夢を見せて私は踊る

    作者:幾夜緋琉

    ●夢を見せて私は踊る
    「あはは♪ ありがと。でも……もう時間なのよね。楽しい時間は早く過ぎ去る物よねぇ」
    『そうかそうか。まぁ、しかたねぇなぁ……お前も忙しいんだろうしな。でも、また逢えるよな?』
    「勿論じゃないのよぉ♪ だって私と貴方の仲だもん♪ で、も、ね……ちゃーんと約束は守ってくれないと次はないわよぉ?」
    『勿論だ。読んでくれれば何処でも参上! ってな! がはははは!!』
     大笑いする大男……そんな彼にニッコリと蠱惑的な笑みを浮かべる女。
     ……何処か恋人同士の様にも見えるが、実は奇妙な関係……。
     でも、男はその事に気づく事はなく、ただただ野太く笑っていた。
     
    「よーし、皆集まってくれたみたいだな? それじゃ俺の脳の全能計算域(エクスマトリックス)が導き出したお前達の生存経路を応えてやるぜ!」
     神崎・ヤマトは、集まった灼滅者達を見わたしつつ、今回の状況説明を始める。
    「今回皆に頼みたいのは、今まで俺達エクスブレインの予知に掛からなかったダークネスの討伐なんだ」
    「何故ダークネスの動きが察知出来たのか、という所なんだが……恐らく淫魔が、そのダークネスを訪問した為だろう。そしてこの淫魔は単独でダークネスの元へ訪れると……まぁ……色々やって、だ、その結果自分達の邪魔をしないよう、仲良くしよう、と協力関係を取り付けていく様なんだ」
    「勿論、そういう訳だから淫魔とダークネス二人居る時がある。しかし淫魔と居るタイミングで仕掛けると、ダークネスも淫魔に力を貸すだろうから、敗北の危険がかなり高まる」
    「逆に……だ、淫魔が去った後は、ダークネスも大いに油断している事だろう。皆にはそこを叩いてきて欲しい、という事になる」
     そしてヤマトはメモを一旦観て。
    「相手するダークネスは、今まで野良で動いていたアンブレイカブルだ。当然その腕っ節が一番の脅威だ。直撃を喰らえば一発で瀕死の重傷を負いかねないだろうさ」
    「無論皆には俺の未来予測で、先も言った通りに淫魔が立ち去った後の油断したタイミングで仕掛ける事が出来る。拳が武器故に戦闘体制へシフトするのはさほど時間が掛からない故、最初の2、3ターンで多数のバッドステータスを与えるのが勝利のポイントとなる筈だ」
    「ちなみにダークネスは繁華街の一角にある、柄の悪い人が出入りする様なビルにいる。時間は夕刻の頃だから灯について心配する必要は無い筈だ」
    「……一応、繰り返しにはなるが、今回の気もは淫魔が立ち去った後に油断をしている的を倒す事がポイントだ。淫魔を倒そうとすると、誑かされたアンブレイカブルも一緒になって参戦するので、皆の勝利が難しくなるだろう。その点はしっかり頭に入れておいてくれよ?」
     とヤマトは皆に告げて、送り出すのであった。


    参加者
    海堂・詠一郎(破壊の奇跡・d00518)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)
    霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)
    鏡・エール(鱗刃強襲スパイラルブラスト・d10774)
    三味線屋・弦路(あゝ川の流れのように・d12834)
    天野・白蓮(斬魔の継承者・d12848)
    桜岡・藍音(夕日色に堕ちる旋律・d13532)

