冬の熱気! バトントワリングバトル

    作者:階アトリ

     活気のある、とある商店街。
     開通何十周年かの記念イベントが開かれることとなり、商店街の中央広場には半円形の舞台が設けられていた。
     記念イベント当日には、その商店街の中にあるバトンダンススタジオから選抜された、小学生女子のダンスチームが華麗なバトントワリングを披露する予定なのだが……。
     本番が一週間先に迫った夜。
     店はどこもシャッターを閉じて、静まり返っている。
     だというのに、広場の舞台だけが照明に照らされて眩しいほどに明るかった。小学校中学年くらいの女の子が2人、賑やかな音楽に合わせてバトンをきらめかせ、舞台の上で踊っている。
     片方はミニスカートの衣装に身を包んでいて、もう1人の少女はダウンコートを着ていたが、よく見るとその下はパジャマだ。
    「「「「「カホちゃーん、がんばれー!」」」」」
     舞台の周囲に集まった男女は、衣装をまとって堂々と踊っているほうの少女を応援している。
     何曲、踊り続けただろうか。
    「も、もうだめ……」
     ダウンコートの少女が、ついにバトンを落とし、へたりこんだ。
    「カホちゃんの勝ちだー!!」
     盛り上がるギャラリー。
    「だらしないなあ! 選抜チームに入ってるくせに」
    「どうして!? カホ、あなた私より体力もなかったし、バトンだってよく落としてた……!」
    「変わったの、私。素敵な力に目覚めたの!」
     カホと呼ばれる少女は、異様な光に目をぎらつかせながら、かつてのライバルを見下ろしていた。
    「私のほうが上手なんだから、あんたなんてもう選抜チームに要らないよね」
     カホは少女からバトンを取り上げると、舞台の下にポイと放った。
     ギャラリーたちの手によって、愛用のバトンが曲げられ、踏まれ、砕かれるのを、少女は呆然と見下ろす。
    「カホ、なんかおかしいよ……私たちライバルだったじゃん、一緒にがんばって来たじゃん……」
    「これからの発表会は、ぜーんぶ私が踊ってあげる!」
     ライバルで、友達のはずの少女の言葉などまるで耳に入っていないかのように笑って、カホは得意げに、くるくるとバトンを回した。
     
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになるという事件が発生しようとしています」
     祝乃・袖丸(小学生エクスブレイン・dn0066)は、教室に集まった灼滅者たちにそう切り出した。
    「今回は、カホさんという、小学生の女の子が、淫魔の力に目覚めようとしています。
     通常ですと、闇堕ちしてしまうとすぐさまダークネスとしての意識を持ち、人間の意識はかき消えてしまうのですが、彼女は元の人間としての意識が消えていない状態です。
     カホさんが灼滅者の素質を持つのであれば、闇堕ちから救い出すことができるでしょう。
     素質を持たず、完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅するしかないのですが……前者であることを願っています」
     放って置けば、遠からずカホは完全なダークネスとなってしまう。
     救うことができても、できなかったとしても、灼滅者たちが出向き、戦って打ち勝たねばならない相手だ。
    「カホさんは、とある商店街の中にあるスタジオの、バトンダンススクールに通っています。
     今月末に、商店街のイベントで、選ばれた選抜チームが舞台でバトントワリングを披露することになっているらしいのですが、彼女はそれに選ばれなかったようですね。
     それが闇堕ちの直接の原因というわけではないでしょう。けれど、行動の元にはなっています。
     カホさんは淫魔の力でファンにした一般人を強化して、配下にしているのですが、その強化一般人たちに命じてダンススクールのライバルをステージに引きずり出し、ダンスバトルを挑むんです。
     夜11時ごろに商店街に設えられた舞台に行くと、ダンスバトルが終わったところに乱入できます。
     通常、闇堕ちしかけの人を救うには戦闘してKOする必要があります。そうすれば、ダークネスであれば灼滅され、灼滅者の素質があれば灼滅者として生き残ります。
