皆殺しまでの時間

    作者:天木一

     駅前にあるファミリーレストラン。
     外は茜色に染まり、店内は家族連れや、学校帰りの学生等で混雑していた。
     喧騒に包まれる中、スーツ姿の一人の男が黙々とハンバーグを食べている。
     相当お腹が空いていたのか、大きく口を開け、がっつくように食らっていた。
     そのまま一気に平らげると、息を吐き、オレンジジュースで口を濯ぐ。
    「ふー……さて、腹も膨れたし、始めるとしますかね……」
     男は紙ナプキンで口を拭きながら立ち上がる。ゆっくりと置いていた鞄から取り出したのは黒く重々しい自動拳銃。
     無造作に銃口を隣の席の学生に向ける。発砲。頭を吹き飛ばされ、少年は地に転がる。
     一瞬の静寂。そして怒涛の叫び。だが更なる発砲音がその声を打ち消す。
    「はーい、皆さん静かにしてくださいねー、五月蝿いと殺しちゃいますよー」
     男は入り口の方へと歩きながら、銃口をゆっくりと客席に向けて見渡す。
    「あ、あんたいったい何だよ」
     思わず呟いた客の声を男は聞きつけ、そちらを向く。
    「あー私ですか? 何、ご覧の通り単なるサラリーマンですよ。今日はちょっと皆さんにゲームに付き合ってもらおうと思いまして」
    「げ、ゲーム?」
     男は大きく頷く。
    「そうです。あーいえいえ、皆さんに難しいことをしろと言ってるんじゃないですよ。皆さんはここに居てくれるだけでいいんです」
     その言葉に客席から僅かな安堵と希望が湧く。
    「あーそこの君、そうそう、君です。1から9までで君の好きな番号を教えてもらえませんか?」
    「ろ、6……です」
     指差された少年はしどろもどろに答える。
    「6ですか、6、私も好きな数字ですよ」
     男は笑みを浮べる。少年も釣られて引きつった笑みを浮べた。発砲。少年の頭が吹き飛ぶ。
    「き、きゃああああああああ!」
    「あーはいはい、静かに静かにー」
     叫んだ少女を撃ち殺しながら、男は腕時計を見て告げる。
    「こほん、それではゲームを始めます。これから6分毎に一人ずつ殺します」
     男の何気なく言った台詞に客達は固まる。
    「あーそうですね、制限時間は一時間にしましょう。10人死ぬまでに助けが来れば君達は生き残り、来なければ全員死にます」
     息を呑む客達。その前で男は営業スマイルを浮べてにこやかに言った。
    「それでは、ゲームスタートです」
     
    「皆さん集まっていただけましたね」
     真剣な表情で五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が資料を手に話始める。
    「未来予測によりダークネスの動きを察知しました。六六六人衆の一人がお店に居る人を皆殺しにしようとしているのです」
     夕方の人の多い時刻、被害は甚大なものになるだろう。
    「ダークネスにもバベルの鎖による予知の力がありますが、私達エクスブレインの未来予測はその予知の裏をかく事ができます」
     だが、気になることがあるのですと姫子は語る。
    「ダークネスは助けが来るかどうかと言っていました。ダークネスから人を助ける事のできる存在、それは……」
     そう、そんな存在は灼滅者しかいない。
    「もしかしたら、これは皆さんを誘う罠かもしれません。そして、不確かな予測ですが、皆さんを闇堕ちさせようとしている可能性があります」
     姫子は重々しく口にする。
    「ですが、放置しておけば確実に皆殺しにされてしまいます。どうか皆さんの力を貸してください」
     敵は六六六人衆の四九五番。名は鈴木・太一。
    「番号からも分かるように、強敵です。しっかりと作戦を立てないと撃退は難しいでしょう」
     使うサイキックは殺人鬼とガンナイフ。
     戦いの場所は駅前のファミリーレストラン。夕方の込み入った時間で、客とスタッフ合わせて34人居る。
    「敵の狙いが皆さんにあるのなら、接触後は一般人を狙う可能性は低くなります。被害が少なくなるよう上手く誘導してください」
     敵が食事中に接触することが出来る。イニシアチブを取る事が出来るのがこちらの強みだ。
    「今回の作戦は殺戮を止めることです。そして皆さんが闇堕ちすることが無いのが最も望ましい結果です」
     一般人の被害を抑え、灼滅者達が堕ちるのも防ぎたい。難しい戦いになるだろう。
    「私にはここで待つことしか出来ません。皆さんが無事に作戦を終えて帰ってくるのを、お待ちしています」
     姫子は頭を下げ、灼滅者達が戦場へ向かうのを見送った。


