早朝の地下鉄南阿佐ヶ谷駅。
始発前の朝4時よりも、少し前。
地下鉄の線路を通って、大量のアンデッド達が現れた。
アンデッド達の手に握られていたのは、『儀式っぽい見掛け』のナイフ。
そのアンデッド達が徒党を組み、人々を襲ったのである。
アンデッド達は阿佐ヶ谷の市街地の住居に踏入、そこにいた住民をナイフで殺害。
多くの住民はそれで死亡したが、そのうちの一部が『デモノイド』に変化した。
エクスブレインは、この事態を深刻に受け止め、今回の依頼を説明した。
鶴見岳の戦いで戦った、デモノイドが阿佐ヶ谷に現れた。
このままでは、阿佐ヶ谷地区が壊滅してしまうので、急ぎ、阿佐ヶ谷に向かって欲しい。
デモノイドは、ソロモンの悪魔『アモン』により生み出された筈だが、今回は何故か『アンデッド』による襲撃で生み出されている。
アンデッド達は、儀式用の短剣のような物を装備しており、その短剣で攻撃されたものの中からデモノイドとなるものが現れるらしい。
未確認ではあるが、少し前にソロモンの悪魔の配下達が行っていた儀式に使われていた短剣と同様のものである可能性もある。
だが、今は、これ以上の被害を生み出さない為、アンデッドと、そして生み出されてしまったデモノイドの灼滅をお願いする。
と……。
その間も、アンデッド達によって、多くの人が命を落としている。
その中にはデモノイドと化し、雄叫びをあげる者もいるが、大半の者はアンデッド達から逃げるのが、やっと。
彼らに出来る事と言えば、身体が動かなくなるまで走り続けるか、物陰に隠れてただ嵐が去るのを祈るのみ。
そして、エクスブレインが言葉を続ける。
お前達が相手にするのは、アンデッド数体と、デモノイド一体。
デモノイドはかつて女子高に通うお姉さまだった少女。
今はデモノイドと化して、女王様チックな変貌を遂げている。
このデモノイドを倒せば、アンデッド達を撤退させる事が出来るだろう。
そのため、最悪の場合はコイツを倒す事だけ最優先にしてほしい。
参加者 | |
---|---|
蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540) |
安中・榛名(超灼乙女マハルーナ・d07039) |
アシリア・カナート(エターナルエイティーン・d08892) |
ペサディージャ・ゴモリー(砂漠のアンタレス・d09826) |
柴・宗志朗(スカー・d10131) |
藤堂・十夜(カニスディルス・d12398) |
アリシア・トウドウ(プラソンソレイェ・d12425) |
靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752) |
●地獄の入り口
「こ、これは……!?」
現場に辿り着いた安中・榛名(超灼乙女マハルーナ・d07039)は、目の前の惨状を見て、しばらく言葉を失った。
アンデッドと化した者達は儀式用の短剣を握り締め、手当たり次第に人を切り捨てていた。
その中には、必死に抵抗する者や、泣き叫ぶ者、家族を見捨て、命乞いをする者、神に救いを求める者もいたが、結果は同じ。
たとえ相手が老人であっても、女性であっても、子供であっても、平等に死は訪れ、物言わぬ肉の塊と化していた。
「十夜兄さま。どうか、ご無事で……」
目の前の惨状を目の当たりにして、アリシア・トウドウ(プラソンソレイェ・d12425)が涙を堪えて、携帯電話を震わせた。
アリシアの兄も同じ場所に来ているが、デモノイドを倒しに行ったため、今は離れ離れ。
彼女にはその間に一般人を安全な場所まで避難させるという重要な役目がある。
だが、何処を見ても、死体の山、山、山。
一緒に同行していた大豪院・麗華(高校生神薙使い・dn0029)も、恐怖のあまり怯えて動けなくなっていた。
「だ、誰か、助けてくれ!」
何処からか男の悲鳴が聞こえた。
しかし、次の瞬間、聞こえてきたのは、断末魔。
生き残った人間に対して、あまりにもアンデッドの数が多過ぎる。
そんな状況で生き残る事など、ほぼ不可能。
だが、それでも、わずかに残った希望に賭けてみたかった。
「きゃあ、誰か!」
その時、別の方向から女性の悲鳴が聞こえた。
「今度は必ず助けますっ!」
すぐさまライドキャリバーのアカギに騎乗し、榛名がアンデッド達に襲われた女性を助けに向かう。
女性は既にアンデッド達に囲まれていたが、その場でアカギから飛び降りてアンデッド達に突っ込ませ、何とか最悪の事態を回避する事に成功した。
しかし、女性はパニックに陥っており、榛名達でさえ敵だと思い込んでいる。
「怖がらせてごめんなさい。でも、私達が皆さんを守ります。だから、今だけでいいんです。一緒に逃げて下さい」
