深夜の廃駅で、小さな少女の頭をなでなでする大男がいた。衣装とか肩当てとか、いろいろ世紀末な癖に、表情緩みっぱなしである。本人には気の毒だが、客観的に不気味だった。ちなみに額に黒光りする角付き。
「お兄ちゃん、大好き!」
「俺もだよありさたんはぁはぁ」
少女が微笑むと、大男もにっこりと微笑む。
「前から思ってたけど親分ってアレだよな」
「うん、間違いなくアレだよな」
「聞こえてるぞゴラァ!」
ひそひそ話をする配下を一括する大男。しかし少女が笑うと、再びにっこりと笑う。だいたいこれが、三時間くらい続いた。
口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)はひどく疲れた様子で灼滅者達を出迎えた。
「なんていうかアレな羅刹が出たわ。まぁ最後まで聞いて」
淫魔が他勢力のダークネスを訪ね、親睦を深める動きがあるようだ。淫魔はこれを『営業』と称している。
さすがに淫魔とダークネスを同時に相手にするのは厳しいので、今回は淫魔が訪ねた後の油断しまくったダークネスを倒してほしい。
「で、そのダークネスなんだけど、世紀末な格好の羅刹よ。なんかアレなの」
もう一度、目は深い溜め息をついた。アレってなんやねん。
「羅刹は廃駅を根城にしてるわ。そこに行けば油断してるとこを襲撃できる。ちなみにガトリングと神薙使いのサイキックを使ってくる」
また、同じく世紀末な配下が二人いる。殴るけるなどの単純な攻撃しかしてこないので、あまり脅威ではない。
「アレって?」
灼滅者の一人が聞くと、目は眉間のしわを深くする。
「この羅刹は、小さな女の子に反応するみたい。淫魔にもそれを利用されたのかもね。まぁ、淫魔に限らずダークネスの見た目なんて信用できたもんじゃないけど」
あ、そうだ。ひどく疲れた、中学生とは思えない声音で彼女は付け加える。
「小さな女の子が『お兄ちゃん』とか言えば攻撃はして来ないと思う。配下にも手出しさせないはず」
嫌な弱点である。
「というわけで淫魔を倒そうとすると羅刹が命懸けで守ろうとするわ。とりあえずアレな羅刹だけでも倒してしまいましょう」
最後にもう一度、溜め息をつく目。灼滅者も同調して、ふはーと溜め息をついた。
参加者 | |
---|---|
七鞘・虎鉄(為虎添翼・d00703) |
御神・瑠琉(小学生ストリートファイター・d00801) |
青柳・百合亞(電波妖精・d02507) |
ゴンザレス・ヤマダ(現代だけど時はまさに世紀末・d09354) |
暁・紫乃(悪をブッ飛ばす美少女探偵・d10397) |
神林・美咲(黒の魔剣士・d10771) |
ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068) |
月夜見・優理(海外帰りの不良エクソシスト・d13600) |
●ヤツはまさにアレ
深夜の廃駅。これから命がけの戦いへ赴こうというのに、灼滅者の足取りは軽かった。それもそのはず、敵の弱点が丸分かりであったからだ。小さな女の子が大好きという、アレだ。しかし、お兄ちゃんという言葉に反応する以上、別の属性をお持ちかもしれなかった。どうせ灼滅するからまぁそんなことはどうでもいいのだが。
「あれかな?」
御神・瑠琉(小学生ストリートファイター・d00801)が指差す先には、羅刹とその部下二名。いずれも世紀末。灼滅者達は身を隠しながら近付いていく。そのうち、ゴンザレスさん(以下ゴンさん)と部下の会話が漏れ聞こえてくる。
「淫魔だったんですから、してもらえばよかったのに」
