ」
     巳桜の言葉に悲しさと恥ずかしさと、そして怒りが沸き起こる。
    「あなたに、言われたくなんかない!」
     巳桜が一瞬、残念そうな顔をするがすぐに楽しそうにダンスに戻る。
     そう、彼女達は誰もが楽しそうだった。笑顔で、自由で……。
     小葉の目は自然とあさひのダンスに引き寄せられていた。唯一、あさひだけは流れてくる矢印すら無視して、ただ楽しそうに曲に合わせて踊っていた。
     その姿はまるで……。
    『お兄ちゃん! どう? あたしうまいでしょ♪』
    『小葉は踊りの天才だね!』
     スコアも技術も関係無く、あの頃はただお兄ちゃんの――
    「矢印を待つより自分で作る方が楽しいよね!」
     あさひが小葉に手招きする。
    「あ……」
     それは友達と楽しく遊んでいるかのようで……。
     やがて4人のダンスは終わり、ゲーム台から降りてくる。
     スコアはもちろんガタガタだが、その顔は誰もが満足気だった。
    「小葉ちゃん、望む形を待ってないで、自分から望む形を踊りに行けば良いんだよ」
     そうすれば、きっと素敵に会えるから。
     そう言ってあさひが小葉の頭を撫でながらすれ違った。


    「しょ、勝負は……勝負だもん」
     入れ替わってゲーム台に立つ小葉が自分に言い聞かせるように言う。
     その指は一番難易度が高い曲をセレクト。
    「風吹、今のお前がどれほど頑張っても、兄貴は帰ってこねえよ」
     刀弥の言葉にキッと小葉が睨んでくる。
     すでに先ほど踊っていた4人以外は、ESPも駆使しゲームセンター内一般人を非難させてある。あとは小葉の説得のみだ。
     それは少女が踊る間も行う予定だった。
    「勝手なこと言わないで!」
    「勝手じゃないさ。それ、借り物の力だろう? お前は兄貴に追いつくどころか最初の場所で足踏みしているだけで、一歩も進んでねえ……そんな奴の望みがかなうかよ」
    「違う! これはあたしの才能だもん!」
     乱暴にスタートボタンが押され、16分音符のアップテンポの歌が流れだす。
     小葉は画面を見ながら矢印を完璧なタイミングで踏む。
     ノーミスでコンボが重ねられ、それはまるで竜巻に舞う木の葉のような踊りだった。
    「あたしはうまくなった……見てよ! 完璧でしょ!」
     踊りながら叫ぶ少女は、ゲームよりも何かに必死になっているようで……。
    「本当か?」
     花之介だった。
    「本当に自分の力で巧くなったって、笑って兄貴に言えるのか?」
    「………………」
    「肩を並べて踊りたいから巧くなりたい……そりゃ立派なことだけどな。ズルをしたお前を見たら、……きっと兄貴は悲しむよ、風吹」
    「うるさいうるさいうるさい!」
     画面に吠えるように少女が叫び、その両手で耳を覆う。
     流れてくる曲のリズムは暗記している、画面を見ながらなら外すことは無い。
     そしてその行為は、少女が踊っている間も説得や気を逸らそうと考えていた灼滅者にとって予想外の行動だった。
     こちらが何を言っても、向こうがあれでは雑音程度にしか聞こえないのでは意味が無い。
     だが!
    『下手でも、上手でも、自分なりにがんばって、みんな楽しめるのがダンスでしょ』
     雑音の中、しっかり聞こえてくる声に小葉の足が僅かにズレる。
     コンボが途切れた。
    『お兄ちゃんは、下手だからってあなたを追い出したの?』
     割り込みヴォイスを使ったサリィだった。
    『仲間たちがお互い讃えて讃えられるから、一番上に名前があることに意味があるんだよ』
     サリィの声が心に突き刺さる。
     兄が踊り終わった後、周囲のギャラリーは自分を含めて誰もが兄を賞賛していた。その瞬間だけは、誰もが仲間であったような気分になり、兄はそれが好きだと言っていたのだ。
     曲が終わる。
     先ほどの4人に比べればハイスコアだが、決して最高得点では無かった。
     無言でゲーム台から降りてくる小葉に、サリィが語りかける。
    「私たちといっしょに来ない? 分かってくれる仲間がたくさんいるよ」
     小葉が立ち止まり、ぐっとサリィを仰ぎ見て。
    「そ、そんなの……仲間なんていらない! あ、あたしは、あたしはお兄ちゃんさえいてくれればいいんだもん!」
     叫ぶ言葉は乱暴で、けれどその表情は何かを堪えているようだった。
    「ね、いっしょにお兄ちゃんを探そう?」
     小葉がサリィの差しだす手を払いのける。
    「あたしは負けて無い! スコアだって上だもん! あたしは……間違って無いもん!」


