睡蓮の馨る処

    作者:篁みゆ

    ●淫らな
     白い指先が男の胸板をなぞっていく。向けられる笑顔は華やかで人目を引くもので、彼女がアイドルだといわれば素直に納得できる。
     彼女はその胸板に舌を這わせながら、今度は別の男を撫でる。
     恍惚の表情を浮かべる男たちを見て、彼女もにまりと微笑んだ。その笑顔も眩しくて、男たちは嬉しそうに笑う――。
    「なぁ睡蓮ちゃん、もう少しだけ……」
    「だ・め・よ♪ これ以上はまた次にね♪」
    「次はいつ会える?」
     淫らな行為を終えた、睡蓮と呼ばれた少女と彼女を囲む男たち。男たちは少しでも睡蓮の近くにいようと、押し合いへし合いしている。代表して口を開いているのは、他の少年たちと違う制服を着た金髪の少年。彼がこの集団のリーダーのようだ。
    「次は……そうね、そう遠くないうちに。貴方達が私を忘れないうちに、ね♪」
    「俺達が睡蓮ちゃんのこと忘れるはずがないじゃないか!」
    「私のお願いをちゃんと聞いてくれるなら、また会えるわ♪」
     フリルのついたミニスカートにニーソックス。ブラウスのボタンを止めながら睡蓮は少年たちの問いをはぐらかす。
    「勿論、睡蓮ちゃんのお願いなら! な?」
    「ああ!」
     少年たちが素直に頷くものだから、睡蓮はご褒美にとっておきの笑顔を振りまいてあげた。

    「ふむ……」
     灼滅者達が教室に到着した時、神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)は和綴じのノートを見つめながらなにか考え込んでいるようだった。
    「ああ、よく来てくれたね。座ってくれ」
     灼滅者達に気がついた瀞真は、彼らに椅子を示してから口を開いた。
    「今まで予知にもかからなかったダークネスの動きを察知することができたよ。淫魔がヴァンパイアを訪問したみたいだね」
     ヴァンパイアを訪問した淫魔は睡蓮という16歳くらいの少女で、とても整った姿形をしている。アイドル風の格好をしていて、淫魔であるからして異性を籠絡するのに長けている。具体的には言えないがその手管を使って、ヴァンパイアと、その手下達を籠絡したようだ。
    「今回は、睡蓮が去った後の油断した状態であるヴァンパイアと手下を撃破してほしい。睡蓮を狙った場合はヴァンパイア達が彼女を守るために戦いに参戦するだろう……つまり君達の身が危なくなる可能性がある」
     あと、と瀞真はなにか付け加えようとして、一瞬黙った。だが再び口を開いて。
    「今回のヴァンパイア、手下達とは違う制服を着ているんだが、灼滅してしまうとまずいことになるような気がする。加えて僕達武蔵坂学園のことを知られると、まずいことになりそうだ」
    「淫魔がヴァンパイアを訪問していて、そのヴァンパイアを灼滅したり学園のことを知られるとまずいかもしれない、ですか……」
     不思議そうに向坂・ユリア(中学生サウンドソルジャー・dn0041)が首をかしげるが、あくまで可能性であるからしてそれ以上は瀞真にも説明は難しい。
    「睡蓮達は街外れの小さな廃屋を使っている。そこへ向かい、睡蓮が去った後に行動を起こしてほしい」
     ヴァンパイアと手下達は名残惜しそうに睡蓮を見送るために建物の外に出てくるだろう。睡蓮を見送って色ボケして油断している間に行動に出れば良いだろう。睡蓮をも相手取るなら別だが。
    「成功条件としては手下の強化一般人四人を灼滅するか正気に戻す事と、ヴァンパイアを撤退させることだね。ヴァンパイアを灼滅するかどうかの判断は、君たち次第だよ」
     手下である不良達は妖の槍相当のサイキックを使い、ヴァンパイアはダンピール相当のサイキックとバトルオーラ相当のサイキックを使う。
    「睡蓮を相手取ることもできるけれど……その場合はヴァンパイアと手下も一緒に相手にすることになるから、さっきも言ったとおり、君たちの身が危なくなる可能性があるから」
     成功条件を満たすだけで済ますか、更に高みを狙うか、その判断は灼滅者達に委ねられている。だが高みを目指す場合、その分のリスクは覚悟しておくべきだ。
    「今回は基本的には睡蓮が帰った後の油断しているヴァンパイアと手下を叩くことだよ。睡蓮を攻撃しようとすると、まず勝利は難しいだろう。よく考えてほしい」
     瀞真は真剣な表情で灼滅者達を見つめた。


