ヤンデレ? ヤンデル? 淫魔ちゃんの逆襲!

    作者:一文字

    ●代名詞的なアイテムが包丁と決まったのは誰の影響だろうか
     月明かりさえ遮られた薄暗い部屋に金属と石の摩擦音が響く。
     少女の細い指が刃先を押す。シャーッと音を立てる度に滲む研ぎ汁がキメ細やかな肌を汚すが、少女は構わず続けた。
    「あいつだけは……あいつだけは……」
     うなされるような呟きに孕むのは憎悪。怨念にも似た呪詛だった。
     理由は数時間前に遡る。好みのタイプの男性を見つけた少女は、自らの美貌を駆使して彼を誘惑した。経験上、己の美しさに平伏しない男などいやしなかった。
     しかし少女の思惑は呆気なく崩れることとなる。
    『俺はもっとふくよかな女性が好きなんだ』
     体型が些か痩せ過ぎ気味な少女は根本から合わない。好みの問題だから致し方ないとも言えたが……淫魔である彼女のプライドが敗北を許さなかった。
    「あいつだけは絶対……絶対許さない……」
     この美貌こそ己の全て。それを否定されるなどあってはならない。
     だから……なかったことにしよう。奴の発言を。奴の存在を。
    「……あんたがいけないんだから。アタシのモノにならないなら……いらない」
     光沢を失った彼女の瞳には、研ぎ澄まされた包丁が映っていた。

    ●デレがあればヤンデレ、デレがなければヤンデル
    「淫魔が相手を誘えなかったんだから世話ないわね」
     勾坂・千影(高校生エクスブレイン・dn0067)は開口一番そう毒づいた。
    「今回の敵は淫魔。誘惑に乗ってこなかった相手を逆恨みして殺そうとしている。俗に言うヤンデレなのか、それとも単にヤンデルかは分からないけど」
     淫魔は業物レベルまで研ぎ澄まされた包丁片手に男性を襲うと思われる。当然一般人である男性が逃げられるはずがない。捕まって惨殺されてしまうのがオチだろう。
    「事件を解決する手段は淫魔の灼滅。もちろん男性が殺られてしまっては元も子もないわ。彼の救出も忘れないで」
     次に詳細を続ける。
    「淫魔が対象を襲う時刻は深夜。男性のシフト表から遅番の日を割り出して会社帰りの彼を狙うつもりよ。……どういう手段でシフト表を手に入れたかは敢えて言及しないわ」
     何だか話がホラーチックになってきたが、あまり気にしないでおこう。
    「職場から自宅への道は人通りが少ないから、被害に関しては気にしなくていいわよ。ただ……逆を言えば何処でも犯行を行えるってこと」
     加えて彼女は屈強な男2人を部下として従えている。男性保護の面でも戦闘の面でも注意するに越したことはない。男性を保護した上で灼滅するのが無難だろうが、保護方法や戦闘手段に関しては一任したい。
    「淫魔はサウンドソルジャーと解体ナイフ、部下はそれぞれバイオレンスギターとWOKシールドと同等のサイキックを操る。どいつもこいつもバカみたいに突進してくる訳じゃないから、こちらも息を合わせて動かないと面倒になると思うわ」
     一通りの説明を終えた千影は資料を閉じる。
    「完全にタガが外れた相手はなまじ強い相手よりも厄介よ。地獄の果てまで獲物を追うでしょうから、何としても阻止して。……灼滅も救出も大切だけれど、貴方達の無事も大事な要素よ。帰ってこないなんて許さないから。無事を祈っているわ。行ってらっしゃい」


    参加者
    春宮・さくら(暴走機関車・d00185)
    朱羽・舞生(狙撃魔法操者・d00338)
    向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)
    蓮華・優希(かなでるもの・d01003)
    椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)
    三月・七日(トリックスター・d02181)
    アンナ・ローレンス(悪魔のりんご・d05959)
    リアノン・ドリームズ(きりんぐましん・d12407)

