ホーンテッド・スクール

    作者:春風わかな

    「懐かしいなー! 5年ぶりか?」
    「あの時のまま、何も変わってないな。俺が書いた落書き、まだ残ってるかなー」
    「三浦が書いた落書きだったら俺が消したぞ」
    「マジか! つーかオマエいつのまにやったんだ……」
     無人の校舎にそぐわない賑やかな少年の声が響く。
     小学校が廃校になって早5年。来月解体されると聞いたのは先日のこと。
     だったら、懐かしい校舎が取り壊される前にもう一度遊びに行こうと三人一致ですぐに決まった。
     だから、こうして夜になるのを待ってこっそり忍び込んでみたわけなのだが……。
     昔話に花を咲かせつつ、学生服を着た少年達は2階へと階段を上がる。
     懐かしい教室を横目に廊下を歩けば昔のことを思い出す。
     埃やら蜘蛛の巣やらを気にすることなく学生服を着た少年達は幼い頃学んだ教室へと向かっていた。
     ……ペタン、ペタン。
    「……?」
     先頭を歩いていた栗色の髪の少年が足を止めて怪訝そうな顔で振り返る。
    「三浦、どうした?」
    「いや……今、なんか音がしたような」
     しかし、三浦少年の背後には闇が広がるのみ。彼らの他に誰の姿も見えない。
    「気のせいじゃねー?」
    「まて、鹿野。そっち明かりで照らせ」
     銀縁眼鏡をかけた少年――馬場の指示に従い、懐中電灯を持った鹿野という少年が大人しく明かりを向ける。
    「――!」
     誰もいないと思った場所に誰かがいた。
     正確には人ではない。朽ちつつある動く死体――ゾンビがいた。
    「う、うわぁぁぁ!!」
     鹿野がゾンビに向かって懐中電灯を放り投げ、3人とも一目散に逃げようとする。
     だが、廊下の曲がり角から別のゾンビがぬっと現れ、行く手を阻む。
     そして。
     ずるずるりずる……。
     動かなくなった少年たちを引きずり、ゾンビ達は暗闇へと去っていくのだった。
     
     指定された教室に灼滅者達が集まったことを確認すると、久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は視線を伏せたまま話し始めた。
    「ゾンビ、倒してきて、ほしい」
     廃校になった小学校にノーライフキングの配下であるゾンビが現れる。彼らゾンビの目的は三浦という名前の男子中学生だ。
     このままでは三浦少年と一緒にいる鹿野、馬場という二人の少年も巻き添えになってしまうだろう。
    「でも、ゾンビ倒すの、優先して」
     淡々と、普段と同じ調子で來未は告げた。
     ゾンビを放置しておけばさらに被害が拡大することは想像に難くない。今回、犠牲者が出ることになったとしてもそれは止むを得ないことなのだ。
     今から急いで現場に向かえばゾンビよりも早く少年達に接触することができる。
     もしも、少年達を助けたい場合はゾンビ襲撃前に彼らの安全を確保すれば良いだろう。
    「少年、空き教室に入れちゃえば、いいと思う」
     このゾンビ、ターゲットである三浦少年を執拗に狙おうとする傾向がある。
     ゆえに少年達を襲撃場所から遠ざけようとした場合、その後のゾンビの動きが予測と変わってしまう。そのため灼滅者の眼の届く範囲に少年達をとどめておく方が良いだろう。
     少年達との接触後からゾンビ襲撃まであまり時間がないため、迅速に動く必要があるといえる。
     ゾンビは廊下の奥から出現し、三浦少年を狙おうとする。その数は全部で5体。
     彼らは手にしたチェーンソー剣で攻撃をしてくるが、その中で1体だけ雷を操ることができる大柄なゾンビがいる。このゾンビは他の4体に比べて能力が高く体力もあるので気を付けてほしい。
    「ゾンビ、一度に全部出てくるわけじゃ、ないから」
     最初に出てくるゾンビは2体。その2分後にさらに2体、さらに1分経過すると大柄なゾンビが出現する。
     この出現の時間差をどう利用するかで戦闘の難易度が変わるだろう。
     また、このゾンビ達はターゲットを定めると集中的に攻撃するらしいのでこの点も注意が必要だ。
     説明を終えると來未は顔をあげて灼滅者達を静かに見つめる。
    「たかがゾンビ、だけど、油断しないで」
     ――気を付けて。
     声は聞こえなかったが來未の口の動きから、そう言っていたような気がした。


