魅惑の花

    作者:天木一

     そこはホテルの一室。甘い花の香りと汗が混じり合う中、男女が重なり合う。
     男の厚い筋肉質な胸板を少女の指が這う。艶かしく指が首筋から腹へと動き、暫くその感触を楽しむように蠢くと、そっと離れた。
     少女は気だるげに重ねた体を起こし、ベッドからゆっくりと降りると、下着を拾い身につける。
    「もう行くのか」
     男の野太い声が響く。大きく逞しい男だった。全身が筋肉の鎧に包まれたような体を起こす。
    「また来るわ、約束を忘れないうちに、ね」
    「分かっている、淫魔に手を出さなければいいのだろう」
     少女はにっこりと花咲くような笑みを浮べる。それは誰も彼も魅了するアイドルのような笑顔。異性ならば目を惹かずには居られない。
    「ありがとう。これでラブリンスター様に喜んでもらえるわ。次に会う時にはもっと楽しみましょうね」
     少女は男と唇を重ねる。熱いものが口に流れ込む。蕩けるような感触を楽しんだ後、少女は離れる。
    「それじゃあ、またね」
     少女は名残惜しそうに部屋を出る。後に残されたのは甘い花の香りと、人肌の温もり。
     男はグラスに深い琥珀色の液体を満たすと、一気に飲み干した。
     
    「淫魔達が新しい行動を開始したようです」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が灼滅者達に説明を始める。
    「どうやら他種族のダークネスに交渉して、友好的な関係を築こうとしているようです」
     淫魔達は自分達の妨害をしているのが、他のダークネスだと思っているようだ。
    「どうやってかは……その、わ、私の口からは言えません!」
     姫子は視線を下げ、顔を赤らめて言葉を濁す。
    「こほん、それで皆さんには交渉相手のダークネスを倒してもらいたいんです」
     交渉を終えて油断しているところを狙えば、有利に戦える。
    「淫魔に手を出すと、相手のダークネスが助けようとする為、両方を相手にすることになってしまい危険です。気をつけてください」
     敵はアンブレイカブル。ホテルの一室で淫魔の去った後は一服している。
    「アンブレイカブルは戦いに長けたダークネスです、こちらが先手を取れるとしても油断して勝てる相手ではありません」
     場所はホテルの5階。同じ階には他に客が4名居る、巻き込まない配慮が必要だろう。
    「今回は淫魔の行動を妨害して、さらにはアンブレイカブルを倒すチャンスです。どうか皆さんの力でこのふしだらなダークネスを退治してください」
     姫子は頬を上気させると、顔を隠すように頭を下げた。


    参加者
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)
    函南・喬市(暗夜血界・d03131)
    倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    白弦・詠(白弾のローレライ・d04567)
    咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)

    ■リプレイ

    ●ホテル
     少し奥ばった路地裏にあるホテル。そこから一人の少女が出てくる。
     その少女の美貌に、男性陣のみならず女性も視線を奪われる。均整のとれた体。美しいがどこか愛嬌のある顔。アイドルだと言われれば納得してしまうその容姿は、流石はアンブレイカブルを魅了して手玉に取るだけの事はあると、納得できるものだった。
     コツコツとヒールを鳴らして少女がその場を立ち去ると、身を隠していた灼滅者達はホテルの前に現れる。
    「どっかに私をまともに女として見てくれるイイ男いないかなぁ……」
     羨まし気に呟いたのは稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)。女と思われない事さえある自分には、男らしい男と愛らしい少女のカップルが羨ましく思える。
    「淫魔を見逃すのは口惜しいけど、仕方が無いわね」
     淫魔が去るのを見送り、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)は意識を切り替えるように、アンブレイカブルの居るホテルへと視線を移した。
    「その……何だ、年齢的に実にいけない事をしている気分になるわね……」
     顔を赤く染め周囲の視線を気にしながら、水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)はホテルに入る。
    「俺達は任務で来ただけだ、気にする事はない。しかし、ふしだらな営業まで行って、淫魔は一体なにを企んでいるんだか……」
     函南・喬市(暗夜血界・d03131)は毅然とした態度で、梢の前を歩く。だがその表情にはこの場所への僅かな嫌悪感が滲んでいた。
     二人を関係者と思い込んだ従業員を素通りし、5階へと進む。そして一般客を追い出す為にアンブレイカブルの居る部屋以外を回り始める。
    「申し訳ありません。トラブルにより下の階へ移動して頂きたいのですが……」

