猫耳淫魔のラブラブ☆営業計画

    作者:春風わかな

     そこは営業の終わったカフェのような店だった。
     掃除を終え整然と並べられたテーブルとイス。だが、店内奥のソファ席付近だけはテーブルやイスを動かした形跡がある。
     ソファ席に座っている男は恍惚とした表情を浮かべてだらしなく座っていた。
    「ね、ね、どーぉ? モエ上手でしょぉ? 満足ぅ?」
     テーブルにちょこんと腰かけた猫耳カチューシャをつけたアイドル風衣装を纏った女性がにっこりと無邪気な笑顔を浮かべて甘い言葉をささやく。
    「モエのね、お願い聞いてくれたらぁ……あーんなことやこーんなこと、もっとしちゃうぞ☆」
     にゃん♪ と猫の真似をしてぱちっとウィンク。小首を傾げた拍子に首元の鈴がチリンと鳴った。
    「ほほほほほんと? 萌乃ちゃんのためだったら、ボク達何でもするよぉ~」
     かなり前のめりな感じで男が何度も何度も頷いた。と、同時に周囲にいた他の男達もうっとりとしたような表情を浮かべてこくこくと頷く。
     そんな彼らを見て猫耳少女ー萌乃は「やったぁ☆」と嬉しそうに両手を組んで満面の笑みを浮かべる。
    「それじゃモエ達の邪魔しちゃダメだよっ! モエとの大事なお・や・く・そ・く♪」
     ぴっと人差し指を立てる萌乃とテンポ合わせて繰り返す男たち。
    「あ、時間ー。モエ、そろそろ行くね。ラブリンスター様に報告しなくちゃ」
     ぴょんとテーブルから降りて扉の方に向かう萌乃を未練たらしく男が見つめる。
    「えー萌乃ちゃんもう帰っちゃうの? 次はいつ会える?」
    「うーん、そぉね、いつにしよっかな~?」
     わざとらしく上目使いで天井を見上げてみたりとかする萌乃。
     男たちはそわそわとしながら返事を待っている。
    「モエ、気が向いたら明日も来ちゃおうかな。でも、お仕事の後だし、どぉしよっかなぁ……」
    「いいいいや、萌乃ちゃんが来る可能性が少しでもあるならオレ達必ずいるよ! いつまでも待ってるから!」
     完全に萌乃に夢中になっている様子の男たちを見て、クスっとわざとらしく笑みを浮かべた。
    「けなげな男性ってカワイイ~☆ モエ、そーいうヒトってだ~いすき♪」
    「いやぁ、それほどでも~」
     萌乃の一言で完全に舞い上がる男達であった。

    「ダークネスの動き、察知できた」
     教室に集まった灼滅者を前に、普段と変わらぬ様子で久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は言葉を紡ぐ。
     最近、淫魔たちが他のダークネスのもとを訪問し、夜な夜な営業活動に励んでいるという噂は聞いているだろうか。
     今回來未が視たものもその一つ。淫魔がソロモンの悪魔の配下である強化一般人に接触したことがわかったのだ。
    「狙うのは、ソロモンの悪魔の配下の方。淫魔じゃないから」
     彼らは淫魔との逢瀬の後で完全に油断しまくっているからそこを狙ってほしいと來未は言う。
     場所は営業終了後のメイド喫茶。店は雑居ビルの3階の一室にある。
     襲撃のタイミングは淫魔が立ち去ったのを確認してからが良いだろう。店に入るとソロモンの悪魔の配下達は逢瀬の余韻に浸っているので、灼滅者達が有利に戦闘をしかけることができるだろう。
    「淫魔、狙うのは、勧めない」
     もしも淫魔と接触した場合、ソロモンの悪魔の配下達がすぐさま応援にかけつける。淫魔とソロモンの悪魔の配下達を同時に相手にする場合、灼滅者達の勝利は難しくなるだろう。
     ソロモンの悪魔の配下達は全部で5人。全員魔法使いのサイキックによく似たもので攻撃をしてくる。
     だが、その中でもリーダー格の男だけは他に解体ナイフのサイキックによく似たものも使用するらしい。
     特にリーダーは他の配下に比べて数倍の能力を持っている。油断は厳禁だ。
     ただし、このリーダー、形勢不利と判断すると逃走を試みるので気を付けてもらいたい。
     とはいえ、奥のソファ席周辺に窓はなく、店の出入り口は1か所のみ。
     気を付けていれば十分に逃走を防ぐことは可能だろう。
    「この人達、男性を優先して、攻撃するから」
     どうやら彼ら、もともと女性に免疫がないらしく積極的に女性を狙うことはしないらしい。だが、男性に対しては容赦ないので注意が必要だ。
     また、自信があるならば色仕掛けを試みてもよい。敵が見とれて攻撃の手を止めるかもしれない。しかし、チャンスは1度だけ。使うタイミングはよく考えた方がいいだろう。
    「視えたのは、これで、全部」
     表情を変えることなく、淡々と告げる來未。
     繰り返しになるが今回の目的はソロモンの悪魔の配下達を灼滅することだ。そのことだけはしっかりと肝に銘じておいてほしい。
     教室を出ていく灼滅者達を見送る來未の姿はいつもと同じだった。


