阿佐ヶ谷地獄~朝靄に映える悪夢

    作者:幾夜緋琉

    ●阿佐ヶ谷地獄~朝靄に映える悪夢
     まだ陽も昇るかどうかといった早朝4時前……東京は杉並区、阿佐ヶ谷駅。
     地下鉄へと続く線路を、うぞろうぞろと歩く大量のアンデッド達がいた。
    『うぅぅ……ぐぅぅ……』
     そんな呻き声……一つだけならまだ良かったかも知れないが、幾重にも重なった呻き声を聞いていると、苦しみに狂いそうになる。
     彼らの手には禍々しい姿形をしたナイフが握られていた。
     そして……何かの目的を果たさんが如く、アンデッド達は、阿佐ヶ谷駅から、街へと出て行くのであった。
     
    「さて……皆集まってくれたみたいだな。それじゃ俺の脳に秘められた全能計算域(エクスマトリックス)が、お前達の生存経路を導き出してやるぜ!」
     神崎・ヤマトは、威勢良く声を掛けながら説明を早速始める。
    「以前鶴見岳の戦いで戦ったデモノイド、覚えているか? そのデモノイド達が、東京は阿佐ヶ谷駅に現われてしまった様なんだ。このままでは、阿佐ヶ谷駅とその周りが壊滅してしまいかねない。ナノで、皆には急ぎ、阿佐ヶ谷へと向かって欲しいんだ」
    「デモノイドは、ソロモンの悪魔の『アモン』により産み出されたはずなんだが、今回は何故か『アンデッド』による襲撃で産み出されてしまっているみたいなんだ。そしてアンデッドらは儀式用の短剣の様な物を装備しており、その短剣で攻撃された者の中から更なるデモノイドとなる者が現われるみたいなんだ」
    「未確認なんだが、少し前にソロモンの悪魔の配下らが行っていた儀式に使われていた短剣と、これが同様のものである可能性はある。とは言え今は、これ以上の被害を生み出さない為にも、アンデッドと産み出されてしまったデモノイドの灼滅を皆にはお願いしたいんだ」
     そして、ヤマトは続けて詳細情報を説明する。
    「アンデッドが阿佐ヶ谷駅から続々と出始める頃だ。駅だけでなく、線路からも出て来るアンデッド達、出て往ってしまい、街に散ってしまっている者らが居るが、こいつらは皆と同時に作戦に参加する仲間達が対処してくれるはずだ」
    「皆には駅から出て来るアンデッドらの対処……出来る限りデモノイドを産み出すのを止める為、目に付く範囲のアンデッドを倒しつつ、一般人を避難させて欲しい、という事になる」
    「とはいえ恐らくその場はアンデッドが暴れ回り、人が死んでおり、産み出されたデモノイドが着々と現れ、雄叫びを上げている事になると思う……辺りは混乱に陥っているだろうから、その点念頭に入れた上で、作戦を考えて見て欲しい」
    「尚、相手にするアンデッドの数は6人。それに加えてデモノイドが一体を相手にする事になるだろう。戦力は間違い無く彼らの方が上だから、油断はしないでくれな」
     そして、最後にヤマトは。
    「何はともあれ、アンデッド達の暗躍をこのまま放置しておくわけにはいかないだろう……是非とも、皆の力を貸してくれ。宜しく頼むぜ!!!」
     と最後は気合いを入れて、灼滅者達を送り出すのであった。


    参加者
    星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)
    浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)
    黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)
    沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)
    ミネット・シャノワ(白き森の黒猫・d02757)
    姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)
    社・百合(社の末裔・d08563)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)