     ホテル前で待つ灼滅者達に、先行した梢から避難完了と連絡が入る。
     裏口に回ると、咬山・千尋(中学生ダンピール・d07814)がドアの前に立つ、手に一瞬だけ赤い輝きを宿すと鍵を切り裂いた。すっとドアが開き、灼滅者達は身を滑り込ませると、そのまま階段を登り始めた。
    「この雰囲気、なんか落ち着かんなぁ……。いかんいかん、今は作戦中や!」
     好奇の視線をあちらこちらに向けていた千尋は、頭を振って余計な考えを振り払い、これからの事に集中する。
    「最近は闇堕ちしたり重傷を負う灼滅者が増えています。油断なく、確実に闘いましょう」
     倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)の言葉に皆が顔を合わせて頷く。敵はアンブレイカブル。油断は出来ない。
    「そうだな、しかしダークネスも随分活発になったもんだなぁ」
     それに休戦協定に枕営業とは淫魔らしくて羨ましい、と言いそうになったのを咳で誤魔化して柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)はドアの前に立つ。
    「ともあれ放っておくわけにはいか無ェよな、まずは仕留められる所から確実に仕留めていくか」
     5階に居た二人と合流し、高明は突撃の準備が出来たのを確認する。
    「ええ、花の香りに酔った愚かな方に、二度と目覚めぬ眠りを……」
     そっと白弦・詠(白弾のローレライ・d04567)が音も無く目的のドアの前に近づくと、ドアノブに手を掛ける。
     慎悟朗は一つ息を吐き、自らの雑念を捨て去る。それは戦いへ特化する為のいつもの儀式。
     皆に緊張が走る。ドアノブが回ると、扉が開かれた。

