鶴見岳の力の行方

    作者:御剣鋼

    ●鶴見岳の力の行方
     ーー鶴見岳での激突。
     その激しい攻防と奇襲戦は未だ記憶に新しいのもあり、武蔵野学園には『鶴見岳の調査を行いたい』という要望が多く持ちかけられていて。
     ……そんな中。
    「なあ、元凶の強い炎獣とか集めた『力』の調査しなくていいわけ?」
     黒髪のサウンドソルジャーの少年が気だるそうに、しかし鋭い赤い双眸でぐるりと周囲を見回せば、同じことを思った多くの有志達が、とある教室に集まっている。
     けれど、その中にはエクスブレインは見られず、灼滅者達だけで……。
    「確かに鶴見岳の力の調査をするなら、今が好機かもしれないな!」
     ソロモンの悪魔の軍勢は撃退され、イフリート達も今はこの場に残っていない。
     白いスーツを着こなしたご当地ヒーローの少年の竹を割ったような声に多くの灼滅者達が賛同するけれど、人を護る事に執着するシャドウハンターの少年の瞳に、ふと影が差す。
    「唯一の不安は……エクスブレインによる、アウトプットがないことかな」
     その声は、あくまで穏健で……しかし大きな不安要素なのは、間違いなく。
     冬の寒風で冷えた教室を静寂を包み込む中、藍色のマフラーで首元をふわりと覆った忍者風の魔法使いの少女が、その静寂を破った。
    「それでも、鶴見岳の調査をした方が良いと思うでござる」
     裏を返すと、今なら緊急の危険はないことを、裏付けているのではないだろうか?
     楽観的だけど物事は軽く考えない少女の言葉に、再び教室に活気が戻った。
    「鶴見岳に『何か異変が起きて無いか』調べてみましょうか」
     腰まで真っ直ぐ伸ばした黒髪と大人しそうな見た目に反し、明るく楽しそうに紫の瞳を輝かせるシャドウハンターの少女に、シスター見習いのエクソシストの少女も満面の笑顔で頷いてみせて。
    「よーし、さっそく鶴見岳の調査団を結成しよう!」
     れっつごーと、元気良く片腕を上げた少女を、温かで確かな笑みが包み込む──。

    ●結成、鶴見岳調査団!
    「『封印』というのは、なんだったのでしょうか?」
     ……イフリートが去った後の『封印』が気になります。
     生真面目そうに眼鏡の奥の赤茶の視線を真っ直ぐ向けるダンピールの少女に、終始眠そうに壁に背を預けていた殺人鬼の少年も、話に耳を傾けようとイヤホンを外す。
    「あー……、確かに何が眠っていたのかは、調べておきたいな」
     再び眠そうに視線を伏せる少年に反して、サウンドソルジャーの少女が大きな瞳をきらきらと輝かせた。
    「鶴見岳の『力』の行方と『力』の性質は調査しておきたいよね!」
     少女のウエーブが掛かった茶色の髪が、冬の木漏れ日を受けて煌めく。
     光に溶け込むように窓辺に佇んでいたエクソシストの少年が、ゆっくり口を開いた。
    「『力』を新たに狙う組織があるかもしれないな……ん?」
     ──ふと、その時。
     大勢の灼滅者達の足元から、ひょこっと青色の髪の少女を顔を出した。
    「謎の洞窟とかがあったり?」
     全力で人見知りを発揮して隠れていた、小さな小さな魔法使いの少女。
     その内気な青色の瞳の奥底は、今は好奇心で満ちて、輝いていて──。

     イフリート達が去った今、何もないかもしれない。
     けれど、何かがあるかもしれない……と。

    「気をつけていこう」
     集まった有志達は頷きあい、それぞれの予測を打ち立ててゆく。


    参加者
    神薙・弥影(月喰み・d00714)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    橘・蒼朱(アンバランス・d02079)
    アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)
    アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)
    天王寺・司(龍装闘士ドラグレイカー・d08234)

