阿佐ヶ谷地獄~暁闇に死が馨る

    作者:階アトリ

    ●地獄のはじまり
     まだ辺りの暗い早朝。
     始発前でしんと静かな地下南阿佐ヶ谷駅から、何かおぞましいものが蠢き出て来る。
     それは、アンデッド達の群れ。
     徒党を組んで歩くアンデッドたちの手には、ナイフが握られている。果物ナイフといった日用品ではなさそうな、何かの儀式にでも使うようなナイフだった。
     大量に這い出てきたアンデッドたちが、暁闇の中で不吉に輝くナイフと共に、阿佐ヶ谷の市街地へと散ってゆく。
     住宅街にたどり着けば、アンデッドたちはまだ住人の寝静まっている住宅に、窓を割り鍵を壊して侵入し、住人たちを次々と攻撃した。
     多くの人々は、悲鳴を上げる暇さえなく死んでいったが、ナイフに刺された人間のうちのいくらかは、人ならぬ怪物と化した。
     青い巨体の怪物たちによって、阿佐ヶ谷一帯が破壊されてゆく……。
     
    「……非常に、緊急性の高い事件、です」
     祝乃・袖丸(小学生エクスブレイン・dn0066)は、教室に集まった灼滅者たちに、そう切り出した。
    「鶴見岳の戦いで戦った、デモノイドが阿佐ヶ谷に現れました。
     このままでは、阿佐ヶ谷地区が壊滅してしまいます。急いで現場に向かってください」
     袖丸は感情で声が乱れぬよう、焦りで早口にならぬよう努力しながら、事件の概要を灼滅者たちに伝えた。
     デモノイドは、ソロモンの悪魔『アモン』により生み出された筈だが、今回は何故か『アンデッド』による襲撃で生み出されている。
     アンデッド達は、儀式用の短剣のような物を装備しており、その短剣で攻撃されたものの中からデモノイドとなるものが現れるらしい。
    「未確認ではありますが、少し前にソロモンの悪魔の配下達が行っていた儀式に使われていた短剣と同様のものである可能性もあります。
     一体何が起こっているのか……。
     不明な点はありますが、今は、これ以上の被害を生み出さない為に、アンデッドと、そして生み出されてしまったデモノイドの灼滅をお願いします」
     そして、袖丸は自分の解析した事件現場についての説明を始めた。
     
    ●起こってしまった悲劇
    「何なの、何なのよぉ」
     早朝、夜勤の仕事から自宅に帰ってきた女性は、自家用車での帰宅途中に見た異様な光景に度を失っていた。
    (「あのゾロゾロいたの、ゾンビ? それに、何なの、あの、青い大きいの!! ゾンビも、大きいのも、すごく……汚れてた……」)
     街灯や車のヘッドライトに照らされて見えた、赤い色が忘れられない。
     いつもなら家の前庭に丁寧に車を入れて、家族の眠りを覚まさぬよう静かに玄関を開けるのだが、今朝ばかりはそうもいかない。
     家の前の道路に雑に駐車すると、門の中に駆け込む。
     ガタガタと震え、やかましく音をたてながらポケットから引っ張り出した鍵を、扉の鍵穴に差し込もうとして――彼女はビクリとした。
    「……壊れてる……」
     ノブをくり抜くようにして鍵を壊されたドアを、女性は呆然としながら開いた。
     家の中はしんとしている。この時間の帰宅なら、いつものことだ。けれどいつもと違うのは、匂い。
     生臭いような、鉄臭いような……医療関係の仕事に従事している彼女には馴染みのある匂い。けれど、自宅でこの匂いを、こんなに濃く感じるなど。
    「父さん……母さん?」
     脳内に警鐘が鳴り響いていたが、家族を思う気持ちが彼女の危機感をマヒさせた。
     ふらふらと家に入ると、寝室を覗き、そして、布団の上で血塗れになっている両親を発見する。
    「ああ……っ」
     腰を抜かしそうになりながらも、携帯を取り出そうとポケットに手を入れた女性は、背後に恐ろしい気配を感じて振り向いた。
    「ひっ!?」
     そこに居たのは、青い怪物だった。人間のようなかたちをしてはいるけれど、とても人間とは思えない異形。
     それがデモノイドと呼ばれる存在であることなど、彼女には知る由もない。
    「あ……!」
    「おぉ……うああ……!」
     デモノイドの腕が、女性に向かって振り下ろされる。それは、助けを求め縋りつく動作のようにも見えた。
     けれど、その腕は縋りつくには強靭すぎて。
     鈍い音と共に、血飛沫が上がった。
     その瞬間に、女性が叫んだのは弟の名前だった。両親の寝室の奥にある、弟の寝室に向かって、声を限りに名を呼び、そして、逃げて、と。
     壮絶なほどの祈りを籠めた叫びを残し、女性は息絶えた。
    「うおお……おああ……!」
     ボタボタと返り血を滴らせ、呻き声を上げながら、デモノイドは玄関を破壊し外に出てゆく。
     奥の寝室からぞろぞろと出て来たアンデッドたちがそれに続いた。手には、血に濡れてギラつくナイフ。
     アンデッドたちの、次の標的は隣家だ……。
     