    ■リプレイ

    ●朝の風
     ヤマトから依頼を受けた灼滅者達。
     向かうは午前四時前、早朝の杉並区……早くから仕事などに向かおうという人達の影や、早朝ランニングに精を出す人が居たりする……長閑な一時。
    「でも……のんびりとはしていられませんね……」
     静かに沖津・星子(笑えぬ闘士・d02136)がぽつりと呟く様に、事態は決して良くはない。
     むしろ最悪の時が、今にも迫ろうとしている。大量のアンデッド達が、この阿佐谷の地を闊歩しようとしているのだから。
    「しかしデモノイドにさせられるとはな……望んで闇に墜ちるのなら、あるいは絶望の果てに闇堕ちを選ぶのならそれでもいい。だが……強制的にデモノイドに替えてしまう奴らのやり方は、俺の許容範囲を超えるものだな」
    「そうだな。デモノイドは恐らく、騒動中に産み出された物なのだろう。望まぬ破壊や殺戮をする前に……せめて安らかに眠って欲しい所だ」
     天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)に、社・百合(社の末裔・d08563)が瞑目を弔うと、玲仁はこくりと頷いて。
    「そうだな……デモノイドとなった一般人を救う方法は、俺は灼滅しか思いつかない。助けられないのは、すまないと思うが……」
    「そうだ……私達灼滅者に用があるのなら直接此方に来れば良いものを。一般人を狙うとは、卑劣にも程が在るぞ」
     少し苛ついた様な口調の浦波・梗香(フクロウの目を持つ女・d00839)。それに星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)も。
    「そうだね。無数のアンデッドは気持ち悪いしね。ボク、ホラー映画はあまり見ないけど、苦手とか得意とかはないんだよ。でもキラかも? デモノイドが何故、アンデッドから産み出されるのか、短剣を持ち帰ってじっくり調べてみたいな」
    「そうですね。まぁ何はともあれ今回相手にするのはゾンビとデモノイド……手強い相手なのは間違い無いわね」
     と、姫切・赤音(紅榴に鎖した氷刃影・d03512)が唇を噛みしめると、それに黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)が。
    「ん……あれ、そういえば赤音先輩、今回の様な盾役とか柄じゃないよね? 大丈夫なの? 動きが鈍ってるんじゃない?」
     と、憎まれ口を叩く。
     そんな叡智に対し、赤音は。
    「そんな事無いわよ。むしろ貴方こそ、ビビってんじゃないでしょうね?」
    「ん? まさか」
     肩を竦める叡智。
     ……そんな二人の掛け合いに祭莉、そしてミネット・シャノワ(白き森の黒猫・d02757)がクスクスと笑いつつ。
    「何だろう……これこそ喧嘩するほど仲が良いって言う事なのかな?」
    「ふふ、そうかもしれませんね……と、それはさておき、敵は体力自慢のデモノイド……その上に今回はゾンビまでいますし……回復のタイミングは誤る事は出来ませんね……! とにかく傷ついたら、即回復の心持ちで行きますよ!」
     拳を振り上げるミネット。
     そして灼滅者達は、阿佐ヶ谷駅へと到着するのであった。