    ■リプレイ

    ●別府高原駅前
     調査団が特に目星を付けたのは『司令部跡』と『山頂近辺』。
     天王寺・司(龍装闘士ドラグレイカー・d08234)の提案で司令部が置かれていた高原駅を調査後にロープウェイで移動、鶴見岳山頂に向かう段取りを組んだ一行は、しかし意気消沈していて。
    「噂話とか昔の話とか聞いてみたけど、進展はなかったかな……」
     年配の登山客を中心に聞き込みを行った橘・蒼朱(アンバランス・d02079)は、ほぼ白紙に近いメモを閉じる。
     昔話が好きなのもあり、何かしら変わって伝わっている物があるかもしれないと、しっかり聞き込んだ筈なのに。
    「いえーい、遠足だー……って、じょ、冗談だよ?」
     蒼朱と同じく年配の人中心に情報を集めていたアイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)も脈なしではあったが、いたって元気一杯で。
     今は沈んだ空気を少しでも軽くしようと、盛り上げに徹している。
    「頻繁に鶴見岳に出入りしているような人は、いないようね」
    「……怪しいパワースポットの噂も、ありません……でした」
     1月半ば辺りからの変化の有無を調べていた神薙・弥影(月喰み・d00714)は溜息をつき、弥影と共に行動していた加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)も小さく肩を落とす。
     同じく山に出入りしているような人を中心に聞き込みをしていた迫水・優志(秋霜烈日・d01249)も、実入りは無かったと首を横に振った。
    「おそらく『バベルの鎖』の影響だと思います」
     アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)の地図にもめぼしい印は記されていない。
     言葉使いや態度、質問の仕方に問題はない。
     ただ人々は揃って『良く分からない』というだけなのだ……。
    「一応ネットでも検索してみたが、特に変わったことはなかったな」
     聞き込みの手助けになれば……という想いも、バベルの鎖に阻まれては為す術もない。
     仲間と携帯番号やメールアドレスを交換した司はマナーモードに切り替えると、スーツのポケットにしまう。
    「結局、俺達自身が足を運ばない限り、何も掴めないってことか」
     面倒くさそうに赤色の音楽プレイヤーを止めた音鳴・昴(ダウンビート・d03592)は、全員に地図と携帯端末、双眼鏡、コンパスが行き渡ったことを確認すると、優志も先の戦いの敵布陣を落とし込んだ自前の地図を広げる。
     ソロモンの悪魔の司令部が置かれていたのは高原駅の構内。
     最も熾烈な激戦地となった場所に、一行は慎重に足を踏み入れた。

    ●ソロモンの悪魔司令部跡
    「ここで、多くの闇堕ち者が出たんだよね」
     蒼朱は敬意を払うように、一瞬瞼を落とす。
     再び開いた瞳は眠たげだったけれど、次に繋がる手掛かりを必ず見つけようという意志で強く灯されていて。
     責任重大な仕事だからこそやりがいがある。
     そのことを楽しむように、蒼朱はぐるりと周囲を見回した。
    「ダークネスがいる気配はないな……」
    「特に異常はなさそうね」
     周囲に人がいれば優志が時折その様子を観察し、弥影も不審者が居ないか注意を払うように見回す。
     人が入りにくい場所は彩雪と昴が猫に変身して、滑るように潜り込んでいった。
    「……?」
     アモンがいたという部屋を注視していたのは、アルヴァレス。
     隅にあった鉢植えに視線を止め、植物を見る振りをしながらその後ろを探ると……。
     無造作に放置されていた書類が……!
    「えーと、『緊急報告』?」
     頑張って背伸びをした、アイティアが読み上げる。
     火急の件だったのだろう、殴り書きされた文字からは切羽詰まった様子が垣間見える。
    「奇襲直前に、配下が持ってきた報告書の一部かもしれませんね」
     他にも回収し忘れた重要書類があるかもしれない。
     アルヴァレスを中心に入念に部屋を調べた結果、回収忘れのページを『2枚』入手することが出来たのだった。

