阿佐ヶ谷地獄~アサガヤ・オブ・ザ・デッド~

    作者:刀道信三

    ●未明の地下鉄南阿佐ヶ谷駅
     まだ始発電車も動き出していない地下鉄の線路、その暗がりの奥から1体また1体とノーライフキングの眷属であるアンデッド達が姿を現した。
     次々と止め処なく現れるアンデッド達はホームに這い上がり、ホームを埋め尽くしたアンデッド達は階段を昇り、改札を越え、やがては地下鉄駅から地上へと溢れ出した。
     まだ目を覚ましていない人も車の通りもない静かな街に異常な数のアンデッド達が広がって行く。
     アンデッド達は手に手に禍々しい短剣を持ち、ゆっくりと、しかし確実な足取りで多くの人々が暮らす市街地へと、雪崩れるように向かって行くのだった。

    ●早朝の武蔵坂学園の教室
    「みんな、大変なの!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が慌てた様子で集まった灼滅者達に事件の内容を話し始めた。
    「鶴見岳で戦ったデモノイドが、今度は東京の阿佐ヶ谷に現れたんだよ!」
     デモノイドは暴れ回っており、このままでは阿佐ヶ谷地区が壊滅してしまうだろう。
    「でも今回はソロモンの悪魔じゃなくて、ノーライフキングの眷属であるアンデッドによってデモノイドが生み出されているみたいなんだよ」
     アンデッド達は、儀式用の短剣のような物を装備しており、その短剣で殺されたものの中からデモノイドとなるものが現れているらしい。
     未確認ではあるが、アンデッド達の所持している短剣は、少し前にソロモンの悪魔の配下達が行っていた儀式に使われていた短剣と同様のものである可能性もある。
    「お願い、みんな! 今も暴れ続けているアンデッドとデモノイドを止めて、これ以上被害が広がらないようにしてほしいんだよ!」

    ●アンデッドの闊歩する街
     まだ住人の起き出していない民家にアンデッド達は次々と押し入った。
     住人達は大群のアンデッド達を前に逃げ出すこともできずに殺されていく。
     まるでゾンビ映画のような光景がそこには広がっていた。
     違うところがあるとすれば、無力な一般人達がゾンビ達に噛まれて鼠算的に増えていくということはなかった。
     アンデッド達は手にした短剣で、這い入った住居の住人達を執拗に滅多刺しにして殺害していく。
     多くの人間はそれで息絶えた。
     しかし極稀に、何分の一かには変化が現れた。
    「オオオオオォオオオオォォォオオオォオオオオオッ……!」
     アンデッドに短剣を突き立てられた人間が、ビクリと身を跳ねさせ、唸り声をあげながらデモノイドに姿を変じていく。


    「今の阿佐ヶ谷はとても危険な状態だよ。被害は止めないといけない。でも、みんなも気をつけて。無理だけは絶対にしないでね!」


    参加者
    風鳴・江夜(ベルゼバブ・d00176)
    ミア・フロレート(紅の軌跡・d00560)
    高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)
    フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)
    北逆世・折花(暴君・d07375)
    藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009)
    天城・理緒(灼熱の引きこもり・d13652)
    立川・春夜(お気楽ピエロ・d14564)

