ねぇ、つないでよ アナタの吐息で
伝わる熱が私を『歌』にする
もう壊してよ カラダの檻を
私の歌は羽になり ここから二人、高くトべる――
「お疲れー」
「はーい、お疲れサマでーす!」
ライブが終わり、舞台裏では口々に挨拶が交わされる。
今日はいつも以上の盛り上がりだった。
身体中を巡るアドレナリンと、冷めやらぬ熱。耳の奥では激しいビートが未だ響いている。
(「だから、音楽はやめられない――」)
そんな心地よい充足感に身を任せていると、不意に声をかけられ、私は顔を上げた。
「ねーねー、セツナちゃーん、今日これからとか、暇だったりしない?」
そこにいたのは少しばかり年上と思しき男。
色の抜けた髪にジャラジャラとシルバーで身を飾った彼は、いかにも軽佻浮薄という言葉がお似合いだった。
もっとも、場所が場所だけに、取り立てて珍しいという程でもないのだけど。
それにしても、顔を合わせたことがある気はするが、果たして誰だったろう。
親しくはないのにやたらと誘いを掛けてきて――なんだか最近、そんなことが多い気がする。
「えと、今日は……」
「ね、いいでしょ? イイトコ連れてってあげるからさ」
追い詰めんばかりに近づかれ、私は思わず顔を背ける。
だが、それを照れと受け取ったのか、彼はさらに距離を詰め耳元に唇を近づけた。
「……どう? 俺、楽しませてあげられる自信あるけど」
耳に吹き込まれる重低音。
思わず心が震える。
お願い。
お願いだから、もうやめて。
「……めんな、さい」
消えそうになりながらも、私はなんとか断わりの文句を口にした。
腕を伸ばし彼の身体を押し戻すと、そっと隙間から抜け出す。
本当に、もう無理だった。
震えた心が、折れそうだ。
「私、そういうのは、お答え出来ませんので……っ」
言うや、私は駆け出していた。
後ろでは「あーあ」と呆れたような声が聞こえる。
何? あの子。ステージの上ではあんなに誘ってるくせに。
まぁ、どっちのセツナちゃんにもソソられるけどねー。
確かに、悪かねぇけどな。
下卑た笑いが私の背を追いかける。
いやだ、いやだ、いやだ――。
どうして。
私は、歌いたいだけなのに。
そして私は、気づけば誰もいない河川敷で、何かをぶつけるように歌い叫んでいた。
「男性恐怖症、というやつか?」
事のあらましを説明すると、帚木・夜鶴(高校生エクスブレイン・dn0068)はそう言った。
「今回、きみ達に任せたいのは、ダークネスになりかからんとしている彼女――契葉・刹那なんだが……まぁ、そういった精神的な傷を抱えている者が淫魔になるというのは、なんとも皮肉な話だな」
皮肉も皮肉、最強の盾と最強の矛で壊し合いを演じるようなものだった。
もっとも、淫魔として覚醒してしまえば、矛盾も抵抗も綺麗に忘れ、快楽のままに生きる存在となるわけだが。
「だがある意味、その傷が闇を呼んだとも言える。彼女は、自らの弱さを克服しようとしていたんだ」
そもそも、刹那の異性に対する苦手意識の根本には、父親に対するコンプレックスがあるらしい。
特に何をされたというわけでもない。むしろ何一つされなかった。
彼女が幼いうちに両親は縁を切り、そして父親は家を出ていった。以来、刹那は母とともにずっと二人で暮らしている。
寂しさや悲しさはない。物心ついた時からそうだったから、あえて気にしたこともなかった。強いて言えば、刹那にとっての異性が未知ゆえの恐怖になったというだけで。
それでも、母と他愛のない会話を交わして、友人とふざけ合って、ありったけの想いを歌に乗せて――それで、幸せだった。
しかし、大好きな音楽を続ける上で一切の男性を拒否し続けるわけにもいかない。
克服しなくてはという思いは、闇に魅入られた。
ならばいっそ、快楽に溺れてしまえばいいのだと。
「今、彼女は自分の内に湧いた得体の知れない感情と戦っている。それに負ければ淫魔となってしまうことなど明らかだ。だからこそ、きみ達に動いてほしい」
闇と戦う彼女の為に。
自分の心と向き合おうとしている彼女の為に。
「場所は河川敷、時間は夜だ。幸いというべきか、彼女の精神はひどく不安定になっている。何らかの刺激を加えてやれば、心の壁が崩れて闇が顔を出すだろう。そうしたら、その闇を徹底的に叩くのみだ」
やんわりと言葉をかけて異性に対する怯え拭ってやるのも一つの方法だし、「男なんて必要ない」などと極論を投げかけるのも一手かもしれない。最悪、恐怖の対象がちょいと彼女に迫れば、耐えきれなくなった心が淫魔を呼ぶだろう。