    ●奇襲
     花の濃密な香りが部屋から漏れ出る。部屋に居るのは裸身の男。空いたグラスを手に、リラックスした様子でベッドに大の字になっていた。
    「なんだキサマらは?」
    「Slayer Card,Awaken!」
     問答無用と、アリスの体に銀の粒子が集まり煌く。銀色の影が足元から伸びる。ベッドの下まで届くと、まるで魔物の腕のような影が湧き出して男を拘束する。
    「ああ、もう見苦しい。それ以上深みにはまる前に灼滅してあげるわ」
    「ぬぅっ?!」
     同時に高明が殺気を放ち、周囲から一般人の人払いを済ませる。
    「結界を張ったぜ。これで人は来ねぇ、好きなだけ暴れな」
     その言葉に、まず先制したのは梢と喬市。
    「不純異性交遊は灼滅だオラー!」
    「その首、貰い受ける」
     梢は出入りのように叫びながら、掌に集めた漆黒の想念を弾丸と化して撃ち出す。
     喬市は見下すように冷めた視線を向けて槍を握る。一気に踏み込むと槍を螺旋に捻り穿つ。
     それぞれ男の腹と左肩を貫く。衝撃にグラスとボトルが落ちて割れる。
    「ぐぅっ……キサマらぁ!」
     男が影の戒めを引き千切り、喬市に向かって拳を放つ。だがその腕が届く前に、光線が腕に照射され肉を焼く。
    「どうした? 動揺してるのが丸分かりだぜ」
     高明が構えたライフルから、一直線に放たれた光の残像が残る。
     男が一瞬動きを止めて引こうとしたところを、千尋の影がコウモリの群れとなって覆いつくす。
    「修行サボって淫魔とデート? 大した余裕やねアンタ」
     男は苦悶の表情を浮べて影から逃れる。
    「Today is a good day to die(今日は死ぬには良い日だ)」
     慎悟朗が言葉を紡ぐと、封印が解け殲術道具が現れる。手にした杖から放たれるのは風の渦。渦は大きく竜巻となって敵を引き裂く。
     裸身の男の体が幾つも斬り裂かれ、赤く染まっていく。大きく横に跳んで渦から逃れる。だがその場所は見えない冷気に包まれていた。
    「初めまして……御楽しみ頂いた後で悪いのだけれど、お相手して下さる?」
     詠の視線が男を捕らえていた。その視界の中が急速に熱を失い、凍える。
    「この怒りと哀しみをアンタにぶつけてやる! 覚悟しなさいっ!!」
     男女の関係に満たされている男を見て、理不尽な怒りに燃える晴香が突っ込む。その身を赤いリングコスチュームで包み、電撃を帯びた腕で勢いに乗ったまま体当たりのようにエルボーをぶちかます。
     八つ当たりの一撃に、男の体に衝撃が走り一瞬浮く、そして勢いのまま後方の壁へと叩きつけられる。
    「調子に乗るな!!」
     更に追い討ちを掛けようとした灼滅者達は、咄嗟に後ろへ避ける。暴風が巻き起こる。鉄塊が眼前を通り過ぎた。
     男の手には長大な剣。それを横に薙いだ衝撃波が灼滅者達を吹き抜ける。

