阿佐ヶ谷地獄~前線指揮官

    作者:相原あきと

     早朝の阿佐ヶ谷。
    「ウロオオオオオオオンッ!」
     ドベチャ。
     青く太い腕が振るわれ、逃げようとしたOLが無惨に潰される。
     腕を振るった怪物――デモノイドが腕を上げると、腕に付いていた肉と骨、人間だったモノがべちゃべちゃと地面に落ちた。
     周囲には逃げまどう人間、家やマンションを破壊するデモノイド、一般人を次々に襲っては殺すアンデッドが無数に悪徳を重ねていた。
     ここは阿佐ヶ谷、阿佐ヶ谷地獄。
     アンデッド達が、デモノドイド達が、次から次へと哀れな犠牲者の命を奪い、周辺一帯を破壊するかのごとく暴れ続ける。

    「みんな、鶴見岳で戦ったデモノイドについては勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(小学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
    「実は阿佐ヶ谷にデモノイドが現れるの。しかも今回はなぜかアンデッド達も一緒で、奴らは徒党を組んで阿佐ヶ谷の住人を無差別に襲うわ」
     デモノイドはソロモンの悪魔『アモン』により生み出された怪物だ。今回のデモノイドは、なぜか『アンデッド』による襲撃で次々に生み出されているらしい。
     具体的には、アンデッド達の持つ儀式用の短剣のような物で攻撃された一般人の中から、デモノイドに変異する者が現れる。
     ちなみにこの短剣、未確認事項ではあるが、少し前にソロモンの悪魔の配下達が行っていた儀式に使われていた短剣と同様の物である可能性が高い。
    「とにかく、今はこれ以上の被害を生み出さない為にアンデッドと、そして生み出されてしまったデモノイドの灼滅をお願い!」

     地獄へと変貌しつつある阿佐ヶ谷の通りを、スーツにネクタイのサラリーマンが悠々と歩いていく。
     もちろん普通のサラリーマンでは無い、周囲に6体ものアンデッドを引き連れているからだ。
     付近の商店を破壊していたデモノイドの1体が気が付き、男の列に加わってくる。
     男はちらり腕時計を見て。
    「ああ、悪くないペースです。やはり新規アポイントは数を打つのがコツですね」
     男はメガネにオールバックの30代ほどの男だった。
    「これなら先方の希望通りになりそうです」
     アンデッド達とデモノイドを引き連れ戦況を見て回る男。
     その時だ、ビルの上に設置してあった3m大の看板が破壊の余波でぐらつき、男に向かって落下していく。
     男はちらりと看板を見やると、右手の人差し指と中指で小さな白い四角い紙を取り出し、無造作に放り投げる。
     ズバッ!
     空中で真っ二つに断たれた看板が、男達を避けるように地面へ突き刺さる。
     男は何事も無かったかのように。
    「しかし、もう少し数が欲しい……と言った所ですか」
     男はアンデッドと青い怪物を引きつれ、まだ逃げ遅れた人々がいる方へと歩き出す。
     断たれた看板のそばには1枚の名刺。
     そこには『平野・歯車』と書いてあった。

    「一つ、気をつけて欲しい事があるの」
     珠希が真剣な表情で説明を続ける。
    「みんなが阿佐ヶ谷に到着した時、そこにはデモノイド1体とアンデッド6体を連れた男がいるわ」
     外見は? との質問に珠希は眉根を寄せる。
    「それが……普通のサラリーマン。だけどダークネスである事は間違い無いわ」
     珠希が言うには、その男は指揮官のように戦場をチェックしてまわっているらしい。男は自ら一般人を殺しはしないが、効率良くアンデッド達をけしかけて被害を大きくしているとの事だ。
    「でも、無理に戦えばどうなるか解らないわ。デモノイド1体だけでもその強さは驚異なのに、みんなが現れれば男の周囲にいるアンデッド6体も襲ってくると思う」
     それだけでも相当な覚悟が必要だ。
    「ただ、その男はみんなを倒すのが目的じゃないみたいだから、その男に攻撃したり、挑発をしたりしなければ、みんなの戦闘をしばらく観察して去っていくと思う」
     つまり無理に戦う必要は無いという事だ。
     今回の目的はあくまでデモノイドによる阿佐ヶ谷破壊を止める事。
     珠希は皆がうなずくのを確認すると。
    「みんなが出会うデモノイドとアンデッドについてなんだけど……」
     デモノイドはパワー型で周囲をなぎ払う攻撃と、素早い拳の連打、大地を踏みつけると同時にまとめて相手の構えを解く攻撃、そしてその雄叫びは聞いた者に怒りを与える。
     アンデッド6体は全員が支援ポジションだ。使ってくるサイキックは縛霊手に似たものらしい。
    「最後にもう一度言うわ。今回の目的はデモノイドとアンデッドの灼滅よ。そこは忘れないで」