それ以降の説得も含め、彼女に向ける言葉はその戦闘力を左右するカギとなりうる。
そういう面も考慮するならば、最後の選択肢は――ショック療法的希望が見えないわけではないが――安全とは言い難いだろう。
「今の時点で明言はできないが、もしも彼女に灼滅者の素質があれば救出し、仲間として迎えて欲しい。そうでなければ……ダークネスになるのであれば、分かっているとは思うが、容赦なく灼滅してきてくれ」
では、任せたからな――言って、夜鶴は小さく笑んだ。
参加者 | |
---|---|
冷泉・采明(帝鳳蝶の救済哲学・d00244) |
村上・忍(龍眼の忍び・d01475) |
殺雨・音音(Love Beat!・d02611) |
霧凪・玖韻(刻異・d05318) |
緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037) |
石田・和也(大罪の歌い手・d09196) |
鴨宮・寛和(ステラマリス・d10573) |
今川・克至(月下黎明の・d13623) |
●あなたのことを思う人
『……私たちを頼ってみない? 信頼のおける人がいるの、貴女を心配しているわ……』
通話状態になった霧凪・玖韻(刻異・d05318)の携帯から流れる冷泉・采明(帝鳳蝶の救済哲学・d00244)の音声。
それはほんの百メートルほど先の会話だったが、刹那の精神状態を考慮し、初めの接触を女性陣に任せることで何とかここまでこぎつけた。
この辺りが頃合だろう。
「行きましょうか」
今川・克至(月下黎明の・d13623)の言葉に、寝転んでいた石田・和也(大罪の歌い手・d09196)は、のそりと起きて頭を搔く。先ほどから使っているテレパスは、やはりというべきか、うまく刹那に機能しない。聞こえるのは混沌とした雑音――あるいは、それこそ今の彼女なのかもしれないが。
ともあれ、直接向き合うことが何よりだ。
そして三人は歩き出した。
時は少し遡る。
閑散とした河川敷に響く歌声は、近づく足音でふと途切れた。
「こんばんは。契葉刹那さん、ですよね?」
「えぇ……まぁ」
振り向いた刹那に緋乃・愛希姫(緋の齋鬼・d09037)がやんわりと訊ねると、恐る恐るといった頷きが返ってくる。
当然だが、戸惑っているらしい。
そんな彼女を安心させるべく、微笑を向けたのは村上・忍(龍眼の忍び・d01475)だ。
「お邪魔でしたら御免なさいね。つい、誘われまして」
言われ、きょとんとする刹那に、貴女の歌にですよ、と忍が加える。
「素敵な歌ですね、魂が籠っておられて」
「あっ……! その、ごめんなさい、こんなヒドい歌聞かせてしまって」
僅かに照れながらも刹那はしきりに恐縮する。
すると、そんな彼女に鴨宮・寛和(ステラマリス・d10573)は大きく首を振った。
「そんなことないです! 私、刹那さんのファンなので、貴女の歌を聴けて嬉しいです!」
「そうそう、ネオンも刹那ちゃんのライブでファンになったの~♪」
だから会えて嬉しいな! と、殺雨・音音(Love Beat!・d02611)がとびきりの笑顔を見せれば、ようやく刹那の口元にも笑みが灯る。それが何となく嬉しくて、音音ははしゃぐように先を続けた。
「刹那ちゃんの歌っていいよね。歌声もそうだし、歌詞もとっても素敵♪」
けれど、「でもね」と続く声のトーンが下がる。
「刹那ちゃんは、なんだか辛そうに見える。恋愛の甘い辛さじゃないよね。男の子を、怖がってる……?」
心配げに覗き込む音音に、刹那は俯き、きゅっと唇を噛みしめた。
「どうして――」
「……その感情は、分からない訳じゃないの」
図星を指され狼狽える彼女を、采明が優しく宥める。
決定的な記憶がなくとも、心に巣食う得体の知れないモノ。
「未知が恐怖になるって、分かるもの」
言われ、刹那は視線を上げる。
それは不安げで、同時に、縋るようで――だから采明は、応えるように助けを伸べた。
闇と闘い続けた彼女の強さが、それを受け止めてくれると信じて。
「ねぇ、私たちを頼ってみない? 信頼のおける人がいるの、貴女を心配してるわ」
しばしの間。
そして刹那の首は小さく動く。
こくりと、縦に。
「……苦手だけど、でも、それじゃダメで……だから私は、変わんなきゃいけない……!」
まるで言い聞かせるように、否、もはや暗示のように彼女は言う。
変わんなきゃ、変わんなきゃ、変わんなきゃ――!
