加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)は、こんな噂を耳にした。
『世界を破滅から救うため、怪しげな一団が女子中学生をさらっている』と……。
彼らが欲しているのは、穢れのない乙女。
その乙女を生贄にする事で、世界を破滅から救う事が出来ると言う話だが、
彼らが納得するような乙女が見つからず、さらっては殺し、さらっては殺しの繰り返し。
そんな男達を裏で操っている悪魔がいるらしい。
エクスブレインの話では、彼らのリーダーは、百合体質の童顔熟女。
どうやら、この女性は一般人であり、悪魔の命令を受けて夜な夜な怪しげな儀式を行っているらしい。
ただし、何度繰り返したところで、儀式が成功する事はない。
そもそも、儀式を成功させるつもりなど、カケラもないのだから……。
彼女にとって、今の環境は理想そのもの。
いつまでも尊敬されたいという気持ちが強いため、メビウスの輪の如く儀式が繰り返され、犠牲者ばかり増えているのが現状。
また、まわりにいる者達も女性を尊敬しているため、例え彼女の本意を知ったとしても、今まで犯した罪の意識に耐えきれず自ら命を絶つ可能性が高い。
しかも、女性自身も儀式用のナイフを使って、狂ったように攻撃を仕掛けてくるので注意が必要である。
参加者 | |
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玖渚・鷲介(炎空拳士・d02558) |
ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227) |
月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249) |
水門・いなこ(影守宮・d05294) |
リアノア・アイゼンガルド(金色の夢・d06530) |
ファリス・メイティス(ブレイクシューター・d07880) |
黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362) |
高峰・緋月(頭から突撃娘・d09865) |
●禁断の儀式
「命を対価にする儀式……ですか。どの国にもあるお話ですが、そういうのは決まって良くない物が背後にあるといわれています。命を蔑ろにしてまで救う世界に何の意味があるというのでしょうか……」
リアノア・アイゼンガルド(金色の夢・d06530)は悲しげな表情を浮かべて、仲間達と一緒に廃校に向かっていた。
事前に配られた資料の中に、今回の事件の黒幕である童顔熟女の写真が入っていたのだが、どこからどう見ても小学生にしか見えなかった。
それが昔からだったのか、それとも悪魔の力による物なのか分からないが、実年齢さえ知らなければ子供と勘違いしてしまうほどであった。
おそらく、本人もそれを利用して沢山の男達を利用してきたのだろう。
男達もすっかり騙されて骨抜き状態。
そんな事を繰り返していくうちに、本人の中にも黒い感情が芽生えていき、怪しげな儀式を始めるようになったのかも知れない。
「しかも、女の子を生贄にするなんて……。それも自分の立場のために……。前にもソロモンの悪魔の配下と戦ったけど、そいつとは正反対な性格……。だからってどっちも許せるわけないけど……」
複雑な気持ちになりながら、高峰・緋月(頭から突撃娘・d09865)が呟いた。
もしかすると、最初の頃は純粋に儀式を成功させるため、女の子達を集めていたのかも知れないが、器として相応しくない女性が多かったため、次第に自らの欲望を満たす道具にしたのかも知れない。
「仮に世界に危機が迫っていたとしても、こんな事で世界が救えるわけないしね……」
儀式の詳細について書かれた資料を眺め、ファリス・メイティス(ブレイクシューター・d07880)が答えを返す。
資料には『儀式を成功させるためには、穢れのない乙女を生贄にしなければならない』と書かれており、連れ去った女性の大半に×印がつけられていた。
「つまり、尊敬を得る為に儀式を繰り返していた訳か。目的が手段に成り代わっちまってる上に、それを認識した上でとはな。最初から最後まで気に入らない話だぜ、まったく」
嫌悪感をあらわにしながら、玖渚・鷲介(炎空拳士・d02558)が溜息をつく。
