アイドル淫魔と吸血不良少年

    作者:刀道信三


    「ここシャワーあってよかったぁ……みんな好き放題するから、きれいにするの大変なんだもん」
     シャワールームから髪を乾かしながら一人の美しい少女が出てきた。
    「ガス水道が通ってる溜まり場なんて、ここはみんなの内の誰かの部屋なの?」
    「ちげえよ。ここの持ち主ならとっくにブッ殺したけどな」
     ベッドに腰かけたリーダー格らしき少年が下卑た笑いを浮かべる。
     他にもこの部屋には4人の不良少年達が思い思いにくつろいでいた。
    「なるほど、見かけによらず頭イイのねぇ」
    「一言余計だよ。オマエは見かけはサイコーなんだけどなぁ……もうチョイ恥じらいとかあったらなぁ」
    「そーゆー子がシュミなの? 今度は清楚~な感じでしてあげよっか?」
    「やめてくれ、猫かぶってるって最初からわかってたら余計に萎える」
     淫魔の少女とヴァンパイアの少年は、少女の営業活動の成果か、楽しげに冗談を交わし合うていどには友好関係を結べているようだ。
    「シツレイねぇ。私が相手じゃ不満?」
     ベッドの上に乗っかった淫魔の少女がじゃれるようにヴァンパイアの少年の背後から体を密着させるように抱きつく。
    「まさか。言っただろ? 外見はスゲー好みだって」
     そう言いながら吸血鬼の少年は、淫魔の少女の短いスカートの裾から伸びたふとももに手を伸ばそうとした。
    「今晩はもうダーメ。ラブリンスター様に報告しないと私が怒られちゃう」
     淫魔の少女はやんわりとその手を遮りながら、ベッドから立とうとする。
    「オイオイ、自分から挑発しておいて寸止めはヒドイんじゃないか?」
    「私も報告とか面倒だし、みんなと遊んでたいんだけど、マジで怒られちゃうんだよぉ……」
     リーダーと少女のやり取りを遠巻きに眺めている不良少年達の目にもソワソワとした期待の色が浮かんでいた。
    「ちょっと、そんな目で見られたら私までそーゆー気分になっちゃうじゃない……仕方ないなぁ。あと一回づつなんだからね。それから私達の邪魔しないって絶対約束よ?」
    「ああ、もちろんわかってるぜ」
     ヴァンパイアの少年が淫魔の少女をベッドに押し倒しつつ、その衣服に手をかけると、他の不良少年達も喜々とした様子で、少女を取り囲む輪をゆっくりと縮めていくのだった。


    「あの、お願いがあるんです……」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は集まった灼滅者達を前に、恐る恐るといった様子で口を開いた。
    「今まで、私達エクスブレインの未来予測にもかからなかったダークネスの動きを予知することができました」
     最近淫魔が他のダークネスに接触しており、その行動が未来予測に引っ掛かっているのだ。
    「淫魔は他のダークネスと接触して、その……え、えっと、私の口からはとても説明できないのですが、淫魔らしい方法で自分達の邪魔をしないようにと、他のダークネスに約束を要請しています」
     不明瞭な説明になってしまってごめんなさいと申し訳なさそうにする槙奈。
    「明け方には淫魔がヴァンパイア達の溜まり場となっているアパートの一室から出てきます。みなさんはその淫魔をやり過ごした後でアパートに乗り込んで下さい」
     もし淫魔を襲撃した場合、戦闘に気づいたヴァンパイア達が援軍に現れて、淫魔とヴァンパイアのダークネス2体を相手にすることになってしまうだろう。
    「それからヴァンパイアは戦況が不利になると撤退しようとします。ただ深追いはしない方がいいような気がします。あとヴァンパイアに武蔵坂学園のことはできれば知られないようにして下さい」
     ヴァンパイア達は就寝前で油断しており、アパートのインターホンを鳴らせば淫魔が忘れ物でも取りに戻ったのかと思ってドアを開ける。
     ヴァンパイア達の戦力は、ヴァンパイア本人と配下に強化一般人と化した不良学生達が4人いる。
    「今回の依頼は、淫魔とヴァンパイアの協力関係を絶つために、ヴァンパイア達の溜まり場を制圧することです」
     ヴァンパイアを逃がしても、強化一般人を灼滅することができれば成功である。
    「改めて確認しますが、今回の依頼は、淫魔が去った後で油断しているヴァンパイア達を攻撃するというものです。一歩判断を間違えれば、ダークネス2体を相手にすることになってしまうかもしれない危険な依頼です。私にはみなさんを見送ることしかできません。どうかみなさん無理はせず、無事に帰ってきてくださいね」