    ■リプレイ

    ●色恋いに溺れ
     ヤマトから話を聞いた灼滅者達。
     とある繁華街の傍らにある、柄の悪そうな人達が訪れる雑居ビル……時間こそ夕方だからまだ少しは安堵出来るが、近寄りたくない雰囲気が強く漂う。
     だが、現われるのは強力な敵であるアンブレイカブル。
    「やれやれ……本当は、色気に現を抜かす所を邪魔したくないんだがねぇ」
    「……全く、さすがというか、なんというか……だね」
    「そうだな……俺には、奴の考えている事が、いまいち分からんがな……」
     天野・白蓮(斬魔の継承者・d12848)、桜岡・藍音(夕日色に堕ちる旋律・d13532)に、千凪・志命(生物兵器のなりそこない・d09306)が肩を竦める。
     色恋沙汰に嵌まるアンブレイカブル……彼女との甘い一時を楽しみ、そして……再度の逢瀬を楽しみにしている光景……。
    「なんだか最近、淫魔さん達の動きが激しい様ですね。これも報告書などで噂に聞いているラブリンスターの影響なのでしょうか?」
    「そんな気はするな。淫魔の攻撃を皮切りに、今迄予知に掛からなかった連中が次々にあぶり出されている様な状況が気がかりだな。淫魔らが大きな行動を起こそうとする準備段階での副産物に過ぎないのか、あるいは……」
     佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)、三味線屋・弦路(あゝ川の流れのように・d12834)らもそんな言葉を紡ぐ。
     とは言え、アンブレイカブルを見つけたからには倒さなければならないのは灼滅者の使命
     そしてこれが、ひいては淫魔の企みを塞ぐ事にもなるかもしれないのだから。
    「……これ以上考える事はよそう。今はこの仕事を完遂するだけだ。敵の強さは未知数だが、彼の灼滅だけは何としても行う。奴らの掌の上に居るようで、気にくわないんだがな」
    「そうだね。こういう淫魔のやり方は色々と納得出来ない……ダークネスと言えど、気持ちは軽々しく利用する物じゃないと思うんだけどね」
    「何を企んでいるかは知りませんが、ヤマトさんの未来予測に引っかかった以上、好きにはさせませんよね……といっても、今回は見逃す形になるのです。力量不足が悔しくはありますが、まずは確実に一つ一つ、ですね」
    「ええ。淫魔どもに体よく掃除をさせられている気分になりマスが……仕方在りませんネ……」
     弦路、藍音、そして霧渡・ラルフ(奇劇の殺陣厄者・d09884)が言葉を合わせると共に。
    「まぁ……逢瀬を邪魔すると馬に蹴られるとか聞いた事がありますが、そんな事気にしてられませんしね」
    「そうだね。と……ここだね。それじゃ淫魔が出て来るまで、待っていようよ」
     海堂・詠一郎(破壊の奇跡・d00518)と、鏡・エール(鱗刃強襲スパイラルブラスト・d10774)の言葉に皆も頷いて、灼滅者達はアンブレイカブルの部屋へ身を潜める。
     ……そして待機して数分後……部屋から出て来る、あまり似つかわしくない女性の姿。
     色気を十二分に発揮し、色っぽい格好の彼女……恐らく淫魔なのは間違い無い。
    「あれが淫魔……なんていうか、誘惑するだけ合って可愛いね。あの淫魔のせいで灼滅されるアンブレイカブルも少し不憫って言ったら、そうなのかもしれないね……」
    「そうですネ」
     藍音に頷くラルフ。
     そして淫魔が立ち去り、姿が見えなくなったと共に。
    「それでは……行きましょうか」
     とエールが皆に確認する様に言い、灼滅者達はいざ……アンブレイカブルの居る部屋の中へと突入するのであった。