    ■リプレイ

    ●地獄を駆け抜ける
     街は惨憺たる様子であった。
     ダークネス達が暴れ回った結果、火災が発生して所々から煙が昇っているのが見える。
     このまま放置して被害が拡大していけば、一帯が廃墟と化してしまうだろう。
    「ゾンビ映画とかは好きだけど、リアルでやられると興醒めだね」
     現場に向かいながら、北逆世・折花(暴君・d07375)はこの地獄絵図を作り出した者への憤りを隠せずにそう漏らした。
    「これ以上被害を増やさない。そのために、精一杯やれるだけやる!」
     立川・春夜(お気楽ピエロ・d14564)は自分を鼓舞するようにそう言った。
     彼にとって今回がエクスブレインから依頼された初めてのダークネス事件だ。
     周りを見れば人目をはばかることなく、数え切れないほどのデモノイドとアンデッド達が、暴虐の限りを尽くしている。
     この状態で気負うなという方が無理な話であろう。
    「急ぎましょう。少しでも被害を抑えるために!」
     フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)は目の前に広がる光景から、過去にノーライフキングに滅ぼされた自らの故郷を思い出していた。
     そんな主人を霊犬のリアンが横に並んで走りながら、気遣わしげに見上げる。
     ダークネスは強大だ。
     目の前で理不尽な破壊が繰り返されていても、エクスブレインからもたらされた未来予測に従って、その隙を突き、一角を崩すことで被害の拡大を防ぐことしかできない自分達が歯痒かった。
    「玄関に各部屋の窓は外に出られそうだな」
     現場となる一戸建ての民家に到着すると、藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009)はまずビハインドのとし子さんと共に、外に繋がる出口となり得る場所を確認した。
     アンデッド達を外に逃がさないため、考えたくはないが、いざとなったら脱出経路として、自分達が使うことになるかもしれない。
    「作戦を開始します」
     天城・理緒(灼熱の引きこもり・d13652)が仲間達と目配せをしてから、玄関の扉を開く。
     口調は静かであったが、その瞳にはダークネスを止めようという強い意志がこもっていた。

    ●怪物達の巣窟へ
    「好き勝手もここまでだ。さっさと灼滅させてもらうぜ!」
     リビングに突入すると同時に、高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)はスレイヤーカードから得物の槍を取り出しつつ、黒い殺気を解き放つ。
     琥太郎はデモノイドを見て、やりきれなさに一瞬だけ顔をしかめるが、だからこそ一刻も早く灼滅してやろうと、眼光を鋭くダークネス達を見据えた。
    「ハッハッハ、どっちを見てもアンデッドだらけだな。まるでゲームのワンシーンのようだ。自分だったらこう生き残る、とイメトレしていたのも無駄ではなかったようだな!」
     琥太郎の脇を抜けて、弾丸のように躍り出たミア・フロレート(紅の軌跡・d00560)が、口上のように言い放つ。
    「さぁ来い、アンデッド共……ボク達が相手だ!」
     ミアの拳が緋色のオーラを宿すと、弧を描くように閃き、一番手前にいたアンデッドの片腕を鋭く切って跳ね飛ばした。
    「まとめていくよ。余計なモノに当てちゃったらゴメンね」
     続いて風鳴・江夜(ベルゼバブ・d00176)がリングスラッシャーを七つに分裂させ、セブンスハイロウでアンデッド達を薙ぎ払う。
     江夜の作った道を、ビハインドのルキを先頭に、ディフェンダーの仲間達が、デモノイドを牽制するべく駆け抜けて行った。
    「ゾンビは頭を狙う。そんなの小学生のときから知ってるよ」
     先ほどミアに腕を奪われたアンデッドの頭部に、雷のオーラを込めた折花の拳が叩き込まれ、潰されたトマトのように爆ぜる。
    「悪しき者へ裁きの光を。ジャッジメントレイ!」
     そのアンデッドの胴体を、フルールの放った光条が袈裟懸けに輪切りにし、1体目のアンデッドが崩れるように灰となった。
     つい先ほどまで、この家の住人だったであろうデモノイドは、頭頂どころか肩までが天井に達しており、動く度に建物は軋み、暴れれば暴れただけ建物を破壊していた。
     壁すら容易に壊してしまうデモノイドに関しては、出入り口という概念は該当しないだろう。
    「怪我は……ないな? うん、綺麗なままだ」
     瞬一郎は無造作に振るわれたデモノイドの拳から、ビハインドのとし子さんの肩を抱くようにして、自らの身で庇った。
     とし子さんを攻撃から守れて満足そうに笑みを浮かべる瞬一郎だが、デモノイドの怪力を受けて、その口の端から血を滲ませていた。
    「お前の相手は俺たちだっての!」
     リビングの窓の前に陣取った春夜は、デモノイドの背後から制約の弾丸を撃ち込む。
    「(短剣を持っているアンデッドは……?)」
     理緒は儀式用の短剣を持っているアンデッドを探して、戦場に目を走らせるが、残ったアンデッド3体の中で、儀式用の短剣を持ったアンデッドは1体だけのようだった。
     即座にその儀式用の短剣に狙いをつけると、理緒はオーラキャノンを放つが、ギリギリのところでアンデッドが腕を振るって、それを回避する。
     アンデッド達はここぞとばかりに、負傷した瞬一郎に群がろうとするが、ビハインドのとし子さん、ルキ、なつくんが身を盾にして、それを防いだ。