    参加者
    朝山・千巻(啼かない自鳴琴・d00396)
    椿森・郁(カメリア・d00466)
    天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)
    織部・京(紡ぐ者・d02233)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    辛・来彌(ソウルボードサーファー・d06001)
    戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)
    ヴェリテージュ・グランシェ(混沌たる白の花・d12844)

    ■リプレイ


    「敵影確認。皆、配置につけ!」
     最初にゾンビに気がついた御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)の声が静かな廊下に響く。仲間達へ警告を促すと同時に仲間を護るように自らも前に出る。
    「なの、準備して!」
     辛・来彌(ソウルボードサーファー・d06001)の言葉に反応し、ナノナノのなのがカードから飛び出した。来彌は長い黒髪をさらりと揺らし後ろを振り返って教室の扉をじっと見つめる。
    「ゾンビに狙われる人と狙われない人、何が違うんでしょう?」
     ちょこんと小首を傾げ、来彌は独りごちた。無意識のうちに言葉が口に出ていたらしい。
     そんな来彌の言葉に反応をしたのはヴェリテージュ・グランシェ(混沌たる白の花・d12844)だった。
    「ゾンビの狙いが何であれ……それを防ぐのが私達のすべき事」
     邪魔にならぬ位置に置いた懐中電灯が照らし出す2体のゾンビを見つめ、静かに言葉を紡ぐ。
    「被害は出さないに越した事は無いよね、救える命は救いたいもの」
     そうですねぇ、と飄々とした様子で天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)は頷き、すっと前に出た。
    (「しかし、まぁ、なんともアンデッド依頼に縁がありますねぇ」)
     過去に遭遇したアンデッド達が頭をよぎる。皐は左手に握った槍を構え直し、槍頭をぴたりとゾンビ達に向けた。
    「なんにせよ、一般人の犠牲が出る前に狩り取るまでですね」
     狩り取られる運命とも知らず、ゾンビ達はまっすぐに進み、灼滅者達の距離を縮める。
    (「夜に学校へ忍び込むのは本当はだめだと思うけど……」)
     織部・京(紡ぐ者・d02233)の心は揺れる。だが、彼らの大切な学校の思い出のためだから。
    「行こう、けいちゃん」
     それまで静かに佇んでいた黒い影――『Atropos』がゆらりと動き、その姿を変えた。