    参加者
    平・等(渦巻き眼鏡のヒーロー候補者・d00650)
    九条・風(紅風・d00691)
    九十九院・鶍(仮想領域の孤独な軍勢・d01801)
    須賀・隆漸(双極単投・d01953)
    橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)
    皇・なのは(へっぽこ・d03947)
    八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)
    レオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122)

    ■リプレイ


     奇襲は完璧だった。
     初撃で2体を葬った手際はサラリーマンのダークネスですら感嘆の声をあげる程に。
     だが、その勢いはすぐに終わった。
     サラリーマンの指示が飛び、残ったアンデッドが2体ずつ、中衛と後衛に範囲のマヒ攻撃をおこなって来たのだ。
    「まとめてやれるのが僕だけじゃ……」
     裏地に護符がびっしり縫いつけられたジャンパーを着た九十九院・鶍(仮想領域の孤独な軍勢・d01801)が、前衛の5人(ライドキャリバー含む)のマヒを優しき風で浄化しつつ呟く。
     鶍自身のマヒは平・等(渦巻き眼鏡のヒーロー候補者・d00650)のナノナノである煎兵衛が回復してくれたが、中衛までは手が足りない。
     結果、敵のバッドステータスの解除が遅れ、灼滅者側は苦戦していったのだ。
    「九紡!」
     戦い初めて数分、八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)が自身のナノナノに指示を出す。
     指示を受けた九紡が後衛に下がり、煎兵衛と並んでふわふわのハートを飛ばし始める。
     九紡に頷くと十織はサラリーマンのダークネスに向き直る。
    「さて、平野歯車って言うんだろ? 随分変わった同僚を引き連れてるんだな」
     戦いを眺めていたサラリーマン――六六六人衆は平野歯車が自身に問いかけられてると気が付き。
    「私の名前をよくご存じで……。しかし同僚ですか?」
    「そのアンデッド達と青モップの事だ。」
     九条・風(紅風・d00691)が同僚と言う言葉に首をひねった歯車に説明する。
    「ああ、同僚ですか……まぁ確かに。しかし青モップとは」
     クツクツと含み笑う歯車。
    「ああ? どう見ても青モップだろうが、それにしてもよく懐かせてんな、この青モップ。青モップを懐かせる秘訣でもあるのか?」
    「ククク……」
    「てめぇ、何がおかしい」
     途端、デモノイドが雄叫びをあげた。
    「ククク……いえ、ほら見なさい、青モップが泣いていますよ? 『人間』に向かって青モップだなんて言うから……」
     まったく可哀そうだ、と歯車が笑う。
     哀れな犠牲者を嘲笑う歯車に、灼滅者達の何人かが思わず殴りかかりたくなるが、ぐっと我慢する。
    「それより、あなた達の組織について教えてくれますか?」
     歯車がさらりと聞いて来る。
     前に出たのは『阿佐ヶ谷症愕咬』と刺繍された特攻服を着た小学生、等だ。
    「オレは『あさがやしょうがっこう』にしょぞくするモンだ。夜露死苦」
    「ほう……」
    「くっくっく、オレのチカラを見せてやるぜ。オッサン達、覚悟しな!」
     振り向きポーズで宣言する等に、歯車が真面目に何かを考えだす。
    「……子供に、スーツの男、書生姿の彼はエキストラと名乗ってましたか……大人はおらず、学生ぐらいの年代の子共ばかり……」
     あごに手を当て考え込む歯車。
    「気になってるなら教えようか?」
     思考を断つように言葉を挟んだのはレオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122)だ。
    「僕達は正義感の強いただの熱血ボランティア集団だ」
     歯車の眉根に皺が寄る。それは思考が邪魔された事による不愉快さを現す皺だ。
     もちろん、その間にも戦闘は続いている。
     特にデモノイドの前に立ち塞がりつつ、作戦通りにアンデッドへ攻撃を行う皇・なのは(へっぽこ・d03947)と須賀・隆漸(双極単投・d01953)はかなり神経をすり減らしていた。目の前の剛腕から他の仲間を庇いつつ、隙を見て別の対象に攻撃しているのだから。
     ズズンッ!
     デモノイドがその太い脚で大地を踏めば、アスファルトがめくられながら衝撃破が走る。
     防御行動が主のなのはや風のライドキャリバーはともかく、攻撃優先で戦っていた橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)は回避が間に合わない。
     と、九里の目の前に小さな身体が飛び込み、その瞬間、衝撃破が九里を避けるように左右に割れた。
     飛び込んだ女、なのはに九里が「助かりました」と礼を言えば、なのはは「大丈夫」と強気に笑うと、デモノイドを見上げて宣言する。
    「ここから先には行かせないよ!」