    参加者
    國光・東(踊レ脚舟・d00916)
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)
    水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)
    化野・周(ジグソウ・d03551)
    レイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)
    西原・榮太郎(夜霧に潜むもの・d11375)
    園城・瑞鳥(フレイムイーター・d11722)

    ■リプレイ

    ●食事
     レストランのドアが開かれる。店内の騒がしい音が外に漏れる。中は人々で賑わっていた。そこに外の冷気を帯びた少年少女が黙して入る。
    「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
    「8人や」
     ウェイトレスの質問に國光・東(踊レ脚舟・d00916)が応えながら、視線は鋭く店内を見渡す。
    「ただいま満席で、しばらくお待ちいただいてよろしいでしょうか?」
    「ああ、ええよ。待たせてもらうわ」
     店員は名前を聞くと紙に書き込み、忙しそうに立ち去る。
    「見つけた、あそこだ」
     紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)の視線の先、そこには食事を前に、フォークとナイフを構えるスーツの男の姿があった。
    「ちょっと先にトイレに行きたいな。皆もついてきて」
     仲間と目配せした後、化野・周(ジグソウ・d03551)はそう言うとさり気なく移動を始める。その先は、奥の男の座る場所。
     灼滅者達が囲むように前に立っても、男は気にする事無くフォークとナイフを忙しそうに動かす。視線はずっと料理に集中し、口は咀嚼するのに忙しそうに働いている。
    「ねぇ、アンタが鈴木さん? 遊び相手探してるんなら相手して欲しいんだけど」
    「分かりやすい招待状ありがとう、鈴木太一サン」
     黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)とレイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)の二人が、客との間に立って挑発的に話しかける。
     だが男は顔色一つ変えない、それどころか視線を料理から動かさないまま片手を上げた。口はハンバーグを食べる為に動き続けている。その態度は邪魔をするなと雄弁に語っていた。
     その行動を見て灼滅者達は顔を見合す。
    「どうやらすぐには戦闘にならないみたいですね」
    「今のうちに急いでお客さんを避難させましょう」
     西原・榮太郎(夜霧に潜むもの・d11375)と園城・瑞鳥(フレイムイーター・d11722)の言葉に、皆がそれぞれが動き出す。
     レインが周囲へ殺気を放つ。その気に当てられ、一般人は訳も分からず店の外へと逃げようとする。
    「……こちらへ、焦らなくても大丈夫だ」
     慌てふためいている人々を水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)は、押し合って怪我をしないように誘導する。
    「落ち着いて。スタッフは客の誘導頼む!」
     殊亜も裏口の方を指差して声を掛ける。スタッフの男は今気付いたように、裏口を開けて周囲の人と逃げ出す。
     他の灼滅者達も客を守るように、人々を店外へと誘導していく。