    「皆さんには、この民家のデモノイドと、ナイフを手にしたアンデッド4体の灼滅をお願いします」
     袖丸は簡単な地図で、場所と到着時の状況とを説明した。
    「皆さんは、デモノイドとアンデッドたちがその家の玄関から出て来るところに鉢合わせることになります」
     震える唇を、袖丸はぎゅっと噛み締める。間に合わないのだ。その家族を助けることは、できない。
    「家の前は、コンクリートで固められた庭が広めに取られています。
     広さ、足場共に戦闘に問題ありません。
     玄関から出て来たデモノイドと、それに続いて出て来るアンデッドたちと、そこで戦うことができます。
     デモノイドはアンデッドたちの命令を聞いたりするわけではないですが、力の限りに暴れて破壊と殺戮を繰り広げます。アンデッドは、逃せばその後も次々と近隣の家を襲ってゆくでしょう。
     ですから、せめて、そこで食い止めてください」
     アンデッドたちはさほど強くはないが、デモノイドは全員でかかってやっと対等なくらいの強さらしい。
    「愛知の事件では、デモノイドとなった人をすくうことは出来ませんでした。
     今回も、それは変わらないのでしょうか……」
     独り言のように言った後、袖丸は頭を振った。
    「僕はまだあまり、このあたりの地理には明るくないのですが、阿佐ヶ谷というと、ここ……武蔵坂からとても近いですよね。
     そのことも、少し気になります。
     ですがともかく、これ以上の悲劇を起こさないために、現場に向かってください」


    参加者
    風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)
    城代・悠(月華氷影・d01379)
    瑠璃垣・絢(ペインキラー・d03191)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    多々良・鞴(囁き祈る祓魔師・d05061)
    天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)
    パール・ネロバレーナ(殲滅型第六素体・d05810)
    天城・兎(二兎・d09120)

