望郷

    作者:呉羽もみじ


     あいつもついに海外勤務か。
     入社当初からずっと海外勤務を目指してたあいつだ。俺が一番喜んでやらないと。
     送別会も滞りなく済んだ。俺は上手く笑えていたかな?
     偶にはこっちにも帰ってこいよ。
     くるるるる……。
     ――?
     なんだこの声? 動物か?
     くるるるる。
     あはは、俺も相当飲んでたんだな。こんな良く分からないものを見ちまうなんて。
     くるるるる。
     良く見るとその獣には壊死したのかのように、皮膚がべろりと捲れあがった箇所がいくつかある。
     くるるるる……。
    「そんな風に鳴くなよ。こっちまで悲しくなる。……お前、どこかから逃げてきたのか? それともはぐれたのか? いくら獣とはいえ、ひとりは寂しいよなあ」
     そっと手を伸ばす。
     ガルルル!
     伸ばした腕は千切れ飛び、痛い、と思う間も無く身体が宙を舞う。
     ……驚かせちゃったのかな。悪いことをしたな。それに……お前の見送りはもう出来なくなりそうだ。ごめん。

     獣は走る。自分の故郷があるかもしれない方角へと、ひたすらに。

    「た、大変なんだよ! あ、ごめ、その時間が、急がなくちゃ。とにかく」
     水上・オージュ(中学生シャドウハンター・dn0079)が所々声を裏返しながら「大変、大変」と繰り返す。
    「分かったから水でも飲んで落ち付け。な? で、少し静かにしとけ」
    「う、ごめん……」
     オージュは同級生らしいエクスブレインからペットボトルの水を受け取り、近くにある椅子に座った。
    「鶴見岳の戦いで初お目見えの『デモノイド』だが……余程気に入られたらしいな。また現れやがった。今度は愛知だってよ。あちこち出張って結構なことだ。まあ、ヤツの本当の心の内なんざ分からねぇがな。
     んで、この獣野郎。なんつーか、腐りかけてる。このまま放っておいても長くはもたねぇかもしれねぇが、未来予測によるとひとりの人間を手にかけている。
     更に一点に留まってねぇで、どこかへと向かっている。このまま放置しておいたら犠牲は増える一方だ。そっちに何があるのかは分からねぇが……こいつが人間だった頃の故郷があるのかもしれねぇな」
     エクスブレインの少年は、そこまで一気に言うとオージュの飲んでいたペットボトルを奪い取り一口飲んだ。
     デモノイドと接触するタイミングは、未来予測で見た男と対峙している所に割り込んで貰いたい。
     デモノイドは自分の動きを邪魔しようとする者を排除しようとする。それを逆手に取り、男より目立つ行動をすればデモノイドの意識を灼滅者側に向けることは難しくはないだろう。
     時間帯は夜だが視界は良好。戦闘の妨げとなるものも無い。
    「幸い……と言って良いものか分からないけど、そこにいるのは会社員のお兄さんだけだよ。念の為、僕は彼を安全な場所に避難させてから戦いに合流する」
    「つー訳だ。だからお前らはデモノイドの灼滅を一番に考えて貰えれば良い。
     だが、注意点がひとつある。デモノイドは暴走状態にある。もしかしたら戦闘を放棄し逃げ出す可能性もある。その辺りも踏まえて、ヤツの動きに注意して行動してくれ。痛々しい姿を見たら攻撃を躊躇するかもしれねぇ。が、ここで情けをかけて逃がしちまったら被害者は増える一方だ。悪いが……非情になってくれ」
     エクスブレインの少年は、未来予測で見たデモノイドの姿を思い出したのか、軽く顔を顰める。
    「命の炎が消えかかってるデモノイドだが、その分、抵抗は熾烈を極めることになるだろうな。無理はするな、と言いてぇところだが、多少の無理はしてても確実に勝って帰って来い。……待ってるからな」


    参加者
    花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    篠原・朱梨(闇華・d01868)
    紀伊野・壱里(風軌・d02556)
    リュシアン・ヴォーコルベイユ(橄欖のリュンヌ・d02752)
    御崎・美甘(瑠璃の天雷拳士・d06235)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    出雲・八奈(赤瞳・d09854)

