異形のノスタルジア

    作者:日向環


     樹海を抜けきると、眼前に田園風景が広がっていた。
     山間にポツンと存在する小さな農村だった。
     異形の怪物――デモノイドは、道端で足を止め、空を仰ぎ見た。
    「オオオ……」
     小さく喉を鳴らす。
     何かを確かめるように、空に瞬く星々を眺め見た後、デモノイドは体の向きを変えた。
     足を踏み出すと、背後に何かの気配を感じた。気配は急速に自分に迫ってきている。
     ゆっくりと体を巡らす。
     光が迫ってくる。
     2つの光は、まるで何者かの目のようだ。
     迫ってきた光が、自分の存在に気付いた。悲鳴のような音を響かせ、急激にスピードを落とす。
     衝撃を受けた。2つの光を持つものが、自分に激突したのだ。
     咄嗟に体が反応し、野太い腕を振るった。
     

    「鶴見岳の戦いでソロモンの悪魔が使役していた『デモノイド』が、引き起こす事件を予知した」
     エクスブレインの少年はそう言いながら、黒板に地図を貼り付けた。
    「事件が発生するのはここ、愛知県の山間部だ」
     鶴見岳の敗北により、ソロモンの悪魔がデモノイド達を廃棄した可能性もあるが、詳細は不明だという。現在、数体のデモノイドの行動を予知し、既に行動を開始しているチームもあるらしい。
     デモノイド達は個々に行動しているので、対応にあたる灼滅者達も、1チームずつで作戦行動を取らねばならないようだ。
    「現れるデモノイドは、ソロモンの悪魔から特に命令などは受けておらず暴走状態だ」
     暴走状態とはいえ、デモノイドはダークネスに匹敵する戦闘力があり、放置すれば大きな災いになる。
    「撃破を頼む」
     敢えて、「灼滅」という言葉は使わなかった。
    「キミ達に向かってもらいたいのは、山間部にあるこの村だ」
     エクスブレインの少年は地図に印を付ける。その村に、1体のデモノイドが現れる。
    「デモノイドは20時頃にこの村に差し掛かり、隣村から帰ってきた軽トラックと遭遇し、運転手の老人共々、軽トラックを破壊する」
     軽トラックはデモノイドに気付き急ブレーキを掛けるが、減速しきれずに激突してしまうという。
    「だが、このデモノイドは、どうやら光に反応するようだ。やつが軽トラックに気付く前に光で誘導すれば、激突を避けられる」
     用いる光は何でも良いようだが、自動車のヘッドライトと比べると、懐中電灯等では光量が心許ない。しかし、工夫次第では注意を引きつけることは可能だ。100メートル程誘導してやれば、デモノイドは軽トラックに注意を向けることはないという。
    「誘導を完了する前にサイキックで仕掛けてしまうと、やつは怒り狂ってその場で暴れ回る。そうなってしまうともう誘導は出来ないから、充分に注意してくれ」
     デモノイドを引きつけ、軽トラックとの接触を回避した後、本格的な戦闘に突入することになる。
    「デモノイドは1体でも灼滅者8人分くらいの戦力がある。ひとつのミスが命取りになりかねない。慎重に作戦を練って欲しい」
     デモノイドは、両手の鉤爪と両腕の巨大な刃で攻撃を仕掛けてくる。全て近接攻撃だが、この一撃の破壊力は凄まじい。 
    「戦闘となる場所の近くに民家は無い。畑を荒らすことになっちゃうけど、この際やむを得ないかな」
     持ち主のことを考えると、ちょっと心が痛むけどねと、エクスブレインの少年は言った。
    「デモノイドは強敵だ。心して任務にあたって欲しい」
     そう言って、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    虹燕・ツバサ(龍刃炎武・d00240)
    筒井・柾賢(仮面の魔法使い・d05028)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)
    久遠・雪花(永久に続く冬の花・d07942)
    八千代・富貴(牡丹坂の雛鳥・d09696)
    零零・御都(神様のサイコロ・d10846)
    木嶋・央(刹那を守護せし者・d11342)
    宇南山・千華(白鳥仮面スーパースワン・d14062)

