氷の上でも踊ってみせる!

    作者:水上ケイ

     フィギュアスケート。
     音楽にのせて氷上を華麗に滑走し、魅せる。

     とある小さな町はずれ。凍りついた池で、即席ダンス対決が行われようとしていた。
     言い出したのは、取り巻きをつれて現れた瑛美。中学1年生である。転校生で、スケート自体が初心者だった……はずだ。昨日までは。
     瑛美は、元々ダンスを愛する少女だったが、新しい学校にダンス部がなく、興味をもってフィギュアスケートをはじめてみようとしたものの、初心者で散々苛められた。
     そのいじめっ娘達のリーダーを呼び出して、瑛美が挑戦したのだ。
    「リリ。よくも散々馬鹿にしてくれたね? さあ勝負だよ? ルールは5人の審査員の点数制ね」
    「え?」
     同じクラスの学生たちが5人、ゾロゾロパイプ椅子に座る。彼等はおどおどしていて、それもそのはず。瑛美の取り巻きの二人の男子が、乱暴な言動で席に誘導していた。完全に脅かされている表情だ。
     さあやれ、と瑛美の取り巻きにはやし立てられて、リリはこんなの虐めだ、と泣く泣く勝負に応じた。
     もちろん結果は瑛美の勝ちだった。ズルなんかしなくても、淫魔の力を得た瑛美の勝ちだった。
    「あんたなんかッ……」
     瑛美は泣き出したリリに近づいて平手打ちしようと……。
     

     教室には海堂・月子(ディープブラッド・d06929)がエクスブレインの鞠夜・杏菜(中学生エクスブレイン・dn0031)と一緒にいた。
     杏菜は月子の推察を聞いて、サイキックアブソーバーの解析に力を入れたらしい。
    「みんな、またダンス好きな少女が淫魔に闇堕ちしたわ……というかね、今度はフィギュアスケートなのよ。海堂さんがその可能性を教えてくれたの」
    「そう。ダンス好きの少女が堕ちるのなら、もしかしたらフィギュアスケートでも、って思って調査を頼んだのよね。そしたらやっぱり……とはいっても、幸いまだ元の人間としての意識は残ってるみたいだから」
     できるなら倒してあげて、闇堕ちから救えるといい。ほうっておけば完全なダークネスになってしまうから。
     集まった灼滅者達がわかっていると頷くところに。
    「私もつい先日、一人救ってきたところなのだけど。どうやら今回の少女も、ダンスで負けを認めさせないと救えないらしいわ。今回の場合は氷の上で踊る、ってやつかしら」
     月子が付け加えた。
    「詳しい説明は鞠夜さん、頼むわね」
     
     そこでエクスブレインがあとを引き継いだ。
    「まずは介入のタイミングね。瑛美とリリの勝負がついたあとならOKよ。瑛美はリリをひっぱたく勢いだけど……その辺で」
     瑛美は淫魔の力に目覚め、いじめっ娘を見返そうとフィギュアスケート勝負を挑む。
    「フィギュアスケートといっても、難しく公式ルールを考える事はないわ。瑛美のルールではとにかく素敵に氷の上で滑って踊り、素人一般人に誰が一番か決めてもらう。十分勝機はあるわ」
     しかし、問題がある。瑛美は一般人の審査員を手下に脅させている。
    「でも、この手下はただの瑛美に魅了された一般人よ。審査員の後ろ辺りにいるから……対策は任せるわ」
     ともかく重要ポイントは『瑛美に負けを認めさせること』。
    「実は、瑛美は初心者だし一般人としてフィギュアスケートが凄く上手、というわけではないと思うの。それで審査員でズルしようとしたりね」
     その力はダークネスとしてのもの。だったら、灼滅者の皆にも工夫すれば十分対抗できるし、あるいは薀蓄などがある人は舌戦で攻めてもいいかもしれない。
    「どんな方法でもいいので、とにかく瑛美をダンスバトル、この場合はフィギュアスケートバトルかな、それで敗北を認めさせて欲しいの。そうでないと助けられないわ」
     負ければ瑛美は怒って戦いを仕掛けてくるので、倒して欲しい。もし灼滅者としての素質があれば生き残るはずだ。
     もし、勝利できなかった場合は助けられないが、その時は瑛美を灼滅してほしいと杏菜は話した。
     瑛美はサウンドソルジャーのサイキックを使ってくる。配下の一般人は二人。この時までに倒されていなければ邪魔をするだろうが弱い。また、配下は瑛美を倒せば元に戻る。
     
