阿佐ヶ谷地獄~破滅が来たりて

    作者:西灰三

     地獄だ。
     一言で形容するのならそれがもっとも相応しい言葉だ。
     逃げ惑う人々、それを追うアンデッド達。あまりに突然の変化、その状況に人々は成すすべなく追い詰められていく。
     アンデッド達の手には刃。小振りのナイフ、だが人を殺めるならば充分な大きさと鋭さを備えている。それらを振り下ろし、突き刺し、アンデッド達は次々と犠牲者を増やしていく。
     アンデッドが刃を走らせる度に次々と死体が増えていく。だが、その中に時折死ななずに済む存在もいた。刃に貫かれた直後、その身はぶくぶくと膨れ上がり醜悪な青い肌を持った怪物……デモノイドとなる。
     このようにして生じたデモノイド達は目に見えるもの全てを破壊していく。町のそこかしこから上がる悲鳴はいつしか消え、その代わりに何かが破壊されていく轟音が鳴り響くようになる。
     それが阿佐ヶ谷という町の最期となった。
    「……でも、今からなら町が滅ぼされるのを止められる」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)は呟いた。少し、震えている。
    「みんな、鶴見岳の戦いは覚えてる? あの時戦ったデモノイドが阿佐ヶ谷に出てきて滅ぼしちゃうんだ」
     彼女はゆっくりと息を吸ってから分かる限りの事を説明する。
    「デモノイドは『アモン』って言うソロモンの悪魔によって作られたんだけど、なんでかは分からないけれど今回は『アンデッド』の襲撃によって生まれてるんだ。アンデッド達が儀式用っぽい短剣で攻撃すると、切られた人の中にデモノイドになっちゃう人が出るみたい。ひょっとするとソロモンの悪魔が前使ってたのと同じものなのかもね」
     クロエは言う。
    「けど……詮索よりも先にみんなには止めて欲しいんだ。アンデッドとデモノイドの灼滅。お願い」
     デモノイドがコンクリート壁にその豪腕を叩きつける。大きな衝撃音とともにコンクリートの壁は瓦礫へと変わり、壁の向こうに隠れていた存在を曝け出す。家族だろうか、今まで息を潜めて隠れていたのだろうがそれももはやそれまで。大きく空いた穴からアンデッド達が雪崩れ込み中にいた人間の息の根を止めていく。
     その間にもデモノイドは次を求め、雄叫びを上げる。響き渡る大声はまるでその場に隠れている者達に対する告死の言葉のようであり、実際に滅びの時は近づいていた。
     アンデッド達と共にデモノイドは行く、その目的は破壊のみ。
    「……この事件だけでももっと大変だけど、現場がここから近いのも何か意味があるのかも。……みんな、気をつけて行ってきて。絶対に帰って来てね」


    参加者
    シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)
    如月・縁樹(花笑み・d00354)
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    ビスコ・ロッティーナ(カロンの六文銭・d00552)
    桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)
    銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)

    ■リプレイ


     悲鳴、轟音。町に立ち込める種々の音は、その全てが殺戮と破壊に纏わるもの。灼滅者達はその中を駆け抜ける。通り過ぎる道の端々では砕かれた建物、命を奪われた死体が無造作に転がっている。同時に若い声とサイキックの振るわれる声も響いている、既に交戦状態に入った仲間達のものだろう。
     自分たちも急がなければ、と彼らは駆ける足に力を込める。エクスブレインの言にあった家族は果たして無事だろうか、と。
    「あれや!」
     銀夜目・右九兵衛(ミッドナイトアイ・d02632)が目標のデモノイドを見つける。背後には大きく穴の空いた家屋、間違いないだろう。
    「早く……」
     その建物の方へ急ごうとした如月・縁樹(花笑み・d00354)の腕をビスコ・ロッティーナ(カロンの六文銭・d00552)が取る。
    「何をするんです!」
    「……もう遅いわ」
     ビスコが首を横に振ると同時に血まみれのアンデッド達が家屋から現れている。彼らを染める赤は鮮やかな色をしていた。
    「……助けられなくてごめんなさい」
     因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)が終わっていた事を知りか細く呟く。桜倉・南守(忘却の鞘苦楽・d02146)は悔しさを滲ませた表情で帽子のつばを持ち深くかぶり直す。
     新たに現れた人間を前にデモノイドとアンデッド達は目標をそちらに向ける。シルビア・ブギ(目指せ銀河ヒーロー・d00201)は真っ向からその視線を受け止める。
    「騎兵隊の登場じゃ! 化け物退治は任せよ!」
     高らかにシルビアは声を上げる。未だこの付近に隠れているかもしれない誰かに届くように。
    「頼りにさせてもらうよ」
    「無様は見せないさ」
     姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)と共に綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)が先陣を切る。前にいる青き強者は大きくいなないた。


