骸骨は闇に染まり踊る

    作者:月形士狼

     須藤組。
     地元でも悪名高い、元空手家やプロボクサー崩れ等を多く雇い入れることで急激にその勢力を伸ばしてきた暴力団だ
     その事務所。人工の灯りの下、二人の少女が身を寄せ合い震えている。
     何が悪かったのだろう。
     少し早めの卒業旅行で舞い上がっていた事か、それとも格好良いと称した相手に思いがけず声をかけられ、その誘いに乗った事か。
     勝気そうな目をした少女が友人を後ろに隠し、ここに至った経緯を思い返す事で現実から思考を逸らそうとするが、準備を終えた男達が自分達を見るのを感じ、今まで堪えていた涙が零れる。
     少しでも早くこの悪夢が覚める事を願って目を閉じていた、気弱そうな少女がそれを悟り、少しでも自分が前に出ることで友人を守ろうと息を吸い込んだその時。
     ――そこで、異変が起きた。
     爆発するような衝撃と共に、ガラスが砕け散る音が耳を叩く。
     少女達の、度重なり負担のかかった神経が意識を手放そうとする前に見たものは、ガラスを踏む誰かの足と、破れ、焼け焦げた衣服。
     そして何よりも目に留まったのは、自分達を振り向こうともしない骸骨の貌。
     視界が閉ざされ、まだ残る聴覚に耳障りな笑い声と、声が響いた。
    『アンタらは、オレの敵を誘き出すエサになってもらうぜ』
     何かが空を斬る音と共に、人を捨てた何かが叫んだ。
    『さあ――ヒーロータイムだァ!!』

    「皆さん、先日の鶴見岳での戦いではお疲れ様でした」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が、灼滅者達の奮戦を綴った報告書から目を離し、集まった者達に感謝の言葉を告げた。
    「鶴見岳のソロモンの悪魔……。報告書を読ませて貰いました。かなりの強敵だったようですね。そして、その戦いで多くの方が闇堕ちしたとも聞き及んでいます」
    「……俺も聞いてる。すげぇ戦いだったみてぇだな」
     その戦いに参加できなかった朝日南・周防(中学生エクソシスト・dn0026)が悔しそうに呟くのを、姫子はいつもの柔和な笑みを固くしながらも微笑む。多くの者が、心を掻き乱されていると感じながら。
    「――ダークネスが発見されました」
     突然の話題の転換に、灼滅者達の表情に疑問が浮かぶ。だがそれは、次の言葉によって強い意志を込められた瞳へと転じた。
    「現れたダークネスは、アンブレイカブル。そのダークネスはマテリアルロッドと骸骨の仮面を被っています。これは前回の戦いで闇堕ちした、天方矜人さんと断定していいでしょう。どうか皆さんの力を貸してください」
     そう言うとエクスブレインの少女は、灼滅者達に深々と頭を下げるのだった。
    「天方矜人さんを乗っ取ったアンブレイカブルは、強敵を求めて行動しています。暴力団の事務所を襲おうとしているのも、その一環でしょう。しかし一般人相手では、彼の敵とはなり得ません。つまり彼は人間としての記憶から、私達武蔵坂学園の灼滅者の皆さんを誘っていると思われます」
     事件の経緯を説明し終えた姫子は、彼を捕捉できるのは彼が事務所に乱入した後しかないと付け加えた後、一連の行動の思惑を予測する。
     望むところだと応じた灼滅者達を頼もしく思いながらも、姫子はこれが最後のチャンスですと言葉を重ねた。
    「なんとか彼を救って貰いたいのですが、それが無理なら灼滅するしかありません。今の彼はダークネスです。迷い、手を緩めてしまえば、それは致命的な隙となり得ます。そして今回助けることが出来なければ、今もぎりぎりの所で抵抗している彼の魂は、完全にダークネスへと堕ちるでしょう」
     ですから、と姫子は微笑を浮かべる。
    「必ず天方矜人さんを助けてあげてください。私は皆さんなら、それが出来ると信じています」
     ではいってらっしゃいませという声を聞きながら、灼滅者達は教室の扉を開け放つ。
     かの者を、必ず自分達の側に引き戻すと誓いながら。
     


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリア・d00502)
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    禄此土・貫(ストレンジ・d02062)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    神楽火・天花(和洋折衷型魔法少女・d05859)
    夜城・桃華(拳乱舞桃・d07638)
    イルル・タワナアンナ(竜騎妃・d09812)
    村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397)

