●
スラッシュ!
血霧を上げて、男が倒れた。
両手両足の腱を切断されて、更に糸に束縛されては立ち上がることもできない。そうでなくとも、彼の命は尽きようとしていた。
彼の名前はバイロンといい、かつて灼滅者とも対峙したことのある六六六人衆である。
そして、彼を倒した若者もまた六六六人衆であった。
軽薄そうな、しまりのない顔にサングラス。金髪のおしゃれ坊主頭。ちゃらけた服装。
その声も、見た目通りの耳障りなものだった。
「……ったく、他のナンバーの居場所を俺に聞いたって知らんちゅーのに。友達付き合いみたいなん、アルワケネーやん。これだから頭のおかしいおっさんは始末におえんわ。人に会ったら人を殺し、鬼に会ったら鬼を殺す。そういうもんやんけ」
「うう、み、かづきぃぃ……」
「だいたいこの俺無視しくさってもっと上に挑もうっちゅーのが、気に入らんな。て、聞いてねーか。今日が生ゴミの日でよかったわ。殺された殺人鬼なんて臭くてたまらんからな。ほな、さいなら」
スパン!
若者の刀がバイロンの首をはねた。
彼とてバイロンと戦い、無事とは言えないが、超常の者ならば回復できる程度の傷で済んでいる。
傷が癒える頃には、ゲームを開始する手はずだった。その為に、眷属に準備を続けるよう指示を出す。
「それにしても、こんな面白い遊びを思いつくなんて、誰か知らんがええ仕事するわぁ。こそこそタマ狙うのも面倒になっとったとこやし、がっつんポイント稼いでやろやん? ハイスコアに俺の名前刻んだるでー」
軽薄で、めちゃくちゃな言葉遣いのこの男、名前は偽大阪チャッターボックス。
六六六人衆、六〇二位の男である。
「さぁ、はよ来ぃな。ヒトゴロシ始めんで?」
その言葉は、その場にいない誰かに向けてのものだった。
●
「お集まりいただいてありがとうございます」
五十嵐姫子は礼を述べると依頼の説明を始める。
内容は、六六六人衆の一人が大量殺人を犯すというものだが、どうやらそこに灼滅者が来ることを前提にしている節があるようなのだ。
同じく六六六人衆の一人、三日月連夜の話は聞いている者もいるだろう。先日、灼滅者を待ち受け、まんまと三人を闇堕ちさせた六六六人衆。
どうやらこの偽大阪も、灼滅者を誘き寄せ、闇堕ちさせてやろうと考えているようだ。
ビルのオフィスに居残っていた会社員、十五人を人質にとり、殺害する気なのだ。
場所は都内の高層ビル。
十七階を境に上下のエリアに分かれているが、今回は十六階までのことは考えなくていい。
下層エリアのエレベーターとは別に、十七階直通のエレベーターがあり、上層エリアに行くためにはこのエレベーターを使うしかない。事務員用のエレベーターは封鎖されている。
まず直通のエレベーターに乗り、十七階に到着する。すると、そこは広いホールになっていて、そこに六六六人衆偽大阪が一人で待ち受けている。
一般人が人質にとられているのはもっと上階の四十階の一室で、そこに行くためには十七階の奥にある通路を通って上階用のエレベーターに乗らなければならない。
駅にある改札機のような、カードを通すゲートがあるが、ここは強引に突破できる。
四十階の一室に集められた一般人は縛り上げられ、眷属である強化された一般人四体の監視下にある。
偽大阪の指示を受け次第、一人ずつ人質を殺していくようだ。
眷属は一体が灼滅者の半分程の能力しか持たないが、縛られた一般人を殺害するには十分過ぎる戦力だ。
その部屋にあるカメラは人質を殺す映像をホールで流す腹積もりなのだろう。
犯行は夜に行われる。
エクスブレインが指定する時間にエレベーターに乗り込めば、六六六人衆のバベルの鎖に引っかからずに近づけるだろう。
エクスブレインの未来予測は問題なく機能している。未来予測に従えば、ダークネスのバベルの鎖による予知をかいくぐり、この男に迫ることができるだろう。