     ただし、今回は特別で、ただ戦って勝つだけでなく、まずダンスバトルに勝利し、敗北を認めさせなければカホさんを救うことができません」
     袖丸は準備していたらしいバトントワリング用のバトンを、灼滅者たちに差し出した。
    「ライバルの女の子を舞台の上から降ろしてあげてから、闇堕ちしたカホさんに、今の行動が間違っていることを指摘してください。
     すると『ダンスの世界をわかってもいないくせに何を偉そうに』というような反応をしてきますので『自分たちも踊れる!』と応じてください。
     そうすれば、カホさんがダンスバトルをもちかけてきます。
     バトルの内容は、バトン的な棒状のものを手に持って、それを落とさず、元気に、笑顔で、より長く踊っていられたほうが勝ちというものです。
     なので、技術に自信がなくても勝ちようはあります。
     ハッタリを効かせてプレッシャーをかけて、カホさんを焦らせバトンを取り落とさせたり笑顔を崩させたりするのもアリですね」
     因みに、袖丸が用意したバトントワリング用のバトンを使ってもいいし、バトン的なものなら何でもいいので、マテリアルロッドなど、手で回せる棒状の殲術道具を使っても大丈夫だ。使いやすいものを選ぼう。
    「ダンスバトルに参加するのは何人でも構いません。
     誰か1人でも、カホさんよりも長く、笑顔で踊り続けられれば敗北を認めさせることができます。
     あとは、自暴自棄になったカホさんとの戦闘に勝利してください。
     カホさんはひたすらパッショネイトダンスによる攻撃を繰り返すのみになります。
     取り巻きの強化一般人たちはひたすら紙吹雪で応援……というか護符揃えから防護符を投げて、カホさんを回復します」
     ダンスバトルを半円形の舞台の上で行い、戦闘になると舞台の下にいた取り巻きたちが舞台に上がってくることになる。
    「油断さえなければ勝てる相手だと思います。
     お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
     袖丸はそう締めくくると、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    神宮寺・三義(にいちゃん大好き少年・d02679)
    刻野・晶(高校生サウンドソルジャー・d02884)
    結浜・里緒(ダンドリオン・d05829)
    リタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)
    綿津海・珊瑚(両声類・d11579)
    内藤・えるむ(中学生殺人鬼・d11801)
    ヒラニヤ・ロイス(ラーズグリーズ・d12254)
    紅月・燐花(妖花は羊の夢を見る・d12647)

    ■リプレイ

    ●真夜中の商店街
    「……ふむ、なんでこんな寒い夜にダンスバトルなんてやってるんだよ」
     ヒラニヤ・ロイス(ラーズグリーズ・d12254)は愚痴をこぼしていたが、食べていたチョコの最後を口の中に放り込んで黙った。
    「私のほうが上手なんだから、あんたなんてもう選抜チームに要らないよね」
     舞台の下に放られ、カホの配下たちに壊されそうになったバトンを、飛び出してきた小さな獣が咥え去った。
    「……犬……!?」
    「カホさん、貴方がバトンを始めたのはこんなことをするためなのですか?」
     驚くカホに、綿津海・珊瑚(両声類・d11579)が静かに問いかける。
     珊瑚に目を奪われているライバル少女を、内藤・えるむ(中学生殺人鬼・d11801)が手を引いて立ち上がらせた。
    「きゃっ!?」
    「お友達じゃないならこの子は要らないかな? 連れてくね」
     頭にすっぽりと紙袋を被り、バール的な物をバトン代わりに回転させているというえるむの姿に、少女は小さく悲鳴を上げたけれど。
    「(カホちゃんは悪い奴に操られてるの。元に戻すのを手伝って!)」
    「え……っ」
     囁きと共にこそりと見せられた紙袋の下のえるむの顔は、恐ろしげな台詞に似つかわしくない可愛らしいお姉さん。少女は大人しく、手を引かれるまま舞台から降りる。
    「よっぽど練習してるんだ。この子の手、豆でいっぱい。カホちゃんはズルして上手になったから綺麗な手だよね」