    ■リプレイ


     遠くは無い友との別れの時間の事を考え、吹く風にまで哀感が漂う様に感じ始めた頃に出会った、異形の声は男の心を大きく揺さぶった。
     くるるるる……。
     その声は「かなしい、くるしい」と泣いている様に聞こえた。その為だろうか。恐怖は感じなかった。寧ろ分かり合える気さえする。
    「――独りは寂しいよなあ」
     異形へ向け、そっと手を伸ばす。
    「はいはい、そこまで、後はあたし達が相手するよ!」
     不意に響いた少女の声に男は差し出しかけた手を止め、声を発した少女――御崎・美甘(瑠璃の天雷拳士・d06235)へと目を向ける。
    「傷ついているからこそ、近づいたら危険だよ」
     男を背中に庇いながら出雲・八奈(赤瞳・d09854)が、ふわりと魔法陣を浮かび上がらせながら言う。その姿は男の毒気を抜くのに充分な効果があった。
    「何だ、君達は。まだ子供じゃないか。それにあの生き物は?」
    「あれは熊の突然変異だよ。彼らは調教師。逃げたから追っているんだ。ここはプロに任せて、お兄さんは安全な所に」
     早く! という言葉と共に水上・オージュ(中学生シャドウハンター・dn0079)が男の袖を引く。
    「そういう理由なら……。だが、君達も無理はしないように。何かあったら大人を頼るんだぞ?」
     最後まで灼滅者達を気遣いながら男は、オージュと避難のサポートを買って出た灼滅者達と共に走り去った。
     走り去る彼らの後姿は異形――デモノイドを刺激したらしく、低く唸り声を上げる。
    「そっから先は通行禁止だよってね」
    「ごめんね、これ以上は進めないよ」
     由井・京夜(道化の笑顔・d01650)、篠原・朱梨(闇華・d01868)が臨戦態勢を整えながらデモノイドの後方から声をかける。
    「皆、そろそろ」
    「了解!」
     紀伊野・壱里(風軌・d02556)の声に仲間達がデモノイドを囲む布陣を組む。逃げる彼らを追うのを邪魔された立場のデモノイドは、威嚇の為か腕を振り上げる。その腕は夜目に見ても分かる程に壊れかけていた。リュシアン・ヴォーコルベイユ(橄欖のリュンヌ・d02752)はその姿を、目を逸らさず確りと捕えていた。「最期まで見届ける」。それは彼が戦いに赴く前から決めていたことだった。
    (「……どうするのが正しいかは、判らないけれど。せめてこれ以上、悲しいことが起こらないように」)
     パンダ型のネックレスをぎゅっと握りしめ花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)はデモノイドを見つめる。
    (「デモノイド……。まだ多くのことはわかってないみたいだけど まだ元の人格の幾ばくかを残してそうだね」)
     新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)は油断無くデモノイドを見る。
     元は人間だったモノと戦い、葬る事でしかソレを救うことは出来ない。この哀れな被害者に何か出来ることは無いのか。誰しもがそう思っていた。――しかし。
    「ガアアアァァァ!!」
     人としての身体能力のくびきから解放され、その代償に人としての心を深く沈めてしまった異形にその思いは届かない。
     異形と化してしまったこの人間にも、家族や帰りたいところがあり、愛する人もいたのかもしれない。だからこそ叫び、暴れ、主張するのかもしれない。「自分は人間だ」と。
    「……こんなの、悲しいよ。でも」
     こうするしかないんだよね。悲しい決意を込めて朱梨が黒百合の蔦が絡む装飾を施された銀槍を薙ぐ。
    「お前を、切り裂いてやる」
     死角から辰人がデモノイドに付けられた拘束具と共に肉を切る。それを煩そうに払いのけ、デモノイドは怒りに満ちた咆哮を上げ、腕を振るう。
    「回復は?」
    「まだ平気!」
    「それならば」
     壱里は氷柱をデモノイドに撃ち付ける。身体の表面が一部凍り、ぱりぱりという音と共に氷と組織が少しずつ零れていく。
    「教えて、あなたのことを。聴かせて、あなたの気持ちを」
    「ねえ……君はどこへ帰りたいの?」
     ましろ、リュシアンが檻に囚われた心を呼び覚まさんと攻撃をしながらも、デモノイドに問い掛ける。
    「ガ、あァ……ぐ」
     二人の問い掛けにほんの少しだけデモノイドの動きが止まった様な気がした。――しかし、それは『気がした』だけだった。
    「ガアアァァァ!!」
     デモノイドは腕を振り回答を拒否した。その叫び声は自らを呪い、泣いている様だった。
    「デモノイドって、元は人間だったんだよね。それもある程度は人としての意識残してるぽいし。……それが判ってても出来る事が灼滅だけってね」
     暴れるデモノイドを見て京夜が苦しげに眉を寄せる。
    「それでも、やらないといけないよね。――それが僕らの仕事だし」
     決意も新たに辰人は異形を睨み付けた。


