戯れに、遊ぶ

    作者:日向環

     空は、血のように赤かった。
     地面は血の海。
     その血の海に沈んでいる人、人、人。
     ある者は学生服を着ており、ある者はジャージ姿……。
     全身から血を流し、倒れたまま動かない。
    「さて、ここで問題です。僕は今日、何人殺したでしょう?」
     腰を抜かしてしまっている男子学生に対して、ずいっと顔を近づけ、彼は楽しそうに微笑んだ。
    「ひゃ、126人」
     怯えながらも、男子学生は答えた。
    「ほえ!? 正解だよっ。当てずっぽうなんだろうけど、キミ、良い勘してるね」
    「へ、へへへ……。あ、当たった? だ、だったら、俺、殺されないですむ、よな?」
    「ああん? 何言ってるの? 正解を出したら助けてあげるなんて、僕、一言も言ってないよ?」
    「え?」
    「そういうわけ。じゃ、バイバイ」
     鋭利な何かが、風を切る。
     男子学生の首から、鮮血が勢いよく吹き出す。
    「127人め。128人めは、あの女の子にしよう。武蔵坂の灼滅者くん達は、まだ来ないのかな? 早く来ないと、この高校にいる子たち、全員死んじゃうのに」
     彼は愉快そうに笑うと、怯えきっている女子学生の首を刎ねた。
     
    「六六六人衆の行動を察知した」
     エクスブレインの少年の表情は、心なしか強張って見える。
    「名前はシルヴァーニ・ギュンスブルグ。現在の番号は499番。銀色の髪を持つ、美青年だ」
     甘いマスクに似合わず、かなり残虐な性格の持ち主らしい。
    「既に情報が公開されているので知っている者も多いと思うが、六六六人衆のターゲットは、恐らくキミたちだ。連中は灼滅者が来るのを待っている節があり、武蔵坂の灼滅者を闇堕ちさせようという意思を感じる」
     それだけに、慎重に対峙せねばならない。
    「シルヴァーニ・ギュンスブルグは、埼玉県のとある高校に現れる。キミたちが向かわなければ、部活動中の学生が大量に殺害されてしまうことになる」
     高校のすぐ近くに整備中のグラウンドがあり、シルヴァーニ・ギュンスブルグはそのグラウンドを横切って高校に向かうらしい。
    「整備中のグラウンドということもあって、部活動は行われていない。戦闘を行うには最適の場所だと思う」
     この場所でシルヴァーニ・ギュンスブルグを撃退し、大量虐殺を防いで欲しいと、エクスブレインの少年は言った。
    「やつは黒死斬、ティアーズリッパー、鏖殺領域に加え、紅蓮斬と月光衝を使ってくる。ベルトでガチガチに固めた白い拘束服を着用しているようだ。目立つからね、直ぐに分かると思う」
     相手は1人ではあるが、400番台の六六六人衆ということもあり、かなりの強敵だ。
    「やつは、序列に対してはあまり固執していないようだ。自分が楽しんで殺人ができればいいと思っている。ある意味、厄介な性格だよ」
     弱いものをいたぶって殺す。シルヴァーニ・ギュンスブルグは、そこに自らの快楽を求めているという。
    「今回は、一般人の殺戮を止めることが第一の目的だ。、闇堕ちする者が出ないならば、出ない方が望ましい。心して、作戦にあたって欲しい」
     エクスブレインの少年は、そう言って話を締めくくった。


    参加者
    月見里・都々(どんどん・d01729)
    柊・志帆(浮世の霊犬・d03776)
    碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    四条・識(ルビーアイ・d06580)
    高宮・綾乃(運命に翻弄されし者・d09030)
    ラーセル・テイラー(偽神父・d09566)
    柴・観月(メルヘンに寄る・d12748)

