ずずずず……。
午前四時になる少し前、その異変が起きた。
地下鉄阿佐ヶ谷駅の線路を通って。
「うううう……」
「ああああぁ……」
アンデッドだ。ゆっくりとゆっくりと駅から這い出すと、アンデッド達はそのまま、市街地の住宅に潜入し。
「きゃあああ!!」
「や、やめろぉーーっ!!」
次々と寝ていた人々を襲っていく。
そのアンデッド達の手には、儀式用に細工を施された短剣が握られていた。
教室に入ってきた灼滅者を見るなり、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、真剣な眼差しで用件を切り出した。
「鶴見岳の戦いで戦ったデモノイドが、今度は阿佐ヶ谷に現れました。このままでは、阿佐ヶ谷地区が壊滅してしまいます。急ぎ、阿佐ヶ谷に向かっていただけませんか?」
姫子は続ける。
「デモノイドは、ソロモンの悪魔『アモン』により生み出された筈ですが……今回は何故か『アンデッド』による襲撃で生み出されているようなんです。また、アンデッド達は、儀式用の短剣のような物を装備しており、その短剣で攻撃されたものの中からデモノイドになるものが現れるようなんです。未確認ではありますが、その短剣は、少し前にソロモンの悪魔の配下達が行っていた儀式に使われていた短剣と同じものである可能性が高いようなんです……」
そういって、姫子は灼滅者達の顔を、もう一度、見回す。
「ですが、今は……これ以上の被害を生み出さないため、アンデッドと、そして生み出されてしまったデモノイドの灼滅をお願いします」
いくつもの叫び声が聞こえる。
助けてと呼ぶ、声が響き渡る。
平和そのものだった市街地が、一変に地獄へと変わってしまった。
そして、生み出される。
「グオオオオオオオッ!!!」
アンデッドの手によって、新たに目覚めたデモノイドが、またここに1体。
それを止められるのは、灼滅者である、君達だけ。
「どうか、この惨劇を……止めてください。皆さんの手で」
悲痛な瞳で、姫子はそう、灼滅者に頭を下げるのであった。
参加者 | |
---|---|
三十日部・牛肉(ウェストがゆるキャラ・d00142) |
刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445) |
高嶺・由布(小学生神薙使い・d04486) |
デルタ・フリーゼル(物理の探究者・d05276) |
風眞・ユイ(コスモス・d05474) |
桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758) |
葛葉・ゆう(碧色・d07079) |
龍統・光明(千変万化・d07159) |
●集う仲間達
エクスブレインが事前に示した場所に彼らは集まっていた。
辺りはまだ薄暗いものの、街頭も灯っており、視界には問題ない。
あるとすれば、そう。
「うううう……」
「あああああ……」
唸り声を出すアンデッド達と。
「グオオオオオオオッ!!!」
目覚めたばかりのデモノイドだけ。
「ナイフで伝染るデモノイドとか……ゾンビゲームみたいだにゃん」
目元を髪で隠した三十日部・牛肉(ウェストがゆるキャラ・d00142)が、思わず呟く。
「命をこうも軽く弄ぶとは許せんな」
そう、刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)は怒りをあらわにする。
「何にせよ、灼滅者として放置は出来ませんね」
その横で、眉根を顰めるのは、高嶺・由布(小学生神薙使い・d04486)。
「ソロモンの悪魔によって作り出された存在と聞いたが、人々に危害を加える者は放ってはおけない」
デルタ・フリーゼル(物理の探究者・d05276)も静かに彼らを見据える。
「ふふ、じゃあ、本気だしちゃおうかな?」
隣でくすくすと楽しげにカードを弄ぶのは、風眞・ユイ(コスモス・d05474)。
「それじゃあ、行くよ」
葛葉・ゆう(碧色・d07079)は、目を瞑り、軽く十字を切って、祈りを捧げると。
「武装開放っ!」
そう叫ぶと同時に、自身の身長と同じ大きさのバスターライフルをしっかりと構えていた。
「じゃあ、こっちも! イッツ・ショータァーーイムッ!」
桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)も、指で挟んだカードを真上に掲げ、一瞬光に包まれたかと思うと、服装が戦闘時のものへと変化した。真上に飛び出してきたバイオレンスギターをしっかりキャッチして、バッチリポーズを決めている。
