めろりん☆メロンの特別ファン感謝祭!

    作者:江戸川壱号

     露出度の高いヒラヒラした衣装を着た少女が、複数の男達に囲まれていた。
     だが不穏な気配は欠片もなく、少女は楽しげで周囲の男達は期待と昂奮が入り交じった様子である。
    「今日はぁ、ホワイトデーだよねぇ~? メロンちゃんねぇ、お菓子だぁい好きなんだぁ。今日はぁ、男の子が女の子にお菓子くれる日だしぃ。みんなのラブ、メロンちゃんにくれる?」
     少女は舌っ足らずな甘い声で言うと、あざといまでの上目遣いで男達を見つめる。
     我先にと鞄やポケットからラッピングされた菓子の小箱を取り出しメロンに差し出した彼らは、実はソロモンの悪魔の配下だ。
     ホワイトデーにお返しのフリでお菓子をばらまくことでカップルを不仲に陥れようという悪事を企んでいた彼らも、淫魔の魅力の前には形無しのようである。
    「ありがとぉ~っ。みんな、だぁ~いすき☆」
     お菓子をしっかり紙袋に詰めたメロンは、きゃるん、という効果音でも飛びそうな様子でリーダー格の男に抱きついた。
    「ねーぇ、カズ君達はぁ、メロンの邪魔しないよね? こわぁい人にメロンが狙われたら、守ってくれる?」
     心細そうな声で囁いて首元に頬を埋めれば、カズ君をはじめとした周囲の男達までが熱心に何度も頷いて見せる。
    「勿論だぜ!」
    「メロンちゃんは、俺達が全力で守る!」
    「ああ、メロンちゃんばんざい!」
    「だから、あの、メロンちゃん……」
     男の物言いたげな様子に気付いたメロンは、体を離すと悪戯っぽい笑みを浮かべてウィンクする。
    「わかってるよぉ。みんなをめろめろにする、めろりん☆メロンの特別ファンサービス……たぁ~っぷり、楽しんでいってね☆」

    「恋のデザートいかがですか? みんなをめろめろにする恋の一撃必殺めろりんシュート、めろりん☆メロン。恋するハートに導かれ、めろりんキュートにただいま参上!」
     黒板に貼ってあるチラシに書かれた文言を淡々と棒読みで読み上げるのは白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)。反バレンタイン十三使徒を倒した灼滅者の一人である。
     ミステリアスな雰囲気のクール系美女が口にすると、なんとも奇妙なギャップがあり一部の人間には絶大な昂奮を呼びそうであるが、それはそれとして雪姫は真面目な顔で教室に集った仲間達を振り返った。
    「私の予想があたったみたいなの……」
     バレンタインにチョコレートを奪う使徒が現れるのなら、ホワイトデーにお菓子を用意した男子を誘惑する淫魔が現れてもおかしくない。
     そう考えた雪姫が進言していた内容は的中した。
     ちなみに雪姫が読み上げたのは、その淫魔のアイドルとしての紹介口上らしい。
     なんだか色々間違った魔法少女かご当地怪人のようだ。
    「でも、まりんが言うには、この淫魔が誘惑するのは、ただの一般人じゃないみたい……」
     ここのところ、いままでエクスブレインの未来予測に引っ掛からなかったダークネスの動きを予知できる件が散見されている。
     それは淫魔が他のダークネスに接触した為に起きた事象のようだ。
     共通するのは他種族のダークネスやその配下に対して接触し、淫魔らしい方法でもって『営業』を行い、自分達の邪魔をしないように約束させるというもの。
    「今回のも、そのケースみたい。淫魔が訪ねるのはソロモンの悪魔の配下である強化一般人と、その取り巻きだよ。けっこうな強さだけど、淫魔と分かれた後の彼らは諸事情で疲れてるし油断しまくっているから、その隙にこっちを叩いて欲しいんだ」
     雪姫の後に説明を引き継いだ須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が告げる。
     場所は、とある廃ビルの地下一階。
     かつて小さなライブハウスがあったらしいこの場所を、ソロモンの悪魔の配下は根城にしているらしい。
     バベルの鎖に察知されず接触する為には、淫魔が元ライブハウスを去った直後に襲撃をかければいい。
     このタイミングならば、淫魔が戻ってきたと思うせいか普通に扉を開けて入れるという。
    「淫魔が去るところを目撃するかもしれないけど、手出しは厳禁だよ。淫魔を狙うとソロモンの悪魔の配下達が出てきて、守ろうとするんだ。同時に相手どるのは自殺行為だと思ってね」
     今回の目的はあくまでもソロモンの悪魔の配下達を倒すことだと、まりんは灼滅者達に念押しした。
    「人数は六人。リーダー格は『カズ君』って呼ばれてるよ。能力はこの通りだね」
     まりんが次々と黒板に文字を書き込んでいく。
     カズ君。リーダー格、キャスター。魔法使いとマテリアルロッドのサイキックを使用。
     キヨ君。クラッシャー。バトルオーラのサイキックを使用。
     クロ君。ディフェンダー。WOKシールドのサイキックを使用。
     ケイ君。ディフェンダー。WOKシールドのサイキックを使用。
     コウ君。ジャマー。鋼糸のサイキックを使用。
     サキ君。メディック。護符揃えのサイキックを使用。
    「淫魔に手を出しさえしなければ、相手は油断もしてるし、倒すのはそう難しくないと思う。皆ならできるって信じてるから、頑張ってきてね! 徹底的に!」
     一体予知でどんな情報を見てしまったのか。
     まりんはだいぶ力の入った激励でもって、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)
    黒咬・昴(叢雲・d02294)
    鈴鹿・幽魅(百合籠の君・d04365)
    白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    御門・心(アルデバラン・d13160)