    参加者
    山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)
    白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)
    赤鋼・まるみ(笑顔の突撃少女・d02755)
    弐之瀬・秋夜(スタイリッシュ馬鹿・d04609)
    カミーリア・リッパー(切り裂き中毒者・d11527)
    轟磨・煉糸(吟遊糸人・d13483)
    神宮寺・刹那(外柔内暴・d14143)
    小瀬・雅史(紅狂・d15254)

    ■リプレイ


     薄暗い通路に数人の少年少女がこっそりと身を潜めている。彼らの目的は路地の正面に見える雑居ビル。このビルから出てくる淫魔の姿を見逃さぬよう、彼らはじっと見張っていた。
     あらかじめ店の情報を調べておいた山城・竹緒(ゆるふわ高校生・d00763)が見取り図を見せながら仲間に店内の様子を説明する。
    「それならば、店に突入した時に入り口前にバリケードを作るのが良さそうだな」
     竹緒の説明を聞き、小瀬・雅史(紅狂・d15254)は突入時の動きをシミレーションする。
     そこへ周囲の偵察をしてきた赤鋼・まるみ(笑顔の突撃少女・d02755)が戻ってきた。
    「ビルに裏口とかはなさそうですので、あの入り口から出てくると思います!」
     まるみが指さしたビルの入り口から、今まさに一人の女性が現れた。あれが淫魔の萌乃に間違いない。作戦通り、淫魔に気づかれぬよう彼女が立ち去るのを待つこと数分。
    「……」
     淫魔の姿が完全に見えなく鳴ったことを確認し、カミーリア・リッパー(切り裂き中毒者・d11527)が手に持っていたスケッチブックに何かを書いて仲間達に掲げる。
    『お店行く しましょう』
     もちろん異論を唱える者はおらず、灼滅者達は無言で立ち上がり店へ移動する。
     店に着いた灼滅者達が静かに扉を開けると奥から男の声が聞こえる。あれが今回のターゲットだろう。店内に流れるBGMのおかげもあり侵入者のことは何も気づいていないようだ。
     灼滅者達は、まず入り口の傍に置かれていた段ボール箱や椅子を入り口の前に積み上げ逃走阻止のための準備を始める。
    「萌乃ちゃんってば絶対に俺のこと好きだよね。告白とかされちゃったらマジどうしよー」
     脳天気な男の声にバリケードを作っていた弐之瀬・秋夜(スタイリッシュ馬鹿・d04609)の顔が引きつる。
    「お、俺が女の子にモテないのになんでソロモンの悪魔の配下如きがいちゃいちゃしてんだコラ!」
     淫魔といちゃラブしてるという噂は本当だったのか。口にこそしていないが敵に対する秋夜の感情は『羨望』以外の何物でもない。
    「……」
     だが、白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)の冷たい視線に気づき、秋夜ははっと我に返って作業を再開する。
    「こんなもんだろう」
     作られたバリケードを見て轟磨・煉糸(吟遊糸人・d13483)が3人の女子に向かって声をかける。
    「準備はいいか?」
    「バッチリよ」
     任せて、と頷くと竹緒を先頭に3人の可愛いミニスカメイドが敵の前に姿を現す。
    「こんばんわー♪ ご主人様にご注文の品をお届けに参りました!」
    「えー注文なんてしてないよぉ~」
     トレイ片手に突然現れた竹緒達の姿を見てデレッとする様子の5人の男達。
    「そんなぁ、おかしいです。間違ってるはずありませんよ!」
    「お待ちください、すぐに確認いたします」
     わざとらしくメモを確認するまるみと朝乃。ひそひそと3人で話し合った後、代表してにこやかな笑顔を浮かべた竹緒が告げた。
    「ご注文の確認ができました。灼滅者8名をお待たせいたしました。以上でご注文の品はお揃いでしょうか?」
     竹緒の言葉を合図に、秋夜、雅史、カミーリア、煉糸が姿を現す。
    「何これー!?」
     しかし、この場にいるのは全部で7人。後1人はどこだ? と探す男達を前に神宮寺・刹那(外柔内暴・d14143)の声が響く。
    「ひと~つ、人目に隠れてコソコソと」
     すっと柱の陰から刹那が姿を現した。だが、その顔は般若の面に隠されていて見えない。
    「なんだ……?」
     ぽかんとしている男達を気にすることなく刹那は続ける。
    「ふたつ、ふしだらな行為で満足し。みっつ、淫らな淫魔に協力しようとする輩を灼滅してくれよう!」
     言い終えると同時に刹那が面を外し、その素顔が現れた。
    「誰だっ!?」
     リーダーの問いへの刹那の答えは決まっている。
    「貴方達に名乗る名は無い!」
     そして、ばっと般若面を宙に放り投げる。これが戦闘開始の合図だった。