六六六人衆もエクスブレインのからくりには気づいていないようであるし、こちらがくることは予測していても予知できているわけではない。
「危険な戦いになりますが、一人でも多くの一般人を助けてあげてください」
参加者 | |
---|---|
アナスタシア・ケレンスキー(チェレステの瞳・d00044) |
田所・一平(赤鬼・d00748) |
風間・薫(似て非なる愚沌・d01068) |
森田・供助(月桂杖・d03292) |
太治・陽己(人斬包丁・d09343) |
石英・ユウマ(衆生護持・d10040) |
ヴェイグ・アインザッツ(魔王代理・d10837) |
物部・七星(一霊四魂・d11941) |
●
駅に隣接したビルに入り、十七階へと続くエレベーターに乗る。
一方はガラスになっていて、ネオンにまみれた夜の街がぐんぐんと遠ざかっていく。
重厚な扉が開くと、だだっぴろいホールにはちゃらけた男が待っていた。
「おーほんまに来おった」
邪悪と呼ぶのが相応しい、底意地の悪そうな男。六六六人衆は六〇ニ位、偽大阪チャッターボックス。かつて学園の灼滅者が八人掛かりで倒すことのできなかった、バイロンを始末した男である。
(「正直、マトモに殴り合って勝てる気がしないのよねぇ」)
実際に相手を見て、一平はその思いを強くする。浴びてきた血の量が違うとでもいうかのように、濃厚な死の臭いを漂わせたその男は隙があるようでその実、隙はない。
(「虫酸が走る、な」)
太治・陽己(人斬包丁・d09343)は湧き上がる嫌悪感に眉をひそめた。暴力的な気配に、どこか心安らぐ自分を感じたからこそ、強く。気持ちを落ち着かせて、感情を排し、依頼の為の一つの道具になろうとする。
「さぁ、面子も揃たしゲームスタートといこか」
と言う偽大阪に、
「お前の思い通りにさせないよ、偽大阪!」
アナスタシア・ケレンスキー(チェレステの瞳・d00044)はモニターにガトリングガンの銃口を向けた。
偽大阪の悪趣味な狙いは読めている。
人質達の惨殺シーンをリアルタイムで流すことで自分達を精神的に追い詰めようというのだ。
そうわかっていて、みすみす目論見通りにさせはしない。
アナスタシアの意図を察して偽大阪がやめろと喚くのに構わず、アナスタシアはトリガーを引いた。
「その汚い狙いをアナたちが砕く!」
ヴァララララ……ッ!
破砕。
「なにすんねん! それごっつ高かったんやぞ!?」
モニターを破壊され、偽大阪が頭を抱える。
「あー、俺の55インチがぁ~! 55インチやのにー!?」
「やたらとインチにこだわるんだな」
石英・ユウマ(衆生護持・d10040)達の背中を見送って、森田・供助(月桂杖・d03292)は言う。
「自分、男の価値はテレビのインチ数で決まるって言葉知らんのん?」
「知らねえけど、じゃあ、ちょうどよかったじゃねぇか」
「どうゆう意味やねん?」
「お前なんかゴミだって言ってんだよ」
供介が詠唱を始めると同時に、陽己は日本刀の鞘を投げ捨て床を蹴っていた。
「ちぃ……」
歯噛みして壊れたモニターを放り出す偽大阪だったが、灼滅者達の動きは彼が予想していたよりも断然早かった。
「悪いけど、あんさんはうちらと遊ぶ時間や」
風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)の影が風のように伸びて津波のように呑み込もうとする。
「ちょー待ってー? 電話するし」
「誰が待つかい」
スマホを取り出した偽大阪を容赦なく影が喰らう。一撃で屠ったかに見える衝撃。薫には敵を喰らったという確信があったが、この程度のはずがないということも重々承知していた。
案の定、偽大阪は影を突き破り出てくる。しかし、そこから出てくることは田所・一平(赤鬼・d00748)には視えていた。
「見え見えなのよねぇ」
バゴォン!
