花を手折る手

    作者:貴宮凜

     真夜中の旧校舎、月明かりが差し込む一室に、少女と男がいる。
     少女はあちこち裂けて使い物にならないストッキングを脱ぎ捨てて、ハイソックスに足を通し。蹴り脱いだコインローファーを爪先で引き寄せ履いて、爪先で床を叩く。こつこつと立つ音に合わせて、パニエで膨らませたミニスカートが震え、長い黒髪がボレロの肩を越えて胸元の稜線をなぞり、落ちる。最後に、床に落ちたベレー帽を拾って被れば、清楚な娘姿に早変わり。
     微かに熱を帯びた瞼を伏せ、吐息を一つ。それでも抜けない甘い疲れを隠しもせずに、少女が切り出す。
    「それでは先生、私はこれで。お話しした件、ご一考頂ければ幸いです」
    「構わない。もしも面倒事に巻き込まれたならば、気兼ねなく呼べ」
     男が返す。180cmを超える上背と引き締まった体つきを槍と例えるならば、それを見事に夜闇に溶け込ませる様は、戦慣れした武人こそが為せる技。スーツの内ポケットからブラシを取り、乱れ髪をオールバックに整えつつ答える姿に、剣呑な雰囲気が宿る。
     獰猛な笑みを浮かべ、言葉を継ごうとする男を尻目に、少女は扉へと歩を進め。
    「本当に、無理矢理手折るのがお好きですね、先生。身体がもちません」
    「よく言う。男一人を吸い殺す程度、造作もない癖に」
    「雑草と同様に扱われるのは本意ではありませんと、花は請いますよ」
    「花は花でも人食い花だろう」
    「気持ちよくて、楽しいところに花は咲くんです」
     肩を震わせ、互いに煽り合うことしばし。
     ふたりは旧校舎を後にし、夜の闇に消えていく。
     男は新校舎の宿直室へ。少女は渡り廊下で男と別れて、夜の街へ。
     淫魔の少女と、アンブレイカブルの男。世の闇を謳歌するダークネスどうしの密会は、果たして何を意味するのだろうか。
     
    「――淫魔が手を尽くして懐柔した結果、妥協点が生まれた。その、そういうこと、です」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が端的に告げた。
     レンズの奥の目はいつものように伏し目がちで、ただ、頬と言わず耳と言わず赤い。槙奈はすみませんと一言断って、赤みが引くまで静かに息を整えた。腕を身体の前で閉じて肩を持ち上げるたび、編んだお下げ髪が控えめに揺れる。
    「なので、この淫魔とアンブレイカブルは現在、友好関係にあります。同じ高校の教師と生徒と言うことで、わずかながら接点もあったようですが、今まではお互い無関心だったようです」
     ところが、何らかの事情で淫魔が接触して互いの関係性が変わった。そのおかげで、灼滅者達もアンブレイカブルに接触できる機会を得たと言うわけだ。
    「これが、隙と呼べるかどうかも解りません。アンブレイカブルも、淫魔も、どちらも単独で危険な存在です」
     槙奈は深々と頭を下げた。どうか、倒すべきものを見誤らないで欲しいと。
     
