狩猟遊戯 蜘蛛を10体狩ってこい

     ――ガサガサ、ガサガサ。
     取り壊されることなく打ち捨てられ、今では決して人の立ち寄らぬ廃ビルの中で、異形の蜘蛛たちが蠢いていた。
     果たしてどこから集まったのか、その数は十に届く。それらはみな人間並のサイズであり、しかも悉くが腹に禍々しい口を開けて、獲物がやってくるのを待っているのだった。
     中でも一際派手な色合いをした巨大な一匹は、鋼の如き強靭な糸で巣を構築していた。そして己が蜘蛛たちの統率者だとでも言うように、堂々たる姿で鎮座していた。
     彼らは個体でも一般人にとって十分な脅威となるが、それがこれだけの群体となっているのだ。
     ひとたび野に放たれれば、繰り広げられるのは阿鼻叫喚の絵図であることは間違いない。

    「エクスブレインってのも因果なもんだぜ、こういう気持ちのよくない景色も問答無用で見せられるんだからな……」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はげんなりした様子で、予測の内容を語る。
    「放置された廃ビルに、はぐれ眷属のむさぼり蜘蛛が十体ほど住み着いてるようでな。こいつらを始末してきてほしい」
     蜘蛛たちはビルの中に巣を張って、人が迷い込んでくるのを待ち構えている。
     一般人がビルに入って襲われるなどという事態は看過できない。それに万が一蜘蛛たちが、何かの拍子にビルの外へ出るようなことがあれば、大惨事となることは必至だろう。
     故に、蜘蛛たちを掃討することもまた灼滅者としての使命である。

    「連中は数は多いが、戦闘力は大したことはない。お前らなら大丈夫だろう」
     ただし敵の中に一体、かなり強力な個体が紛れ込んでいるらしい、とヤマトは続ける。
    「こいつは攻撃力も防御力も他の連中を上回ってやがるから、灼滅者といえど油断はできないぜ。
     しかも、かなり強力な糸を出してこちらの動きを封じてくるようだ。注意してくれ」
     また、戦場となるビルは資材が若干放置されてはいるが、戦うのに支障はないだろう。ただし蜘蛛の糸が張り巡らされているので、そこだけは注意が必要だ、との言葉でヤマトは説明を終えた。
     敵は数が多く厄介だが、個々の力は灼滅者の敵ではないのだ。
    「連中は所詮ただの虫けらだ、存分に暴れてこい!」
     ヤマトの激励を受け、灼滅者たちは各々の得物を手に教室をあとにする。


    参加者
    峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)
    井達・千尋(怒涛・d02048)
    シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)
    倫道・有無(有象無象を厭う有相無相・d03721)
    空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    君津・シズク(積木崩し・d11222)
    石川・銀(アーベントヴォルフ・d14887)

    ■リプレイ


    「さて、害虫駆除といきましょうか。……蜘蛛が苦手な人もいる様なので、さっさと終わらせましょう」
     はぐれ眷属が潜む廃ビルを前にし、前衛を務める銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)は苦笑いを浮かべながら言う。
     物言いたげな紫桜里の視線の先では、般若心経扇子で口元を覆っている倫道・有無(有象無象を厭う有相無相・d03721)が忌々しげにビルを見据えていた。
    「灼滅者としての覚悟を決める手始めに、眷属依頼ならば心配もないだろう――そう思っていたのに、まさか相手が蜘蛛とはね……」
     あくまでも創作のネタのために灼滅者をやっている有無だが、近頃はどうにもその雲行きが怪しい。加えて相手が苦手な蜘蛛とあって、内心ではかなり戦々恐々としていた。
    「ほら、前衛だろう。先に行きたまえ、石川くん」
    「いや、先行くのはいいけどよぉ、どんだけ苦手だよ。ビビりすぎだろ」
     一方的に有無の盾にされている石川・銀(アーベントヴォルフ・d14887)だが、それほど不快でもないのか、愉快そうに軽口で返す。
    「ビビっていようと何だろうと構わないさ、ちゃんと仕事をしてくれればな」
     峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)は退屈そうに言った。強敵との戦いを求める彼女にとって、今回の敵はそれほどそそる相手ではなかった。
    「確かに所詮はぐれ眷属、ただ倒すだけじゃつまらないわね。
     そうだ! 相手は十体もいるんだし、何匹蜘蛛を倒せるか競争しましょう!!」
     君津・シズク(積木崩し・d11222)の提案に、同じく物足りなさを感じていた数人が興味を示した。
    「いいね、俺は乗るぜ?」
     最初に話に乗ったのは空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)だった。『なるようになるさ』が信条の彼だが、こういう余興もたまには悪くない。
    「なら俺もやるわ、んでやるからには負けねぇ。頼むぜ、葛桜」
     眼鏡を戦闘時用のゴーグルへと着け換えていた井達・千尋(怒涛・d02048)も、参戦を表明してかたわらの美しき霊犬『葛桜』を激励する。
    「では折角なので私も。でも皆さん、重要なのは競争じゃないですからね?」
    「そうですよぉ。あんまり油断をしていると危ないですぅ」
     仲間をたしなめる紫桜里に続くように、シャルリーナ・エーベルヴァイン(ヴァイスブリッツェン・d02984)もまた、おどおどした口調ながら仲間へ注意を促す。
     そして灼滅者たちは、蜘蛛の潜むビルへと足を踏み入れた――。


