●お布団になら抱かれてもいい
「あれは……お布団たん!」
「何っ、知っているのか!?」
なんか屈強なおっさんたちがこわばった顔で身を乗り出した。
「夜勤中のサラリーマンや昼下がりの学生たちが『こんなのいたらいいよねいやきっといるいてくれ』と噂するお布団の精……それはふかふかの羽毛布団にふかふかの手足をつけたような姿をし、『寝ててもイインダヨ』を合い言葉に相手を抱きかかえそのまま仕事場や学校へ連れて行ってくれるという夢の妖精さん……!」
「だがそれはあくまで噂話。存在しないはずでは!? ぐっ、だめだ……やつに、やつに飲まれ……!」
「相棒ぉ!? 相棒ぉー!」
という感じの会話の末、おっさん二人はお布団たんにお姫様だっこされ、親指をしゃぶりながらゆーらゆーらされたのだった。
●ふふ、私はどんなお布団とでも寝られる女。
……とかいう話を、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は実演付きで語っていた。
つまりお布団に抱かれた状態で語っていた。
サボってるわけじゃない。
本当だ。信じてほしい。
「んーみゅ……んむ……あのねぇ、都市伝説が実体化しちゃって、『お布団たん』っていうんだけど……」
目をこするまりん。
「道行く人を寝かしつけてはゆーらゆーら揺すってその辺に放置しちゃうんだ。そうしたら……ほら……風邪引いちゃうよ! 大変だよ!」
とかいいつつ、徐々にお布団に潜っていくまりん。
「お布団たんは道ゆく人のところに突然現われてはさりげなくお姫様だっこをして、ゆーらゆーら優しく揺すってあげることで寝かしつけてくるんだ……それはもう……眠いよね……もう、ね……」
単純にそうされただけでも眠くなっちゃいそうだというのに、彼らは『実体化都市伝説』の力により割と強制的に眠り状態へ誘ってしまうのだという。
「とはいえ、人々の眠気からくる都市伝説だから、眠気を覚ますアイテムを使ったり、いろいろ頑張ったりすれば、耐えられるかもしれないよ。もちろん相手も、いろんな手を使ってくるかもしれないけどね……」
そしてまりんの頭がお布団にすっぽり入った頃。
「眠気に負けないように……がんばって……ね……スヤァ」
参加者 | |
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陰条路・朔之助(雲海・d00390) |
瀬宮・律(気まぐれな黒蝶・d00737) |
柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798) |
山城・大護(高校生ダンピール・d02852) |
英・霞未(大自然のお仕置きだ・d09185) |
靱乃・蜜花(小学生ご当地ヒーロー・d14129) |
桜木・結衣(物理魔法少女・d14241) |
靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752) |
●安いお布団でも以外と気持ちい
どっかの町のどっかのコンビニ前。
大抵、日が沈んでからのコンビニ前というのは良くも悪くも若者のたまり場になったりするもので、今日もまた小中学生が並んで壁に背を預けていた。
ブラックな缶コーヒーを片手に息をつく瀬宮・律(気まぐれな黒蝶・d00737)。
ほんのり暖かい吐息が天に昇りかけ、すぐに消えた。
「初めての実戦がお布団とは……苦戦しそうっすね」
「もうじき春ですからね、仕方ないですよねー……はふ」
柳・真夜(自覚なき逸般人・d00798)も同じようにコーヒーを飲み込むと、あくびの出かけた口に手を当てた。
ちなみに、カフェインの抗眠作用は興奮によるところが大きく、導眠薬と一緒に服用するとかなりヤバいものなのだが、今回の場合は関係ないと思われる。たぶん。まして缶コーヒーとかだと効果は非常に薄いのだとか。
まあ、育ち盛りのお子様が夜に眠くなってしまわぬようにと依頼前にコーヒー飲んどくのは、気分的にも切り替えが効いて大変よい、かもしれない。
「わたしも今回がはじめて、なのよ。苦いの苦手だけど、お砂糖の入ってないコーヒー、のんじゃうからっ」
両手でコーヒーの缶を持つ靱乃・蜜花(小学生ご当地ヒーロー・d14129)。
ぐびぐび、あうえー。