    「そして、もし助けられれば学園に誘うのもいいかもしれないわ。その辺は皆にお任せするわね」
     杏菜はそういって、どうぞ宜しくと皆を見送った。


    参加者
    東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)
    レイラ・キュマライネン(桜花爛漫なる歌姫・d00273)
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    六車・焔迅(彷徨う狩人・d09292)
    汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685)
    九曜・亜梳名(朔夜ノ黄幡鬼嬢・d12927)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)

    ■リプレイ

    ●とある冬の日、ダンスバトル
     氷上ダンスバトルは淫魔の勝ちだった。その気になったダークネスに一般人が勝てるはずない。身体能力も魅力も勝負にならないのだから。
    (「なるほど、フィギュアスケートですか。興味深い……!」)
     星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)の瞳が好奇心に輝く。
     海堂・月子(ディープブラッド・d06929)がその脇をさっとすり抜けて現場に急いだ。
    (「踊りが絡んだ淫魔の事件が多いわね? 他の事件程ではないけれど気になるわ」)
     蓮華・優希(かなでるもの・d01003)と彼女は、もうこのタイプの事件に出会うのは二度目だ。
    「あんたなんか!」
     淫魔がリリに叫ぶ。月子は、振り上げた瑛美の手をさっと掴んでとめた。
    「そこまでよ。手を出すのはやり過ぎだわ」
    「……誰?」
     月子は颯爽と微笑んだ。今日の彼女は髪を後ろにまとめ、男装でキメている。
    「まだ踊り足りないでしょう? 私達とも遊んで欲しいな」
    「ふーん……楽しませてくれるのかな?」

    ●勝負と駆け引きと
     淫魔の瑛美が自信たっぷりにこの挑戦を受けると、綾が言い放った。
    「最初は、私の華麗なダンスで瑛美さんに真っ向勝負です!」
    「いいよ。こっちの実力はもう審査員にも証明済みだしね」
    「……それでは遠慮なくいかせてもらいますよ。正直 ダンスもスケートも全くの初心者ですが、探偵たるこの私にかかればこの程度!」
     灼滅者の身体能力で挑めば……あれ?
     綾は盛大に転びまくりその度にヤラレ役っぽい悲鳴をあげた。そして最後の〆(?)に。
    「ふぃぎゃあ!」
    「……ここ、笑うとこかな」
    「いや、ははは。――なるほど、立つのも難しいのですね!」
     綾は無様に瑛美に話しかけた。正確に言うと無様なふりをした。
    「あー、瑛美さんでしたっけ? 手を貸して貰えませんか?」
    「何で?」
    「えー、良いじゃないですか! 敵に塩を送って下さいよっ。このまま私が凍えて死んだら化けて出てやりますよ!」
     ……どうせ審査員をどうにかする時間が必要でしょうし。
     その時間を綾は稼ぎたかったのだ。実は審査も受けるつもりだったが……。
    「ま、いいよ。あんた面白いから。でも無条件にあんたは負けね、当然だよね」
     淫魔はククッと笑う。綾は内心ヒヤリとしつつも一瞬で決断した。時間は必要、あとは任せた。
     こうして綾は冷たい淫魔の手に導かれて氷上を滑った。
    「ほう、グッドです。教えるのも上手なんですね」
    「あんたも普通じゃないよね?」
    「いえ、私などは無様な姿を晒してしまいましたが、瑛美さんはきっと最初からスケートも華麗に踊れたんでしょうね」
     瑛美は黙った。しばし、綾と瑛美は氷上を滑走する。風音だけが耳についた。
    「……。それがね、声が聞こえてさ」
    「ほう?」
    「いや、とにかくもう指導はお終いだよ!」
     淫魔は綾を離し、探偵は何事かを思考しつつ仲間の元へ戻った。