    ●アンブレイカブル
    「キサマらが何者かは知らんが、俺がアンブレイカブルだと知ってやったんだろうな!」
     一喝。男の裸身に腰布が巻かれ、胸と肩、膝と脛に金属の防具が装着されていた。
     灼滅者達は油断無く構える。
    「知っていたようだな。なら、ここまでの事をしたんだ。楽に死ねると思うなよ!」
     剣を構え、大きく一歩を踏み出す。
    「万物の根源たる魔力よ、力強き矢の雨となりて、不浄を滅却せよ」
     アリスの背後の空間に幾つもの小さな魔方陣が描かれる。そこから次々と放たれる魔法の矢が殺到し、男の動きを止める。続けて梢が冷気のつららを放ち、男の腕を凍結させる。
    「か弱い美少女殺人鬼は相手をじわじわ弱らせるのが好きなの。勉強になった?」
     男は大きな剣の平で飛来する攻撃を受ける。そこに慎悟朗が大鎌を振るった。咎の力が黒い波動となって男を襲う。衝撃を受けきれずに男の上体が流れた。
    「今です!」
     その隙に晴香と喬市が仕掛ける。晴香は弓を引くように拳を溜めると、解放つように相手の顎に叩き込む。喬市は手にした槍が緋色のオーラに包まれ、敵の太股を斬り裂いて血を啜る。
    「ちょろちょろと、五月蝿い!」
     男は横一閃。凶器を振るう。最も近くに居た晴香を襲う攻撃を、梢が割り込んで槍で受け止める。
    「この、バカ力……!」
     だが剣の勢いを殺し切れずに壁まで吹き飛ばされる。
     追撃しようとする男に、千尋と詠がガトリングから無数の弾丸を撃ち込み、弾幕を張る。敵は剣で受け、弾きながら射線から移動する。
     その周囲をライドキャリバーのガゼルが走り回り、敵の注意を逸らす。その間に、高明が梢に向けて小さな光輪を飛ばして傷を癒した。
    「この小五月蝿い飛び道具から潰してやる!」
     男は狙いを定めて駆け出す。向かう先に居るのはアリス。剣を盾にアリスの放つ魔法の矢を受けながらも、一気に距離を詰める。暴風のように鉄塊が胴体を真っ二つにしようと迫る。アリスは銀色の影の腕でガードし、銀の粒子のオーラを纏う。だが鉄塊は影をぶち抜き、オーラをも打ち抜こうとする。
    「そうはさせないってな」
     直撃する瞬間、高明の投げた光輪が盾となって、一瞬、鉄塊の動きが止まる。その隙を逃さずにアリスは影から伸びる無数の腕で鉄塊を押し上げ、僅かな隙間に身を屈める。次の瞬間、全てを吹き飛ばすような暴威が頭上を通り抜けた。
    「ちぃっ! 避けたか」
     舌打ちしながら男は剣を構え直す。
    「色ボケして堕落したアンブレイカブルの攻撃なんて、当たらないわ」
    「そうそう、美少女とあんなことやこんなことしてるような羨ま……げふんげふん。そんな奴に負ける訳にはいかないぜ」
     アリスと高明の言葉に、男は髪を逆立てて怒鳴る。
    「色ボケだと!? ふん、女を抱いたくらいでこの剣が鈍るか!」
     男は剣を担ぎ、振り下ろした。室内に爆風が吹き荒れる。強い風圧に一瞬、目蓋を閉じる。目を離した僅かな間。男は消えていた。
    「上です!」
     いち早く気付いた慎悟朗が警告の声を出す。男は天井を蹴り、喬市、高明、詠の間に降り立った。
    「ぜぃあ!!」
     旋回するように剣が横薙ぎに振るわれる。3人は同時に吹き飛ばされた。更に旋回は続き、刃が荒れ狂う。
     その刃を止めようと、梢とガゼルが前に出る。鉄塊を一斉に受け止める。重心を落とし、吹き飛ばされそうになるのを必死に押さえ込む。
    「本当に、バカ力なんだから……!」
     苦しそうな表情、受けた槍ごとへし折られそうな衝撃。ガゼルも車体に傷が入り、フレームが歪む。
    「させへんよ!」
     そこに千尋とライドキャリバーが牽制に動く。掌から放つ鮮血のように赤い剣で逆十時を刻む、真紅の十字架が敵を襲う。それを追うようにキャリバーは一気に全力で突撃した。
     男は剣を反転させ逆十時を迎撃する。だが続くキャリバーの突撃を受け、後退する。更に晴香が横から飛び込む。
    「はぁ!」
     片足が伸び、男の後頭部を蹴る。延髄斬りが決まり男はぐらりとふらつく。
     動きの止まった男に慎悟朗が竜巻を放つ。男はふらつきながらも拳に電撃を込めて迎撃する。竜巻が掻き消される。だがそれを追うように慎悟朗が接近していた。オーラを纏い拳を放つ。男は腕でガードしようとするが、その上から連続で叩き込む。男は反撃に剣を叩き付ける。慎悟朗はその攻撃を回転して躱しながら、後ろ回し蹴りを脇腹に叩き込む。
     天使の歌声が戦場に響く。そうして仲間が戦っているうちに、高明と詠がそれぞれ傷ついた傷を癒していく。
    「ぐぅっ、小ざかしい!」
     男は慎悟朗を蹴り付ける。衝撃に体が一瞬浮いた。そこに剣を掬い上げるように振り上げようとする、だが腕がぴたりと何かに阻まれるように静止した。何事かと見れば腕に糸が絡まっていた。
    「力押しが得意な奴には、文字通り『搦め手』ってやつを使うまでよ」
    「アンブレイカブルとは戦いのみを求める種族ではなかったのか? 淫魔の手管に屈して油断するとは情けないな」
     梢と喬市の鋼糸が男の手足を縛る。だが男が拘束を力尽くで引き千切ろうとする。
    「私もね、強い人は好きよ。貴方が愛でた魅惑の花の香りは、もう愉しめないわ。代わりに私の甘い歌声を愉しんで頂ける……?」
     詠が歌う。それは魅惑的で甘く囁くような歌声。誰もが思わず耳を傾けてしまう、聴いた者の意識を奪い取る歌姫の誘惑に、男は思わず動きを止める。
    「ほら、やっぱり女に弱いんじゃないか」
     高明がオーラを凝縮した弾を撃つ。合わせてガゼルも機銃を撃ち込む。直撃を喰らい男が仰け反り、頭を振り意識をはっきりさせる。すると全身に力を込めて筋肉を隆起させると糸を引き千切った。
    「蜂の巣や! もう好きにさせん、これで仕舞いや!」
     千尋が黒い棺に仕込んだガトリングを撃ちまくる。同じくライドキャリバーも機銃を撃ち続けて、男の体を穴だらけにしていく。
    「万物の根源たる魔力よ、集いて敵を討つ矢となれ」
     魔方陣から銀に輝く矢が放たれる。矢は流星のように銀閃を残し、男の鳩尾へと流れる。男は横に避けようと動く。だが矢は追いかけるように曲がり、狙い通り鳩尾へと突き刺さる。肉が裂け、血が噴出す。
     男は腹を片手で押さえながら、剣を振るう。
     晴香は突撃し、剣を攻撃を受けて痛みに耐えながら、組み付き背後に回る。
    「アンタに地面の味を味あわせるのはこの私、プロレスラーの稲垣晴香よっ!!」
     そして、思いっきり高く持ち上げると、後ろへブリッジして地面に頭から叩き付ける。地響きと共にバックドロップが決まった。男の頭が割れて大量の血が流れる。
    「こんなところで、俺が、負けるかぁ!」
     咆哮のような叫び。男はそれでも立ち上がる。目は虚ろ、満身創痍でありながら武器から手を離さない。すでに本能のみで動いているようだった。
     鉄塊を振り上げる。
    「残念だが、これで終わりだ」
     喬市の鋼糸が四肢を斬り裂く。武器を持つ腕が切断され、重い響きと共に地に落ちる。
    「……止めです」
     矢のように一直線に慎悟朗の突きが、男の胸を強く打った。衝撃は心臓を破裂させ、男は口から血を流し、そのまま後ろへゆっくりと傾き、倒れた。