     ヒステリーを起こす少女に、灼滅者達がどう声をかけようか沈黙する。
    「それで楽しいですか?」
     そんな中、笑顔のまま静かにゲーム台に上がる巫女服の少女が呟く。
    「ダンスはギャラリーも自分も楽しめないと、意味が無いのですよ」
     滑らかな操作で巫女服の少女、湯里が初心者譜面を、さらにオプションでステルス・ミラーを選択、スタートボタンを押すと共にクルリと画面に背を向けギャラリーに深々と一礼する。
     湯里の後ろで、画面にはステルスモードにより矢印は移らず、癒しの映像のみが流れ始める。
    「画面も……見ずに……?」
     驚く小葉に微笑むと、そのまま湯里がダンスを……いや神楽を舞う。
     手にした扇子が優雅に流れ、その巫女服も相まって幻想的な空気を創り出す。
     緩やかな曲にのったそれは、まるで一つの神秘的な絵画のようで……。
     誰もがゲームであることを忘れ、湯里の舞に見惚れていた。
     やがて舞台は終わり、巫女が小葉の前へしゃがみ肩に手を置き言う。
    「皆が笑顔でいること。貴女がお探しの人も、きっとそれを望んでいるのでしょう」
     湯里の背後で画面にスコアが表示される。それはノーミスのトリプルA。
    「う、うえぇぇぇーん!」
     小葉の中で何かが折れ、少女は堰を切ったように泣きだす。
     湯里がそのまま抱きしめよしよしと撫でてやると、少女は泣きながら、ごめんなさいと何度も泣きながら謝る。
     そして――。
    「ぇぇぇぇ……――」
     ピタリと鳴き声が止み、飛び跳ねるように湯里が少女から離れる。
     見れば小葉からは邪悪なオーラが立ち昇っていた。
     クワッと小葉の目が見開かれ、少女の中のダークネスが強制的に現れる。
    「何が望んでいる、だ。そんなこと、私は少しも望んでいない!」


     小葉がクルリとステップを踏めば、周囲に小型の竜巻が起こり一斉に灼滅者達へと迫る。
     暴風が前衛の4人にぶつかる直前。
    「闇を討つ刃を我に……」
     声と共にギャギャギャギャと駆動音が響く。
     ゲームセンター内に破壊の爪後を残して竜巻が消えると、そこにはチェーンソー剣の刀身を盾のようにして仲間を庇う刀弥の姿があった。
    「青・龍・召・喚!」
     湯里の手に両刃先部が薙刀のようになっている鬼屠の薙刃が現れる。
    「戦の舞、始めましょう」
     戦闘が開始される。
     最初に動いたのは麦秋だった。
     低い姿勢で小葉のそばまで一気に近づく。
    「あらら、壊しちゃダメよ小葉ちゃん。お兄ちゃんとの思い出の場所だったんでしょ?」
     螺旋を描いて付きだされた麦秋の槍が少女の服を僅かに散らす。
     さらにサリィのパッショネイトダンスと謳歌のマジックミサイルが遠距離から被弾、多少の傷は受けつつステップで直撃だけは免れる。
     だが、遠距離からの連撃に気を取られた隙に、目の前には花之介が迫る。
     繰り出される拳から身体を逸らし、さらに足元を狙って繰り出された蹴りをバク転で回避する小葉。しかし間髪入れずに突き出された徒花之鞘が鳩尾にジャストヒットする。
    「待ってろ、いま助けるからな」
    「ぐっ……それが、余計なのだ」
     花之介の言葉にダークネスが忌々しげに答え、タップダンスのようにリズムを刻んで催眠効果の曲を奏でる。
    「レッツ、プレイ!」
     小葉の曲に割り込んだのはあさひだ。
    「ボクも負けないよ! 皆、ボクのリズムに乗って!」
     小葉の曲を相殺するかのように、あさひは相手に食われぬよう自分のリズムを刻む。
    「おのれ!」
     キッと小葉があさひを見るが――
    「お前の命、喰らわせてもらおう……」
     刀弥によって左腕が切り裂かれた。
     傷ついて動けないと思っていた前衛達は、すでに巳桜が回復させていたのだ。


