通り魔ストリート

    作者:南七実

    「知ってる? あそこの空店舗から、無差別に人を喰い殺す鬼面の通り魔が飛び出してくるって噂があるの」
    「……へ、へえ?」
     恋人であるマユの話に、伸吾はぎこちない相槌を打った。どうしてそんな話題が出てくるのだろうと首を傾げながら。
     しかし次の十字路でも、マユは同じ話題を振ってきた。
    「あっ、ここも! チェーンソーを持った大男が塀の向こうに潜んでいて、虎視眈々と通行人を狙っているんだって~。私の従妹の友達の彼女がソイツに襲われて入院中らしいの」
    「あ、あのさ。なんで今そういう話を持ち出すんだよ」
     実は殺伐とした話が苦手な伸吾は、やんわりマユの言葉を制する。
    「だってここ、付近の小中学生の間で『通り魔ストリート』って呼ばれている道なんだもん。実際に被害者も出ているって話だし!」
     何そのふざけたネーミング。というかソレってマジで危険じゃないのか。そもそも、どうしてそんな道を選んだのかと問う伸吾に、自宅までの近道だからと悪びれもせず答えるマユ。
    「一人じゃ怖いから避けてたんだけど、今日は伸吾ちゃんがいるから平気♪」
    「そ、そう?」
     途端、伸吾の心にマユを守らなければという使命感が湧き上がってきた。なんといっても今日は特別な日。これから彼女の家へ行って両親に挨拶し『お嬢さんを僕に下さい!』的な儀式をこなさなければならないのである。
    (「あ、そうか……」)
     伸吾は気づいた。マユはわざと妙な話題を振って、彼の緊張感を解きほぐそうとしてくれているのだ。ならば男らしく、彼女の気遣いに答えなければならない。
    「あはは。色々な通り魔がいるもんだなぁ」
     実際のところは、刺激的な尾ひれのついた怪談に過ぎないのだろうが、小中学生の間では結構本気で恐れられているというから侮れない。
    「笑い事じゃないよ。ほらほら、振り返ったら本当にいたりして……、血に飢えた通り魔がっ!」
     くすくす笑いながら二人は振り返る。
     そんな彼等の瞳に映ったのは、鬼の形相をして、両手に持った血塗れのチェーンソーを振りかぶった大男の姿――。
    『オ前達ノ血ヲ寄コセェェッ!』
    「ひょええええええぇぇぇぇっ!?」
     若いカップルの珍妙な悲鳴が、夕日に染まる寂れた商店街を駆け抜けた。
     
    ●通り魔をやっつけろ!
    「……ってな訳で、小中学生の間で『通り魔ストリート』と呼ばれている道にまつわる妙な噂話が実体化して、都市伝説になっちまった」
     これが厄介ながらなかなか面白い性質をしているようなんだ――神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は楽しそうにそう言った。
    「幸い、未来予測に出てくるカップルよりも、お前達の方が早く現場に到着できるから、さっさと都市伝説を誘き出して、犠牲者が出る前にサクッと退治しちまってくれ」

     都市伝説の出現条件は『通行人が通り魔の話題に触れること』だという。
    「カップルがやっていたように、この商店街を歩きながら通り魔の話題で盛り上がってくれ。そうすりゃ、都市伝説がのこのこ出てきて襲いかかってくる。そこを迎え撃つといい」
     未来予報で登場した都市伝説の外見は、血塗れのチェーンソーを持った鬼面の大男。
     だが――と、ヤマトは首を振る。
    「どうやらこの都市伝説の外見は、通行人の話題の内容によって変化が生じるようなんだ」
    「はい?」
    「つまりだ。『口裂け女みたいな奴』だと誰かが言えば、通り魔はその姿で出現する。更に他の誰かが『鴉みたいな羽根がある』と主張すると、黒い羽根を生やした口裂け女が出てくる事になる。話題が多いほど過剰な外見になってくるみたいだな」
     なるほど――通行人の持つ通り魔のイメージが、そのまま都市伝説の外見を形成するという訳か。
    「全ての話題が反映される訳でもなさそうだけどな……色々試してみるのもいいんじゃないか? どうせなら派手にデコってみるのも面白いかもしれないぜ」
     他人事だと思ってヤマトは気軽に言ってのけた。
     とはいえ、デコトラ並み(?)の過剰装飾になったところで、変化が生じるのはあくまでも外見のみで、都市伝説の持つ基本的な強さは変わらない。また、武器を持っていない等、弱体化させるような話題は反映されず無意味に終わってしまう。
     敵は一体のみだが、遊び半分でどうにかなる相手でもない。皆が協力して戦わなければ勝利もおぼつかないだろう。
    「ちょっとした油断が死に繋がるって事もあるからな。気を引き締めて事に当たってくれ」
     なお、あまりのんびりしていると、件のカップルが現場に来てしまう可能性がある。そうなった場合のフォローも考えておく必要があるかもしれない。
    「これから幸せになろうって奴等が通り魔に惨殺されちまうなんて悲劇、見たくないだろ?」
     そんな訳でよろしく頼むな――そう言って、ヤマトは説明を終えた。