    ■リプレイ

    ●踊り子さんには触れないでください
    「めろりん、めろめろ、めろめろきぃ~っく♪」
     一人の少女が紙袋を手に機嫌よく歌いながら、元ライブハウスへ通じる階段から踊るような足取りで上がってくる。
     彼女がメロンなのだろう。黄緑色を基調にした装飾過多で露出度高めな衣装を押し上げる胸は、メロンそのものとはいかないが、名乗るのも納得の豊かさだ。
    「あれが、淫魔なのか……。アイドルって言うかなんて言うか」
     淫魔の衣装から溢れんばかりの胸を見て、白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が顔を真っ赤にして目を逸らす。お年頃の少年には、淫魔の姿や営業方法は少々刺激的だったようだ。
    「こういう日に付け込んでくるのもダークネスよね」
     折角なのだから遠慮無くその企みを潰してあげると、神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)はツインテールにした髪の一房を片手で払う。
    「化物風情がいっぱしに人間のサブカルチャーの真似事とは……。一体何の冗談だろうな」
     当人達は楽しそうで何よりだが、と整った顔に呆れを浮かべるヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)の横で、御門・心(アルデバラン・d13160)のように歓迎している者もいた。
     心が淫魔アイドルの予習と称して携帯音楽プレーヤーで聞いているのは、ラブリンスターのサードシングル『ドキドキ☆ハートLOVE』。
    「ラブリンスターだったら……サインもらいに声をかけちゃうところでした……」
     その実はラブリンスター推しなだけかもしれない心だが、黒咬・昴(叢雲・d02294)の何気ない呟きには反応してしまう。
    「アイドル淫魔の営業ねぇ……? 疲れるほどのものって何かしら」
     昴が考えていたのは「土下座懇願?」程度のものだったのだが、「あわわわわ」と頬を朱に染めて顔を覆ってしまったあたり、心はなかなかに耳年増なようだ。
     だがそうしたやりとりも、鈴鹿・幽魅(百合籠の君・d04365)の言葉が聞こえるまでのこと。
    「……行ったようですわ」
     幽魅は用意しておいた双眼鏡で、淫魔が完全に去るのを確認していたのである。
     全員の表情が引きしまり、動揺していたジュンも封印解除し着慣れた『マジピュアコスチューム・白』を纏えば、そこに居るの魔法少女少年を名乗る一人の灼滅者だ。
    「では、行きましょう!」
     頷き合い、灼滅者達はライブハウスへと続く階段を降りていった。