     この間、審査員対応班は時間を無駄にしなかった。
     5人の学生は椅子の上で縮こまり、その後ろに淫魔の手下の少年が二人いて、嫌がらせをしているようだ。
     六車・焔迅(彷徨う狩人・d09292)は状況を一瞥すると足を速めた。途中、目をつけていたひと抱えもある大岩をどおんと地におろす。
    「失礼!」
    「え? えええ?」
     配下も一般人達も驚いた。
    「ななな、何だお前!!」
     焔迅は澄まして言った。
    「……昔の偉い人は言いました。話せば分かると。さぁ存分に語らいましょう」
     汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685)ももう一人ににじり寄る。
    「おー。オマエらずいぶん楽しそうなことしてンじゃね?」
     やはり、審査員役の生徒達を庇う様に立った。
    「そこまでして勝ちてー気持ちはわかんねぇな。スポーツは正々堂々清廉な場だと思ってたけど違ったンか?」
     和泉は凛と配下の少年達を見た。
     焔迅と和泉vs淫魔の手下。視線が火花を散らす。
    「なめてんのか?」
    「お前らに関係ないだろうが」
     どちらの少年も淫魔に魅入られてしまっているのだ。ダークネス配下の少年達は問答無用で殴りかかってきた。
     焔迅がヒラリと少年の拳を回避し、一発をお見舞いする。
    (「そして我が家のご先祖様は言いました。言って分からん奴は張り倒せと……」)
     和泉ももう一人の少年相手に立ち回る。
     勝負は灼滅者達の勝ちだった。
     淫魔が成り立てなら配下も同じで、修練をかかさない和泉と焔迅の力に屈した。
    「……安心してください。峰打ちです」
     焔迅が拳を握り締めたまま、残った生徒達を振り返る。
    「瑛美の取り巻きはひどいことするよな」
     和泉も話しかけたが、怖くなったのかチャンスと思ったか、一人は逃げてしまった。あららら。
     残りの学生達も顔を見合わせるが、九曜・亜梳名(朔夜ノ黄幡鬼嬢・d12927)が進み出てタイミングを逃さず接待を始めた。焔迅の持ってきた岩をテーブル代わりに持参のポットと紙コップが並んでいる。亜梳名はお盆に湯気が上がる紙コップをのせて薦めながら挨拶した。
    「本日はお寒い中、お越し頂き有難う御座います。どうか気を楽に、楽しんで頂ければ幸いです」
    「あ、ありがとう……」
     一人が緊張しつつも茶を受け取った。
     和泉が急いで自分達の事を説明する。もちろん、こちらのメンバーの心証が良くなるように気をつけておく。それで漸く残った生徒達は落ち着きをみせた。
     亜梳名は審査員役の様子に気を配りながら、密かに淫魔に挑む仲間を応援した。
    (「私の郷里も冬は厳しい所ですが、滑るのも難しいんですよね……ですので今回は補佐役。務めを果たして、患った悪意を祓うだけです!」)