    参加者
    多和々・日和(ソレイユ・d05559)
    守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)
    アガサ・ラムゼイ(アマチュアエージェント・d09814)
    虹真・美夜(紅蝕・d10062)
    ミーナ・ワイラー(進化の秘法・d10869)
    三澄・彩良(紅藤・d12458)
    清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)
    悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)

    ■リプレイ

    ●都市伝説デコレーション
     ぴょるるるる。世の中は春めいてきたというのに、通り魔ストリートと呼ばれる閑散とした商店街は、未だ冬の如く虎落笛が鳴り響いていた。
     人の気配が感じられないシャッター街。いかにも何かが飛び出してきそうな、薄暗い路地や十字路。なるほど近隣の小中学生が恐れるのも判る気がする、と清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)が眉根を寄せる。
    (「ただの噂にすぎぬものが人の命さえ左右することになるとは。都市伝説もなかなかに怖い存在にござるな」)
     だが自分達がここにいる限り好きにはさせない。拳を握り締めて気合いを入れた静音は、ズリ落ちてきたマフラーをぐいっと引き上げて口元を隠した。
    「さて、転ばぬ先の杖といいましょうか……今のうちに殺界形成を張っておきましょう」
     そう言って悪野・英一(悪の戦闘員・d13660)が身体から強い殺気を放つ。それは、もうすぐここへやってくるというカップルを近寄らせない為の布石だった。
    「念の為に、わたしも」
     英一に加えて三澄・彩良(紅藤・d12458)もドス黒い殺気を放出。灼滅者達の周辺一帯は、通り魔ですら接近できないんじゃないかと思えるほどキョーレツな殺気に満たされる事になった。
    「それでは皆さん、作戦開始といきましょうか。知和々ちゃんも、頼りにしていますよ」
    「わふっ!」
     薄暗い通りに目を向けた多和々・日和(ソレイユ・d05559)が、仲間達を促して静かに歩き出す。彼女の傍らをとことこ歩く霊犬・知和々の愛らしさをじっくり堪能してから、アガサ・ラムゼイ(アマチュアエージェント・d09814)はとてもわざとらしく声を張り上げた。
    「ああっ! そういえばここ、通り魔が出るって聞いた事があるわ」
    「ふうん。一体、どんな奴なの?」
     虹真・美夜(紅蝕・d10062)が気怠げに会話の流れを作る。真っ先に乗ったのはミーナ・ワイラー(進化の秘法・d10869)だった。
    「私は友達の友達から聞いたんだけど、通り魔は天狗の面を被ってるらしいよ。面を取るとイケメンだけど実は酷い花粉症で、今の時期は涙と鼻水が止まらないんだって。おっかしいよね~!」
     そんな状態では通り魔としての『仕事』ができないのではないでしょうかと突っ込みつつ、日和が言葉を続けた。
    「聞けば、スーツにトレンチコート姿で、眼鏡が命だとか」
    「僕が聞いたんは、少し違っちょるな」
     何か思い出したような素振りで守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)が語るのは、大鎌を振りかざして子供を誑かす恐るべきクラウンの存在。
    「でっかい赤っ鼻を追加……やなくて、ソレが特徴や言うとったわ」
    「む? 拙者が耳にした話では、地球には3分しかいられない伝説のヒーローの面をして『デュワッ!』と叫びつつ襲ってくるというものでござった」
     それ以上踏み込むと版権に引っかかりそうな静音の噂話も合流し、まだ見ぬ通り魔の外見はいよいよおかしなものになってきた。
    「通り魔なんて、怖いですね……誰かを傷つけて楽しむという行為も理解できません」
     真面目な口調で呟く彩良。それなりに本気で通り魔を恐れながら、彼女は「でも」と付け加える。
    「穏やかに微笑んでいる通り魔さんなら、怖くないかも……」
    「そういえば、射撃の『的』がデザインされた服を着ているらしいわね」
     むしろ的として出てきてくれれば射撃練習によさそうだと美夜は期待する。
    「私が聞いた噂話は、角付き鉄兜を被ったムキムキマッチョな男が、売れないアイドルの曲を抜群の歌唱力で歌いこなし、ロボットダンスをしながら葱で撲殺するという内容でございましたが……」
    「案外コッテコテの不良だったりしないかな? 金髪の大砲みたいなリーゼントでサングラスにバツ印のマスク、上半身裸の上に真っ白い特攻服着て、お腹にはサラシを巻いてズボンも真っ白。微妙に小物っぽい甲高い声、それで手には木刀を持ってるの。きっとリーゼントからはビームとか出るのよ!」
     どどーん。英一のカオスな設定に負けじと、瞳をキラキラさせてマシンガンの如く熱弁するアガサの迫力に、皆がちょっとばかし怯んだ時。
     ごごごおおおっ。突如、嵐のような風が商店街を通り過ぎて行った。舞い上がる埃の向こうに――風に乗って来たかのように揺らめく黒い影。
    「……出た」
     遂に都市伝説――通り魔の出現である。
    「どう!? 一体どんな外見になってる?」