    「てめぇらにはこの俺で充分だ! 俺とあんな事とかこんな事しようぜチクショー!」
     もちろん、戦闘的な意味であるのは言うまでもない。素早く螺穿槍を繰り出し、前衛の配下を攻撃する。
     突然の展開に呆気に取られている配下の足下に伸びる黒い影。煉糸の足下から伸びる黒い影に気がついた時にはすでに遅かった。ぐわっと大きく広がった闇が敵を飲み込むように覆い尽くす。
    「おせぇーよ」
     煉糸がパチンと指を鳴らすと何事もなかったかのように元の景色へと戻る。
    「こっち来ちゃいやだよ?」
     朝乃がじりじりと後方へ下がっていく。出口への通路を塞ぐことが目的だ。
     そんな朝乃を敵から守るように、さりげなく雅史が前に立つ。もう護ることのできない大切な妹のことが頭をよぎらなかったといえば嘘かもしれない。だが、今は護るべき仲間がいる。手にしていたガドリングガンを構えると、ためらいなく引き金を引き一気に連射。大量の弾丸が爆炎の雨となって配下に降り注ぐ。
    「ちょっと待って! これ何!?」
     楽しい淫魔との逢瀬から一転、灼滅者達の襲来という状況を整理できないリーダーを前に動いたのはカミーリアだった。
    「……」
     首輪から鎖で繋がれた裁断鋏が獲物を前にシャキンと大きく鳴く。
     同時に広がる黒い殺意がスカートを大きく揺らし、凶器となって敵へと向かって行く。
    「この曲、知ってますか?」
     まるみの歌声が配下に襲いかかる。歌っている曲はどこかで聞いたことがあるような――この曲、もしや『ドキドキ☆ハートLOVE』!?
     思わず反応を隠せない灼滅者達だが、リーダーもしっかり反応している。
    「知ってる! 萌乃ちゃんが歌ってた!」
     リーダーと一緒に踊っている配下に狙いを定め竹緒が妖の槍を構える。槍の妖気を冷気のつららに変えると一気に撃ち出す。あっという間に配下の氷漬けが完成した。
    「どうしました? 淫魔とお楽しみの後なので力が入りませんか?」
     敵の攻撃をさらりと受け流した刹那がふふんと鼻で笑って挑発をする。
     それなら先程の攻撃のお返しに、と手の甲に張り付いたWOKシールドにエネルギーを集め、目の前に立つ配下を思い切り殴りつけた。
     配下は目の色を変えて刹那を睨み付ける。その瞬間、見えない冷気が一気に前衛に襲いかかった。しかしそれには竹緒やまるみも攻撃範囲に含まれており……。
    「女の子達を狙っちゃダメ!」
     リーダーが配下をガチで怒っていた。
     だが、冷気の壁が薄らいでいく中でよく見るとまるみを庇うような人影の姿がある。――秋夜だ。
    「ありがとうございます!」
    「へっ。女の子には指一本触れさせねえよ!」
     ぺこりと頭を下げるまるみに応える秋夜を見て悔しさのあまり肩を振るわせるリーダー。
    「女子の前だからって格好つけやがって……! まずは、お前からだ!」
     言い終わるや否や、一瞬のうちに秋夜の目の前に移動。そのままナイフの刃をジグザクに変形させ、秋夜の腕を抉るように斬り付けた。
    「……っ!」
     斬られた傷を押さえる秋夜の手があっという間に鮮血で染まる。
     リーダーに続けといわんばかりに配下達も灼滅者達に襲いかかるが、それよりも煉糸の動きの方が素早かった。
    「大丈夫か?」
     慣れた手つきで鋼糸を操り配下を牽制し、朝乃が秋夜の傷を回復させる時間を作り出す。
    (「コイツ……強いかも」)
     この時、リーダーの強さに気がついていたのは、まだ秋夜だけだった。