     灼滅者達は道中の相談にて、デモノイドを拘束する装置に何かあるのではないかと仮定した。拘束具からデモノイドを解放することが出来れば、或いは。
    「皆、行くよ! ――絡め、そして喰らえ!」
     美甘の掛け声と共に蔓状の影がデモノイドを飲みこむ。影から逃れようと身をよじるデモノイドの身体に朱梨が斬撃を放ち、それに合わせるように、ましろが異形のそれに勝るとも劣らない巨大化させた腕を振り下ろす。攻撃が放たれる度にデモノイドの身体は剥がれ落ち、苦しげな声を上げる。
    「今だ!」
     痛々しい姿に眉を顰めるリュシアンだったが、皆で作った好機。逃す事など出来る筈も無い。彼が合図の声を張り上げるのと同時に、八奈が魔法陣から矢の様に飛び出してきた八つの水蛇を異形の元へと向かわせる。
     ごとんという固い音と共に首の拘束具が落ちた。
     ――やったか? これで、もしかしたら。
    「私は出雲のやなだ! 惑うものよ、私達がお前を導こう! だから抗え! お前も、この理不尽な物語に! その生命の限りを尽くせ!!」
     八奈が声高らかにデモノイドを鼓舞する。デモノイドは身体を縮こまらせたまま動かない。
    「僕達の声が聞こえるか? 理解できるなら――」
    「ウガアァァ!!」
    「キャアァ!?」
     京夜の語り掛けを無視し、デモノイドは手近に居たましろを襲う。灼滅者達の思惑とは裏腹にデモノイドに知性が戻った様には見受けられなかった。
    「大丈夫か? 今、回復を」
    「……ありがとう」
    「気持ちは分かるけど、拘り過ぎは良くないよ。だから」
    「だけど、もう少しだけ試させて? 今から心に直接話し掛けてみる」
    「……分かった」
     壱里の治療とリュシアンの配慮に礼を言い、ましろは交戦しながらもデモノイドと通信を試みる。
    (「わたしはましろ、だよ。あなたのお名前は? 何処へ行きたいの?」)
    「ウが、ああああうう」
    (「もう、ひとりぼっちでがんばらなくて良いんだよ? お願い。わたしの声を聞いて?」)
    「うああ、うう。が、わあアアあああ!!」
     ましろの心を込めた訴えは巨大な腕を振り回す事によって再び拒否された。
     その姿を見て「ああ」とましろは嘆息し、悲しげに首を振る。
    「もう戻れないんだね。だったらこの歪められてしまった命を、せめて早く救ってあげよう」
    「……うん」
     ましろの肩に手を置く朱梨の頬を涙が伝う。
    「二人とも大丈夫? 辛い役目だけど……」
    「大丈夫、まだ戦えるよ」
     二人を気遣う壱里に向けて、ましろは自身の頬を軽く叩き気丈に笑顔を見せた。
    「ガアアアッ!」
     幾度目の叫び声だろうか。その声に三人が振り返ると、京夜がデモノイドに肉薄し異形化した腕で力任せに殴り付けている所だった。
     ずるりと不吉な音がするとデモノイドの肉が、筋が崩れ落ち、骨が露わになっていく。
    「コ、ワイ。……ニ、タクナイ。シニ、タクナ、イ」
     初めてデモノイドの口から意味を為す言葉が発せられた。
     ――『怖い。死にたくない』。
    「皆、ごめんね、遅くな――っ」
     仲間の元へ駆けて来たオージュが息を飲む。この数分で一体何が起きたのか。そう思わせる程、デモノイドの姿は変貌を遂げていた。
    「ふ、デザートぐらいには間に合ったかな?」
     黒い長い髪が印象的な少女はオージュとは対照的に好戦的な笑みを向ける。
    「これが……デモノイド」
     鶴見岳では見る事が叶わなかったデモノイドを初めて目の当たりにして、紫の髪を持つ少女は眉を顰める。
    「全く、本当に遅いよ。まあ、こっちは何とかなってるけど、遅れた分は取り戻してね」
     何でも無い風を装ってリュシアンがデモノイドに攻撃をしながらオージュに告げた。
    「分かった。いつもの倍、頑張るから」
     リュシアンが攻撃をした瞬間に僅かに悲しげな顔をしたことに気付かずに、オージュはそう言うと、すっと息を吸い攻撃力を高めるべく精神を集中した。


