敗残の、人ならざるもの

    作者:小茄

    「ねぇ、本当にこっちで合ってるの?」
    「知らねぇよ」
    「えー! もう暗くなるのにどうすんのよぉ」
    「オレに聞くなっつーの」
     山道を走る一台の軽自動車。旅行に来た若いカップルが、どうやら道に迷ってしまったらしい。
    「ねぇ、案内板!」
    「おおっ」
     これぞ地獄に仏と車を止め、車から降りる2人。
    「えぇと、現在地がここで……」
    「……た、たっくん……?」
    「こっちから来たわけだから……」
    「たっくんてば!」
    「お、おい、いてぇよ。なんだっ……」
     案内板をなぞっていた手を掴まれ、無理矢理振り向かされる。
     2人から数メートルと離れていない場所に、青い体毛に身を包まれた獣が仁王立ちしていた。
    「あ、青い熊? ……いや……毛じゃない……?」
     それが熊であったなら、2人はすぐさま走って逃げる事が出来たかも知れない。少なくとも、生き延びる可能性は0ではなかっただろう。だが……
    「何なんだ、こいつは……」
     青い生き物は、一歩、また一歩と2人に近づいてくる。だが、2人は動く事もせずにただそれを眺めるばかり。
     ――ブンッ。
    「……たっく……え、首……は?」
     逃げた方が良いのではないか、女は彼にそう提案しようとしたが、その時既に彼の首から上は無くなっていた。
     
    「先の戦い、ソロモンの悪魔の軍勢に『デモノイド』と言う敵が居たのは覚えているかしら? そのデモノイドが事件を引き起こそうとしていますわ」
     有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)は地図を広げつつ、ふっと一つ吐息を零した。
    「ソロモンの悪魔が、デモノイド達を破棄した可能性もあるけれど……まぁ、詳細は不明ですわ。命令に基づいてと言うよりは、暴走状態と言った所ですわね」
     愛知県の山間部に出現するデモノイドは、彼らにとって敵と見なす存在に手当たり次第襲い懸かる様だ。暴走状態と言ってもその戦闘力は極めて高く、ダークネスにも匹敵する。
     放置すれば、村などに出没する危険もある。そうなれば被害は計り知れないだろう。
     
    「デモノイドは、道路沿いの山中を移動しているけれど、あるポイントで道路上に出て来ますわ」
     それが、カップルが襲われる案内板付近なのだと言う。
    「貴方達は、この案内板付近で張り込み、デモノイドを迎撃して頂きたいの。カップルの様な一般人が通りかかるようであれば、速やかに立ち去るように上手く促して頂戴」
     別の場所に、より短時間で通行可能な高速道路が作られた為、旧道であるこの道の交通量は殆ど無い。迷い込んでくる以外には、滅多に通る者は居ないだろう。
    「さて、肝心のデモノイドですわね。貴方達に倒して頂きたいのはここに来る1体だけだけれど、恐るべき強敵ですわ。説得等も出来ないし、力を合わせて倒して下さいまし」
     敏捷性、力、共に極めて高い。体力を回復し、攻撃力を増す事も出来、更には広範囲に及ぶ必殺技も所持していると言う。
     
    「貴方達ならきっと成し遂げて下さると、私は信じていますわ。ご武運を」
     そう言うと、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。


    参加者
    天王寺・楓子(祈りの一矢・d02193)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    テン・カルガヤ(機槍マイスター・d10334)
    エリ・セブンスター(今だけちょびっとヒーロー・d10366)
    日野・唯人(高校生ファイアブラッド・d11540)
    ユリア・フェイル(白騎士・d12928)
    久瀬・悠理(鬼道術師・d13445)
    海川・凛音(小さな鍵・d14050)