    ●勝負再開
     淫魔はといえば、綾とのペアスケートを終えるとさすがにこの事態に気づいた。
    「だらしないね!」
     だが東雲・夜好(ホワイトエンジェル・d00152)が審査員席に向かおうとする瑛美の前に、立ち塞がった。
    「私もフィギュアは素人よ、勝っても負けても自分の糧になるのだわ。正々堂々、勝負しましょ♪」
     ビシッとふわっと白ロリ服で決めた、彼が微笑む。
    「フン。……ま、いいよ? どうせ審査するまでもなく私の勝ちだしね?」
     審査員席では早速亜梳名が紹介する。
    「次は夜好さんの演技です。男の子です」
     はじめはクラシック。
     曲に合わせて夜好が氷上の舞を繰り広げる。見ている者が目を奪われるのは、フリルたっぷりの白い衣装。それが夜好がスピンするたびにふわーと広がった。
     楽曲はクラシックから変調し現代アレンジへと変化してゆく。夜好の演技もモダンな創作ダンスを思わせるものに変わってゆく。
     そして彼は跳んだ。
    (「ここで回転。灼滅者の意地よね――」)
     空中で真っ白な衣装が風を孕んで広がる。
     演技が終わったとき、審査員役の学生達は心からの拍手を夜好に送った。灼滅者としての身体能力を駆使すれば「技」の部分で一般人を驚かせるには十分だろう。
     だが夜好の演技を楽しんだのは審査員だけではない。レイラ・キュマライネン(桜花爛漫なる歌姫・d00273)も仲間の動きを見つめるうち、手足を自然に動かしていた。
    「続いてはレイラ先輩です」
     お茶のお変わりを注ぎ、亜梳名が次の演技者を学生達に紹介する。
     レイラは登場するとアップテンポな楽曲に乗って滑り始めた。
     レイラの豊かなボディがしなやかに反る。幾つも幾つも、スピンをふんだんに取り入れた流麗な演技は観ている者を魅了した。 
     何よりもレイラ自身がこのひと時を楽しんでいた。
     冬の風と共に。
     軽やかな陽射しと共にレイラは舞い、魅せる。
     フィニッシュも華麗に決まって彼女は拍手に包まれた。けれど瑛美の傍を通れば淫魔はツンと顔を背ける。
    「あんた嫌い……楽しそうだモン」
    「……踊るのは楽しいですよ」
     自分の演技が心に届いたならとレイラは思う。瑛美はチラっとレイラの後姿を追い、気を取り直すように言った。
    「フン。予想外に上手……下手ばかりじゃないっていうか。まだやる人いるの? いるなら、どうぞ?」
     一方審査員役の学生達も今では心から楽しんでいるようで、亜梳名は仲間の演技の感想を嬉しく聞いた。そして演技はあと一組残っている。
    「さて最後は月子先輩と優希先輩のペアです。お楽しみ下さい~」
     司会者みたいに亜梳名が紹介した。
    「お相手を務めさせて貰うわね」
     男性役の月子が女性役の優希の手をとる。二人がペアで踊るのは二度目、呼吸もぴったりだ。今日の為に二人が選んだ曲はジャズテイストも入ったクラシックで、楽しげな雰囲気の明るい曲だ。
     早くも一般人達が感動の拍手をおくる。
     月子がスタイリッシュモードを、優希がプリンセスモードを発動したのだ。そのままステップに移り、大胆に月子が、優しく優希が演技する。あるいは月子のリードで二人息の合った滑りを披露する。
     優希は初めはたどたどしく、徐々に花開く様に表情をつけて一つ一つの技を綺麗に決めてゆく。かと思うと、月子が華麗に宙を舞い、あえかに揺らぐ技を何事もなかったように優希が支える。
    「良い女は月のように影から支えるもの、だよ」
    「それはお互い様、イイオトコは女子を輝かせるものよ?」
     耳元に巡る囁きはメロディアスに。月子は悪戯っぽいウインクを優希に返した。
     プリンスは軽々と技を決め、プリンセスは恥らいを魅せて。
    (「勝ち負けも大事だけれどそれが全てじゃないわ」)
    (「上手い下手以上に踊る喜びを理解させたいものだけれど……」)
     月子に優希、二人はそれぞれの思いを胸に曲に合わせ、歌う様にのびやかに滑る。フィギュアを滑る楽しさを全身で表現しながら。
     ラストには息の合った技を決め、優希は月子の隣で凛と淑女の如く微笑んで見せた。