「刹――」
頭を抱える彼女に、采明が呼びかけた時にはもう遅い。
彼女の視線は五人を過ぎて、その背後から来た三人を捉える。
「あ……」
目を見開いて、息を呑んで。
「うああぁぁぁぁッッ!!!」
彼女の心は、暗転する。
●刹那の闇
「契葉さん!?」
克至は咄嗟に駆け寄ろうとし、立ち止まる。
「あ、……っ、ぅあ……!」
必死に葛藤を続ける彼女を、これ以上追い詰めるわけにはいかない。
差し伸べたいのに伸べられぬ助け。
歯がゆく思いながら、和也も玖韻とともに距離を取って刹那を見守る。
堕ちるとは何か。
まさにそれを体現せんとする刹那を前に、愛希姫は「ああ」と納得する。
「ふふ……」
ゆらりと顔を上げた刹那が、髪を搔き上げ艶に笑う。
堕ちるとは、人格の反転であり喪失だ。
「あーぁ、すっきりした。ったく、ごちゃごちゃ考えるから駄目なのよね。そんなんだから、頭は痛いし――」
心も、苦しい?
まるでそう続きそうな言葉に、音音はギターを構える。
必死に向き合ったトラウマ。
そのせいで見えなくなる世界。
頑張った所為で心が闇に紛れるなんて、そんなのあんまりじゃないか。
「それじゃ、いってみよっか、刹那ちゃん!」
言葉と同時に掻き鳴らされるギター、それが開戦の合図だ。
弦を弾けば空気が震え、衝撃にも似た音の嵐が刹那を撃つ。
「ははっ、まだまだね!」
確かに傷つきながら、彼女は音の中で楽しげに声を上げる。
まるで自身の音楽を示すように。
だが、すかさずそこに忍の一撃が炸裂した。
「これでも、まだまだですか?」
鬼神変。
振り下ろされた異形の腕に、しかし刹那は強気に笑ってみせる。
「ちょっとはヤル……かな。でも、楽しくなくちゃ、ねッ」
するりと腕を抜けた刹那は、玖韻に向かって誘うように目を細めた。
「ね、アナタは私と遊んでみる?」
「お断りだな」
蠱惑的な視線、玖韻の即答。
彼の表情は微塵も揺るがない。
「ダークネスに関連したもので、矜持と自律心を持ち合わせていない存在は、俺にとって全て駆逐の対象だ」
その類の手段は他の相手にするべきだったな、と。
淫魔であるなら手加減無用、玖韻は構えた拳を容赦なく繰り出した。
次々に決まる打撃に、さすがに刹那の表情も歪みだす。
「っ、女の子が誘ったら、応えなさいよッ!」
そして大きく身をよじると、振り上げた足で踊るように技を決めた。
素早く重く、でも、どこか自棄気味で。
そんな刹那に、和也は無言のまま、僅かに眉間を寄せると、漆黒の弾丸を生み出し彼女の身に撃ち込んだ。
まるで見ていられないというように。
これ以上は止めてみせると言わんばかりに。
「フロインデさん、お願いします!」
寛和の声に応じて飛び出した彼女のビハインドが霊撃を放てば、その隙に寛和がギターを奏で、前衛たちの傷を塞ぐ。
「刹那さん、貴女が好きな音楽をこんなことに使わないで!」
「こんなこと? 好きなように歌って、でもそれだけじゃダメだった。だから私は――!」
変わらなきゃ、ダメなんだ。
寛和の想いと刹那の叫び。
そこへ、包み込むように采明が繋げる。
「無理はしないで。けれど、闇を受け入れるのは駄目よ?」
切り裂くように振るわれる刃、同時に、克至が日本刀を手に踏み込んだ。
「そうです! 自分を信じて、負けないでください!」
上段から振り下ろされる重い斬撃。
彼女はずっと戦ってきた。
克服しようと努めてきた。
その強い意思が、こんなところで消されていいはずがない。
「契葉さん。男性もね、性別が違うだけで、大きく纏めると『人』なのだから、中身は一緒……時には頼りになったり、守ってくれる存在にもなるのよ」
愛希姫は柔らかく言葉を紡ぐ。
その心に染み入るように。
「男性も女性も、中身を見ればいいんです」
どちらも、心をね。