     想像してみて欲しい。
     身体のあちこちに支障をきたし、攻撃を絶えず受け続け、敵に増援が現れ、自分に勝つ見込みは薄い。ああ、そういえば自分はどこかに向かっていたような気がする。どこかは既に曖昧だが、狂おしいばかりにそこを目指していた。帰りたい。かえりたい。きっとそこにつけば、あたたかいなにかが、じぶんをむかえいれてくれるかもしれない――その様な状況に直面した場合、自分だったらどうするか? 考えるまでも無い。その場から逃走するだろう。
     デモノイドはそうした。灼滅者達から背を向け、その場から逃走しようとした。
    「悪いけど逃がすわけにいかないからね!」
     美甘がガラ空きの脇腹に拳を叩きこむ。
     辰人が弾丸を撃ちつける。
     八奈が逃げるデモノイドの動きを邪魔する様に足を狙い、拳を突き出す。
     皮肉にも屈強な身体はその攻撃を全て耐え切った。ぼろぼろになった腕はまだ動く。
     デモノイドは咆哮と共に近くに居る者達を纏めて薙ぎ払う。その時に、どこかに引っ掛けたのか。巨大な爪が数枚はらりと落ちる。
    「回復は私に任せて、皆はデモノイドを!」
     地元の危機にいてもたってもいられない、とサポートを志願した金の髪の少女が傷付いた仲間達の回復役を買って出る。
    「助かる。それでは」
     壱里が状況を今一度確認し、手分けして怪我した者の回復をする。デモノイドの敗色は濃く、戦いは灼滅者側に有利な方向に傾いてはいるが、油断は禁物。敵は元人間とはいえ、手負いの獣と何ら変わりが無いのだから。
     デモノイドは灼滅者達の様子を見、手薄になった場所から脱出を試みようとする。
     ――不意にデモノイドの身体が揺れる。背後からリュシアンが弾丸をデモノイドに撃ち込んだのだ。
    「帰りたい? でも……行かせてあげられないんだ」
     ごめんね。囁くように紡がれた声は誰にも聞かれること無く宙に溶けた。
     逃走を邪魔されたデモノイドは怒号を上げながらリュシアンへと迫る。
    「一体どこに行こうって言うの!? あたしはまだまだやれる!」
     気合一閃。美甘がデモノイドに斬りかかり、辰人が影を操り身体の自由を奪う。
     その攻撃を受け止めようとしたデモノイドの腕が肘からぼたりと落ちる。その反動でバランスを崩したのか。その巨体が倒れた。
    「アアア……」
     落ちた腕を拾い上げ、必死にくっつけようとする。当然ながらそんなことをしても治ることはあり得ないのだが、その辺りの判断力も失ってしまっているのか。
    「ガ、ア、アアアアアアアアア!!!」
     千切れた腕を投げ捨て、全力で腕を振る。
    「危ない!」
     決死の攻撃は、当たり所が悪ければ一撃で重傷もあり得る。しかし、ディフェンダーの私ならば。朱梨はデモノイドの巨大な拳の前に臆すること無く立ち塞がった。
    「――っ」
     朱梨が吹き飛ばされ、地面を転がる。
    「大丈夫!?」
    「私は平気。……早くデモノイドを救ってあげて」
    「……そうだね。ゴメンネ、元に戻してあげる事出来ないんだよ……僕達には」
     京夜は朱梨を強く撃ちつけた腕に鋼糸を巻き付け縛り上げる。
    「Slash!」
     美甘が蔓状に変化させた影で鞭打つようにデモノイドを攻撃する。
     攻撃に耐えきれなくなったのか。デモノイドの腕が、落ちた。
    「アアア……」
    「思いつくことは試した。それでも、どうにもならないなら、斬る」
     八奈の言葉が聞こえているのか。デモノイドは彼女の傍へとにじり寄った。その身体へ向けて八奈は骨も砕けよとばかりに刀を振り下ろす。
     その一撃が決定打となったのか、デモノイドは遂にその動きを止めた。
     溶けていくデモノイドの体液が身体に付着するのも厭わず、ましろがデモノイドを抱きしめようとする。
    「がんばったね。……おやすみ」
    「アアア、アリ、アリアリアリ」
     ありがとう。
     そう聞こえたのは気のせいだろうか。しかし、もうそれを確認することは叶わない。
     地面に吸い込まれる様に溶けて消え去ったデモノイドに問い掛けることは、もう永遠に出来ないのだから。