「ハァ!? 貴様ありさたんをそんな目で見ていたのか! この変態め! 紳士ならノータッチだ!」
「ノータッチってなんなんですか。つか、ダークネスに紳士なんて関係ないでしょうが」
「貴様ァ! それ以上は言うなァ!」
どこから突っ込めば分からなかったので、とりあえず飛び出す。女性陣がまずゴンさんの注意を引く作戦である。どこにでも安い男はいるものだ。
ばっと現れる女性陣。まず最年少の暁・紫乃(悪をブッ飛ばす美少女探偵・d10397)が戦端を拓く。
「何者だ貴様らは!」
「おにいちゃん! 紫乃、あいたかったよなの!」
めいっぱい可愛い声を出す紫乃。思わずゴンさんの表情が緩む。その緩み方たるや、水に一晩浸しておいた粘土のようだった。ぐずぐずですな。
「親分、怪しいですよこいつら」
「紫乃たんはぁはぁ!」
「聞いてねェし!!」
当然のごとく部下の声はもう届いていなかった。なんでこんな奴の配下になったんだろうねホント。
「お兄、ちゃん。ルルのこと、す……好き?」
「もちろんだよルルたん!」
ルナール・シャルール(熱を秘める小狐・d11068)がたどたどしい口調で話す。上目づかいで小首を傾げる仕草は妹そのものである。実は彼女は高校生で武蔵坂の灼滅者の中では年長に属するのだが、しかしそこがいい。
「お兄様!」
と切なげに呼ぶのは青柳・百合亞(電波妖精・d02507)である。まさしく迫真の演技、傍目には生き別れの妹にしか見えなかった、かもしれない。しかしゴンさんはアレのプライドで持ちこたえる。百合亞はルナールよりふたつも年下なのに。やはり身長とかか。
「すまんな、俺は貴様の兄ではない。そもそも俺に妹などいない!」
「ええええええぇぇぇぇっ!!」
驚きの声が部下から上がる。さっきからお兄ちゃんって呼ばれて喜んでましたよね!
「ああ、美咲お姉様」
「可哀想な百合亞。さぁ、私の胸を借りてお泣きなさい」
「美咲お姉さま!」
玉砕した百合亞を優しく抱擁する神林・美咲(黒の魔剣士・d10771)。こっちはいくら頑張っても本当の姉妹には見えない。むしろなんか怪しかった。
●奇跡の邂逅
女性陣の奮闘を物陰から見守っていた男性陣は、あっち向いてホイしながら作戦の成功を待っていた。だって真面目に見るようなものじゃないですよ。
「そろそろかな」
「そろそろじゃないか」
猫変身を解除した七鞘・虎鉄(為虎添翼・d00703)の言葉に頷き、月夜見・優理(海外帰りの不良エクソシスト・d13600)もそそくさと物陰から出て行く。
「ヒャッハー! てめぇの汚れた魂は俺様が消毒してやるぜー!」
ライドキャリバーに跨り、ある意味真打ちのゴンザレス・ヤマダ(現代だけど時はまさに世紀末・d09354)が登場。キャリバーのエンジン音が駅中に轟き、ゴンさんと部下の注意が向けられる。
「貴様! 何者だ!」
「俺様はゴンザレス! 貴様を罰する者だ!」
「何!? ゴンザレスはこの世に二人もいらぬわァ!」
「それはこっちの台詞だぁ!」
世紀末でゴンザレス、まさかの合致。お互いを区別するのは、黒曜石の角とモヒカンのみ(たぶん)。ちなみにゴンザレスはスペイン語系の一般的な姓であり、この世に何人いても不思議ではない。
ゴンザレス同士の奇跡の邂逅の間に、部下をさっさと片付けてしまおう。
「月夜見に伝わりし秘伝の拳法、喰らえ! 閃光百裂拳!」
閃光百裂拳はバトルオーラ使いにはごく一般的なサイキックのはずだが、本人がそう言う以上きっとそうなのだろう。ホアタタタタタタタター!! と何発もの拳が部下を襲う。たまらずどしゃ、と音を立てて倒れた。
「お前はもう、死んでいる」