    ●通り魔を倒せ!
     いつまでも続く灼滅者達の会話に、登場のタイミングを掴めないでいたらしい都市伝説の装いはというと――。
     ばさばさと風を孕むトレンチコートのような特攻服を身につけた大男。マッチョな体格を更に引き締めるようなサラシと真っ白なズボンが妙に眩しい。恐ろしい形相をした天狗面の鼻先には、ピエロの如き紅い球体がくっついている。色つき眼鏡の奥にある双眸は、素顔がイケメンであるという事を含めて確認不能。頭部にはバイキングが被るような鉄兜が填り、角には伝説ヒーローの面が無理矢理くくりつけられていた。
     兜からニョッキリ突き出しているのは、キンキラに輝くリーゼント。
    『お前達の血を寄こせェッ! ズルルルル、ぶくしゅんっ!』
     妙に甲高い声で通り魔が堂々と自らの存在をアピールしたのだが、鼻声とクシャミが災いして全然きまらなかった。
    「…………………………………………えっと」
     どのようにリアクションしたら良いのか。表現しがたい独特の空気が漂うなか、灼滅者達はとりあえず、かわいそうな人を見るような目を通り魔に向けてみた。
    「はっ!」
     呆然としてはいられない。真っ先に我に返った英一がスレイヤーカードを高々と頭上に掲げた。
    「…変…身!」
     瞬く間に戦闘員の姿へチェンジした彼は、ビシイッと悪のポーズを決めて都市伝説と対峙する。
    『でゅわっ!』
    「く……っ!」
     ぶうんっと大きく回転しながら突進してきた通り魔が、手に持っていた大鎌で神楽を横薙ぎにした。滑稽で珍奇な姿でも強敵である事に違いはない。甘く見ていればやられる。神楽は魂を一気に燃焼させて、自らに絶対不敗の暗示をかけた。
    「わんっ!」
     すかさず知和々が、傷ついた神楽に癒しの瞳を向ける。
    「貴方が噂の通り魔ですね。人々を脅かす者は許しません。成敗します!」
     低い姿勢で敵の懐に飛び込んだ日和の雷拳が、大男の顎にクリーンヒット。ぐらりと傾いた敵の背には「狙って下さい」と言わんばかりに射撃の的がプリントされていた。
    「あんなところに『的』。ふうん。こんなふうに反映されるのね」
     それなら、と前に進み出た美夜が緋色のオーラを宿した縛霊手を『的』めがけて叩きつけた。
    『ぐはっ!』
     呻き声をあげたもののまだまだ元気そうな通り魔へ、彼女は愉快そうな笑みを向ける。
    「あんたが可愛い姿でなくて本当に良かった。遠慮なくターゲットにさせて貰うわ」
    「うおりゃーっ、くらえぇっ!」
     ちゅどーん! 都市伝説の頭上でマジックミサイルがアニメ風な効果音を上げながら炸裂。
    「すごい、漫画みたい!」
     自分が脳裏に描いていたイメージがしっかり具現化されていて嬉しかったのか、アガサのテンションはどーんと急上昇。
    「……倒しましょう。ぷくすっ」
     ドタバタ感溢れる状況に笑いを堪えつつ後方から飛び出してきた彩良が、鋭い槍の切っ先を敵にブッスリと突き刺した。次いでミーナの龍骨斬りが通り魔の巨躯に命中。その一撃が実は勢い余ってズッこけた結果の産物であるという事実を、ミーナは爽やかな笑顔で誤魔化した。
    (「このくらいでヘコたれたりするもんかー!」)
    「ここからが本番でござるよ!」
     バトルオーラを滾らせた静音が、燃えさかる拳で通り魔に忍者的アタックを仕掛ける。ごおうっとキャンプファイアーの如く燃え上がった大男をキリッと睨みつけるのは英一だ。
    「イイ…! イーーーー!!」
     ビイイイーム! 彼の瞳から迸り出たご当地ビームが、狙い違わず都市伝説の身体に直撃。怪光線を食らった敵が怒りの咆哮を上げて反撃に出た。
    『必殺、ゴールデンリーゼントビーム!』
     通り魔のリーゼントから撃ち出された謎の光線が、バルカン砲の如き激しさで英一を強かに貫いた。
    「イ゛エ゛ァ゛!」
     奇妙な叫び声をあげて後方へ吹っ飛ぶ英一。
    「Oh! 本当にリーゼントからビームが出たわ!」
     アガサの周囲を浮遊していたサイキックエナジーの光輪が、彼女の高揚感を表現するかのように乱舞する。
    「チェーンジケルベロース!!」
     赤々と燃えさかる炎の鉄塊剣が、都市伝説を猛襲。
    「説明せねばならない! 八つの地獄の力を源とする地獄の番犬ケルベロスの体が真紅に輝くとき、その体は地獄の炎……血の池地獄の力を身に纏うのだ!」