    「ウロオオオオオオオンッ!」
     青く太い腕が強烈な一発を見舞わんと大きく振り上げられる。
     だが、その怪物の真正面に飛び込んだのはエグゾースト音を響かせた風のライドキャリバー、サラマンダーだった。
     他の仲間を守るように突如現れたライドキャリバーに、デモノイドが思わず拳を叩き込み、連続で殴られたサラマンダーがそのまま動かなくなる。
     厳しい状況だった。
     デモノイドに怒りを与えて矛先の誘導もしているが、アンデッド達が適宜キュアをかけてくる為、効果がかなり薄いのだ。
     そんな中、1体のアンデッドが金縛りにあったかのように動きを止める。
     見れば身体の幾つもの関節に細い漆黒の鋼糸が巻きついていた。
    「作戦通り、まずは数を減らしましょう」
     九里が丸眼鏡をずり上げると共に、鋼糸がピンと張られアンデッドがバラバラになる。
    「橘名さんの言う通りですね」
     レオの言葉と同時、その影が伸びてアンデッドの1体を飲み込む。
     ディフェンダーに守られる分、彼らクラッシャー2人の活躍はめざましい。
     レオは別のアンデッドに向き直りつつ視線だけ歯車に向け。
    「で、お前は何が目的なんだ?」
    「……ふむ、ではあなた達の所属を教えて下さい」
     聞いてくる歯車に対して言葉を発したのは、デモノイドをシールドで殴りつけていたなのはだ。
    「別に、ただの仕事だよ? 戦場のサラリーマンくん」
    「ですから、その仕事をどこから受けているのかを聞いているのです」
    「知るか!」
     拒絶の声は、槍を回転させデモノイドを挑発する隆漸から発せられた。
    「ふぅ……これだから子共は取引の何たるかを解っていない」
    「へぇ、そいつは是非教えて頂きたいものだ」
     嫌味を含めて隆漸が言う。
    「簡単な事ですよ、相手が喜ぶような取引材料を持ってくれば良いのです」
     歯車の言葉に、もちろん灼滅者達は誰も答えない。
     相手に情報を渡さない事は共通事項だ。
    「やれやれ……つまらないですね。キミ、敵の中衛を狙いなさい」
     歯車に指示を出されたアンデッドが、中衛にいる3人に向かって手を突きだす。再びマヒ毒を放射するつもりのようだった。
    「つーか、させないぜ!」
     等が即座に気付いて契約の弾丸を打ち放つ。狙いは先ほどペトロカースが命中した場所とドンピシャだった。
     だが――。
    「なっ!?」
     アンデッドは半歩身体を傾かせるだけで等の弾丸を回避する。完全に見切られていた。
     そして等達に向かってマヒ毒がばら撒かれる。
    「パシリ! 回復を夜露死苦」
     煎兵衛からふわふわなハートを受け取りかなり回復するが……。
     正直、次に大きなのを喰らったら……。
     だが、灼滅者もやられっぱなしでは無い、即座に鶍がキュアと回復をまとめて中衛にかけ、風のガトリングガンが火を噴けばマヒ毒をばら撒いたそのアンデッドがハチの巣となって倒れる。
     あと1体。
     その1体に目を向ければデモノイドの傷を癒している所だった。
     傷の回復と共に前衛だけを見ていたデモノイドの目から怒りが消える。
    「ガアアアアアアッ!」
     青い化け物が咆哮をあげ、巻き込まれたナノナノ2匹がまとめて消滅する。
     同じく後列の鶍も咆哮にさらされるが、咄嗟に前に立ち塞がったなのはに庇われた。
     デモノイドの咆哮がおさまった時、まるでその隙をつくかのように最後のアンデッドが黒き檻に囚われる。
    「いつの間に……」
     思わず歯車が眼鏡の位置を直す。
     十織の動きは決して素早いわけではない、ただ相手の呼吸と隙を付いた……的確な言葉で言うなら、無駄の無い攻撃だった。
    「ここはお前らが暴れていい場所じゃねぇ。さっさと帰れ、本当の地獄にな」
     十織の言葉とともに影の牢獄へと囚われたアンデッドがその檻の中で崩れ去った。