    ■リプレイ


     肌を切るような冷たい風が、吹き付けてくる。
     空は青く澄んでいたが、ごうごうという魔物の呻り声のような音を響かせている。
    「出番まだかなー」
     整備中のグラウンドの隅っこの方で、月見里・都々(どんどん・d01729)は待機していた。間もなく、このグラウンドに六六六人衆が現れるはずだ。武蔵坂学園の灼滅者達は、迎え撃つべく、この場で待ち構えているのだ。
     ラーセル・テイラー(偽神父・d09566)は、無言で佇んでいた。サングラスの奥の瞳が、どこに向けられているのかは分からない。
    「400番台…。強敵だ、解ってる。大丈夫…大丈夫」
     逸る気持ちを抑えるように、柴・観月(メルヘンに寄る・d12748)は「大丈夫」を繰り返す。
     500番台の六六六人衆にすら苦戦している状況の中、今回自分達が相対するのは400番台。緊張するなという方が難しい。
     風に乗って、奇声のような声が背後から聞こえてきた。ビクリとなって、高宮・綾乃(運命に翻弄されし者・d09030)は振り返る。そこにあるのは、高校の校舎。ふざけ合っている学生達の声が、風に乗って流れてきたのだろう。
    (「…私達を挑発するのに相当な数の人を殺す? まったくもって、迷惑な話ですね…」)
     校舎を仰ぎ見ながら、綾乃は思った。そんなこと、看過出来るわけがない。何としてでも、止めねばと。
    「闇堕ちを考えている者はいるか? 予め、把握しておきたい」
     仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)の言葉を耳にした瞬間、皆の表情に緊張が走った。
     六六六人衆の目的は「武蔵坂学園の灼滅者を闇堕ちさせる」ことだと聞く。ならば、自分達を闇堕ちさせる為には手段を選ばない可能性が高い。
    「意地でも闇堕ちはしねぇ…くらいの気概で望まねぇと、相手の思う壺なんだがな」
     四条・識(ルビーアイ・d06580)が吐き捨てるように言った。
    「本末転倒な気もするけど…」
     それでもと、柊・志帆(浮世の霊犬・d03776)は手を挙げた。霊犬のコペルは、不安そうに主の顔を見上げた。
    「覚悟はしてきている。だが、状況にもよるな」
     手を挙げながら、碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)は言った。勇気ある撤退を決断しなければならない時もあると、爾夜は考えていた。
     今回、自分達はギリギリまで粘るつもりだった。しかし、残っていた者達が全員闇に墜ちていまったら、誰が負傷者を救護するのだ。負傷者を抱えて離脱しなければならないような、最悪の状況もあり得るのだ。
     次いで、都々、綾乃、観月が意思表示した。
    「分かった。…その時は、理性が残ってるうちに、追い払う。勿論、そんなこと無ければいいのだが」
     メイテノーゼは、仲間達の顔を見回した。
    「そろそろ時間だ」
     ラーセルが薄く笑った。
    「グラウンドに人はいない。大丈夫だ」
     念の為、観月は事前にグラウンドに残ってる人影が無いか確認をしていた。
     爾夜がサウンドシャッターを展開した。戦闘音を耳にした学生達が、不用意に近づいてこないようにする為の配慮だ。
    「殺意放つと喜びそうだけど」
     同時に志帆が殺界形成を張り巡らす。これで、一般人対策は万全のはずだ。
     一際強い風が、グラウンドを吹き抜けていった。
     瞬間、肌が粟立った。
    「来たね。じゃ、張り切っていこうかー」
     勤めて明るい声で、都々は言った。グラウンドの隅、自分達とは対面に人影が見えた。悠々とした足取りで、こちらに向かって歩み寄ってくる。
    「なあ。ああいうのをぶん殴って強制すんのって、神父の役割なんだろ? 頼むぜ?」
     識に声を掛けられたラーセルは、へらりと笑むとスレイヤーカードを取り出す。
    「隣人に、幸在れ」
     灼滅者達は素早く陣形を整える。
    (「今回は闇落ちなしで敵を撤退に追いやりたいが…。さて、どうなるやら…」)
     近づいてくる人影を、爾夜はじっと見据えていた。
     人影が、灼滅者達の目前に迫った。
    「…お出迎えしてもらえるとは思わなかったな」
     銀色の髪を持つ美青年が、嬉しそうに笑った。


