ドキドキな営業

    作者:泰月

    ●深夜の営業活動
     そこは都内のとある体育館。
     夜も遅い時間。とっくに消灯している中に、2つの気配があった。
    「ふぅ……ゲルマンシャーク様の力で復活した上に、こんな良い思いが出来るとはのう」
     これはおっさんの声。
     なんか達成感というか妙に満ち足りた感じである。
    「もう……縄の跡だらけじゃない。マニアックね」
     続いて少女の声。そして小さく響いた衣擦れの音。
     おっさんと少女が夜の体育館で縄を使って何してたあんたら。
     これがどちらも一般人だったらおまわりさんこっちですなのだが、おっさんの頭は土偶だし、少女の背中には悪魔のような羽。
     はい、ご当地怪人と淫魔です。
    「それじゃ、私帰るね。お願い、よろしくね」
    「うむ。この辺りで何かあれば頼るがよい」
    「……ちゃんとお願い聞いてくれたら、また来るからね」
     衣服を整えた淫魔は仰向けに寝転がったまま満足げに頷いたご当地怪人の耳元(土偶だけど)で囁くと、体育館を後にする。
    「ぐふっ……ぐっふふっ……」
     淫魔が去った後の体育館に、ご当地怪人の不気味な笑い声が響くのだった。

    ●蘇っちゃった変態とアイドル淫魔
     教室に集まった灼滅者達が見たのは、俯いてただじっと机の一点を見つめている園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)の姿だった。
     普段から控えめな所のある槙奈だが、なんだか様子がおかしい。
    「え、えぇと……その。今まで予知にかからなかったダークネスの動きが、察知されました。ゲルマンシャークが復活させていた、ご当地怪人です」
     あぁ、ドイツ風に復活した奴らか。まだいたんだ。
    「その……察知出来た理由ですが……淫魔が、接触して……口に出せないような営業を」
     営業、と言った途端、槙奈の顔が一気に赤くなる。ゆでダコ状態。
     何人かはそれで察したようだけど、首を傾げる者もいる。いいんだよ、判らないなら判らないで。
     槙奈、ちょっと深呼吸。
    「すみません……淫魔が話すのは、邪魔をしないように仲良くしましょうといった内容みたいです。そして、ご当地怪人はそれを受けます」
     落ち着きを取り戻した槙奈は、顔を上げて話を続ける。
    「今回みなさんにお願いするのは、淫魔が去った後のご当地怪人です。……営業の直後なら色々な意味で隙だらけですから」
     さすが淫魔と言うべきか。ご当地怪人相手の営業は大成功なようである。
     もし淫魔を狙いに行くと、営業の成果でご当地怪人が淫魔を守りに現れる。
     淫魔とご当地怪人を同時に相手にするのはリスクが高いので、隙のある方を倒そうと言うわけだ。
    「ご当地怪人ですが……多摩縄文土器怪人ツヴァイボーデンです」
     かつて、強制的に体に縄の跡を付ける事で最終的に全世界に縄文土器の良さを体で判らせ世界征服とかのたまって灼滅された、怪人である。
     復活しても、縄文時代の人類を模した腰みの一枚の半裸マッチョな変態である。
     ゲルマーンシャークとやらは、何故コイツを復活させてしまったのだろうか。
    「攻撃方法は、以前とほとんど同じですが……複数人を纏めて縄で縛る攻撃が増えているのと、縄の攻撃は全て服を着てても跡がつくようになっています」
     なにその嫌な追加効果。
     どうやら淫魔とのことがなくても、放っておいたら拙い怪人のようである。
    「営業は今夜、とある体育館で行われます」
     夜の闇を利用し、体育館外の周辺に潜めば、淫魔をやり過ごすのはさほど難しくないだろう。
    「淫魔が去って3分経過してからなら、体育館の明かりをつけても大丈夫です」
     怪人が逃げる心配はないらしい。余韻とかそーいうのに浸ってるから。
    「私はみなさんを見送ることしかできませんが……営業相手を倒すことも、淫魔の企みを阻止する事に繋がる筈です。無理に淫魔を狙わず、ご当地怪人を確実に倒してきてください」
     そっと頭を下げ、槙奈は灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)
    天羽・蘭世(虹蘭の謳姫・d02277)
    天堂・鋼(シュガーナイトメア・d03424)
    皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)
    九十九・緒々子(回山倒海の未完少女・d06988)
    皆川・綾(闇に抗い始めた者・d07933)
    皇樹・零桜奈(呪われし漆黒の天使・d08424)
    ユキ・タティーラ(主の居ない騎士・d13771)