「これも、ヒーローの嗜みなのね……」
「そんなに無理しなくても」
その一方。
「お布団たんマジ……マジやべぇわマジ……」
陰条路・朔之助(雲海・d00390)はレジ袋から洗濯ばさみを取り出した。一般的な、あの小さいやつである。確か百何回目のプロポーズっぽいアレでテツヤが眠気対策として顔中にはっつけていた記憶があるが、最近の子供にはわっかんねーんだろーなー。
「こんなんで通用すっかなあ。ま、ともかく……」
代わりにおにぎりを一個取り出した。
「腹ごしらえくらいはしとかねえとな。あ、お前も食う?」
「いえ、私は用意してきたので」
と言って、靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752)はポケットから丸まった靴下を取り出した。
「…………」
靴下の先端からすっとおにぎりを取り出す蕪郎。
「保存性と靴下性、そして観賞性を兼ね備えたハイブリットな靴下アイテムでこれをソックスにぎりと」
「ごめんその日本語がわからねえ」
朔之助。ボーイッシュな外見と振る舞いで忘れがちだが花も恥じらう女子高生。蕪郎の変態行為にどん引きである。誰だこんなキャラ考えたやつは。
話に加わらないまでも、傍目にもうどん引きしていた桜木・結衣(物理魔法少女・d14241)はできるだけ目をそらしつつ、英・霞未(大自然のお仕置きだ・d09185)たちに話をふった。
「お布団たんかあ。むしろこのまま放っておいてもいい気がしてくるよね。朝とか抱っこされたまま登校したい……あの時間、ほんと寝てたいもん……」
「それはわかるけど、道ばたに置いてっちゃうのはダメだぞ。父ちゃんとかその辺で昼寝してるときあるけど、あれすげえ邪魔だもん」
「それ『家の中で』って意味だよね?」
「ん……」
会話をしていると、横でぼーっとお茶を飲んでいた山城・大護(高校生ダンピール・d02852)が虚空を見上げて語り出した。
「お布団って言うのは……柔らかで、暖かくて、なんだか救われてなきゃ駄目なんだ。日々の疲れを包み込むように癒やしてくれる……」
お茶をポケットにしまい。ぐっと身を乗り出す大護。
「そう、そんなお布団を攻撃するなんて、いったい誰にできるっていうんでスヤァ」
と思ったら、なんか急にお布団たんにお姫様抱っこされてゆーらゆーら揺らされていた。
「も、もういるうううううううう!」
「さりげねええええええええええ!」
というわけで、突如として灼滅者VSお布団たんの戦いが始まったのだった。
●昼下がりの眠気は最強
クロスフェードである。映像用語でフェードインとフェードアウトを同時に行なってふよーっと次の場面に移ることを言うが、ンなことしてる割にはさっきのシーンから一秒とたっていない。
大護はゆーらゆーらされてるし、お布団たんはなんだか和む表情(?)で大護を囲んでいるし、もうこのまま全員寝かしつけちゃおうかみたいな相談がされているようで、なんともほんわかする光景ではあったけれど、しかし!
「ここで放っておくわけにはいかないんだぞ! くらえっ、導眠符!」
霞未がてやーっと言いながら導眠符をお布団たんに叩き付ける。大護を抱っこしてるお布団に、もうこれ以上寝かせてなるものかと勢いを込めてである。
まあそれでどういうリアクションをとったのかっていえば、すっごいふかふかの羽毛布団にえいやーってパンチしたときみたいな音と動きをして、お布団たんは仰向けに寝っ転がり、そのまま大きな動物が眠るみたいにおなかを上下させつつすぴーすぴーと寝始めたのだった。そんなお布団たんに抱かれる大護の寝心地良さといったらない。
「うおっ、なんか余計に寝かしつけてるような気がしてきたんだぞ!? 起きろ大護ー!」
「ん、むにゃ……腎臓って二つあるんですか? じゃあ一個くらいならカタれますね」
「寝言怖っ!」
カタれるとは、借金のカタにできるの略である。
どういう生活してたらそんな単語をナチュラルに出すようになるのか。
「このままじゃラチがあかないぞ。朔之助、ちょっと手伝っ……」
「スヤァ」
振り向くと、朔之助はお布団たんにお姫様抱っこされていた。むろん寝ていた。
顔には十個くらい洗濯ばさみを挟んだ形跡があり、必死の抵抗をしたと見られるが、努力の甲斐むなしくお布団たんの誘惑に負けたようである。