    ●花の残り香
     アンブレイカブルは絶命すると、まるで最初から存在しなかったように消えていった。後には何の痕跡も残らない。
    「油断していたのに、とんでもない強さでした。淫魔と手を組ますわけにはいきませんね」
     慎悟朗は息を吐き、武装解除しながら一人呟く。
    「強い敵だったわ。不意を突かなければ、倒すのは難しかったかもね」
     戦いの余韻を楽しむように、晴香は目を閉じて固くなった体をほぐす。
    「不純異性交遊のツケが回ったんだね!」
     勝利に安堵して梢は笑みを浮べる。そして、ここがどんな場所かを思い出して、なんだか気恥ずかしい気持ちになって、もじもじしてしまう。
    「……この残り香は淫魔のものかしら? 気に入らないわ」
     アリスは不快そうにハンカチで口元を覆った。この匂いを取る為に早く帰りたくなる。
    「は、はよ帰ろ! こんなとこっ」
    「そうだな、長居は無用だ。人が来る前に撤退しよう」
     千尋は慌てたように帰ろうとする。だがその視線は時折、興味深そうに珍しい形の自販機へと向かっていた。
     喬市もこんな場所に長居したくは無いと踵を返す。
    「次に来るときは男の相手じゃなくて、ちゃんと女の子と来たいぜ」
     部屋を出る間際に、高明はそんな軽口を叩く。
    「甘い花の香りに身を委ねたせいで、強き者である時間も短くなってしまったわね。魅力的な強さだったのに」
     詠は残念そうに、さようならと呟くと部屋を後にする。
     灼滅者達の去った後。誰も居ない熱の消えた部屋に、花の甘い香りだけが変わらずに残っていた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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