死出の帰宅ラッシュ

    作者:波多野志郎

     ――夕暮れ。
     一仕事を終え帰宅しよう、というサラリーマン達でごった返す駅の光景を一人の女が駅ビルの上から見下ろしていた。
    「いやー、人がゴミのようだわねー」
     あまりにもしみじみと、女は言ってのける。まるで悪役のような台詞だ――だが、それでこそだ、と女は笑みを濃いものとした。
     特徴的な女だった。燃えるような赤い髪。黒いコート。その下からでも強調するような女性的なライン。そして、他人へと悪意を撒き散らす事を当然と鋭い視線――。
    「悪役冥利に尽きるよね、ああいうの」
     女は笑う。悪を任じられた者ならば、哀れな犠牲者の前ではそうするだろう――そういう血の匂いのする笑みだ。
    「さぁ、始めてみようか? 悪役」
     女がフェンスを飛び越える。十階を越える高さを感じさせず――音もなく人の海へと着地した。
     人の視線が集中する――その視線を受けながら、女は薄い微笑と共に言い捨てた。
    「六六六人衆、五一六――『悪を成す』赤鷺。噂の連中が来るまでの遊びに付き合ってよ? 無辜の人々」
     ジャカン! と赤鷺と名乗った女がそのコートの中から取り出したガンナイフのナイフを展開する――そこへ、最悪の阿鼻叫喚の地獄絵図が生まれるのに、そう時間は必要としなかった……。

    「……本当、最悪っすね」
     深いため息と共に湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は言葉を続けた。
    「今回、六六六人衆の動きを察知したんすけどね?」
     一番の問題は、この六六六人衆の目的だ。
    「確か、武蔵坂学園の生徒を狙ってる、んでしたっけ?」
    「ええ、そうっすよ」
     隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)の言葉に、翠織は表情を暗くしながら呟いた。
    「連中、こっちを闇堕ちさせた人数を競う遊びを始めたんすよ」
     おびき寄せるために大量虐殺すら計画する始末だ――放置する事は出来ない。
    「今回、みんなに担当してもらうのは六六六人衆の五一六、自称『悪を成す』赤鷺さんっす」
     赤鷺は夕方の帰宅ラッシュでごった返す駅での大量虐殺を行おうとしている。それを何としても防がなくてはいけない。
    「こっちの未来予測によると駅ビルの屋上を戦場にすればいいだけなんすけどね……」
     赤鷺は強い、ましてやこちらに闇堕ちを促すように戦ってくるのだ――迎え撃つのに、覚悟が必要だろう。
     赤鷺は六六六人衆のサイキックに加え、ガンナイフやバトルオーラ、護符揃えのサイキックを使用してくる。その多彩な能力と高い戦闘能力は驚異的だ。
    「何としても、撃退して欲しいっす」
     倒すまではいかなくても、大量虐殺だけは避けたい――それが本音だ。桃香もそれにはうなずいた。
    「そうですね、皆さんの力がお借りできれば……」
    「相手も馬鹿じゃないっす、大勢に囲まれるのは好まないはずっす。ただ、どう出るかわからなくなるっすから」
     出来るのならば赤鷺が撤退する時に撤退ルートを被害が出ない方へ誘導出来れば――そのための人員がいれば、心強いだろう。
    「今回は、一般人の殺戮を止めるのが第一っす……もちろん、闇堕ちする人が出ないなら、出ないのが一番なんすよ?」
     翠織が表情を曇らせる。だが、敵は強敵なのだ――すべては、戦場に答えがあるのだ……。


    参加者
    紅・なこた(そこはかとない殺人鬼・d02393)
    九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)
    久野儀・詩歌(絞めて嬲って緩めて絞めて・d04110)
    刀祢・隼鷹(兇刃乱舞・d05931)
    西室・透也(灰色少年・d08311)
    ウォーロック・ホームズ(マジカル探偵・d12006)
    黒桐・愛梨栖(刹那追いし少女・d12997)