    「ほう、それなりに優秀なアンデッドだと思っていましたが……なかなかどうして手際が良い。多少、見直しましたよ」
     歯車が灼滅者達を見ながら感心する。
    「見直したなら少し教えてくれ」
     歯車からの視線を真っ向から受け十織が言う。
    「お前の上司は何者だ?」
    「直球ですね……まぁ良いでしょう」
     歯車の口調が少しだけ変わった事に、何人が気が付いただろうか。
    「ソウ=テベス氏、です。素晴らしく出来た上司ですよ?」
     空中に視線をさ迷わせ何かを思い出しながら言う歯車。
    「そいつを紹介してくれ。会いに行くぜ? お前の名刺をくれよ」
     等が手を出しながら言うと、歯車は背広の内ポケットに手を入れ名刺を出そうとする。
    「おっと、物騒な名刺はごめんだぜ? ちゃんと手渡ししてもらいたいね」
    「ほう、あなた方の名刺も貰えると?」
    「生憎名刺の持ち合わせはナイぜ」
    「残念、私のが欲しければ今度はご自身のを持って来て下さい」
     シレっと言う等に、歯車が笑顔で対応する。
    「子供が名刺を持って無いのは仕方が無いのでは?」
     フォローするかのように続けるのは九里だ。
    「それは確かに」
     歯車が眼鏡の位置を直しつつ九里の言い分に納得する。
    「それにしても随分と営業に御熱心な様子、羽振りの良いお取引先で羨ましゅう御座います。今は就職難の時代故、是非御社をご紹介頂きたいものです」
     畳みこむように続ける九里。
     歯車はニッコリ笑うと。
    「殺る気があるなら私に言って下さい。いくらでも良い所を紹介してあげますよ? もちろん、タダでは無いのでそれなりのモノは持って来て下さいね」

     灼滅者が歯車に質問をぶつける間も、もちろんデモノイドの攻撃は止んでいない。
     青い剛腕が振るわれ、脚が大地を穿ち、その咆哮は魂を削り取る。
     攻撃が振るわれる度、前衛の数人が膝を付きそうになるが、それを鶍が可能な限り回復して戦線を保っていた。
     アンデッドがいなくなった事で、デモノイドの怒りの矛先がディフェンダーに向くようになった事は灼滅者達にとって大きかったと言える。
     もちろん、ナノナノ×2が消えた今、回復役が足りなくなるのも時間の問題であり鶍の懸念事項ではあるが……。
     それ以上に、鶍は何かが引っかかっていた。
     質問をせず歯車を観察していたせいか、何かが……何かが引っかかるのだ。
     鶍の感じた違和感は、なのはも感じていた。
     視線はデモノイドから外さず、身軽なフットワークを活かしてデモノイドの攻撃に割り込み仲間達をかばう。音だけに集中していたなのはが感じるのだから、それは言葉に関する違和感のはず。
    「オオオオオオオッ!」
     デモノイドが咆哮を上げ、なのはの思考が目の前の怪物に戻る。
    「集中だ」
     なのはを庇った隆漸が言う。
    「うん、わかってる」
     なのはがコクリと頷き、青い怪物に向かう。
     ダメージを受けた隆漸に治癒の護符がペタリと張り付く。
     後衛に移動し回復役となった風だった。
    「なぁ、俺も質問……いいか?」
     風が歯車に問う。
    「僕も質問させて下さい」
     風の言葉にレオも乗る。
     歯車は「どうぞ?」とばかりのジェスチャー。
    「是非今回のお礼がしてェ、どちらにお勤めだ?」
    「ああ、今の出向先で良いなら教えますよ? 住所は練馬の月見台です。いつでもいらして下さい」
     割と簡単に住所まで。
    「次は僕が……なぜ六六六人衆が、ノーライフキングやソロモンの悪魔を手伝う?」
    「お金を稼ぐには仕事を選んでいられない。サラリーマンの悲しい現実という奴です」
     哀愁漂う歯車の返答に、なのはが「世知辛いね」とあいの手を入れる。
    「これからまた何処かを襲う気なのか?」
    「いいえ、すぐにまた会う事は無いでしょう。上司が言うにはこれで十分らしいので」
    「なぜ阿佐ヶ谷を狙った?」
    「それはもちろんあなた達の中にスパイが……おっと、これは社外秘でしたね」
     失敗失敗と口を押さえる歯車。
     思わず視線を交わす風とレオ。
    「最後の質問、いいか? 何故デモノイドを操れる」
    「簡単な事です。コマンドワードがあるんですよ、教えてあげましょうか?」
     ニヤリと笑う歯車。
     その笑顔の邪悪さに風とレオがゾッとする。
     その瞬間、仲間の声が耳に届く。