雷撃の力を秘めた正拳突きがまともに急所を捉えた。並大抵の者ならば、無理矢理肺の空気を押し出され、しばらく呼吸することすらおぼつかなくなる打撃。偽大阪が後ろへよろけると、一平は更に踏み込んで左のボディブロウを入れ、下がった頭に体重を載せた肘を打ち込んだ。
だが、床にキスする寸前で偽大阪は片手をついてそれを避け、左手一本の力で大きくその場から飛び退いた。
「罪のない人を拐かしたその報い、味あわせて差し上げますわ」
物部・七星(一霊四魂・d11941)は心洗われるような美しい歌声を響かせる。歌声は広いホールに反響し、偽大阪を苛んだ。
「しもた……!」
偽大阪の右手からスマホがこぼれ落ち、大理石の床で硬質的な音をたてて壊れた。
「まぁ、大切な物はしっかり握っていないといけませんよ? 偽大阪さん」
七星は薄く笑った。
●
偽大阪の注意が逸れている間にヴェイグ・アインザッツ(魔王代理・d10837)とユウマは奥の通路へと向かっていた。
「ごめんなさいよっと」
斬艦刀でゲートをぶち壊し、通路の奥のエレベーターに乗り込む。偽大阪は仲間達が上手く相手してくれているのか追いかけては来ない。
「意外とすんなりこれたな」
偽大阪が奥の通路を塞ぐように立っていなかった、というのもある。
ただユウマは胸騒ぎを覚えていた。
それがなんであるか、正体ははっきりとはしないが。
(「いや、それよりも今は救出に集中するときか」)
現在の階数を告げるランプが次々と灯っては消えていく。
●
「あー、もう。LINEのスタンプ結構買うてたのにあーあ。再ダウンてできんの?」
そう言う偽大阪の左手が耳に押し当てられていた。
「まさかハンドフォン!?」
スマホはあくまでフェイク、いやこちらを馬鹿にする為の道具か。
「チャラい言動とは裏腹に、結構冷静よねコイツ」
そもそも一人で挑んでこないところに、一平は他の享楽的な六六六人衆とは一線を画したものを感じていた。
(「だが、まだ連絡が済んだわけじゃねえ」)
偽大阪は利用価値の下がった人質の虐殺を命じるかもしれない。供助は、口ではなんと言おうと、一人でも多くの人を助けたいと思っていた。
絶え間なく攻め続けることで、連絡を阻止あるいは遅らせることができれば、と淡い期待を込めて魔力を解き放った。
魔法の矢が軌跡を描いて偽大阪を貫く。アナスタシアは、ロケットの噴射を利用して偽大阪の側面へ回り込んだ。
「く……っ」
体勢を変えてとっさに飛び退くも、アナスタシアにはそれすら織り込み済みだ。
「ベールクトの追尾性能を甘く見ちゃダメだよ!」
ロケット噴射の勢いを借りて、加速。ぐるぐると高速回転しながら偽大阪に迫る。
「なんやと!?」
偽大阪の繰り出す鋼糸を弾き飛ばし、強烈な打撃を叩きこんだ。
「……こんなふざけたゲームの主催はどこだ?」
受け身をとる偽大阪に、陽己は話しかけた。
「俺の得点はいくつだ?」
「あーもー、電話中は静かにせんかい。うっさいわ……!?」
偽大阪は胸元がぬるりと濡れていることに気づく。陽己の日本刀が肋骨を避けて内臓に突き刺さっていた。
六六六人衆ともあろう者が刺された瞬間にすら気づけなかった。
けれど偽大阪は平気な様子で。
「計画変更や。犬は二匹。人質の足の腱切って隠れろ。やばかったら逃げてもかまわん。せいぜい遊んでやれ」
「なっ……!」
偽大阪は人質を殺さず足枷にすることにし、その上で眷属達を時間稼ぎに使おうというわけだ。
一般人は十五人。救出に向かったのは二人。二人とも単体回復は持ってはいるが、少人数で救出を行う以上人質にある程度被害が出たとしてもくい止められないことは予想できた。最初から、それを踏まえた上で、眷属を殲滅するつもりであった。
救出班とは、人質の一件がひと段落つき次第合流する手はずになっていたが、格下とはいえ時間稼ぎが目的の相手に、半分の人数でというのは少し厳しいか。
(「こちらも連絡するべきか……?」)
詠唱を続けながら、供助は考えていた。