「くっ、起きるんだー! 誰か、誰か手伝っ……」
振り向く霞未。
ネックブリッジでこちらを見ていた蕪郎。
「ソォォォォォォックス・ダイナマイッ!」
ブリッジ体勢のまま腰を突き上げると、パンツに仕込まれていたカードが発光。着ていた服を細切れに引き裂き、中に着ていたであろうムタンガと靴下のみのバトルフォームへと変態した。この場合の『変態』は辞書に載ってる全部の意味を含む。
「ハァイッ! ソ・ソ・ソ・ソ・ソックゥース、ぺろんぺろぉーん……」
謎の鼻歌『靴下をもげ』を歌いながら徐々に(ネックブリッジで)近づいてくる蕪郎。
そのたびに朔之助や大護の靴下をガン見しながら舌なめずりをするという驚異のポテンシャルを見せていた。誰だこんなキャラデザインしたやつは。
「起きろ朔之助ぇー! 大護ォー! どうなってもしらないぞー!」
先刻以上の必死さで朔之助たちをビンタしまくる霞未であった。
寝ちゃった人の対応は人に任せたいというかあんまり関わりたくない結衣は、手が空いているお布団たんをターゲットにしてぐっとファイティングポーズをとった。
「今のうちに相手の数を減らしておこうね」
「なのよ!」
横にぴったりと並ぶ蜜花。二人はシンメトリーに腕をかざすと、スレイヤーカードを解放。
「正義の魔法少女ユイ、参上!」
「長野ヒーローみっか、参上なのよ!」
とうっとか言いながらお布団たんに飛びかかる二人。
なんか攻撃っぽいものを繰り出そうとするお布団たんをサイドスウェーで左右同時に回り込みギターによるレーヴァテインとハンマーによる抗雷撃をしこたま叩き込みまくった。
それでどうなったかって言うと、ベランダに干したお布団を一生懸命ばしばしやったときみたいな音と香りがした。
お日様のいいにおいがした。
「はう、余計眠くなってくるの……」
「負けないで、すごく眠りたい気持ちだけど負けないで!」
「そちらも大変そうですね、では俺は……」
津は大護のそばまで近寄ると、己の懐へと手を突っ込んだ。
『誰でもカンタン! お手軽集気法テクニック!(眠気覚まし編)』
まずフライパンと棒を用意します。
このときの棒はできるだけ堅いもの。それも金属を選びましょう。
第一に対象者の耳元で生存確認。
「朝っすよー」
「んむ……指一本で二百万貰えるんですか、じゃあ七本くらいお願いします……」
「寝てるっすね」
恐ろしい寝言を軽くスルーしつつ。
対象者の頭部付近へフライパンを近づけます。
そして。
「朝ーっすよー!」
力の限りフライパンを叩きまくりましょう。
「ほべあ!?」
耳をふさいで悶絶する大護とお布団たん。
「ふう、これで一人。あとは朔之助を……」
くるりと振り返る津。
朔之助の足をがっしりと両手でホールドしている蕪郎。
「ザ・テイスティングタァーイム!」
「起きて朔之助ちゃああああああん!」
結衣がどっから取り出したものか、自家製梅干しを朔之助の口内にシューット!
「超エキサイティン!?」
『はぼえう゛ぉお!?』みたいなうめき声を上げてのたうち回る朔之助。
食べたことのない人にはちょっと分かりづらいことだが、おばあちゃんとかが作ってる自家製梅干しの酸っぱさとしょっぱさは、市販の梅干しの比ではない。コンビニ弁当とかに入ってるやつを想定して一口で頬張ったりすると悶絶すること必至である。
「ああああありがほお……おかげて目が覚め、さめ……」
目がふよふよと泳いだまま、涙目で語る朔之助であった。
そうこうしている間にも、新たな睡眠者を出そうとじりじり間合いを詰めてくるお布団たんチーム。
真夜はそんな彼らの前に立ちはだかると、ちょっと独特な徒手空拳フォームで身構えた。
「ここは私に任せて、立て直しを図ってください! 私は一般人ですからあんまりアレですけど……柳真夜、参ります!」
拳にシールドを纏わせてお布団たんのみぞおちを殴りつける真夜。
まあこれまでの流れでおおよそ想像はついていると思うが、羽毛布団にパンチしたみたいなぼっふぅんという無抵抗感とともに真夜の体はお布団たんの腕ン中へとめり込んでいった。
「あ、あわっ!?」
瞬く間にお姫様抱っこされ、ゆーらゆーら揺すられる真夜。
最初は抵抗した真夜だが、次第に瞬きが増え、動きが緩慢になり、首がこっくりこっくりと船をこぎ始め……。
「あ、うっ!?」
かくんと首が落ちそうになった瞬間、ぎょっとしてお布団たんの腕から転げ落ちた。