    ●ゲーム
     店内の喧騒がすっかり失われ、耳に痛いような静寂に包まれる。そんな中、食事する男の立てる音だけが響く。
     灼滅者に囲まれる中、悠々とハンバーグを食べ終えてオレンジジュースを口にすると、紙ナプキンで口に付いたソースを拭う。
    「ふー……いや、待たせてすまないね。どうにもお腹が空いていてね。それに食事中に喋るのは行儀が悪いでしょう?」
     男はゆっくりと立ち上がる。そして初めて灼滅者達へと視線を向けた。
    「あーというよりも、君達が早すぎですね。まだこちらは招待状も出していないのに。それにどうやら私の名前もご存知のようだ」
    「なんでこんなことまでしてオレらを呼び出そうとしたんや。闇堕ちにこだわる理由でもあるんか?」
     東の問いに、男は腕を広げて答える。
    「なに、ただのゲームですよ。君達を何人闇堕ちさせられるか、というね。この成績で序列を変動させるというゲームなんですよ」
     男は何でもない事のように言った言葉に、灼滅者達は驚く。
    「そんな理由で罪も無い人々を襲おうとしていたのですか」
    「そんな事の為にファミレスの客を狙うとか、やることが最っ低だわ」
     瑞鳥は攻めるような言葉を放ち、周も嫌悪感を隠そうともせず、毒を込めて罵る。
    「………」
     寅綺は鋭い視線で敵を睨みつけ、無言で殺意をぶつける。
    「俺たちを闇堕ちさせる為のゲーム? そんなことの為に、ふざけるな……命を何だと思ってるんだ」
    「お前らのやり方は気に喰わないんだよッ!」
     殊亜とレインもまた憤る。そんな灼滅者に男は肩を竦める。
    「私は序列には興味がありませんが。ゲームと聞くと参加せずには居られない性質でね」
     男はポケットに手を入れる。灼滅者達はその動きに警戒して身構える。
    「君達は私とゲームをしに来てくれたのでしょう。ならルールを決めましょう。ゲームというのはルールがあるから楽しい」
     そう言いながら、男が取り出したのは二つのサイコロ。それを灼滅者に向けて投げる。
     それを近くに居た叡智が思わず受け止めた。
    「ルールは闇堕ちさせれば私の勝ち。闇堕ちしなければ君達の勝ち。だが、まともにやっては私が勝ってしまうのでね、時間制限を設けましょう」
     疑問を顔に浮べて叡智は男を見る。
    「そのサイコロを振りなさい、出た目を掛けた数を制限時間としよう。それなら君達にもまだ勝ち目があるでしょう?」
     仲間の視線が叡智の手に集まる。叡智もまた仲間と視線を合わせる。
    「相手の思惑に乗るなんて癪ですけど、こちらが有利になるなら乗るのも手でしょう」
     榮太郎が皆を代表して声を出す。
    「分かった。そのゲームに乗ってやるよ」
     叡智は頷き、不敵に笑う。そして大きくサイコロを放り投げた。その出た目は――。

    ●10分
    「ほうほう、2と5ですか。中々運が良いようですね」
     男は鞄から自動拳銃を取り出す。
    「ご存知のようですが、一応名乗っておきますかね。私は六六六人衆が四九五番、鈴木太一です」
     丁寧に頭を下げる。そして腕時計を見ながら銃口を上げた。
    「それではゲームスタートといきましょう」
     天井に向けての発砲。ゲーム開始の合図と共に灼滅者達は一斉に戦闘行動を始めた。
    「武運を祈る……いくぞ、ギン!」
     レインが小さな光輪を浮遊させ、仲間の防御を固める。霊犬のギンは低く駆けると、口にした刀で敵の脇腹を斬った。
    「お前の闇を喰らい尽くす!」
     解除コードと共に、瑞鳥の手に光が集まり剣となる。そして炎が剣を覆うように渦巻き、炎の剣と化した。それを横一閃に振るうと、鈴木の胴を斬り裂き炎が燃え移る。
    「行くぞ、ディープファイア!」
     殊亜はライドキャリバーに乗り、狭い店内を自在に駆ける。突撃し、避ける鈴木とすれ違う瞬間、影が足元から伸びて絡みつく。
    「さあ、ボクと遊んでもらうよ」
     飛び込む叡智の手には槍。その鋭い突きはまるで紫電。穂先は捻り鈴木の腹部を穿つ。
    「これは、中々……」
     鈴木の銃口が叡智に向けられる。発砲。飛来する銃弾を受け止めたのは寅綺だった。影から突き出した蟷螂の鎌のようなものが重なり弾丸を止めていた。
    「お前らは死ぬべきだ、多分」
     戦闘前に寡黙でいたのは、敵を前にして何を言い出してしまうか分からないから。かつての自分を思い起こさせる人殺しの姿に、心乱れないよう、ただ戦いに集中する。
     引き金を引こうとした鈴木に、霊犬のジンが六文銭を飛ばして牽制する。足の止まった処へ東と周が攻撃する。
    「ドキドキしとるわ。恐い相手やけど、倒して無事に帰らんとな、みなにドヤされてまうわ」
    「その丁寧ぶった口調が逆に嫌味で気に入らねー」
     東は軽口を叩きながら、周は悪態を吐きながら、二人とも手にした槍が螺旋を描き、肩と足に突き刺さる。
    「四九五番ですか……誰が相手であろうと、命を弄ぶような真似は許せませんね」
     榮太郎の手から離れた符が仲間に宿り、守りの力を与える。
     ディープファイアが近づきながら機銃を撃ち、敵の足を止めた処で殊亜が手にした光輝く剣で斬る。その光は炎を発して敵を燃やす。
     瑞鳥は光の刃を飛ばし、燃える鈴木を吹き飛ばす。そこに榮太郎が石化の呪いを掛け、レインは影で縛る。
     身動きの出来ない処に、周が槍を体ごとぶつけるように突いた。勢いに壁まで吹き飛ばされる鈴木。
     鈴木は何とか体勢を整え、射撃に移る。その攻撃を身を挺してギンが受け止め、吹き飛ばされた。
     その背後から叡智が迫る。槍を捨てて、両手に巻いていた包帯が緩む。その手には青白い稲光、雷の如きオーラを纏う。大きく踏み込み、一直線に突きを打つ。拳は鈴木の胸を抉り、衝撃が背中に抜ける。
     更に東がオーラを纏い、拳を放つ。棒立ちの鈴木を滅多打ちにして、最後に大振りの一撃を決めようとした時、破裂する音が響く。見れば銃口から煙。そして放たれた銃弾は東の拳から肘までを貫いていた。
    「あ、ぐっぁ」
     激痛に膝をつく。その頭部に銃口を向けらる。発砲。その前に寅綺が飛び出す。影で弾丸を受け止める。だが続けて発砲音が鳴り響くと、影は貫かれ、銃弾は寅綺の胴体を撃ち抜く。
    「水之江さん!」
     榮太郎が符を飛ばし、すぐさま大きな傷口を塞ぐ。レインも光輪を放って東の腕を治癒する。