    ■リプレイ


     星空の下に、のどかな田園風景が広がっている。
     ライドキャリバーに跨がった咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)が、仲間達のもとに戻ってくる。
     農道や畑の様子を探ってきたのだ。
     今回の作戦の要となるのは、彼女のライドキャリバーだった。実際に農道を走り、作戦に支障がないかどうかを確認してきたのだった。
    「どう?」
     尋ねてくる八千代・富貴(牡丹坂の雛鳥・d09696)に、千尋は問題ないと答えると、ライドキャリバーから降りた。
    「あ、いや。途中、キャベツ畑があるのが、ちょっと気懸かりかな」
     一瞬だけ考え、千尋は報告内容を修正した。
    「さて。さっさと取り付けるか」
     バッグから業務用の懐中電灯を取り出し、木嶋・央(刹那を守護せし者・d11342)は準備を始めた。
    「手伝おう」
     虹燕・ツバサ(龍刃炎武・d00240)が懐中電灯を手にする。
     ライドキャリバーに光源を取り付けるだけ取り付け、囮にする作戦だった。
     筒井・柾賢(仮面の魔法使い・d05028)も懐中電灯を手にし、ライドキャリバーに括り付け始める。
    「ああ、あたしのキャリバーが……とほほ」
     見る見るうちに変貌していく相棒の姿を見て、千尋はがっくりと肩を落とす。ブオンとエンジン音が響き、ライドキャリバーが督促してきた。自分の覚悟が揺るがないうちに、さっさと済ませてくれてと言っているように聞こえた。
     千尋はしぶしぶ、イルミネーションを取り付けていく。
    「……待て。そのラジオは何だ?」
    「あ、いえ。せっかくだから、某映画のマフィアの親分のテーマでも長そうかと」
    「……」
    「……やめます。やめますから!」
     とても残念そうに、零零・御都(神様のサイコロ・d10846)はラジオを仕舞った。ライドキャリバーが複数いたら面白かったかもしんない。
    「しらたま。今度は青を持ってきて」
     富貴に手伝ってもらい、自分の体に赤のケミカルライトを括り付けている久遠・雪花(永久に続く冬の花・d07942)は、相棒のナノナノのしらたまに声を掛ける。複数色のケミカルライトを括り付け、デモノイドの注意を引こうというのだ。
     ぱたぱたと宙を飛びながら、しらたまが指示された色のケミカルライトを運んできた。
    「そろそろ時間です」
     ライドキャリバーに固定したカメラのフラッシュの調子を確認しながら、御都は時計を見た。間もなく、エクスブレインが予知した20時になろうとしていた。
    「こっちの準備も完了っす」
     周辺に携帯式ライトや電池ランタンを配置していた宇南山・千華(白鳥仮面スーパースワン・d14062)が戻ってきた。迎撃地点となるこの付近に灯りを設置し、戦闘中の光源にするのだ。
    「トラックがきた」
     ツバサが一方を指し示した。軽トラックのヘッドライトの明かりを確認することができた。
    「……あれが、デモノイド……」
     雪花は前方の農道を移動する、小山のような黒い影を発見した。鶴見岳の作戦に参加していなかった彼女は、デモノイドとは初対面である。その大きさに、思わず息を飲む。
     だが、直ぐに気を取り直して、
    「こんな巨体に襲われたら、トラックなど……ひとたまりも、ないですね。まずは誘導。頑張りましょう……」
     ライドキャリバーのシートを優しく撫でてやる。ライドキャリバーは嬉しそうに、エンジンを吹かした。
    (「爺さんにも家族はいるだろう。失敗できんな。家族を壊すようなことになれば悔やみきれん」)
     ツバサは、接近してくる軽トラックのヘッドライトを見詰める。
     爆音が響いた。
     土煙をあげ、ライドキャリバーが驀進していった。
     目標は、前方のデモノイドである。