胡散臭い依頼だが、放ってはおけない。
「……許せない。こんな事……、許されるはずがないわ。何としても止めてみせる」
激しい怒りを爆発させ、黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)が拳を震わせた。
この様子では、罪悪感の欠片もないのだろう。
それどころか、自分自身が神か何かにでもなったのだと錯覚している可能性が高かった。
「どちらにしても、女の子を無理矢理犠牲にして世界を救うだなんて……そんな事、許せないのです。そんな話でも信じさせてしまうのが、怖いところなのかも知れませんが……」
険しい表情を浮かべながら、ミルミ・エリンブルグ(焔狐・d04227)が口を開く。
冷静に考えれば、矛盾した事ばかりだと分かるはずなのだが、カリスマ的な指導者がいるせいで、その辺りがぼやけてしまっているのかも知れない。
「いくら操られているとは言え、ここまで酷い事を……」
被害者達の写真を眺め、月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)が表情を強張らせる。
写真に写った少女は原型を留めていないほどバラバラにされており、その表情は恐怖に怯えたまま絶命した事を物語っていた。
そのせいか、まわりにいた人間達も殺人を楽しんでいるように思えた。
「どちらにしても、悪い狐さんの隠れ家を見つけたのじゃ! とにかく、黒幕とやらを倒さねば、な」
怪しげな一団が拠点にしている廃校の前に立ち、水門・いなこ(影守宮・d05294)が旅人の外套を使う。
残念化菜゛ら、千尋達を囮にする作戦は、失敗に終わっている。
おそらく、囮が複数いたためだろう。
もしくは、既に生贄となる少女が囚われているか……。
だが、まだ間に合う。
儀式が行われるのは、決まって真夜中。
それまでは、まだ十分なだけの時間があるのだから……。
●禁断の儀式
「今のは悲鳴……!? まだ儀式には時間があるはずなのに……まさか」
廃校に潜入したファリスはハッとした表情を浮かべて唇を噛んだ。
儀式までは、まだ時間があると思っていたが、連れ去られた少女に適性がなかった場合は、命を奪われてもおかしくない。
そんな不安がファリス達の心を支配し、次第に歩くスピードが速くなっていく。
せめて、ひとりだけでも……。今まで救う事の出来なかった人の分も……。だから、間に合ってほしい。これ以上、犠牲を増やさないためにも……。
そう思いつつ、儀式が行われていると思しき教室の扉を蹴破った。
そこには黒幕と思しき少女……正確には熟女と、生贄となった少女……。
そして、まわりを取り囲むようにして、黒ずくめの男達が十人ほど陣取っていた。
「いかにも、怪しげですね。それ以上に、不気味というか、何というか……。何だか怖いです」
思わず後ずさりしてしまいながら、ミルミがダラリと汗を流す。
例えるなら、漆黒の闇。
しかも、吸い込まれるほどの黒さ。
その中には、何かドロドロしたものが潜んでおり、こちらに向かって沢山の手を伸ばしているように思えた。
「お前みたいなのが、犠牲者を増やしていたって事か」
黒幕と思しき熟女と対峙し、鷲介がスレイヤーカードを構える。
「あら? こんなに大きなネズミ……いえ、ゴキちゃんかしら。……たくっ! これだから、困るわ。どこから湧いてきたのか、イライラする!」
あからさまに分かる殺気を放ち、黒幕と思しき熟女が歯軋りをした。
目が覚めるほどの美しさであったが、それ以上にドス黒い何かが全身を覆っている。
だが、人によっては、そのギャップやアンバランスさに惹かれ、虜になってしまうかも知れない。
「今まで攫われた子達は……、何処に行ったんだ!」
熟女をジロリと睨み、千尋が叫び声を響かせた。
……もちろん、行方は分かっている。
分かっているが、本人の口から聞かなければ、ならないような気がした。
「さあ、どこに行ったのかしら? 燃えないゴミの日。それとも、生ゴミの日……? 潰したのか、埋めたのか、もしかすると、全部かしら? まあ、いいわ。あなた達も同じ運命を辿るのだから……」
そう言って黒幕と思しき熟女が、指をパチンと鳴らす。
それと同時に黒ずくめの男達が儀式用のナイフを構え、殺気立った様子で近づいてきた。
