ガラナおじさんのビームの秘密

    作者:海あゆめ

     茶色い液体が、シュワっと勢いよく飛び出した。
    「わぁ! すっごぉい! いっぱい出たぁ!」
    「わはは、まだまだ! ワシのガラナビームはまだまだ出るぞぉ! ほ~れほれぃ!」
    「きゃぁん! おじ様ってばステキ~! アタシもがんばっちゃうぅっ!」
     独特な甘い香りを放つ茶色い液体が、再びシュワシュワと。
    「……っ、ひぃ、ふぅ、ど、どうだぁ、ワシのガラナビームはっ!」
    「あん、すごかったよぉ……ね~え、またおじ様のビーム、見せてくれるぅ?」
    「ああ、もちろんだとも……ふぅ、ふぅ……」
    「ね、それじゃ、これからもアタシと仲良くしてね? 嫌いになっちゃ、やぁよ?」
    「ああ、ああ、もちろん! もちろんだとも! はぁ、はぁ……」
    「やぁん、うれしぃ~! ありがとぉ~! それじゃ、また今度ね、おじ様♪」
     息も絶え絶えに頷く中年ガラナ怪人に、少女は無邪気に手を振り、去っていく。
    「……ふふふ、少し、張り切りすぎたか」
     一人残されたガラナ怪人は、とっても良い汗でつやつやになった顔を、積もった雪の上に預けた。
     気の抜けたガラナ液が、じわじわと地面を濡らしていく……。
     

    「……というワケでぇ。ウワサの淫魔ちゃん枕営業のお話なんだけどぉ」
     悪戯っぽい笑みを浮かべながら、斑目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)は、先程からわざとらしく目を逸らしている、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)ににじり寄った。
    「にひっ♪ 淫魔ちゃんがどんなコトしてたか、詳しく教えてほしい?」
    「……っ! だからお前はどうしてすぐそう……」
     言いかけて、香蕗は咳払いを漏らした。
    「よし、わかった。話してみろよ」
    「ふぇっ!?」
     目を閉じ、腕を組んで僧のようにどっしりと構える香蕗。ここはひとつ、平然とした態度をとってやろうと思ったらしい。その反応が予想外だったのか、スイ子が珍しく面食らったように固まっている。
    「…………」
    「…………」
     気まずく流れる沈黙。時間が経つにつれ、二人の顔は傍から見ていても分かるほど、見る見るうちに赤くなっていく。
    「……っ、バーカ、バーカ!! コロ夫のえっちバカ変態ーっ!!」
    「あんだよ! お前が教えてほしい? とかっつったんだべや! お前がバーカ!!」
    「うあぁぁん! バカって言った方がバーカ!!」
    「先にバカっつたのもお前だべや!」
     そして、顔を真っ赤にしたまま子どものような言い合いをする二人。
     まあ、なんというか、とにかくスイ子が予測で捉えた淫魔は、とても口には出して言えないような事をして、他勢力のダークネスと接触しているようだった。
    「……っ、まぁね、とにかくね、北海道にいるガラナ怪人っていうおじさんトコにね、淫魔ちゃんが営業しにいくんだって!」
     そこで、淫魔といろいろしてぐったりしているガラナ怪人と接触を図り、灼滅してきてほしい、とスイ子は言った。
    「今回にいたっては、淫魔ちゃんは見過ごした方が良いかもね」
     立ち去る淫魔の方を狙えば、怪人が彼女を守るように動いてしまうため、こちらの勝算は著しく下がり、危険だという。
    「ガラナ怪人が出るのは、北海道の札幌市にある河川敷だよ。淫魔ちゃんと別れた後、ぐったりして寝てるから……そこをまあ、灼滅しちゃえってワケなの」
     まさに、天国から地獄といったところだろうか。
    「ガラナおじさんはね、なんか、気の抜けた炭酸のビームとか出してくるから気をつけてね」
    「気の抜けた炭酸……」
    「あ、でも淫魔ちゃんを狙ったら元気な炭酸になっちゃうから、そうならないように気をつけてね」
    「元気な炭酸……」
    「……別に変なイミじゃないよ?」
    「お、おぅ……」
     まだ引きずっているのか、言葉を交わしながらも目を合わさないスイ子と香蕗。何だかんだで二人とも思春期である。
    「えぇっと……あと、ガラナおじさんに戦いを仕掛けたら、配下に作ったガラナ雪だるまを呼ぶみたい。全部で4体だね」
    「ガラナ雪だるまぁ?」
    「うん、なんか、茶色い雪だるま」
     ガラナジュースがたっぷりと染み込んだ、ちょっと美味しそうな雪だるまらしい。体当たりをして攻撃してくるものの、それほど戦闘能力はないということだった。
    「さっきも言ったけど、淫魔ちゃんを狙っちゃうとホント危ないからやめておいた方がいいよ。それさえ気をつければ、ま、みんななら大丈夫!」
     やっと本調子に戻ってきた笑顔で言って、スイ子は教室に集まった灼滅者達に、ぐっと親指を立ててみせる。
    「っし、したっけ、まずあったけぇ格好して行かねぇとな。北海道はまだ寒みぃし、雪もすげー積もってんぞ」
     香蕗も気を取り直し、そう皆を促した。