    ■リプレイ


    「ねぇ、本当にこっちで合ってるの?」
    「知らねぇよ」
    「えー! もう暗くなるのにどうすんのよぉ」
    「オレに聞くなっつーの」
     愛知県の山間部、より便利な新道が通った為に、交通量の激減してしまった古い公道がある。
     今、この道を走る一台の軽自動車の車内では、若いカップルが生産性の無い口げんかを続けていた。
    「だからカーナビの無い車に乗りたくなかったのよ……あ、ねぇ! 人が居る!」
    「おぉっ!」
     道に迷ってしまった彼らの視界に、救いの神が姿を現した。この付近に住む人間か、とにかく道に詳しい事を祈りつつ車を止める彼氏。
    「あの、すいませーん」
    「ん、どうかしたの?」
     道端を歩いていたのは、テン・カルガヤ(機槍マイスター・d10334)と日野・唯人(高校生ファイアブラッド・d11540)。声を掛けられて初めて、そちらに注意を向けるような素振りで車に顔を向ける。
    「いやー、ちょっと道に迷っちゃったみたいで……名古屋まで行きたいんだけどぉ」
    「教えて頂けないでしょうかぁ?」
     縋るような思いで、2人に尋ねるカップル。
    「この先は路面補修工事で通行止めみたいですよ? 新しい道なら……」
    「現在地はココ、このまままっすぐ行って交差点に出たら後は地図を見るといいよ」
     彼氏が手にした地図を指さし、丁寧に教える2人。
    「なるほど、いやー……助かりました。有り難う!」
    「有り難うございましたぁ」
     カップルは幾度も礼を述べ、来た道をUターンしていった。
    「行ったようですね」
    「これで心おきなく獲物を狩れるというもの」
     唯人とテンは、軽自動車が見えなくなるのを確認し、きびすを返す。

    「デモノイドがあちこちで暴れているみたいだけど、何か目的でもあるのかしら。それとも、単に持て余したりでもしてるとか?」
     一方こちらは、カップルが本来目にするはずであった案内板付近。天王寺・楓子(祈りの一矢・d02193)達がデモノイドの到着を、今や遅しと待ち構えていた。
     デモノイド――ソロモンの悪魔が造り出した強力な生物兵器――元は悪魔に魅了された人間だという。
    「こんなに集中的に暴走したデモノイドが出現するなんて、愛知県にソロモンの悪魔の隠れ家的なものでもあるのかな?」
     うーん、と小首を傾げながら推理するのは、ユリア・フェイル(白騎士・d12928)。
     今回出没しているデモノイドらは、確かに愛知県の方向へ向かっている傾向があるようだ。
    (「悪魔が残した化け物か……掃除はしないとな」)
     いつも通り、物静かな表情で彼方を眺める仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)。
     エクスブレインの説明や地図を元に推測すれば、デモノイドが現れるであろう方向はおおよそ絞り込まれていた。
    「デモノイドって個体差があるみたいだけど、やっぱり強化型とか強襲用とかあるのかな?」
     戦闘前であれ、全く緊張する様子もなく、自然体のエリ・セブンスター(今だけちょびっとヒーロー・d10366)。
    「そんな迷惑極まりないものを不法投棄しないで貰いたいね。片付ける方の身にもなってもらいたいよ」
     やれやれと肩を竦めるのは、久瀬・悠理(鬼道術師・d13445)。
     デモノイドは現在、ソロモンの悪魔のコントロールを脱し、暴走状態にあると言っても良い。その上、味方以外は攻撃し、殺せと言う指示だけは今でも活きているのだから始末が悪い。
    (「暴走状態ということは捨てられたということ……? 捨てられた気持ちはよくわかるけど……それでも、このままほうっておいたら被害が出てしまうから……」)
     自らの過酷な生い立ちと、デモノイドを重ねる海川・凛音(小さな鍵・d14050)。
     生物兵器にされ、今は野放しのデモノイドに同情の余地はあるが、それでも罪の無い人間を襲わせる訳にはいかない。
    「あ、帰ってきたね」
     カップルを追い払ったらしく、帰ってくる唯人とテンに手を振る悠理。
     後はデモノイドが来るのを待つばかりだ。


