寒さも緩み始めた、阿佐ヶ谷の市街地の朝。
「それじゃあそろそろ行くね」
鞄に入れた受験票をもう一度確認し、テーブルを囲む家族に告げた。
「本当に一人で大丈夫? 確認したらちゃんと連絡するのよ?」
「……気をつけて行ってきなさい」
心配する母親を宥め、新聞を読みながら気遣う父親が可笑しくて、つい笑顔を浮かべてしまう。
「自信あるんだから大丈夫! 自分達の娘を信じなさいって!」
今日は第一志望の大学の、合格者発表の日。
例え落ちても、後悔しないぐらいには頑張ったつもりだ。
(「……それでも不安は消えないし、やっぱり受かっていて欲しいけど、うん」)
どうせ思い浮かべるなら、目指す大学に受かってる事を想像した方がいいに決まってる。そう思いながら玄関のドアを開け、振り向いて声をかけた。
「それじゃあ行ってきます!」
ドアを閉めて鍵を閉め、目を閉じて深呼吸を一つ。
気合を入れて一歩目を乱そうと振り返り……『刃物を振りかざす、腐った人間みたいな何か』を見た。
「――!!」
酷く禍々しい刃物が、自分の胸に、深々と刺さる。
「……なん、で」
鞄が手から滑り落ち、温かい何かが、急激に自分の体から抜け落ちていくのを感じる。
「わた……し、まだ、やりたい、ことが」
頭の中に、疑問符ばかりが浮かぶ。何、何故、どうして。
「お……とう、さん。おか……あさん」
足がもつれ、ドアに背を預けるようにして座り込む。途切れそうになる意識の中、大好きな家族の姿が思い浮かぶ。
「にげ……て」
ドクンドクン、と。何かが、自分の中から湧き出てくる。掠れていく視界に映る腕が、『ヒトでは無い何か』に変わっていく。
「私から……ニゲ……テ」
一筋の涙を零して、少女だった『デモノイド』はゆっくりと立ち上がり咆哮する。
破壊の限りを、尽くす為に。
「お前ら、先日鶴見岳の戦いで戦った、デモノイドは覚えているよな?」
教室に集まった灼滅者達に、厳しい表情をした神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が問いかけた。
デモノイド。それは、ソロモンの悪魔『アモン』によって生み出された、ダークネスに匹敵する程の力を持つ強化一般人。
灼滅者から返された言葉に、ヤマトは頷きを返して口を開く。
「そのデモノイドが阿佐ヶ谷に現れた。だが今回一つ違うのは、何故かデモノイドが『アンデッド』による襲撃で生み出されているという点だ」
ヤマトの説明によると、アンデッド達は、儀式用の短剣のような物を装備しており、その短剣で攻撃された者の中からデモノイドとなるものが現れるらしい。
「この短剣は少し前に、ソロモンの悪魔の配下達が儀式に使っていた短剣と同様のものである可能性がある。だが今は、これ以上の被害を生み出さない為、アンデッドと、そして生み出されてしまったデモノイドの灼滅を優先して欲しい」
赤髪の少年はそう注意を促すと、次に現場の詳しい状況を説明する。
「阿佐ヶ谷の市街地に現れたアンデッドは、道行く人々を惨殺しながら歩き、家から出てきた少女を短剣で突き刺してデモノイドを生み出す。――残念だが、どんなに急いでもこれ以上は早く着く事は出来ない為、彼女がデモノイドに変わるのを防ぐ術は無い」
強く拳を握りながら、ヤマトは無念そうに呟く。
「このまま放っておけば、彼女は自分の家族までもその手にかけてしまうだろう。そうなる前に彼女を、そして彼女をデモノイドに変えたアンデッドを灼滅してくれ」
言い終えるとヤマトは、何かを吹っ切るようにいつもの自信に溢れた表情を浮かべ、灼滅者達に告げる。
「頼むぞ灼滅者! これ以上奴らの思い通りになんてさせるなよ!」
願わくば、この最悪の未来を塗り替えてくれと。
胸の内で呟きながら、教室を出ていく灼滅者達を見送った。
参加者 | |
---|---|
花楯・亜介(花鯱・d00802) |
エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821) |
一條・華丸(琴富伎屋・d02101) |
宗形・初心(星葬薙・d02135) |
千条・サイ(戦花火と京の空・d02467) |
早瀬・道流(プラグマティック・d02617) |
松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345) |
汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685) |
●悲劇の連鎖
地面に落ちた雫。人であった頃の残滓を踏みにじり、デモノイドが住宅の扉を粉砕しようと拳を振り被る。
異形へと変わる魂の奥で、少女の意識がそれだけはと抗う。しかしその抵抗は、デモノイドが拳を放つのを数秒止めるのみで終わった。
再度拳を振り被りながら、少女は叫ぶ。
助けてと。誰でもいいから、大好きな家族を助けて欲しいと。
しかし、その声は既に異形の咆哮。意味を無さない助け呼ぶ声は、住宅街に空しく響き。
――その拳が。その体が、突如放たれた衝撃で弾かれた。
怒りに染まる異形の魂に、今度こそ消えていく自分の意識の中、少女は見る。
声にならない声を。届かぬはずの無い願いを聞き取ってくれたかのように、現れてくれた者達を。
『アリ……ガト……ウ』
最後の力を込めた声は小さく、誰にも届く事無く響き。
デモノイドが、憤激と共に咆哮をあげた。
魔法弾を放った、契約の指輪を嵌めた手を握りしめた早瀬・道流(プラグマティック・d02617)の瞳が悲しげに揺れる。
(「悲劇を止めることが出来ないなんて、悔しいよ……!」)
間に合わなかった自分を悔やみながら、振り向くデモノイドへと言葉を放つ。
「ボクたちが脅威だってわかるよね! こっちに来なよ」
「お前らもだ」
汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685)が、突如現れた自分達を警戒するかのように構える死者の群れへと、燃える炎を宿した翠の瞳で貫く。
その怒りに呼応するように、霊犬のハルが六文銭をアンデッドへと放ち、主の声がそれに続く。
「さぁ、オレと楽しいこと、しようぜ!」
自分達を敵と認識したダークネス達の殺気を感じながら、宗形・初心(星葬薙・d02135)が敵を観察する。その瞳に映るのは、ソロモンの悪魔が作り上げた短剣と、それを持つ、ノーライフキングの眷属であるアンデッド。
(「ノーライフキングとソロモンの悪魔が手を組んだ、という事なの……」)
その結果として悲劇の犠牲者となったデモノイドを見つめ、携えた天星弓を握りしめる。
強く。強く。
「さて、と」
膨れ上がっていく戦意の渦の中、千条・サイ(戦花火と京の空・d02467)が腰に下げたナイフを鳴らしながら前に出て、楽しげに告げる。
「盛大な地獄絵図にならんうちに終わらせよか」
その声が最後の引き金を引いたかのように、デモノイドが灼滅者達に飛び掛かり、拳を振り下ろす。
アスファルトが砕け散り、無数の弾丸がかわした自分に襲い掛かるのを、WOKシールド着けた左のジャブで弾き返した松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)が短く叫んだ。
「カモン!」
暴虐の嵐と化すデモノイドとアンデッドを引き付けながら、隣の立体駐車場へと誘い込んだ灼滅者が振り返る。ここならば、誰も戦闘に巻き込む心配は無いと。
自分達に向けられる異形と死者の視線に、エステル・アスピヴァーラ(白亜ノ朱星・d00821)があどけない表情で思う。
(「む~、ダークネスは騒がしすぎなのです、おとなしくしていてほしいのです」)
だから、と赤き逆十字を描いた指を向け、ぽわぽわとした声で告げる。