    ■リプレイ


     ――夕暮れ、その駅前は賑わっていた。オフィス街のその駅は就業を終えたサラリーマン達でごったがえしている。
     平日のいつもの光景だ。何度も繰り返され、また繰り返していくだろうその光景が今、壊れさそうとしている事を知っている者はほんの一握りだった。
     それは壊そうとする一人と、阻もうとする者達だけだ。
    「君の悪事はぬるっとお見通しだ!犯人はこの場に居る!」
    「……はい?」
     壊す一人が駅ビルの屋上へとたどり着き、思わず間の抜けた声を漏らした。
     向けられた視線の先にはデバートのアドバルーンの上に空飛ぶ箒で飛んでいるウォーロック・ホームズ(マジカル探偵・d12006)の姿があった。いそいそと降りてくるウォーロックと阻もうとする者達の姿に女は目を細める
     特徴的な女だった。燃えるような赤い髪。黒いコート。その下からでも強調するような女性的なライン。そして、他人へと悪意を撒き散らす事を当然と鋭い視線――だが、今はそこには歓喜の輝きがある。
    「……いきなり何事かと思ったけど。来たか、暇潰し」
    「「悪を茄子」――」
    「成す、だ。坊や。秋の嫁に食わせない方じゃないよ?」
     九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)のギャグを発音から読みきった女――『悪を成す』赤鷺が先を制した。それに獅央は苦笑し、言葉を変える。
    「面白いゲーム始めたみたいじゃん? 俺らをターゲットにしてくれんなら願ったりだけど」
    「遊ぶっていうんなら、俺と……俺たちと遊んでくれよ。『悪を成す』赤鷺さんよぉ」
     コートを羽織り直し、刀祢・隼鷹(兇刃乱舞・d05931)は凶暴な笑みを浮かべた。その笑みの根源にあるのは強敵との戦いの予感だ。
    「……ただの一般人殺してもつまらないでしょ? だから、僕らの相手をしてよ、お姉さん」
    「まぁ、つまらないのかもね?」
     西室・透也(灰色少年・d08311)のその言葉に、赤鷺は肩をすくめる。ザ、と一歩前に踏み出す――それだけで増す圧力に、透也はフードの下で狂気じみた笑みを浮かべた。
    (「これがダークネス――ようやく戦える……!」)
     眷族や都市伝説ばかりと戦ってきた、だからこそこの赤鷺こそが透也が対峙する初めてのダークネスだった。
    「まず、あんた達が来るかどうか? それが最初の条件よね。そのために必要だからやる――私的にも、そうかしら? ただ、根本から違うのよね」
    「根本、ですか?」
     隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)が問いかける。それは答えを知った上での問いだ、赤鷺はガンナイフを引き抜く。
     その答えを代弁するように、ウォーロックがしたり顔で告げた。
    「謎は解けた! 赤鷺とは結婚詐欺……即ち年齢的に結婚詐欺を続けるのが辛くなった事による自暴自棄の犯行だね! なに、簡単な推理さ」
    「何でさ」
     思わず、というように赤鷺は裏手ツッコミを入れる。
    「そもそも、六六六人衆に動機があると思う?」
    (「……ああ」)
     レイシー・アーベントロート(宵闇鴉・d05861)は思わず胸中で、声をこぼした。
     疑問があったのだ、レイシーには。
    (「ダークネスを増やしてどうするつもりだろうな。他の連中ならともかく、六六六人衆って序列の為に殺しあうんだろ? 遊び半分で仲間を増やして、順位追い抜かれても知らねーぜ?」)
     当然と言えば当然の疑問だ。しかし、それはあくまで殺人鬼の思考であり――その『先』にいる六六六人衆は、文字通り『違う』のだ。
    「殺すためのダークネスだ、それこそ呼吸みたいなもんなんだよ、殺すという事が。つまらないとか面白いとか、表面上のもんはあるんだろうがな? その根本では、結局殺したって言う結果が重要であって、どう殺すかって過程の技量こそ重要視しても殺す相手を選り好みはしないさ、そして――技量を磨く糧となるのは、もちろん同じダークネスである方が効率がいい……少なくとも、私はそうだね」
     だからこそ、この女にとって悪役とはその表面上のものなのだろう。アクセサリーでも着飾るように悪と言う理由を飾り、命を奪う――その赤鷺へ久野儀・詩歌(絞めて嬲って緩めて絞めて・d04110)が苛立ったように告げた。
    「殺戮も悲劇も僕好みなのに……何だか酷くイラつくよ」
    「だから、そこが違うんだろうね」
     平行線だ、とお互いが思う。
    「理解したければ、こっちに来てもらわないとね?」
    「正義を語るつもりはありません。ただ、守りたいものを守るだけです」
     黒桐・愛梨栖(刹那追いし少女・d12997)が静かにそう告げた瞬間だ、赤鷺のまとう気配が明らかに変質する。
    「六六六人衆、五一六――『悪を成す』赤鷺。ゲームの開始と行こうか?」
     紅・なこた(そこはかとない殺人鬼・d02393)がその死んだ魚のような瞳で殺人鬼の姿を見た。
     血の赤が好きだ。駅を真っ赤に染めるのも魅力的で。赤鷺のその赤髪も嫌いではない。
    (「でも、僕は今の仲間が好き」)
     Promenadeで一緒に暮らしてる友達の方が、すごく好きなのだ。だから、否定する――好きを、大好きで。
    「殺らせないですよ」
    「やれるものなら、やってみな!」
     それが開幕の合図だ――赤鷺が放つドス黒い殺気が、灼滅者達を飲み込んだ。