    ●デモノイドの猛威
    「これでも、くらえ!」
     琥太郎は殲術道具を妖の槍からマテリアルロッドに持ち替えると、その先端をアンデッドの腹部に突き込み魔力を流し込む。
     魔力が溢れて爆発を起こし、アンデッドの臓物が飛び散った。
    「早く頭数を減らさない、と」
     大上段に構えた無敵斬艦刀で、江夜がアンデッドを追撃で斬り伏せる。
     体幹が脆くなっていたアンデッドは、無敵斬艦刀による一撃で、簡単に床に転がった。
     アンデッドを攻撃する際に、江夜はアンデッドが儀式用の短剣を所持しているかを確認していた。
     儀式用の短剣を持ったアンデッドは1体、それをまだ理緒が狙っているので、可能なら最後に倒したい。
    「これで、2体目」
     鬼神変で異形化した折花の拳がアンデッドを床に押し潰し、アンデッドはそのまま灼滅されて黒い染みのようになった。
    「アンデッドの数が減ってきた。逃がさないように出入り口を固めろ!」
     集気法で自らの傷を癒しながら、瞬一郎は仲間達に指示を飛ばす。
    「リアン、瞬一郎さんに浄霊眼を!」
     リビングと廊下の間にある扉を背にしながら、フルールは霊犬のリアンと共に一番ダメージの大きい瞬一郎の回復を急いだ。
     ダメージとそれを回復するために、どうしても瞬一郎の足が他の仲間達より止まってしまう。
     それをデモノイドの視線が、無機質にただ獲物を狙うように捉えていた。
     振り上げられた拳が今度は瞬一郎に向かって鉄槌のように振り下ろされる。
     爆音とともにフローリングは割れ、家具が吹き飛んだ。
     瓦礫と一緒に瞬一郎は転がり、壁に激突する。
     しかし彼は無事で、大きなダメージを負ってもいなかった。
     デモノイドの拳が振り下ろされる瞬間、彼のビハインドであるとし子さんが、瞬一郎を突き飛ばして身代わりになったのである。
     デモノイドの拳が持ち上げられたあとに、とし子さんの姿は残っていなかった。
    「っざけんな……! てめぇらまとめてぶっ潰す!」
     それを見た瞬一郎は激昂して、デモノイドに飛びかかろうとするが、一度デモノイドの攻撃を受けている彼のダメージが、未だに仲間の中でも一番大きい。
     グラリと足をもつれさせて、なんとか再び転ばないように足を踏ん張る。
     瞬一郎は肩で息をしながら、その視線で殺す勢いでデモノイドを睨みつけた。
    「デモノイドの攻撃が強過ぎる! 早く倒さないと、こっちがヤバイぞ」
     ミアはアンデッドに閃光百裂拳を叩き込みつつ、少し焦っていた。
     アンデッドは腐った見た目の割に頑丈で、思ったより灼滅に時間がかかる。
     時間が経てば経つほど、デモノイドに攻撃する機会を与え、抑えに回っているディフェンダー達の負担が増す。
    「ミア、こっちは何とか抑える! 落ち着いて1体づつ確実に倒すんだ」
     仲間達の間に不安が蔓延しないように、春夜は大きな声を出しつつ、影縛りでデモノイドの片腕を捕らえた。
    「今度こそ!」
     儀式用の短剣を狙った理緒のオーラキャノンが、今度はアンデッドの手首を捉える。
     しかし運悪く儀式用の短剣は、弾かれるだけではなく、オーラキャノンに巻き込まれて破損してしまった。