    ■リプレイ

    ●変態再び
     とある体育館の扉がガラガラと音を立てて開き、中から悪魔のような羽を背中に持つ少女――淫魔が出てくるのを、周囲に潜んだ8人の灼滅者達は見ていた。
     淫魔は灼滅者達が見ている事に気づかず、体育館から離れていく。立ち去ってゆく背中を確認して、皆川・綾(闇に抗い始めた者・d07933)は後ろの仲間に頷いた。
     それを合図に、風野・さゆみ(自称魔女っ娘・d00974)は視線を腕時計に落とした。3分間を計るためである。
     カップラーメンの準備ではない。3分はエクスブレインが示した、淫魔が戻ってくる心配がなくなるまでのタイミングだ。
     合図を送った綾自身も友人からの贈り物の懐中時計を取り出す。時計の針を合わせておいた天堂・鋼(シュガーナイトメア・d03424)も、時計に視線を向けていた。
     今か今かと待つと、3分は意外と長い。夜の闇と静寂の中、響くのは秒針が時を刻む小さな音と、淫魔が閉めなかった体育館の扉の奥から時々「ぐふっ」とか聞こえる不気味な野太い笑い声だけ。
     まだ突入してないのに漂う変態の予感。これはひどい。
     が、さっきまで中で何をしていたのか良く判っていないピュアなメンバーもいるのだ。
    (「体育館で何をしていたのでしょうか?」)
     ユキ・タティーラ(主の居ない騎士・d13771)の表情は目深に被った黒いフードに隠れて見えないが、彼の頭の中は割とハテナになっていた。
    (「しかし何をしてたんだろう。縄って聞いたけど、縄跳びの練習? あれって当たると痛いんだよね」)
     時計を見ている鋼も、何があったか良く判っていなかった。そうですよね、縄と言えば縄跳びですよね!
     一方、天羽・蘭世(虹蘭の謳姫・d02277)も首を傾げていた。ちょっと違う理由だけど。
    (「おにいちゃんが倒した変態さんが復活で、淫魔さんときゃっきゃうふふ、なのですか……」)
     そう彼女の兄はかつて縄文土器怪人を倒した一人である。
    (「リアル変態さんは、初めてお目にかかるのです」)
     兄妹で同じ変態と戦うとか、因果と言うか何と言うか。
     何事もなく3分が経過し、一人ずつ音を立てないように中へと入る8人。暗闇の中、体育館の中央に何かがいるのが見えた。さゆみが手探りで照明のスイッチを探す間に、他の仲間達は怪人を遠巻きに囲むように展開していく。
     パチンと照明のスイッチが押され、体育館に光が溢れる。
    「行くよ、ジョニー」
     鋼が腰につけたカエルのぬいぐるみに声をかける
    「虹蘭、天の羽とともに」
    「ソノ死ノ為ニ、対象ノ破壊ヲ是トスル」
    「さあ、狩りの時間だ!」
     続いて次々と封印解除していく灼滅者達。
    「むぉっ!? 眩しっ?」
     一方の怪人は眩しがって悶えていた。仰向けで寝っ転がっていたので、明るくなった天井の電灯を直視したのだろう。
    「変態がいる」
     鋼が一言で状況を的確に表しつつ切り捨てた。あの顔でゲルマン名も十分突っ込める部分だったが、それ以上に変態だったから。
    「このへんたいをしゃくめつ、しましょう。そうしましょう」
     大きく頷く九十九・緒々子(回山倒海の未完少女・d06988)の視線は、早くも絶対零度だ。
    「変な……怪人……さっさと……倒そう……」
    「変わったご当地怪人がいるのですね。気味が悪いのでさっさと倒しましょう」
     皇樹・零桜奈(呪われし漆黒の天使・d08424)と皇樹・桜夜(家族を守る死神・d06155)の師弟の向ける視線も、負けず劣らず冷たい。さっさと倒そうと言う点で、見事に一致した2人だった。
    「悪巧みはそこまでですよ~。神妙にお縄につきなさ~い」
     どこか間延びした口調でさゆみの声が響く。
    「魔力解放です~」
    「むぅ……お前ら、淫魔の仲間、ではないな?」
     段々状況を把握してきた怪人。囲まれているのを察し、逃げる素振りを見せず縄を構える。そこにかかるユキの声。
    「あの、此処で何をしていたんですか? もしよろしければ詳しく教えていただけませんか?」
    「ぬふ。口で言うより体に教えてやろう!」
     割とヤバい怪人の答えだったのだけど、ユキには判らなかったようで。
    「大人はずるいです」
     不服そうに呟くユキの手元から赤い光の刃が伸びた。