     その殺気の中を獅央がいの一番に駆け出した。
    「余計な観客はいないほうが好みだが、強い奴とやれるんなら喜んで――」
     紅い布をまとい、鈍い光沢をもつ金属製の槍を手に獅央が赤鷺へと迫る。紅牙槍が螺旋を描き、紅い布をひるがえし放たれた。
     鈍い金属音――槍の切っ先とガンナイフのブレードが火花を散らし、拮抗する。
    「――楽しもうぜ?」
    「言われるまでもなく、そのつもりよ?」
     赤鷺が振り返った。そこには宵鴉を振りかぶったレイシーの姿があった。
     切り裂く斬撃が、赤鷺の脇腹を切り裂いた。だが、死角に回り込んだはずの斬撃は浅い――そこへロングコートをひるがえし、隼鷹が踏み込んだ。
     漆黒の刃を持つグレイブが、繰り出される。肉厚のその刃が赤鷺の肩口を切り裂くとなこたがガトリングガンを構えた。
    「たま、行くですよ!」
     その呼びかけに答え、霊犬のたまが斬魔刀をしっかとくわえ、赤鷺のその脛へと切りかかる。
     赤鷺はそれを跳躍して回避――そこへなこたがガトリングガンの銃口を向けた。
    「真っ赤に燃え散るといいですよ」
     フレイジングバーストの爆炎を宿す銃弾の雨が赤鷺へと降り注ぐ。その長く赤い髪を広げながら、赤鷺は着地した。
    「……ただの一般人殺してもつまらないでしょ?だから、僕らの相手をしてよ、お姉さん」
     そして、透也がその鋼糸を躍らせ赤鷺の周囲を囲み、一気にその身を絡めとろうとする――だが、赤鷺はそれを周囲に展開した護符によって阻み、相殺した。
    「本当は前に立って殺り合いたいけどね」
    「私達は私達の仕事をしましょう」
     詩歌が光の小盾を、桃香が護符の守りを、それぞれが回復を飛ばす。同じくメディックであるウォーロックはその瞳へとバベルの鎖を集中させる。
    「兄、私に力を貸して」
     そして、身に余る大きさの剣のような形状のバスターライフル構え、愛梨栖は脳の演算能力を高速化・最適化し意識を赤鷺へと向ける。
    「……いきます!」
    「うんうん、少しは楽しめそうね」
     赤鷺はガンナイフのグリップを握るその手に力を込めて笑う。その赤い髪を躍らせる姿に隼鷹は理解した。
    「だから、赤鷺か」
     その赤い髪が舞い踊るコートをひるがえす姿は、確かに羽を広げた鷺を思わせる。優雅であり、その色は血生臭い赤であり――死を、たやすく連想させた。
     だからこそ、おぞましい程に美しい。『悪を成す』赤鷺が、その死の技巧を思う存分に灼滅者達へと振るい始めた。