    ●悪夢の影に
     始発の走り始める時間までまだあと少し……そんな阿佐ヶ谷駅から、続々とアンデッドの影が出始める。
     そんな阿佐ヶ谷駅の前の辺りに、偶然居たのは十数人の一般人達。
    『……な、何なんだ、あれ?』
     そんな言葉を、朝靄の中に呟く一般人達……そんな一般人達に気づき、アンデッド達が。
    『う……うぐぅぅ……ゥ……』
     と呻き声を上げながら、一般人の咆哮へと歩き始める。
     ……そこに到着する灼滅者達。
    「あれがアンデッド……よし、皆始めるぞ」
    「はい。Legion Leyon Dents-de-lion!」
    「悲しみの唄、天地に響け」
     玲仁の言葉に頷き、ミネット、玲仁がスレイヤーカードを解除。そして他の仲間達も同様に、スレイヤーカードを続々と解除。
    「準備OKです!」
    「ええ。それでは行ってきます、後ろはお任せしますね、ミネットさん」
    「はい!」
     星子の言葉にミネットが頷いて、そして灼滅者達は町の人達の脇を翳めてアンデッドの目前へ。
     即座にその場で星子が殺界形成を展開し、加えて玲仁がプラチナチケットを使用。
    「みなさん、驚かせてすみません。こっちに来て下さい!」
     と、この事態の関係者を一般人達に植え付けながら、一端その場から避難させる。
     とは言っても早朝の駅前で、避難出来る場所は……駅地下やら、この時間で明いてる建物が在ればその程度しかない訳で。
     ともかくその場から逃げさせる事が必要な事、大きな声でその場からは後にさせる。
     無論、そんな灼滅者達の動きを快くは思わないだろうアンデッド達……その後ろから、デモノイドも姿を見せる。
     蒼い身体から発せられる闘志は、一般人であれば恐怖に戦くであろう。
    「……っ!」
     と、直ぐ百合が影縛りで最前にいるアンデッドの動きを止めると、続けて叡智、星子、赤音の前衛に属する者達が、アンデッドを包囲。
    「……喰らいな」
     と叡智が即座に螺旋槍で突っ込み攻撃。
     それに呼応するように、シールドバッシュにて、アンデッド達に怒りを付与する。
     又、星子もシールドリングで自己の防御力を高めて、防衛陣をしっかりと構築する。
     そして前衛陣に続けて、ジャマーの祭莉がセイクリッドクロスで武器封じをアンデッド達に配ると共に、合わせて梗香も後方のスナイパーに立ちつつ、デモノイドの動きをしっかり見極めながら自己に高速演算モードで命中を引き上げる。
     そして灼滅者達の動きに応じ、アンデッドとデモノイド達が動き出す。
     アンデッドはうぅううと呻き声を上げながら、腕を振って攻撃……一撃、二撃。
     そんな攻撃をじっと見つめるミネット……敵の攻撃手段を見極め、そして。
    「……! 赤音さんの前の敵、それです!」
     そう……デモノイドの切欠となる短剣を持ったアンデッド。
    「了解!」
     すぐ赤音が呼応するように頷く。
     そしてアンデッドの攻撃の後、デモノイドも攻撃。
     太い腕から繰り出される一撃は、一撃食らうだけでもかなり体力が削られてしまう。
     とは言え、その攻撃を、星子がカバーリング。
    「……他の皆には、指一本ふれさせませんよ。こちらを向いてなよ!」
     と大声を上げる。
     そしてそのダメージを、待機していたミネットが。
    「【盾】の効果が、少しでもお役に立てると良いのですが……!」
     とシールドリングで回復と盾の付与を行う。
     二ターン目。
    「ここで私達が食い止めれば、僅かでも今後の被害は少しでも抑えられるはず……だからこそ、ここで必ず止める!」
    「そうだ……力無き者を標的にするなど……恥を知れ!」
     梗香が一発、バスタービームを放つと続けて百合が紅蓮斬で斬りかかると。
     そして星子は自分自身にシールドリングを使い更に防御力を上げて、盾となるべく動く。
     更に赤音と叡智の二人も、背中合わせで呼吸を合わせ閃光百裂拳と、斬影刃による攻撃を喰らわせる。
     それら攻撃は、全て短剣を持ったアンデッドに向けての集中砲火を喰らわせる訳で、さすがに短剣持ちのアンデッドは倒れる。
     そして倒れたアンデッドの腕からこぼれ落ちたナイフを、即座に奪取。
    「確保したね……さぁ、後は残りの敵を倒すだけだね」
    「そうだね……先に周りのアンデッド達から片付けるよ」
     赤音の言う通り、次のターゲットは短剣を持たないアンデッド達。
     祭莉の武器封じで攻撃力は多少低下しているが、それに更に結界糸でプレッシャーを追加付与。
     と……そうしている間に、やっと避難させていた玲仁が戻ってくる。
    「待たせた……すまない」
    「いえいえですよ。さぁ、回復頑張りますよ! 星子さんっ、合わせていきますよ!」
    「そうね……」
     ミネットに頷く星子。
     アンデッドと、デモノイドの攻撃の後、すぐ玲仁がエンジェリックボイスで回復、ミネットが高いダメージの仲間をシールドリングで追加回復する。
     三ターン目、四ターン目……確実にアンデッドへ攻撃を集中させる事で、確実に一匹ずつ削る。
     デモノイドの攻撃は星子が、アンデッドの攻撃は赤音が、と攻撃の受け手を分散させ、ダメージの量を平坦化させる。
     そして……そんな攻撃を受ける赤音に対し、叡智が。
    「ほらね、油断大敵……っていうか、ボクの先輩に、手を出さないでくれる?」
     とアンデッドに言い放ってみたりもする。
     そして十ターン程経過し……やっと。
    「…これでトドメだ!」
     社が叩き込んだ閃光百裂拳が、6匹目のアンデッドの身体に叩き付けられると……六人居たアンデッド達全員倒れる。
     残るは後1匹……蒼い身体のデモノイド。
    『……ウゥゥ……』
     唸り声と、威嚇の声を挙げるデモノイド……そんな彼らが以前、倒れた時に聞いた言葉が耳に浮かぶ。
    「……元は人間だった。だが……それでも……このまま放置しておく訳にはいかない」
    「そうです。もう……あんな『ありがとう』だなんて、もう二度と……思い出して下さい、あなたが何者であったか……!」
     梗香、祭莉が投げかける言葉……それに対し、デモノイドからの反応はない。
     寧ろ、目の前の灼滅者達を殲滅せんが如く、その力で持って暴れ回ろうと動く。
    「っ……もし、もし応えられるなら……貴方が何者か教えて下さい。貴方が生きてた、証として……!」
     その攻撃を受けながら星子が問いかけて、その反応を期待するが、やはり……暴れるのみ。
    「……駄目か。最早……全てが支配されているのかも知れないな」
     百合が静かに呟く。
     無論、助けるには灼滅しかないのは判って居るけれど。
    「仕方ない。皆、一気に仕掛ける……一気に灼滅するぞ」
    「……わかりました」
    「ええ……星子さんに、合わせますっ」
     百合の言葉に、辛そうに頷く祭莉とミネット。
    「……では、行くぞ」
     梗香がバスタービームでプレッシャーを与え、それを起点に前衛、中衛、後衛全ての連携攻撃。
     デモノイドも、己の戦闘意思の赴くままに反撃し……灼滅者達の体力を削るも、ミネット、玲仁が的確に仲間の体力の減り具合を見ながら回復。
     後方支援がしっかりしているからこそ、前衛陣も安心して戦う事が出来る。
     そして……デモノイドと真っ正面から対峙し、六ターン経過。
     デモノイドも、そして灼滅者達も体力を削り合い……どちらも疲弊。
    「くっ……中々やるものだな」
     百合の吐いた言葉……やはりさすがはデモノイド。
     しかし、決して諦めることはない……灼滅者達は一致団結し、デモノイドに。
    「すまないが……あまり時間を掛ける訳に行かないのですよ」
     星子がご当地ダイナミックで、デモノイドの身体を持ち上げて、地面へと頭から叩き落とす。
    『グガ……ァ……』
     その一撃に、脳しんとうでも起こしたのか、朦朧となるダークネス、其処に生じた隙に。
    「……さぁ、トドメだよ」
     叡智が接近、渾身の閃光百裂拳を叩き込むと共に、デモノイドは断末魔の悲鳴と共に、動きを止めて灼滅されるのであった。