     目的地はとある地方都市の私立高校。敷地は広く、ダークネスが逢瀬に使っていた旧校舎、宿直室のある新校舎、講堂を兼ねた体育館にグラウンド、図書館と、その地域では有名な学校らしい。
    「旧校舎と新校舎は渡り廊下で繋がっていて、渡り廊下までは、アンブレイカブルは淫魔と同行しています。ふたりが別れて、淫魔が高校の敷地から離れるまでの約10分間は、接触を図らないほうがいいと思います」
     槙奈の未来予測のおかげでふたりに予知されずに仕掛けられるとは言え、淫魔とアンブレイカブルの両方を相手取るのは非常に危険だ。しかも、もしも淫魔を狙おうものならアンブレイカブルに救援を請うのはほぼ確実。
     故に、ここで狙うべきは、新校舎1階の宿直室で休憩中のアンブレイカブルだと槙奈は語る。バベルの鎖の外から仕掛け、組織的行動を好まない性質をも隙と見なして突き、倒す。そうする他ないのだと。
     なお、このアンブレイカブルは非情の行いの果てに磨き上げた格闘技の使い手だ。接近してからの猛ラッシュで反撃の勢いを削ぎ、徒党を組む相手は手刀の一閃で薙ぎ払い。弱った相手は、渾身の殺気を込めた手刀で貫きトドメを刺すのが常套手段だ。
    「手刀にだけは気をつけてください。特に、手刀で貫く技からはどれだけ離れても逃げられません。……とどめを刺す際にしか使わない代わりに、とても強力です」
     灼滅者達に注意を促すと、槙奈は自分の胸元に手を添えた。
    「……改めて、お願いさせてください。淫魔には、極力仕掛けないで欲しいんです」
     今回の灼滅者達の行動は、ダークネス達の予知の範囲外にある。この機に乗じて、戦果を一つでも多く挙げようと考える灼滅者もいるだろう。
    「ダークネスは強力です。ダークネスの灼滅がどれだけ大変なことかは、みなさんが一番ご存じのはずです」
     胸元の手が、スカーフを掴んだ。襟が歪む。腕が閉じ、顔が俯き、背が曲がりかけたところで頭を振った。
     編み髪の揺れが止まるのを待たずに槙奈は顔を挙げ、正面から灼滅者達を見据えて、
    「それを、ふたり相手にすることの怖さを、想像してください。……みなさんを見送ることしか出来ない私からの、お願いです」
     どうか、お気をつけて。説明を締めくくる槙奈の声は、微かに震えていた。


    参加者
    玖・空哉(クックドゥドゥルドゥ・d01114)
    沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)
    壱乃森・ニタカ(桃兎・d02842)
    結城・桐人(静かなる律動・d03367)
    古賀・聡士(氷音・d05138)
    来海・彩葉(メモワール・d11279)
    不動・嵐(喧嘩暴風・d12445)
    天瀬・麒麟(小学生サウンドソルジャー・d14035)

    ■リプレイ

    ●復讐鬼は密やかに猛り
     灼滅者達は敷地外の暗がりで息を潜め、機会を待っていた。
     いくら灼滅者側のほうが数で優れているとは言え、淫魔が出て行ったことを直接確かめる訳にはいかない。エクスブレインの予知は確かだとは言え、今回の相手は眷属ではなくダークネス。不安感を欠片も抱かずにいるというのは難しい話のようだ。
     沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)が、懐から取り出した携帯電話を一瞥した。
    「あと2分。皆さん、突入の準備を」
     赤茶の瞳に映り込んでいた光が消えるなり、淡、と言い放つ。
    「ニタカは大丈夫だよ。……きんちょーするねえ」
     返したのは、この場で唯一星子よりも小柄な壱乃森・ニタカ(桃兎・d02842)。出で立ちにも雰囲気にも鋭さが目立つ星子とは対照的な彼女の声も、流石に固い。肩に掛けたお気に入りのポーチを両手で握っては、ぬいぐるみを愛でるように顔の前に持っていき、がんばろうね、と小声で語りかけて緊張を解す様は、場の緊張を微かに解す。
    「きりんも」
    「アタシはいつでも問題ねえよ」
     天瀬・麒麟(小学生サウンドソルジャー・d14035)と不動・嵐(喧嘩暴風・d12445)も同調し。
     結城・桐人(静かなる律動・d03367)、古賀・聡士(氷音・d05138)、来海・彩葉(メモワール・d11279)の、比較的穏やか(そうに見える)男性陣もまた、頷く。
    「んじゃひとつ、エッチな先生をこらしめに行こうぜっ」
     打ち合わせの最中からずっと明るく振る舞っていた玖・空哉(クックドゥドゥルドゥ・d01114)も、流石に声量を絞り。
    「時間です。全力を、尽くしましょう」
     星子の言葉を合図に、灼滅者達は敷地内へと飛び込んだ。
     月明かりが彼らの背中を照らす。闇の奥底へと急かし、誘うように。
    (「それでも構いません。あの子の代わりに、私が業を背負うと決めたんです」)
     小柄な復讐鬼が先陣を切って、月夜の校舎を駆け抜ける――!