     薄暗いビルへと入った瞬間から、空気が一変した。
     そこかしこに張られた巣は、形状だけならば普通の蜘蛛のものと同じだ。しかし人の身の丈を超えるそのサイズに、否が応にも敵の巨大さを思い知る。
     ――そして、確実にいる。今まさに見られている。それを、先行していた銀とシャルリーナは油断なく察知した。
     敵がこちらを待ち構えていると確信した銀は、両手のWOKシールドを展開しつつ、敵の攻撃を引き受けるべく真っ先に突撃した。
    「――まァ見てな、守ってやっから」
     紡がれた言霊はただ何気ない独白のようで――しかし彼が軽薄な態度の奥に秘めた、病的なまでの守護欲を象徴する言葉だった。
    「大きな蜘蛛、やっぱり怖いですね。でも放ってはおけません、他の人へ被害が及ばない様にここで倒します……!」
     全身に青白い稲妻の如きオーラを纏うシャルリーナも、必ず仲間を守るという強い意志と共に先陣を切った。
     この二人を標的と認識したらしき数体の蜘蛛が、物陰から飛び出し襲い掛かる。
    「おらおら、蜘蛛さんこちらですよー!」
     敵の注意を引くよう雷のオーラを過激に輝かせながら、銀は拳を敵の一体へと叩き込んだ。
     技術的工夫の一切ないあくまで野性的な殴打。だがそれ故に、はぐれ眷属のような知能の低い敵の目を引く。
    「貴方たちを、野放しには出来ませんから――!」
     シャルリーナはまず己の能力を高めるべく、『Blitzschlag』の紫電を纏った殺意を敵の一群へと放出する。
     そこへ、ハンマーを振り上げたシズクが迫った。渾身の力を込めた一撃で各個撃破を狙う。
     ハンマーを食らった敵は影から出現したトラウマの攻撃を受け、グズグズと崩壊していく。
    「よし、まずひとつ! 私が先制点ねっ!」
    「では私も、……いきます」
     自身を奮い立たせるべく小さく呟く紫桜里も、眼前の敵集団へと鏖殺領域を放った。そのうちの弱っていた一体が、紫桜里の殺気を受け沈黙する。
    「これで私もひとつ、ですね」
     更に高速のスケートボードで敵の合間を掻い潜る空牙が、ナイフを振い毒の旋風で敵を斬り裂く。
    「とりあえず吹っ飛べ! ってかみんないいとこ取りかよ!?」
     空牙の放った毒に侵された蜘蛛へと、灰桜色の霊犬が飛びかかった。
    「うわキメェ! つーかなんでそこに口がついてんだよ!」
     葛桜に敵を誘導させつつ、千尋は光刃を放ち無防備に開かれた腹部の口を撃ち抜く。