    「さあ、うまくやれよ」
     千尋は、煌びやかにドレスアップさせられたライドキャリバーを見送る。
     何も知らない軽トラックが接近してくる。急がねばならない。
     両手に懐中電灯を持ち、央も直ぐ後を追った。デモノイドの注意を引く為に、一役買おうというのだ。
     爆音を響かせてライドキャリバーが突進するが、既にデモノイドの興味は軽トラックのヘッドライトに向けられていた。
     離れた場所で待機している他の仲間達は、デモノイドの注意がどちらに向いているのか分からない。
     ライドキャリバーに取り付けられた灯りが、デモノイドの体を照らす。しかし、デモノイドはまだライドキャリバーの存在に気付いていない。
     カメラのフラッシュが焚かれた。御都が、インターバル撮影モードにセットしていたのだ。星空の下、不意に焚かれた強烈な閃光に、デモノイドが気付いた。
    「これでどうだ!」
     央が2つの懐中電灯で、デモノイドの頭の辺りを照らした。やつらに「目」があるのかどうかは不確定だったが、人型である以上、何らかの感覚器官が頭部にあるかもしれないという判断からだ。
     駄目で元々ではあるが、駄目かどうかは試して見なければ分からない。
     果たして、央の予想は的中した。デモノイドが、明らかに懐中電灯の光に反応したのだ。
    「この人達の刹那を、壊させはしない」
     軽トラックが迫ってきていた。2つの懐中電灯を駆使して、央は必死にデモノイドの注意を引く。
     デモノイドの体の向きが変わる。ゆっくりとこちら側に向き、徐に前進してきた。
    「そうだ。もっと来い」
     デモノイドの頭部に光を当て、央が後退る。
    「オオオ……」
     デモノイドが唸り声をあげた。
     ライドキャリバーが跳ねた。煌びやかな電飾に、デモノイドの注意が向いた。
    「後は任せた」
     囮役をライドキャリバーに任せ、央は懐中電灯の光を切る。
     軽トラックが、のんびりと近付いてくる。
     デモノイドの注意は、最早完全にライドキャリバーに向いていた。軽トラックには見向きもしない。
     央はライドキャリバーが誘導を開始したのを見届けると、大急ぎで仲間達の元へと戻っていった。
     だがここで、予期せぬ事態が発生した。
     デモノイドが足を止めてしまったのだ。
     ライドキャリバーの単調な動きだけでは、100メートルもの距離を誘導するのは難しかったようだ。
    「千華が行くっす!」
     不測の事態を想定して待機していた千華が、デモノイドに向かって駆けていく。
     レーザーポインターのスイッチを入れ、デモノイドの目の辺りをウリウリし始めた。
    「良い子はお友だちにやっちゃダメだぞ?」
     カメラ目線でグッと拳を握る千華。正義のヒーローは、良い子への配慮も忘れてはならない。
    「宇南山、走れ!」
    「へ?」
     央が直ぐ横を通過していく。千華が慌てて視線を元に戻すと、自分に向かって突進してくるデモノイドの巨体が視界に飛び込んできた。
     味方が陣取っている位置までは、まだ50メートルはあるはずだ。
     千華はレーザーポインターでデモノイドの顔をウリウリしながら、後ろ走りで全力疾走する。
    「あと20メートルです」
     声が聞こえた。恐らく、御都だろう。
     接近していた軽トラックが、僅かに速度を緩めた。が、今度は逆に猛スピードでこの場から遠ざかっていく。闇の中に蠢く巨体を、熊か何かと勘違いしてくれたのかもしれない。
    「よし!」
     と、ガッツボーズをした瞬間に、畑のキャベツに躓いた。一瞬、自分の身に何が起こったのか分からなかったが、視界いっぱいに広がる星空を見て、何が起こったのかを悟った。
     ドスドスという地響きにも似た足音が迫ってくる。
     次いで、ライドキャリバーの爆音が聞こえた。
    「今だ、起きろ!」
     央に腕を引っ張られ、千華は立ち上がった。
     ライドキャリバーが、再びデモノイドの注意を引きつけてくれたのだ。