    参加者
    ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    御剣・レイラ(中学生ストリートファイター・d04793)
    龍月・凍矢(飛鳥に舞う氷の矢・d05082)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)
    鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)

    ■リプレイ


     北海道は札幌市の河川敷。暦の上ではもうすでに春がきているというのに、冷たい風が吹きすさぶ。
    「さ……寒いねん! み、緑山っ、北海道ていつもこない寒いん?」
    「そだな、毎年こんなもんだぞ。まぁ、今年は雪が多かったらしいけどな」
     ダウンジャケットの中にカイロまで仕込み、寒さに震える、斑目・立夏(双頭の烏・d01190)。一方で、緑山・香蕗(高校生ご当地ヒーロー・dn0044)は、わりと余裕の表情で笑って頷いた。
     今日ここに集まった灼滅者達は、今、この寒い河川敷で待機を余儀なくされている。原因は、遠くの方で重なる二つの人影……北海道のご当地怪人、ガラナ怪人と、彼を相手にいかがわしい営業を行う淫魔の少女だ。
     現場近くを捜索に当たっていたアヅマからのメール情報も手伝って、怪人と淫魔の居場所はすぐに割れたのだが、今回は淫魔を見過ごすことで皆の意見は一致していた。ここから先は、戦闘を仕掛けるタイミングを慎重に計らなければならない。
    「んー、しばれるなー、雪もなまら積もってるし、手袋はいてきてよかったー」
     久々の帰郷に、ついついお国言葉全開な、アリスエンド・グラスパール(求血鬼・d03503)が、双眼鏡を覗き込んで不思議そうに首を捻る。
    「んー……あの2人は何やってるの? なんか全然営業って感じじゃないけどー……」
    「ねえねえ、『枕営業』ってなに? ガラナ怪人はなんでぐったりしてるの?」
     そこへ、小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)も無邪気に問いながら、お兄さんお姉さん灼滅者達を見上げた。
     時に残酷で、恐ろしい子どもの無垢さ加減。龍月・凍矢(飛鳥に舞う氷の矢・d05082)は二人の視界を慌てて遮った。
    「ほらほら、あんまりじっくり見るな! てか、よりにもよってガラナ怪人かよ!? 思いっきり冒涜してるじゃねぇか!!」
     そして憤慨する。
    「よ、よくよく考えたらガラナおじさんは外で炭酸が飛び散るような事を……は、はわわ!」
     そんな中、見ずとも色々想像してしまった、御剣・レイラ(中学生ストリートファイター・d04793)は顔を真っ赤にして狼狽し。
    「こんな寒いのにあんなことしてるなんて……変態です」
     アイスバーン・サマータイム(精神世界警備員・d11770)は、ヘッドフォンをすっぽりと被り、携帯ゲーム機に意識を移してこの場をやり過ごす。
    「灼滅者たる者、如何な敵であろうが一般人の害となる以上粛々と灼滅する……べきであると思うが……」
     恥ずかしさやらなんやらで、鬼神楽・神羅(鬼の腕・d14965)も居心地悪そうに小さく呟く。
     しばし流れる気まずい雰囲気。仕方ない。こんな感じになるのは大体みんな分かっていた。
     どのくらい経っただろうか。妙に長い気もしたが、実際はそんなものでもなかったかもしれない。遠目からだが、淫魔が怪人の元から去っていくのが見えた。
    「淫魔もわざわざ営業ご苦労な事だが、無駄足だったというわけだな」
     にい、と笑った、ジャック・アルバートン(ロードランナー・d00663)が、握った拳を手の平にひとつ、強く打ち付けてみせる。
     河川敷に積もった雪の上でばったりと倒れているガラナ怪人は、文字通り精も根も尽き果てた状態だ。灼滅の絶好のチャンス到来というやつである。
    「淫魔はもう近くにおらぬな……よし、まずは人払いを致そう」
    「はいはい! みあもお手伝いするんだよう!」
    「わたしも微力ながら……さー、土星フィールド張るよー!」
     神羅に続いて、今回の任務に同行していた深愛と璃理も殺界の形成に取り掛かった。これで一般人が戦いに巻き込まれる危険もなくなるだろう。
    「よっしゃ! ほな、行こか!」
     寒さを振りほどくように、立夏が声を上げた。
    「……えっちなのはいけないと思うわよ」
    「お、おぅ……」
     気まずいアレやナニな雰囲気をまだ引きずっていた香蕗には、晴美がハリセンで引っ叩いて気合を入れ直す。
    「さぁて、お手並み拝見といこうか!」
     駆け出すジャックに、皆も続く。ふわふわぐったり、つやつやなガラナ怪人の元へ、いざ!