「全く、ふざけた事をしてくれる奴らだ。皆、これ以上、被害を拡大させる訳にはいかない。此処で退場願おう」
龍統・光明(千変万化・d07159)が手にしていた日本刀を引き抜くと同時に、彼らはデモノイド達へと向かって、躍り出た。
●デッドオアライブ
灼滅者達が選んだ策は、こうだ。
先にアンデッド達を滅ぼし、デモノイドを倒すこと。
そのため、牛肉、刃兵衛が前衛でデモノイドを抑え、ユイが中衛で両方を補助でサポート、一方アンデッドは前衛の光明が叩き潰していき、後衛のデルタとゆうがアンデッド優先に攻撃。また、由布と月夜が後衛で回復を担うことになっている。
最初に動いたのは、月夜だった。
「少しでも有利な状況でっ!!」
パッショネイトダンスを使い、アンデッド達へ先制攻撃を与える。怯むアンデッドの中に入っていくのは、光明。彼に一番近いアンデッドに向かって、オーラを集束させ、凄まじい連打を繰り出す、閃光百裂拳を浴びせ、1体を早々に沈めた。
「此方の方が得意でな」
かちりと日本刀を構え直し、光明は次の攻撃に備える。
その間に、デルタが自分の魔力を宿した霧、ヴァンパイアミストを展開させる。
「ほら、いくよっ!!」
ユイも牛肉へと、分裂させた小光輪を味方の盾として発生させた。
援護を受けて、牛肉と刃兵衛もデモノイドを抑えるためにと前に出た。
「こっちは任せろ!」
「グアアアア!!」
刃兵衛がすぐさま、デモノイドの死角から、弱点と思われる部分を斬りつけ、足止めを行う。
牛肉も負けては居ない。
「あっち向いて……どーん!」
闘気を雷に変換して拳に宿し、飛び上がりながらアッパーカットを繰り出し、デモノイドを攻撃しながら、自身の強化を図っていた。
だが、アンデッド達も黙ってはいない。
デモノイドを援護するかのように牛肉と刃兵衛へと向かうアンデッドを。
「そっちにはいかせないよっ!!」
ゆうが放つ、バスターライフルからの強烈な光線で怯ませることに成功。
「これで止めです!」
由布も激しく渦巻く風の刃、神薙刃でアンデッドを切り裂き、また1体、アンデッドを滅ぼすことに成功した。
どうやら、先制したお陰で、戦場は灼滅者に有利に運んでいるようだ。
次々と仲間達を強化しつつ、灼滅者達は、アンデッドに攻撃を重ねていく。
それもつかの間。
「グオオオオオーーーーンっ!!」
巨大な爪を振り回し、デモノイドが前衛に居た二人を投げ飛ばしたのだ。
「くっ!!」
「鬼さんこちら……あいたぁ!」
陣営が崩れた隙に、残ったアンデッド達が止めと二人に向かっていく。
「いかせるかっ!! 蜂の巣にしてやるっ!!」
とっさにデルタが放ったガトリング連射で、何とか1体を仕留めることに成功。
「絶対に誰も怪我させない!」
ゆうもバスタービームでデモノイドを牽制していく。
しかし……傷を抑えつつ、なんとか立ち上がった刃兵衛へと、デモノイドの一撃が迫っていた。
「しまっ……!!」
構える隙もなかったが。
その一撃は、来なかった。
「ゆ、ユイっ!?」
「全くもう、手加減ってやつを覚えて欲しいよね」
すぐさま裂帛の叫びで自分の傷を癒す。
「ホント、いったあい」
シャウトを使っても、体力の半分しか癒しきれない。
その間にも、ゆうとデルタがデモノイドを牽制する目的で攻撃を与えている。光明もアンデッドの攻撃を抑えるのに専念しているようだ。
「祓いたまえ、清めたまえ!」
そんな中、由布は浄化をもたらす優しき風を招き。
「みんな、大丈夫っ!?」
月夜も立ち上がる力をもたらす響きをギターでつま弾くと、傷ついた三人を癒していく。
「ありがとっ! もう一度、いっくよーぅ」
ソーサルガーダーを施してから、牛肉はデモノイドの前に再び立ちはだかる。
刃兵衛もブラックフォームで強化してから。
「さっきは、助かった」
「気にしないで、タダの気まぐれだから」
そういって笑うユイに刃兵衛も笑顔を見せる。
「私も負けはしない」
デモノイドを見据え、刃兵衛は手だけを上げてユイにもう一度、礼を述べる。
「さーて、オレも行くかな」
元通りになった腕を回しながら、ユイも自身の役目へと戻った。
そう、戦いはまだ、始まったばかりなのだ。
●思いを重ねて
敵の数が減っているとはいえ、デモノイドの力は、群を抜いていた。
幾度となくポジションを変えられながらも、灼滅者達もまた、攻撃の手を緩めることはなかった。
互いに声を掛け合いながら、更に攻撃を重ねていく。
「こっちのアンデッドはボクに任せて!」
高速演算モード中のゆうが、ふらふらしているアンデッドに照準を定めた。
