梅の香を楽しんで ~観梅と温泉とお食事と~

    作者:東城エリ

     梅の花が咲き始めれば、春はあと少し。
     暖かな日も少しずつ増え、外へと出かける機会も多くなってくる。
     800年ほど前に植栽が始まり、今では一万本もの梅樹が彩るこの地は、文字通り梅に埋め尽くされる。
     川に沿って植栽されている為、橋から見渡せば、素晴らしい絶景。
     橋を渡って、少し奥に足を踏み入れれば、滝の勇壮な姿も。
     徒歩による観梅を楽しんだら、温泉で疲れを癒して。
     中は露天温泉があり、うたせ湯がある。
     外は足湯を楽しめる様になっており、のんびりと話をするのに最適だ。
     あとは、自然の食材を生かした和食を提供している食事処で空腹を満たすのもいいだろう。
     自然に囲まれた場所で一日を過ごすのもリフレッシュになっていいのではないだろうか。

     毎年2月半ばから3月の終わりまで開催される梅祭り。
     見所は、橋から望む絶景に、高さ10mを超える勇壮な滝。
     川に沿って梅が咲き、そのそばでお弁当を食したり、飲み物を手にして、暫し堪能するのも良いだろう。
     梅だけではなく、疲れを癒す為の温泉もあり、空腹になれば和食の食事処。
    「観梅で身体が冷えたら、温泉という訳ですね」
     御門・薫(藍晶・dn0049)が、何となく流れを説明する。
     日頃の疲れを癒す為に緑が多い場所に出かけるのも良いかもしれない。


    ■リプレイ

    ●爽やかな風と共に香る梅
     春が足早に追いかけてきているような気温。
     遠くに目をやれば、川の両側に広がる白梅や紅梅の色が、絶妙な景色を作り出していた。
     一樹は趣味で収集しているカメラを構え、橋からの絶景を写真に収める。
    「綺麗だ」
     フレームから目を離し、暫しその光景を眺める。
     心のアルバムに景色を収めた。

     VDお返しのデートに譲を誘った煉火だが、普段なら言葉がぽんぽん出てくる間柄なのに、今日はどうしてかぎこちない。
     写真に収める煉火に譲がカメラを話題にすると、照れる答えが返ってきて、それならと思い切る。
    「せ、折角だし二人で写真撮らね?」
     2人で写ろうと思うと顔が自然と近くなる。近距離で居た事など無かったから、撮影するにも四苦八苦。ブレたり遠すぎたり。全て大事な思い出になる。

     撫子は文句を言いつつもやってくる紺が可愛い。昔から変わらない所も。橋の上では高い所が苦手だったと記憶していたから、大丈夫かと思っていたが、楽しんでいるようだった。
    「あて、こない所で死にとうないで」
     不安そうな顔をしている紺の口にミートボールを突っ込んだ。
    「不味くはないだろう?」
     撫子の作ったお弁当を味わい頷く。
    「母様には敵わんけど」
     素直じゃない紺に、撫子は満足そうに笑顔を見せた。

     ouroborosの面々は思い思いに感じた事を口にする。
     華月は心が浮き立つ様な気持ちで歩く。円蔵のペットである白蛇達は服に隠れて居て貰っている。千穂の愛犬、梅太郎は長い散歩の気分らしい。
    「すごいな。こんなに沢山の梅を見たの、初めて!」
     梅の白と赤、そして山の木々の緑に清は、驚嘆の声をあげる。
    「近くまでいけないのは残念だけど、匂いを嗅ぐと何だかとっても良い匂いがする気がするね」
     瑛多は同時にお腹もすいてきたなぁと思う。
    「うめはー、こぼれる! さちしってるのよ」
     さちこは得意げだ。
    「『こぼれる』…へえ、散る事をそんな風に言うのか」
     いい事を教えて貰ったと清は微笑む。
    「お、さちこは風流な言葉を知ってるね」
     シンは清の隣に立ち、掌から花弁を降らせる。
     愛用のトイデジでぱしゃりと景色を切り取る様に撮影していたイコは、振り向いてこちらもとファインダーを向けた。
    「あ、お写真撮るのですか!?」
     燈子が清の居る所へと。
     円蔵の服の袖からオブとオスの白蛇達が顔を出し、撮影会に加わる。
    「こんにちは」
     燈子は白蛇達に挨拶をする。
    「よく見える?」
     一緒に楽しめていたらいいと華月は思う。
    「私もお願いしたいの!」
    「千穂さん、梅太郎さんにお花飾っても良いですか?」
    「ありがと。梅も嬉しそう」
    「はい、チーズ」
     樒深も記念に1枚撮ると、撮影される側へと交代。
     きりっと真顔を見せるけど、手元はピースをしたりして。
     撮影会を終え、耳に聞こえる水音に瑛多が提案する。
    「滝すごいらしいね、それじゃあ、競争? 一番乗りは譲らないよ」
     そう言って、瑛多が真っ先に走り出す。
    「まけないよー!」
     駆けだしたさちこに負けじと、梅太郎がリードを持つ千穂ごと引っ張り走り出した。
    「あら梅くん、駈けっこなら負けないのよ…!」
     イコは心躍る心地で追いかける。
    「行こう!」
     シンは燈子の手を取った。
    「花粉は頂けねぇけどな」
     樒深は嚔に思わず呟きながら、皆の笑いあう姿を眺めた。