     そして灼滅者たちとの戦闘が本格化したことで、潜んでいた残りの蜘蛛も迎撃にやってきた。
     前衛の銀は一際派手に立ち回りながら、両手の盾を駆使し蜘蛛たちの攻撃から仲間を庇っている。
     しかし最後に現れた一際巨大な蜘蛛の顎が、シールド越しでありながら銀の腕を深々と切り裂いた。
    「――ック! だがこのくらいへーきだ、何ならそこでただ見ててもいーんだぜ、『お姫サマ』?」
     ヘラヘラと軽口を叩く銀だが、己を頼りにする有無のことは特に守ってやらねば――という使命感があった。
    「ハハッ! いい具合に盾になってくれているじゃないか、石川くん!!」
     敵を逃さないためか、はたまた貴重な舞台を見逃さないためか、有無はバベルの鎖を右目へと集中させながら哄笑をあげる。
    「喋っていないで早く敵を減らせ、囲まれるぞ」
     深手を負った銀を歌声で癒やしながら、清香は仲間たちへと警告する。彼女の言う通り、蜘蛛の群は灼滅者たちを包囲しつつあった。


     ボス蜘蛛は強靭な糸を飛ばし、戦場全体へ網のように張り巡らせる。灼滅者たちを威圧され、攻め難い状況を強いられる。
    「なんとか敵の包囲を破らないと! その脚、断ち切らせて貰います……!」
     シャルリーナは青白い電光を走らせながら、鋭い蹴りで敵の脚のいくつかを切り落とす。全てを切り落とすことはかなわないが、それでも敵の動きを鈍らせるのには十分だ。
    「ふたーつ! ったく、攻撃しようにも糸が邪魔ねぇ!」
     そして動きの鈍った敵へ、シズクが糸を躱しつつ接近する。ロケットの轟音を撒き散らしながら強烈な一撃のもと敵を粉砕した。
     紫桜里も愛刀『月華美刃』を抜き放ち、瀕死の敵の一体へと間合いを詰める。
    「……ふたつ。とにかく、まずは敵の数を減らしましょう」
     素早く背後へ回り込んだ紫桜里は、一太刀のもとに敵を斬り伏せた。
     紫桜里の言葉に応じ、空牙もまたスケボーで巧みに糸を躱しながら、負傷している蜘蛛二体へと殺気の塊を叩き込んで止めを刺す。
    「ヒーホゥ! 殺気だけでも案外狩れるな!」
     有無は身に纏う倫道式舞台幕『黒外套』を翻しながら、口を狂喜に歪めながら魔法の矢で離れた敵を狙い撃つ。
    「顕現せよ、『夢落ち』!」
     有無の放った矢は、狙い過たず標的へと命中した。
     ――が、たまたま射線が掠めた別の蜘蛛が、反射的に反撃しようと有無へと向かう。
    「おお、来たぞ! 石川くん、ちゃんと私を守りたまえよ!!」
     有無は自身を狙う敵から距離を取って逃れる。しかし蜘蛛は脚を不気味にうごめかせながら、凄まじい速度で有無との間合いを詰める。
    「ちょ――!? 貴様、私の方へ来るんじゃない! おいさっさと守れ、石川ぁ!!」
     蜘蛛は禍々しく腹部の牙をむきながら、有無へと襲い掛かる。
     ――直後、開かれた蜘蛛の口へと銀の拳が突き込まれた。鋼鉄と化した拳による渾身の殴打は、一撃のもとに敵を体内から粉砕し絶命させる。
    「お怪我はありませんか、お姫サマ――なんつってな。盾役を了承したからには、全力で守ってやんよ」
    「ハ、ハハッ! 殊勝なことではないか、石川くん!」
     そう言う銀は既に満身創痍だが、笑顔すら見せながら有無の手を引いて立たせる。
    「おいおいそこの高二男子二人ー。男同士でイチャついてんなよー」
    「つーか、倫道さんたちさっきから何してんすか……」
     愉快そうに笑っている空牙に応じるように、千尋は呆れたように続ける。
    「あー、ベタつく糸だな! 気色悪ぃ!!」
     そして咄嗟に邪魔な糸をバスターライフルで払い除けつつ、千尋は狙い澄ましたマジックミサイルで最後の雑魚を撃破した。
    「あんまりやかましいと、エンジェリックボイスと間違えてディーヴァズメロディかけるぞ」
     清香は天使の歌声にそんな剣呑な意図を乗せながら、負傷した仲間を癒やす。

