漆黒の蒼き影

    作者:幾夜緋琉

    ●漆黒の蒼き影
    『……グゥゥゥ……』
     獰猛な獣の如き呻き声を挙げる……青き影。
     人の影も、車の影も少ない田舎道を、ど真ん中で歩いて行く彼。
    『……グゥゥ……』
     一旦立ち止まり、周りを見わたす様にすると……幸か不幸か、その場所を通りがかる車。
    『……あぁ、なんだべさぁ……?』
     人の良さそうなおじいちゃんが、窓を開けて確認……したその瞬間。
    『ガゥゥウウ!!』
     青き影が、車へと体当たりを咬まし……そして大きく振り回す。
     車の中から投げ出されたおじいちゃんが恐怖の表情を浮かべると……涎を垂らしながら、ニヤリと青き影は微笑むのであった。
     
    「皆さん、集まって頂けた模様ですね? それでは、説明を始めます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、集まった灼滅者達に頷きつつ、早速説明を始める。
    「先日の鶴見岳の戦いは、皆様お疲れ様でした……今回の依頼ですが、この鶴見岳の戦いでソロモンの悪魔が使役していた『デモノイド』が引き起こす事件について、解決して来て欲しいのです」
    「今回、デモノイドらが現われているのは愛知県の山間部になります。鶴見岳での敗北にて、ソロモンの悪魔がデモノイド達を廃棄した……という可能性もありますが、その詳細は分かりません」
    「しかし現われるデモノイドらは、命令を受けておらず暴走状態である模様です。とはいえ暴走状態でも、デモノイドはダークネスに匹敵する戦闘能力があります。このまま放置しておくと、大きな災いになるでしょう……だからこそ、今撃退してきて欲しいのです」
     そして姫子は、メモを確認して。
    「皆さんが相手にするデモノイド、数は一匹ですが、そもそも一体でも子の場にいる皆様と同等以上の戦闘能力を持っています」
    「無論その筋骨隆々な腕から繰り出される一撃一撃は、非常に厄介且つ高い攻撃力を誇ります。下手に喰らえば、一発で病院送り……という可能性もあるでしょう」
    「尚、デモノイドは愛知県は北方の田舎道に現われています。田舎道故に人や車が通りがかる事は少ないのですが……遭遇すれば、間違い無く破壊を仕掛ける事になります。当然乗車している方達は……被害者となります」
    「なので皆様は、暗闇に包まれたこの田舎道で待ち伏せ、迎撃をお願いします。尚、デモノイド自身は、KOすれば灼滅する事が可能ですので、ご安心下さい」
    「何はともあれ、被害者を出さない為に……皆様のお力をお貸し下さい。宜しくお願いします……」
     そう言いながら、姫子は深く頭を下げた。


    参加者
    七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)
    不知火・隼人(烈火の隼・d02291)
    ミネット・シャノワ(白き森の黒猫・d02757)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    射干玉・夜空(中学生シャドウハンター・d06211)
    リーファ・シルヴァーニ(翡翠姫士・d07947)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)
    風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)