    「ズルじゃないもん! ラブリンスター様が、才能を開花させてくれただけだもん」
     えるむの煽りに、カホは打てば響くような反応をする。
    「でもそれじゃカホちゃんの頑張りが台無しになっちゃう。安易に能力に頼るより、頑張って頑張って自分で自分を褒めてあげたくなるくらい頑張ってから認めてもらった方がずっと嬉しいはずだよ」
     神宮寺・三義(にいちゃん大好き少年・d02679)が、太郎丸(霊犬)に拾わせたバトンを返してあげてから、カホを振り仰いだ。
    「ダンスのこと、わかりもしないで何よ、偉そうに」
     カホは唇を尖らせる。
    「ダンスはいささか当方も覚えがございます」
     紅月・燐花(妖花は羊の夢を見る・d12647)が、自前のバトンをキラリと光らせて言えば、カホはすっかりその気になったようだ。
    「へえ。……じゃあ、ダンスで勝負よ! お説教なんて要らないわ、こてんぱんにしてあげる!」
    「「「「カホちゃーん!」」」」
     配下たちの操作するスポットライトを受けながら、カホは灼滅者たちを舞台へと促す。
    「動きの芸に挑戦するのは初めてだが、この日のために練習してきたよ」
     舞台に上がったリタ・エルシャラーナ(タンピン・d09755)は、白いシャツに黒いベストとパンツが鮮やかなタップダンサー風の衣装。
    「何でも、得意な踊りで勝負してくれていいわよ」
     カホは余裕の表情だが、次々と舞台に上がる灼滅者たちが手に手にお揃いの青いシュシュをつけているのを見て軽く眉を寄せた。
    「……何よ、馴れ合っちゃって!」
    (「服装まで揃えるのは無理だったが、小物を揃えたのは正解だったな」)
     刻野・晶(高校生サウンドソルジャー・d02884)はカホの反応を観察しながら、バトンを手にバックダンサーの位置に立つ。
    「……ふむ、オレはどうにも目立つのは嫌いだから、裏方に回るわ」
     ヒラニヤはバイオレンスギターのネックを握り、舞台の端に陣取った。
    「……ヘタこいた時にはフォローよろしく、ね?」
     演奏を始めたヒラニヤに、リタが悪戯っぽく片目を瞑る。
    「全力で楽しんでいきましょう!」
     結浜・里緒(ダンドリオン・d05829)が、シュシュをはめた腕を振り振り、皆を盛り上げるように声をかけた。

    ●そこにきらめくもの
    (「みんながダンスを楽しんでくるのなら、オレも楽しむか」)
     まずはウォーミングアップ。ヒラニヤの生演奏が、音楽プレイヤーの音も合わせて徐々に盛り上がってゆく。
    「カホちゃんは悪い子だし、パパとママが応援来なくても仕方ないよね」
     舞台の下で応援に回っているえるむが、割り込みヴォイスを使ってカホを動揺させるべく、呼びかけた。
    「応援なんか、上手に踊れたら他の人がいくらでもしてくれるもん!」
    「じゃあパパとママは連れてくよ。お家を出る時、ちゃんと鍵締めてきた?」
     えるむの脅しから、カホはぷいとそっぽを向いて、踊りに集中し始める。小学生の女の子らしい感情を蘇えらせるには、まず今の闇堕ちしかけの状況から救い出さねばならなさそうだ。
     ダンスバトルはいよいよ佳境。
     打ち合わせ通り、1人1人が前に出てメインとなって踊る。
    (「皆と呼吸を合わせての一体感とか、何より楽しんで踊るって事を思い出して貰えればなぁ」)
     曲がポップス調になって、一番手は里緒。チア風を意識して、ゴージャスモードで衣装をグレードアップさせると、笑顔でポーンとバトンを空中へ。バトンはくるくる、自分もくるくる。スカートひらり、バトンを受け止めると、今度は指を使って胸の前でくるくると。
     専門ではないので、難しい動作では乱れたりもしたけれどノリよく、軽やかだった。
    (「グループで踊る楽しさをお見せいたしましょう」)
     曲調が甘く華やかなものへと変わり、次は燐花の番。
    「貴方様にこれが出せますでしょうか?」
     燐花はフェロモン全開で、目が合ったカホに妖艶な笑みを向ける。大人の本気っぷりに、一瞬カホが頬を染めた。燐花は笑みを深める。メイドたるもの、常に笑顔でいなければ務まらない。
    「表現の仕方には色々あるものさ」
     音楽がジャスに変わって、次はリタ。
