路地裏抜ける通行料

    作者:呉羽もみじ


     男達は後悔していた。
     路地裏にふらりと現れたどこにでもいそうな青年に声を掛け、少しだけ痛めつけて、少しだけお金でも拝借出来ればそれで良かったのに。どうしてこんなことになっているんだ。
    「叫んでみてよ? 灼滅者さん助けてーって」
    「す、すれ?」
    「――叫べよ、早く」
     青年の肘で喉元を固定された男は必死に叫ぶ。
    「助けてって言って都合良く現れる訳ないか。どこぞのヒーロー様じゃあるまいし。じゃあ……血かな? 血の匂いに呼ばれるとか。ちょっと試して良い?」
     青年は呟き、一旦男から離れるとそのまま彼の喉をさっと切り裂いた。
    「ヒ、ヒィィィ!?」
    「うっさいなあ。今、高尚な実験の最中なんだから静かにしててくれよ? 足音とか聞き逃がしたらあんた等のせいだよ。責任取れるの?」
    「ひ、うぐ……ふ……」
     男達は口を塞ぎ、嗚咽すらも漏らさない様に必死で堪える。
    「来ない。来ない来ない来ない。足りないのか? 人が足りないのか? ……あんたらさ、ちょっと試して良い?」
    「――!!」
    「黙ってたら分かんないよ? ああ、それはOKってことか。優しいなーあんた等。ご協力、痛み入ります」
     青年はにこにとと笑いながらゆっくりと一人ずつ殺していった。
    「来ないなあ。これじゃ俺、只の悪人みたいじゃん? そんなつもり無いのにさ? うーん、でも気分も良いしこのまま続行するか。来ないと俺、どんどん狩っちゃうよ? 良いのかな、灼滅者さーん? 善良な一般市民の「助けて」って声が聞こえないの?」
     機嫌良く大通りへと足を向ける青年の靴音が響く。
     彼が大通りに到着するまで、後少し。

    「以前戦ったナンバー六六一、レムがまた現れた。前回は半覚醒状態だった為、こちらの被害もゼロに終わったが、今回は完全に目を覚ましているご機嫌な状態だ。全く……いつまでも寝ていろと言いたいところだが、そうも言ってられないな」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は肩を竦めそう言った。
    「……と、知らない奴も居ると思うから簡単に説明しておくが、レムは以前にも現れている、微睡むことが趣味の変わったダークネスだ。今回はうたた寝よりも面白いことを見つけたようだ。
     こちらは幾つか報告が上がっているから、周知の通りかもしれないが――目的はお前ら――いや、正確に言うとお前らの闇堕ちを狙っている」
     ヤマトが見た未来予測によると、レムは路地裏にたむろしている五人の若者を餌に灼滅者を呼び出す計画だったようだ。
    「今回は絡んだ相手が悪かったんだろうな。不良共は返り討ちに遭ってしまう。なかなか現れない灼滅者達をおびき寄せる為、奴が連中を次々と手に掛け……それでも現れないからと、大通りで大量虐殺を開始してしまう」
     それだけは回避して欲しい。ヤマトは真剣な表情のまま灼滅者達を見た。
    「大通りの人払いは今回は控えて貰いたい。異変に気付いたレムが逃げ遅れた一般人を手に掛けることは想像に難くないからな。
     だから、接触のタイミングは……不良の一人を奴が手に掛けた瞬間だ。本当なら誰も犠牲者を出さずにいられるのがベストなんだが、何度計算してもこれだけは覆らなかった。見殺しにするのは心苦しいが、その瞬間だけレムに隙が生まれる。そこを上手く利用してくれ。
     今回の狙いは『灼滅者の闇堕ち』だ。その為にはこちらが危機に陥る……つまり、負傷者や不良たちを積極的に狙ってくることになるだろう。レムを路地裏に留め置いたまま、一般人の安全確保をしながら自分の身を守りつつ戦えなんて、我ながら難題を課していると思っている。が、やらなくちゃいけないんだ。
     今回も奴の獲物は前回と同じく殺人鬼とバトルオーラと同等のサイキックを使用する」
     ヤマトは軽く息を付く。
    「人通りの多い大通りにレムが出てしまったら、戦う事も追いかけることも難しくなるだろう。奴を灼滅……とまではいかなくとも、撤退させてくれ。なに、この程度お前達なら簡単だろう?」
     ヤマトはいつも通りニヤリと笑おうとした。が、出来なかった。
    「……頼む。出来れば誰も欠けずに無事に帰って来てくれ」
     僅かに震えるその声は今にも消え入りそうだった。