    ●奪われた恋心
    『ふー……可愛かったよなぁ……』
     逢瀬の後で余韻を楽しんでいる風なアンブレイカブル。
     そんなアンブレイカブルに……扉を蹴破り、一斉に突入する灼滅者達。
    『……!? な、なんだてめぇらは!!』
    「どうやら淫魔と次の逢瀬の約束をしていたようですが……『次の逢瀬』を実現させるわけにはいきません。ダークネスである以上、灼滅させて頂きます……解放せよ!」
     高らかにスレイヤーカード解除を宣言する詠一郎に。
    「さぁ刀将・天野の名において命ずる。胎動せよ……金剛の刃牙!」
    「……紅炎よ、俺に従え」
     こちらも声を上げながらスレイヤーカードを解除する白蓮、志命。
     各自スレイヤーカードを解除すると共に、速攻でアンブレイカブル至近に立ち塞がる藍音。
     ディフェンダーで、初撃抗雷撃を打込みつつ、自分自身にBS耐性を付与する。
     そして他の仲間らは皆ジャマーポジションについて。
    「……始めるぞ」
    「ええ、いいですヨ」
     志命とラルフは頷きつつ、封縛糸とブレイジングバースト。
    「まぁなんだ。お前等に一割ほどの色気沙汰がある、それが分かっただけで充分だ。今回は馬に蹴られる覚悟は承知の上だからな。一瞬の勝機も見逃す訳にはいかんのでね」
    「うん。今の内、今の内、とね」
    「タイミングを合わせて……バッドステータスを一気に叩き込みましょう!」
    「ああ……了解だ」
     白蓮が雲櫂剣で武器封じ、エールが制約の弾丸、詠一郎が彗星撃ちに、弦路がソニックビート……と、ジャマー効果でバッドステータスを幾重にも叩き込んでいく。
    『ぐ……っ……!』
    「どうですか? ……大変ですよね。至福の時が、一気に地獄の様な時になってしまった訳ですから。でも……此方も見逃す訳にはいかないんですよ」
     と志織は言いながら、夜霧隠れで防アップを付与。
     そして第二ターン。さすがにアンブレイカブルはまだ戦闘態勢を取れない。
    「色気に溺れているからだ……だが、この優位を活かさない事は無い」
    「ああ、全くだ」
     白蓮に弦路が頷き、今度はディーヴァズメロディ。
     エールが雲櫂剣、志命が讒言し、詠一郎がギルティクロスで、対し志命はワイドガードでBS耐性を仲間に付与。
     一方白蓮は、先にポジションをクラッシャーへシフトする。
     藍音はレーヴァテインで攻撃。
     既に灼滅者達の攻撃で、大量のバッドステータスが付与されていて……満足に動けない。
     でも、どうにか戦闘態勢を整えようと、やっと拳に闘志を込める。
     だが、まだ牙を剥けない。そのギリギリのタイミングで。
    「……今の内だ……シフトするぞ」
    「了解ですヨ。その間はわたくしにお任せクダサイ」
     志命に微笑むラルフ。ラルフは影喰らい、そして弦路も同様にティアーズリッパーでダークネスの動きを制限、エールも更に制約の弾丸によるパラライズ付加。
     先にクラッシャーに転向していた白蓮は、藍音と共にクラッシャーとディフェンダーで手分けしながら攻撃を繰り出していく。
     そして……その間に志織はディフェンダーへ、志命はクラッシャーへ、そして詠一郎はメディックへとそれぞれポジションチェンジ。
     ……そして四ターン目。
    『このぉ……よぉくもやってくれたなぁああ!!』
     怒濤の如き怒り、やっとアンブレイカブルも行動開始。
     とは言えジャマーからシフトした志織と藍音のダブルディフェンダーが、その攻撃の勢いを受け止める。
     さすがにアンブレイカブル……かなり重い一撃が、着実に灼滅者の体力を削りとる。
     ある意味……今迄一方的に受けて居た攻撃の鬱憤を晴らすかの如く。
    「何だか振られた腹いせをされている様にも見えますね……そういう男は嫌われますよ?」
     クスリと笑いながら志織が挑発……怒りの表情を見せると共に。
    「さぁ、あなたと私の戦いです。アンブレイカブルなら淫魔と過ごすよりエキサイティングな一時では? 楽しんで行きましょう、なんてね」
     くすり笑いながらマジックミサイル。
     詠一郎と志織で分散して攻撃を受け止めて貰い、志命が封縛糸、白蓮が黒死斬で、クラッシャー効果と共にダメージを一気に跳ね上げる。
     無論アンブレイカブルは、それらの攻撃を受け止めつつも、バッドステータスに負けずに反撃。
     時にはその攻撃が、クラッシャーに向けられる事もあるが。
    「……大丈夫!?? 次……いくよ」
     ニコリとわらいながら、庇うを発動する藍音。
     出来る限り藍音がダメージを背負い、そしてそんな彼女に向けて詠一郎が夜霧隠れでせっせと支援、回復。
     無論ジャマーのポジションにいた仲間達は、確実にバッドステータスを蓄積していく……バッドステータスは回復するどころか、ドンドン酷くなっていく。
    『くそ……てめぇら……むかつくぜぇえ……!』
     苛立った表情で、灼滅者達をぐるりと睨み付けるアンブレイカブル。
     しかしそんな睨みに対し、決して怯まず。
    「色恋いに現を抜かしすぎだ。さ……私達が現実というのを見せてやるよ! せいぜい、ゆっくりしびれていろ!!」
     エールが放った制約の弾丸。
     そして……アンブレイカブルが拳を振い始めてから4ターンが経過。
    『はぁ……はぁ……くそ……てめぇら……中々、強ぇぇじゃねぇかよ……!』
     内なる闘士を刺激され、微かな微笑みを浮かべるダークネス。
     とはいえその身体は疲弊し尽くしており、拳を振うのが最大限の努力。
     そんな彼に、ラルフは。
    「はてさて……どうデス? 最早君の敗北は目に見えていますヨ? それでもまだ抵抗しマスか?」
    『う、うるせええ……本気の力を見せてやるぁ!!』
     威勢の良い言葉。
     しかし……予想以上に積み重なったバッドステータスは、確実にその身を蝕み、ダメージの総量を増やし、行動も制限する。
     油断していたアンブレイカブルは、その状況を切り返せる様な攻撃が出来る事も無く……。
    「そうデスか……仕方有りませんネ。では……ひと思いにトドメを刺してあげますヨ」
     ラルフのオーラキャノンが、真っ正面からアンブレイカブルを捕らえ……貫く砲門の勢いの儘、アンブレイカブルは倒れたのである。

    ●後の宴
    「……ふぅ、終わった終わった。油断する向こうが悪い、と……」
     汗を拭いながら、エールが肩を竦めて戦闘態勢を解く。
     周りの仲間らも、戦闘態勢を解きながら。
    「中々楽しかったですよ。でもこれで分かりましたかね? 女は色んな意味で怖いんですよー。淫魔でも、灼滅者でも、人間でもねー」
     志織が、灼滅されて次第に消えていくアンブレイカブルに向けての一言を紡ぎ……悔しそうな、でも納得した様な表情を僅かに浮かべる。
     ……そして完全に姿が消え去った後。
    「しかし……それにしてもこの恐面すら破顔させるほどの淫魔ねぇ……詳しく確かめたくなるじゃないの……無論、近い先に脅威となるかも含めて、ですが」
    「うん。なんだか、淫魔の思い通りな事をしてる気がしなくもないんだよね。……あ、みんな怪我とかないよね?」
     白蓮に頷き、藍音が心配そうに皆を見わたすと。
    「……大丈夫だ、問題ない」
     志命が静かに頷き、他の仲間達も頷いて。
    「さて……アンブレイカブルも倒したし、それじゃ帰るとしようか。あんまりここにいると、ガラ悪い兄ちゃん達に絡まれるとも限らないしな」
    「そうですネ。帰りまショウ」
     弦路にラルフが頷いて、そして灼滅者達は雑居ビルから立ち去るのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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