    ■リプレイ

    ●辺りは死の匂いに満ちて
     どこからともなく聞こえてくる、破壊音と、悲鳴。未明の阿佐ヶ谷には不穏な空気が満ちていた。
     エクスブレインから依頼された場所へと、ひた走る灼滅者たちのグループがここに1つ。
    「なんでこんなことに……」
     多々良・鞴(囁き祈る祓魔師・d05061)は、急ぎ駆けながら呟く。呟かずにはいられない。
    「あの家ですね!」
     地図を頭に入れてきた桐谷・要(観測者・d04199)が指さした先には、1軒の家がある。その前の道路には雑に駐車されている乗用車があり、そして、今まさに。
    「うぉ……うおああああ!」
     青い巨体が振り回した腕が、その乗用車に当たったところだった。フロントガラスが粉々になって散る、破砕音が響き渡る。
    「……任務、開始だ」
    「ああ。……さって、飛ばして行こうじゃねーか」
     風嶺・龍夜(闇守の影・d00517)に、城代・悠(月華氷影・d01379)が頷き、前へと出て行く。その行く手には、デモノイドの後ろからぞろぞろと門を出て来たアンデッドたち。水銀灯の明かりに、彼らの持ったナイフが光る。
     これからまた別の家を襲って、デモノイドを増やそうとしているのだろう。未明の住宅街の明るさでは、戦闘に支障はなくとも相手が手に持ったものまでしっかり見ることは出来ないが、アンデッドたちの持っている中に儀式用のナイフがあるのかもしれない。
    「絶対にここで食い止めるよっ! 蒼桔梗、天の羽と参る!」
    「起動……機動……対象を殲滅します」
     天羽・梗鼓(颯爽神風・d05450)がカードを掲げ。パール・ネロバレーナ(殲滅型第六素体・d05810)は機械的な声での呟きと共に。封印を解除すれば、一瞬にして武装が完了する。
     スナイパーの梗鼓が後衛から天星弓・『昴』の弦を引き、溜めた力を放てば、アンデッド達の上に降り注ぐ百億の星。その瞬きの上に、クラッシャーのパールが左手のサイキックソードの光を爆裂させ、アンデッドたちの武器を封じた。
    「なるべくみんなをかばってね!」
     梗鼓は次の一手に向けて弦に手をかけながら、きょし(霊犬)に命じ前衛へと送り出す。ポメラニアンの丸い尾が、主の期待に答えて見せますという気合を込めて、ふるふると振られた。
    「赤兎はデモノイドを」
     天城・兎(二兎・d09120)は赤兎(ライドキャリバー)にデモノイドの元へと向かわせると、自らはアンデッドたちと対峙する。
    「お前らはどこにも行かず死んでいけ」
     その一言と共に、兎は龍砕斧・白兎で骨をも断つ一撃を、先頭の1体へと叩き込んだ。
    「ああ、先にアンデッド殲滅だったな。『少し荒く行くぞ?』」
     解除コードを悠が口にした直後、ブラックスーツに包まれた身体に、城代式闘気『怪力乱神』がほとばしる。ダメージでふらついているアンデッドに閃光百裂拳を叩き込み、まずは1体倒れた。
    「悪夢よ、来たれ」
     龍夜のは鏖殺領域を展開して残った3体を包み込むと、デモノイドへと向き直る。
    「お前の姉はお前が生きてくれる事を願っていたはずだ!」
    「おあ……ねえ、さ……ううああ……」
     龍夜の声が届いたのか、先程自分が破壊したのが姉の愛車だと気付いたのか。暴れるデモノイドの口から、僅かに人の言葉に聞こえる声が漏れた。
     デモノイドに肉迫しているのは、スロットルを吹かせながら周囲を走って注意を引く赤兎と、瑠璃垣・絢(ペインキラー・d03191)。
    「自分がわかる? 生きたいなら応えて? ……全力で助けるから!」
     豪腕の一撃に晒されながらも、絢は懸命に呼びかけた。しかし、アンデッドへの攻撃で生じた殺気に反応したのだろうか、デモノイドの呻き声はどんどん人らしさを失ってゆく。
    「おぉ……ウガ……」
    「くるし そう?」
     パールが、右手のシールドを広げて同じ前衛の皆をその領域に包み込みながら、デモノイドの声の変化に気付いて呟いた。
     なりたてならデモノイドに人間の心が残っているかもしれないという一縷の望みは、皆意識していた。
     けれど、被害をこれ以上広げないためには、デモノイドを増やそうとしているアンデッドを早期に灼滅するべきと考えるのは当然だろう。仲間の犠牲を覚悟すればあるいは、一方的に敵に攻撃されながらもデモノイドに人間の心を取り戻すよう全員で呼びかけられたかもしれないが、それはこの状況で選ぶには危うすぎる橋だったと言える。
    「闇に囚われないで」
     アンデッドのナイフ攻撃に晒されて毒を受けたクラッシャーたちに、清めの風を吹かせながら、鞴が丁寧な口調で語りかけた。しかし。
    「あなただけでも、生きてください」
    「……ウォ……あ……グガァアアア!」
     鞴のメッセージの後半が、デモノイドの耳に届くことはなかっただろう。言葉の半ばで、デモノイドが腹の底が震えるような唸りを上げたのだ。
     そして。
     それまでは助けてくれる誰かを求めているかのように振り回されていた腕が、明確な破壊の意図を持って、側にいた赤兎へと振り下ろされる。
    「あ……!?」
     絢は間近でその変化を目の当たりにし、思わず悲しみを帯びた声を漏らした。しかし絢の赤い瞳はすぐに強い意志に輝く。暴れるデモノイドを、野放しにするわけにはいかない――戦闘体勢に入ってしまった青い巨躯に向かって、鋼糸をふるう。
    「こちら側へ呼び戻せるのなら、そうしたかった、けど……」
     要は唇を噛み、デモノイド相手にダメージが嵩み始めている絢を闇の契約で回復した。
    「きっと、すごく怖かっただろうね……怖い思いして、家族もみんな……」
     梗鼓は声を震わせながらも、正確に狙いをつけ、力を込めて引き絞った弦を解き放った。彗星のように放たれた矢は、アンデッドの胸を貫き倒す。
    「駄目だ。完全にぶち切れたわ。あぁ、絶対許さない」
     アンデッドたちを相手取りながらもデモノイドの様子を気にしていた兎は、怒りも露に無敵斬艦刀・黒兎を振り下ろした。
     最後の1体だったそのアンデッドが倒れ、手からナイフが落ちる。それらしいデザインのナイフではあるようだが、儀式用のものであるかどうかはわからない。龍夜はデモノイドと対峙しながら、ちらとそれに視線をやる。
     デモノイドを作り出すと思われる儀式用のナイフを壊すことで何らかの変化があればという期待はあるが、全員でかかってやっと対等な相手との戦闘中に、破壊を実行するのは難しかった。
    「姉の心を無にするな! 闇に打ち勝つのだ!」
     龍夜はジャマーとしての行動を優先し、雲耀剣でデモノイドの拳ごとその身を断ちながら、声を枯らして叫んだ。
     しかし最早、デモノイドの喉から発せられるのは、獣にも例えられないような、まさしく悪魔のような恐ろしい唸りと叫びのみ。