「がっつり殴ってわからせてやるですよ~」
取り出したのはスレイヤーカード。超常の力を封じ込めた鍵をかざし、封印を解除する歌を口ずさむ。
「舞って舞って舞って舞って、疲れ果てたらさようならなの」
そんな彼女に倣うように灼滅者達はそれぞれの武器を携え、
「……なあ」
自分達を追って来た異形へと、一條・華丸(琴富伎屋・d02101)が呼び掛ける。
「お前が思い浮かべてた未来はこんなんじゃねぇだろ?」
思い返すのは、エクスブレインの語った少女の望んでいた未来。それはもう届かないのかと、言葉を紡ぎながら妖の槍を構える。
自分の、出来る事をする為に。
(「女の子にひでえ事しやがる」)
瞳に剣呑な光を宿し、花楯・亜介(花鯱・d00802)の足元から花と鯱の影が伸び上がる。その視線の先は、少女であったデモノイドと、アンデッドの群れ。
「いくぜ」
笑みを浮かべて地面を蹴り、始まりを告げた。
悲劇の連鎖を断ち切る、戦いの始まりを。
●異形生み出す刃
敵味方が入り乱れ、目まぐるしく動く戦場の中。車の屋根の上に立つアンデッドへとエステルは駆け、そんな彼女を迎撃するように人を超えた速度で鉄の爪が振り下ろされた。
「むー、最近ダークネス集団で暴れすぎなの」
しかしその動きに合わせて空中で回転。短く持った妖の槍の攻撃を弾くと共に壁を蹴り、懐に飛び込む。
「がっつり殴ってわからせてやるです~」
接触の直前で槍を捻り、螺旋状の衝撃波と共に胴体を貫く。相手が人であれば即死する一撃だが、偽りの生を吹き込まれた死者は最後の力で自分を貫いた槍を掴み。それを好機と見た周りのアンデッドが跳びかかるのを、
「させるかよ」
空中の敵を追って跳んだ亜介がその内の一体を掴み、別の敵へと投げ飛ばして首の骨を折ると同時に囲みを破り、
「そういうこっちゃ」
同時に宙に身を躍らせたサイが、アンデッドを蹴り飛ばした反動で壁に着地。そのまま高速で動いて死角から別の一体を、オーラを纏った手刀で斬り伏せた。
『――――!!』
デモノイドが咆哮を上げる。それは敵の力を感じ取った本能ゆえか。それとも、灼滅者達に知らない方法で指示が下されているのか。
「お前の相手は俺だ!」
それを察した華丸がエネルギーで作り出した障壁で殴りつけて気を逸らし、怒りを煽る。だが、その手応えを感じるよりも早く、本能が警鐘を鳴らした。
「っ!?」
デモノイドはその一撃を微動だにせずに受け止めると、咆哮を上げて掴み地面へと叩きつける。コンクリートがひび割れ、陥没する程の一撃を加えながらも、まだ終わりでは無いと二度、三度と叩きつけ、
「止まって! あなたに人を傷つけるなんてこと、させたくない!」
それ以上はさせないと、道流の放った鋼糸が腕へ巻き付く。しかしデモノイドの膂力は想像以上で、柱を経由して巻き付けたというのに、その柱もがあっさりと砕け散る。
「折角誘ってるのに、つれねぇな」
だがその動きを止めた一瞬に飛び込んだ和泉が、軽口を叩きながら仲間を掴む腕に拳に展開させた障壁で殴り掛かって真上へと弾き、
「まったくよね」
障壁を展開させた拳を握りしめた知子が、伸びきった肘にストレートを叩き込む。その一撃で力が緩み、宙に放り投げられた仲間を、
「ハル!」
チョコレート色したラブラドールレトリバーの霊犬が衣服を口に咥えて壁に激突するのを防ぎ、住之江が落ちてきた主を受け止めた。
「無理しすぎですよ」
安堵の溜め息と共に初心が癒しの力を込めた矢を放って傷を癒し、戦場に視線を戻す。それが自分の役割なのだからと、口に出さず呟いて。
「こっちはなんとか引き付けるから、そっちを!」
デモノイドの、自分の頭程ある拳をパリィと呼ばれる技術で外へと弾き、ダッキングで続く拳を潜り抜けながら凄まじい連打を放ちながら知子が叫ぶ。
それでも怯まず下から地面を抉りながら救い上げるような一撃をかわし切れず吹き飛び、着地したところに追撃をかけようとするのを、和泉が仲間を護る壁となり立ちはだかった。