     ――それは、灼滅者達がゾンビと遭遇する数分前の出来事。
     夜の廃校は天然のお化け屋敷のようだった。5年分の埃が至るところに積み上げられ、廊下の隅にはいくつもの蜘蛛の巣が見える。
    「夜の廃校とか、マジで出そうな雰囲気ぃ。……ま、実際出るんだケド」
     ゾンビ達が、と続けるのは朝山・千巻(啼かない自鳴琴・d00396)。千巻の隣では来彌が恐る恐るゆっくりと歩いていた。
     灼滅者達は階段を上がり、二階へと進む。
    「思い出の学校の最後かぁ。きっと色んなこと思い出しながら、しんみり浸りたいよねぇ」
     階段の手すりをそっと撫で、千巻は呟きを漏らす。そんなせっかくの時間にお邪魔しちゃって悪いとは思うが、それは大好きな場所を大好きなままで終わらせるため。
    「で、3人はどこにいるんだろうね?」
     椿森・郁(カメリア・d00466)が耳を澄まして辺りの様子を伺う。郁の動きに合わせて腰のランプも揺れる。2階に上がれば、少年達の話し声がするからわかると言われていたが。
    「……あっちだ」
     少年達の声を聞きつけた戒道・蔵乃祐(ソロモンの影・d06549)が突然走り出す。仲間達も慌てて彼の後を追う。
     そして。一足先に3人の少年のもとへ辿り着いた蔵乃祐は――。
    「おお、誰かと思ったら君らか! 久し振りだなあ!! 元気にしてたかー?」
     何事もなく親しげに話しかけた。
    「え? あ、あぁ……久し振りだな!」
     戸惑いながらも蔵乃祐に愛想良く片手をあげて挨拶する少年達。
     そのまま蔵乃祐は怒濤の勢いで話しかける。
    「いや外からちょうど君らの明かりが見えてねえ。ただ、僕らが校舎に入る直前くらいに警備会社の車がこっちに来るのが見えたんだよね。このままだと鉢合わせするかも? だから、そこの教室に入って明かりを消してやり過ごさない? バレるとヤバイし」
    「おい、鹿野! オマエが懐中電灯を振り回したりするから外に明かりが漏れたんだ!」
    「うるせー、三浦だってはしゃいでたくせに!」
    「二人とも落ち着け。まず、ここまでの行動を冷静に分析してみよう」
    「あ、あの……早くしないと来ちゃいますよ」
     いつまでも口論を続けていそうな3人を見て本気で慌てた京が思わず口を挟む。
     だが、そのおかげで少年達は自分達の置かれた状況を思い出したようで大人しくなった。
    「早く教室の中へ入って。そうしたら見つからないように身を屈めてね」
     わかった、と3人の少年達は大人しく郁の指示に従い教室へ移動し始めた。
    「……少しうるさいが、気にせず眠っていてくれ」
     すれ違い様、ぽつりと力生が呟いた。愛用のガトリングガン『メギド』を肩に担いだ力生は少年達に視線を向けることはない。その視線はまだ現れぬ敵に向けられている。
     だが、少年達が力生の言葉に疑問を抱く間もなく静かな風がさぁっと吹き抜けていく。
    「…………ぐぅ」
     郁の魂鎮めの風で眠り込んだ3人が倒れぬように千巻と京と一緒に支えた。その間に蔵乃祐は素早く窓が施錠されていることを確認する。
    「悪いね、ちょっとだけ休んでて」
     教室の中に3人の少年だけを残し、郁はそっとその扉を閉めた。


     灼滅者達は作戦に従って冷静にゾンビへ攻撃を集中させる。
     皐の左手に握られた槍が螺旋を描くように捻り出された。左手だけで軽々と槍を操り、前衛のゾンビを穿つ。その攻撃の衝撃に耐えられずゾンビが壁に叩き付けられ、あえなくゾンビはただの屍へと還る。
     力生がガトリングガンを勢いよく連射し、ゾンビへと弾の雨が降り注ぐ。手入れをされたガトリングガン連射の猛攻に耐えたゾンビを来彌の影業がぱっくりと飲み込んだ。
    「もう此処は暗いから……眠る時間だよ? 死者だって……ね」
    『ウ、アァァ……』
     ヴェリテージュの放った裁きの光条が静かにゾンビを包み込む。退魔の光によってゾンビの身は浄化され塵となる。
     やったねぇと千巻の明るい声とともに前衛に立つ力生に護符が飛ぶ。護りの願いを込めた札は力生を護る盾へと変わった。
     だが、光源が照らし出したのは新たに出現した2体のゾンビ達。
    「ほんっと、空気読めないよね! ゾンビって!」
     ぷぅっと頬を膨らませ、悪態をつく千巻の前で来彌はびくりと大きく肩を震わせた。
    「きゃっ! 痛いです……」
     ゾンビの不意打ちに驚き、思わず小さく悲鳴をあげる。
     夜の廃校は正直なところちょっと怖い。けれども他の皆がいるから大丈夫。
     そう自分に言い聞かせ、来彌はキッとゾンビを睨み付けると漆黒の弾丸を撃ち出した。暗い想念に蝕まれたゾンビをなののしゃぼん玉がふわふわと包み込んだ。
    「つーか、こいつらどっから湧いたんだろうね?」
     そういえば、と蔵乃祐が呟いた。
    「三浦くん狙いみたいだけど……」
     ちらりと振り返るように教室の扉へ視線を向ける。
     暗闇の中どこからゾンビが現れたのか謎だが今は目の前の敵を倒すことが先。
     近づいてくるゾンビを蔵乃祐の縛霊手で殴りつけると同時、網状の霊力でその身を縛り付ける。
     しかし最初の2体のようには簡単には今度のゾンビは倒れない。全力で攻撃をしているが、まだ半分近く体力が残っているようだ。
    「来たよ」
     郁の視線が捕えたものを仲間達も確認し、灼滅者達に緊張が走る。先ほどゾンビ達が現れたさらに置くから一回り大きなボスゾンビが迷うことなくまっすぐに教室の扉へとやってくるのが見えた。
    『……ァ、ウァ……』
     灼滅者達に興味を示さず、ただ教室の扉を目指すソンビの前に立ちふさがったのは来彌だった。
    「ここは通しません!」
     ばっと両手を広げ、ゾンビの進路を妨害する。
    『ウガァァァ!』
     邪魔をするなとばかりにボスゾンビが大きく右手を振り上げた。
    (「――来る!」)
     衝撃を覚悟した来彌は思わずぎゅっと目をつむる。激しい雷鳴が響き渡り、まぶたの裏側に閃光が映った。
     だが、想像していたような痛みは全くない。
     こわごわ目を開けると、目の前には見えたのは郁の背。
    「……ふぅ、今のはちょっと大きかったな」
     庇うように顔の前で交差した手を下ろし、郁が大きく息を吐く。
     とっさに影業とWOKシールドを盾にしたおかげで多少は攻撃を緩和させることができたが、ダメージは大きい。
     郁の目がきらりと赤く煌めいたと同時、エネルギー障壁を展開して自身の護りを固めつつ、その傷を癒す。
    「次から次へと……あたしの影が死体ごときに負けられっかよ!」
     ちっ、と舌打ちを一つして京が拳にオーラを収束させる。狙うのは、ボスゾンビ――ではなく、先ほど倒せなかった前衛のゾンビ。
    「わたし、そう簡単に倒れるわけにはいかないんです!」
     素早い動きでゾンビを翻弄し、息つく暇もなく連打を浴びせる。
     京の攻撃にゾンビが怯んだところをすかさず集中攻撃。
     灼滅者達の猛攻に配下のゾンビごときが耐えられることもなく。
     雷に変換した闘気を拳に宿した皐の強烈なアッパーカットにより、ゾンビは完全に動かなくなった。