    ●見詰めた希望は
     暴れ狂うデモノイドを、アンデッドの掃討を終えた灼滅者たちは全員で取り囲んだ。
    「ウガウアア!」
    「しゃらくせぇ!!」
     振り下ろされた拳を、悠は拳で受けた。白手袋の小さな拳と、青く無骨な巨大な拳。あまりに大きさの違うふたつが、一瞬、ぎりりと拮抗する。まさに悠がまとうオーラの名の通り、怪力乱神といったところ。しかし武器封じが効いているとはいえ一撃の重さの違いで、悠の拳が弾かれる。
    「闇に捕らわれてんじゃねーよ、しっかり心持ちなッ!」
     悠は叫ぶと、その叫びを一緒に叩き込もうとするかのように、白手袋に血の滲んだ拳を大きく引いた。
    「回復します、先輩!」
     要がすかさず、闇の契約で自らの魂の奥底に潜む力を悠に注ぎ込む。
    「起きたら主人公が毒虫に変わっていた、て本を読んだことがあるけど……現実はもっと残酷なのね?」
     デモノイドの変化を目の当たりにしていた絢は、もう説得が通じないことを実感しているのだろうか、軽い感じで言いつつも表情は泣きそうなように見えた。小さく頭を振ると、絢はデモノイドの死角に飛び込み、両手に巻いた鋼糸でその身を守る青い肉の繊維ごと切り裂く。
     戦いは少々長引いていたが、施されたバッドステータスにより、確実に灼滅者側に余裕が出て来ていた。
    「ガアア!」
     デモノイドは咆哮を上げ、自らを癒すが最早ヒールもキュアも追いついていない。深手も増えていた。
    「無事に、戻ってこれたら……武蔵坂学園を紹介します! 悲しい現実が待っていると思いますが、僕たちのように強く生きていけると……」
     鞴は諦めず語りかけながら、仲間たちを次々とヒーリングライトで回復している。
    「アタシの言葉に耳を傾けやがれ! 理性がちっとばかしでも……残ってんだったら!」
     悠も、最後の望みを託すように叫び、鮮血の如き緋色をバトルオーラの上に纏わせて叩き込む。
    「戦うのだ! 姉も、両親も、お前の無事を願っている!」
     龍夜の封縛糸に動きを妨げられながらも、デモノイドは吠えた。
    「がんばって……! もう……聞こえてないのかな……」
     梗鼓は翼のように広がり蒼く光るバトルオーラを祈るように両手に集中させ、放つ。
     諦めなければならないのかもしれない。けれど諦めきらない。
     けれどもう、呼びかけに反応はなかった。
     このまま、倒すしか――ないのかもしれない。
    「家族の下に送ってやるよ」
     兎はなんとか無事だった赤兎にポジションを合わせさて騎乗していた。キャリバーはエンジン音の唸りを上げ、デモノイドの攻撃に耐えその懐に突っ込む。黒兎を掲げ、喉許に放つは戦艦斬り。
     ゆらり、巨体がゆらめいた。
    「ぐ……が、……ごえ……ぎごえだ……げど、おれ、いだぐで、がらだ、おがじぐで、なんが、わげ、わがんなぐ……っ、ごめ……ねえさん……」
     粉砕されたデモノイドの喉が、辛うじて人語に聞こえるうめき声を搾り出す。
     手にかけてしまったことに? それとも、逃げろと言われたのに果たせなかったことに? 何に対して詫びているのかはわからない。それでも、それは、力尽きる前の、最後の魂の輝きとでも言うべき声だった。
    「対象認識……貴方は ヒト……です。よって、『人として送り』ます」
     とどめとなった閃光百裂拳を放ったパールの声には、普段とは違いかすかな感情の色があった。
     青い巨躯が倒れる。
     そして、アスファルトの上でぐずぐずと溶け崩れ、原型をなくしていった。
     静かになった現場には、破壊された自家用車が残された。ふと見れば、デモノイドが出て来た家の門柱には苗字の書かれた表札がかかっていた。郵便受けには、取り忘れていたのであろう昨日の夕刊。誰ももうそれを読まないだろう。この家に住んでいた一家の、全員が失われてしまったのだから。