    ■リプレイ

    ●役者は揃いて
    『さあ――ヒーロータイムだァ!!』
     人を捨てた者が、爆発するような凄まじい覇気と共に獲物と見定めた者達に駆け出す瞬間。
     危険を察知して後ろに跳んだ骸骨を追う様に、連続して弾痕が穿たれていく。
    「ワー、一体何処のドクロ仮面なんだー」
     室内に着地した二つの影の一つ。狐雅原・あきら(アポリア・d00502)が、チェロ型のガトリングガンを構えつつ、スッと目を細めた。
    「ま、とりあえずブッ飛ばせばいいんデスよね? 何時もお世話になってるカラねー」
    「──他人事なら『燃える展開じゃ♪』と言えたがの」
     竜因子宝珠を内蔵した機関砲を構えたもう一つの影。ティアマットに騎乗したイルル・タワナアンナ(竜騎妃・d09812)が銃口を向けつつ、挑発するように笑みを浮かべる。
    「どこで面を調達したか識らぬが、まさにダークじゃな」
     視線を向けるのは骸骨の面。いつものとは違い、白と黒が反転しているその面を見て皮肉気に呟いた。
    「天方さん」
     トン、と。砕けた窓から飛び降りた禄此土・貫(ストレンジ・d02062)が、眼前のアンブレイカブルが人であった頃の名を口にし、自然体で語りかける。
    「副部長、まだなったばかりでしょ? そろそろ帰ってきてよ、天方さん」
     月明かりの中。現れた神楽火・天花(和洋折衷型魔法少女・d05859)が堂々と骸骨の正面に立った。
    「お望み通り来てあげたわ。私たちが相手よ」
     組員を背に庇い、スレイヤーカードを掲げて装備を開放しながら叫んだ。
    「アナタの時間、私が断ち斬る!」
     次々と現れる乱入者に呆然としていた須藤組の組員の一人が我に帰り、怒声を上げた。
    『テメェら! ここがどこか解っとんのかコラぁ!!』
     そのまま手を伸ばすより早く、今度は轟音と共に道路に面していた壁が粉々に崩れ落ちる。
    『……は?』
    「いや、俺もやりすぎかなーとか思ったけど」
     集まる視線に、朝日南・周防(中学生エクソシスト・dn0026)が頬を搔きながら突き出していた拳を下ろした。
    『ど、ど、どこの組じゃおんどれらぁ!』
    「1年8組のもんじゃ! カチコミじゃー!」
    「ウチの組の馬鹿野郎がテメェら血祭りにあげちまう前に、俺らが制裁してやろうってんだ、有難く想いなァ!!」
     その穴から次々と灼滅者達が飛び込むのを笑いながら、周防は倒れた少女達を女性陣に預けて、訳が解らないまま次々と捕まる須藤組の面々に人が悪い笑みを向ける。
    「この人数だし、手っ取り早く入らせて貰った。灼滅者42人を相手にして、タダで済むと思うなよ? 悪党共」
     そう嘯くと戦う者達が集中できるように。そのついでに、この建物が無事なうちに悪事を証明するような物を集める為に動き出した。
    「みんなの思いを、刻んできてもらったぜ。間に合ってよかった」
    「ありがとな、ファルケ」
     中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)が、預けていた無敵斬艦刀を仲間から受け取る。
    (「本当なら、あいつが来る前に殴り込みしたかったけどな」)
     だがそれは、エクスブレインの未来予測に外れる行為になる。最悪、アンブレイカブルが予定を変更する可能性もあった。
     (「これで舞台は整ったぜ」)
     故に、少年は名乗りを上げる。
    「平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都だっ! 迎えに来たぜ? 正義のヒーローよ」
     仲間を必ず取り戻すと、宣言して。
    (「あたしは矜人先輩とは今まで縁はなかったけど、この場にいるのが縁ってね」)
     闇に堕ちた仲間に次々とかけられる言葉に、夜城・桃華(拳乱舞桃・d07638)は意志の篭った眼差しと共にスレイヤーカードを掲げる。
    「夜城桃華。義によって助太刀させてもらうわ。これも何かの縁よね」
     闘気の光と影の闇を身に纏い、宿敵となった相手との縁を繋ぎ止める為に構えをとった。
    『カカッ。イイねイイねェ、ワザワザ来てくれたんだ。歓迎するぜェ。すぐブッ壊れるんじゃねえぞ!?』
     自分の前に立ち戦意を向けてくる強者達に、骸骨が耳障りな高い声で嗤う。
    「説得が不可能であるなら、俺がとどめを刺す」
     挑発に応える様に村井・昌利(吾拳に名は要らず・d11397)が、紛れも無い本気で口にし、手首を軽く揉んで上着を脱ぎ捨てた。
    「構わぬぞ」
     その言葉に、窓に腰掛けて骸骨を見下ろしていた和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)が気楽な様子で口にして、スレイヤーカードを取り出した。
    「妾はこうして迎えに来ねば、学園に帰ってくることもできん馬鹿をさっさと連れ戻すだけじゃ」
     飛び降りながら力を開放し、着地と同時に真紅の衣装を翻す。
    「殴り飛ばしてでも目を覚まさせるだけじゃからの!!」
     強く高らかに傲慢に、紅と金の少女は言い放ち。
     闇に抗う戦いの火蓋が、切って落とされた。