「護ってみせる。……これ以上、奪わせてたまるかッ!」
裂帛の気合と共に振り下ろされる拳を拳で受け止め、続く一撃を放つ前に魔法の弾丸が、巨体を貫いた。
「止めるよ」
口にした通りに動きを止める異形へと、決意を込めた眼差しで道流が告げる。
「その先にある絶望の連鎖なんか、絶対にさせない!」
これこそが彼女の望んだ未来だと信じる声に、初心が強く頷いた。
「そう、だよね」
引き絞る弓に宿るは癒しの力。自らの誇りを具現したようなサイキックを、傷ついた仲間達へと繰り返し放つ。
「せめてこれ以上、好き勝手にはさせない!」
短剣を持つアンデッドと手刀で斬り結んでいたサイが、仲間達の宣言に笑みを浮かべて後ろへと跳ぶ。
「ちゅう事や。俺ら、まだまだ後が使えとるねん」
けろりと笑うと、手刀を覆っていた闘気を霧散させ。
「終わらせよか」
告げたと同時、違う相手と戦っていた仲間が目の前を通り過ぎ。一瞬出来た死角で放たれた漆黒の弾丸が、死者の頭を貫いた。
「いい加減、邪魔だぜ」
手甲を嵌めたアンデッドの拳を受けた亜介が、口に溜まった血を吐き捨てながら笑顔で言い放つ。
「さっさと――どきな」
オーラを込めた拳でお返しとばかりに殴りつけ、防がれるのも構わず凄まじい速度で繰り返し放ち。その拳は、死者が再び動きを止めるまで続いた。
「むー、邪魔しないでなのぉ」
短剣を持つアンデッドを守る様に立つ、最後の死兵にエステルが頬を膨らませながら妖の槍を振るう。しかしその一撃はアンデッドの構えた丸盾の表面を滑って受け流され、
「はい。これで終わりなの」
死者の瞳に最後に映ったのは、幼い少女の笑顔と、いつの間にか逆手に持ち振るわれる杖。
殴りつけると同時に注ぎ込まれた魔力が死者の体内で弾け、地面に落ちた盾が、甲高い音を立てた。
(「捉えた」)
最後の壁が崩れ、逃亡しようとしていたアンデッドの背を華丸の金色の瞳が貫く。
(「これから、なりたい自分になる為の勉強をしようと思ってたんだよな」)
妖の槍を振るい、妖気を穂先へと集中させる。集った妖気を鋭い氷の刃と変えながら、槍投げのように大きく身を捩り。
「その未来を奪ったお前も短剣も、逃がす訳ねえだろ!」
振るわれた槍から撃ち出された氷の刃がアンデッドの胸を貫いて止めを刺し、禍々しい力を纏う短剣が、コンクリートの床へと突き刺さった。
●魂の救済
アンデッドが倒れ、デモノイドに戦力を集中させる事が可能となった灼滅者だが、それでもこの相手は脅威だった。
「また……!」
その声は誰が発したものか。全員の視線が集まる先で異形の巨体は、自分の倍以上はある大きさの駐車していた一台の車を両手で抱え、投げ飛ばしてきたのだ。
灼滅者達は、ダークネスと同じようにバベルの鎖によって守られている。通常であれば、この攻撃は無意味なものでしかない。しかし、サイキックの力を注ぎ込まれた鉄の塊は容赦なく灼滅者達に襲い掛かった。
また、眷属とは言えアンデッドを7体相手にし、その間少人数でデモノイドを抑えていた灼滅者達も、一人として無傷な者は居ない。
そんな戦場を前に、初心は必死に思考を回転させながら仲間の状態に目を配り、迅速に傷を癒していく。
(「皆の背中を預かる身として、誰も倒れさせたりしない――!」)
止めを刺そうとする相手の行動を読み、癒しの力を宿した矢を放ち、浄化をもたらす風で仲間達を包み込む。
まるで詰め将棋のように、一手間違えれば破局へと繋がる極度の緊張感の中。血と汗を流しながら、それでも癒し手の誇りにかけて、戦線の維持に努めた。
しかしその行動は、当然ながら敵の眼にも止まる。後方の少女へと猛烈な勢いで投げ飛ばされる鉄の塊を遮るように、金髪を靡かせた影が飛び込んだ。
「くっそ……」