    参加者
    古樋山・弥彦(高校生殺人鬼・d01322)
    御幸・大輔(銀色の幻影に惑う・d01452)
    函南・ゆずる(緋色の研究・d02143)
    倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)
    高原・まや(まいぺーすでまいりましょう・d11298)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037)
    塚原・芽衣(中学生ダンピール・d14987)

    ■リプレイ

    ●見送り
     廃屋から漏れ出る灯りが、淫魔の少女を更に魅力的に見せていた。ヴァンパイアと思しき金髪の少年を始めとして数人の少年たちが名残惜しそうに彼女を見送っている。
    「睡蓮ちゃん、送ろうか?」
    「ありがとう。でも大丈夫よ、またね」
     ひらり手を振って睡蓮は去っていく。時折名残惜しそうに振り返って、また手を振るのも忘れない周到さ。営業は最後までしっかりと、ということか。
     物陰に隠れて様子を伺っていた灼滅者達は、息を潜めて睡蓮の姿が完全に消えるのを待つ。エクスブレインの予感に似た懸念を信じてその格好は一様に私服、学園に関するものは持たない、予めカードの封印は解除しておくといった徹底ぶりだ。
    「もう大丈夫ですよ」
     目を閉じて耳を抑えていた函南・ゆずる(緋色の研究・d02143)に向坂・ユリア(中学生サウンドソルジャー・dn0041)が優しく肩を叩く。ゆずるは淫魔達の淫らな行為を見たり聞いたりしないようにそうしていなさいと言われてきたらしい。
    「ありがとう、ユリア。んん。やっぱり、男の子って、あーいう、アイドルっぽい、華やかな子の方がすき、だったり、するのかなぁ」
     睡蓮の後ろ姿を見ながら、ゆずるは首を傾げる。
    「皆さんが皆さんそうであるとは限らないと思いますよ」
    「ユリアは、美人だし、華やかだから、もてもて?」
    「そ、そんな、滅相もありません!」
     ゆずるの無邪気な問いに慌てて否定を返すユリア。そんな光景を微笑ましく思いながら新沢・冬舞(夢綴・d12822)は言葉を発する。
    「少なくとも、あの五人は骨抜きのようだな」
     冬舞の言葉の通り、少年達はだらしない顔をして睡蓮の後ろ姿を見送っていた。
    「なんと不埒な……不埒者は成敗いたします……あっ……今回は成敗してはいけないのでしたわね……口惜しいです」
     高原・まや(まいぺーすでまいりましょう・d11298)だけでなく、今回倒すことのできない相手に対して悔しさを覚える者は他にもいた。シュテラ・クルヴァルカ(蒼鴉旋帝の血脈・d13037)も、今回は仕方がないとはいえ宿敵である淫魔を見逃すのに苛立ちを覚える。
    「……嫌な空気だ」
     顔をしかめ小さな声でぽつりと漏らしたのは御幸・大輔(銀色の幻影に惑う・d01452)。すべての音楽を愛する彼は、音楽を悪用している淫魔が大嫌いだ。淫魔に心酔している者達がいる場など、彼にとっては嫌な雰囲気だろう。
    「淫魔にヴァンパイア……あまりお目にかかりたくない組み合わせね。ダークネス自体お目にかかりたくはないけどさ」
    「そうだな」
     ダークネスが2体という時点ですでにお目にかかりたくない状況かもしれない、倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)の言葉に、全身黒ずくめに私服を統一してきた古樋山・弥彦(高校生殺人鬼・d01322)が同意を示した。
    「一般人は、可能性があるなら、助けたいんです」
     相手はヴァンパイアだ。ただでさえ強敵であるのに手下を連れている。それでもその手下を元に戻せるならば助けてあげたい、自分が闇堕ちから救われて学園へ来た塚原・芽衣(中学生ダンピール・d14987)は一般人の救出をリスクとして切り捨てたくないのだ。
    「ええ、そうね」
     同じように手下達を助けたいと思っているシュテラに反応を貰えて、芽衣はほっと胸をなでおろした。
    「淫魔の姿が完全に消えた。奴らも見送るのをやめたようだ」
    「塚原」
    「……はい」
     ヴァンパイアの様子を伺っていた冬舞の言葉に弥彦が武器を握る手に力を込めて芽衣を見る。芽衣頷いてガンナイフを握りしめて構える。
    「行きます!」
     敵を自動的に狙う特殊な弾丸が放たれる――狙うはヴァンパイア。それに合わせて灼滅者達は敵の元へと駈け出した。