    ■リプレイ

    ●蒼き怪魔
     姫子からのデモノイド討伐の依頼を受けた灼滅者達。
     愛知県北部、山間の間にある、暗闇に包まれて、あまり人通りもない田舎道は、何処か物寂しい雰囲気が漂う。
     そんな中。
    「デモノイド……か」
    「ええ、デモノイド……初めて戦う相手ですね」
    「同じく……デモノイドは初めてです」
    「私もだ。はじめて相まみえるが……中々凄い見た目らしいがな。ちょっと興味がある反面、怖いものがあるな」
     不知火・隼人(烈火の隼・d02291)の一言に、皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)と風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)、七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)らが静かに頷く。
     相手はデモノイド……蒼く、筋骨隆々な者。
     先日の戦いにて、一部の灼滅者達が戦った相手……強力な攻撃力で、灼滅者達を苦しめた。
     でも……そんなデモノイド達は、ソロモンの悪魔からの命令を失い、暴走状態であるという。
    「暴走状態のデモノイド、かぁ……これもソロモンの悪魔たちの作戦なのかなぁ?」
    「かもしれません……都合良く作られ、捨てられてしまった命……元に戻せたらいいのに……ごめんなさい……!」
     と、射干玉・夜空(中学生シャドウハンター・d06211)に、ミネット・シャノワ(白き森の黒猫・d02757)が小さく謝罪の言葉を叫ぶ。
     勿論、灼滅者達に非があるという訳では無いけれど……謝らずにはいられなくて。
     ……でも、そんなデモノイド達を救う手段は、灼滅の一つしかない訳で。
    「何はともあれ、デモノイドの灼滅……純粋に力があるものは厄介だけれども、こちらも力を合わせて当たろう」
    「そうだな。デモノイド……ダークネスの悪魔の所業、今、解放してやる!!」
     リーファ・シルヴァーニ(翡翠姫士・d07947)と、神園・和真(カゲホウシ・d11174)が強く声を上げると、それに応じて夜空と氷香も。
    「うん。なんにせよボク達で止めなくちゃね!」
    「そうだね。一般人に被害が出る前に、倒さなくちゃ」
     と頷く。そして。
    「一般人に被害を与えるデモノイド……容赦はしません。殺しがいがあるといいな……楽しませて貰いましょう」
    「そうな……頑張って行こう」
     夜空と誰歌も頷き合い、そして灼滅者達はデモノイド迎撃に向けて、準備を開始するのであった。

    「……これでよし……と。そっちの方はどうだ?」
    「ああ、こちらもOKだ」
     隼人からの電話に頷く誰歌。
     田舎ではあるものの、いつ一般人やら、何も知らない車やらが迷い込むかも分からない。
     だからこそ、道の両側に通行止めの看板とコーンを使い、迂回路へと回すようにする。
     そして各自、灯を付けたヘッドライトや、ベルトライトを装着し、視界確保の準備を整えていく。
     一通りの準備を整えたらば、周囲の木々に身を潜めて待ち伏せる。
     ……肌を吹きすさぶ風は冷たく冷えていて。
    「しかし寒いな……そうだ、紅茶、持ってきてるけど飲むか?」
    「あ、ありがとうございます……頂いても宜しいですか?」
    「ああ」
     ミネットの言葉に頷き、そして温かい紅茶を飲む。
     ……そして、デモノイドを待ち構えて暫し。
    『グゥゥ……グルルゥゥ……』
     ……遠くの方から、狂気を孕んだ呻き声が聞こえてくる。
     その鳴き声は、間違い無くデモノイドの鳴き声。
     一般人ではありえないし……怒気を孕んだその声色は、普通の獣でもない。
    「……間違い無い……デモノイドは、間もなく来る」
    「そうだな……みんな、静かにな」
     リーファと隼人の呟きに頷き、そして……暫しすれば、デモノイドがその暗闇の視界の中に現われる。
     蒼き身体は暗闇の中にも不気味に映える。
     ……そんなデモノイドに向けて。
    「アレも元は人間なんだよな? いや、別に感傷という訳じゃないんだが、なんともなぁ……」
    「ええ……」
     誰歌のふとした呟きに、ミネットが目を瞑る。
     ……とは言え、これを倒さなければ彼を助けることにならない訳で。
    「……さて、と……それじゃみなさん、準備はいい?」
     と桜夜が確認すると、氷香が。
    「うん、桜夜ちゃん、お願いね?」
    「分かりました……では」
     氷香に頷きつつ、桜夜が展開するのは殺界形成。
     その場に展開された殺気が一般人を遠ざけ、そして……デモノイドも、その周りに漂う殺気に気付いたようで。
    『……グゥゥ……!!』
     怒気を孕んだ声色で、呻き声を上げた。