    「……グルオォォ……」
    「……こんな姿でも元は人だったんだよね」
     悪魔にしても、なかなかの外道っぷりと呆れ半分で呟くユリア。
     灼滅者達の眼前には、それが元人間だったとはにわかに信じがたい、巨大な生物兵器の姿があった。
     全身を覆い、脈動する筋肉は青く、鋭い牙がむき出しになった顔から感情と呼べるものは読み取れない。ただ、微かにうなり声を上げ、灼滅者達に敵意を向けている事だけは間違いない。
    「俺、戦闘が終わったら、景色のいいところでおやつを食べるんだ」
    「良いわね……おやつ」
     背中にはお菓子が満載されたリュックを背負う唯人。明確な死亡フラグを立てるが、楓子が羨ましそうに呟いた以外、突っ込む人間は居なかった。
    「鶴見岳に参戦できなかった分、後片付けぐらいはさせてもらうよ」
     WKOシールドを手に、じりじりと間合いを詰めるエリ。
    「可及的速やかに滅殺するとしようか」
     拾式降魔槍を手に、戦陣を切ったのはテン。螺旋状の捻りを加えた一撃がデモノイドの胸板へと突き刺さる。
     ――ガッ!
    「っ!」
     本来なら致命傷を与えてもおかしくない攻撃だが、その手応えの浅さに思わず息を呑むテン。事実、デモノイドは殆ど怯む様子もなく、その巨大な右腕を振り上げる。
    「大人しくヤラれて……と言っても無駄ですよねぇ」
     腕が上がり脇腹の露出した敵右側へ回り込んだ唯人。鍛えぬかれた超硬度の拳を脇腹へとたたき込む。
     ――ドッ!
     これに素早く反応するメイテノーゼ。こちらは左側背を突き、闘気を帯びた無数の拳を見舞う。
    「……グォォォォァアァーッ!!!」
    「くっ?!」
     一瞬、動きを止めたデモノイドだったが、周囲の山々を揺るがさんばかりの大音声で咆吼を上げる。その衝撃波は地面にひびを走らせ、灼滅者達の陣形を引き裂く。
    「任せて」
     耳鳴りに顔をしかめながらも、浄化をもたらす清浄の風を呼ぶ悠理。
    「……援護、します」
     凛音の手のひらから、圧縮された魔力の矢が打ち出される。空を斬り一直線に飛んだ矢は、デモノイドの眉間に直撃する。
     これに呼応し、燃え上がる日本刀を手に走り出すユリア。
    「もう戻れないのなら、その手を血で染め上げる前に、せめて私たちの手で終わらせてあげる」
     ――ザシュッ!
     袈裟斬りに振り下ろされた炎刀は、デモノイドの胸部に新たな傷を付ける。
     ……が、デモノイドは未だ怯む様子もなく、丸太のように太い右腕を振り上げる。
     ――ブンッ!
    「んっ……!」
     勢い良く振り下ろされた拳を、シールドで受けるエリ。殺しきれない衝撃に、思わずよろめく。
    「群れで来られたら怖いけど……!」
     何とか踏みとどまったエリは、そのままお返しとばかりに鋼鉄拳を繰り出す。
     ――バキッ!
    「グゥゥ……」
     表情に出る事はないが、低い唸り声を上げるデモノイド。一撃一撃によって敵を揺るがす事は難しくとも、灼滅者達の攻撃の積み重ねは、間違いなくデモノイドの体力を削っているはずだ。
    「痺れてくれると嬉しいんだけど」
     デモノイドの背後を取る位置取りで、支援攻撃を行う楓子。契約の指輪から放たれる光線がデモノイドの背に突き刺さる。
     灼滅者たちは不落の城を攻める様に、標的を包囲しじわじわと、確実にダメージを与えてゆく。