ぴたりと動きをとめるお布団たん。なんぞ不思議なことでもあったかのように真夜を見下ろすと、お布団たん同士で顔(?)を見合わせて相談っぽい仕草をしはじめた。
「あれ? なんだ? 真夜何かしたのか?」
「え、いえ……」
朔之助に問いかけられ、真夜は反射的に首を振った。
「眠るときは憂いなくが一番ですから、こう抵抗とかしてみたり」
「あー、あー……」
納得したようなそうでないような反応をしつつ、朔之助は無敵斬艦刀を肩に担いだ。
「じゃあま、そろそろ反撃といくか!」
クロスフェードである。
といっても今回は暫く殴って眠ってそんでもって起こしての繰り返しだったので盛大に数十分くらいカットしての場面つなぎだった。
それでどの場面につないだのかってーと。
「履カナイカ――ハッ!」
奇妙なバラライカダンスを踊りながら、重りを詰めた靴下を振り回す蕪郎。どうでもいいがみずむしちゃん(ナノナノ)が画面の端っこで靴下に頭をこすりつけているのは幻覚か何かだろうか。
「見た目はともかく、いい調子で倒せてるね。この調子でスヤァ……」
お布団たんに怒濤のラッシュを叩き込みながらうとうとし始める結衣。半分寝ててもちゃんと相手を殴りまくっているあたり、ちょっと執念を感じた。(※【眠い】は戦闘判定に一切影響しません)
そうこうしていると、残ったお布団たんが再び真夜を強襲。両腕を広げて飛びかかると、彼女の舞えてすちゃっと着地し、優しくそしてさりげなくお姫様抱っこしてあげた。
「う、うわっ、やっ……!」
慌てて振り返る朔之助。顔面洗濯ばさみだらけの朔之助。
「真夜がまた狙われてる! いくぞ津、パワーをお布団たんに!」
「いいですともー」
無敵斬艦刀とナイフによるクロスアタックが炸裂。お布団端がブワサァっと引き裂かれ、中身の羽毛が飛び散った。
「そういえば、服破りしたらお布団カバーが破けるのか?」
「いや、【服破り】って別に服破るわけじゃないからな。今のは偶然だろ」
「そうだったすね」
なぜか勘違いされやすいが、広く知ってほしい豆知識である。足止め同様。
しかしお布団たんは謎のガッツを見せ、力尽きる寸前に別のお布団たんへ真夜をパス。
「ん、させないよ……この導眠符で」
懐から導眠符を抜く大護。ちょっと慣れない手つきで放った護符は、お布団たん……の腕にふわっとキャッチされた真夜の額にくっついた。
はうあ、みたいな声を上げてカクッと昏倒する真夜。
それを見て徐々に近づいてくる蕪郎。
「ま、まずいぞー! いますぐ起こしてやるからなスヤァ……」
慌てて真夜に駆け寄ろうとした霞未だったが、ここでまさかのお布団たんダブル抱っこによりダウン。徐々に近づいてくる蕪郎。
「こ、こうなったら秘密兵器なのよ!」
蜜花は透明な水鉄砲を取り出すと。
「必殺信濃靱乃流『ねみみみみみみみみみみみず』なのね!」
「『み』多すヒギィ!?」
耳にお水がかかって慌てて飛び起きる霞未。
真夜も一緒に転がり落ちたのを見計らって、蜜花はお布団たんに組み付いた。
「そして必殺の、胡桃蕎麦ダイナミックなのよ!」
お布団たんをぐるぐる回してそば粉のように粉々にしてから天へ放る。お布団たんはお空の上ではじけ飛び、羽毛の雨となったのだった。
●安らぎの象徴、お布団たん。
――汝、恐怖の奴隷となることなかれ。天は安らぎを万物へ与えたもう……。
「はっ!?」
真夜は、舞い降る羽毛の下でぱちりと目を覚ました。
「だ、大丈夫? 落ちるとき頭からいったけど……」
「なのよ……」
顔をのぞき込んでくる蜜花と結衣。
「あれ? いえ、ええと……?」
真夜は顔をぺちぺちやって首をかしげた。
その一方。
「靴下を食べ損ねました」
「お前本当に灼滅者なんだよな? ダークネスじゃなくて」
ムタンガのまま佇む蕪郎と、その両脇でどん引きしている朔之助と大護。
津と霞未は明けゆく遠くの空を見上げ、ぽつりとつぶやいた。
「……ねむい」
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 4/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 38
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