    ●灼滅者達の特別サービス
    「メロンちゃん? なんだい忘れ物~? それとも俺達が忘れられなかったりして!」
     ジュンがドアをノックして暫く待つと、聞こえてきたのは暢気な男の声。
     誰だか知らないが、声だけで鼻の下を伸ばしていると容易に想像できる。
     男がドアノブを開ける音がするかしないかの瞬間――昴はドカァンと大きな音をたてて扉を蹴破った。
     何故なら、その方がかっこいいからである!
    「突撃! 隣のライブハウス、ってね!!」
     扉を開けに来ていた男が吹き飛ばされるのも構わず、灼滅者達は元ライブハウスに雪崩れ込む。
    「な、なんだ!?」
    「メロンちゃんじゃない……?」
    「あ、でもメロンちゃんの仲間?」
     ステージに引かれたマットの上やその周辺でゴロゴロしていた男達が驚くが、その動きは淫魔営業を受けた結果として緩慢なものでしかない。
     そしてメロンの仲間と一瞬でも思ってしまったのは、何も彼らの色惚けのせいだけではなかった。
    「皆さーん! メロンちゃんに引き続き、今度はユミちゃんが特別ファンサービスに来ましたわよー」
     まずはメロンよりも過激に大胆な衣装というか全裸に近い幽魅が、その肉体を誇示するように前に出たこと。
    「こんにちは。ね、今度はゆきと遊ぼ?」
     そして幽魅とは正反対の正統派アイドルといった様子の神崎・結月(天使と悪魔の無邪気なアイドル・d00535)が上目遣いに男達にねだってみせたこと。
     更には一見ミステリアスな美女である白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)が、無表情にこんな名乗りを上げたせいでもある。
    「恋のお伽話はいかがですか? みんなを幸せにするホワイトプリンセス、ゆきりん☆雪姫。幸せ求める声に導かれ、クールビューティーにただいま参上……」
     そんな華やかな格好の仲間達の傍らでヴァイスは淡々と胸元にトランプのマークを浮かべ闇の力を引き出していくが、心の内は見た目ほど冷淡ではなかった。
    「しかし、あれだな……最近巷ではああいうのが流行っているのか?」
     ほぼ全裸に近い幽魅は別としても、結月や雪姫、男であるジュンまでも魔法少女衣装を纏っているのだから、ヴァイスがそんな風に思ってしまうのも無理はない。
    (「確かにアイドルの服装のデザインはちょっと可愛くも……い、いや、なんでもない」)
     常に冷静沈着に戦闘をこなす戦乙女といえども、年頃の少女。たまには可愛い衣装に心を惹かれるということもあるのだろう。
     そんな当たり前の心の動きも振り払い、瞬時に思考や意識をクールダウンできるのもヴァイスらしいが。
     そう、既に戦いは始まっている。
     男達は勝手にメロンの仲間が更なるサービスに来てくれたと喜び盛り上がっているが、灼滅者達の特別サービスは甘くはなく、淫魔とは別の意味で刺激的だ。
     まずは幽魅達に気を取られている隙に舞台へ接近した昴のガトリングガン『反逆皇女』が、炎の魔力を帯びた弾丸を大量にばら撒く。
     続く攻撃は二人と一台の攻撃がひとつになったもの。
     ジュンの妖冷弾と明日等のバスタービームがサキに吸い込まれるのに合わせ、明日等のライドキャリバーが突撃を決め引き倒した。
     結月もかわいいだけのアイドルではない。
     身長こそ低いが体付きは小学五年生とは思えないものであるし、ウィンクを振りまく一方でちゃっかり影縛りを繰り出すあたり、灼滅者としては立派に一人前である。
    「もうメロンちゃんに天国を見せてもらったようですから、わたくしは地獄を見せて差し上げますわ」
     幽魅もまたニコニコと微笑んだまま霊刀『千華繚乱』を引き抜き、攻撃に転じた。
     情熱的な舞と共に繰り出される刃は、その名の如く血の千華を咲かせるかのよう。
     淫魔の営業で疲れていた上に、それぞれに魅力的で魅惑的な少女達をメロンの仲間だと勘違いしたこともあり、灼滅者達が第一の標的と定めていたサキは雪姫の攻撃を待たずして倒れた。
    「ゆきりんぱ~んち……」
     サキが倒れても次の標的は決まっている。
     雪姫は一瞬の躊躇いもなく、その顔と声に不似合いな掛け声と共に巨大化させた影でコウを叩き伏せ、ひとつ息をついた。
    「いい仕事した……」