    ●残り5分
    「もしかして、このまま勝てる……なんて思いました?」
     前屈みに口から吐血した寅綺を銃把で殴り倒すと、鈴木はその体を踏みつけ笑う。
    「ゲームというのはね、逃げ切るほうが難しいんですよ。タイミング良く隠したカードを切るのがコツです」
    「いいからその足をどけろ」 
     周の影が死角から切り裂こうと狙う。鈴木はその刃を紙一重で避けながら、反撃に銃を撃つ。
     その弾丸を殊亜が乗ったディープファイアが割り込んで受ける。銃弾は貫通し、タイヤに穴が開き車輪が歪む。まともに走れなず転倒し、殊亜は飛び降りて受身を取る。
     そこに銃口を向けられた。二度の銃声。殊亜の前にギンが駆け込み口にする刀で弾く。だが二発目の凶弾がその背中から腹へと貫く。口から刀を落とし、倒れ込む。
    「ギン!」
     レインが叫び駆け寄る。治療を施すが、傷が深く起き上がれない。治療に意識を逸らしたレインに鈴木の銃口が向けられる。
    「燃えろ! その邪悪な闇と共に!」
     横手から飛び込んだ瑞鳥が、炎を宿した光の剣を大上段から振り下ろす。鈴木は飛び退く。ジンが寅綺を守るように間に割り込む。
     間合いが離れた機に、光輪がレインの手元から放たれ、寅綺の傷を癒す。
    「おやおや、寝ていたほうがいいんじゃないですか?」
    「守るものがある……なら、寝てなんていられないんだよ」
     苦痛に顔を歪めながら寅綺は立ち上がる。
    「それはそれは、すごい精神論ですね」
     そんな姿に笑みを浮べ、鈴木は腕時計に視線を移した。
    「あー残り時間は……後5分ですね。どうです、耐えられそうですか? 闇堕ちしてしまった方がいいんじゃないですかね」
     灼滅者達に冷たい汗が流れる。まだ半分。だが既にサーヴァントの二体は倒れ、深く傷ついている者もいる。
    「うるっせえ、黙ってろ」
    「そうや、勝負はまだまだこれからや」
     周と東が重くなった空気を吹き飛ばすように、軽口を叩く。
    「ギンの受けた傷を倍返しにしてやるよッ!」
    「ディープファイアの傷の分もだ」
     レインと殊亜は相棒がやられた怒りに闘志を高める。
    「後5分でボクたちがアンタを倒す!」
     叡智の瞳に強い意思の光が宿り、拳を固めて雷光を纏う。
    「どんな怪我も、自分が癒してみせます」
     榮太郎は全力で仲間を支える。
    「僕達の心はそんなことでは折れない」
     寅綺は胸を張って告げる。その様子に鈴木は困った顔で頭を掻いた。
    「んー困りますね。どうすれば堕ちてくれるんでしょう? あー誰か殺してみますか?」
    「そんな事は絶対にさせない!」
     瑞鳥が光刃を飛ばす。鈴木はそれを銃弾で撃ち落す。そこに周と東が飛び込む。周が槍で銃を持つ右腕を払う。東が隙の出来た右腹に死角から蹴りを捻じ込む。
     更に叡智が雷のように鋭い踏み込み、右の拳が胸を打つ。仰け反った所を左の拳が打ち下ろす。激しい音と共に、鈴木は地面にぶつかり地を転がる。
    「な、なんや?」
     だが地面に転がったのは鈴木だけではない、攻撃した三人共が地面に膝を突いている。見ればそれぞれ足に穴が開き、血に染まっていた。倒れる瞬間、鈴木が足を狙い撃っていたのだ。
     一番近くにいた叡智の頭を狙い銃を構える。寅綺とジンが守る為に前に立ち塞がると、鈴木は笑った。
    「そう動くと思っていましたよ」
     銃口を下げ、寅綺とジンの両足を撃ち抜く。体勢を崩した処に銃口が上がり、発砲。寅綺の右の胸を、弾丸が通り抜ける。
    「がはっ……」
    「それ以上はさせない!」
    「こっちだ!」
     寅綺から銃口を逸らそうと瑞鳥と殊亜が左右から挟撃する。二人は光の刃を放つ。だが同時に刃は撃ち落された。鈴木の左手にいつの間にか銃が握られ、二挺拳銃となっていたのだ。
     続けての銃撃に瑞鳥と殊亜も被弾する。
    「言ったでしょう? カードは隠しておくものだと」
     そう言うと、倒れた寅綺の頭部へと銃を向ける。
    「まずは一人」
     全く変わらぬ笑みを浮べたまま。引き金を引こうと――。
    「……後悔するなよ、四九五番」