     走りながら、灼滅者達は戦闘態勢を整える。
    「クロステス・フリノット・カティバ・ガリノス」
     亜樹の手元に、ロッドが収まり。
    「setup……"Hello world"」
     闘気と影を纏ったアイスバーンは、静かにライフルを手に構えた。
    「水天逆巻く飛鳥の槍、天駆ける龍翼の斧よ、その力を我に示せ!」
    「これが、牙無き者の剣です!」
     雪の上に滑り込むようにして立ち止まり、各々の武器を構える凍矢とレイラ。ぐったりと寝そべっていたガラナ怪人が、びくりと体を震わせて飛び起きた。
    「なっ、ななな何だ貴様らはっ!?」
     バタバタと半分脱げたズボンをたくし上げ、慌ててベルトをしめ直すガラナ怪人。不法な営業をしているいかがわしいお店に警察のガサ入れが入るその瞬間、みたいな何かのテレビで見たことあるような光景だ。
    「ふむ、腑抜けた怪人と戦うのも、正直つまらん話だが……」
    「ふっ、腑抜けだとおぉっ!? いきなり失敬な! ワシのガラナはまだまだぁ~……っ!」
     情けない、と呆れた顔をするジャックに、怪人はむきになった。むきになって力を溜める。
    「ふふふ、青臭い若人共め! 見よ! これがワシのガラナじゃあぁぁっ!!!」
     大見栄を切って張った虚勢とは裏腹に、注ぎ終わり際のレギュラーガソリンくらいの勢いしかないビームがべっちょりと。
    「ぎゃあぁぁっ!! なんやねん、これっ!?」
     不運にも、近くにいた立夏がそれを浴びてしまった。整った精悍な顔から、薄茶色い液が滴り落ちる。
    「ふはははは! どうかね!? ワシのガラナの味は!!」
    「そんな気の抜けた炭酸が貴様のガラナか、失望したぞ!」
     我ながらよくやったと、自画自賛気味なガラナ怪人にがっかりしながら煽るジャック。
    「……気の抜けた炭酸……ガラナおじさんのガラナ……」
     ブルブル震えて、顔を拭った自分の手の平をじっと見つめる立夏。
    「……っ、精神的にくるわ、ほんま……っ」
    「大丈夫だ! しっかりしろ! 傷は浅いぞおぉっ!」
     ショックのあまり、手で顔を覆ってがっくりとうな垂れる立夏に、香蕗が強く呼びかける。
     確かに、怪人の力は普段よりは弱まっているようではあった。だが、この攻撃はとにかく精神的にきつい。特に、青年期に差し掛かっている立夏のような男子にはなお更だ。
    「ふふふ、これが大人のテクニックというものだ若人共め! ここでガラナの味をとくと味わうがいい! 行け! 我が僕達よ!!」
     調子に乗ったガラナ怪人が、ここぞとばかりにけし掛けてきたのは、茶色いガラナ液をたっぷりと染み込ませた雪だるま達だった。
     雪だるま達は怪人の命じるまま、シャバシャバと水っぽく向かってくるものの、その力は大して脅威ではなさそうだ。
    「面白い。鬼の一手、馳走致そう」
    「よーし、いくよ!」
     神羅が振るった縛霊手と、亜樹が放った魔法の弾丸が、雪だるまの体を難なく貫く。
    「何をしている! しっかりせんか! 行け! やれ! 後ろを狙えー!」
     負けじと雪だるまを突っ込ませようとするガラナ怪人。
    「やらせるか!」
     それに応えて強行突破してくる雪だるま達が、凍矢の魔力でいい具合に凍りついた。
    「……おいしそう」
     思わず、ぼそりと呟いたアイスバーンの影が、外はカリカリ中はシャクシャクなガラナ雪だるまに喰らいつく。
    「ふふふ、中々やるな小娘。そんなにワシのガラナが美味いか? んん?」
    「えっと……決してそういった意味じゃなかったんですが……」
     配下を失っても、ガラナ怪人の心はまだ折れない。ねちっこく問いながら寄越してくる下卑た視線。堪らず、アイスバーンは顔を赤くしておどおど縮こまってしまう。
    「ねぇ、怪人さん」
     と、そこへ、亜樹の無邪気な声が響く。
    「んん? 何か用かね? ワシのガラナは君のようなお子様にはまだ刺激が強すぎ……」
    「淫魔ちゃんと仲がいいみたいだね。あの子たちは何をしようとしてるのかな」
     ガラナ怪人の雄弁な語りをぶった切った、率直すぎる亜樹の質問。やはりこういう場面で一番強いのは、まだ何も知らない清らかな子の発言である。