    ●特別サービス本番です
     客席ホールを戦場とした戦闘は、初手でサキを落としコウも程よく削った灼滅者達の優位に進んでいた。
     メインの回復役を欠き、行動阻害の担当も早々に沈んだソロモンの悪魔の配下達は、常に後手に回らざるを得なかったからである。
     クロとケイが攻撃を防ごうとするも、防御役二人に対して攻撃する灼滅者側は標的を統一している上、六人と一台と一匹いるのだ。庇いきれるものではない。
     結果、クロとケイの二人は攻撃を防いだ分の己の傷を治すのに精一杯で攻撃に回ることが殆どできないでいる。
     回復役を真っ先に潰した効果は、中盤に入って大きく増していた。
    「お前ら、メロンちゃんの仲間じゃないな!?」
    「誰だ!」
     今更のように叫ぶクロとケイに反応するのは明日等と昴。
    「メロンちゃん、メロンちゃんって馬っ鹿じゃないの!」
     吐き捨てるように言ったつもりでもツンデレ風味に聞こえてしまう明日等は、立ち塞がるクロを捌いて躱し、両手に宿したオーラをキヨへ向けて放つ。
    「お前たちに名乗る名はない! 成敗!!」
     いい笑顔で問いを両断した昴が目指すのもキヨ一人。ケイの脇を擦り抜け、炎を纏ったガトリングガンを横から叩き付けた。
     衝撃によろけるキヨだが、正気に返った彼らはただの色惚け男ではない。
     カズがサイキックの雷を放ったその隙に態勢を立て直し、大きく吠えて向かってくる。
     標的は攻撃が届く中で一番幼そうに見えた結月。
     オーラを纏った拳がバイオレンスギターを奏でる小柄な体を抉った――かのように見えた。
    「ピュア・ホワイトが居る限り、仲間は傷つけさせません!」
     魔法少女風衣装のジュンが結月の前に割り込み、拳を受け止める。
     痛みに顔を歪めながらも、毅然と言い放てば気魄に押されたかキヨが怯んだ。……もしかしたら魔法少女に萌えただけかもしれないが。
     どちらにせよ、その隙を見逃す灼滅者達ではない。
    「ね、どこ見てるの? よそ見はいやいや」
     甘くとろける声と共に、余所見を咎めるようにギターが激しくかき鳴らされる。
     音波に苦しんでいるところを冷静に狙い撃つのはヴァイスだ。
     彼女から放たれる影は赤い逆十字を生み、キヨの精神を傷つけていく。
     攻撃に重きを置くヴァイスの一撃は、敵の中でも高いダメージソースを担っていたキヨを遂に沈めた。
    「く……っ」
     焦りを露わにした残る三人が逃げ場を探るが、明日等の指示を受けたライドキャリバーがそうはさせじと回り込む。
    「諦めなさい。頭文字が『カキクケコ』等という取ってつけたような名前の時点で雑魚キャラ臭がしますわ。あなた達に勝ち目はありませんわね」
     妖艶に微笑む幽魅の『千華繚乱』から放たれた影が、クロを飲み込んだ。
     その間に結月のナノナノ・ソレイユと心のサイキックが傷を負ったジュンを癒していく。
    「18歳以上なら当然罪の軽減は無しよね」
     バスターライフルを構え、狙いをつけたまま明日等も不敵に微笑んでみせた。