ハルの癒しを受けながら、新たな傷を負った和泉が怒りを滲ませる。その怒りの矛先は、デモノイドの更に先。この戦いを仕組んだ全ての元凶にして、少女の未来を奪ったダークネス。
「お前らなんかがなァ……」
四肢に力を込めて、駆ける。デモノイドの巨腕が壁を抉りながら迫るが、触れる直前で更に身を屈めてやり過ごし、
「奪っていいものじゃアねーんだよッ!!」
やり切れない思いを吐き出すように、デモノイドの脇腹に拳を連続で叩きつける。
堪らず身を捩らせるその姿に、少女の面影がどこにも無い事を心の内で悲しみながら、亜介が自らの影を操り、伸ばす。
「――なあ。もう、戻れねえのか?」
期待を込めて語りかける。だが、その返答は、狂おしいほどの殺気。
(「元に戻してやりてえよ。死体すら残んねえなんてあんまりだ」)
今までの前例から、デモノイドの最後は消滅だ。何も残さず、異形のまま消えていく。そんな悲しい存在へと伸ばした影を広げ、飲み込む。
鯱と花の形状の影は、少女への手向けの花のように。
一刻も早く、灼滅させるが為に。
「きっついなあ」
現れたトラウマを振り払い、雄叫びを上げる異形へとサイはバイオレンスギターの弦を激しくかき鳴らし、
「今、終わらせたるわ」
生じた破壊の音波を、全力で叩きつけた。
無数の傷を受け、苦痛の声を上げながら宙に逃れたデモノイドを追うように、二人の少女が視線で追いながら手をかざす。
「くるしい? かなしい? だから止めてあげるの」
語り部のように、エステルが口ずさみながら右手を逆十字に切る。その動きに沿うように走った鮮血の如きオーラがデモノイドの体を走り、
「そろそろフィナーレ、幕引きは華やかになの」
人であったものの鮮血が降り注ぎ、辺りを染める。その光景に悲しみながら、唇を噛み締めながら。道流が理不尽に抗うように再度力を込めて、手をかざす。
「あなたの無念は、ボクたちが抱き留めていくから」
全てを受け止める覚悟を誓約するように口にし、制約の力を込めた魔法の弾丸で貫いた。
更なる傷を負い、地面へと落下する巨体へと、両手に闘気を集中させる華丸の頭を過ったのは友達と交わした言葉だ。
それは『渡り鳥は何を目指して飛ぶと思う』という問いだった。答えに窮した自分にその友達は告げた。『明日に向かって飛ぶんだ』と。
(「お前も、きっとそうだった」)
両手に収束したオーラを放ち、主と合わせるように住之江が霊障波を撃つ 。度重なる状態異常の為か、その光をデモノイドは受け入れるように身じろぎ一つせずに受け。そんな相手に向かって、知子が踏み込む。
(「あたしの経験した中ではかつてなくシリアスだわ。そして、理不尽なのだわ」)
拳を握り、障壁を展開させたジャブを叩きつけて初動を潰しながら怒りを誘う。怒りに染まり、大振りになっていく攻撃を、集中して周りが遅く見えるような感覚の中でかわしていく。
(「だけど……今は殺るしか、ないのよ!」)
直接触れずとも肌を切る剛腕の嵐の中。滴る鮮血を宙に舞わせながらも耐え、見つけ出した最大の好機。
全力の一撃を髪に触れるほどの至近距離でかわし、緋色のオーラを纏った右の拳をカウンターで叩き込んだ。
「――きっと、あなたをこんなにした奴を見つけてぶっ飛ばすのよ」
喉を貫いた拳を引き抜きながら、誓うように呟き目を閉じる。
デモノイドとなった少女は、鮮血を涙のように流しながら、最後に自らの育った家屋を振り向いた。
それは、家族の元へと帰りたいという思いゆえか、それとも何か別の理由か。
少女の最後の思いは誰にも解らないままに。
――静かにその姿を消した。
後に残された灼滅者達は、その魂の安らぎを祈り。
全ての元凶となった禍々しい短剣を、慎重に学園へと持ち帰った。
作者:月形士狼 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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