    「手間が省けていいんだけど、よく僕がここに来ることを知ってたね?」
     銀色の髪を持つ美青年――シルヴァーニ・ギュンスブルグは、薄い笑みを浮かべていた。しかし、彼の問いに答える者はいない。
    「あなたの思い通りになんてさせるつもりはありませんからね…覚悟して下さい!」
     綾乃は武器を構える。
    「ふん…かかってこいよ、ド外道。格の違いってヤツを教えてやる」
     識が凄んで見せた。シルヴァーニは楽しげな笑みを浮かべる。
    「格の違い、ね。だったら僕に見せてよ。その格の違いってやつをさ」
     シルヴァーニは無防備に両手を広げた。ノーガードだ。さぁ、どこからでもどうぞ。彼の表情からは、そう読み取れた。
    「お望みどおり、教えてやるよ!」
    「行くよ、コペル!」
    「悪しき者は滅びよ」
    「連撃いっくぞー!」
     識が口火を切り、志帆とコペル、爾夜と都々がそれに続き、残りの者達も一斉に攻撃を叩き込んだ。
     8人と1匹による。烈火の如き集中攻撃。
     土煙が舞い上がる。
     シルヴァーニが立っていた場所には、何もなくなっていた。地面が抉れ、集中攻撃の爪痕だけが残っている。
    「くっ、ははは! なあ諸君、単身で攻めて来た割には、此の程度だそうだ」
     ラーセルが天を仰ぎながら嘲笑した。
    「…おめでたいね」
     背後から愉快そうな声が聞こえた。慌てて振り返ると、いつの間にか後方に回り込んでいたシルヴァーニが、気怠そうに拍手をしている。
    「避けるつもりはなかったんだけど、体が勝手に動いちゃった。お詫びにさ、陣形を整える時間をあげるよ」
     反撃できるタイミングだったのだが、シルヴァーニはその権利を放棄した。
    「さすがの戦闘力だな。けどそれだけじゃオレ達には勝てねぇよ」
     識はロケットハンマーを肩に担ぎ、不敵に言い放った。
    「余裕のつもりか? それが、お前の命取りだ」
     メイテノーゼが黒死斬で仕掛け、
    「私の魂の歌を聴けー!」
     都々がバイオレンスギターを掻き鳴らした。綾乃の妖の槍が、唸りを上げて突き出された。
     手応えがあった。しかし、
    「ふ~ん」
     シルヴァーニは白い拘束服に付いた汚れを払う。直撃したかに思えたが、ダメージを与えたという実感がない。
    「ここで僕を待っていたくらいだから、僕らの『遊び』については、ある程度知ってるのかな? …キミ、僕に向かって、思い通りにはさせないとか何とか、言ってたもんね」
     相変わらず薄い笑いを浮かべながら、シルヴァーニは綾乃の顔に目を向けた。そして、軽く人差し指を突き立てる。
    「だからさ。キミ達の中の誰か一人が闇堕ちしたら、今回はキミ達の勝ちでいいよ」
    「ふざけやがって!!」
     激高した識が大震撃を放つが、シルヴァーニはひらりとそれを躱すと、どす黒い殺気を放出した。
     次々と攻撃を繰り出す灼滅者達。だが、シルヴァーニはのらりくらりと攻撃を捌く。
    「ただ逃げ回るだけかね? もっと楽しもうじゃないか。ん?」
     へらりへらりと胡散臭い笑いを浮かべながら、ラーセルが挑発した。未だ、シルヴァーニはまともな反撃すらしてこない。灼滅者達の怒濤の攻撃に手も足も出ない…という様子は微塵も感じられない。攻撃を見切り、余裕で回避している。
     だが、それでもノーダメージではないはずだ。僅かずつでも、相手の体力を削っていると思いたかった。
    「…これが精一杯。知ってる、それぐらい」
     縛霊撃で仕掛けながら、観月は小さく呟く。今の自分達が束になっても、灼滅までは出来ない相手なのか、戦う前から分かりきっていたことだ。灼滅できないまでも、今回は追い返せれば御の字。任務は成功と言える。
     だから、必死になって抗う。
     でも、戦力差は歴然。
    「これほどの差を見せ付けるって…。ほんと戯れに遊ばれてるだけ…でも、まだだよ」
     志帆は短い気合いと共に影を伸ばす。
    「喰らえ…!」
     爾夜の放ったバスタービームが、影の触手に気を取られているシルヴァーニの右腕を掠めた。更に、死角に回り込んだメイテノーゼの斬撃が襲い掛かる。
    「!」
     咄嗟に体を巡らしたが、メイテノーゼの放った一撃は、シルヴァーニの右頬に傷を付けた。
    「へぇ…。やるじゃない」
     うっすらと滲み出た自らの血を右手の親指で拭うと、シルヴァーニは満足そうに笑んだ。
    「お前は興味本位で来たんだろうな。けど、好奇心は猫をも殺す…ってな。引け、これ以上やったらただじゃ済まないぜ?」
     次は俺の番だと、識が身構えた。
    「…どう、ただじゃすまないって?」
     背後でシルヴァーニの声が聞こえたかと思うと、激痛が走った。
    「が、がはっ」
     日本刀の刃が、自分の胸から突き出ている。
    「シキティ! 打倒、499番! 499番の思い通りにさせてたまるか!」
     識を救おうと、都々がチェーンソー剣を振り上げて突撃した。
     シルヴァーニは識の背中に突き刺した日本刀を無造作に引き抜くと、都々の攻撃を紙一重で回避した。
    「キミ達の実力は分かった。それじゃ、少し痛い思いをしてもらおうかな」
     シルヴァーニの瞳に、残忍そうな色が宿った。