    「皆さん、あとはボスだけです! にしても、ちょっと気持ち悪いですねぇ……」
     シャルリーナは電光のオーラで自らの傷を癒やしながら、残った巨大な蜘蛛の攻撃を引き受ける。
    「よーしみんな、ボスは三点だからね! おりゃあっ!!」
     そう言うとシズクは、回転しつつ一息に巨大蜘蛛へと接近し全力で殴り付ける。
    「……では、負けていられませんね」
     言いつつ紫桜里は後続の仲間のため、上段に構えた月華美刃の斬撃で敵の攻め手を妨害する。
    「あーくっそ、ガサガサガサガサ気色悪ぃわ!! 邪魔なんだよキメェんだよさっさと消えろ!!」
     千尋は霊犬に敵を引き付けさせながら、素早く敵の背後に回り込みつつ光の刃で攻め立てた。
    「――『狩ったり狩られたりしようか』。ほら、味方を盾にした分は働いて返せ」
     清香は発破をかけつつ、解放した天星弓に矢をつがえた。そして放たれた矢は有無を狙い撃つ。
     だが込められた霊力は有無を傷付けず、彼の釣り上がった右目のバベルの鎖を、更に強固なものにする。
    「ハッ、分かっているよ峰くん! だが援護には感謝するぞ――顕現せよ、『氷の女王』!」
     敵が減ってようやく余裕が生まれたのか、有無は扇子で目元を隠しながら、しかし狙い過たず魔法でボスを凍り付かせる。
    「ヒーホゥ! ノッてきた! ちゃんとついてこいよ、大蜘蛛!!」
     空牙は華麗にスケボーを操りボスを翻弄しながら、エンチャントで幾重にも強化を施された拳で連打を放つ。
     蜘蛛は全身に強烈な殴打を見舞われ、かなりのダメージを負う。だがそれでもまだ倒れず、反撃とばかりに空牙へと鋼のような糸を放ち拘束する。
    「あーくそっ! 鬱陶しい糸だな!!」
     動きを封じられた空牙へと、なおも追撃をかけようとする蜘蛛。
     ――直後、青白い稲光が蜘蛛へと走った。それは、足に高密度のオーラを収束させたシャルリーナの軌跡だった。
     一筋の閃光だけを残し敵の死角を取るシャルリーナは、そのまま強烈な蹴りを食らわせた。その一撃は蜘蛛の頭を硬い外殻ごと打ち抜く。
     そのまま倒れ伏す蜘蛛は、急速にバラバラと崩壊していく。遂に灼滅者たちは全ての蜘蛛を撃破した。


    「あー、さすがに数が多いから疲れたわ。ってか結局誰がMVP?」
     ビルを出たところで、全身傷だらけの銀が言った。
    「んー、私は二体叩き潰してやったわ! みんなはどうだったの?」
     シズクの言葉に、銘々が自分の戦果を数え始める。
    「ヒーホゥ! 俺も二体だな、これでも狩りまくったつもりだぜ」
    「私も、それくらいかと」
    「おい俺と葛桜もだぞ? なんだよ同率かよ、まぁいいけどな。ってことでおつかれさん」
     けらけら笑う空牙や紫桜里に続く千尋は、仲間を労うと『よくできました』と相棒の頭も撫でてやった。
    「……一体。まぁ? 俺は守るのにも神経使ってたかンなァ、仕方ねーよなァ。……負け惜しみじゃねーし」
    「なぁに、白川くんはよく働いてくれたよ。お陰で私はこの通りの無傷、いや重畳重畳」
     どこまでも高慢な態度の有無だが、それは有無なりに銀を労う言葉だった。
     事実、銀は仲間の中で一番負傷の度合いが高い。灼滅者としての経験不足もあるが、何よりそれだけ仲間を庇っていたということだ。
    「……でも確か、シズクがでかいのを倒したら三点だとか言ってなかったか?」
     撃破数競争の趨勢にはそれほど興味のなかった清香だが、ふとそんなことを思い出したので一応言っておこうと思った。
    「あ! そうだった!! で、確かボス蜘蛛やっつけたのは……」
     シズクの言葉に、全員の視線が一つに集まった。
    「えぇ~! わ、私ですかぁ?」
     注目を浴び困惑するシャルリーナは、戦闘中とはうってかわった素の弱々しい声音に戻る。
    「ハハッ、これは傑作! いい具合に落ちがついたじゃないか」
     面白いものを見たとばかりに、有無は心底愉快そうに笑った。
     最終的な撃破数競争の優勝者は、最も仲間を案じていたシャルリーナ――という結果に終わったのだった。

    作者:AtuyaN 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 15
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