    参加者
    花月・鏡(蒼黒の猟犬・d00323)
    彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)
    埜々下・千結(八杯抱えし空見人・d02251)
    黒鉄・伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716)
    八尋・虚(虚影蜂・d03063)
    桃地・羅生丸(暴獣・d05045)
    或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)

    ■リプレイ


     都会には夜が減った。
     人工の光を受け、人は夜を押しやり、効率を求め、成果を求め、成功を求める。
     それでも、昔から変わらず人々を照らし続けた月は今夜も無感情に地上へ光を落とす。どんな非日常が繰り広げられているかもお構い無しに。
    「さてさて、ジェントルなヒーロー様は来てくれるかな? ――だっ!?」
     男の亡骸を軽く蹴って道の隅に追いやり、次はお前達だと言わんばかりに彼の仲間へと振り返る青年の背後に攻撃が叩き込まれた。
     一発、二発――全ての攻撃を当てることは叶わなかったが、奇襲作戦は上手くいったようだ。
     その隙に、へたり込んでいる不良達を神園・和真(カゲホウシ・d11174)と、彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)が、花月・鏡(蒼黒の猟犬・d00323)の待つ後方へと避難させる。
    「不意討ちなんて卑怯じゃん! って、わーお、ワンダホー。あんた等って何でもできるんだな」
     和真が担ぎ上げきれなかった不良を軽々と投げ飛ばすのを見て、青年――レムが思わず拍手を贈る。
    「ご指名があるなら、行かないとね。という訳で来ちゃったよー」
    「マジかよ、本当に来たんだ……ヤバい、顔が笑う。頑張れ俺の表情筋」
     或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)の笑顔に、レムは笑顔を我慢した様な神妙な表情で返す。
    「……久し振り。で、何故ボクらを闇堕ちさせようとしてるのさ? 以前、仲間は狂ってるとかなんとかぼやいてたじゃない。」
    「へえ、俺そんなこと言ってたんだ。狂ってる奴は多ければ多い程面白いだろ?」
     黒鉄・伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716)との久方振りの再会に、互いに素っ気無い挨拶を交わす。
    「君の場合は特に、変に仲間なんて増やさない方がゆっくりうたた寝出来ると思うけど」
    「む、確かに一理あるな。でもさ、折角来てくれたんだから、それ相応のもてなしをしないとダメでしょ?」
    「誘うにしても闇堕ちに、なんてさぁ~……やーいセンス皆無! 癪だとか以前に、存在がナッシングっていう。超、お引き取り願うわ」
    「ちょ! 初対面の相手にそこまで言うか!? 俺、人間不信になりそう」
    「真っ向勝負で殺り合わねえ、てめえ等みてえな小聡明い連中は気に食わねえんだよ。俺達と戦いてえなら相手になってやるぜ!」
     八尋・虚(虚影蜂・d03063)の挑発に頭を抱えるレムに、桃地・羅生丸(暴獣・d05045)が更に追い打ちを掛ける。
    「別に小聡明くないよ。先に襲ってきたのはあいつ等だったし、あんた等呼ぶのに丁度良いやって成り行きで……ってこんな言い訳してても仕方ないか。良いよ、真っ向勝負、やってやろうじゃ――でっ!?」
     ぱきゅん。
     きりりとした顔をして台詞を決めようとしていたレムの顎に埜々下・千結(八杯抱えし空見人・d02251)の放った弾丸がヒットする。
     物凄く格好悪かった。灼滅者の何人かはそっと見ない振りを決め込む程に。
    「……好かれてないとは思ってたけどさあ、ここまで嫌わなくても良いじゃないか……」
     レムの頬に何か光るものが伝う。
     兎にも角にも、レムに(特に精神的に多大な)先制攻撃を仕掛けることには成功したようだ。