言って、愛希姫は十字を切る。
真っ赤なそれは、刹那を裂いた。
●切なる願い
「……っ、……――」
崩れかける膝を支え、小さく息を吐くと刹那は静かに歌いだす。
高らかに響く音が彼女を癒すが、そこにはもう、先刻のような激情はない。
泣きそうな顔、震えそうな声。
強がっていた心が『己』を求めだす。
「考えるな、考えるな、考えなきゃ……っ、あぁもう、煩いッッ!!」
全てを断ち切るように叫ぶ刹那の闇――それは何より彼女が揺れている証だ。
目の前に救える人がいて、その人が光を求めていて。
ここで動かないとか、そんなのウソだ。
音音は弦を押さえると、真っ直ぐに刹那を見つめる。
「受け止めて、壊れないで。人には、其々に合ったやり方があるんだよ」
だからゆっくりでいい。
心を壊すほど焦る必要なんてない。
出来る範囲で頑張れば、それが上出来だ。
「……刹那ちゃん。自分を責めすぎる必要はないよ」
世界には怖い男性ばかりじゃない。
無意識下で眠る傷跡もいつか癒える日が来るように、凝った闇を溶かすように、音音はありったけの想いを乗せた音色を響かせる。
刹那は迫る音波を全身に受け、困ったように視線を逸らせば、愛希姫が優しく語りかけた。
「無理をせずとも、時が来れば、いつの間にか平気になるものですよ」
紅く燃え盛る彼女の炎が、闇を祓うように刹那に絡めば、刹那は小さく口を開いて歌いかける。
熱に侵されながらも、それは刹那が刹那であるが故。
「そんなにも音楽がお好きなんですね……お母様は、娘の心をどんなに嬉しく聴いておられた事でしょう」
忍は、まるで慈しむように目を細める。年齢こそ違えど、その瞳は母のようであり、姉のようであった。
しかし、だからこそ今の彼女を歌わせるわけにはいかない。
母の温もりで受け止めたらば、次には父が持つ強さを。
「その音楽を自棄で汚しますか? その程度のものだったのですか!」
「違う――汚したり、しないんだ!!」
叫ぶ刹那。
ずらした視線は玖韻を捉え、威嚇に似た色が走ったかと思えば、慌てたように笑みを作る。
混乱して、動揺して――でも、それでいい。
「未知の存在を警戒するのは生物として当然だ。根拠もなく信頼するより余程いい」
玖韻はあるがままの刹那を肯定する。
未知への警戒も、未知へ踏み出そうとする勇気も。
「君に必要なのは、隙を見せずに拒絶の意思を示す覚悟だ」
尤も、既に持ち合わせているようにも思うがな――小さく添えて、玖韻は光の刃を撃ち込んだ。
受け容れるべきものと、己を守るために必要なものは違うから。
だから、大切なものに手を伸ばすことまでやめてしまわぬように。
「刹那さん。大切なのは、一歩踏み出す勇気なんです」
そう言ったのは寛和だった。
引っ込み思案で友達も少なくて、でもそんな自分が変われたのは、大切な人達がそう教えてくれたからだ。今では同性の友達も異性の友達も、少しずつだけどできてきた。
事情が違う刹那も、根はきっと同じ。
「私を助けてくれた人達がいる。今度は私が助ける番!」
決意を胸に、寛和は大きく歌い上げる。
そしてそこへ、克至が続いた。
「貴女は怖くても逃げなかった。逃げずに、ずっと戦ってきた。それは、誇ってもいいことなんです」
だから自信を持って――そして、少しでも構わない。
僕らのことを信じてほしい。
僕らが、貴女を絶対に助け出してみせるから。
「……今を乗り越えれば、歌うのがもっと楽しくなりますよ」
刹那を貫く幾筋もの光条。それに呑まれながら、刹那は声を震わせる。
「う、た――」
そう。歌だ。
彼女を表すには、何よりその言葉が相応しい。
和也は刀を手に走り込む。
近づかない方がいいのかもしれないとも思う。
斬らずにすむのなら、それに越したことはない。