敵がこういう手を打ってきた以上、救助班は無駄に時間をとられるばかりか、変に転がれば人質の安全を脅かす事態になりかねない。
普通の携帯電話でも電波さえ届けば通じるはずだ。
「さぁ、こっからは俺のターンやな。ぬくい火力とはいえ、電話中やったせいでめっちゃ痛かったし……覚悟せえよ?」
「ご託抜かさんと、さっさと来ぃや」
薫は油断なく刀を構える。
●
四十階に到着すると、ガラスが割れるような破砕音がユウマ達を迎えた。
いきなりのご挨拶かと思うが、音はどうやら遠くから聞こえてきたようだ。
壁を背に慎重に移動する。
遠くでバタバタと物音が聞こえ、それは段々と小さくなっていった。
「……?」
疑問に思ったが、ユウマ達は人質が監禁されている会議室を目指した。
頷き合い、扉を開ける。
三、二、一、突入。
即座にガトリングを構え、
「はーい。ごきげんようクズ眷属共。お前ら人の形を留めて死ねると思うなよ?」
しかし、そこには負傷した人質が縛られているだけであった。
混乱する彼らからどうにか事情を聞き出すと、眷属達はついさっき慌てて出て行ったという。
「どういうことだ……?」
ユウマは周囲の気配を探ってみるが本当にいないようだ。
ヴェイグはとりあえずその辺にあったカメラを壊す。
そこに階下の仲間から連絡が入り、ようやく状況を理解した。
時間稼ぎ。いや、もしくは嫌がらせなのかも知れない。
人質を守りつつ、逃げ隠れする眷属を追いかけて倒さなくてはならないというのか。
「えー、どんだけ手間のかかるクズ眷属なんだよ」
缶蹴りではあるまいし。
人質の中には負傷者もいたが、死ぬほどのものではないので放っておくことになる。
「待って。あいつらは一体なんなの!? 説明してよ。私達には説明を受ける権利があるわ」
エリート風を吹かした女が混乱気味にギャアギャア言い出したが、いちいち相手をしていられない。動ける人には自力で避難するよう促した。どこに眷属達がいるかはわからないが、ここにいても安全とは言えない。
早く眷属達を仕留めて、仲間達の元へ戻らなくてはという思いに駆られる。六六六人衆の怖さは、ユウマは身を持って知っている。
「戻るまで、無事でいてくれ」
●
(「強い……」)
陽己は肩で息をしていた。
こうして実際に刃を交わすとよくわかる。バイロンよりも、自分達よりも。
正義は必ず勝つ、といった幻想のつけいる余地すらない。圧倒的な暴力。
闇はこれほど強いのか。六人で手傷を負わせるのが精一杯だ。
「まーまーやるやんけ。けどな、お前らみたいな半端もんが俺に敵うはずないってこと理解しろや、ボケ」
偽大阪の目が自分を誘っていることに陽己は気づいていた。
「……やだよ、ゼッタイ」
アナスタシアはゲーム感覚で殺人を行う者を許すつもりはない。
「なんでも自分の思い通りになるなんて思わないでよね!」
そんな灼滅者達をへらへらと嘲笑う偽大阪に、
「ったく、臭ぇよ。下種の臭いは。趣味の悪さでは飛びぬけてんな」
供助は軋む体に鞭打って立ち上がり、目元に垂れ落ちる血をぬぐう。
「力量差もお前らの狙いも把握済み……で来たんだ。舐めんなよ……噛み付いて、やんぜ」
「……小賢しそうな面しとるな、お前に決めたわ」
偽大阪は供助を見て笑った。
●
圧倒的な戦力差は覆しがたく、まず供助、そして、アナスタシア、陽己と次々に倒れていく。
けれど、一平は立ち上がった。
「本音言っちまえばよ。お前ら殺人鬼さえ殺せれば、人質なんてどーだっていいんだよ」
一平には最愛の人がいる。
彼女が平和に暮らすためには、何をおいても六六六人衆は駆逐しなければならない。
それが一平が危険に身を置く理由。
だが。
ズキュウウン!
胸元を大きく裂かれ、血や肉や皮膚や骨が飛び散り、遂に一平も倒れた。
「二人きりになってしまいましたわね」
後方に下がった薫の代わりに前に立った、七星も既にその柔肌に無残な傷を刻まれていた。
「そやねぇ。こんなに心躍らへんもんとは思わんかったわ」
「ええ、本当に……ですが、ここは私が格好をつけさせていただきますわね」
「……!」
ジャグッ!