     前衛に立つ配下を倒したことで戦力的には灼滅者がやや有利になったはずだった。
     カミーリアのかざした左手には朧気な銃身が握られている。
    「……」
     仲間達の動きに合わせリーダーめがけてフレイジングバーストを放つ。漆黒の銃口から降り注ぐ炎はまるで椿のように赤く紅く落ちて行く。
     間髪入れずに刹那がサイキックエナジーでできた光の剣を振るい、怯んだ配下に斬りかかる。実態を持たない剣は、敵に付与されていた庇護の効果をも一緒に切り裂いた。
     だが、配下達も負けてはいない。2人の配下が連続で撃ち出した魔法の矢を避けようと煉糸はとっさに両手で顔を庇う。腕の傷から吹き出た血で首飾りが汚れたことに気づいた瞬間、その表情が変わった。
    「……俺の前から消えろ」
     煉糸の足下から伸びた影は一瞬で配下を呑み込み闇へと葬り去る。
    「ふぅー、すっきりしたぜ」
     煉糸が普段の表情に戻った時には配下がいた場所には何もなかった。
     だが、淫魔が去ってから時間が経過したことで冷静さを取り戻したのかリーダーの攻撃がどんどん切れ味を増す。
    「……おい」
     敵の集中攻撃を受けていた秋夜がぐらりとバランスを崩したのを見て、慌てて雅史がその身体を支えようと手を伸ばす。
    「無理をするな」
     雅史の守護の護符は秋夜の体力を回復するだけでなく、その護りの力も強化する。
    「これくらいの傷、たいしたこと、ねーよ……っ」
     秋夜が集気法を使い、癒しの力に変えたオーラで自身の傷を回復させる。だが傷は見た目以上に深いようだ。
    「なの~!」
    「今、回復します!」
     朝乃の頭の上にいたナノナノのぷいぷいがふわふわハートを、朝乃は癒しの力を込めた矢を秋夜に向かって同時に放ち、その傷を癒す。
     リーダーは執拗に秋夜を狙っていたが、このような仲間の助けもありここまで立っていることが出来た。――だが。
    「これが最後だぁ!」
     リーダーはナイフを構え直すと一気に距離を詰め縦横無尽に斬り付ける。
    「……っ」
     斬られていたのは秋夜ではなく、雅史だった。
     間一髪、自身の身を挺して秋夜を庇う。
    「まだまだぁ!」
     再びリーダーがナイフを構えて秋夜に襲いかかる。
    (「ダメだ……間に合わない」)
     倒れ込む秋夜の姿を見て、竹緒、朝乃、まるみが素早く視線を交わして小さく頷いた。
    「もう止めて! 何でも言う事聞きますから……」
     倒れた秋夜の前に朝乃がさっと飛び出す。上目遣いでリーダーをじっと見つめる瞳にはあふれんばかりの涙。ちなみに、これは嘘泣きなのだが……そんなことに気づくリーダーではない。
    「ううー……これじゃぜんぜん勝ち目がないよぉ」
     竹緒もスカートの裾をぎゅっと掴み、ふるふると頭を横に振る。そして今にも消えそうな涙声で呟いた。
    「ごめんなさい、なんでもするから許してぇ……」
     慌ててまるみも二人を真似てぺたんと座り込んで上目遣いでリーダーをじっと見つめる。
    「何でもしたら、もう意地悪しませんか?」
     ミニスカから伸びるまるみの足に視線釘付けの男達。ごくりと唾を飲み込んでいるのがはっきりとわかる。
    「何でも~? ホントにぃ~?」
     リーダーはニヤニヤと締まりのない表情で女子3人を順番に見回した。
    「どうか……」
     ほんのりと顔を赤らめた朝乃が震えながら頭を下げる。その計算された角度は胸がチラリと見えるかどうかの絶妙なモノ。
    (「いろじかけ……スゴイ」)
     密かに色仕掛けを見てみたいと思っていたカミーリアは朝乃達をじっと見つめ、満足気にこくこくと何度も頷いている。
    「……あっ」
     ぐらっとわざと身体のバランスを崩す朝乃を見て、とっさにリーダーが手を伸ばしてその身体を支えると、朝乃はそのままわざと抱きついた。
    「えぇぇぇ!?」
     混乱しているリーダーの左手を竹緒が両手で包むように優しくぎゅっと握る。
    「私じゃ、ダメ……?」
     そのままリーダーの胸に飛び込み、すりすりと身体を寄せる。
     飛び込んだ拍子にふわりと広がった髪の優しい香りがリーダーの鼻をくすぐった。
    「ご注文をどうぞ、ご・主・人・様♪」
     にっこりと満面の笑みをうかべたまるみがぱちっとウィンクを一つ。
    「それじゃぁ、3人一緒に……」
     リーダーがデレデレしながら3人を抱きしめようとその身体に腕を回そうとした時。
    「……男滅びろー!」
     朝乃が思い切りリーダーを蹴り飛ばした。
    「な、なんで……」
     嘘だったと信じたくないリーダーが朝乃に向かって手を伸ばそうとするがその手を煉糸がはたき落とす。
    「わりぃーけど、淫魔と違っておさわり禁止だ」
     そしてリーダーの目にはもう一つ信じられないものが映る。先程倒したはずの秋夜が立ち上がっていたのだ。
    「貴様……」
     限界を超えた肉体を魂の力だけで支え立ち上がった秋夜は力強く宣言した。
    「そぉれ! 反撃開始だコノヤロ!」