    ●闇に映える
    「さぁ……まだ情報の少ねぇ相手だ。油断すんなよ、皆」
    「ええ……さぁ、狩りの時間だ!!」
     隼人に桜夜が頷きながらスレイヤーカード解放。
     周りの仲間らも。
    「戦闘システム、起動ッ!」
    「俺の中のダークネス! お前達を滅ぼす力を、俺に貸せ!」
    「さぁ……歌を紡ぎましょうか」
    「Legion Leyon Dents-de-lion!」
    「来い! 烈火ァァッ!!」
     夜空、和真、氷香、ミネット、隼人、と……皆もスレイヤーカードを解除し戦闘態勢を整える。
     そして先手の隙に、まず仕掛けるリーファ。
     クラッシャー故にダメージを与える事が本懐……という事で、攻撃力の高いレーヴァテインで炎を付与した一撃を叩き込む。
    『グゥゥ……ァ……!』
     その攻撃に、苦悶の声を上げるデモノイド。
     その動きを見据えつつ、夜空と和真は。
    「強化、先にしておいてくれ。まずはこっちで奴にバッドステータスを与える」
    「分かった。さぁ……ボクの計算についてこられるかな!!」
     夜空は自分へ高速演算モードを付与対し和真は。
    「なんて分厚い筋肉なんだ。だけど……これで!」
     とティアーズリッパーで服破りをまずは付与。
     とは言えデモノイドは、それら灼滅者達の攻撃に対して……盛り上がった筋肉を活かして。
    『グアアア!!』
     力一杯、その腕を振り回す。
     当然その勢いは、攻撃してきたリーファに嗾けられるのだが。
    「させるか」
     すっ、と誰歌が前に出て、その攻撃をカバー。
     当然デモノイドの強力な一撃が、ガッツリと誰歌の体力を削る。
    「聞いていた通り、凄い力……」
     ミネットは真っ直ぐにデモノイドを見据える。そして。
    「……貴方にも、家族や友達が居たはずなのに……人として生きた、かけがえのない過去があった筈なのに……でも、私には討つ事しか出来ない。だから……全力で討ちます! リング展開、誰歌さんを守ってっ!」
     ミネットがシールドリングで隼人に盾アップを付与。
     合わせて氷香は、桜夜にシールドリングで盾アップを付与。
    「ありがと。絶対に守るからね」
     と桜夜は言いつつ。
    「では……刻んで差し上げましょう。私を楽しませてくださいね?」
     と紡ぐと、ステップを刻むようにしながらデモノイドへ近接。
     そして左手の大鎌と、右手の日本刀影業でも黒死斬の一撃を叩き込む。
     隼人も。
    「お前の相手は俺だ! こっちを向きな!!」
     と言いつつ、シールドバッシュで相手に怒りのバッドステータスを与え、その攻撃の手を自分へと向ける。
     そして次のターン。
    「さぁ、それじゃドンドンとバッドステータスを叩き込んでいくよ」
    「分かった! こんな苦しみ、すぐに終わらせてやるんだ!」
     夜空、和真は声を掛け合い、そして。
    「エネルギー、フルチャージ……シュウゥゥゥゥッゥトォォォォォッ!!」
     プレッシャーの付加された、バスタービームを力一杯放つ。
     そして和真も。
    「どんな怪力だって、動けなければ、さ!」
     と制約の弾丸で、パラライズを叩き込む。
     敵はたった一体故に、次々とバッドステータスが叩き込まれればそれだけ弱体化する。
     とはいえ単体でもかなり強力な敵、デモノイド……数個のバッドステータスでは、その勢いを止めることは難しい。
     そんなダークネスからの攻撃は、怒りのバッドステータスを与えた隼人に優先的に仕向けられる。
    『ガァアアアアアア!!!』
     その威声と、あふれ出る勢いはまさしく狂気を孕んだ獣の如く。
     そんな獣に対し、誰歌と桜夜のディフェンダー二人が両サイドから。
    「喰らわせてもらう!」
    「ほら……どうしました? もっと、楽しませてくださいよ」
     と、紅蓮斬によるドレインでの回復と、影縛りによる捕縛効果を叩き込む。
     そして、勿論。
    「……更なる、一撃を」
     とリーファがギルティクロスにより、催眠効果を与える。
     この効果で、デモノイドが自分自身を攻撃すれば御の字、と。
     そして、仲間達の攻撃の最後、ミネットが。
    「私の全ての魔力を……っ!」
     と隼人を回復しつつ、氷香は今度は誰歌にシールドリングで盾アップ。
     ディフェンダーに行き渡ったら、次はクラッシャー、そしてジャマーへ……着々とリングスラッシャーの盾を付与し続けていく。
     そんなメディックの動きに助けられながら、確実にデモノイドの体力を削る。
     ……そして、6ターン経過。
    『グ……ウゥゥ……クソ……ォ……』
     その声に、僅かな人の気配。
    「……?」
     それを間近に戦っていたリーファが気付くが……でも、デモノイドには戦いを止めるという意思は全く無い。
     身体が傷ついても……怯む事は一切無い。
    「……仕方ないね。なら……一気に畳みかけるぞ!」
     和真が唇を噛みしめながら、仲間達に叫ぶ。
     救う事の出来ない命だからこそ……少しでも早く。
     灼滅者達は力を合わせ、確実にダークネスの体力を削り去る。
     ……そして、9ターンが経過し。
    「……ありったけの魔力弾です……っ、全弾、持って行ってくださいっ!!」
     ミネットが渾身のマジックミサイルを放つ。
     動きの鈍りつつあるデモノイドは、全弾被弾……そして更に。
    「……トドメ、刺させて貰うわ……」
     リーファが全力でのレーヴァテインの一撃。
     クラッシャー効果を重ねた大ダメージが、デモノイドの身体を一刀両断に斬り裂き。
    『グゥアアアア……』
     断末魔の声……そして……その身体を伏せると共に。
    『……コロシテ……クレ……テ……ア……リガト……ォ……』
     そんな声が……僅かながらも、微かに聞こえたのであった。

