トンファーキック・ハーツ

    作者:本山創助


    「そう……そこだ。そこの先っちょを、ぺろぺろするんだ……!」
    「ぺろぺろ」
    「おっほー! みなぎってきたーっ!」
     ここは沖縄。
     青い空。サファイアブルーの海。白い砂浜。
     そんなさわやかな景色を台無しにする暑苦しい男女が一対、浜辺でなにやらやっていた。
     ボディービルダー並に鍛え上げられた体にビキニパンツを纏い、変な覆面をつけて身悶える男。その男が持つトンファーの先端を、上目づかいでぺろぺろするビキニ姿の少女。
    「今なら出せる! 超! 蝶! 兆! 必殺技!」
     男のたくましい太ももが、パッツンパツンに膨れあがった。
    「ウールートーラー……! トンファーキック!」
     ボッ、という音と共に、男の右足が消えた。
     ゴババババーッ! と水しぶきを上げながら、サファイアブルーの海が、割れた。奇跡である。
    「すごいすごーい♪」
     少女がぴょんぴょん飛び跳ねながら手を叩く。男は、ぐったりとして砂浜に倒れた。
    「あらら、だいじぶ?」
     男をつんつんしてみるも、反応は無い。
    「あはは……。えーと、それじゃ、ボクは帰るね。満足していただけたみたいだから、約束通り、ボク達の邪魔しちゃだめだよ?」
     男の反応は無い。完全に昇天したらしい。
    「ま、いっか」
     ボクっ娘少女は、たはーっと笑って頬をポリポリかきつつ、その場を後にしたのだった。


    「なんだかよく分からないヴィジョンを見ました……」
     槙奈が、困惑しつつも、思考を整理して説明を始めた。

     今まで私たちの予知にかからなかったご当地怪人の動きを察知しました。きっかけは、淫魔がそのご当地怪人を訪問した事によります。
     訪問する淫魔は、ひとりでご当地怪人の所に赴いて、言葉にすると正気を疑われそうなことを行うことで、自分たちの邪魔をしないよう約束を取り付けているようです。一応、当人同士の間では、えっちなこと、らしいです……。
     この淫魔が去った後で、ぐったりしているご当地怪人を灼滅して欲しいというのが今回の依頼です。ご当地怪人がぐったりする前に淫魔を狙うのは危険です。淫魔の強さは未知数ですし、奇跡のトンファーキックが当たれば死に至るかもしれません……。
     ご当地怪人の名は『琉球トンファー怪人』です。両手にトンファーを持っていますが、これを使って攻撃する事はありません。ご当地ヒーローとバトルオーラ相当のサイキックで攻撃してきます。
     ぐったりした怪人は、もう奇跡のトンファーキックを繰り出す事はできません。並のトンファーキックやトンファービームで攻撃してきます。
     怪人は攻撃されてから最初の一~二ターンはぐったりしているので、優位に戦えると思います。
     怪人が両手に持つトンファーは、怪人の魂と言えるもので、これを蹴ったりすると凄く痛そうにします。逆に、優しく撫でたりすると鼻の下が伸びて気持ちよさそうにします……。要するに、トンファーは弱点なので、ここを狙うと良いかもしれません。
     もう一度繰り返しますが、今回の依頼は淫魔が居なくなった後にぐったりしている琉球トンファー怪人を灼滅するというものです。淫魔を攻撃するのはとても危険です。
     それでは、くれぐれも慎重に行動して下さい。
     どうか、ご無事で……。


    参加者
    露木・菖蒲(戦巫覡・d00439)
    狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)
    比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)
    武月・叶流(藍夜の花びら・d04454)
    南風・光貴(黒き闘士・d05986)
    木下・里美(高校生魔法使い・d09849)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    若柳・ファナ(バトルフィーバー・d12294)