    参加者
    イゾルデ・エクレール(ラーズグリーズ・d00184)
    不動・祐一(揺るぎ無き守護者・d00978)
    山岡・鷹秋(赫柘榴・d03794)
    天瀬・一子(Panta rhei・d04508)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    ウェリー・スォミオ(それなり普通の中学生・d07335)
    ビーディ・ウルフズベイン(ロウンイモータル・d07783)
    明日・八雲(十六番茶・d08290)

    ■リプレイ


     明け方、灼滅者達が張り込んでいるアパートの一室から、未来予測通りに淫魔の少女が現れる。
     灼滅者達は淫魔の少女に存在を覚られないように気配を隠し、淫魔の少女が十分にアパートから離れるまで息を潜めた。
    「インマちゃんは、しっかり帰っちゃったよね? それじゃあ、ラブリンスター親衛隊の出撃だよ♪」
     淫魔の仲間を装うためにガールズバンドのライブ衣装のような服装をした天瀬・一子(Panta rhei・d04508)が、淫魔が見えなくなったことを確認してから立ち上がる。
    「改めて確認しておくが、淫魔はこのまま放置。ヴァンパイアはなるべく灼滅で、取り逃したら追わない。俺達は淫魔に襲撃の指示を受けたってことにして、ヴァンパイア達を攻撃する。いいな?」
     続いて装備を確認しながら不動・祐一(揺るぎ無き守護者・d00978)が仲間達に作戦の確認をした。
    「籠絡されるようなヴァンパイアに興味はないけど、淫魔がなにを企んでいるのかは知りたいわね」
     籠絡されている側のヴァンパイアが、そんなことを知らされているわけもないかと、笙野・響(青闇薄刃・d05985)は年齢より大人びた雰囲気で髪をかきあげながら、そう呟く。
    「淫魔達が何の為に営業に精を出してるのか解りませんが、僕らにとって碌な事じゃないはず……思い通りにさせたくないですね」
     ウェリー・スォミオ(それなり普通の中学生・d07335)がスレイヤーカードから殲術道具を取り出しながら、響の呟きに応えた。
     ヴァンパイア達にスレイヤーカードを見られては、武蔵坂学園のことを気取られてしまうかもしれないので、事前に殲術道具を取り出しておくことで、そうならないよう配慮しているのである。
    「淫魔の考えることはよくわからないなあ……とりあえず今回は淫魔にだまされてるふり……ふりというか、まずは自分をだます……ラブリンスター様さいこう! ラブリンスター様の為なら火の中水の中!」
     明日・八雲(十六番茶・d08290)は自己暗示をかけるようにブツブツと呟き始めると、いきなりトップギアでラブリンスターを賛美し始める。戻ってこれるか若干心配だ。
    「ボンクラも血を吸えば吸血鬼か。やれやれ」
     普段口数の多くないビーディ・ウルフズベイン(ロウンイモータル・d07783)も宿敵であるヴァンパイアとの戦いを前に、逸る気持ちを軽口を叩くことで鎮めようと試みる。
    「あまり時間を空け過ぎても怪しまれる。そろそろ行こうぜ」
     促す山岡・鷹秋(赫柘榴・d03794)の言葉に頷いて、灼滅者達は目的のアパートへと歩き始めた。