    ●闇祓うべし
    「さあ、審査員の皆さん、いかがでしたか?」
     全員の演技が終了すると亜梳名が聞いた。4人は顔を見合わせて口々に言う。
    「素敵だった、ありがとう」
    「瑛美ちゃんも上手かったけど、挑戦者の人達も上手だったね」
    「というか、楽しそうだったよ、挑戦者の人達……」
     瑛美は俯いて何かを考えているようだったが、思い出したように審査員席へ向かおうとした。だが焔迅と和泉が敢然とその進路を塞ぐように、一般人を背後に庇うように立つ。
    「少々お待ち下さい」
     焔迅が声をかけ。
    「どこへ行こうってンだ?」
     きっちりと瑛美を見据えて、和泉は説得らしい事を始めた。やっと瑛美と話す機会がやってきた。
    「フィギュアってよくわかんねーけど、技巧も大事だけどフィギュアそのものが手段になった踊りは見ててあんまスッキリしねぇと思わねぇ?」
    「……何がいいたいわけ?」
     二人だけではない。灼滅者達が彼等の元へ集まってきた。
    「踊りは心に語るもの」
     優希の言葉に淫魔が振り向く。
    「難易度が低くても洗練された技は感銘を与えると思うよ。上手い下手ではなく出来る事を高めればいいのでは?」
    「それは……」
    「無理やりじゃない 本当の貴女を見せて?」
     瑛美はぐっと黙った。無意識に握られた拳が震えている。
    「あのー審査員の人達の点数では、私たちの方が」
    「うるさいっ」
     亜梳名が言いかけると瑛美が制した。
    「そりゃ同じレベルの技使ってきたし、そっちは可愛かったり、楽しそうだったり、仲よさそうだったりさ……べ、別に負けたなんて思ってないからね!」
    (「……思っているんですね」)
     焔迅が密かに月禍に触れた。そう思っているなら次の展開はどうなるのか聞いている。
     エクスブレインの予測どおり瑛美はキレた。
    「く、悔しい! っつかあんた達を殺っちゃうよ! そしたらボクの勝ち!」
     言うなり淫魔が踊りながら仕掛けてくる。
     血潮が飛び、それを拭う事もせず焔迅が苛烈に妖槍を突き込んだ。
    「分らず屋は力尽くしかないようね!」
     夜好もさっと間合いを取って契約の指輪を淫魔に向ける。力を放つと白いロリータドレスがふわっと揺れる。ナノナノはメディックの仕事を始めた。
    「さぁ、オレと楽しいこと、しようぜ! ――ハル!」
     和泉が呼べばラブラドールみたいな霊犬が飛び出してディフェンダーへ。ギターのビートが響き、六文銭が飛び、辺りはあっという間に戦場と化す。
     亜梳名は雲行きが怪しくなると慌てて駆け出していたが、再び戻ってきて報告する。
    「配下のお二人はもう戦えないし、審査員の皆さんもお帰りです!」
     必要なら魂鎮めの風でお休みしてもらおうと思っていた亜梳名だったが、ともあれこれで心置きなく淫魔と戦えるというものだ。
     その間にもサイキックが容赦なく飛び交う。亜梳名は懸命に風を呼んで傷ついた仲間達を癒した。
    「…………」
     焔迅が影を操り淫魔を激しく砕く。
     綾は無数の刃を放つが、瑛美にすいすいとかわされた。
    (「んーさすが淫魔。でも負けませんよ」)
     じりじりと灼滅者達は成り立て淫魔を追いつめた。
     ダークネス相手に灼滅者達は戦闘でもチームワークを見せる。
     優希が剣を手に舞う。すれ違う刹那の斬撃に淫魔がまろぶ。
    「レイラちゃん一気に決めるわよ!」
     月子が合図し影を放った。
     戦いでも月子はスタイリッシュな動きを見せる。影は舞い踊る花弁の如く黒く吹雪いて淫魔を襲った。
     続けてレイラの、神秘のメロディが響き渡る。
    「ダンスは人を楽しませるものです、あなたはそれを忘れてしまったのですか?」
     思いを乗せてレイラは歌った。
     ――そして。
    「これで、終わりだ!」
     和泉が翆輪を淫魔に向け、魔法弾で撃ち抜いた。

    ●新たな灼滅者
    「目が醒めた?」
     夜好が声をかけると、瑛美は瞬きして頷いた。KOされて10分も経った後のことである。
    「ああ……えっと」
     顔を上げると、一般人を介抱している亜梳名が見えた。少年達も正気に戻るだろう。
    「フィギュアって愉しいわね」
     月子が微笑みかける。
    「やり直すのは今からでも遅くないわよ」
    「同じ技1つでも丁寧に行えば人の心は奮わせられるとは思うけれど?」
     優希も語りかけた。いつかリリと二人、共に踊る楽しみを伝えられればとも思う。
    「やり直し、だね……」
     夜好が頷く。
    「そう。何言われたって小さいことからこつこつよ、私達の学校で始めない?」
    「そっちの学校?」
     驚く瑛美にレイラも手を差し出した。
    「握手?」
    「ええ。いつか一緒に踊れる日を楽しみにしています」
     微笑を浮かべ、レイラも瑛美を武蔵坂学園に誘った。
     灼滅者達は闇堕ちから瑛美を救った。
     すっかり和やかな雰囲気になったところで、焔迅が言い出す。
    「実は僕……」
    「何?」
     仲間と瑛美が注目する中、彼はもそもそ言ったものだ。
    「ちょっと着ぐるみ姿で滑ってみたいと思ってたんですよね」
     焔迅が仲間の拍手に引けなくなったらしいとか、余談はこの辺でおしまい。

    作者:水上ケイ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 13
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