    ■リプレイ


     白い砂の上を、透明な海水が寄せては返す。
     遠浅の浜辺が奏でる波の音は小さく、柔らかい。
     視線を足元から徐々に上げていけば、透明な海水はエメラルドグリーンを経てサファイアブルーとなり、水平線に広がっていく――。
     そう。
     ここは沖縄ッ!
     青い空に雲は無く、高く昇った太陽が、浜辺に佇むひと組の男女を照らす。
    「ちっがーうッ! そっちじゃないッ!」
     マッチョ男がブンと首を振る。
    「ふえっ」
     急に怒鳴られてびっくりする少女。男の太ももに伸ばした手が、ぴくんと止まる。
     両膝をついた少女が、潤んだ瞳で男を見上げた。その目と鼻の先に、男はトンファーを突き立てる。
    「これをぺろぺろしろ。そのほうが、ずっと気持ちいいッ」
    「えーっ?」
     少女は寄り目になってトンファーを見つめた。
     なぜトンファーを?
    「なあ木下、なんでトンファーをなめると気持ちよくなるんだ?」
    「し、知るわけないでしょ、男じゃないんだからっ」
     少し離れた茂みの陰から、そんな会話が漏れてくる。
     陰に潜んで妖しげな男女を見張っているのは、比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)と木下・里美(高校生魔法使い・d09849)だ。
     梨依音は小学三年生の元気な男子。えっちなことなどサッパリ分からない。その遠慮の無い質問に、里美は顔を赤らめつつ怒ったように答えたのだった。
    「ちょ、俺を見んな。そんなん、男だって知らんわ。ダークネスやないんやで」
     何か聞きたそうな里美の視線に気付いた狼幻・隼人(紅超特急・d11438)が、呆れたように言った。
    「ダークネスでも分かるかいっ(ビシィッ!)」
     ついナナメになってツッコミを入れる若柳・ファナ(バトルフィーバー・d12294)。小学五年生の女の子で、そろそろえっちな事が分かり始めるお年頃である。
    「そう……そこだ。そこの先っちょを、ぺろぺろするんだ……!」
    「ぺろぺろ」
     マッチョ男は、少女の舌先がトンファーの先端をかすめる度に、うふん、あはん、と悶えた。とっても気持ちよさそうである。
     こんなおかしな性癖を持っているのはただひとり――琉球トンファー怪人をおいて他に居ない。そして、そのお相手をするのはもちろん、ラブリンスター配下の淫魔である。
     狐頭・迷子(迷い家の住人・d00442)は、狐耳をぺたんと伏せて、ぺろぺろされているトンファーをぽーっと眺めていた。どうしてだろう。少しドキドキする。狐の尻尾が落ち着かない様子で揺れる。そんな迷子は中学一年生。えちぃ物事に対してどう反応して良いのか迷ってしまうお年頃である。梨依音達と距離を置いて殺界形成しているのだが、どうも集中できない。
    「いやいや、トンファーの先端ってえちぃ部位じゃないよ……!」
     迷子と距離を置いて殺界形成していた露木・菖蒲(戦巫覡・d00439)が、そんな迷子の様子を見て力のこもった声で呟いた。
    「おっほー! みなぎってきたーっ!」
     怪人がシャッキーンと背筋を伸ばした。太ももがパッツンパツンに膨れあがっている。
    「今なら出せる! 超! 蝶! 兆! 必殺技!」
    「来る……!」
     沖の人払いを担当していた南風・光貴(黒き闘士・d05986)がつばを飲み込んだ。浅い海に潜り、這うようにして身を隠していたのだ。
    「ウールートーラー……!」
     スッと右足を引く怪人。トンファーを握る手に力が入る。
    「トンファーキック!」
     ボッ、という音と共に、男の右足が消えた。
     強烈な疾風が、エメラルドグリーンの浅瀬に溝を掘りながら、ゴババババーッ! っと水しぶきを上げてサファイアブルーの海を割った。まさに奇跡!
     はしゃぐ淫魔!
     ぶっ倒れる怪人!
     唖然とする灼滅者達ッ!
     淫魔は怪人にひと言声をかけると、たはーっと笑ってその場を離れた。
     そして、不意に訪れる緊張感。
     武月・叶流(藍夜の花びら・d04454)の表情が硬くなる。
     迷子から少し離れた場所で殺界を形成していた叶流だが、その叶流に向かって、淫魔が近づいてきたのだ。
     叶流は最初から思っていた。この淫魔を見逃すのは不本意だ――その気持ちが、自然と態度に表れる。
     淫魔は叶流に睨まれていることに気付いた。叶流に笑顔を向け、歩み寄る。
     日本刀をギュッと握りしめる叶流。
     淫魔はすれ違いざまに、叶流の肩をポンと叩いた。
    「うん、がんばれー♪」
     そう言うと、手を振りながら去って行った。
     叶流は大きく息を吐いた。
     というわけで。
     一時はどうなる事かと思ったが、無事に奇跡のトンファーキックと淫魔をやり過ごせた。
    「……よし、あの変態をさっさと倒そう」
     叶流は気を取り直すと、怪人の元へ走った。