    「なんだァ、忘れ物でもしたのかよ?」
     インターホンを鳴らすと、しばらくして確認もなく強化一般人の不良の一人がアパートのドアを開ける。
     こんな時間に来客があるとは考えようもないので、淫魔の少女が戻ってきたものと勘違いするもの仕方ないだろう。
     そもそも元々ここの住人だった者は、既にこの世に存在しないのだから。
    「喧嘩の訪問販売って奴さ」
     ドアをこじ開け、襟首を掴んで引っ張り出した不良少年を、祐一がシールドバッシュでアパートの通路に叩き出す。
    「ふふっ……彼女はよく働いてくれた。お陰でこうも奇襲がうまくいくとはな。流石はラブリンスター様のお気に入りだ」
     イゾルデ・エクレール(ラーズグリーズ・d00184)は高らかにそう告げると、不良少年の土手っ腹にガトリングガンを突きつけ、鉛玉を零距離から撃ち込んだ。
     続けて響の黒死斬、一子のフォースブレイク、ウェリーのティアーズリッパー、ビーディのギルティクロスが不良少年を集中攻撃して、一瞬で灼滅する。
    「ラブリンスター様にお前らはもう用済みって訳だ、それを俺達が此処で証明するからな」
     鷹秋はアパートの室内に踏み込みながら、鏖殺領域による殺傷力を持った黒い殺気を展開した。
    「淫魔様のおかげで油断した所をぶっつぶす! という作戦だったんだよ! 引っかかったな! っつーわけで君たちラブリンスター様の為に死んでよ?」
     自己暗示でノリノリな八雲が、演技だとはとても思えないハイテンションでそう言いながら、手近な強化不良にオーラキャノンで攻撃する。
    「チッ、人がイイ気分で眠ろうとしているところに迷惑なヤツらだ」
     ベッドを一人で占領していたヴァンパイアが、毒づきながらゆっくりと身を起こす。それと同時にヴァンパイアミストが部屋を満たし、不良少年達の傷を癒した。
     ヴァンパイアは灼滅者達を一瞥すると、瞬時に状況を判断して口を開く。
    「オイ、お前ら、俺は今戦うって気分じゃあない。見逃してやるから、さっさと消えろ」
    「高崎さん! タカシのヤツがやられてる、このままコイツらをタダで帰すなんて……」
     ヴァンパイアの威圧的な言葉に、まず噛みついたのは不良少年の一人だった。
    「コイツらが言ってることが事実かワカラネエが、もし事実なら淫魔に出てこられると面倒だ。仇が討ちたけりゃ、お前らが勝手にしろ」
     そう言ってヴァンパイアは灼滅者達に背を向け、窓へと向かおうとする。
    「なーに逃げようとしてんだよ!」
     不良少年達の間を抜けて、祐一が一直線にヴァンパイアの背後に迫るが、祐一のシールドバッシュは振り返りもせずに、ヴァンパイアの槍で受け止められた。
    「言い方が悪かったか? 命を見逃してやると言ったんだ。死に急ぐなよ、なり損ない」
     依然体は振り返ることなく、底冷えする視線だけを向けながら、ヴァンパイアはそう吐き捨てる。
     その一言を合図にするように、戦場は動き出した。