     祇翠の力場を伴った裏拳がデモノイドに向かって放たれる。だがそれは目標に当たる前にアンデッドに阻まれる。
    「そう簡単にはやらせてもらえないか!」
     幾つものアンデッドに守られているデモノイドに攻撃を当てるのは容易なことではない、例えアンデッドをくぐり抜けたとしてもほぼダークネスと同等の力を持つデモノイドの能力自体も大きな壁としてそびえ立つ。怒りに誘うのも攻撃を引き付けるのも簡単にできることではない。
    「ならこちらから!」
     槍を手に近くのアンデッドに攻撃を仕掛ける杠葉、しっかりとそれは突き刺さり確かな痛手を相手に与える。
    「確実に数を減らして行くんや!」
     右九兵衛の放つブレイジングバーストが杠葉に傷を付けられた相手に向けられる。けれどその炎の前に立つのは別のアンデッド。
    「えぇ!? そんなん有り!?」
     右九兵衛が素っ頓狂な声を上げる。守り手が多い相手は度々このような戦術を取り得る、単体攻撃の目標を絞らせない事で戦線の維持率が跳ね上がる。これは守り手の数が増えれば増えるほどに発生しやすい減少だ。
    「こんなんじゃ、集中させようにも……!」
     南守の鏖殺領域もダメージを多く受けるものとそうでないものに別れる。かと言って深手を負った相手とどめを刺すための策が足りない。
    「とりあえず何とかして壁を減らすのじゃ!」
     シルビアがバイオレンスギターを振り下ろしてアンデッドを叩く。狙いが集中しないのなら総火力で崩していくしか無い。
    「駄目なのか……」
     攻撃がデモノイドに届かない亜理栖は状況が予想外に動いているのに焦りの色を隠せない。その焦りを感じ取ったのか、デモノイドがその巨体を翻し彼の前に立つ。
    「……な」
     その鈍重そうな外見とは裏腹に、あるいは無傷のデモノイドの力を知るのはこれが初めてだったからだろうかその無造作な拳の一撃に対して彼は反応できない。
    「危ないのです!」
     その拳と亜理栖との間に割り込む小さな影。縁樹の小さな体が宙に舞う。その様子を認めることでやっと彼は動ける。
    「縁樹ちゃん!」
    「……大丈夫なのです……」
     よろよろと立ち上がる彼女にビスコのジャッジメントレイが癒しを与える。
    「あなたの渡し賃なんか無いから気をつけてよ」
     ビスコはそう言いながら前を向き直す。回復を受けた縁樹も自前で盾を構えて足りない分を補う。だが身の真にまで届いたダメージは軽くなく、次に同じものを受けたら後はないだろう。
    「……力を貸してくれ、戦友」
     人差し指に巻いたリボンが南守を鼓舞するようにひらめいた。