     スタンドマイク型のハンマーをバトン代わりに小粋に操り、タップを鳴らす。スタイリッシュに格好良く決めた、と思いきや、足元が滑って驚いた表情をして見せたりして。
    「わあ……!」
     えるむの隣で、少女も拍手している。
    (「下手でも……みんなで踊れて心から嬉しい!」)
     次は、三義がマテリアルロッドを回しながら前に出る。ゴージャスモードで身を飾り、けれどそれ以上に輝くのは笑顔。霊犬の太郎丸と一緒に元気に跳ねて、ラストは仲間たちと次々にハイタッチをしてゆく。
     それが終わると、曲に歌が乗った。もうすぐ来る春を思わせるような歌だ。
    (「歌うときは、楽しく。がモットーなのです」)
     珊瑚は両声類と呼ばれる、男女どちらも歌い分ける声で歌いながら、にっこり笑った。
    (「カホさんの心に届いてくれればいいのですが……」)
     心から楽しそうに歌いながら舞うようにバトンを使う、両手首の青いシュシュが、皆とお揃いであることを誇っているかのようにきらきらと。
     トリを務めるのは晶。
    (「共に舞う楽しさを知らないことは、舞の半分を捨てたことに等しい」)
     アップテンポな曲にあわせて前に出て来た晶が放り上げたバトンは、くるくると回りながら高く上がり、狙った場所へと正確に落ちてくる。滞空時間にもくるくると踊り、難易度の高いキャッチを決めた。バトンを持っていない手も、忘れず演技を続けている。
     そして、曲の終わりに合わせて、ヒラニヤがクラッカーを鳴らした。
    「イエー!」
     楽しまなきゃ損でしょ!と言わんばかりに、色とりどりの紙テープを空中でキャッチし、皆に振りまく里緒。
    「「「「カホちゃん可愛いーっ!」」」」
     カホは、配下たちの応援で、はっとしたようにバトンを握り直したが。
     ――カターン。
     最後の最後の決めポーズで、カホの手からバトンが落ち、大きな音を響かせる。
    「あ……」
    「バトンを落としたからって勝負は決まらないよ。最後まで一緒に頑張れたよね?」
     三義が拾って、渡そうとしたバトンを、カホは引きむしるように取り返した。
    「何よ! あんたたちなんか、大っ嫌い!!」
     顔色が青から赤へ。負けを認めたのだと、誰の目にもわかる表情だった。――来る!
    「私の中にあるもう一人の私よ、今ここに……」
     燐花が大胆な水着姿へと転じた。
     それぞれが一瞬にして武装を整えて、素早く陣形を整える。
     前衛に当たる者たちを包み込んだ夜霧は、中衛に駆け込んできたえるむが夜霧隠れを展開したのだ。
     それはまるで、開演を告げるスモークのようだった。
    「闇堕ちなんてさせません、心を殺人鬼にして頑張りますよ!」
     解体ナイフをギラつかせたえるむに「がんばってお姉ちゃん!」と、舞台下から少女の声。
     狂ったような情熱を込めて、踊り始めるカホ。
    「ぷちっといかないようにご注意を」
     前衛を包んだ夜霧を裂いて、燐花が鬼神変をカホへと振り下ろす。
    「「「「わー!! カホちゃんを守れー!!」」」」
     レオ(ライドキャリバー)の機銃に足元を凪がれながらも、配下たちは一生懸命にカホを囲った。
    「「「「カホちゃーん!!」」」」
     紙吹雪よろしく、カホに降り注ぐ防護符。これが続けば厄介だが。
    「怪我させたくないから、早く寝ててね。夜も遅いし!」
    「……ふむ。こんな戦いも楽しいもんだな」
     里緒が鋼鉄拳を食らわせ、ヒラニヤが続いて神薙刃を当ててやれば、早くも1人フラフラになる。
    「頼りにしてるよ、相方!」
     リタは前衛でディフェンダーに立つ高崎(ビハインド)に声をかけると、サンパチハンマーで高らかに殴打音を鳴らし、ダンスで能力の上がっているカホにブレイクつきのソニックビートを放った。
    「く……何よ、勝てない踊りなんか踊って、何が楽しいのよ!」
     体勢を崩されたカホが喚く。
    「少なくとも下手なボクでも、カホちゃんと踊れて楽しかったよ」
     三義はワイドガードに仲間たちを包み込みながら、笑った。
    「私たちに負けたのは、それが借り物の実力だから!」
    「ファンは、芸の実力でつけるものさ!」