    ●声の末路
    「……終わったか」
     玲仁が静かに武器を下げ、息を吐く。
     他の灼滅者達も、同様にスレイヤーカードに再封印をし、戦闘態勢を解いていく。
     そして、足下に転がるナイフ……デモノイドを作り出したと思しきナイフを百合が手にとって。
    「これが……デモノイド達を作り出すナイフか……見た所では、何の変哲も無い儀式用のナイフの様だが」
    「そうだね……でも、何だか嫌な感じはするな」
     叡智の言う通り、変哲も無いただのナイフだが嫌な気配がするのは間違い無い。
     でも、今ココでどうにか出来るというものでもない訳で……一端これは持ち帰るしかないだろう。
    「しかし……どこの誰の仕業だかは知らないが……デモノイドとアンデッド達を作り出した奴らには、必ずやそれ相応の報いを受けさせてやる……いいか、首を洗って待っていろよ」
     と、梗香が消失したデモノイドとアンデッドの亡骸に向けて静かに告げる。
     その言葉に対し、他の仲間達も……静かに拳を握りしめると共に。
    「さて、と……それじゃ一端この場を離れるとしようか。短剣を、早く見てみて貰いたいのもあるし、待ちは他の仲間達が頑張ってくれているだろうしね」
     叡智の言う事に皆も頷いて、そして灼滅者達は、まだ早朝の人気の少ない阿佐ヶ谷の町を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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