     配下のゾンビに比べ、やはりボスは強かった。灼滅者達も休むことなく攻撃を続けているのだが、ボスゾンビの動きは全く変わらない。
    「さぁ……その身に受けてごらん……?」
     ヴェリテージュはボスゾンビに向かってジャッジメントレイを撃つ。しかし、敵はひらりとその攻撃をかわす。
     ――同じ攻撃を繰り返していたせいで見切られたか。冷静にヴェリテージュは敵の動きを観察し次の手を考える。
     配下ゾンビのチェーンソー剣が蔵乃祐に向けられていることに気付くや否や、力生が素早くその間に割って入った。
     ギュイィィィン……!
     耳を塞ぎたくなるようなチェーンソー剣のモーター音が間髪入れずに力生に襲いかかった。その不快な金属音に耐えきれず力生は苦しそうに顔を歪める。
    「なの、お願い!」
     来彌がなのに力生の傷を癒すように指示をする。なのが飛ばしたふわふわハートが力生の体力を回復するが彼の傷は深く、その全てを癒すことはできない。
    「手伝うよ、少しくらいは足しになるかな」
     ヴェリテージュも癒しの力を込めた矢を力生に向かって放つ。矢の軌跡は流星の如き煌めきを残しながら弧を描き力生に命中した。
    「頑丈さには、自信がある」
     仲間を信じたことに間違いがなかったことに確信を覚え、シャウトで自らを鼓舞し自身の傷を癒す。
     力生の傷を癒している間も灼滅者達の攻撃は止まらない。
     京が螺穿槍で穿ち、郁はシールドバッシュで渾身の力を込めてボスゾンビを殴りつける。
    「本当はノーライフキングと戦ってみたいんだけどなあ……」
     思わず本音を漏らした蔵乃祐の指輪から魔法弾が放たれる。命中した弾は敵の体にまとわりつき、その動きに制約を加えた。
     前衛で戦い、傷つく仲間達の傷を癒す千巻の天上の歌声が静かに廊下に響き渡る。その心地よい歌声によって傷が塞がり、身体の疲労が抜けていくのを感じる。
     ふと千巻はボスゾンビの動きが先ほどまでと変わりつつあることに気がついた。先程までのような機敏な動きが見えないのだ。
    「今が攻撃のチャンスだよぉ」
     千巻の声に最初に動いたのは皐だった。
     素早い動きで敵の懐に飛び込むと強烈な連打をお見舞いする。
     間髪入れずにヴェリテージュがジャッジメントレイをボスゾンビに向かって放つ。裁きの光がボスゾンビを照らすと今度は避けられることなく命中した。
     そして、力生の撃ったセイクリッドクロスがボスゾンビに襲いかかる。
    「そのチェーンソー、手入れしたほうがいいぞ」
     力生の警告通り、チェーンソー剣のモーター音は先ほどに比べて小さくなっている。
     怒りに我を忘れたボスゾンビがチェーンソー剣を捨てて雷を宿した拳で目の前の郁を殴りつけるがその威力は先程よりも弱くなったように見える。
     ボスゾンビに殴られた郁の目が妖しく赤く煌めき、足下から黒い影が伸びた。蔦のような形状へと姿を変えた影はボスゾンビを絡め取るようにその腕を伸ばす。影に捕われたボスゾンビはその腕から逃げようと必死にもがいている。
    「みんなと遊んだり、先生に怒られたり、色々あっただろうけど……」
     京はちらりと教室へ視線を向ける。今は眠っているであろう3人の少年達もこの校舎で過ごしたいろいろな思い出があったのだと思う。どんな思い出があるのか、それはこの学舎で過ごした人にしかわからないが、一つだけ京には断言できることがある。それは。
    「ゾンビの思い出なんてねーだろよ!」
     京がゾンビ達に向かって吼えると爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を連射する。大量の弾丸は炎の雨となってボスゾンビに降り注いだ。
    「――これで終わりです」
     いつの間にか皐は槍を納刀し、両手で無敵斬艦刀を握っていた。そしてフラフラと頼りない足取りのボスゾンビに容赦のない超弩級の一撃を繰り出した。
    『……ォォ……ォッ』
     声にならない悲鳴をあげ、ボスゾンビの身はさらさらとした砂と化した。
     これで残るはスナイパーに位置する配下ゾンビ1体だけ。配下ゾンビは灼滅者達の集中攻撃の的となったが、最後のあがきなのか力生へとチェーンソー剣の刃を向ける。
     チェーンソー剣で抉られた傷から吹き出した血は燃えさかる炎へとその姿を変えた。力生は真っ赤に燃える炎を配下ゾンビに向かって叩き付ける。
    「浄化の炎だ。屍王の眷属は焼き尽くす」
     言葉通りゾンビの身体は炎に包まれ――燃え尽きた後には何も残らなかった。