     さて、と。レムが首をぽきりと鳴らして臨戦態勢を取る。
    「来てくれたってことはさ? それなりに覚悟があるってことだよね? 俺、睡眠はきちんと取る健康的なダークネスだからさ。やるときはやる子だよ?」
     先程とは打って変わってレムは不穏な空気を醸し出す。
    「ワタシ達を待ってたんだよね? なら、お望み通り相手をしてあげる」
    「覚悟が出来てる子は好きだよ? 攻撃も悪く無い。……でも惜しい。ちょっと遅いかな」
     レムはさくらえの盾を肘で撥ね退け、その反動でガラ空きになった腹部に拳の連打を浴びせる。
    「てめぇの敵は一人じゃ無ぇんだよ」
    「っくく、良いねえ。熱いのは嫌いじゃ無いよ。ぽかぽかして眠くなるしね。そうこなくちゃ。命のやり取りってほんっと面白いよね」
     羅生丸の攻撃を受け、身体中を焼かれながらレムは嬉しそうに笑う。
     千結は傷付いたさくらえへ回復を施し、ナノナノのなっちゃんへはレムのダメージを重ねるべく攻撃を指示する。
    「目立たないように動かないでじっとしてるっすよ」
    「は、はいぃ……」
     無気力状態になっている不良達を一瞥する。
     正直、悪いことをしていた不良達の処遇等、千結にとってはどうでも良いことだった。だが、全員の命を救おうとする仲間達の姿を見ている内に、彼女の中で少しずつ変化が訪れていた。
    (「闇堕ちも絶対させたくないし、不良さんも全員守りたい。レム、さんも大通りにも行かせない。――全員無事に帰したいっす」)
     ナイフを握り締め、千結はレムを睨みつけた。
     千結の視線の脇を抜けるように鏡が指輪から呪いを放出させる。スナイパーの彼の攻撃は的確にレムの腕に当たり、その腕を石化させる。
    「ん? なんかあんたの目、皆と違うな?」
    「お前の事は殺す気で戦っている。が、お前がどうなろうがどうでも良い」
     冷めた瞳でレムを見る鏡を見て、不思議そうに首を傾げる彼に無感情に答える。
    「っく、あはは、あんた等、やっぱ面白いな。色んな気持ちが渦巻いててさ……だからこっちに誘いたくなる」
     レムの口角がにぃと上がる。
    「……やっぱあんたモテなさそー」
     レムの笑みに内心恐怖を覚えながら、虚は影を巻き付ける。それを意に介さない様に笑い続けていたレムがふと後衛の方を見る。
    「あー、そういえば、あんた等の前にあいつ等の相手してたんだっけ」
    「お前の相手は俺だ!」
     和真がレムの注意を惹くべく殊更大きい声を出して盾で彼を撃ち据えようとする。が、紙一重でかわされた。そのレムの動きを予測していたかの様にさくらえが影を生み出し、動きを封じる。
     その後も一進一退の攻防が繰り広げられていたが、レムが不意に足を止める。
    「俺さ、気付いちゃった。――あんた等は優しいな。優しい優しい灼滅者さんに対しての一番効果がありそうな攻撃。多分これが正解、かな?」
     まるで雑談をするかの様にレムはそう言うと、不意に殺気を膨らませた。狙っているのは、不良達。『誰ひとりとて殺させない』。それが灼滅者達の目標だったのをレムに看破されてしまったようだ。
    「その人たちを殺しても、闇堕ち者は出ないぞダークネス。俺たちを殺してみろよ!」
    「ボクを攻撃しないと、今度見掛けた時はすっごく嫌な方法で起こすよ!?」
     和真と伝斗の挑発が上手くいったのか、戦闘開始時に立て続けに浴びた攻撃によりレムの意識が前衛陣に向いていたのか。若しくはその両方かもしれない。レムの闇より暗い殺気は前衛5人を撃ち据えた。
    「と、手元が狂っちゃったかな。ははは、ごめんごめん。だけど結果オーライっぽいかな?」
    「……あはは、大丈夫だよー。まだ巻き返せるからー。私はレムさんの足止めをしておくから、今のうちに体勢立て直してー」
     他者回復手段を持っていない仲次郎は、青ざめながらも平静を装いレムへと走る。精度を上げた攻撃はレムに当たり彼の身体から自由を奪う。
    「自己回復を出来る人は自分でお願いするっす! それでも足りない場合は、自分となっちゃんで回復するっすよ! 仲次郎先輩の言う通りっす。まだまだ余裕で立て直せるっすよ!」
    「そうだ。まだ間に合う。ここはおれ達に任せて、治療に専念を」
     千結の叫び声と対称的に、冷静に鏡がレムの腕を撃ちながら言う。
    「りょーかい。全然オッケー……じゃないかもぉ、なんてね」
    「俺に後退の二文字はねえんでな、力尽き果てるまで付き合ってやるぜ!」
     なるべく軽い口調になる様に虚が言うと、羅生丸が血の混じった唾を吐きだしながら不敵に笑う。
    「『立て直す』? そうだねえ。立て直せるかもね? でもさ、それは俺にとっても同じことなんだよなあ。あんた等が体勢を立て直してる間に、こっちも立て直せちゃうんだよね。格好悪いし、本当は使いたく無かったんだけど、あんた等頑張るからこっちも回復させて貰うよ? まあ、まだ石化は進行してるし、あちこち痺れてるけど……体力は回復しちゃった。さて、どうしようね? ん? どうしたの? そんな顔して」
     にっこりと微笑むレムを見てさくらえが顔を歪ませる。
     さくらえが見たものはかつて自身が闇に囚われていた頃の記憶。
     ――鉄の匂い、肉の感触。狂える赤の世界。委ねたが故に失ったものはあまりにも大きかったから。
    (「……失いたくない。けれど堕ちたくない」)
    「そっか。なかなか複雑なんだね」
    「キミにとってはどうしようもなく愚かなことでも、そういうヤツも居るってことだよ」
     心の叫びが聞こえたのか、つまらなさそうに言うレムを、さくらえは殺意を込めた目で睨みつけた。