    「いやはや、見事なものですねぇ…。正直、ここまで綺麗なものだとは思っておりませんでしたね…」
     流希は滝の方へとゆっくりと歩き、到着すると光景に見惚れた様に眺め、一句。
    「梅の華 春は近しと 滝が呼び。…綺麗ですが、纏めきれてませんねぇ」
     さらりと出てきたのを良しとしつつ、再び歩き出した。

     ディアモンドは昭乃の手をぎゅっと握りしめると、昭乃も応える様に握り返す。
     心が安らぐのは互いの存在があるから。自然と見つめ合う。
     甘い時を過ごし乍ら、腰を落ち着ける。
    「ふふ、こういう風に、一緒に食事をするのも素敵ですね。せっかくですから、お互いの料理を食べ合ってみませんか?」
    「はい」
     幸せな時間は笑顔が浮かぶ。笑い合えるのは、親愛と気持ちがつながっているから。

    「お招きありがとう。テディもよろしくね」
     紅葉に誘われ、薫は一緒にお弁当を頂く。川の畔から見える梅の香りと共に、暖かい梅茶を味わい、梅に包まれているよう。
    「テディも梅が好きでしょう? …あっ」
     紅葉の湯飲みの中に花弁が浮かんでいた。
    「はわわ、風雅なのね♪」
    「梅の贈り物みたいですね」
     薫と紅葉は顔を見合わせ、微笑みあった。

    「こうやって花を見る、というのがいいですよねー」
    「花見ゆうたら桜が有名やけど、梅の方がオレは好きやね」
     しっとりとした和装で初デートの杏と伊織は、寄り添い乍ら眺める。
     桜にまつわる思い出を呼び起こすが、これからは杏との思い出に変わるだろう。
     この後食べるお弁当の味も愛おしい人の事も、幸せに彩られているから。

     Cor Leonisの3人は賑やかな雰囲気の中、歩く。悟は和装、想希は制服、ミカエラは洋服と様々だ。服装の事を話題にしつつ、想希の観梅マップを参考にして巡る。
     お弁当タイム。
    「これで、梅の和菓子があれば最高だったのに…」
     紅、白、黄…梅ってこんなに綺麗に咲くんだと、想希が目を奪われていると、悟が蓋を開いた。
    「ふっふっふ、お代官様これにっ!」
     梅が丸ごと入った白餡の大福。
    「ってすごいじゃないですか! 俺はこれ」
     桜餅と焙じ茶。
    「あたいは、これ。柿の葉寿司に見える?」
    「ミッキー、それ柿の葉か?」
    「ざんねん~、笹の葉だんごでしたー。つぶあんによもぎもちっ♪」
      閑な景色の中で味を堪能して、夢うつつ。

     すーぱーふぁーむ☆あかいくまの面々は、レジャーシートを敷きお弁当を味わう。
     司は筑前煮と五目御飯、嘉月は梅干とおかか、鮭の俵おむすびに、おかずでニンジンとジャガイモのきんぴら等々、自分達の畑で育てた野菜ばかり。
    「今回は梅に合うかと思いまして、純和風でございます」
     慧瑠のお弁当は手が込んでいる。
    「サンドイッチ3種類に、一口コロッケと卵焼き、たこさんウィンナー、それとウサギさんのリンゴなのです♪」
     おかずは一番上の兄が、サンドイッチは自分で作ったと月夜は胸を張る。
    「お、月夜の手作りとな? その歳で料理の手伝いとは、月夜はやはりえらいのぅ。どこぞの生意気な妹と交換したいくらいじゃ」
     ちらりと美沙が双子の妹である慧瑠を見やる。
    「ほう、それはそれは…。日頃から家事全般をわたくしに任せきりのだらしない姉が、よくもそのような言葉を本人の前で出せるものですね」
    「ちょ、慧瑠、軽い冗談ではないか!」
     美沙が慌てて宥める。
     おかずを皆で交換しつつ、風雅な梅を愛でた。