    ■リプレイ

    ●ヤンデレには色々種類があるらしい
    「寒ぃ……今日も冷えるなぁ……」
     男性は深夜の路地を身を縮めて歩く。その背後には、闇纏いを展開して尾行する5人の姿があった。
    「ヤンデレ淫魔……。プライドを傷つけられたら怒るのも仕方ないけど、もっと努力してバシッと見返してやろうとは思わないのかなー、なんて」
     春宮・さくら(暴走機関車・d00185)が呆れ気味に呟くと、向井・アロア(晴れ女だよ・d00565)はココア片手に不満を漏らす。
    「デレじゃないよ、ただのデル! デル! こんなジコチュー女に付き合ってらんないよ。どうせ大して好みでもな――ぐむっ!?」
    「声が大きいですよー。尾行中ってこと忘れないで下さいね」
     朱羽・舞生(狙撃魔法操者・d00338)がアロアの口元を塞ぐ。男性はさておき、淫魔が潜んでいる以上、あまり目立つのは得策ではない。
     しかしアロアの言い分も尤もである。三月・七日(トリックスター・d02181)は同意するように言う。
    「フラれて逆ギレしてヒス起こすとか、何て迷惑極まりない。男も男だ。相手が傷つかないフリ方とか言い回しとかあるだろうが、全く。優希もそう思わないか?」
     始終黙って男性を見つめていた蓮華・優希(かなでるもの・d01003)が初めて振り返る。
    「ボクはちょっと同情してるかな……あちらに」
    「え? 悪ぃ、聞こえなかった。何て?」
    「……いや、何でもない」
     昨日の娘、ちょっと勿体無かったかなぁ――テレパスによって優希が読み取った男性の表層思考である。そこから彼女なりに思うところがあったのだろう。
     その時、空から声が響いた。
    「うぅ、寒いなッ! 冷えるなッ! 帰ったら温かい物でも飲むかッ!」
     一行は驚いて上空を見る。しかし何となく声の主が分かったアロアだけは肩を竦めた。
    「アンナ……声でかいよ……」
     星が散りばめられた夜空にも3つの人影があった。

     同時刻、上空にて。
    「それにしても夜景が綺麗なんだぞッ! 空気が澄んでいるなッ!」
     空飛ぶ箒に跨ったアンナ・ローレンス(悪魔のりんご・d05959)は眼下に広がる夜景を楽しんでいた。
     対して、隣を飛ぶ椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)は浮かない顔。
    「自分の一番自信を持っていたものが崩れた時、人はどうなってしまうのでしょうね……」
     ちょっと笑えません、と呟く紗里亜。淫魔は己のプライドを木っ端微塵に砕かれたのだ。もしかしたら壊れるには十分な理由だったのかもしれない。
     アンナは紗里亜を一瞥したが、しんみりとした空気を払拭するようにすぐに笑顔に戻った。
    「ヤンデレっつーのは、何だアレだ、そこまでそいつのことが好きなのかッ! 一途だなッ! まァ、これはプライドの問題なのかッ! 気合と根性だなッ! ヤンデレも気合だッ!」
    「気合系ヤンデレ……新しいジャンルですね。さっぱりキャラクター性が読めません」
     リアノン・ドリームズ(きりんぐましん・d12407)は小首を傾げる。瞬間、彼女の視界の端で何かが動いた。
    「……あら?」
     男性の前に突如現れた3つの影。正面に立つ女の手元には月明かりに輝く刃物が見えた。
     リアノンは2人に視線で合図を送る。2人も気づいていたようで徐ろに頷いた。
    「では行きましょうか。作戦開始です」
     リアノンの箒が急激に傾き、地上へと急降下を始めた。