     ――それは、まさに冗談のような光景だった。
    「久野儀さん……!」
     ほんの一瞬、その隙を桃香は近くの詩歌へと防護符という守りと回復を放つ事に費やした。
    「こっちを、狙って……!」
    「回復役から潰すのは当然でしょう?」
     身構える詩歌にそう言い放ち、赤鷺が鏖殺領域を繰り出す。その雪崩のように迫る殺気に詩歌とウォーロック、桃香が飲み込まれようとしていた。
     それをたまが詩歌を、レイシーがウォーロックを、間一髪でその身を盾に庇った。たまは堪えきれずに足元へ転がり起き上がれず、レイシーもその動きを止める――そこへウォーロックの言葉が響き渡った。
    「まだだ、私の推理では――」
    「推理するまでもないわよ!」
     赤鷺は遮り、即座にその殺気を繰り出した。即座の再行動だ、その鏖殺領域は情け容赦なく、後衛を飲み込んだ。
    「わとすんっ!?」
     殺気に飲み込まれ、ウォーロックが奇声を上げる。度重なる猛攻にもう限界が来ていたのだ――彼の推理では、これはさすがに耐えられない。そして、その推理は的中する。
    「ペロッ……これは地べた……!」
    「は、つおん、いいですね……ご、めんなさい……っ」
     ガク、とダイイングメッセージを残し損ねたウォーロックが崩れ落ち、桃香が申し訳なさそうに倒れた。
    「結界よ、動きを封じろ!」
     愛梨栖が突き出した縛霊手が展開した除霊結界が赤鷺を中心に張り巡らされる――そこへ透也が素早く死角へと回り込み、その解体ナイフを振り上げた。
    「これを――!」
     透也がフードの下で目を見張る。赤鷺の足を狙った解体ナイフが空を切った――その時には赤鷺は自分の真後ろへと回り込んでいたからだ。
     これがダークネス、これが六六六人衆――! その強さは戦慄となり、透也の笑みをより濃いものへと変えた。
     赤鷺へ獅央はロケットハンマーを振りかぶった。ロケット噴射の加速を加えて放たれたロケットハンマーが赤鷺の脇腹を強打するが、赤鷺の動きは鈍らない。
     その姿に、手応えに獅央は腹のそこから笑って言った。
    「うん! 強ぇな、いやもう楽しい」
    「行かせないです」
     影を糸のように操り、なこたが赤鷺へ影を放つ。だが、その影よりも早く加速した赤鷺に、影は空を縛り上げるのみだ。
    「透也くん、上だ!」
     詩歌の指摘に透也は上を見た。宙を蹴って加速した赤鷺が真っ直ぐに透也へと迫ったのだ。
    「――ッ!」
     声にならない裂帛の気合いと共に透也はその変形した解体ナイフで迎撃する――だが、赤鷺はそれを黒い殺気を凝り固めた拳で刃の腹を叩いて軌道を反らした。
     一瞬の空白――赤鷺の繰り出した連続突きが的確に透也の急所と言う急所を狙い撃ち、最後の一発はその頭上へと叩きつけ、振り抜いた。
    「これが、六六六人衆だ――憶えておくといいさ、坊や」
     最後の瞬間まで抗い、そしてフードの下で笑みを浮かべていた透也へ赤鷺はいっそ優しく囁いた。
     もう一度言おう――それは、冗談のような戦いだった。
     九人からなる灼滅者達が思う様に翻弄されていた。隼鷹は思う、今、ここで散っているだろう仲間達がここにいなくてよかった、と。
    (「ここにみんながいたら、こいつはこの包囲を抜いて虐殺していたはずだ……!」)
     それが出来る力量があり、その状況を見切る戦術眼がある。それが六六六人衆――己の技量を高めるためなら、同族殺しすら行うダークネスなのだ。
    「なんか小細工好きそう……あってる? ま、やらせるつもりは毛頭ないけど」
    「小細工が好きなんじゃないよ? 小細工『も』好きなのさ」
     繰り出されるのは獣の鉤爪――獅央の影獣爪と赤鷺のガンナイフが火花を散らす。そこへ隼鷹が跳び込んだ。
     その鍛え抜かれた拳が赤鷺のこめかみを強打する――だが、微動だにせず赤鷺は隼鷹をその刃で切り裂いた。
    「いいねぇ、最高だぜ! もっと遊んでくれよ!!」
    「――言われなくても」
     再行動――刃を振り抜いた赤鷺の拳に殺気の闇が宿る。自分へと振り下ろされだろうその拳に隼鷹は全身の血が沸騰しそうなほど戦慄を味わった。
     放たれた拳打――しかし、 その一撃は隼鷹へと届かない。
    「タカさんは僕が守るですよ」
     人見知りをし、自分の背中に常に隠れていたなこたの背中に、隼鷹の血が一気に冷め切った。崩れ落ちた隼鷹の姿に、仲間達が限界を知ったその時だった。
    「――おお、おでましか」
     赤鷺が笑う。その身に闇のように濃く禍々しい殺気をまとい、隼鷹が踏み込んだ。
    「……あとでちゃんと助けてくれよな。頼んだぜ」
     その言葉を残し、隼鷹は赤鷺へと挑みかかっていった。