    「ゴォォォォ……」
     デモノイドの全身を覆う筋肉が、一層膨張した様に見て取れた。灼滅者たちの激しい攻撃によって傷ついた身体だが、筋肉のパンプアップによってその傷口も塞がれる。
    「まったく、しぶといね。……大丈夫?」
    「はい。……きっと、もう一息です」
     前衛が傷つく度、迅速かつ的確な治癒を施す悠理と凛音。自分を気遣う言葉に応えながら、自らも仲間を鼓舞する為に、小さいながらも声を上げる凛音。
    「連携を取ろう!」
     ――バッ!
     傷つきながらも未だ健在のデモノイドへ、正面から距離を詰めたユリア。槍と日本刀を交差させ、十文字に斬り付ける。
    「いくよ!」
    「容赦はしない」
     拳に纏うファイタースピリッツを、ユリアの付けた傷口に叩き込むエリ。同時に動き出したメイテノーゼは、デモノイドのアキレス腱を狙って黒死斬を見舞う。
    「グゥゥゥ……!」
     微かに、デモノイドの巨大が揺らぐ。蓄積されたダメージと苛烈な連続攻撃によって、無限にも思えた体力に限界がある事を露呈する。
    「……グォォォァァァーッ!!!」
     が、手負いの獣ほど危険なもの。肺一杯に空気を吸い込んだと思うと、爆発的な咆哮を上げる。
    「うわっ!」「……っ!」
     辛うじて直撃をかわす唯人と楓子。凄まじい勢いの衝撃波は、唯人のリュックサックを易々と千切り飛ばしてしまう。
    「お、お菓子が……」
     絶望に肩を落とす唯人。フラグはきっちりと回収されてしまった。が、命が無事だっただけ儲け物だろう。
    「回復します……皆さんは攻撃を」
     シールドを展開し、仲間を包み込む凛音。
    「グウゥゥゥ……」
    「よし……皆、終わらせよう」
     ――ゴォッ!
     悠理はその腕を鬼神変させると、デモノイドに勝るとも劣らない凄まじい膂力でその鳩尾を殴りぬく。
    「オォウゥゥゥ……」
    「させないよ!」
     両腕を振り上げるデモノイドを見て、槍を地面に突き立てるユリア。伸びる影の触手が、敵の動きを封じる。
    「今だ!」
    「お菓子の仇……!」
     デモノイドに突き立てた槍の穂先から、魔力を流し込むテン。闇堕ち寸前の唯人は、渾身の力を籠めてシールドバッシュを見舞う。
    「グ……アァァァァー……ッ!!」
     断末魔の悲鳴を上げ、両手を振り回そうとするデモノイドだが、バランスを崩しそのまま倒れこむ。
    「……ヤット……死ネル……ノカ……」
     血を吐きながら、辛うじて捻り出された人語。それを最後に、デモノイドの身体は崩壊を始めた。


    「何か手がかり的なモノが、と思ったけど望み薄ね」
     デモノイドが消滅した後、残されたのは拘束具のみ。特に何の変哲も無い金属の塊を眺めつつ、呟く楓子。
    「……あなたも、被害者だったかもしれない。それでも、これ以上被害を広げないためには……仕方ないから……ごめんなさい」
     凛音は、デモノイドが消滅したその場所に屈み込んで黙祷を捧げる。
    「……捨てられたのか、逃げたのか。どちらにしても、最後まで責任もたないと……」
     野放しとなり、死を迎えたデモノイド。メイテノーゼは表情に出す事はしないが、静かに悼む。
    「あぁ、俺のお菓子が……」
    「皆無事で倒せてよかったね。それじゃ、帰ろうか」
     精神的に大きなダメージを負った唯人はさておき、デモノイドの討伐に成功した一行は、凱旋の途につくのだった。

    作者:小茄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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