    「……来た」
     ライドキャリバーを追い、デモノイドが猛然と迫ってきた。
     雪花は、自分の体に取り付けたケミカルライトを点灯する。デモノイドが、自分のライトに気付いた。
    「目標の誘導に成功です」
     スーパーGPSにより、彼我の位置関係を正確に把握していた御都が、味方に指示を飛ばす。
     潜んでいた仲間達が、一斉に姿を現す。
    「こんなはた迷惑な奴は、どんな手を使ってでも俺達だけでケリをつけるぞ」
     田畑を荒らしながら猛進してきたデモノイドを一瞥し、ツバサはスレイヤーカードを取り出した。
    「ウェイクアップ!」
     解除コードを短く口にする。
    「さっきは、流石にちょっとびびったっす。……変身!」
     千華がポーズを取った。宇南山チカはダークネスを前にした時、ご当地パワーと正義の心で、ご当地ヒーロー『白鳥仮面スーパー☆スワン』に変身するのだ。
    「悪魔の改造魔術により生まれた暴虐の怪物……デモノイドよ! せめて、このスーパー☆スワンが灼滅してくれよう!」
     どこかから、カッコイイテーマソングが流れてきた……ような気がした。
    「何色の血が出るかな。緑か、黒か、それとも……」
     呟きながら、千尋は「ガトリング内蔵棺桶」を構えた。
    「しらたま、下がって」
     雪花が前へ歩み出た。ナノナノのしらたまは、ふよふよと宙を漂い指示された後方に位置を取る。
    「私もあのまま闇堕ちしていたら、理性のない化物になっていたのかしら」
     デモノイドの巨体を見詰め、富貴は呟いた。完全に闇に堕ちる前に、自分は救われた。だが、もし救われていなかったとしたら、目の前にいる異形と同じ存在になっていたかもしれない。
    「……素体はわからないけれど、被害が出る前にとめてあげましょう」
     あなたを救ってあげることは、私にはできない。だから、せめて私が決着を付けてあげよう。富貴は武器を構えた。
    「形成――」
     首からかけている鍵を握りしめ、央は解除コードを口にした。深紅の影に、纏うは死神の如き黒き鎌。それが央だ。
     千尋がヴァンパイアミストを展開した。
     強敵との一戦が、今、開始された。