とキメ顔で優理は言った。殺さないで、彼は一般人です。ノリノリの、もとい渾身の百裂拳が世紀末肩パッドを砕き、一般人に戻す。本当にお疲れさまでした。
「くそっ!」
相棒を倒されたもう一方の配下は、近くにいた瑠琉に殴りかかる。
「いやーっ! 助けてお兄ちゃん!」
「そいっ!」
瑠琉が怖がる素振りを見せると、ゴンさんが攻撃を止めてくれた。さすが紳士。
「お兄ちゃん、ありがとっ!」
「どうしたしまして!」
齢11歳の瑠琉に礼を言われて、ゴンさんは再び粘土スマイル。やはり客観的に不気味だった。
「ひゃっはーっ!! 汚物は乾熱滅菌だーっ!!」
いつものクールな虎鉄くんはどこへやら。笑いながらガトリングを乱射、炎の雨を部下に叩きつける。火だるまになりながらもがき苦しむ部下に、美咲がさくっととどめを刺しておいた。もったいないほど冴え冴えした剣技は瞬く間に世紀末衣装を八つ裂きにする。またつまらぬ物を云々。
そうしてあっという間に部下を失ったゴンさん。しかし瑠琉たんと紫乃たんとルルたんに魅了されていたので、全く気付いていなかった。ダメだこいつ早くなんとかしないと。
●伝説
二つか影が廃駅を走る。すっかり姉妹兼師弟になり切った百合亞と美咲である。
「美咲お姉様、アレを使うわ!」
「ええ、よくってよ……」
二人が同時に跳び上がり、さらに同時に武器を構える。ひとつひとつは小さな火でも、重なれば大きな炎になる。百合亞のガトリングが赤い炎を、美咲の刀が黒い闇を帯びる。必殺、黒薔薇の陣!
「スーパー」
「灼滅」
「「アタアアァァァァック!!!」」
ゴンさんの頭上から繰り出された二つの攻撃が思いっきり脳天を直撃した。さすがのダークネスも何故か内股気味にふらふらし始める。
「このォ!! やられてばかりではないわ!」
ガトリングを構えて息巻くゴンさんの前に瑠琉が再び現れる。にっこりふわふわスマイルつき。定価ゼロ円。つられてまた粘土スマイル。
「お兄ちゃん、ボクシングごっこしよ? お兄ちゃんはサンドバッグの役ねー」
「いいぞー。おいでー。……ぐはぁっ!!」
ゴンさんが両手を広げた瞬間、瑠琉の腕が鬼の腕に変化し、腹部を直撃。しかしそんな分厚い鉄板に穴を開けられそうな一撃を喰らってもゴンさんは笑顔を崩さない。紳士力の賜物である。
「ライド・ザ・ゴンザレスなの!」
「ヒャッハー! 世紀末コンビネーション、フォーメーション・モヒカアァンッ!!」
「貴様ァ! うらやましすぎるぞォ!!」
しゅたっとひと飛び。くるくる宙返りしたのち、紫乃がゴンザレスに肩車される。ゴンザレスが既にライドキャリバーに乗っているので三重である。さしずめ紫乃・ライド・ザ・ゴンザレス・オン・ザ・黒王号。本来、固有名詞の前に『ザ』は付かないのだが、そんことはどうでもいいじゃないですか。大事なのは心です。
「お兄ちゃんじっとしててね。キラッ☆」
「紫乃たんはぁはぁ!」
眩い笑顔に動きを止められるゴンさん。その隙に鋼糸でがんじがらめにする。さらにその隙に、ゴンサレスはモヒカンにオーラを集中させる。
「ヒャッハー! 母卑漢(モヒカン)大切断(だいせつだあぁぁぁん)!!」
そのままモヒカンの形を保ったオーラを投げつける。威力は普通のオーラキャノンです。ゆえにホーミング機能あり。優美な曲線を描いてゴンさんに命中する。
「あれは伝説の母卑漢真拳……!」
「知っているにゃか!」
劇画チックに顔の濃くなった優理に、すっかり真面目スイッチの壊れた虎鉄が相槌を入れる。
「ああ、俺の月夜見の秘拳に並ぶと言われる一子相伝の暗殺拳だ」
「にゃんと! にゃんと恐ろしいゴンザレス……!」
一子相伝なのに継承者が何人もいるかもしれないが、それは別のお話。