     一方的と言っても過言ではなかった。
     自分達はただ、楽しげに動き回るシルヴァーニの姿を見ていただけだったような気もする。
     無我夢中で戦った。
     庇い合い、回復し合い、声を掛け合い、一心不乱に。
     1人、また1人。仲間達が倒れていく。
     3人目の仲間が倒れた。
     戦える者は、霊犬のコペルを入れて6人。
    「つまんないな。早く誰か闇堕ちしてよ」
     倒れている都々の脇腹を、シルヴァーニは爪先で蹴飛ばす。意識を失っているらしく、都々の反応がないので、不愉快そうに舌打ちした。
    「い、意地でも堕ちるか…っ」
     識とラーセルは、倒れても尚、まだ意識が残っていた。
    「しなくても御前ぐらい倒して見せる」
     胸を張った観月の死角に飛び込み、彼の身を包むストリートスタイルごと、彼の肉体を深々と斬り裂いた。
    「ぐふっ!?」
     瞬間、体の力が抜けた。観月は膝から崩れるように、地面へと倒れる。
    「参ったね…」
     惨状を目の当たりにして、メイテノーゼは口元に笑みを浮かべた。笑っていられる状況ではないのは充分に分かっている。しかし、こうまで圧倒的な強さを見せつけられてしまうと、最早笑うしかない。
     高校の校舎の方から、笑い声が流れてきた。彼らは、自分達を守ろうと、命懸けで戦っている者達がいることを知らない。もちろん、自分達が命の危機に晒されているということも。
     シルヴァーニが、校舎の方に顔を向けた。
    「必ず、殺戮は止めて見せる…!」
     爾夜がバスタービームを放ち、シルヴァーニの意識を自分達へと向けさせる。残ったメンバーだけでは、もうこの六六六人衆を止めることはできないだろう。まともに戦っては、の話ではあるが。
    「キミ達、闇堕ちしないつもり? 僕の思い通りにはさせないって、そういうことだったのか」
     シルヴァーニは不服そうに鼻を鳴らした。
    「仕方ないな…」
     あからさまに大きな溜息を吐くと、足下に倒れている識の胸ぐらを掴みあげた。
    「やめてください! 四条さんはもう戦えません!」
     制する綾乃に、シルヴァーニは残忍な瞳を向ける。
    「知ってるよ? この怪我じゃ、数日はまともに動けないよね。だからさ、楽にしてあげようと思って」
    「…て、てめぇ」
    「誰も闇堕ちしてくれないみたいだからさ。試しにキミ、死んでみせてくれる? 仲間が死んだら、さすがに誰か1人くらい、キレてくれるでしょ?」
     シルヴァーニが向けてきた目を、識はまともに見た。人間を殺すことに対して、何の躊躇いもない目。いや、むしろ殺すことに快楽を求めている者の目。狂気の目だ。
     ――殺される。
     本能でそう悟ったが、識にはもうどうすることもできない。
     メイテノーゼが縛霊手を突き出して詰め寄る。だが、シルヴァーニは軽くそれをあしらう。
    「そんなやつを殺すより、俺を殺した方が楽しいぞ」
     ラーセルの口調は、先程までのへらへらした口調とは打って変わった響きを持っていた。身動きが出来ない状態ながらも、最後の挑発を試みる。一瞬でいい。一瞬だけでも、やつの注意を逸らすことができれば…。
    「顔こそ綺麗だが豚みてぇだな」
    「そうかい。そんなに死にたいのなら、キミの方から先に殺してあげるよ」
     シルヴァーニはラーセルの元に歩み寄ると、日本刀を振り上げた。