     地の文では省略されてしまいそうなナレーションを自ら高らかに語りつつ、神楽はビシッと英雄のポーズを決めた。
    『むぐおおぉ。よ・く・も……』
    「好き勝手に動かないで頂きましょうかっ」
     敵との距離を一気に縮めた日和が、獣の如き縛霊手『ゐぬ神』を振り上げ、渾身の力を込めて勢い良く殴打した。ぶわっと拡がった霊力の網に絡め取られた通り魔の背中に、美夜の放った銃弾が容赦なく撃ち込まれてゆく。
    「なかなか良い手応えだわ。でも、長期戦には持ち込みたくないわね。さっさと終わらせるわよ」
    「ええ。全面的に同意します」
     ドドドドッ。弾丸の発射音が周囲のシャッターをガタガタと揺るがす。彩良のガトリング連射によって蜂の巣にされた大男へ、アガサと静音のブレイジングバーストが降り注いだ。
    「Wao、まだ倒れないの? かなりしぶといみたいね」
    「むう、まったくでござるな。さすがは都市伝説、一筋縄ではいかないでござる」
     独楽のように激しく回転しながら火だるま状態の通り魔に接近したミーナが、強烈な斧の一撃を繰り出す。めきごきぼきいっ、と骨の砕ける音が周囲に響き渡った。身の丈2mはあろうかという敵に対し、小柄な少女も負けてはいない。
    「私だって灼滅者! 体の大きさなんて関係ないぞっ」
    「イイー! イー!」
     英一の足元から伸び上がった影の鋭刃が、四方八方からフルボッコにされている都市伝説をザクザク切り裂いてゆく。
    『おのれえェェッ!』
     天狗の面を被っているので表情は判らないが、どうやら激怒している通り魔は、どう見ても葱に見える木刀を振り上げ、目の前に飛び出してきた知和々を猛烈な勢いで横殴りにした。
    「きゃううんっ」
    「知和々ちゃんっ!」
     ぱあっと花飾りが散る。激しく空中に弾かれた黒豆柴は、なんとか体勢を整えて地面に着地し、自己回復に集中。日和の相棒に庇われるかたちとなった神楽は、焔を宿した無敵斬艦刀を敵に叩きつけた。炎が激しい火柱と化し、じわじわと通り魔を苛んでゆく。
    「都市伝説言うても……地獄の炎は熱いっちゃろ? 骨の髄まであったまっち行くといいわ!」
    「あんたが消滅するまで、あと何発ぶち込めばいいのかしら?」
     美夜による緋の強撃を食らった通り魔に両掌を向けた日和は、知和々を傷つけられた怒りの感情をオーラに込めて射出した。
    「相棒を傷つけられた借りは、きっちりと返させて頂きますよ!」
    「通り魔なんておぞましい所業……そろそろ終わりにしませんか?」
     オーラを拳に集中させた彩良が大きく跳躍し、ボクシング漫画の如き凄まじい連打を繰り出す。
     バキン! 天狗の面が真っ二つに壊れて露わになったのは、鼻水でぐしょぐしょになった通り魔の美しい素顔。その口元に穏やかな微笑みを見出した彩良が、そっと目を背ける。いくら美形でも、こんな状況で微笑んでいられる人(人じゃないけど)はハッキリ言って不気味だった。
    「わっ、本当にイケメンだった~! でも手加減はしないからねっ」
     サイキックエナジーでできた光刃を放ちながらミーナが目を見開く。さすがに歌やダンスが反映される事はなかったかと残念に思いつつ英一もまた光の刃を操り、都市伝説をズバズバと攻め立てた。
    「イイイーーー!」
    『ぐお……おおおっ……』
     帽子に手を当てたアガサが片手で『ワイルド・フェロゥ』を構える。
    「自分で言っておいて何だけど、もうリーゼントビームは使わせないわ! トラウマになったら嫌だもの」
     ドガガガッ! 銃撃によって再度蜂の巣にされ、息も絶え絶えになった通り魔は、もはや涙目だった。いやアレは花粉症だからなのか? 
    「花粉症であろうがなかろうが、民を脅かす存在のおぬしを放置する訳にはいかぬな。観念するでござる!」
     少しだけ憐憫を感じつつも、静音は炎の拳で容赦なく敵を殴り倒した。
     ぐらり。体力の全てを奪われた通り魔の巨体が、商店街の通路にズシーンと倒れ込む。
     それが、都市伝説の最期の姿となった。
    「なんと!?」
     あまり目立つつもりではなかったのにうっかり敵にトドメを刺してしまった静音は、そそくさと近くの影に隠れて、ずり落ちていたマフラーを少し照れくさそうに引き上げた。