「そう簡単には行きませんよ」
すぐさま魂鎮めの風を使い、リアノアが黒ずくめの男達を眠らせる。
本当は別のタイミングで使おうと思ったが、彼らが動ける限り少女の安全は保証できない。
そこまでの犠牲を覚悟の上で、彼らを放っておく事など出来なかった。
「あら、だらしない。まさか、こんなに早く倒されちゃうなんて。やはり、彼らにも資格がなかったのね。新たな世界で……、いえ、この世で存在する価値もない!」
皮肉混じりに呟きながら、黒幕と思しき熟女が近くにいた男の首を鋭いナイフで掻っ切った。
「まるで物じゃな? そんな事をしてまで、成し遂げねばならぬものとは思えぬが……。それとも、今さら後戻りは出来ぬという事か」
黒幕と思しき熟女の顔色を窺いながら、いなこが生贄となった少女に近づいていく。
だが、それに気づいた黒幕と思しき熟女が、ナイフを構えていなこの行く手を阻む。
「後戻りする事が出来なくなったのは、そっちでしょ? こうなった以上、命乞いをしても無駄よ。みんな、バラバラにしてあげる」
次の瞬間、黒幕と思しき熟女が、奇声を上げて飛びかかってきた。
「それなら、こっちも容赦はしないよ。命懸けであんたを倒すから」
自ら盾となって攻撃を防ぎ、あんずが唇をグッと噛み締める。
少しでも……、ほんの少しでも、良心が残っていたのなら、命を奪う事までは考えなかったかも知れない。
しかし、ここで倒さねば……、命を奪うつもりでなければ、犠牲者は増えていく事だろう。
「本当に、女の子の命だけで世界が救済されるの? それとも、命を代償に悪魔を召還するの? その悪魔に救済して貰うの?」
堂々と恐怖など微塵にも感じていない様子で、緋月が黒幕と思しき熟女に問いかけた。
その途端、黒幕と思しき熟女の表情が一変し、小馬鹿にした様子でフンと鼻を鳴らす。
「そんな事はどうでもいいのよ、実際のところ。世界が滅びようが滅びまいが、あたしには関係のない事だから。それよりも、こうやって可愛い女の子の表情が醜く歪む姿を見ていれば、それでいいの。だから、邪魔をしないで! 目障りよっ!」
まるで鬼のような形相を浮かべ、黒幕と思しき熟女がナイフを構える。
もはや、救いようがない。
……それだけは間違いなかった。
●漆黒の闇
「自分がちやほやされる為なら、何をしても良いなんて……最低です! それに、嘘はいつかばれるものです。今までしてきた事のお仕置き、受けてもらいますよ!」
黒幕と思しき熟女を前にして、ミルミが自らの怒りを爆発させ、レーヴァテインを仕掛ける。
「な、何よ、いきなり! せっかくだから、一緒に楽しみましょうよ。女の子同士でね」
青ざめた表情を浮かべて、ミルミの攻撃をかわし、黒幕と思しき熟女が膝をつく。
圧倒的なほどの差がある力。真正面から向っていったとしても、絶対に勝ち目はない。
それを一瞬にして理解できるほどにまで強烈な一撃。
このままでは死ぬ、間違いなく死んでしまう。
そんな思考が頭の中で回っているが、この状況で逃げる訳にはいかない。
……それ以前に逃げられる訳がない。
「残念ながら、クソ百合女はNGじゃ!」
しかし、いなこ達の攻撃は終わらない。
ファリスもナノナノのシェリルと連携を取りつつ、黒幕と思しき熟女の後を追い詰めていく。
「もう止めましょう。あたしが本気を出したら、みんな死ぬわよ。死んでしまうわよ! ほら、こんな風に!」
恐怖に怯える自分を隠すようにして、黒幕と思しき熟女が不意打ちを仕掛けた。
だが、空振り。見事なまでに空振り。
「……どこを見てるんだい? よそ見してると、あの世行きだよッ!」
大きな胸を揺らしながら、千尋がアクロバティックな動きで相手を翻弄する。
それに合わせて、あんずがソーサルガーダーを使い、緋月が封縛糸を仕掛けて、黒幕と思しき熟女の動きを封じ込めた。
「もう終わりにしようぜ。つまらねえんだよ、お前みたいなヤツはな!!」
そのまま一気に間合いを詰め、鷲介が螺穿槍を仕掛ける。
次の瞬間、黒幕と思しき熟女が大量の血を泡のように吐き捨き、不気味に……笑う。
「ふ、ふふ……。あたしを倒したところで何も変わらない。せいぜい、明日のニュースで、さらりと流すくらいのレベル。どうせ、しばらくすれば、忘れられてしまうのだもの。放っておけば、良かったのに……」
そう言って黒幕と思しき熟女が、ナイフを落として絶命する。