     出鼻を挫かれたガラナ怪人は気まずそうに咳払いをひとつ漏らし、仕切り直す。
    「ふふ、それは大人の秘密というやつだ。こんなワシでも君のような子にはとてもじゃないが教えられん」
     意外と紳士ぶるガラナ怪人。
    「だが……どうしてもワシのガラナを味わいたいというのなら、協力してやろう……さぁ、ほ~れ! とくと味わええぇっ!!」
     やっぱり性根は腐っていたガラナ怪人!
    「危ないーっ!!」
     アリスエンドが、咄嗟にガラナ怪人の目の前に立ち塞がった。
     張り切ったわりにはお察しレベルな気の抜けた炭酸が、再びべっちょりと。
    「うえ~ガラナは好きだけど気ぃ抜けてるのはちょっと……」
     顔をしかめ、口に入ったガラナをぺっ、ぺっ、としながら、アリスエンドは手にしたノコギリのような刃のついた解体ナイフを構え、鋭く斬りかかる。
    「ぶち撒けるなら、お前の血液にしろー!」
    「ぬぅぅっ!」
    「今ですっ!!」
     ガラナ怪人が怯んだその隙に、レイラは斬艦刀を振り上げ、怪人へと向かって飛び上がった。
     レイラの、年齢のわりに豊かに育ったバストが、防寒着の上からでも分かるくらいに激しく揺れる。
    「うおぉぉぉっ!! なんのこれしきぃぃっ!!!」
     受けて立つ、とガラナ怪人も構える。足を肩幅に。膝を曲げて。両手を突き出し。手の平は何かを包み込むように柔らかく……。
    「さぁぁ!! こおぉぉいっ!!!」
     期待に胸も鼻の穴も膨らませるガラナ怪人。
     まずい。この構えは、俗に言うおっぱいタッチの構えだ。
    「え、えぇっ!? はわっ、はわわわっ!」
     気がついたレイラは途端に慌てるが、もう間に合わない。灼滅者達の間に戦慄が走る……!
    「……っ! ふふふっ、はははははっ!! やったぞ!! 今日はなんて素晴らしい日なんだあぁぁぁ!!!」
    「は、はわわ~ん!! わた、私っ、もうお嫁にいけません~っ!」
     胸を押さえ、顔を真っ赤にしてへなへなと膝を折るレイラの横で、ガラナ怪人はそれなりのダメージを負いながらも喜びのガッツポーズを決めた!
    「……最低」
    「最低だな……」
    「最低と存ずる」
     アイスバーンと凍矢と神羅の、蔑むような視線。
    「えぇい! うるさいうるさーい!! これぞ男のロマンじゃぁぁぁ!!」
     とうとう、ガラナ怪人は開き直ったようだった。こんなあからさまに最低な怪人が存在しようとは。
    「ガラナはいい飲み物だが、世界征服企むような奴はぶん殴る! 歯ぁ食いしばれ!」
     堪忍袋の緒がとっくにぶち切れていた凍矢の龍砕斧の一撃が、ガラナ怪人の頬を激しく打つ。
    「ぐっはぁぁ!!」
    「あと一息と存ずる」
    「うぅ……よっしゃ、任しとき……!」
     神羅からの回復を受け取って、なんとか立ち直った立夏も、手にした槍を大きく回して駆け出していく。
     わりと最低な男のロマンに生きたガラナ怪人の体は、すでに満身創痍。
    「ぐぬぅ……まだだっ、まだ倒れるわけには……っ!」
    「ほう、中々やるではないか、見直したぞ!」
     まだ立ち上がろうとするガラナ怪人のそのガッツに、ジャックは嬉しそうに笑った。
     その気合に、こちらも全力で応えるのみ。本気で来い、とジャックは目で怪人に語りかける。
    「はぁっ、はぁっ……ワシはまだ死なん! 世界中のコーラをガラナに変えるその日を拝むまでっ!」
     その視線に応えるように、ガラナ怪人は一歩、また一歩とジャックに向かって歩き出す。
    「そしてっ、死ぬときはもちろん美女に囲まれ、腹上……ぶべらっ!!」
    「……つまらん。所詮はこの程度だったか」
     放たれたジャックの拳が、ガラナ怪人の顔面に勢いよくめり込んだ。
    「ふ、ふふふ……貴様ら若人に告ぐ!!」
     よろよろと後退ったガラナ怪人が、ビシリと人差し指を向けてくる。
    「いいか、よく聞け。男はみんなエロい!! それが、真意だーーっ!!!」
     ガラナ怪人は叫び、そしてパァンと弾け飛んだ。
     気の抜けたガラナ液。飛び散った薄汚い雫は、札幌市の中心部を流れる豊平川の流れと共に、母なる海へと旅立っていった……。