     晶の虚空ギロチンに続いて、リタのサンパチハンマーがタァン!と高らかに音を立てて舞台を叩いた。大震撃が配下たちを凪ぐ。
     あとは、皆の手加減攻撃で次々と倒されて、舞台は静かになった。カホを応援する声が消えたのだ。
    「あぁああ!」
     叫び、踊りかかってくるカホの攻撃を、晶の大鎌の柄が受け流した。
    「く……っ」
    「歌をあげる。あなたを蝕むダークネスを食らいつくす歌」
     バトンのように鎌を回して、煌めく刃でくるり半円を描きながらカホに向き直った晶が、唇を開く。紡がれるのは、ディーヴァズメロディ。
     相手の強さと数のわりに時間がかかっているのは、防御と補助に力を入れた布陣だったからかもしれない。しかし、だからこそ、お互いのフォローや敵のエンチャントのブレイクも充分で、余裕を持っての戦闘となった。
    「はあ、はあ、はあ……」
    「1人は寂しい、でしょ?」
     肩で息をするカホと対峙し、里緒はバトルオーラをみなぎらせながら問う。
    「うるさいっ!」
    「貴方のバトンを始めた本当の理由は何だったのか、それを思い出してください」
     ゆらり、と取り出した大鎌の刃の根元に咲いた、月下美人のような花を瞳に映しながら珊瑚が言う。彼女が歌を始めたのは、亡き母のため。だからどんな時も、歌への気持ちを見失わない。
    「ライバルを蹴落とすばかりが道じゃないと思う」
     舞台に生きることを目指す、リタの言葉はいつになく真剣だ。
    「力に身をゆだねるは容易き事。されど、その先に待つは己の消滅。本当にそれでよろしいので?」
     燐花の丁寧な口調による問いが、舞台に艶やかに響いた。
    「…………」
     カホは、荒い呼吸を繰り返しながら灼滅者たちを睨みつけた。あと一撃というところ。彼女の心が、闇に勝てるのならば――生き残る。
    「快楽に身を……」
     燐花のディーヴァズメロディが響いた。

    ●光、射して
    「……ふー、とりあえず終わったか」
     ヒラニヤが舞台に座り込む。
    「終わ……った……?」
     きょとんとしたような表情で、その近くに座り込んでいるのは、カホだ。
    「カホッ!」
     えるむにもう大丈夫だと促されて、ダッフルコート姿の少女が舞台の上に飛び上がってくる。
    「ごめんね……私ヘンだったね」
    「うん、ヘンだった」
    「ラブリンスターとかいう人の声がして……」
     少女たちはひとしきり友情を温めなおして、そのお陰かカホは早々に落ち着きを取り戻した。
    「よかった……」
    「心を鬼に、もとい殺人鬼にした甲斐がありました」
     珊瑚とえるむが、その様子に胸を撫で下ろす。
    「ラブリンスター、と言っていたな。その声は、どこで聞いた?」
    「うーん? 選考に落ちたのがショックで、お部屋で泣いてた時だったかなあ……?」
     晶の問いに、カホは首を傾げた。声を聞いただけで、ラブリンスターについてはよく知らないようだ。
     とりあえず今夜は、親が心配しているだろうし少女たちは帰宅することになる。
    「お待ちしておりますので、宜しければご一緒に参りませんか」
     別れる前に、燐花がカホに声をかけ、武蔵坂学園についてかいつまんで説明した。
    「学校……」
    「そう! うちの学校で力の使い方を覚えてみない? カホちゃんは今までの積み重ねがあるし、ダンスが大好きなんだから、正しく使えばもっと上手くなれるし楽しいと思う」
     三義が、にっこり笑ってお揃いのシュシュを渡す。
    「きっと、また楽しく踊れるようになるよ!」
     里緒が、カホの肩に手を置いた。
    「そしたら、またいっしょにダンス勝負しよう」
     ヒラニヤがヒョイと掲げたカメラには、今夜のダンス姿が、決めポーズや失敗シーンを中心に収められている。
    「えっと……」
    「もちろん、次は本当の実力でな」
     恥ずかしそうに頬を染めたカホに、晶が笑って。
     人気のない夜の商店街に、暖かで明るい笑い声がひとしきり響いたのだった。

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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