    「何か……身元が分かる様な物は残ってないかな」
    「そうだね。もし見つかれば帰してあげたいね」
    「私も手伝うわ」
     京夜の提案に辰人が頷き、朱梨も涙を拭ってデモノイドが溶けた辺りを探索する。しかし、成果は芳しく無く、デモノイドが付けていた幾つもの拘束具が寂しげに転がっているだけだった。
     京夜が拘束具のひとつを手に取りためつすがめつ眺めてみるが、鈍く光る金属は特別な何かがある様には思えなかった。それではデモノイドはどこから来たのかと探るべく辺りを見渡すが――直ぐに諦めた。戦いの後で、足跡等残っている筈も無かった。
    (「せめて名前くらいは知りたかったな」)
     そうすれば、哀れな被害者の名前を形見の様に覚えておくことが出来たのに。壱里は目を伏せそう考える。
     誰かが歌を口ずさむ声がする。振り返るとましろがデモノイドの埋葬を行っていた。緩く優しく高く低く、ゆったりと流れる旋律を聴きながら、美甘もましろを手伝い黙祷を捧げた。
     敵なら切り捨てれば良い。又、救いを求め彷徨う人なら手を伸ばせば良かった。しかし、今回はそのどちらでも無い。デモノイドは『戦闘能力があるだけの、戻る事の出来ない被害者』だった。
     敵を屠った事を悔いてはいない。
    (「それでも、進まなきゃ道は生まれないよ」)
     八奈はましろの歌声を聴きながらそう考えていた。
     誰とは無しに現場から立ち去り、リュシアンは拘束具を手にひとり佇んでいた。
     思うのは故郷の景色。そこにあって当たり前の、何と言う事も無い景色。だけど、遠く離れると懐かしくて、何だか哀しい。
    「デモノイド――あの人も、そんな気持だったのかな」
    「どうしたの? 大丈夫?」
    「何が?」
    「あはは。その様子だと大丈夫そうだね。行こう?」
     リュシアンが居ない事に気付いたオージュが戻って来て、帰ろうと促す。
    (「空に昇った魂はきっと、還るべき場所へ飛んで行ける。そう、思いたいな」)
     拘束具をそっと地面に置き、リュシアンは仲間が待つ元へと駆けた。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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