それを見た少女が狂ったように叫び声をあげたため、リアノアが魂鎮めの風を使う。
「ん……お、俺達は……」
その少女と入れ替わるようにして、黒ずくめの男達が目を覚ました。
「お目覚めですか? もし、あなた方に罪悪感があるのなら、どうかその命を粗末にしないでください。確かにあなた方のした事は、決して許される事ではありません。だからといって、自らも死ぬ事で犯した罪がなくなるわけではありません。あなた方に出来る善行は、亡くなった方々の魂に祈り、その日その日を大切に生きる事です」
リアノアはそんな男達の手を握り、ゆっくりとした声で包み込むようにして語り掛けた。
一瞬、黒ずくめの男達は何が起こったのか分からなかったようだが、黒幕と思しき女性の死体に気づき、すべてを悟った様子で『もう……死ぬしかない』と呟いた。
「死んで許されると思ってるの? ……まだ良心が残っているのなら、生きて罪を償いなさい」
黒ずくめの男達に冷たい視線を送り、あんずが厳しく叱りつける。
「生きて罪を償うか? そんな事、遺族が望んでいると思うか? 間違いなく、俺達を目の前にしたら、こう言うさ。死んで償えってね」
自分の罪の重さを理解した上で、黒ずくめの男が投げやりに答えを返す。
もはや、この世に未練はないのだろう。
完全に生きる気力を失い、自暴自棄になっていた。
「だからと言って、死んでも罪を償う事なんて出来ないよ。もちろん、生きていたって罪は消えない。でも、死んで逃げるのだけは絶対に許さない!」
だが、緋月の言葉も……。
「それに、あんた達が死んだところで、今までに殺された子達が戻ってくる訳じゃない。ほんとはもう、どうするべきか分かってるんだろ?」
ファリス達の言葉も……。
黒ずくめの男達には、届かない。
……既に答えは決まっている。
心に壁を作っている人間には、何を言っても無駄な事。
その壁を壊すだけの言葉を吐き出すには、彼らの事を……その過去を知らな過ぎる。
「ならば、我々は死を選ぶ。文句があるなら、地獄の果てまで追って来い!」
高笑いを響かせながら、黒ずくめの男達が一斉に首を切る。
次の瞬間、大量の血が吹き出し、辺りを一瞬にして血の海に変えた。
「♪穢れの無い乙女を集めよう。繰り返し繰り返し集めよう」
「♪アムドシアスが集めよう」
「♪我ら、分裂弱体化。ならばせめての数増やし」
その途端、どこからか音楽が流れる。現われるのは何人もの同じ顔をした女性達。彼女達の下半身は、白い馬と化していた。
「ダークネス!? 何だ、こいつら……!?」
「分裂弱体化? なんだそれ」
鷲介が表情を強張らせる。感じる気配は、普通のダークネスと比べて明らかに弱い。
おそらく、自ら分裂弱体化を歌っている通り、このアムドシアスなるダークネス達は、本来のアムドシアスと比べて弱いのだろう。
そして、歌の内容がすべて真実であれば……。
「……!?」
だが、そんな歌声も、倒された配下達を見て途絶えた。
この様子では、まったく予定外だったのだろう。
まるで昔のアーケードゲームで自機が倒されたような音楽を響かせ、アムドシアス達は回れ右して逃げていく。
「良く判らないけど、逃げるなら追いかけたくなるのが灼滅者の本能だよね」
先走る気持ちを抑えつつ、ファリスがアムドシアス達に視線を送る。
まだ終わっちゃいない。何も終わっていない。
そんな気持ちが次第にファリス達の中で膨らんでいく。
「危なくない範囲で追いかけてみましょうか」
仲間達の気持ちを察し、リアノアがボソリと呟いた。
もしかすると、罠かも知れない。
しかし、ここで見過ごす事が決して正しいとは思えなかった。
「行ってみよう。何か、面白いものがあるかも知れないしね」
そう言って、あんずが仲間達と共に警戒した様子で、アムドシアス達の後を追いかけていった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年2月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 21/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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