     冬織は宗佑のペットボトルの蓋を外してやり、梅を見ながら歩く。
    「桜は長く残るイメージがあるけど、梅はすぐ終わっちゃうんだよね」
    「へー、俺あんまり意識してなかったなあ、そういうの」
     梅について語り、
    「季節の花が俺はすごくすき。ちゃんとその時々に似合いの色を見せてくれるから」
     気障なことを言ったかもと続けるが、
    「いやいや、んな事ないっす!」
     冬織は、慌てて首を振ると、安心した様に宗佑は笑みを浮かべる。
     さて、帰ろうと用意していると、ズボンに土をつけて慌てている。
    (「…あ、やっぱいつもの宗佑ちゃん先輩だわ…」)
     そんな姿にほっとして、帰り支度を手伝い始めた。

    ●露天風呂でのんびりと
     男女別の露天風呂では、歩き疲れた身体を癒してくれる。
     石の背もたれに身体を預け、湯気の中。
     耳をくすぐる水の音もさらりとした湯も、疲れを洗い流してくれる。

     SunnySkyStepの女子3人で温泉に浸かって、音々は堪能していると、暦と愛理が小声で話し合っている。
    「ぼでぃらんげーじ…ああ、肌と肌とでお互いを解り合うアレですの? ふふ」
     愛理がとてもいい笑顔で音々を見た。
    (「…ぼでぃらんげーじ?」)
     音々は首を傾げる。そう思っている間に愛理が音々に抱きつく様に触れてくる。
    「すばらしいです、ではその綺麗なお腹をいただきましょうか」
     暦は音々のお腹を撫で回す。
     頬を上気させながら音々が涙目でじたばたするも、逆襲を心に決め、愛理の方を見た。
    「えっ、わ、わたくしの方にきますの!?」

     男子脱衣所からつい世話焼き的な事を口にしてしまう昴の不器用な優しさに陽丞は嬉しく思う。
     昴は、ぐったりと温泉に浸かる。
    「あー…割と本気で寝ちまいそうなんだけど」
     水音が眠気の呼び水になって、陽丞が居るのもあり安心して眠ってしまった。
     そんな昴の表情に陽丞は微笑を浮かべる。
    「溺れそうになったら、すぐ助けるよ」
     だから大丈夫と。

    ●食事は甘い雰囲気で
     和の山菜メインの料理は、普段口にする機会はあまりないので、食感も新鮮だ。
     向かい合って座り、味の感想を口にしたり、窓の外に広がる緑の景色に目を向けたり、ゆったりとした時間が流れる。
     飛鳥は昂修と初めてのデートだけあって終始楽しそうだ。
     昂修の口元に箸で摘んだ料理を持って、笑顔で見る。渋々といった風に口を開けつつも飛鳥に甘い昂修だ。
     満足そうに食事を終えた頃、
    「…そういえば、してなかったな」
     思い出した様に昂修は飛鳥にキスをしたのだった。

    ●足湯でまったり気分
     屋根の下、足湯のベンチに座れば、気持ちよさに溜息が出る。
     肌寒さもすぐに消え去って、身体が温かくなる。
     ベンチを囲んでたわいない話はいつまでも続きそうだ。

    「日向ぼっこに足湯。贅沢極まりないなー」
     きすいはじんわりと暖かい指先でレンヤの足を踏む。会話をしている間も、踏んだまま。
    「こらー」
     声だけで怒るとレンヤは踏まれていない方の足できすいの足の上に乗せてサンドした。
    「あ、両足使うのは禁止だぞ」
    「足すべすべだねー、気持ちいい」
     素直にわき上がる言葉。
     きすいはじっとレンヤに眼差しをむけるけど、少し照れたように視線をそらした。

     昴とティファーナは、緑の色に心を癒されつつ、ゆったりとした時間を過ごす。話は野球の技術や選手の怪我の事で凹んだことや、たわいのないものまでと多種多様だ。
     ティファーナはまだ温泉での裸のつきあいというのは苦手だったから、足湯は丁度よかった。男女で温泉は分かれていたから、きっとこんな風に話は出来なかったと思うから。
     ね、と頭の上に猫のちびたに優しく声をかけた。

     足湯初体験の軍は霜焼けの足を温め、涼花はそんな軍の足にこつんと当てていると、邪魔と手で払われてしまった。涼花はぷうと頬を膨らませ、賑やかに抗議する。
    「愛しい彼女は今日もやかましーデスネ」
    「い、いま…愛しいっておっしゃいました、か!?」
     都合良く愛しいという言葉だけに浮かれつつ照れながら録音すべく携帯を探す。軍はそんな涼花に突っ込みつつ、探すその手を握って瞳に涼花を映す。愛おしさを秘めて。