    「沖縄のパワー、僕にも分けてくれ……」
     光貴は浅瀬に立ってヒーローポーズをとった。
    「変身!」
     スレイヤーカードがピッカーンと光り、光貴は黒いヒーロースーツに包まれた。黒いサングラスがキラリンと輝く。それと同時に現れるライドキャリバー。
    「浪花ライダー、ブラック! いくぞ、バトルキャリバー!」
     颯爽とキャリバーに跨がり、ブルルンとエンジンを吹かし、水しぶきを上げながらアクセル全開で怪人の元へと突っ込む!
     が、しかし……。
     すでに怪人を取り囲んでいた灼滅者達は、どういうわけか、そういうテンションではなかった。
     『気をつけ』の姿勢のまま、うつ伏せに砂に埋まっている怪人。
     あまりにも無防備すぎる。
     こんなのをタコ殴りにしたらまるでいじめっ子みたいではないか。
     キャリバーで駆けつけた光貴のテンションもダダ下がりである。
    「いったい淫魔が何をしたらこうなる……って、今はそれを考えている暇はないね」
     微妙な空気の中、叶流が日本刀を構え直した。
    「そやな。取りあえず細かいことはいいから殴っとこか」
     隼人のスレイヤーカードが光り、龍砕斧が右手に具現化する。
    「まるっきり害虫駆除ね」
     虫でも見るかのような目で怪人を見下ろす里美。その手には導眠符がひらり。
    「遠慮無く蹴りましょう」
     宙に向けてロー・ミッド・ハイの順にバババッとキックを繰り出すファナ。
     気を取り直してファイティングポーズをとる光貴。
     黙って右手を異形化させる迷子。
     腕まくりする梨依音。
    「よーし、いっくよー!」
     かけ声と共にスレイヤーカードを構える菖蒲。
     その元気さが、微妙な空気を吹き飛ばす!
    「神意顕現!」
     クール&スタイリッシュなポーズでスレイヤーカードを解除!
     猫の手を模した大型ヘッドフォンのスイッチをON!
     流れるカンフー映画っぽい曲でテンションUP!
    「灼滅、開始です!」
     菖蒲の声と共に、灼滅者達が一斉に怪人に殴りかかる!
     バキバキッ☆
     ドカドカッ☆
     ポカポカッ☆
     情け容赦ないサイキック攻撃が繰り広げられた。
     梨依音、ファナ、迷子などは、このチャンスに最大火力を叩き込んじゃえ、という方針からクラッシャーにシフトしての攻撃である。
     皆の攻撃によって砂煙がモクモクーっと舞い上がり、視界が霞んだ。
     その砂煙から、怪人がよろよろと這い出した。
    「……ぉぉぉ、ぉぇぇ……」
     地獄の底から湧き上がるようなうめき声を上げている。
     ものすごい涙目。
     ものすごい苦しげ。
     それもそのはず。なぜなら彼は、公然と晒していたトンファーを、思いっきり攻撃されてしまったのだ。痛いにもほどがある。
    「あれ? どこいった?」
     怪人を地獄投げしてやろうと構えていた梨依音が辺りを見回す。
    「あ、あそこや!」
     隼人が這って逃げようとする怪人を指さした。
    「ちょ、ちょっとタンマ……」
     両手のトンファーでTの字を作ってタイムを訴える怪人。
     そのつぶらな瞳には、心に訴えるものがあった――パンティーみたいな覆面さえ被っていなければ。
    「どっからどう見ても変態だわ」
     女性だからかもしれない。里美の心にはまったく同情心など湧かなかった。
    「やっぱり見るからにヘンタイねッ!」
     ファナは側転で一気に距離を詰めると、バネのように飛び上がり、うずくまる怪人を両足で踏みつぶそうとした。
    「……ええい、待てと言ってるだろうが!」
     コロンと転がって態勢を整える怪人。ファナの両足が怪人が居た場所にズボボッと突き刺さる。
    「トンファー足払いッ!」
     その両足めがけて、刈り込むような鋭い足払いが炸裂する!
     ファナは足をすくわれて綺麗に倒れた。
     すっくと立ち上がって空手の構えをとる怪人。尻餅をついたファナを見下ろしてひと言。
    「フッ、お前みたいに体の出来上がっていない奴など、トンファーの敵ではない」
     ゴゴゴゴゴ……と怪人の体から茶色いオーラが揺らめいた。
     ここからが本番である。