    ●そんな縄の使い方
    「アンタに聞きたいことがあるですッ!」
     ミカンデザインのガトリングガンから放たれる爆炎の弾丸。同時に、緒々子が声を張り上げる。
     灼滅者達は、勿論この変態に容赦する気などなかったが、緒々子の様に少しでも情報を得ようと考えている者もいる。
    「ツバイさん……一体なにをしていたのですか?」
     翼型のオーラを纏った蘭世も、純真な目でじーっと見つめながら怪人に問いかける。問いつつも爆炎の弾丸を撃つのは忘れない。
    「ツバイってワシか。それは素晴らしく気持ち良いこと……って熱っ!」
     無邪気な問いについ答えてしまい、次の瞬間には焼かれてる怪人。
    「淫魔とはどこで出会ったのですか~?」
    「あの淫魔の事を知っておるのか。ただで答えるわけがなかろう!」
     淫魔に関する情報を更に得ようと、さゆみが続けて問うが今度は答えない。
    「淫魔に、何の邪魔を、しないでと、言われたの、ですか?」
    「ふん、ワシの口はそこまで軽くないわい。そろそろ、縄跡つけさせるが良い!」
     綾も情熱的に踊り攻撃を加えながら問い質すが、ストレートに探りを入れて答えるほど怪人も甘くはない。
     変態全開で答えて縄を放とうとするが、直前に放たれたさゆみの魔法弾による制約が一瞬、その動きを縛る。
     その一瞬は、前衛の4人が怪人を間合いに捉えるには十分な隙だった。
    「桜夜……やるぞ」
    「任せて、零桜奈」
     リノウムの床を蹴って、2人が銀髪をなびかせながら一気に怪人との間合いを詰める。零桜奈が和と洋の特徴を併せ持つ巨大な刃に蒼い炎を纏わせて斬りつければ、死角に回った桜夜の振るう純白の刃が怪人の足を断つ。
     2人がその身に宿す闇は違えど、左右の手に1つずつ大きな得物を持ち影も操る戦闘スタイルは似ている。故にか、コンビネーションも呼吸があっている。桜夜は格好悪い様を見せないように、と思っていたがそんな気負いを感じられない。
    「縄跳び? 違う気もするけど、サクっとやっちゃおーか」
     ツインテールを揺らしオーラを纏った鋼の拳が連続で怪人に叩き込まれる。
     3人が跳び退いた所に、ユキのセイバーから放たれた赤い光刃が怪人の胴体を貫いた。
    「ワシの体力を甘く見るなよ!」
     しかし、灼滅者の連続攻撃を受けたのに、怪人はまだまだ元気だ。効いてはいるのだが、変態しぶといぞ。
    「ツヴァイボーデンとなったワシの技を見せてやろう!」
     どこからともなく縄を取り出し、ビシッと張る。鞭のようなアクションだが、怪人が縄を使う時は誰かに縄の跡を付ける時だ。
    「零桜奈、危ない」
     咄嗟に零桜奈を突き飛ばした桜夜と、鋼にユキの3人が纏めて縄で縛られ、3人の体に服の上から縄の跡が付いた。
     縄跡がついても鋼の表情は余り変わらず、ユキの表情はフードで見えない。しかし、桜夜は傍目にわかる程に恥ずかしそうだった
    「……さっさと殺す」
     庇われたからか、桜夜が恥ずかしそうな姿でか。零桜奈の殺意が高まり、漆黒と蒼の槍の穂先に集った冷気がつららとなり怪人を穿つ。
    「む。一人外したか。まぁよい……お主ら全員に縄跡をつけてやるからのう!」
     なんも着てない上半身に氷が張り付いても、怪人まだ元気だった。