    「避けろレオ!」

     レオが声に反応し振り向けば、視界いっぱいに『青』が見えた。
     ――バキボキベキ!
     剛腕が何度もレオの身体を叩き、骨が折れる嫌な音が激しく響く。
     殴られた勢いで吹き飛んだまま、レオはピクリとも動かなくなる。
    「そう言えばあなた方は、ここに何しに来たのですか? もっと目の前の戦いに集中した方が良いですよ? もっとも、それは倒れた彼以外にも当てはまる事ですが」
     嫌らしい笑みで何人かの顔をみる歯車。
     今回の依頼は決して楽な戦いでは無い、戦闘と情報収集、片方だけに集中しても成功できるかどうかのバランスだ。それなのに両方を得ようとするならば……。
    「おい、そろそろ時間は大丈夫なのか?」
     これ以上歯車を相手にするのは……。
    「おや……そうですね。次があるので私はこれにて失礼致します」
     歯車は時計を気にしつつ、悠々と去って行ったのだった。


     残ったのはデモノイド1体。
     しかし、灼滅者達はここまでの戦いで相当のダメージをくらっていた。
     デモノイドが偶然怒りを無視して中衛の2人に咆哮をぶつけてくる。
     前半のツケ、それ以上でも以下でもない理由で、十織と等がばたりと倒れ伏す。
     もちろん、デモノイドの傷もかなりだ。
     風が影の刃で怪物を斬り裂く。
     すでに回復よりも倒す方が早い、そう判断できる程だ。
     デモノイドもお互いギリギリなのが解るのか、両手を使って目の前の3人をなぎ払おうとする。
     咄嗟に九里の前へと身体を滑り込ませ、1人で2発分のダメージをくらう隆漸。
    「そろそろ……限界、か」
     ガクリと力が抜け倒れる。
     次々と倒れる仲間達に鶍が覚悟を決めようとする。
     ゾッとする程の殺意の波動が、他の灼滅者達の肌を泡立たせた。
     そして鶍は。
    「天国の祝福を――」
    「ダメ」
     鶍の闇堕ちを止めたのは、魂の力で立ちあがったなのはだった。
    「だが」
     ボロボロのなのはが、スッと怪物の方を指差し。
    「向こうも……ぼろぼろ、だよ? それに……九里くんが……」
     そう、なのはが差していたのは正確には怪物では無い、その背後、書生姿の九里。
     デモノイドの顔に大きな鬼の手がそっと乗せられた。
     それは異形巨大化した九里の手。
     幼子の頭をなでる様に。
    「良い子ですから、早くお休みなさいませ……佳き、夢を」
     ぐしゃり……。
     頭を潰された怪物が、ドスンと大地へ横たわった。


    「辛い戦いだったけど……けっこー聞き出せたな」
     仲間を介抱しつつ風が話す。
     その時、鶍の中でずっとモヤモヤしていた部分が明確となる。
     そして。
    「くっ……違和感の正体、やっとわかったよ」
    「違和感、ですか?」
     九里が聞く。
    「歯車が最初に言った上司の名前……だ。やられた。くそ」
    「ソウ=テベス……だっけ? あ、あああ!?」
     同じく違和感を感じていたなのはが気が付く。
    「ああ、歯車の話した情報は、全て――」

    作者:相原あきと 重傷:平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650) 須賀・隆漸(双極単投・d01953) 八槻・十織(黙さぬ箱・d05764) レオ・フーゴ(伊達男見習い・d06122) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 19/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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