     ──宇連研究所周辺で、正体不明のダークネスの動きがある。
     ──何か対策が無ければ、アムドシアスだけでは心許ないので、急ぎ対策指示を……。

     アルヴァレスと弥影が最初の1枚に目を通すけれど、よく分からない単語が多い。
     そして、もう1枚も……。

     ──最優先調査指示にあった、デモノイドの定着度の低下は、宇連研究所に流れ込むコルベイン濃度が不安定になっている事であり、我々の責任では無い。

    「どちらも言い訳じみた報告だな」
    「とりあえず持ち帰るか」
     何ともソロモンの悪魔らし〜い責任のなすり付け合いに優志と司がドッと肩を落としたのは言うまでも無く。
     昴と蒼朱に至っては難しい単語を目にした瞬間、揃って眠りに落ちてしまい、以下省略。
    「撤退してもワナを残すとはー、おのれダークネス!」
    「ええと……やはり、回収忘れだと……思います」
     拳を握りながらも瞳を輝かせる、アイティア。
     彩雪は弥影の背に身を隠しながらも、そっと付け加えたのでした。

    ●鶴見岳山頂
    「ここからは何があるのか、ちゃんと調べないとね」
    「……今までのは冗談だったのか?」
     麓の高原駅から標高1300mの鶴見山上駅までは、約10分。
     西日本最大級ともいえる大型ゴンドラからは別府湾が一望でき、遠くは四国、また鶴見岳西側の九州アルプス・九重連峰を望むことができる。
     開放感の余りに背伸びしたアイティアに昴が鋭い指摘をいれるけれど、地味に甘いのが、お兄ちゃん属性というもので。
    「私は至って超真面目だよ? また他の勢力とかが来ても面倒くさいし」
    「たしかにそれは面倒だ」
     ──しっかりと調査と報告をして学園の管理下において置きたい。
     そう、唇を結ぶアイティアに昴も真摯に頷くと、周囲の警戒に視線を戻す。
    「子供の頃にやった裏山探検を髣髴とさせるよな、こういうのは」
     重く張り詰めていた空気も、少し軽くなったようで。
     七福神巡りとも呼ばれる山上一帯を眺めながら、優志達は山頂にある炎の神を奉る上宮を目指してゆく。
    (「こんな状況でなきゃ、温泉にも回りたかったな……」)
     鶴見岳周辺は温泉の名所が幾つかあるというのも、見所の1つ……。
     誘惑を振り切るように山頂周辺案内マップを凝視する優志をフォローするように、司が代わって周囲を注意深く見回した。
    「加賀谷さん、気を付けて」
    「……はい。人が来たら、すぐに箒から……降ります」
     鶴見山上駅から山頂までは、徒歩で約10分。
     アルヴァレスはスーパーGPSと地図を用いて、自分達の位置の把握と、彩雪のナビゲーターに勤めていて。
     山頂は拍子抜けするくらいに穏やかな遊歩道になっている。春も近い。血と炎で荒れた戦地にも多くの草花が弔ってくれるのも、そう遠くないだろう……。
     それでも。
    (「あれだけのことがあったんだもの、何も起こってないとは思えないわ」)
     空からの偵察は彩雪に、位置の把握はアルヴァレスに任せ、弥影は調査した場所の内容と結果を記録していく。
     自分の眼で確認できる幸運に感謝しながらも、時折過る不安に思わず眉を寄せた。
    「何が眠っていたんだろうね?」
     蒼朱も同じものを抱いていたのだろう、ぽつりと言葉が洩れる。
     そして、そのまま呟くように風に流した。
    「大事なものだからいっぱい集まってたわけで……それなのに」
     ──エクスブレインの言葉がないのが、すっごく不安。
     一刻、流れる沈黙。
     けれど、それを破ったのも、蒼朱だった。
    「やるだけのことはやるまで、危険なものじゃなければいいんだけどね」
    「だとしたら、その現象も含めて調べる必要がありそうね……」
     ──山頂の上宮、石碑、アンテナ塔。
     各々が気になるものも調べてみたけれど、特に変わった様子はなく。
    「ガイオウガ? だっけ、そのために鶴見岳の取り合いをしたんだよね」
    「ん、どうした?」
     不意に口を開いたアイティアに、司は眉を寄せる。
    「火山だし、火の神様を祭ってる所もあるし、最初に動いてたのはイフリートだし、なんだか火に絡むことが凄く多いよね?」
    「火だったら、イフリート陣営の背後方向にあったのは、確か──」
     弥影の言葉と同時に、優志は再び先の戦いの敵布陣を落とし込んだ地図を広げる。
     イフリート勢の背面方向を重点的に見てみると、そこに在るのは──。