    ●一説では病んでるツンデレという意見も
    「お、おおおおお、お前はっ……」
     完全に腰を抜かした男性は這うように後退る。淫魔は無機質な瞳で彼を見下ろしながらゆっくりと近づく。
    「あんたがいけないのよ。アタシを認めないから……あんたがァ!」
     包丁が大きく振り上げられる。男性は咄嗟に目を瞑った。
     しかし感触は正面ではなく背後から現れた。
    「あなたに天国をお約束しましょう」
     突如現れたリアノンが怪力無双によって男性を抱え上げていた。予期せぬ乱入に動きを止める淫魔。リアノンはニコリと微笑み、再び空へと急上昇した。
    「あっ……ま、待ちなさい!」
     淫魔は自宅方面へ飛んでいくリアノン達を追おうとする。直後、アンナと紗里亜が行く手を遮るように着地した。
    「ここから先は行かせませんよ」
    「ターゲットは頂いていくぞッ! お兄ちゃんとは運命感じちゃったッ!」
    「チッ……こうなったらっ」
     淫魔は後方からの迂回を試みる。しかしそちらには尾行していた地上班が待ち構えていた。
    「残念、こっちも通行止めだよ」
     してやったりと自信満々に告げるアロア。優希は小さくなっていくリアノンの姿を見送ってから、淫魔に視線を向けた。
    「再告白するにしては物々しいね?」
    「バカ言わないでよ。アタシの魅力が分からない奴なんていらない」
    「……自分のものにならないから、とか何か理由が下らないですねー」
     舞生の挑発に淫魔の殺気が強まる。
    「……邪魔するの?」
    「普通の痴話喧嘩なら通してやったけど、そんな感じでもなさそうだろ?」
     七日は飄々と答えながら手の中で得物を軽やかに回す。
    「話くらいなら聞くけれど」
    「……いい」
     優希の言葉を蹴って、淫魔は包丁を握る。控えていた部下達もまた各々の武器を構えた。
    「アタシはあいつを殺れればいい。ゼッタイニブッコロス!」
    「カタカナで喋れば怖いと思ったら大間違いです。そんなだからデルなんですよ」
    「舞生さん、ツッコミどころ違う――じゃなくて! えっと……み、みんな今日はビシッと頑張ろうね!」
     割と力技でまとめに入るさくら。斯くして両陣営は薄暗い路地で激突した。

    ●今回はヤンキーなデレの話ではありません
    「レディース・アンド・ジェントルメン! イッツ・ショータイム!」
     七日が高らかに指を鳴らす。それに呼応して、刃と化した影がギターを手にしたジャマーを斬り裂いた。
    「……っ」
     優希は地面を蹴ると同時にWOKシールドを展開。顔を庇うように交差した淫魔の両腕を殴りつける。
     ジャマーはすぐさま主の許に駆け寄ろうとするが、そこへ舞生が立ちはだかった。
    「貴方の相手は私達ですよ」
     舞生の影がゆらりと揺蕩い、一気にジャマーを呑み込んだ。暗闇の中で藻掻いて何とか外へ這い出た途端、今度はさくらが肉薄する。
    「バシッと行くよー!」
     さくらの拳に雷が奔る。懐に入り、下から抉るように突き出した拳が相手の顎を完璧に捉えた。ジャマーは潰れた蛙のような呻き声を出しながら宙を舞い、地面を転がる。バシッと言うか、ゴキッとかグシャッに近い感じである。
    「や、やり過ぎた……?」
    「よーし、次はアタシに任せておけッ!」
     キルケ、とナノナノに合図を送り、アンナも指輪を構える。キルケのしゃぼん玉は目標であるジャマーに命中したが、制約の弾丸は割り込んできたディフェンダーに阻まれた。
    「……無事か?」
     ディフェンダーは味方の安否を確認しながらワイドガードを展開。
    「むむっ、やるなッ! 味方を庇うとは見上げた根性だぞッ!」
    「茶化しおって!」
     ジャマーはアンナを押しのけ、さくらの前に出る。
    「よくもやったな! これで返すぞ!」
    「きゃっ!」
     巧みなギターテクニックでさくらを殴打。防ごうとした腕にビリビリと痺れが走る。
     ジャマーは再びギターを握り直す。次の瞬間、脇腹に鋭い衝撃が押し寄せた。
    「あんな淫魔に魅了されちゃってどうするの! いい加減目覚ましなよ!」
     銃口から硝煙が漂う。側方に回り込んだアロアが中衛に向かってガトリングを掃射し、ナノナノ――むむたんがたつまきを起こしていたのだ。
     前衛の攻防を見つめながら、紗里亜はヒーリングライトにより自己強化を図る。淫魔へ向けた瞳には些か複雑な感情が滲んでいた。
    「本気で彼を振り向かせたいのなら、その力で魅了してでも、幻覚を使ってでも、彼の好みに合わせて『太れば』いいのに」
    「なんでアタシがあいつに合わせるのよ。……立場が逆なの。平伏すのはアタシじゃない。あいつなの!」
    「……そうですよね。そう出来ないほどちっぽけなプライドに拘って、逆恨みした結果がコレですよね」
     あまりにも人間臭すぎです、と紗里亜は自分にしか聞こえないほどの声で付け足す。その態度が気に入らなかったのか、淫魔は毒の風を後衛へと飛ばした。
    「そんなに邪魔するなら……まずはあんた達からぶっ殺してやるわよ!」
     愛らしい外見には似つかない、獣のような咆哮が轟いた。