     ――撤退するしかなかった。赤鷺には余力があり、半数が削られたからだ。
     そして、その兇刃:暴牙を手に赤鷺と打ち合う隼鷹もまた、追いやられていった。
    「が、は……ッ」
    「筋はいい、強くなれる素質は充分にあるよ? でも、まだ足りないわね」
     赤鷺はそう笑う。退きながらその光景を振り返った詩歌が叫んだ。
    「愛梨栖先輩……!?」
    「させない……私が守るんだ。皆を、この刹那を!」
     その深紅に燃える姿は止める間もなかった。隼鷹へと振り下ろそうとした赤鷺のガンナイフの刃が跳ね上がる。
     刃と刃が火花を散らし、鳴り響く――その時、赤鷺が初めて息を飲んだ。
    「来たれ、我が影、我がかたち――捉えた!」
     愛梨栖の足元から伸びた無数の影の刀剣が赤鷺を突き刺していく。影の拘束――それを振り払おうとした瞬間、一撃の氷のツララが赤鷺を刺し貫いた。
    「――!?」
    「俺の推理が正しければ……リスク負うの嫌いだろあんた」
     ホムホムの真似だ、とウォーロックを背負い妖冷弾を繰り出した獅央が言い放つ。そして、レイシーがその魔法の矢を撃ち込んだ。
     赤鷺が見る――連携に重ねる連携、仲間と共に作ったその間隙を詩歌が放ったシールドリンクによる回復を受けて隼鷹がその兇刃:暴牙を突き出した。
     その肉厚の刃は赤鷺の胸元を刺し貫く――そして、赤鷺はそのまま大きく跳躍、後方へ跳んだ。
    「――やってくれたわね」
     その気配に、赤鷺は言い捨てる。協力者達の配置に気付いたからだ、もしも足止めされ時間を取ろうものなら闇堕ちした二人に追いつかれるだろう――それを避けるルートに誘導されるしかなかった。
    「戦略的に負けね――ええ、あなた達の勝ちよ、認めてあげる」
     赤鷺はそう微笑み、跳んだ。そして、人気のない線路の上に着地し、疾走していく。
     それを見て、隼鷹と愛梨栖も駆け出した。闇堕ちした二人の理性が、この場から引き離したのだ。
    「……行った、か」
     レイシーは呟く。そして、強い決意と共に言った。
    「でも、終わりじゃないぜ……あいつらを、絶対に救うんだ……!」

     戦いは、幕を閉じた――勝利か、敗北か。その答えはそれぞれの胸にのみある事だ。
     ただ、日常は壊される事はなかった……それだけが、救いだった。

    作者:波多野志郎 重傷:紅・なこた(そこはかとない殺人鬼・d02393) 西室・透也(灰色少年・d08311) ウォーロック・ホームズ(ロリコンじゃない魔術師探偵・d12006) 隠仁神・桃香(大学生神薙使い・dn0019) 
    死亡:なし
    闇堕ち:刀祢・隼鷹(兇刃乱舞・d05931) 黒桐・愛梨栖(黒忌陽焔・d12997) 
    種類:
    公開:2013年3月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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