    ●戦鬼は月夜の庭を駆け
     サイキックを併用して、監視カメラの目を逃れるように灼滅者達は進んで行く。
     先行して誘導するのは桐人と麒麟。そのすぐ後を、ふたりをエスコートするように前衛陣が続く。
     それぞれの手に、あるいは首もとや懐には、すぐにでも用意出来る光源。仮に宿直室の外へと戦場が移っても問題ないようにと、光源の種類は多岐にわたる。
     その中でひとり、ケミカルライトを選んだ灼滅者がいた。
    「アイドル淫魔……ラブリンスターだっけ。あの淫魔がそいつと関わりがあるかどうかわかんないけど、やっぱさ、華がある女の子がいたトコだし、こういうのって必要じゃね?」
     空哉である。
     エクスブレインの予知どおり、その淫魔は既に校舎の外のようだけれど。彼の服の内では今も、色取り取りの明かりが埋もれている。打ち合わせの最中から突入直前に至るまで終始軽く、淫魔を蛇蝎のように忌み嫌う麒麟に時々知らんぷりをされることもあった彼。
     その彼の心中、心根は決して、表層同様に軽薄ではない。
     最終的に揃ったメンバーは、ニタカと彩葉を除いて、何らかの形で淫魔かアンブレイカブルを宿敵として持つ面々。言わば、今回の作戦は宿敵の争奪戦なのだ。
     淫魔を宿敵として持つ一同は、最低限確保出来る戦果は確保すべきと言う意見に納得し、淫魔を見逃してくれている。この場で宿敵を相手取れるのは、ストリートファイター達だけだ。
     故に、空哉の心は熱く燃える。宿敵が、怨敵が、純粋に力を追い求める心が生んだ闇が、よりによって色欲の権化相手に妥協してしまったのだ。
    「ザンネンだよなぁ」
    「ああ、ザンネンだ。先生と楽しみたいのはアタシらだってのに」
     空哉が思わず漏らした言葉を拾い、嵐が笑う。力強く、獰猛に。
    「そんなコト言って、大切な先生は渡さないわよっ!?」
    「キモい裏声出して身体くねらせながら走るなよバカ、バレたらアンタのせいだからな」
     やりとりは軽く、足取りは密やかに、グラウンドから、渡り廊下に踏み込んで校舎内へ。
     渡り廊下の安全は、星子にエスコートされる形で先行した麒麟が確認済み。誰かが懐中電灯のスイッチを入れ、暗い床に光の筋を広げた。
     その筋の上を、ストリートファイター達が駆けていく。
     宿敵は渡さない、一番槍も、引導を渡すのも全て自分の役目だとばかりに。

    ●歌姫はひとり、別れを告げて
    「……ばいばい、次はちゃんと殺し合おうね」
     渡り廊下の安全を確認した後、改めて前衛組に道を譲った麒麟が、小さく呟いた。
     宿敵を見逃すどころか、の去りゆく背を見送ることすら出来なかったのだ。作戦を成功に導く上で割切らないといけないことだったとは言え、麒麟の心にはわだかまりが残る。
    「……血を、見たい……の、か?」
     間を置いて返すのは、同じサウンドソルジャーとは言え、朴念仁だとばかり思っていた桐人。麒麟は目を丸くした後に、かぶりを振って、
    「違う。そんなのじゃ、ない」
     断言。
     もうひとつのルーツであるダンピールも、その宿敵たるヴァンパイアも、確かに血の赤を求める異形同士。けれど、麒麟と淫魔を結びつける因縁は、凄惨な死を迎えさせればいいなどと言うものではない。
    「桐人は、きりんとは違うね」
    「そう……だろう、か」
     桐人の答えは短く、けれど迅速ではなく、必要十分以上に間を持って返り。
    「違うよ、なんとなくだけど解る。……男の人と、女の子の差、かな」
     ルーツが違う。過去が違う。歳が違う。何もかもが違う。
     だから、この場では仲間でいられる。『あんなこと』をして悦んでいたモノが、きりん以外にいるなんて認められない。
     かつての闇を思い出し、夜闇に溶け込む藍色の瞳が、先行した面々の位置を探る。
    「そろそろ着くみたい。空哉が飛び込んで掻き回しすぎると大変だから、急ごう?」
     幼い歌姫と多くを語らぬリズム隊が、仲間が切り開いた道を進む。
     ステージはもうすぐ。ケミカルライトと懐中電灯のまばゆいばかりの輝きが、今か今かとばかりに、ふたりを待っている。