     真っ白な雪の上に広がった茶色い染みだけを残して。
    「散ったか……」
    「ガラナの布教は大人しくやるべきだったな。だが安心しろ、宣伝位はしてやるさ」
     どこか遠いところへ還っていったガラナ怪人を、神羅と凍矢は悼んだ。一応、あんな最低な怪人でも、純粋な時代があったはずだ。
     ダークネスとはいえ、命を奪うのは嫌なものだと、今回ある意味では一番被害を受けたと言っても過言ではないレイラも律儀に黙祷を捧げる。
    「……さて、帰りは皆でガラナ飲んでいきましょう? ……そういえばガラナって結局何なんでしょう?」
    「ああ、それは俺も気になっていたところだ。緑山、ガラナとはどういう物だったか」
    「あー、なんつーかな、コーラみたいなもんだぜ。その辺の自販機とかコンビニでも普通に売ってっからよ、買って皆で飲んでみんべ、な!」
     口で説明するより飲んでみた方が早い、と、ジャックとレイラの問いに香蕗は答えた。
     あの、コーラに比べて妙に甘ったるいところとか、独特な薬臭い感じのするガラナ飲料は、北海道ではどこでも普通に手に入る上、ガラナ飲料を造る会社も数多く、意外と色んな種類があるものなんだとか。
    「ガラナて飲みもんは聞いた事あったけど、こないな味やったんやな……て! こないな形で知りたなかったわ……っ!」
     一足早くガラナ怪人からその味を教えられた立夏が、ショックと寒さを思い出して身を震わせた。
     そうでなくても、冬の河川敷は寒いものだ。それが北海道ならなおさら。
    「はぁ……早く帰ってこたつに入りたいです」
     上着の襟に口元を埋めて、アイスバーンはぽつりと呟く。冷たい風に、体もすっかり冷え切っていた。
     一方で、ちびっ子達は無事に任務を終えた喜びに大はしゃぎ。
    「あ、ねぇねぇ、せっかく北海道に来たんだし、お土産買ってこー?」
    「そうだね、せっかくだから観光して帰りたいな。ねぇ知ってる? 札幌の時計台って、日本3大がっかりらしいよ」
     そんな話を無邪気にしながら、雪の積もった河川敷を走り回る。

     世界中のコーラをガラナにする野望と、薄汚い男のロマンを抱いていた北海道のガラナ怪人。一体、淫魔と何をして、何を約束していたのだろう……。
     まあ、もしかしたらそれはあまり知らない方がいいのかもしれない。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 11
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