    ●ポロリもあった
     全員に縄跡。怪人はその言葉をマジで有言実行しつつあった。
     一度は縛られずに済んだ零桜奈も、後に力任せに縛り上げられたし、その更に後で前衛の4人を大きく迂回させて放った怪人の縄は、その後ろに立つ3人を纏めて縛り上げた。
    「やだやだやだ! この縄なんですかー?!」
     主に剥き出しの素足を縛り上げられた緒々子がもがく。縄がゆるめば、素足にくっきり残る縄の跡。
     一方の綾は主に上半身を縛られた。大きな胸が強調されて中々すごい絵面になっていた。当の本人が恥ずかしがりながら、少しだけ嬉しそうでもあるのはきっと気のせい。
    「泣かないのですっ」
     蘭世も一緒に縛られて縄の跡がくっきり。大半は着ている防具で隠れているとは言え、それでも恥ずかしい。でも、ここはぐっと我慢。
    「ぶっ壊してやるです……こいつマジでつぶす! てっげしんきなーっちゃけんど!」
     恥ずかしさと怒りで思わず宮崎弁が出る緒々子。てげしんきなーで、すごく憎たらしい、という意味になるらしい。叫んでも運悪く縄跡が消えなかったから怒りも一入だ。
    「やめてください~」
     次に縛られたのは、さゆみだった。避けようとしたが避けきれず体勢を崩しかけた所を妙に技巧を凝らした縛られ方をされてしまい、唯一動く片手で必死にスカートを抑える。
     縄の跡も恥ずかしいが、彼女の場合、スカートの下が見えてしまうのは拙いのだ。その下は素足と同じ肌色だから。魔法少女だから、そうらしい。魔法少女も大変だ。
    「ぐっふ。ぬふふっ。全員に縄跡付けてやったわい。若い肌ばかり。良い眺めだ!」
     怒る灼滅者達を前にしても、どこか満足気に仁王立ちして不気味な笑いを上げる怪人。
     これが世界征服の為だろうが淫魔との協力の為だろうが、若者(ほとんど女子)を縛り上げて悦に浸るなんて、どう見ても変態の所業でしかない。
     そして勿論、灼滅者達も怪人にやられたままでいた筈がない。動けるメンバーは容赦なく攻撃を加えていたのだ。
    「うむ……しかし少し足元がフラフラするのう」
     満足気に仁王立ちしてはいるものの、実の所は肩で息をして顔の土偶にちょっぴりヒビが入ってる程度には、怪人もやられていた。結構やせ我慢。
     対する灼滅者達の消耗は、実は余りなかった。主に恥ずかしさで精神的な疲労はあるが、纏めて縛り上げられた際のダメージはそう高くない。
     受けた異常もさゆみと綾の歌声で、凡そは回復済みだ。
    「それはともかく、ゲルマンシャークとは何者なんです!」
     仲間のおかげで恥ずかしさも消えた緒々子が、気を取り直し心を惑わせる符を放ちながら怪人に問いたのは、近頃耳にするゲルマンシャークなる名前。
     それが灼滅者達が得ようとしているもう一つの情報であった。
     どうやら、そのゲルマンシャークなる者がかつて灼滅した筈の怪人を復活させているらしい事は判っているが、詳しいことは不明のままだ。
    「ワシを復活させてくれた素晴らしい御方である!」
     その問いには、無駄に胸張って自信たっぷりに答える怪人。何故お前が自慢する。
     そして目新しい情報でもなかった。こいつが何も知らない可能性もあるのだけれど。
     こいつ大したこと知らなさそうだなーって空気が漂う中、蘭世が再び純粋な目で怪人を見つめていた。
    「ツバイさん、縄文土器って、こういうのでしょうか?」
     こういうの、と言いながら蘭世が取った肘を直角に曲げ、左手を上げ右手は下げたポーズ。
    「それは埴輪である! また縄跡つけて教え込むぐっ!?」
     つっこんだ怪人の余計な一言に反応した蘭世の影が怪人をぱっくん。もう縄の跡は嫌みたいです。
    「これ以上変態怪人に聞いても無駄そうだね……やっちゃお」
    「ワシの腰みのが!?」
     影から出てきた所に、高速で死角に回り込んだ鋼の手刀が、腰みのごと怪人を斬り裂く。怪人のぶっとい足がポロリ。
     この一撃を皮切りに、もう情報を得られないと判断した灼滅者達の攻撃が、容赦なく怪人に叩き込まれ出した。