だが、風に流されてきた彼女の旋律も、電話越しに響いた綺麗な音色も、和也はしっかりと覚えていた。
(「そんな彼女を、放っておくわけにはいかない――」)
闇になんて渡さない。灼滅だってしない。
つまり、選択肢は一つだ。
一瞬にして抜刀される日本刀、小さく呻く刹那。
「貴女はそのまま闇と闘っていなさい。手伝ってあげるから」
苦しむ彼女に、采明は正面からライフルを構える。
大丈夫。刹那ならば、きっとできる。
克服せんと向き合った努力は、信じる強さに値する。
「貴女に巣食う無粋な闇は、私が残虐に葬ってあげるわ」
指に力を込め、引かれるトリガー。
これが最後だ。
「だから貴女は、笑顔で歌って頂戴」
――好きな歌を、思い切り。
乾いた銃声と同時に、刹那の意識はふつりと切れた。
●大切な音、大切なもの
ゆっくりと目を開けた刹那が最初に見たのは、おろおろと不安げな寛和だった。
だが、視線が合うや、すぐにそれは安堵に変わり、さらにはその瞳に決意が浮かぶ。
「刹那さん! え、えっと、わ、私とお友達になってください!」
「えっ?」
突然の申し出に刹那が驚けば、采明がそっと微笑みかけた。
「ねぇ、私達の学校に来てみない? 貴女のような力を持つ人も、歌う人も、沢山いるわ?」
そうすれば、刹那が一人で悩むこともなくなるはずだ。
「でも――」
やはり自身の心に不安が残るのか、躊躇う刹那に、「じゃあじゃあ!」と音音が提案を持ちかける。
「学園でネオン達と慣らしてくってのはど~う?」
刹那ちゃんの歌、本当に好きになっちゃったし――なんてウインクを飛ばせば、はにかむように刹那が笑う。
「まぁ、隙を見せると寄って来る連中もいるだろうが、達磨とでも思えばいい」
「あ、それでもだめなら、男性の頭にリボンでも想像してみたらどうでしょう~?」
玖韻と愛希姫が口々出す案に、刹那の表情がぽかんと固まる。
ダルマ。
リボン。
それは――。
「ぷっ……あははっ!」
刹那は堪り兼ね、くすくす笑い出す。
「……ごめんね。ちょっと、構えすぎてたのかな」
うん、と刹那は息を整え、にっこり笑って頭を下げた。
「これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、同じ灼滅者として宜しくですよ」
克至が歓迎すると、和也もほんの一瞬、彼女に向かって表情を緩める。
「俺達と……一緒に歌おう……」
一人じゃない。
皆でなら、ずっと高く飛べるから。
改めて向き合う男性の面々に、刹那は戸惑いがちに視線を泳がせるが、やがて、真っ直ぐに視線を受け止めると、同じように真っ直ぐな視線を返す。
「――はい」
答えると、それと同時に刹那の肩を温もりが包んだ。
「なにも、全く知らないところから学び始める必要はないんですよ」
後は、少し肩の力を抜くだけ。
そんな風に忍が持参の上掛けを羽織らせれば、刹那はあっと短く声を上げる。ライブが終わるなり飛び出した所為で、随分と薄着なことに今更気づいたのだ。
「例えば貴女のよく知る所……歌を足掛かりにしてみれば、お判りになるのではありませんか?」
知ってる言葉、知ってる音。
よくよく馴染んだ響きなら、分かりあえるだろうか?
見回す刹那に、一同は応援するように見つめ返す。
「……一緒に、お願いできますか?」
刹那が問う。
無論、訊かれるまでもない。
初めは刹那の声、そこに一つ一つ声が重なっていく。
そうして少しだけ寄り添いあった和音は、静かに夜空にとけていった。
作者:零夢 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 2
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