    ●特別サービス・フィニッシュ
     クロとケイが倒れれば、残るはカズ一人。
     他の者より能力が高く、遠近や単列が自在な攻撃を操るカズは確かに強敵だったが、ここまで優位に戦闘を進めてきた灼滅者達にとっては、充分に対処できる範囲だった。
     早期に手数の有利を得た灼滅者達は、既に態勢も整っている。
     ジャマーを早めに倒した上、雪姫の符で耐性を増した前衛は殆ど状態異常にかかることがなかったし、万一かかっても心の放つ清らかな風がそれを祓った。
     逆に敵側は結月の甘く可憐な演奏や声音に惑わされ、ライドキャリバーの動きに更に翻弄され、一度は己で己を攻撃する始末。
     攻撃を見切られるようになってしまった心が回復に専念したことや、ソレイユが回復中心に動いていたこと、それぞれに回復手段を用意していたこともあって、重い一撃がきても複数を巻き込む攻撃がきても、次の攻撃がくる前に治せる傷は治っている、という状態だった。
    「くそっ、折角俺達にも運が向いてきたと思ったのに! やっぱりホワイトデーなんて爆発すればいいんだ!」
     周囲を凍りつかせるサイキックを放ちながら叫ぶカズに、ヴァイスは呆れを浮かべ昴は口の端をニンマリと吊り上げる。
     そういえば彼らは、ホワイトデーを利用し女の子にお菓子をばら撒いてカップルを陥れようとしていたらしい。
    「そんな貴方たちに、おねーさんからチョコレートを上げるわ!」
     随分と可愛らしい企みだと思いながら、昴はポケットに潜ませていたチョコレートをポイっとカズに向けて投げてやった。
    「え!?」
     カップル滅べ何が菓子だチョコだ飴だクッキーだと悪態ついていたカズは、綺麗なお姉さんからのプレゼントについ反射的に手を伸ばしてしまう。
    「あ、ついでにこれもね!」
     そしてカズがチョコを手にした瞬間を見計らい、容赦なくガトリングガンで打ち落としたのだった。
     まさに外道。
    「あ、あの……い、いいんでしょうか……?」
     おどおどしながら皆を癒していく心に、いいのいいのと昴は気楽に答える。
     ヴァイスも鋭い影でカズを切り裂きながら相応の報いだろうと冷静に答え、幽魅はあらあらと笑いつつ居合斬りで追い打ちをかけた。
    「……うぅ、もう綺麗な女の子なんて信じない……信じないんだからなぁ!」
     滅多打ちにされたカズは、もはや涙目である。
     だが、彼が倒れない限り灼滅者達の特別サービスは終わらない。
     特に昴が投げたチョコでカズ達の企みを思い出した雪姫は、まだ終わらせるつもりはないようだ。
     そう、お菓子である。
     エクスブレインは確か、メロンがカズ達からお菓子を貰ったと言っていた。
     クールで神秘的な外見に似合わず、大の甘党でお菓子大好きな雪姫はその部分を聞き逃さなかった。
     若干黒い笑みを浮かべ、嘆くカズに接近していく。
     襲い来るサイキックを紙一重で躱し、雪姫は巨大化させた腕でカズを掴みあげた。
    「ひィイッ!」
    「最後に一つだけ聞きたい事あるの……」
     喉から引き絞るような悲鳴を上げるカズを見上げ、表情を変えぬままポツリと問う。
    「お菓子……持ってない……?」
     カズが魂の抜けたような顔で指し示した先を確認すると、雪姫は容赦なくカズを床へ叩き付け、殴り飛ばした。
    「綺麗な女の子……怖い……」
     それがカズの最後の言葉であったという。

    ●教えて?
     カズを抜かした五人は、灼滅者達により応急手当を受け、暫く後に目を覚ました。
    「教えてほしいな。あの子に何を頼まれたの?」
     可愛らしく問う結月と、淡々と吐くよう詰め寄るヴァイスにより、男達はあっさりと吐いたが、役立ちそうな情報はなかった。
     エクスブレインが見た内容以上の具体的な『お願い』はなかったようである。
     メロンの次の来訪予定も特に決まっておらず、気が向いたら訪ねてきてくれる程度のものだったようだ。バベルの鎖がある限り、ここを張っている意味もない。
    「ざ、残念です……」
     しょぼんと肩を落としてから、心は魂鎮めの風を吹かせて男達を再び眠りへと誘う。
     次に目が覚めた時には、もう少し傷が癒えていることだろう。
     眠りに落ちた彼らを見遣り、呟きを落とすのはジュンだ。
    「よかった、あなた達だけでも助けることが出来て……」
     今後はまともに生きてくれればいいのだが。
     ともあれ、もうここに用はない。
    「……何やってるの?」
     淫魔が戻ってこないか警戒していた明日等が引き上げの合図を受けて振り返ってみると、そこには両手に紙袋を抱えた雪姫の姿が。
    「お菓子、見つけた……」
     表情の薄い顔に嬉しそうな気配を見つけて、明日等はコメントを飲み込んだのだった。
    「……帰ろうか」
    「うん」
     こうして灼滅者達は無事にソロモンの悪魔の配下を倒し、元ライブハウスを後にしたのである。

    作者:江戸川壱号 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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