    「そう簡単に逃がさないわよ」
     響は長い髪をなびかせ、すれ違いざまに不良少年の一人をシールドバッシュで跳ね飛ばしながら、窓の方へと室内を駆け抜ける。
    「僕達も易々と命令に逆らうわけにはいかないんですよ」
     ウェリーも響に続いてディーヴァズメロディで攻撃しながら、窓を塞ぎに向かった。
    「確かにガチでやり合うなら、お前達の数は厄介だが」
     そう言いながらヴァンパイアは螺穿槍で祐一の腹部を貫き、そのまま窓に向かって乱暴に放り投げる。
    「ぐはっ!?」
     放り投げられた祐一は窓を突き破ってベランダの塀に激突した。
    「それはあくまで正面からぶつかった場合の話だ。窓かドアから外に出ようとする俺を、戦力を分けながら止められるとでも思っているのか?」
     ヴァンパイアは槍の穂先で回り込もうとする響とウェリーを牽制しながら、悠々とした足取りでベランダに向かって行く。
    「タカシをよくもやりやがったなァ!」
     更に不良少年のチェーンソー剣が甲高い音を鳴らせながら響に襲いかかった。
     響は咄嗟にWOKシールドで受け止め、高速回転する刃とシールドの間に火花が散る。
    「ブッ殺してやらァ!」
     上段からのチェーンソー剣によって地に足を縫いつけられていた響の胴を、もう一人の不良少年のチェーンソー剣が横薙ぎにして血飛沫を上げさせた。
    「チィ、大丈夫か、響? こいつらも意外と侮れねえ」
     鷹秋の導眠符が、響を攻撃している不良少年に命中し、手許を緩ませて響が距離を取るだけの時間を稼げた。
    「……これ以上は被害が大きくなり過ぎる。悔しいが不良の方を優先するぞ」
     ビーディが歯噛みしつつ、ギルティクロスでもう一人のチェーンソー剣を持った不良少年を牽制する。
    「クク、それが賢明だ。命拾いをしたな、なり損ない共」
     そう言ってヴァンパイアはベランダに足をかけた。
     その足許では主人を守ろうと霊犬の迦楼羅が、祐一とヴァンパイアの間に立ち塞がりながら、威嚇するように唸る。
     それを無視するようにヴァンパイアは勢いよく跳躍すると戦場を去って行った。


    「みんな、まずはゆーいちくんと響ちゃんを助けよう!」
     ヴァンパイアが戦場を去って直ぐ、一子はフォースブレイクで不良少年を攻撃しながら指示を飛ばす。
     彼女の声に硬直しかかっていた灼滅者達が動き出す。
    「お前達だけでも逃がさんぞ。永遠に眠れ……!」
     イゾルデのライフルから放たれた射線が赤い逆十字を描き不良少年を切り裂いた。
    「祐一くん、響さん、いま回復するよ!」
     傷つき出血している二人に八雲はリバイブメロディを奏でる。
    「確実に倒させてもらいますよ」
     不良少年達まで逃がしてしまわないように、ウェリーは窓際に陣取ってディーヴァズメロディを歌った。
    「「ぐ、ぐわあぁあああああ?!」」
     チェーンソー剣を持った不良少年二人が、お互いの肩口にその凶器を振り下ろす。
     鷹秋の導眠符、ウェリーのディーヴァズメロディ、イゾルデとビーディのギルティクロスが積み重なって催眠状態となり、不良少年達は既に体の自由を失っていた。
    「く、クソがぁ!」
     残る解体ナイフを持った不良少年が灼滅者達に襲いかかろうとするが、その手が不自然に宙で止まる。
    「バラして晒してやるよ、この糸はそうそう切れねーだろ?」
     そのまま鷹秋の鋼糸が、絡め取った不良少年の手首を輪切りにした。
    「これはさっきのお返しよ」
     響は音もなくチェーンソー剣を持った不良少年の背後に立つと、その小刀を使った黒死斬で解体し、灼滅した。
     パズルのピースを失ったように、もう一方のチェーンソー剣を持った不良少年がバランスを崩しかけるが、その体に何条もの光の刃が殺到し、突き刺さる。
    「迦楼羅と八雲は回復サンキューな。助かったぜ……」
     まだ腹部の傷を庇うようにしながら祐一が放った光刃がトドメとなって、また一人不良少年が灼滅され、霧散した。
     最後に残った手首とナイフを失った不良少年も、ビーディの放った赤い逆十字の光に引き裂かれ息絶えた。
    「あんなのにも歯が立たねえとは、歯痒いな……」
     戦場に残った敵をすべて灼滅し終えたが、ビーディの心は晴れず、ベランダの柵を掴みながら、ついそんな呟きがこぼれる。
     ヴァンパイアを宿敵とするビーディだけではなく、他の灼滅者達にとっても、ヴァンパイアの撤退を許してしまったことは、心に影を落とす結果となってしまった。
     彼らの眺める窓の外には、もうヴァンパイアの姿は影も形も残ってはいない。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