    ●例として神話まで挙げちゃう辺り人間って凄いと思う
    「お待たせしました。皆さん、無事ですかっ」
     リアノンが舞い戻ったのは、戦闘開始から幾分か経過した頃だった。
     混乱する男性を落ち着かせ、安全地帯まで送り、戦場まで戻ってくるのは、決して一瞬で済むような作業ではない。ある程度の時間が掛かってしまうのはやむを得ないことだった。
     箒から降りて一行の許に駆け寄るリアノン。彼女の瞳が捉えた光景は、倒れるジャマーと疲弊した両陣営の姿だった。
     後衛にいた紗里亜がリアノンに気づいた。
    「あ……おかえりなさい。済みましたか?」
    「おかげ様で」
     敵は灼滅者数人分の力を秘めているだけあり、1人抜けただけでも大きな穴となる。そう考えれば、互角で渡り合っている現状は十分な善戦とも言えた。
     ともあれ、これで灼滅者は揃った。淫魔の表情に焦りが浮かぶ。
     舞生は一瞬の隙を突き、閃光百烈拳を相手に叩き込んだ。
    「よそ見なんて、余裕ですねっ」
    「う、ぐっ……い、ったいわねェ!」
     淫魔が舞生を蹴り飛ばす。勝ち誇った笑みを浮かべる彼女だったが、眼前にはいつの間にかアンナとキルケが放った魔法の矢とたつまきが迫っていた。
    「一途だなッ! しかしそれは仮初の姿ッ! ヤンデも何も始まらないさッ!」
     着弾、同時に爆裂。爆風が駆け抜ける中、大鎌を構えたアロアが戦場を駆ける。
    「アンナ、肩貸して!」
    「ん、任せたッ!」
     むむたんを先行させつつ、アロアはアンナの肩を支えに高く跳躍。
    「ヤンデレでイケてるとか思ってるなら勘違いしすぎだし! これで……倒れろぉ!」
     大きな月とその身が重なった瞬間、断罪の刃が振り下ろされた。
    「さ、させるか!」
     ディフェンダーが瞬時に間に入る。両手を大きく広げた彼を巨大な刃が深々を斬り裂いた。
     膝を着く部下。リアノンは彼を見つめながら淫魔に一言告げる。
    「彼のように身を挺して守ってくれる男性に惹かれていたら、もう少し報われたのでしょうね」
    「残念、顔がタイプじゃないの」
    「……そうですか、この痩せっぽち!」
     リアノンのシールドバッシュ。殴られた淫魔は倒れることこそなかったが、その足元は覚束ず、焦点はもはやハッキリと定まってはいなかった。
     それでも彼女は包丁を握り締める。彼女を支えるのはちっぽけな誇りと執念だけ。
     だからこそ、優希はこんなことを口にしたのかもしれない。
    「何故その執念をもっと自分を美しくするために使わなかったの? 今からでもやり直すことは出来ないのかな?」
    「……無理ね。だってこれがアタシだもん。チヤホヤされて生きてきた。そうやってアタシは出来てるんだもん。今更……そうよ、今更引ける訳ないじゃない!」
     包丁が煌めく。凄まじい速度に優希は反応出来ず、只々迫り来る刃を見つめる。
     しかし刃が優希に触れることはなかった。
    「~~っ!」
     味方の危機を察知したさくらが超人的な反射神経を見せ、包丁を掴んでいた。刃が触れた右手からは血が勢いよく噴き出しているが、彼女は決して離さない。代わりに淫魔を蹴って引き剥がし、包丁を横に放り投げた。
     痛みに悶える彼女に紗里亜と七日がすぐさま治療を行う。
    「い、今回復しますねっ」
    「天使の声で、背筋ピーン☆」
     リバイブメロディを奏でる紗里亜。七日は非常に美しい声で歌いながら、左手を下、右手を上に掲げる。少々緊張感を削がれるポージングだが、回復自体は滞り無く行えているのであしからず。
     優希がさくらの手を掴んで傷を確かめる。
    「何て無茶を……」
    「はは……やっぱり仲間のピンチは見過ごせないから……」
     それより、と淫魔へと視線を移す。
    「そろそろババッと決めちゃおう」
    「……あぁ、そうだね」
     優希の右腕が異形に変貌を遂げる。さくらもまた右手の痛みを堪えながら無敵斬艦刀の切っ先を相手に向けた。淫魔達に次の攻撃を耐えられるほどの力は残されていない。
     だから……これで終幕。
    「ズバッと決めちゃうよっ!」
    「……さようなら」
     2人の攻撃が淫魔達を確実に捉え……路地に再び静寂が訪れた。