    ●抗う者達は踊る
    「神楽火・天花、推して参ります!」
     駆ける天花の衣装に炎のような模様が浮かび、銀色の光の粒子が舞い散る。構える刀は上段。速さと重さを重視した一撃で、相手の構える武器ごと断ち切ろうとし、
    『甘ェ甘ェ甘ェっ!!』
     骸骨がその瞬間にマテリアルロッドを振るって弾き、近づいてきた覇気を纏った拳で殴り飛ばすと、そのまま真正面から突っ込んで前衛を蹴散らしていく。
     狂える武人の纏う覇気が渦を巻き、灼滅者達を真正面から叩き潰すが如き勢いに、この場に集まった者達は目を見張った。
     8人の灼滅者達を圧倒していたソロモンの悪魔を相手に、たった一人で戦況を覆した者の戦いを見て、改めてその激戦を悟ったのだ。
     しかし、その思いを三つ編みの少女は否定する。あの時の彼の強さは、こんなものでは無かったと。
    「帰ってきてくださいね、みんな待ってますから」
     祈るように手を組み、そう呟いた。
    「先輩を助けたいって皆の想い」
     桃華のバトルオーラに炎が宿り、骸骨が迎撃の拳を放つのも構わず、更に強く拳を握り。
    「少しでもあたしの拳で伝える手助けになるように、全力でぶち当たる!」
     相撃ちの形で互いに拳を叩き込み、あきらが仲間の穴を埋めるべく詰め、延焼する身体に銃口を押し付けた。
    「最強が望み通り来てやったゾ!」
     間近で骸骨の面を見上げながら、爆炎の魔力を込めて引き金を引く。覇気の密度を増やすのを突破しようと爆炎が起こり続け。
    「来いよヒーロー! 全力でかかって来い!」
     連続で放たれた爆炎に圧されて骸骨は床を滑り、弾が途絶えたその一瞬をついて駆ける骸骨の前に、バスターライフルを構えた風香が立ち塞がる。
    「元より天方とは一度本気で戦ってみたいとも思わなくはなかったからの」
     砲身にありったけの魔力を叩き込む。狙いはつけるまでも無く、呆れてしまう程の覇気を纏う拳で自らを貫こうと迫っている。
    「丁度良い機会じゃ。力一杯殴り飛ばさせて貰うとするかの」 
     一瞬も目を逸らさず。自らの頭を砕こうとその髪に拳が触れた瞬間に全力の魔力光線を叩き込んだ。
     その衝撃に骸骨は楽しげに笑うと室内の壁を蹴り、天井を蹴ってほぼ垂直に襲い掛かる。マテリアルロッドに覇気を纏わせ、魔力へと変換するその凶器を昌利は左腕で受け止めた。
    「そんな仮面を被っていても、アンタと縁のある人たちの声は聞こえるだろ」
     魔力が体内で爆発するのも意に介さずに、静かに問いかけると大きく敵の武器を跳ね除けて死角へと滑り込む。
    「羨ましいよ」
     相手が着地するよりも早く、バトルオーラを纏った手刀で足の腱を断ち切った。
    「闇落ちしたヤツの気持ちはよくわからねぇ」
     マテリアルロッドを支柱に自らの身体を支え、大きく振るようにして後ろへと跳ぶ敵へと、降ろしたカミの力を宿した銀都が掌を向ける。
    「だが、暗闇に閉ざされた心に光を灯して導く。それが出来るのは俺達だけだ!」
     激しく渦巻く風で相手を捕らえ、真空の渦が不可視の刃へと変わり、
    「見せてやるよ、真の正義の光ってやつをっ!」
     切り刻み、朱に染まる風の渦の残滓へと、貫が容赦なくリングスラッシャーで追撃をかける。
    (「その程度でやられるはずはないと、信じている」)
     それにと、肩に裂傷を受けながら向けられる殺気に笑みを零す。
     闇堕ちした者の戦闘力は強大だ。
     それが。
     灼滅者が闇堕ちしたダークネスへと、自分達の攻撃が通じているのは何故かと疑問に思うまでも無いのだ。
    「大義亡き力は暴虐なれど、力無き理念は世迷い言……必ず力は要る。それは事実じゃ」
     その内で抗い続ける、かつての仲間へとイルルは声を投げかけると楽しげな笑顔を浮かべ、
    「が、力の使い方を間違えては只の道化。髑髏顔のピエロ、ウケは悪いぞよ♪」
     血に染まる衣装をつけた骸骨の仮面へと、ティアマットのスロットルを握るもう片方の手で龍砕斧を構える。
    「──ま、お題目はこの辺かの。刃を交えねば、聞くまいて……じゃろ?」
     その言葉に応える様に、爆発する覇気を纏って襲い掛かる相手へと、その斧を力任せに振り下ろした。