     誰も殺させない。
     闇堕ち者も出さない。
     レムを大通りへ行かせない。
     作戦も目標も問題無かった。
     前衛陣の絶えまない攻撃に苛だち、レムの攻撃が不良達に向かうことは限りなく少なかった。
     4人の人間を8人で守るのは困難を極める。それが強敵であれば尚更だ。灼滅者達にとって、アキレス腱であった不良達をこの隙に1人ずつでも逃がしていたら少しは違う未来になっていたのかもしれない。
     今更、「もしも」の話をしても詮無き事なのかもしれないが。
    「……あんた等、なかなかしぶといね」
     レムが頬に出来た傷から流れる血を拭いながら言う。彼自身も体力を奪われている事を表しているのか余裕の色は薄くなっていた。
     しかし、灼滅者達の疲労も更に目に見えて蓄積していった。誰かを守りながらの闘いは神経も体力も使う。
    「なあ? こいつ等を殺されるのがそんなに嫌なの? ……分かんないんだよな、その辺り。だってさ、こいつ等他人じゃん? こいつ等、あんた等の事なんか忘れるよ? 十中八九忘れるよ? 何でそんな奴等の為にそこまで頑張れるの?」
    「無関係な人を、自分たちの楽しさの為に殺人を行って、そんなことが許されるわけないだろ!」
     死んでいい人なんて居ないんだよ! 和真の叫びと共に幾度目かの刃がレムを襲う。
    「どんな不良だろうが生きる権利ってのがあるんだよ」
     羅生丸は不良達に過去の自分を重ね合わせ、何があっても彼らを傷付けることは許さないと決意を新たにレムへと向かう。
    「っだー! もう、ほんっとーにしぶといな!」
    「俺の闘争心に火を点けたんだ……少しは刃を交わせようぜ」
     苛つきながら攻撃をかわすレムを更に煽る様に羅生丸が笑う。
    「可愛い子狙うのは気が引けるんだけど、ごめんね。こっちも本気なんだよ。あんた等を堕とす為なら何でもするさ。……ねえ、こっち側に来なよ?」
    「何その口説き文句。超、お断り……するわ」
    「ふ、そりゃ残念」
     どさり、という音と共に虚が倒れた。
    「これでひとり」
    「そう簡単に勝ちを譲るつもりは無いよー」
     仲次郎の撃つ弾丸を身体に受け、レムは一瞬だけ憎々しげな顔をしたが直ぐに笑顔を見せた。
    「これ、結構厄介だね。ダメージ云々よりも身体が痺れてさ。本当に忌々しいよ。次はあんたにしようかな」
     昆虫の様な感情の見えない瞳に、笑みだけを張り付けたレムの表情を見て仲次郎は思わず後ずさる。
    「あのさ? 別にあんた等を困らせたりとかするつもりは無いんだよ。只、このままじゃ勿体無いなって思って。そんなに能力あるのにこんなところで燻らせてどうするんだよ? 俺は親切心でやってんのに、ここまで一方通行だと切ないよ。こっちに来れば意外に楽しいもんだよ? 大丈夫、怖いのは最初だけだから。思い切ってこっち来ちゃいなよ」
     両手を広げながら熱弁するレムの姿を見て伝斗は嘆息する。こいつはダメだ。このままにしておくと本気で仲間を潰しに掛かる。レムは以前自らを「狂っている」と評した。本当だ。アイツは狂っている。
     伝斗は元々平和を愛する人間だ。戦いに身を置くこの非日常はゲームの世界だと思い込む事により、非常に危うい状態で均衡が保たれていた。
     そのバランスが、少しだけ、崩れた。