    ●炎の魔人
     殊亜の体から炎が噴出しその身を包み込む。瞳は獣の如く光り、炎はまるでたてがみのように揺らめいた。
     それは炎の魔人。堕ちた殊亜の姿だった。
    「くっははっこれでこのゲームは私の勝ちということですね」
    「いいや、お前の負けだ」
     魔人は奔る。炎の残像を残し、一息で鈴木の目の前に移動していた。炎を薙ぐ。テーブルも椅子も消し炭にして吹き飛ばす。
    「おー恐い恐い。どうやらまだこちらに成りきってないようですね」
     焼け溶けた右手の銃を捨てながら、鈴木は殊亜を観察する。
    「全て灰塵と化せ!」
     青白く燃える剣を手にすると振り下ろす。そこに鈴木は銃弾を撃ち込み軌道を僅かに逸らす。地面が縦に裂けて溶ける。
    「威力は凄まじいですね。ですがまだまだ力に振り回されていますよ」
     指導するように鈴木は殊亜の攻撃をあしらう。
    「完全に獣になってしまいなさい。そうすればもっと力が引き出せますよ」
     鈴木は攻撃を避けながら時計に目をやる。
    「おっと、時間です。これでゲーム終了ですね、中々楽しめましたよ。それでは失礼します。機会があればまたお会いしましょう」
     窓ガラスを突き破り、階下へと飛び降りる。着地するとそのまま駆け出した。
     炎の魔人も追って飛び降りる。地面を溶かし穴を開け獣のように駆ける。

     後に残ったのは沈痛な灼滅者達。榮太郎とレインが傷を負った仲間を手当している。
    「敵は撃退したけど……」
     叡智が言葉を濁す。
    「闇堕ちさせてもうたな」
    「ああ、鈴木の奴の思い通りになっちまった、最悪だね」
     東と周が壁にもたれて呟いた。
    「でも、堕ちなきゃ死人が出てたな」
     レインの言葉に皆が沈黙する。
    「紗守さんを助けましょう」
    「うん、私達が必ず助けよう!」
     榮太郎と瑞鳥が力強く言う。それは皆の気持ちだった。
     仲間を守る為に堕ちた。それなら堕ちた仲間を救うのも仲間の役目だ。
    「ああ、僕達が守ろう。その意思を」
     身動き出来ぬまま、寅綺は言の葉に強い意思を込めた。
     犠牲者を出さずに灼滅者達は守りきった。だが一人の仲間が足りない。
     必ず今日のメンバー全員で集まろう。それは誓いの言葉。
     灼滅者達は想いを胸に、その場を後にした。

    作者:天木一 重傷:水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622) 
    死亡:なし
    闇堕ち:紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358) 
    種類:
    公開:2013年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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