    「火口だ」

    ●鶴見岳火口
    「また来ることになるなんて、思いません……でした」
     この近辺は、イフリートとソロモンの悪魔の軍勢がぶつかった場所。
     火口からは薄く蒸気が上がっていたけれど、追い風で見通しはいい。
     箒にまたがった彩雪が蒸気に溶け込むように風になろうとした、瞬間。
    「──!」
     何かを発見した彩雪は、急いで仲間の元へ向かおうと箒を操っていく。
     浮きだつようなワクワクではなく、不安を抱えながら……。

    「ここがイフリート達の本陣なのは、間違い無さそうだな」
    「何が起こるか分かりません、気を付けていきましょう」
     火口付近を注視してみると、如何にも多くのイフリートが集まっていたような形跡が残されている。
     慎重に火口に降りて行く司に続いて、アルヴァレスも些細な兆候も見逃すまいと感覚を研ぎ澄ませた、その刹那!
     一行の前に降り立った彩雪が、静寂を促した。
    「……皆様、見てください、です……!」
     小さな指先が示した方向には、火口に向かって歩く、男の姿──。

    ●黒との会合
     黒い皮ジャンパーを着たサングラスの男が、火口の前で片膝をつく。
     何らかの儀式でもするのかと思った弥影が望遠鏡で覗いてみると、男は静かに黙祷を捧げているだけで。
    「音鳴さん、テレパスで判別できます?」
    「もっと近付かないと……いや、その必要はないな」
     弥影の提案を受け、昴がテレパスを試みようと近づこうとした刹那、男がいる場所が火口に近過ぎていることに気付く。
     周辺の蒸気は熱風を通り越し、普通の人間が容易で近づける場所で無いということは、誰の目で見ても明らかだ。
    「『力』の手掛かりを知ってそうだな、作戦通り仕掛けてみるか?」
     けれど、司達の双眸に映る男の背から感じるのは、深い悲しみのみ。
     酷く落胆し、背を震わせて黙祷を続ける男からは『力』を入手した素振りはなく、戦意すら見られない。
    「よーし、皆で元気づけよう!」
    「えっ?」
     先に戦闘を仕掛けるのか、それとも──。
     アイティアの笑顔に蒼朱が仲間に困惑の視線を投げ掛けた、その刹那。

    『『グオオオオオォォォッ!!!』』
     獣が咽び嘆くような咆哮と同時に、男の体が大きく膨らんだのはッ!
     