    ●都市伝説の終焉
     ぴゅるるるるる。妙に乾いた風がシャッター街を駆け抜けてゆく。
    「カップル達はどうやら、別の道を行ったようですね」
     一般人がESPの効果に抗える筈もない。周囲をザッと見回して脅威が完全に消えた事を確認した英一が、殺界形成を解除した。戦いのさなかカップルの接近をずっと警戒していた彩良も、ホッと息をついて緊張を解く。
    「皆さん、ありがとうございました」
     それにしても、と彼女は改めて通り魔の外観を思い返してみる。
    「8人の想像が集まると、あのような異様な様相になるんですね。しばらく夢に出てきそうだわ……」
     ビームを食らったわけでもないのに、彩良の中では通り魔がちょっとしたトラウマになってしまったようだ。まあ無理もない。静音が感慨深げに息を吐く。
    「半分は我等の仕業ではあるものの……、確かに悪夢の如き姿でござったな」
     とにかくさっさと忘れたいと思いながら、神楽が帰ろうと言った。
    「残ってもやることないけん。ここに犠牲者が出なかった。それでいいやん」
     何はともあれ、カップルの幸せは守れたのだ。ヒーローとしては最良の結果だろうと彼は満足げに微笑む。
    「そうね、上出来よ」
    「マユ達に関しては正直気が気じゃなかったけど、何事もなく終わって良かったわ」
     美夜とアガサの言葉に、ミーナがうんうんと頷いた。
    「カップルが来たらどうしようって、実は私けっこうドキドキしていたんだよね」
     そうですね――存分に活躍した知和々を労いながら、日和が後方へ目を向ける。本来ここを通る筈だった恋人達は、今頃どうしているのだろう。それを知る術はないけれど……。
    「伸吾さん、マユさん、どうかお幸せに」
     人知れず救う事ができた2人に向けて、日和は祝いの言葉を口にする。

     通り魔ストリート。
     できればもう二度と、あのようなトンデモ怪物が出現しないよう――そう強く願いつつ、灼滅者達はシャッター街を静かに後にした。

    作者:南七実 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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