    「トンファー全然使ってないやないか!」
     隼人が龍砕斧を振りかぶって飛びかかる。
    「トンファー体捌きッ!」
     怪人が足を引いて体をひねる。その体のすぐそばを斧がかすめ、砂に突き刺さった。
    「フッ、その技、既に見切ったわッ!」
     得意げに叫ぶ怪人。
     悔しそうに歯を食いしばる隼人。
     ハラリと落ちる怪人のビキニパンツ。
    「アッ――!」
     怪人の鍛え上げられたおしりが、ぷりーんと露わになった。
    「くっ、バランスが取りにくいッ!」
     怪人はパンティーみたいな覆面に手をかけると、一瞬にしてそれを装着した。だが――。
    「ちゃんと収まってないですよ!」
     コマのように回転しながら跳び蹴りを叩き込む菖蒲。
     ちなみに、怪人は同じ覆面を沢山被っているらしく、覆面をビキニパンツ代わりに装着したにもかかわらず、まだ覆面を被っていた。
    「軽いわッ」
     菖蒲の蹴りを片手で受け止める怪人。とはいえ、軽いのは当然である。この蹴りはサイキックではない。ちょっとしたフェイントだ。
    「動きの阻害は大切だよね!」
     空中で左手の拳を突き出す菖蒲。その手にはめられた指輪が光る。
    「オウフッ」
     怪人は胸を押さえた。何だかシビれる。
    「こしゃくな……」
     トンファーを握る怪人の手に力が入る。
    「トンファーハイキック!」
     ドゴォォォッという音と共に、菖蒲が海に向かって蹴り飛ばされた。ボレーシュートみたいである。
    「露木君!」
     べしょ、と海に落ちた菖蒲に向かって、里美がすぐさま防護符を飛ばした。
     琉球トンファー怪人は、変態とはいえ、一応ダークネスである。やはり手強かったが、最初の二ターンで思いっきりトンファーを痛めつけられたためか、なかなか本調子が出ないようだった。そのうえ、灼滅者達の隊列と作戦が有機的に機能したので、怪人は徐々に消耗していった。
    「トンファービームッ!」
     怪人の目がピカッと光り叶流の両腕を焦がす。怪人はさっきから叶流ばかりを攻撃していた。叶流に付与された怒りが効いているのだ。
     迷子の縛霊手の指先に集まった霊力が、叶流の背に活力を与えた。
     その一方で、迷子の霊犬、小梅の斬魔刀が、怪人の足を切る。
    「ええい、ちょこまかと……」
     小梅に気を取られた怪人に、叶流が日本刀を振りかぶった。
    「この一撃、耐えられる?」
     叶流の日本刀が紅に閃く。
    「クッ」
     怪人の腹筋に横一文字の赤い筋が刻まれた。と同時に、叶流の傷が癒えていく。
    「じっとしてな!」
     梨依音の足元から伸びた影が怪人を縛り上げる。
    「ヤメろッ! 俺にそんな趣味はないッ!」
    「意味わかんねーこと言うな!」
     梨依音は容赦なく怪人を縛り上げた。
     そこへすかさず、ライドキャリバーに乗った光貴が突進する。キャリバーの機銃が火を噴いた。
    「あだだだだっ」
     足をばたつかせる怪人。捕縛と足止めで動きが鈍る!
    「くらえ必殺、サイキック斬りぃ!」
     ズバッという音と共に、光貴のサイキックソードによって右トンファーが真っ二つになった。
    「ヤダッ! アナタ、なんて事するのよッ!」
     なぜかオネエ言葉になる怪人。
     そこへ、くるるるるるーん、と宙返りしながらファナが飛び込んで来た。
    「私を馬鹿にした事……後悔させてあげるっ!」
     涙目の怪人の足元に着地すると、アッパーカットの軌道を描きながら、帯電した右掌底を左トンファーにぶち込んだ
     ベキッと折れる左トンファー。
    「ト、トン、ファァァーッ!」
     怪人は、絶叫と共にぼかーんと爆発したのであった。