    「これは……ゲームなんだよね?」
    「ん? そうだよ、ゲームだよ。殺人ゲーム」
     ゲームゲーム殺人ゲーム。ああ、やっぱりここはゲームの世界だったんだ。こんな滅茶苦茶な世界、現実の筈が無い。
     だけど。これだけはゲームでも現実でも変わらない。
    「仲間を殺させるわけにはいかない」
     伝斗の周囲の空気がどす黒く歪む。
    「――っ!? 伝斗君、まだ俺達は戦えるから戻って来い!」
    「馬鹿野郎、闇落ちするなら俺が」
     和真、羅生丸の訴えを片手で制し、伝斗は微笑む。
    「オレ……ボクだけで充分だよ。復活呪文もないんじゃ、死んだらおしまい。でも、闇堕ちから戻れる可能性はゼロじゃないから」
    「く、あははははは!! 漸く来たか同胞! 歓迎するよ! あんたとは縁があるのかもしれないな」
    「うるさいな。――死ねよ」
     伝斗の放つ斬撃がレムを捉えた。このまま力任せに斬り込む!
    「危ないなあ。まだ歓迎の挨拶もきちんとしてないのに殺られちゃ堪らないよ」
    「一撃でアンタを倒せるとは思って無いよ。……楽しもうよ?」
     レムは同胞が増えたのが嬉しいのか、腕に大きな傷を作った儘、満面の笑みを見せていた。その笑みに伝斗も笑みで返し、互いに攻撃を叩きつける。
    「……彼らを巻き込んじゃ本末転倒だ。レムの相手は彼に任せて」
    「っく……」
     伝斗が心を闇に傾けてまで守りたかったダークネスに抗う術を持たない人々。それに、何よりも大切な仲間。彼の思いを無駄にする訳にはいかない。
     鏡の言葉に皆は頷き、不良4人と未だ目の覚めない虚を背後に隠し、戦闘に巻き込まれない様に後退する。
    「こんな狭い所じゃ充分に殺り合えないだろ? 場所を移そうよ? 一先ず、こいつは貰っていくよ。――次はあんた等かもね? それじゃ」
    「堕ちたからにはレムだけは絶対に倒すから……ごめんね」
     『伝斗』の表情のままで仲間達に優しく微笑むと、彼は路地裏から逃げるレムを追いかけ姿を消した。


     虚が目を覚ますと、仲間達の心配そうな顔がほんの少し晴れた。
    「……戦いは?」
    「終わったよ」
    「不良達は」
    「皆無事だ。もう帰したよ」
    「じゃあ、何で皆そんな浮かない顔してんのよ?」
     虚は一人欠けているのに気付いていた。が、訊かずにはいられなかった。
    「伝斗くんが……」
    「……」
     伝斗が去った方向を全員で見やる。
     戦闘前には煌々と輝いていた月がいつの間にか見えなくなっていた。
     雲に、隠れてしまったようだ。
     だが、雲が晴れればまた月は地を照らす。
     僅かな希望を胸に抱き、灼滅者達は疲弊しきった身体を休ませること無くその場から立ち去った。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:黒鉄・伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716) 
    種類:
    公開:2013年3月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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