    ●襲撃
    「ぐあっ……」
    「園村さん!?」
     突然飛来した弾丸を受けた金髪のヴァンパイア、園村と呼ばれたその少年は撃たれた腕を抑えた。誰だ、手下達がきょろきょろと辺りを見回す間に、既に灼滅者達は動いていた。弥彦の振り上げた盾が園村を思い切り殴りつける。
    「隙だらけだ、まったく情けねぇったらありゃしねぇ」
    「お前ら、何者だ!」
    「人に聞く前に自分たちから名乗るべきじゃないの?」
     紫苑は手下に狙いを定め、捻りを加えた槍を突き出す。大輔が弓を引き絞り、手下達の頭上から大量の矢を降らせた。ゆずるも紫苑と同じ手下を狙って槍撃を重ねる。ナノナノのしまださんはシャボン玉を飛ばした。
    「人に名前を聞くときは、自分から名乗れって、習わなかった?」
     ランタンをつけて光源を確保したまやは、ビハインドの御門武へと守護の札を放つ。武は霊撃を放って味方の援護をはかった。
    「名前は園村、か。どこの所属だ?」
     手下の叫びを聞いていた冬舞はどす黒い殺気で園村を襲いながら尋ねる。だが相手もそうやすやすと答えてくれるはずはない。シュテラはプリズム素材の十字架から光線を放ち、手下達を狙った。一番傷の深い手下が明らかにふらついている。
     ユリアは指輪から弾丸を放って園山の抑えをしている者達の援護をした。それに合わせるようにして小鳥が攻撃を上乗せする。夜ということもあって戦場の光源が心配されたが、助力を申し出てくれた者達のおかげもあって戦場の灯りはバッチリだ。
    「お前ら、ただで済むと思うなよ!」
     園村は怒りを表すように赤きオーラを逆十字型にして出現させた。狙うは弥彦。彼を斬り裂くようなその攻撃は、さすがヴァンパイアのものだけあって酷く重い。
     次いで手下達が冬舞を狙った。どうやら園山を守ろうと考えているようだ。次々に四人の槍が冬舞を穿っていく。四人合わせても園山の一撃ほどではないが、ダメージが蓄積するのは事実。
    「支配され、淫魔にも利用されて。それを望んだわけではないでしょう」
     芽衣の優しい言葉と攻撃がふらついている手下へと飛ぶ。ふらぁっと大きく身体を仰向かせ、手下の一人が倒れた。
    「これでダークネスの貴族ってのか、聞いて呆れるぜ」
    「なんだと!?」
     血を流しながらも弥彦は園山を煽る。元々血気盛んな性格なのか、園山はその挑発にいちいち激昂するのだ。弥彦は影で作った触手を放ち、園山を絡め取る。
    「淫魔が体を許したぐらいでホイホイ言うこと聞くなんてヴァンパイアとして恥ずかしくないのかしら」
    「侮辱するのもいい加減にしろ!」
     今度は紫苑が挑発の言葉を放った。けれども彼女の視線が捉えているのは手下の一人。オーラを集束させた拳での凄まじい連打に手下は身体を折る。
    「……」
     平和主義で争い事が嫌いな大輔は、複雑そうな表情を浮かべながら手下へ向けて矢を放つ。何かを守るため、誰かを救うためには闘わなければ助けないことは理解しているが、常に葛藤はまとわりついている。
     中段の構えから真っ直ぐ重い斬撃を繰り出したのはゆずる。淫魔が他の勢力と仲良くなるのを見過ごせない、その思いが日本刀の切れ味を増す。しまださんは弥彦を回復しに行った。まやも弥彦の回復にと札を投げる。武は命令に従い、一番傷の深い手下を狙う。
    「その力を使っていると化け物になるぞ」
     冬舞は自分を狙ってきた一般人達を一瞥し、そして流れる血も厭わずにその隙間を縫ってヴァンパイアの死角へと回る。斬りつける手応えはあった。だがそれほど深い傷にはなっていない気がするのはやはりヴァンパイアが強敵故か。
     シュテラが慈悲の心を込めた攻撃を仲間達が集中して狙っている手下へと打ち込んだ。するとその手下はどさりと倒れ伏し、すぐには起き上がる様子はなかった。ユリアは天上の歌声で冬舞を癒す。それでも回復し切らない分はヴィランが手を貸した。
    (「違う、わ」)
     回復に手を貸した静佳は園山を見て思う。自分の見た事のある相手と違うことが確かめられただけでも十分だ。
    「お前ら、ダークネスの貴族、ヴァンパイアを侮辱してただで帰れると思うなよ?」
     園山の一撃が紫苑を襲う。膝を付きそうになるほどきつい一撃だったが、紫苑はこらえた。
     その園山の言葉を聞いて誰しもが思った。冷静さを失わせることに成功した、挑発が成功したと。これで先に逃げられてしまうことはないと。尋問することができるのではないかと。