    ●嘆きの黒牙
     夕陽に包まれた火口に、高らかに巨躯がぐんと伸びる。
     全身に纏うのは灼熱の炎。その背に迸る炎が夕陽を受けて煌めいた時、誰もが男の正体をダークネス──イフリートだと知る、が!
    「牙の色が?!」
    「綺麗ー、超強そう!」
     かつて遭遇したイフリート達と決定的に違うのは、口元に生えた牙の色。
     その夜よりも色濃き漆黒は、恐ろしくもあり、美しくもあって……。
    「隠れろ!」
     イフリートがあげた2度目の弔いの咆吼に重ねるように、昴が鋭い警告を小さく放つ。
     咄嗟に一同がガレキに身を隠した直後、イフリートは火口に背を向け、こちらへ駆け出して来たのだ。
    (「今は全員無事で、情報を持ち帰るのが、先決だ!」)
     力強い四肢の音と沈黙に似た仲間の吐息だけが、その場を支配する。
     ここにいる全員が強い意志と覚悟をもって挑まない限り、イフリートは甘くない存在だ。
     けれど、その時の覚悟を強く持っていた者は昴だけ。だから彼は「刺激させない」ことを選択したのだ。
    (「さゆたち、ちゃんとおうちに帰らないといけないんです……」)
     息を潜めていた彩雪の側を、漆黒の牙を持つ屈強なイフリートが、気付くことなく通り過ぎて行く。
     ガレキからそっと顔を覗かせた彩雪の瞳には悲しみに打ちしがれ、哀愁を漂わせたイフリートの背中だけが残った。
    「俺達B班が尾行する、A班はイフリートがいた辺りを直ぐに調べてくれ」
     ──また戻ってくるかもしれない。
     周囲警戒も兼ねて優志、弥影、彩雪がイフリートの追跡に向かうと、少し遅れてアリアドネの糸を貼った蒼朱がその後を追う。
     残されたアルヴァレス、アイティア、司、昴も己らに課せられた任務を全うしようと、直ぐに調査に回った。
    (「僕達は、まだまだ他のダークネス達に敵わないです」)
     先程のダークネスも、見過ごすことしかできなかった。
     ──もし、この地に『力』があれば。
     ──それが護る為の『力』になるなら、僕は──。
     喉元まで込みあげてきた想いを殺すように、アルヴァレスは唇を強く噛んだ。

     アルヴァレス、アイティア、司がイフリートがいた辺りを重点的に調べ、猫に変身した昴が狭い所もくまなく調べあげて行く。
     しかし、何らかの儀式魔法を施した形式は見当たらず、サイキックの変調や異変等は全くといっていい程、感じられない。
     そして、A班が周辺の調査を無事に終わらせたのと同時に、蒼朱の糸を頼りにB班が戻ってきた。

    「すまない、途中で見失ってしまった」
    「大丈夫、こっちも何もなかったからー」
    「えぇ!?」
     沈んだ優志の声にアイティアの機転が重なり、笑みに変わる。
     互いに労った両班は、それぞれの推測と情報を折り合わせて行く。

    ●黄昏と漆黒と
    「鶴見岳に戻るのが遅れて、参戦できなかったイフリートかもしれないわね」
     それならば彼が何もせず、ただ黙祷していっただけというのも頷ける。
     むしろ、弥影の瞳には、それしか出来なかったことを悔やむかのようにも、みえて……。
    「当分、ここでサイキックエナジーが関わる面倒くさそうな事件もなさそうだな」
     イフリートの落ち込みようからも、ガイオウガが直ぐに復活することはないだろう。
     昴の推測に優志も強く頷き、思案するように指先を顎に添えた。
    「今回集めた情報を元に、俺達はどう動こうか……?」
     優志の問いかけに素早く応えたのは、アルヴァレスだった。
     他にめぼしい情報もなく、聞き込みも空振りだった今、ここに留まる理由はない、と。
    「今は、学園に帰還するのを優先した方がいいと思います」
     ──ここに『力』はない。
     その事実を伝える他にも、持ち帰るべき情報は、とても多い。
     成果の全てを報告するには全員の帰還は必須だと、チェーンソー剣を構え直す。
    「そういえば、イフリートの少女と接触する作戦も進行していたよね?」
    「なら、なおさら急ぐ必要があるな」
     相槌を打ったアイティアに続いて、司が携帯端末を取り出す。
     端末内は、バス等の交通手段や時間帯を中心に、カスタマイズされていて。
    「帰路にも活かされることになるとは、思っていなかったぜ」
     本来は聞き込みの時間を考えてのものだったと、司は苦笑する。

     颯爽と山を下る優志の願いに答え、若々しい草木が身を捻り、一筋の路を造り出す。
     形成された小道から香る初春の息吹に瞳を細め、蒼朱は想う。

     悲しみの咆哮をあげ、独り去っていった、あの黒き牙のことを──。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 45/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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