    ●伸びし声
    「……ふぅ、終わったか……何とかなったなー……」
     隼人がふぅ、と息を吐きながらスレイヤーカードに再度封印。
     ……そして改めて倒したデモノイドを観ても……最早その場にいない。
     いや……端的に言うならば、溶けてしまったという状態。
    「……なんだこれ……一体どうなってんだ、こいつ等は」
    「全くだな……」
     灼滅する事によって、その身体は蒼き液体の如く溶けて崩れ去る。
     ……跡として残るのは、、デモノイドの身体に付けられていた幾つかの鉄の部品のようなもの。
    「何だろう、この機械? ……調べれば、何か分かったりしないのかな……?」
     拾い、様々な角度から確認する和真。
     その道具からは、何の力も感じないけれど……デモノイドの痕跡を残す物であるのは間違い無い。
     又、最後のデモノイドの言葉が、何度も何度も反芻される。
     ……暫し、誰もが……言葉を失うものの。
    「……なんだろうな、嫌な予感がするぜ……まるで何か大きなものが動きだそうとしているみてぇだ」
    「……ええ……そうですね」
     絞り出した隼人の一言にミネットが苦しげに言葉を紡ぎつつ。
    「……誰からも忘れ去られる命……でも、私は忘れませんから……どうか、安らかに……」
     と言いながら、手を合わせて冥福を祈る。
     ……他の仲間らも、祈りを捧げ、被害者であるデモノイドの冥福を祈る。
     そして跡形も無く、デモノイドの姿が消え去った後。おいてあった通行止め表示やポールを片付ける。
     ……全ての片付けが終わった頃には、ほんのり空が白じんできている。
    「ふぅ、終わりましたね。でも、終わったと思うと……ちょっとお腹が空いてきました。皆さん、どうです? 街まで出たら、一緒にお食事にでもいきませんか?」
    「あ、それはいいですね。うん、是非ともいきましょうか」
     氷香にニッコリと微笑む桜夜。
     そして氷香の提案に他の仲間らも頷いて、灼滅者達は帰路につくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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