七星の胸から刃が生え、薫へと届く寸前で止まった。
薫をかばい、癒しの光を照らしながら、七星は崩れ落ちる。
「まだ誰も堕ちんのかい。しゃあない」
偽大阪は血に濡れた刀を薫目がけて振り上げる。
「一人くらい殺ったるか」
そのとき。
「楽しそうだなオイ、オレも混ぜろよ」
駆けつけたヴェイグ達が薫の前へ立った。
「すまない。遅くなった」
眷属を二体倒し、動けない負傷者は置いてきた。
残りの眷属はおそらく逃げたのだろう。万が一まだどこかに潜んでいた場合、皆殺しにあう可能性はある。
その懸念がユウマの表情を曇らせていたが、これ以上時間をかけるわけにはいかなかったのだ。
とはいえ、この状況、ヴェイグとユウマはさほど疲弊していないが、撤退するにしても困難に思えた。
体力に余裕のある二人が、仲間の回収を受け持つということで行動を開始したが、
「まさか逃げれる思うてんの?」
偽大阪の鋼糸によってアナスタシアと供助が蜘蛛の糸に囚われた蝶のように吊り下げられる。
「さあ、どっちから殺る? やっぱ男からか? 男なら見捨てやすいやろ」
「貴様の戯言など耳に入らぬ……」
「いや、待て待て待て。そういや、この女にモニター壊されたやん。こいつ殺すわ」
供助の腹を刺した刀を抜いて、アナスタシアの腹に突き刺す。
ずぶ、すぶすぶ……。
「よう見たら結構タイプやし。おにゃのこの大事なお腹引き裂いてピンクの臓物かきだしてジュッポジュッポしたろ。やば、興奮する。やっぱお前らもう帰ってくれん……ぁ!?」
ガッギィイイインン!
薫の刀が偽大阪の刀とぶつかり、激しい金属音を鳴らす。
「アンタとはウマが合いそうにないわ……虫唾がはしる」
「キヒヒヒ……ん?」
にんまりと笑う偽大阪をヴェイグの斬艦刀が押し潰した。
「……っざけんな! ぶったぎるっ! 死ねオラァァ!」
いや、偽大阪は潰されてはいない。首が寝違えたように傾いているが、変わらずの笑顔。
「半端もんの割にはええ感じや。けど邪魔すな、今ええとこやねん」
そのとき、ヴェイグは気づいた。
薫の気配が変質していることに。
「闇在りて、我、夜行の鬼と為る。覚悟完了や……アンタを斬る」
闇堕ちした薫の姿がそこにあった。
「やっちまったか……」
傍にいるだけでひしひしと感じる霊圧。薫であって薫ではない屍の王。
しかし、堕ちてしまっては仕方ない。今この瞬間だけはその闇の力さえ心強い。
あるいはこの敵さえ倒せる……!
スプラッシュ!
「……ァ?」
しかし、それは淡い期待。
闇堕ちした薫と共闘して尚、灼滅には至らずヴェイグの全身は鋼糸に切り刻まれた。
倒れる寸前にユウマに抱きとめられ、ヴェイグは遠くなる意識の中、つぶやいた。
「……センパイも、か。きっちぃ、なぁ……コレ、マジきちぃ……」
闇堕ちしたユウマはヴェイグを横たえると、薫と共に偽大阪へと走る。
こんな短期間に二度目の闇堕ちをしたことで、どうなってしまうかはわからない。
けれど、今考えるのは仲間の命を守ること。それだけ。
(「先の事など所詮泡沫だ」)
●
供助が目覚めたとき、そこに動くものはなかった。
倒れている仲間の数は五人。
そして破壊された壁。
「マジかよ……」
それだけで何が起きたのか悟った供助は床を殴り、すぐに仲間の状態を確認するべく行動に移る。
結果的に、幸運も味方し人質は全員助けられた。
が、その代償は大きかった。
どこからか高笑いが聞こえた気がした。
作者:池田コント |
重傷:田所・一平(赤鬼・d00748) ヴェイグ・アインザッツ(幾千彩色・d10837) 物部・七星(一霊四魂・d11941) 死亡:なし 闇堕ち:風間・薫(似て非なる愚沌・d01068) 石英・ユウマ(紫の夜凪・d10040) |
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種類:
公開:2013年3月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 40/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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