「シュートっ!!」
渾身の力を込めたバスターライフルからの閃光がアンデッドを貫き、また1体倒すのに成功した。
残るはナイフを持つアンデッドと、デモノイドのみ。
「今なら行けそう! アンデッドを全て灼滅してあげるよっ!!」
月夜の巧みなギターテクニックで、アンデッドを殴りつけた。見事に炸裂したその攻撃は、最後のアンデッドも撃ち滅ぼすことができた。
「悪い、待たせた。さぁ此処から反撃と行こうか」
刃兵衛の隣に光明が来る。思わず笑みが零れそうになるのを刃兵衛は何とか堪えた。
「ああ!!」
デモノイドとの戦いは、アンデッドがいないとはいえ、威力も体力も桁違いであった。当初から牛肉や刃兵衛がダメージを与え続けているというのに、その威力は衰えることがなかった。
その時までは。
「ホントはこんなことしたくないんだよね? 人間だもの」
最初に呼びかけたのは、牛肉だった。
「グ、グルルル!!」
デモノイドの何かが反応した。それを由布は見逃さなかった。
「気を強く持って下さい! こんな地獄に貴方も参列しちゃ駄目です!!」
そう強く呼びかける。
「今ならまだ間に合う……身も心も化け物になる前に、本当の自分を取り戻してほしい!」
刃兵衛の言葉にデモノイドは、首を横に振った。
「グアアアアアア!!」
まるで何かに抗うように、大きな声を張り上げたのだ。
「貴方は人間だ。地獄の鬼でも……まして、化け物でもありません。すぐ、僕らが助けます。だから、頑張って!!」
腕を振り回し、暴れ出す。その爪でアスファルトを抉りながら、何度も何度もその腕を振り上げる。
「グルルル……」
と、収まったかと思った瞬間。
「グオオオオオオッ!!!」
やはり灼滅者達へと向かってきた。だが、先ほどの威力が落ちているかのように感じる。
デモノイドの鋭い爪が由布を狙ったが。
「助ける……のは難しいけど」
少し悲しげな響きを含ませながら、何とか牛肉は、その攻撃を受け流した。
「終わらせたげるよ」
にこっと笑って、そう確かに告げる。
「……結局こうするしかないか」
できれば助けたかった、そんな想いが刃兵衛の胸いっぱいに広がる。そして、デモノイドを見据えて、風桜を構え直した。
「これ以上苦しまぬよう、この一太刀で楽にしてやろう」
と、光明がデモノイドの間合いに入り、日本刀を振り抜く。
「刃、合わせろ!!」
「承知!!」
光明のフォースブレイクと、刃兵衛の居合斬りが重なる。
「グオオオオオオオオウウウウ!!!」
断末魔と共に、ようやくデモノイドが倒れたのだった。
●全てが終わった後で
デモノイドが消え逝く中。
「…………」
微かに聞こえる小さなものだったが、確かにその声を聞いた。
……倒してくれて、ありがとう、と……。
あれほど響いていたアンデッドの声が、少しずつ小さくなっている。
恐らく、他の灼滅者達もアンデッドらを倒して行っているのだろう。
ここでのアンデッドやデモノイド達は、彼ら灼滅者が無事、灼滅することができた。
更なる悲劇を食い止めることができたのだ。
「アンデッドもデモノイドも元は人間。その者達に刃を振るうのは、やるせない気分だが……本当に倒すべき敵はその先にいるんだな」
そういう刃兵衛に寄り添うのは、光明。その言葉に力強く頷くと、着ていたコートをそっと彼女の肩にかけてやる。
体はくたくただったが、全員、深手を負うことなく生き残ることができた。
これも仲間と上手く連携して、戦ったことが良かったのだろう。
そして、あの呼びかけ。
それがなければ、もっと深手を負っていたに違いない。
あの時から何故か、デモノイドの攻撃の威力が弱まり、攻撃の隙も大きくなったのだから。
「みんな無事で帰れるね」
月夜の言葉にゆうが頷く。
「うん、ボクが殿を務めることにならなくて、本当によかったよ」
それは本心からだろう。二人はふふっと笑い合う。
そんな中、デルタはアンデッドの死体から、何かを見つけた。
「妖しげな装飾の短剣だな。……これにどんな力が秘められているのか……」
彼女が拾い上げたのは、何かの儀式に使われたのだろう、装飾を施されたナイフ。
「とにかく怪しいナイフは、持って帰らないとにゃん」
牛肉の言う通りだ。光明と刃兵衛が周囲を警戒する中、彼らは学園に帰還する。
手に入れたナイフと、灼滅成功の報を伝えるために。
作者:相原きさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 8
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