     小葉の攻撃で一番厄介なのは催眠効果のある範囲攻撃だった。
     しかし、巳桜がリバイブメロディでバッドステータスを一斉に回復し、さらにサリィがキャスターである事を活かし臨機応変に回復することで、範囲催眠は封殺されていたと言っても過言ではなかった。
    「なんで効かない!」
     小葉の中のダークネスが怒りを露わに叫ぶ。
    「小葉ちゃん聞こえる? そんな力で誰かを負かした所でお兄ちゃんには届かないわよ」
    「黙れ!」
    「人は努力して、それで認められるのよ」
     小葉の背中から紅い十字架が浮かび上がり、引き裂くように鮮血が飛ぶ。
    「黙れ黙れ黙れ!」
     狂ったように叫ぶと共に、過激なステップで周囲に小型の竜巻が生まれる。
    「まずはお前だ!」
     竜巻の数は戦闘開始時の倍はあり、それが一斉に……湯里へと打ち込まれる。
    「させないからっ!」
     竜巻とほぼ同時、謳歌が湯里に治癒の力を宿した光を放たれる。
    「湯里さん、諦めないで!」
    「ええ……諦めない心は、大切ですね」
     湯里はシャウトで自身も回復し、すっと姿勢を正して小葉を見据える。
    「小葉ちゃん、諦めて何かにすがったりせず、自分で努力をしませんか? その手伝いぐらいなら、私にもできますよ?」
    「ど、どうして、どうして倒れない!?」
     一歩、二歩、と後ずさる小葉。
    「ガラ空きだよ……」
     背後からの声、ギャリギャリギャリと唸りを上げて刀弥のチェーンソー剣が死角から少女の背を切り裂いた。
    「お、おの、れ……」
     ふらふらと、しかしまだ倒れない少女の前に男が立つ。
     それは納刀したままの刀を鞘の口辺りで逆手に持った花之介だった。
     すっと順手から繰り出される瞬きの一閃!
     ――チン!
     鞘に納める高音が響くと同時、ばたりと少女が倒れ伏す。
    「紫電、一閃」
     そして戦いは終わった。


     その後、ゲームセンターをある程度片づけた所で小葉は目覚めた。
     少女に最初に気が付いた麦秋が言う。
    「乱暴しちゃってゴメンなさいね。ね、アタシ達と一緒に警察とは別方向からお兄ちゃんを探してみない?」
    「え? どういう……」
     戸惑う小葉に花之介と湯里が武蔵坂学園について説明する。
    「兄貴だけじゃなくて、少しは周りも信じて頼ってみな?……例えば、オレとかな」
    「今の貴方なら、待つのではなく自分から探しに行ける……だって貴女は、その力を得たのですから」
     花之介の優しい言葉に、湯里の安心する笑顔に、少女の中の何かが氷解していく。
    「ね、小葉ちゃん、踊りましょうか?」
     巳桜が小葉の手を引き、動くのを先ほど確認したダンスゲーム台へと連れて行く。
    「で、でも……」
     すでに淫魔の力が無くなっていることを小葉は感じていた。
     だから思わず否定的な声を出す。
    「大丈夫! 今度は勝負じゃなくて、ただ一緒に楽しく踊ろう♪」
    「……うん♪」
     あさひの言葉に少女に笑顔が戻る。
     それは灼滅者達が見た、風吹小葉の本当の笑顔だった。
    「それじゃあ、曲はお兄ちゃんの得意だったやつでやろう?」
     先ほどは踊らなかったサリィが、小葉の横に並ぶ。
     その日のダンスゲームを、少女は決して忘れないだろう。
     初めてできた、兄以外の……本当の仲間との楽しい時間を。

     帰り際。
     ふと気になっていた事を謳歌が聞く。
    「あ……そうだ。小葉ちゃんが聞いた『声』について、何か覚えているかな?」
    「声?」
     小葉が首をかしげるが、やがて何かを思い出したようにある名前を告げる。それしか覚えていないとのことだ。
     笑顔の少女と別れ灼滅者達は帰路へと付く。
     しかし、その表情は決して晴れ晴れとはしていなかった。
    「さっきの名前って……」
     サリィが神妙な顔で呟く。
    「ラブリンスター」
     謳歌が小葉から聞いた単語を繰り返す。
     世界はダークネスに支配されている。少女の運命を狂わせた存在も、また……。
    「ようこそ、闇との戦場へ……か」
     あながち間違いではない刀弥の呟きに、返事をする者は誰1人いなかった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 5
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