    ●殺人鬼は血の宴に酔う
     バベルの鎖に守られていないダークネスを襲うのが、こんなにも楽しいことだなんて思わなかった。
     宿直室に踏み込み、ストリートファイター達を尻目に一番槍を得た聡士は、心の中で快哉を叫ぶ。バスターライフルとガンナイフを連射して弾幕を張り、誘導した先に影業を伸ばして足を縛る。初動が予知されないと言うだけで、こうまであっさり決まるものか。
    「お相手願うよ、センセイ? 僕の仲間は、こんなに優しく――」
    「ああ、旧校舎で黒スト破って激しくってシチュには……違う、こっち撃つな聡士!?」
    「――優しくないし、空気も読まない。こんなバカがいるからね」
    「頭のいいヤツはエロ本読まないのかよ!? エロスは人類のうわ痛ててやめてごめんなさい!」
    「バカがいるからね。飲まれたら負けるよ」
     お調子者に威嚇射撃をくれてやる余裕まである。少々、アンブレイカブルとの間合いが近いのが危ういけれど。この感じならば、初撃程度なら十分に受け流せるはず。リロードを終え、足止めを受けた教師の動向を見定める。
    「そうか」
     その一言とともに、アンブレイカブルの姿が一瞬ブレた。座り込んだ男の足を、影業で縛り付けたはずなのに。男は畳敷きの宿直室の床から立ち上がるなり、影業の束縛を逆利用して拳と肘打ちのラッシュを聡士に仕掛けてきた。
     重い。とてつもなく重い。予知が効かなかったからと言って、無防備に自分たちの奇襲を全て受けてから動き出すような間抜けではないと言うことか!
     ドアを破り、向かいの壁に叩き付けられた聡士は、自らの心音を聞いて小さく笑む。
     そうか、これがストリートファイターの宿敵。壊れないモノ、アンブレイカブル。
     心配そうに見遣るニタカに微笑みかけ、聡士は二丁の銃を交差して構える。
    「楽しい、楽しいなあセンセイ! これだけ強いのに、どうして淫魔なんかに……!」
     もうひとつのルーツの求めに応じて、聡士の狂気は加速する。