    ●輪舞の結末
     アンブレイカブルは、時と共に鈍くなっていく身体に苛立っていた。
     黒い服にサングラスをした少女。授業のノートを取っているという少年が酷く気にかかり、拳を振るう力が弱まり、敵に弾かれる。
    「とっとと己を取り戻せ馬鹿者! これだけの人数がお主のために来たのをよく見よ!」
    「こんなの天方さんらしくないです……。いつもの天方さんに戻って下さい……」
     既に意味を成さなくなった筈の叱咤に体が震え、敵の攻撃を避けるのが遅れて新たな傷を負う。
    「結果的に女の子たちを助ける形になってるあたり、さすが矜人にーさん♪」
    「矜人……だったね。 報告、聞いたよ。がっこの仲間、助けてくれてありがと」
     どこか見覚えのある顔が、見覚えの無い顔が掛けてくる言葉が酷く集中を奪い、身に纏う覇気が薄れる。
    「劇場版でもヒーローの活躍する時間は2時間以内が妥当だぜ。幕が閉じれば……次は飯だ」
    「そこなヤクザども。通信教育で習ったあちきの骨法の餌食にしてやんよ!」
     聞こえる筈の無い、そんな言葉がどこからか聞こえてきた気がして反応が遅れ、マテリアルロッドで弾く筈だった無数の弾丸が左腕を削っていく。
    「貴殿の還るところは修羅の道か? ヒーローと修羅は違う! 己の闇に打ち勝て!」
    「帰って来いよ天方先輩!  そいつに打ち勝って自分を取り戻せ!」
    「ほら、聞こえるよね、みんなの声に、その想い。 これが、キミが今まで築いてきたものなんだよ」
    「天方殿。ウチらは信じているぞ!」
     奇妙なポーズをする一団の声援に、胸が灼けるように熱くなって止めとなる筈の一撃を止めてしまう。
    『何故だ!? 何故だ何故だ何故だァ!!』
     自らの根幹を成す、戦いの渇望が薄れる事に苛立つ思考を遮るように、昌利が踏み込む。
    (「本当に、羨ましい。――そんなひとがアンチヒーロー気取るなんて」)
     放たれる覇気を纏った拳。サラシを貫き胴に突き刺さったのを左の腕で止め。
    「正直、似合わないっすよ」
     間近でかける言葉と共に右の拳を顔面に叩きこみ、網状の霊力でその身体が離れる前に捕縛する。
    「矜人先輩! あなたの帰りを待ってる人が沢山いるわ! ここで踏ん張らなきゃ漢が廃るってもんでしょ!」
     傷の痛みに耐えながら伸ばした桃華の影が、ダークネスを覆い尽くす。
    「魂を震わせて! 皆の想いを感じて応えてみせてよ!」
    『……ッ、邪魔だァ! 力ある者は全て倒す! 悪だろうがアンチヒーローだろうが! 俺が世界を守るんだァ!!』
     爆発するような覇気が、霊力の網を、目の前に現れたトラウマを振り払い。目の前の相手へとマテリアルロッドを振り下ろす。その一撃を受け止めて天花が静かに語りかけた。
    「アナタが自分を悪だと言うのだとしても、私はアナタを正義と呼ぶわ」
     だから思い出して欲しいと願いながら受け止めていた力を弱め、その一撃を捌く。
    「だって、私の正義は、アナタがやっていたことと同じだもの」
     捌きながら相手の武器に切っ先を引っ掛け、逆へと力を溜めながら強く思う。矜人さんが戦っていた本当の理由を思い出してと。
     「帰ってきて。私、アナタにちゃんとお礼言ってない」