    「……痛いですね」
     凄まじい衝撃を体に受け、柾賢は膝を突いた。そんな状態でも、笑顔は絶やさない。それが柾賢の信念だった。
     しかし、仲間を庇い傷付いた体は、最早限界に近かった。
    「大丈夫、すぐに治すわ」
    「いえ、僕の不始末であなたの手を煩わせるわけには」
     防護符を投じようとした富貴を、柾賢は確固たる意思で制する。他に、その符を必要としている者がいると。
    「……、だ、大丈夫です。しらたま、が、います」
     全身が引き裂かれんばかりの衝撃を受け、地面に倒れ伏しそうになったところを、自らの気合で踏み止まった雪花が、大きく両肩を上下させる。体に取り付けられたケミカルライトは、その殆どが破壊されてしまっていた。
    「まずい! 雪花、しらたま、下がれ!!」
     デモノイドが丸太のような腕を振り上げた。気付いたツバサが、炎の翼を広げてデモノイドに突っ込む。
    「!!」
     柾賢がカバーに入った。既に満身創痍だった柾賢は、強烈な一撃に耐え切れなかった。
    「お気になさらず。これはディフェンダーの役割ですし、僕の存在意義でもあります……」
     くず折れながら、柾賢は雪花に対し笑みを向けた。
    「化物風情が舐めた真似しやがって……!」
     地を蹴り、跳躍した央が、デモノイドの顔面に怒りのトラウナックルを叩き込んだ。
     無言のまま、御都がフリージングデスを撃ち込んだ。
    「誰も倒れさせないと誓ったのに……」
     倒れた仲間を見詰め、富貴は唇を噛んだ。序盤から前衛に立っていた者は、皆、ダメージが蓄積していた。だが、デモノイドの傷も深い。もうひと頑張りすれば勝てると感じた。
     千華がまともに攻撃を食らったが、どうにかその場に踏み止まる。
     自分も前に出なければならない。富貴は決意し、前列へと駆け上がった。
    「炎を纏って斬り捨てろ、その一撃で燃やし尽くせ――龍刃炎武!」
     気合と共に、ツバサが炎を纏った無敵斬艦刀を振り下ろす。
     千尋が巧みにライドキャリバーと連携して、銃弾の雨を浴びせる。
    「そら、ぶっ切れろ!」
     央が戦艦斬りを浴びせた。直後に、巨大な刃によって胸を切り裂かれた。鮮血が噴出すが、それでも央は倒れなかった。
    「ジャンル違いの化物に、俺の刹那を壊させるかよ!」
     デモノイドに向かって吼える。富貴がこちらを向いたが、回復はいらないと身振りで制した。
     肯いた富貴は、紅蓮斬を叩き込む。
     しらたまに傷を癒してもらった雪花が、前線に戻ってくる。
    「切り裂け“雪柳”」
     渾身の一撃が、デモノイドの右腕を粉砕した。
    「残念、こちらはフェイクだ――影龍縛鎖」
     身構えたデモノイドを嘲笑うかのように、足元から伸びてきたツバサの影が、巨体の腹を切り裂いた。
     同時に、同じく影から突き出てきた数本の槍が、デモノイドの体を串刺しにした。千尋の斬影刃だ。
    「マジカル的証拠隠滅砲」から撃ち出された魔法光線が、苦悶の声をあげたデモノイドの顔面に直撃する。
    「私のは、鶴見岳での、八つ当たりです……消えて下さい」
     御都が静かに言った。
    「今だ! 食らえ、スーパー☆スワンキック!」
     突き出された左腕の刃を打ち砕き、千華のキックが炸裂する。だが、トドメの一撃には至らなかった。
     強烈な頭突きの反撃をモロに食らい、千華はきりもみ状態で吹っ飛び、地面に激突すると、そのまま動かなくなってしまった。
    「こいつ、まだ動けるのか……」
     ツバサが舌を巻く。かくなる上は覚悟を決めなければならないかと、ツバサはポケットから取り出したハート型のチョコレートを握り締めた。
    「いえ、大丈夫です。『彼』は、もう……」
     闇へと堕ちる覚悟を決めたツバサに、富貴が優しげな声を掛けた。
    『オ、オオ……』
     力無く、デモノイドが喉を振るわせた。よろり、よろりと前のめりになって歩を進めた後、ガクリと両膝を突いた。
     体を覆っていた分厚い皮膚が、ぐすぐずに溶け始めた。
    「自分で考えられないのはつらいでしょう? もう、ゆっくり休みなさい」
     富貴の言葉の意味が理解できたのか、デモノイドは僅かに彼女に顔を向けた。
    「オオ……オ。カ、……エル。カエ……タ……イ……」
     もう、このデモノイドに戦う力は残されていない。
    「……トドメを」
     千尋の声に、雪花は驚いたように彼女に顔を向けた。
     敢えてトドメを刺す必要がないほど、デモノイドの体は、原形を留めぬほど崩れかけていたからだ。
     ツバサが一歩、前に出た。振り上げた武器に炎が宿る。
     無言のまま、ツバサは無敵斬艦刀を振り下ろした。


    「この風景が懐かしかったですか? ……お疲れ様」
     回収したカメラの中身を確認しながら、御都は、溶けゆくデモノイドに向かって微笑みを贈る。
    「ったく、何だってヴァンパイア共の尻拭いをしなきゃならないんだかな」
     吐き捨てるように、されど小さな声で、央は言った。真偽の程は定かではないが、彼らが関わったという噂を耳にしていた。
    「さようなら、デモノイド。どこかの誰か……」
     千尋が、そっと呟く。
     雪花はしらたまと共に、無言のまま消えていくデモノイドの体を見詰めている。
     富貴は、静かに目を伏せた。
    「任務、完了」
     ツバサは斬艦刀で十字を切る。
    「薄氷とはいえ平和は守られた。皆、今宵も、よき夢を……」

    作者:日向環 重傷:筒井・柾賢(ソロモンの悪魔・d05028) 宇南山・千華(白鳥仮面スーパースワン・d14062) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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