    ●激闘の果てに
     幸いデモノイドもアンデッドも近距離単体攻撃しかしてこないため、ディフェンダーを多く配置した布陣を敷いていた灼滅者達は、弱っている者を狙われても、誰かが必ず庇いに入ることができていた。
     しかしデモノイドの一撃は重く、特に体力の多くはないサーヴァントとそのマスターは、アンデッド達の攻撃を肩代わりして削れているところに食らえば、一撃で戦闘不能になってしまう可能性があることを、ここまでの戦闘で灼滅者達は理解していた。
    「くっ……!」
     ビハインドのルキを狙ったデモノイドの一撃を、江夜が無敵斬艦刀を盾に受け止める。
     あまりの衝撃に踏ん張りが利かず、江夜は吹き飛ばされて壁に激突した。
    「ラストっ、これであとはデモノイドだけッスよ!」
     琥太郎の槍の穂先が閃き、ティアーズリッパーで最後に残った4体目のアンデッドを切り刻み、灼滅する。
    「これ以上、長くは支えられません。集中攻撃を!」
     リアンと一緒に江夜を治療しながら、フルールは状況を告げた。
     デモノイドの攻撃力はメディックであるフルールとリアンの回復力を上回っており、ディフェンダー達もダメージを受けていない者はいない。
     この先、デモノイドの攻撃一回ごとに戦闘不能者が出てもおかしくはないだろう。
     しかし回復の手を増やせば、それだけデモノイドに攻撃の機会を与え、後手に回る。
    「任せて。速攻で片づける」
     折花はデモノイドの懐に入り込むと、鋼鉄拳をデモノイドの脇腹に突き刺した。
     拳を引き抜き、ステップで距離を取ると、デモノイドの傷口から大量の血液が流れ出す。
    「辛い役目を押し付けてすまないな、反撃と行くぞ!」
     ミアの脚が緋色の軌跡を描き、デモノイドの腕の肉を抉るように斬り裂いた。
    「畳みかけるとしようぜ!」
     窓を守っていた春夜も、アンデッドが全滅したことで、デモノイドの死角に回り込むように移動しながら、制約の弾丸を撃ち込んでいく。
    「これだけ大きい的を、外しはしません」
     理緒のガトリングガンから放たれる炎の魔力の込められた弾丸が、連続でデモノイドに命中し、その身を炎で包んでいった。
    「グォオオオオオォォォオオオオォォッ!!」
     集中攻撃を嫌ったデモノイドが、天井をブチ破ることも厭わず跳躍し、未だ壁際にいた江夜に向かって、全体重をかけて飛びかかろうとする。
    「てめぇだけは、絶対に許さねえ!」
     それを見透かしていたかのように江夜の前に立った瞬一郎が、襲い来るデモノイドに向かって鬼神変で異形化した腕を思い切り突き出した。
    「ぐうう……ッ!」
     デモノイドの巨体を真っ向から受け止め、瞬一郎の腕はもちろん、それを支える両脚からも至る所から血が噴出する。
     デモノイド側も、ただでは済まなかった。
     瞬一郎の腕は根元までデモノイドの腹部まで埋まり、貫いていた。
    「藤堂センパイ、いま助けるッスよ!」
     琥太郎はデモノイドを蹴り登るようにして跳躍し、大上段に振り被ったマテリアルロッドを、デモノイドの頚椎を叩き折る勢いで振り抜いた。
     魔力の爆発がデモノイドの首を破砕し、頭がゴトリと地面に落ちる。
     それと同時にデモノイドの巨体は泥のように融け始め、不定形な物体の山となった。
    「藤堂先輩、大丈夫、ですか?」
     支えるものがなくなり、崩れ落ちそうになった瞬一郎を、江夜が抱き止めて支える。
     あまりの負傷に瞬一郎は意識を失っていた。
    「瞬一郎さんの状態が危険です。一先ず安全な場所まで離脱しましょう」
     フルールの言葉に灼滅者達は頷き、素早く撤収の準備を始める。
     苦戦はしたものの自分達に課せられた対象の灼滅には成功した。
     あとは学園の仲間達も同じように被害を食い止められていることを祈るだけである。

    作者:刀道信三 重傷:藤堂・瞬一郎(千日紅・d12009) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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