    ●そして、全てが壊れ
     当然、アンブレイカブルとの戦闘は激戦となった。どれだけ彩葉がカミを降ろして風刃を放とうとも、ニタカが魔法の矢を放とうとも、アンブレイカブルはびくともしない。
    「ニタカ、解らないよ! こうやって戦うのが、強い人たちと戦うのがアンブレイカブルじゃないの!?」
    「そのためならば、何でもするモノだろう? アレも、なりふり構わず縋ってきたしな」
     ニタカの問いに、星子をラッシュで吹き飛ばし、反撃の勢いを削ぎつつ教師が返す。
     宿直室と言わず廊下と言わず、アンブレイカブルの巻き起こす破壊の嵐が全てを砕く。今、この場においては、己は学舎を守る宿直勤務中の教師ではなく。果てのない戦を望むモノだと、一挙手一投足で答え続ける。
    「はいそうですかと……見過ごすわけには、いかない」
     ラッシュで動きの精彩を削がれた面々を一瞥して、桐人が清めの風を放つと、その風とアンブレイカブルのラッシュの勢いに乗って、星子が自ら壁を蹴り、
    「アジサイ――」
     小柄な身体を丸めて、足裏にベクトルが集中するように勢いを付け、
    「――反転キック!」
     錐のような鋭さをもった一撃で、抉り込む!
     小学校6年生の麒麟よりも目線一つ以上低いと言うのに、すらりと伸びた足が、アンブレイカブルの身体を大きく揺らし。更に、飛び蹴りの反動を活かして反転。黒のポニーテールと首から提げたライトが、ムチのようにしなって空を斬る。
    「星子ばっかかっこつけてるけど、俺もいるぜぇっ!」
    「アタシもだ! こいつを避けれるか……っ!」
     反転した星子が空中で回転し、力を溜めている最中に、空哉と嵐が挟み込むようにして、雷を纏ったアッパーカットをアンブレイカブルに決め。浮いた身体に、空哉の愛機、剛転号が追い打ちを仕掛ける。
     圧倒的な個人としての力の差を、人数を活かした連携プレイで埋め。桐人や彩葉の支援もあって、じわりじわりとアンブレイカブルを追い詰めていく。
     ある程度対多数戦を意識した技の構成とは言え、己の傷を癒やす術を持たないアンブレイカブルが押されるのは自明の理。
     だが、戦闘に要する時間が伸びれば伸びる程不利になるのは、灼滅者とて同じこと。
    「……頃合いか」
     アンブレイカブルが小さく呟き、右腕を引く。
     再び突き出した先にあったのは、今まさに己を鼓舞する叫びを放とうとした聡士の姿。
     肉を抉り骨を断つ鈍い音が夜の校舎に響き、人の倒れる音が続く。
    「立て。立てぬなら、それまでだ」
     麒麟の歌声が呼び起こす眠気すらも、力を求める意志で破壊して、アンブレイカブルが告げる。
    「ひとりひとり、順に倒すまでだ。数に頼るしか出来ないのなら、せめて足掻いて見せろ」

    ●「壊れないもの」
     アンブレイカブルの反撃は熾烈を極めた。基本的な一撃の重さとタフネスの差を活かし、前衛陣を容赦なく薙ぎ払い、貫き、吹き飛ばす。
     それでもまだ戦闘が戦闘の体を為していられるのは、灼滅者達の意志力の賜物だった。
     星子がアジサイビームを駆使して狙いを逸らし、どれだけ肉体が傷つけられても、精神力で不足分を補って立ち上がり。
    「ダメだぜ先生、女の子には優しくしないとさあ!」
     空哉が吠え。
    「アタシは別に激しくてもイイけどな? もちろん、コッチの話だけどよ」
     嵐が両の拳を打ち合わせて、構えを取り。
    「どちらにしても。――私達は、貴方を灼滅します!」
     星子もまた腰を落とし、闘気を雷に変えて拳に宿す。
     アンブレイカブルは無言で手招きして手刀を構え、灼滅者達とアンブレイカブルの全力が激突する!
     床に撒き散らした色取り取りの明かりが余波で消え、灼滅者達が膝を突いた直後。
    「不愉快だが役は果たしたぞ、工藤。存外、愉しめたしな……」
     アンブレイカブルの全身にひびが入り、砕けて散った。

    ●再び月夜の下で
     事後処理自体はつつがなく終わったものの、淫魔に繋がる手がかりはろくに見つからなかった。
     宿直室には淫魔の手がかりとなるようなものは無く、交戦開始時に淫魔の名を尋ねても、それより優先すべきものがあるのだろうと返すばかり。
    「……結局、あのアンブレイカブルは淫魔を守り通したわけか」
     彩葉が零す。アンブレイカブルと淫魔とはいえ、教師と生徒。強者を求めるアンブレイカブルの業と、教師としての役を同時に果たしたのだろうとは言え。
    「工藤という名字と、エクスブレインが教えてくれた外見。それだけの材料で追えるでしょうか」
     星子が眉根を詰め、首を捻る。
    「……追えるなら追いたいけど、今日は帰ろう」
    「ニタカもさんせーい。身体じゅうが痛いよぅ……」
     麒麟とニタカが一時中断を訴え、 全てを終えた灼滅者達は、それぞれの帰途に就いた。
     月は、灼滅者達の背中をまだ照らしている。
     闇からの帰還を祝福するように。更なる闇へと、誘うように。

    作者:貴宮凜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