    「いいね、そのポーズ。あ、その笑顔もいい。そこで元気よくジャンプ!」
     波打ち際にてカメラを構えるのはウォーロック・ホームズ(マジカル探偵・d12006)だ。人払いを手伝おうと沖縄に来たのだが、メインチームの人払いフォーメーション(殺界形成×五)が完璧すぎてヒマだったので、ひたすら写真を撮りまくっていた。
     被写体となっているのはピンク色の髪の幼女だ。すっごいノリノリでアイドルポーズを決めている。
    「おや? ミス・マイゴ。私の推理によれば、ミス・マイゴも写真を撮って欲しいのでは?」
     ウォーロックはカメラのファインダーを迷子に向けた。
    「ええっ。あの……えと……」
     頬を染めて困惑する迷子。だが、狐耳がピンと立っているところをみると、まんざらでもなさそうである。
    「そうだ、なんだったら、ちょっと海に入ってみないか。いい絵が撮れそうだ」
     サーフボードを浮かべて迷子を手招きするウォーロック。そのサーフボードに乗った幼女も、笑顔で迷子を手招きした。
    「それじゃ、ちょっとだけ……」
     幼女の笑顔につられて、迷子は海に入った。深さは膝より下しかなく、温かかった。
    「ボクも撮って欲しいですよーっ!」
     巫女服をなびかせながら、菖蒲が迷子の所へ駆け寄った。
    「僕もまぜてくれーっ!」
     そこへ光貴も合流した。
    「結局、トンファーキックとかは見たけど、どこがトンファー怪人なのか分からんままやったな」
     砂浜に腰掛けて、楽しそうに写真を撮っている菖蒲達を眺める隼人。
    「奇跡の一撃……か。私もそんな一撃を繰り出してみたいモノね」
     奇跡のトンファーキックでえぐられた浅瀬を眺めつつ、ファナがビシッと宙を蹴った。
    「つーか、海割れてたよな。なあ、木下。あれ、ほんとに広まらないのか?」
     梨依音が当然の疑問を里美にぶつけた。
    「忘れるのよ、忘れるのよ」
     だが、梨依音の隣に座る里美は、ここで見てしまった色々なモノを忘れようと、両人差し指をこめかみに当てつつ大きくかぶりを振るばかりで答えてくれなかった。
    「……あの淫魔、次に会う時は戦えるのかな。できれば戦いたいけど……」
     淫魔に叩かれた肩に手をやりながら、叶流がぽつりと呟いた。
    「なあ、俺達も水遊びしよーぜ」
     梨依音は立ち上がると、難しい顔をしている里美の手をとって走り出した。
    「ちょっと、待って」
     梨依音に手を引かれて立ち上がる里美。二~三歩走ると、その表情はすぐに笑顔になった。
    「よし、行こか!」
     走る梨依音の後を、隼人とファナと叶流が追っていった。

     白い砂の上を、透明な海水が寄せては返す。
     遠浅の浜辺が奏でる波の音は小さく、柔らかい。
     ここは沖縄の浜辺。
     灼滅者達が変態ちっくな怪人から平和を取り戻した場所である。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 12
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