     炎を宿した槍を振るう秋夜に続けとばかりに灼滅者達は攻撃の手を休めない。
     煉糸が高速で操る鋼糸の動きを捉えることは容易なことではない。細く堅い糸がリーダーの身体を切り刻んだ。
     さりげなくリーダーと距離を取ったまるみは巨大な斬艦刀を両手で握った。精神を集中し、強烈な突きを何度も繰り出した。
    「ふふふ、隙だらけだよー♪」
     まるみの攻撃でリーダーが怯んだ隙を逃さない竹緒。閃光百裂拳を容赦なく浴びせる。
    「へぶっ」
     そのままリーダーは動かなくなった。慌てたのは最後に一人残された配下。
    「うわぁぁぁ」
     店を出ようと一目散に扉へと向かうが、その動きを見逃す灼滅者達ではない。
    「おっと、逃がさないぜ」
     素早く刹那が逃走経路を阻むように立ち塞がり、影縛りで相手を絡め取るように攻撃する。配下が戸惑いを見せた隙に煉糸の鋼糸がその足に巻き付き、動きを封じた。
    「…………」
     カミーリアが右の手に構えた銀色の裁断鋏をシャキンと鳴らす。何だ? と音がした方に視線を向けた次の瞬間、カミーリアは身を屈めると素早く敵との距離を詰め、その懐へ一気に飛び込んだ。
     ――ジャキーン。
     何か固いものを刻む無機質な金属音が響き、カミーリアの裁断鋏の刃が血色に染まる。
     初めての戦闘。最初は仲間の足を引っ張らないようにと思っていたが、いざ戦場に立つとまた別の想いが湧き上がる。
     ――自分を救ってくれた人達へ近づくことは出来ただろうか。
     雅史が自らの腕を傷つけると流れ出た血は紅蓮の炎へと姿を変える。
    「これで終わりだ」
     雅史の炎が配下を包み込み、全てが燃え尽きた時には、そこには何も残っていなかった。

    「終わったならさっさと帰ろうぜ」
     秋夜の言葉に刹那が頷き、煉糸とともにバリケードをかき分け出口へ向かうと仲間達もそれにならう。
    「納得いかない!」
     朝乃はむぅっと口を尖らせる。得意な演技が活かせたことは嬉しい。だが、何が納得できないかって……。
    「これ、きっと誰がやっても効果あるよ!」
     ぷんすか怒る朝乃に同意する竹緒。そんな2人を雅史がまぁまぁと宥め、出口へ促す。
     カミーリアは近くに淫魔が戻ってきていないか、警戒しながら店の外へ出たが敵の気配はない。杞憂だったことにほっと胸を撫で下ろした。
    「あ!!」
     店から出ようとしたまるみが大きな声をあげる。
    「ここって明日も普通に営業……? それなら……って、あれ?」
     はたと気がつくと仲間達はみんな店の外。
    「待ってください! みんな、後片付けしないと……!」
     慌ててまるみも仲間を追いかけ、店を後にするのだった。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 11
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