    ●さらば変態
    「ぬっふふ! 縄跡は良いのう!」
     ボロボロになりながらもしつこく縄を放って来る怪人。だが、そう何度も縛られる灼滅者達ではない。綾の影が傘の様に広がれば、零桜奈の大刀が斬り落とさん勢いで縄を弾く。桜夜は何度も仲間の代わりに縛られた。
    「斬!」
     魂を一時的に闇に堕としかけたユキの一撃は、鋭さも重さも増していた。赤い光刃が袈裟懸けに振り下ろされる。
    「縛られる、悦びを、教えてあげます」
     綾の影が縄のように細く伸びる。散々縛られたお返しと言う事か。
    「甘いっ!」
     しかし怪人は影の縄からするりと脱出してのけた。
    「縛り方に気合が足りん! 縄模様を美しく付ける縛り方は、こうだ!」
     叫んで怪人がまたも縄を放つ。やや太めのそれは真っ直ぐに伸び――なかった。縄が巻きついて縛り上げたのは、怪人自身。
    「おぅふ!? ワ、ワシは何故自分で自分を縛っておるのだ!?」
     それは、さゆみと蘭世が奏でた神秘的な歌声と、緒々子の放った符の効果。何度も重ねたそれらの効果で催眠状態に陥っていた怪人は、敵を縛るつもりで自分を縛り上げていたのだ。
    「ううむ……しかし、さすがワシ。この縄の食い込み……さぞ綺麗な跡がついたであろう」
     文字通りの自縄自縛状態で自画自賛とか。誰得だろうかこの構図。
     とは言え、絶好のチャンスだ。零桜奈と桜夜が同時に影を伸ばし、怪人を影で更に縛り上げる。
    「こんのホガナシがああああ!」
     宮崎弁の叫びとともに、色々溜まった鬱憤を晴らすような緒々子のおみかんラヴキック。
     なおホガナシとは稲の穂が無いことから、頼りにならないという意味になるらしい。
     顔面に叩き込まれたそこから、ヒビが顔全体に広がって行き――。
    「ま、またしても……だが、何度でも言おう! 縄文土器怪人がワシで終わりと思うなとな!」
     自分の縄が絡んだ姿のまま、ツヴァイボーデンは爆散し消滅したのだった。

    「……皆、無事だな……私は先に帰る」
    「あ、待ってよ零桜奈」
     重い負傷の者がいない事を確認した零桜奈は、直ぐに踵を返すと体育館の外へと向かう。それ桜夜が追いかけて、後ろから零桜奈の腕を取り、2人はそのまま先に帰っていく。零桜奈が照れていたのは、桜夜だけが見ていた。
     6人が残る体育館には、これまで戦っていたのが嘘の様に静まり返っていた。
    「縄の跡をどうにかしたいです。確か血行を良くするといいって聞いた――あれ、消えてるです?」
     素足についた縄跡を気にしていた緒々子だが、あれもサイキックの影響。怪人が消滅した事により、縄跡も消えていた。
    「また似たようなのが出てくるのかな?」
     怪人の最後の一言を信じるなら、その可能性は否定しきれない。変態怪人はもう懲り懲りだね、と鋼は小さくため息をつく。
    (「邪魔者が消えたという意味なら淫魔の目的通り。なら……そのうちに何かを……?」)
     綾は淫魔の動きについて考えを巡らせていた。淫魔の目的が何であるのか、答えは今は出ない。
    「彼らが手を取り合う前に~。関係を断ち切れて良かったですね~」
     とは言え、安堵するさゆみの言葉も事実だ。淫魔の計画が何であれ、淫魔と怪人が完全に手を組む厄介な事態は避けられたのだから。
    「僕達も帰りましょうか」
     フードを目深にかぶり直したユキの言葉で、6人も体育館の外へと向かう。
    「どぐうさんはブサカワなのです♪」
     去り際、振り返って蘭世は一言呟いた。
     カワイイ要素あったのか、あれ。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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