    ●帰還
    「救えなかった……」
     最後まで語りかけていた鞴は気落ちしている様子だった。
    「さって、仕事終了! お疲れさん、お前ら」
     敢えて明るく元気付けるように、悠が皆に声をかける。周囲を警戒しつつ、だ。今回のこのような事態を招いた黒幕が、どこかから様子をうかがっていないとも限らない。
    「黒幕は、この近くにはいないみたいだね」
     もしものこのこと顔を出したら闇堕ちしていたところだと、兎が悔しさを込めた視線で周囲を見回した。
    「少しでも ひとのまま おくれた?」
     パールが呟く。
    「ごめんね、お休みなさい。……仇はちゃんと、取るから」
    「あっちで待ってるよ。早くお行き」
     絢がデモノイドの倒れた場所に向けて呟き、兎が鎮魂歌を口ずさみながら花を手向ける。
    「助けてあげられなくて、ごめんなさい……」
     梗鼓はそっと手を合わせた。亡くなった全ての人に対して。
     武蔵坂学園を出発したほかの仲間たちも、上手く被害を抑えられただろうか。失われた命は戻らないが、せめてこの阿佐ヶ谷に死が氾濫するのをここまでで阻止できていればよいのだが……。
    「体調の変化はないですか?」
     要はアンデッドのナイフで傷を受けた仲間たちに、何かの悪影響がないかどうかを訊ねて確かめている。幸いにも、誰も不調も変化も感じておらず、受けた傷もサイキックで塞ぐことができた。
     デモノイドが暴れて滅茶苦茶になった現場に、1本だけ回収できそうなナイフがあったので、複数の意見があって武蔵坂に持ち帰ることになった。念のため、要がナイフをハンカチに包んだ。
    「任務、完了だ……」
     龍夜が、皆を促すように、一足先に闇に消えた。
     そう、気になることは多いが、まずは速やかに学園に戻らねばなるまい。
     灼滅者たちは、血と死の匂う阿佐ヶ谷を後にした――。

    作者:階アトリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 5/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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