    「廃校とは物悲しくはありますが、これも時代の流れなんでしょうかねぇ」
     軋む扉に手をかけ小さな声で皐が呟きを漏らす。
     教室の扉を開けると3人の少年達は幸せそうな顔ですやすやと眠っていた。
     3人の無事を確認し、ヴェリテージュはほっと安堵の表情を浮かべる。
    「眠いか?」
     戦闘も終わり、少年達を守り切り急に緊張の糸が切れたのか、眠そうに目をこする来彌に気づいた力生が声をかけると、来彌は小さく頷いた。
     少年達を起こすため蔵乃祐が懐中電灯で照らし声をかけると少年達はすぐに目を覚ます。
    「うわっ!? ……あれ、オレ達寝てたの?」
     飛び起きた三浦少年を見て、思わず京は苦笑を浮かべた。
    「夜も遅いですけど、学校は寝るところじゃないですよ?」
    「あ、警備員さんは?」
    「ごめん、警備員だと思ったら迎えに来てくれた友達だったみたい」
     郁の言葉に馬場少年はなーんだと安心した表情を見せ、鹿野少年は早く目的を果たさんと立ち上がり教室を出る。
    「早っ! ちょ、待てよ!」
    「おせーな三浦、早く来いよ!」
     二人の友人達の後を追い、教室を出ようとする三浦少年に向かって千巻が声をかけた。
    「思い出の校舎探検が終わったら、まっすぐおうちに帰るんだよぉ」
     千巻の言葉に三浦少年は大きく頷き、手を振って応える。
    「こらぁぁぁ! オレを置いていくなぁぁぁーっ!」
     廊下に響く楽しげな笑い声と賑やかな足音。
     少年達が懐かしい学舎で過ごす時間は、まだ終わらない。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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