     仲間の死。
     それだけは避けたかった。
     例えそれが本末転倒でも、例えそれが一期一会の出会いだったとしても、大勢の見知らぬ誰かの命を守る為ではなく、目の前の仲間の命を救うことになるのなら――。
    「コペル! アイツをぶん殴るよ」
     志帆はコペルに声を掛けると、闇へと堕ちた。
     みんなには大切な誰かが居る。だけど、自分にはコペルしかいない。
     ――だから、気にしないで。
     爾夜の耳には、志帆がそう言ったように聞こえた。
    「…悪趣味な遊びは終わりですよ、六六六人衆」
     闇堕ちを誘っても無意味だと、強気に振る舞っていた綾乃だったが、志帆が堕ちる気配を察知して、枷を外した。
     ――そんな事になるのは、自分だけでいい。
     そう思ったいたのだが、僅かに遅かった。
    「くっ…」
     メイテノーゼは悔しげに唇を噛んだ。
     対して、シルヴァーニは愉快そうに声を上げて笑う。
    「あはは…! 堕ちた。堕ちたよ。それも2人だ」
     志帆と綾乃が凄まじい勢いで突進してくる。今までとは段違いの動き。
     拳の連打と影の触手が同時に襲い掛かった。
    「痛い、痛いぞっ。あははは…!! 僕に傷を負わせるなんて、キミ達面白いよ。すごく面白いよ!」
     シルヴァーニの哄笑が、次第に小さくなっていく。
     志帆と綾乃が追う。
    「約束通り、僕の負けでいいよ。それじゃあね、バイバイ」
     シルヴァーニの気配が消えていく。


    「…すまない」
     シルヴァーニ、そして志帆と綾乃が消えた方角を見詰めたまま、メイテノーゼは力無く呟いた。
    「…銀髪野郎は?」
     意識を取り戻した観月が、苦しげな息を吐きながら問うと、爾夜は小さく頭を振る。
    「逃げたよ」
     無念そうな爾夜を不審に感じた観月は、どうにかこうにか体を起こすと、周囲を見回した。
     志帆と綾乃の姿がない。それで、観月は全てを悟った。
    「499番…!」
     同じく意識を取り戻した都々が、苦しげに呻いた。仲間を守る為なら墜ちて盾となるつもりだったのだが、どうやら守られたのは自分の方だったようだ。
    「気に食わねぇ…」
     識が吐き捨てるように言った。昔の自分を見ているようで、気にくわないやつだった。だからこそ、一泡吹かせてやりたかったというのに…。
     狩られる側の気持ちを味あわせてやろうと、そう思いラーセルは受けた依頼だった。だが、その想いは無残にも打ち砕かれてしまった。
     冷たい風が、静寂を取り戻したグラウンドを吹き抜けていく。
     残された彼らは、この場から動くことができず、冷たい風を体に浴び続けていた。

    作者:日向環 重傷:月見里・都々(どんどん・d01729) 四条・識(ルビーアイ・d06580) ラーセル・テイラー(偽神父・d09566) 柴・観月(星惑い・d12748) 
    死亡:なし
    闇堕ち:柊・志帆(常世の魔犬・d03776) 高宮・綾乃(運命に翻弄されし者・d09030) 
    種類:
    公開:2013年3月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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