     腰を据え、放たれた瞬間の斬撃。居合い斬りの剣閃をその身に刻み付けた。
    「さて、そろそろ幕を引こうかの」
     風香が大きく息を吸い、声を響かせる。伝説の歌姫の如き神秘の歌声は、衝撃を伴いつつも、魂を揺り動かすが如く清く澄み。
    「悪に堕ちかけたヒーローを仲間が助ける、いかにもお前が好みそうな展開じゃろ?」
     その歌に、言葉にアンブレイカブルはマテリアルロッドを振り翳し。
     ――自分の胴を貫き、そのまま背後の壁へと縫い付けた。
    『ガッ……!?』
     骸骨の面の奥から驚愕が漏れる。それは催眠故の行動か、それとも。
    『テメェ!? 天方矜人ォォォォっ!!』
     抗い続ける魂が、一瞬の隙を逃さず動いたのか。
    (「それでこそ、だよね」)
     貫は知っている。天方矜人が、他者を排して嗤う者ではなく。皆と暖かく笑う者だと。
    「もし天方さんが逆の立場だったら、きっと同じようにすると思うから」
     全力を込めて光の刃を作り出し、叫ぶ。
    「帰ってきて。力だけが、捻じ伏せる事だけが、キミの正義じゃなかった筈だッ!」
     放たれた光の刃が、自分を貫くマテリアルロッドを引き抜こうとする腕を貫き。
    「なかなかやるじゃナイか」
     あきらが称賛するように。誇らしげに笑いながらガトリングガンの砲身を向ける。
    「必ず元に戻るコトが出来る! 証明して見せヨう! 貴方になら、それが出来る筈サ」
     大量の弾丸が磔にされたアンブレイカブルへ襲い掛かり。弾丸の嵐の中、イルルの騎乗するティアマットが壁を垂直に走り、骸骨へと迫る。
    「帰ったらピコハン総叩きの刑だそうじゃ。覚悟めされよ」
     突撃を行うサーヴァントから一瞬早くイルルが飛び降り骸骨の身体を壁から引き剥がして垂直に飛ぶ。込めた力は、【HEROES】の場所に宿る力。
    「常より戦を好む天方殿じゃ。皆の魂が籠もったこの一撃は、千の言葉より骨身に沁みようッ!」
     床に叩き付け、大爆発が巻き起こる。その爆煙の中、絶対不敗の暗示をかけた銀都が【逆朱雀】を構え。
    「この刃には、お前を思う仲間の文字が刻まれている。見ろ、これが俺の、いや俺達の魂の叫びだっ」
     晴れていく煙の中、刃を掲げ、全力で駆けた。
    「俺達の正義が深紅に燃えるっ! お前の心の鍵を開けろと無駄に叫ぶ!」
     薄れそうな意識の中、アンブレイカブルは思う。
     結局の所、一番の強敵は自分の中に居たのだと。
     これだけの者が集まった時点で、自分の優位は揺らいでいたのだと。
    「受け取れ、必殺! 光りある世界へっ!!」
     炎に包まれた巨大な刃に対し目を閉じ、再戦を誓う。
    『もし次があれば、必ずテメェの魂を捻じ伏せてやる。精々足掻いて見せるんだな』
     渦巻く炎の中に狂える武人の言葉が静かに響き。
     一人の灼滅者が――帰還を果たした。

    作者:月形士狼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 37/感動した 11/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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