「フェルヴェール!」
カードからロッドを呼び出すルナール。リズムに乗せてステップを踏み、ロッドをゴンさんに叩きこむ。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「なんだいルルたん」
ぶたれながらもゴンさんはけなげに笑って見せる。むしろ鼻息が荒くなってきた気もするが。
「アリサって誰……?」
「……っ!」
粘土スマイルが硬直し、浮気でも何でもないのに一気に青ざめるゴンさん。抵抗がないのをいいことにルナールは何度も何度もしばきあげた。その度にゴンさんが変な声を出したので、もっともっとしばき倒した。
●悪は滅びた
それから十数分、ゴンさんが反撃しようとする度に魔法ワードが飛び、全国のアレ垂涎の魔法空間だった。たびたび百合亞と美咲の寸劇も挟まれたので、そっちが好きな人にもお楽しみいただけた。もっとも、そういう属性を持った人がこの場にいなかったので軽く触れておくだけだが。
そんなこんなで遊び倒し、ではなく死闘を繰り広げ、灼滅者達はついにゴンさんを追い詰めた。相手はこの世界を支配し、人々を苦しめるダークネスだ。手加減容赦情けその他は無用だ。
「ありさたん……もう一度……」
ボロ雑巾のようになったゴンさんの脳裏に浮かぶのは、ありさたんの顔。そもそもエクスブレインに察知されたのも彼女のせいだが、そのことを彼は知る由もない。
「やっぱ叫んどく? じゃ、それではみなさんごいっしょに」
優理の号令に従い、仲間は一斉に武器を構える。
「「ヒャッハー! 汚物は消毒だぜー!」」
灼滅者の攻撃が殺到し、ゴンさんは跡形もなく消滅した。偽物を倒し、ゴンザレスが真のゴンザレスになった記念すべき日となった。
「やれやれ、ただの変態でしたね」
百合亞はゴンさんがさっきまでいた場所にゴミを見るような視線を向ける。ガトリング使いとして少し親近感を覚えたものの、アレでは仕方ない。
「はじめての戦闘依頼………つかれたのー、眠い~」
瑠琉はふわぁと欠伸。初めての本格的な闘いだったが、無事勝利することができた。疲れたのは普通の依頼と全然違う仕事をしたからでもあるだろう。
「……楽に戦えたのはいいけど、やっぱり少し複雑ね」
と溜め息をつくのはルナールだ。確実に勝利するためとはいえ、乙女には厳しい務めであったにちがいない。
「ふぅ、お腹すいたな」
無表情に戻り、虎鉄はお腹をさする。一応、淫魔が何か残していないかも確認してみたが何もなかった。食べ盛りの彼にとってはそんなことよりこれから何を食べるかのほうが大事である。
「虚しい戦いだったぜなの……」
残されたの魔法の言葉を連呼して枯れた喉のみ。できればモヒカンも切り取りたかったが、エクスブレインはゴンさんがモヒカンとは言っていなかった。
「これで本当の世紀末がどちらかわかったことでしょう」
刀を鞘に収めて呟く美咲。本当の世紀末がどれだけ栄誉ある称号なのかは誰にも分からない。
「ヒャッハー! 俺達の勝ちだ! 祝杯あげようぜ!」
モヒカンがきらりと光を反射した。明るい青春の光であった。
こうして悪は倒された。しかし、ゴンさんも氷山の一角に過ぎず、灼滅者の戦いはまだまだ続く。戦え、負けるな灼滅者達よ!
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 6/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 46
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