    ●多分この淫魔はデルなんだろうなぁと感じる今日この頃
    「うぅ……ズキズキ痛いよぉ……」
    「ほら、ジッとしてて下さい」
     戦闘後、舞生はさくらの右手に包帯を巻いていた。当のさくらはと言うと、さっきからずっと半泣きである。あれだけの無茶をしたのだから当然と言えば当然だが。
    「スパーってしたと思ったら、ピシャーってなって、そこからズキズキって痛み出して……」
    「うっ、解説しなくていいです。……よし、これなら跡は残りませんね。但し安静ですよ」
     はーい、とやっぱり半泣きなさくら。一方、後ろではアロアとアンナがココアを飲みながら談話中。
    「将来あんな女にはなりたくないね。やっぱり見かけばっかじゃね。痩せ過ぎも良くないしってワケで、何食べて帰ろうー?」
    「空は寒かったから体が冷えたぞッ! 温かいものがいいなッ!」
    「ココア飲んでるじゃない」
    「それはまた別だッ! 云わば別腹だッ!」
    「ちょっと違う気もするけど……そうだね、温かいもの食べに行こっ」
     その前に、と2人の間に七日が割り込む。
    「ターゲットの安否確認に行こうぜ。ついでに説教してぇし」
    「彼なら既に十分オシオキを受けたと思いますよ。腰を抜かしていましたから」
    「まぁ、あれだけのことがあれば反省はするか」
    「はい。それに『今夜のことは全部、夢です』と言っておまじないもしてあげましたし」
    「おまじない?」
     首を傾げる七日。リアノンはニコリと微笑みながら、こんな風に、とアロアの頬に触れる程度のキスをした。
     突然のことにアロアは目を瞬かせる。しかし事態に気付いた瞬間、ボンッと顔がリンゴのように真っ赤に染まった。
    「な、ななななな!?」
    「アロア、言えてないぞッ」
    「ここって男の俺が役得な場面じゃねぇの?」
    「ふふっ、そろそろ行きましょうか」
     何やかんやでひとまず男性宅へ移動を開始する面々。紗里亜もまた皆の後を追おうとしたが……静かに佇む優希の背中を認めて立ち止まった。
    「お別れですか?」
     背中に投げられた問いに優希は振り返る。表情に変化はない。ただ、淫魔が消滅した場所をもう一度見つめて小さく呟いた。
    「……看取る変わり者が1人はいてもいいだろうから」
    「……そうですね」
    「大丈夫、もう行くよ」
     優希は倒れている淫魔の部下達へ清めの風を唱え、仲間の許へと向かう。紗里亜も彼女に倣った。
     路地には冬の夜には似つかわしくない、温かな風が流れていた。

    作者:一文字 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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