     苦戦は続く、しばらくの激戦の末に徐々に灼滅者達は敵の盾であるアンデッド達を少しずつ倒していく。だがそれは戦いが長く続く事との引き換えであり、持久戦に向いていない作戦を取る彼らにとって不利な状況は以前続いているのに等しい。
    「……地獄は満員、とは言うけれど。勝手に地獄を増やされると商売上がったりだわ」
     ビスコが愚痴る、このままだと自分達もその地獄へと足を踏み入れることになるかもしれない、あるいは撤退した末ますますその領域が広がるか。
    「これ以上、犠牲を増やすわけには行かないよ」
     亜理栖が行なっていた妨害の効果が辛うじて灼滅者達の戦線の崩壊を食い止めている、それは目標のデモノイドではなくそれを妨げていたアンデッド達が対象であったけれども。
    「うむ、これ以上ありふれた展開を続けられても困るからの!」
     シルビアがバベルの鎖を収束させて傷を治す。度重なる攻撃を受けて全快とはとても言えないが賦活しておかなければ戦い続けるのかさえ怪しい。
    「そんなんじゃ守護の信念を砕けないぜ」
     祇翠がデモノイドの攻撃を受け止める、乱戦の中辛うじて相手の攻撃の矛先を自分に向ける事に成功したがやはり一撃一撃が重い。連続して受けてしまえばあっという間に倒されてしまうだろう。
    「型は無にして風、放つは拳が流星……連撃にて殲滅するのみ」
     彼の援護に行こうとする杠葉の前にアンデッドが立ちはだかる。無数の拳の連打でそれを打ち払うとまた別のアンデッドが行く手を阻んだ。彼女の代わりに飛び込むのは態勢を立て直した縁樹。
    「さあ、縁樹と一緒に遊びましょ!」
     円盤の付いた白い手袋を閃かせてデモノイドの気を引く縁樹。二人の動きによってデモノイドが翻弄される、だがここまで持ち込むのに費やした消耗は激しい。
    「キツイけど元気に声だしていこか」
    「ああ、そうだなっ!」
     右九兵衛と南守が光線を放ちアンデッド達を貫いていく。南守がライフルのハンドルを引くと同時にアンデッドがまた一体倒れる。残る一体も灼滅者達の猛攻によりすぐに倒されてしまう、数さえ減らせれば倒すのは一気呵成で済む相手である。
    「グオオオォッ!」
     残るは、デモノイドただ一体。だが今まで攻撃らしい攻撃を受けずにいた相手だ。例え数の上で優位に立っていたとしても全く油断のならない相手である。これ以上攻撃を受けまいと、杠葉と祇翠が一気に攻撃を仕掛ける。杠葉はデモノイドの寸前に飛び込み相手の視線を引き付ける。
    「グッ!?」
     無造作に踏み込んできた相手に意識を向けられたデモノイドは、更に視線を上に向けることに。彼女が更に高く飛び上がった故に、そしてその手には星雲閃。飛び上がり無防備となった相手に一撃を与えようとデモノイドは腕を刃へと変える。だが。
    「!?」
     同時に地面側から祇翠が動いていた、デモノイドがそれに気付いたのは刃を構えた直後。もう遅い。
    「舞うは彗星、刻むは雲薙ぎの爆閃……刹那にて爆ぜると良い」
    「雷翔が飛拳、そのまま潰れて消え失せな」
     天地からの二段攻撃。確かな手応えをそれぞれが感じ取る。これ以上ないほどの攻撃を与えたはずだ。祇翠は息をつき杠葉の方を見ようとする。
    「アカン、まだや!」
     デモノイドの様子に気付いた右九兵衛が言うよりも早く彼の体が地面に叩きつけられる、祇翠はそのまま倒れてしまう。
    「ガアァッ!!!」
     デモノイドが猛る。これまでに無い大きな一撃、だがそれ故にか相手の破壊衝動をも強く刺激してしまったようだ。
    「……あれじゃな。暴走するというのもお約束じゃな」
     シルビアが呟いた、その言葉の通りデモノイドの攻撃は激しさを増していく。


    「……これ以上赦しちゃ駄目なのです……!」
     縁樹の魂が肉体を凌駕する。もっとも次の攻撃にはもう耐えられないだろう。彼女が攻撃を引きつけている間に一斉に攻撃を灼滅者達は仕掛ける。今まで満足に与えられなかった分の攻撃を仕掛けるが、相手は手負いの獣に等しい。倒されまいと大暴れする。
    「……!」
     祇翠に続いて縁樹も倒れる。彼らが作った隙を逃さまいと灼滅者達は攻撃の手を緩めない。
    「みぃぃとぉぉぼぉぉるだいなみぃぃっく!」
     シルビアがデモノイドを捕まえて地面に叩きつける、態勢を崩したデモノイドに右九兵衛が光線を放つ。
    「単純やけども、やからこそ困難っちゅーヤツやね」
     彼と南守が放つバスタービームは少しずつ相手の動きの自由を奪っていく。怒りか、あるいは悲鳴のようなデモノイドの叫び声を聞きながらも南守は目をそむけない。
    (「あんたも助けて上げられなくてゴメンな……」)
     デモノイドは炎を上げてのた打ち回る。それに止めの一撃を行うのはビスコ。
    「さて、と。それじゃあ、正しい場所へ渡らせてあげるわ。今なら渡し賃もサービス価格よ」
     彼女の一撃がデモノイドを貫く。ビスコが銭剣を振るうと同時にデモノイドの体は炎に溶けていった。


    「まったく……直すのに幾らかかるかなんて考えたくも無いわ」
     周りの惨状を改めて見回してビスコは呟いた。その間に亜理栖が家屋から出て来て首を横に振る、南守はそれを見て小さく黙祷をした。
    「それにしても……此処まで大規模な事を仕掛けた以上裏があるのは明白よね」
     杠葉は拾ったナイフを見る。
    「……もしかして、学園のことを知ってる奴がいるのかもしれない」
     亜理栖が呟く、あくまで仮定の話だけれども。
    「まあ何が来ようとも正義の味方ゆえ、絶対に勝つのじゃ」
     強く言い切るシルビア。灼滅者達は大きな動きが近いことを感じつつもその場を後にするのだった。

    作者:西灰三 重傷:如月・縁樹(花笑み・d00354) 綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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