    ●血に濡れて
    「……こんなところに、君たちの居場所はないよ」
     大輔の、慈悲を込めた綺麗な回し蹴りで最後の一人が倒れ、これで手下は四人全員地に倒れ伏していた。しばらくすれば正気に戻って目が覚めるだろう、そう思いたい。
     けれども灼滅者達も無傷では済まなかった。手下達を倒す間に負った傷は深い。
    (「あー、やべぇなコレ……耐えきれるか?」)
     血の流れる腹を抑えながらそう思いつつも、弥彦は冷静で強気な姿勢を崩さない。周りを心配させないためだ。しかし傷は深く、動くのもやや辛い。それでも弥彦は盾を振りかぶって思い切り殴りつける。殴りつけた直後、ふと園山と視線があった。ニヤリ……痛みはあるはずなのに、愉しそうに笑ったその瞳が気持ち悪かった。
     紫苑は肩で息をしながらも、オーラを癒しの力に変えて自身の傷を癒す。大輔も自らの瞳にバベルの鎖を集中させた。
    (「追い詰めて、撤退させる……?」)
     高速の動きで敵の死角へ入ったゆずるは園山に一撃を加えるも揺らがない彼を見て、自分達の考えていた事が甘かったのではないかとふと思った。追い詰めて? 今追い詰められているのはどっち?
     しまださんもまやも必死に怪我人を癒す。だが、それよりも園山の一撃が重くて。武も園山に霊撃を打っているが、大きな傷にはなっていないようだ。
     前衛へと移動していた冬舞も、傷を負っている。それでも盾になれればと動く。園山を押さえ込めればナイフを突きつけて尋問したかったが、今の状況ではそれは難しそうだ。冬舞は死角に入り込み、園山を斬り上げるに留める。
    「淫魔に何をお願いされたの? ヴァンパイアともあろうものが淫魔に利用されてていいのかしら」
     割り込みヴォイスで話しかけるシュテラ。だが返答はない。園山は答える必要すら感じていないのだ。仕方なしに影を放って縛り付けるようにする。ユリアは治療のために歌う。士騎も彼女を手伝って治療に当たる。たが。
     園山の、緋色のオーラを纏った一撃は弥彦の身体を抉るような一撃を生み出して、そして彼の生命力を奪っていく。
    「がっ……はっ……」
     口の中にあふれた血を耐え切れずに吐き出し、弥彦は膝をついた。意識が遠ざかっていく。身体が言うことを聞かない。
    「あはは、まずは一匹」
    「古樋山さん!?」
     シュテラが叫ぶ。だが弥彦は答えることができない。
    「灰にはしません。淫魔が何を企むのか、答えなさい。答えれば見逃し……」
     用意していた言葉を口にしようとして芽衣は気がつく。見逃す? 今の自分達の実力からして、ヴァンパイアの優位に立つことは容易では無いはずだ。むしろ見逃してもらうのは立場的にはこちらではないか。だが、見逃してもらうだなんてそんな屈辱的なこと、我慢出来るはずはない。
    「貴方達、闇の眷属には負けません」
     ぐっとガンナイフを握りしめて、芽衣は園山のグレーの学ランの襟元を狙った。発射された弾丸が狙い過たずに園山の襟元に着弾する。ピンッ……微かに音を立てて、彼の学ランの襟元から何かがはじけ飛んでいった。
     紫苑がオーラを纏わせた拳を突き出す。大輔も追うようにして同じように拳を繰り出して。ゆずるは上段からの構えで刀を振り下ろす。だがそれはひらりと園山に避けられてしまった。しまださんは回復にかかりきりだ。
    「回復が……」
     間に合え間に合え、まやは符を繰る。武はまやを守るように位置どった。