     井の頭2年3組の面々は、囲むように座って足湯を楽しむ。
    「ここからじゃ遠目にしか見えないから…ちょっと借りてきた」
     そういって鐐が、皆に見えるように置いたのは八分咲きの梅花盆栽。
    「…鐐くん、梅盆栽なんてどこから借りてきたの?」
    「内緒だ」
     詩月の突っ込みに、鐐は自身の唇に指を当て答えた。
    「足湯気持ち良いね~♪ 梅の香りも素敵なのだ~♪」
     足先を伸ばして凪は楽しそうにポニーテールの黒髪を揺らす。
     縁は足湯の暖かさにこたつと同じ魔力を感じて、ここから動きたくないと思ってしまう。
    「皆脚綺麗だよね~♪」
    「ああ、いいなぁ…」
    「眼福だね」
     凪にしみじみと鐐と縁が頷く。
    「鐐ちんちょっと分けて~?」
     冷やし緑茶の説明をしつつ配っている中、すでに皆の手には鐐と由生の用意したおにぎりを口にしている。
     腹ヘリたちの食欲はとても旺盛だ。皆の食べっぷりに満足そうに笑みを浮かべた。
     屋根の柱に背を預けて由生は、気持ちよさに眠ってしまいそう。
     温泉は躊躇するフレナディアも、足湯ならと楽しんでいる。
     緑の香りと足元の温かさに眠気を誘われてきた。由生が気持ちよさそうに眠ってしまったのもあるだろう。
    「こういうのも、悪くないかな」
     ぱしゃりと水面を揺らした。

     ひつぢ家の面々は、蕩けそうな表情を浮かべつつ、言葉を交わす。
    「諒くんの冷え足もぽかぽか間違いなしだよう」
     迪琉は、諒の顔をみて微笑む。
    「うん。足湯で、冷えきった足が少しでも温まるといいな」
    「あっ…気持ち良いね…これ」
     紅葉が気持ちよすぎて変な声が出そうになるのを何とか吐息に変えた。
    「やっぱり足の疲れに効くのかしら」
     じんわりと身体全体に温かくなっていくのを感じながら、綾沙はなるほどと実感する。
    「…あぁなるほど。こりゃ暖かいな」
     優理が納得したように呟く。身体が温まれば心も同様なのか、ひつぢ家にやってきてからの事を思い出し、家族のように思えるこの場所は自分にとって大切な場所になっているのだと実感した。
     優しい表情をしている優理に、紅葉も気持ちがわかるのか口元に笑み浮かべる。
     綾沙の撮影したデジカメの画像を見せて貰ったり、女性陣の足の細さを愛でたりと賑やかな日常。
     ナナイは、足湯に浸かりながら目の前に広がる緑深い景色をぼんやりと眺めていた。頭の中では、何をお土産にしようか選考中なのだ。
    「…隙あり」
     ぱしゃりとシャッターの音が聞こえた。

     井の頭キャンパスの中学2年G組のクラスメイトで歩いてきた足を休める。
    「今では桜の方が日本の花と言われるが、昔の人は桜よりも梅の花を好んだという」
     ほのかに香ってくる梅に、なをが思い出した様に口に上らせた。
     裕也はチョコを水姫はチョコのカップケーキを持参して、皆で糖分補給。
    「ウチの担任、超美人だしねー。年上好きのなをっちとか絶対好きだと思う」
     恋バナ好きな琥太郎は、担任から始めチェックしているメンバーについて熱く語る。
     おもしろいなぁと共感しつつ聞いていた水姫は、話を振られて顔を慌てて左右に振った。
    「わたしは残念ながら特に何もないよー」
    「こうやって、クラスの皆様とご一緒できるの、嬉しいです♪」
     思い出作りってこうやって出来て行くのだと裕也は実感したのだった。

     美しい景色。赤と白、緑の競演に朔夜は見とれながら、羽千子の事を気にかけ、風景を写真に収めて。
     お弁当の時には好きなもので満たしてくれた。
     彼女が居てくれるだけで心が温かい。
     帰り道、朔夜は羽千子に手を差し出す。
    「…いい、だろうか?」
     一瞬、きょとんとした表情を浮かべた羽千子。
    「はいですよ」
     だが、笑顔を刻んでそっと自分の手を重ね、温もりを感じた。
    「誘って下さってありがとう、朔夜くん」

     梅は来年も咲く。
     季節を感じる為に、一緒に来た人と再びやってくるのもいいかもしれない。
     緑豊かな景色を、春の使者である梅を肌でで感じながら、ひとときの休息を堪能するのだった。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月12日
    難度:簡単
    参加:62人
    結果:成功!
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