    (「簡単に尋問ができると思いすぎていたか、ヴァンパイアを甘く見ていたか……」)
     傷の痛みに耐えながら、冬舞はナイフを振るう。
     皆、尋問については色々と考えを巡らせていた。だが尋問に至れなければそれも水の泡なのだ。相手はダークネス中でも強力な相手。彼我の実力差は明らかで、そう簡単に追い詰められはしないと知っていたはずなのに。
    「仲間を倒れさせはしなくてよ」
     シュテラが高らかに歌う。追ってユリアも旋律を奏でた。だが、回復できないダメージは積りに積もっている。
    「もう一匹くらい倒して遊んでいってもいいな」
     ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる園山は、楽しげに拳を握りしめて、それを突き出す。狙われたのは紫苑――だが。
    「ぐっ……」
    「新沢くん!?」
     彼女を庇いに冬舞が二人の間に滑り込んだのだ。無数の打撃が冬舞の腹を穿つ。身体を2つに折られた冬舞は少し後ろに吹き飛び、そしてそのまま崩れ落ちた。口の端から血が流れ出している。けれども程なく、鉄さびの味はわからなくなった。意識が落ちる。
    「許しません」
     芽衣が、紫苑が、大輔が、次々へと攻撃を繰り出す。効いているのか効いていないのか園山の表情からは明らかにならなかったが、今まで灼滅者達が攻撃してきたダメージが蓄積しているのは確かなはずだ。
     ゆずるが死角に入って斬りつけ、まや、シュテラ、ユリアはまだ立っている仲間達の回復を必死で行う。
    「……ふっ」
     しかしその様子を見た園山は、必死な灼滅者達を鼻で笑った。
    「あーあ、せっかく睡蓮ちゃんの匂いのついた制服がズタズタだ……疲れたし、帰って替えを用意しないとな。こんな格好でいたら睡蓮ちゃんがびっくりしてしまう」
     灼滅者達による攻撃の跡の残る制服を見下ろし、自身の、そして灼滅者達の返り血のついた箇所を戯れにこすってみる園山。
    「……じゃ、もう二度と俺の前に現れんなよ」
    「まっ……!」
     待ちなさい、そう言いかけた口は最後まで言葉を紡げなかった。誰もが言い出せずに口をつぐんでした。
     確かに園山は返り血にしては多いくらい血を流していた。灼滅者達の攻撃がそれなりに彼を追い詰めていたことは事実だろう。これ以上長引けば手酷い傷を負うと判断したのかもしれない。けれども灼滅者達に彼を引き止める力は残っていなかった。これ以上彼と対峙していたら、倒れる者が増えただけだろう。
     ヴァンパイアは強い。なのに少しばかり尋問や情報収集に気を取られてしまった。灼滅はしない方針だとしても、簡単に追い詰められる相手ではないのだ。
     だが制服はしっかり覚えた。芽衣が吹き飛ばした校章は、何処かに飛んでいった。廃屋の中の探索もしたかったが、どちらも探すのは後日にした方がいいだろう。いろは達が弥彦と冬舞を避難させてくれていたが、早く連れて帰ったほうがいい。
    「ヴァンパイア……強かったです……」
     まやの呟きが夜風に乗って流れていった。

    作者:篁みゆ 重傷:古樋山・弥彦(殺人鬼・d01322) 新沢・冬舞(夢綴・d12822) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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