女性に言い聞かせるようにしながら、アリシアがプラチナチケットを使って、優しく語り掛けた。
その言葉を聞いた女性は小さくコクンと頷いたが、緊張の糸が途切れてしまったせいか、そのまま意識を失った。
だが、そうしている間にも、アンデッド達が迫ってきた。
「まるでゾンビものの映画のような状況ですね。だからと言って、こんな暴挙は許せません」
女性を守るようにして陣取り、榛名がオーラキャノンを撃ち込んだ。
その間に麗華が女性に肩を貸しつつ、安全な場所まで避難しようとした。
「心細いけど、私は私にできる事を……」
そう言ってアリシアがアンデッド達めがけて、トラウナックルを叩き込む。
とにかく、早くここから避難しなければ……。
そう思いつつ、アリシア達が女性を連れて逃げ出した。
●デモノイド
「そっちは無事か。こっちも、すぐ終わらせる。またな」
携帯電話で妹と連絡を取り合った後、藤堂・十夜(カニスディルス・d12398)がアンデッド達をジロリと睨む。
アンデッド達は儀式用の短剣を握り締め、手当たり次第に逃げ惑う人々を切りつけていた。
そのため、辺りには死体の山が広がり、いくつも血溜まりが出来ている。
「とにかく、デモノイドを見つけるのが先ですわね」
デモノイドを見つけるため、アシリア・カナート(エターナルエイティーン・d08892)が空飛ぶ箒に飛び乗った。
そのたび、人の悲鳴が聞こえたが、アンデッドの数が多過ぎて、助ける事が難しかった。
仮に助ける事が出来たとしても、一緒にここから逃げなければ、確実に命を落としてしまう。
そこまで分かっていても、一人でも多くの人を助けねば、助けなければならないという気持ちが強まった。
「ここは危険です。早く遠くへ!」
逃げ遅れた男性を守るようにして陣取り、蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)が王者の風を使う。
後ろで怯える男性がどこまで逃げる事が出来るのか分からない。
だが、わずかでも可能性があるのなら、少しでも生き残る事が出来るのなら、それに賭けてみたかった。
男性も震える体を押すようにして立ち上がり、ふらふらと逃げていく。
すぐさまアンデッド達が群がり、男性の悲鳴が響き渡る。
長引かせた命は、ほんの一瞬。ほんの一瞬でしかなかった。
アンデッドの数さえ少なければ、男性が怖がる事無く、全力で逃げ出す事さえ出来れば、助かったかも知れない命。
「おーほっほっ、脆い、脆い。でも、怖がる事がないのよ。これは新たなステージに行くための儀式。ほんの一握り……、選ばれた者だけが救われるの」
それはデモノイドと化した少女であった。
おそらく、アンデッド達によって襲われ、デモノイドと化してしまったのだろう。
その制服は血で汚れ、顔には涙が滲んだ後が薄っすらと残っていた。
彼女が何を考え、どのような過程を経て、デモノイドと化したのか分からない。
しかし、それが彼女にとって幸せであったとは、全く思えなかった。
「デモ……ノイド……!」
柴・宗志朗(スカー・d10131)は、自分の目を疑った。
一瞬、気が触れた少女かと思ったが、その瞳の奥に宿る闇は本物。
こちらの気持ちを見透かすようにして、デモノイドが……笑う。
「偶発的な理不尽でなって可哀想ではありますが、災厄を齎す存在は見過ごすわけにはいけません」
デモノイドと化した少女に視線を送り、ペサディージャ・ゴモリー(砂漠のアンタレス・d09826)がスレイヤーカードを構える。
「まさか、私を殺すの? だったら、残念。あたしはもう死んでいるの? 死んで生まれ変わったの? それでも、殺す? 邪魔だから? 鬱陶しいから?」
それを見たデモノイドが、からかうようにして踊る。
「さて……、それでは大切な靴下……もとい、人命がかかった仕事です。全力で取りかからせていただきましょう」
女王様チックなデモノイドに対抗するようにして、靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752)がプリンセスモードを使い、プリンプリンなムタンガ姿になった。
しかも頭と足に靴下を履いており、変態そのもの。変態紳士。
「それなら、私も肩慣らし程度の相手をしてあげる。だって今日は私のバースデイだもの」
そのため、デモノイドがあえて蕪郎から視線を逸らし、思わせぶりな笑みを浮かべた。
●アンデッド
「誕生日……ですか。それなら、祝福してあげませんとね。まあ、普通の祝福ではありませんが……」
含みのある笑みを浮かべ、蕪郎が再びデモノイドの前に立つ。
それに合わせて、ナノナノのみずむしちゃんも不敵な笑みを浮かべた。
「な、何よ。その変態的な視線は……! 一体、何が……。ま、まさか、私の靴下が……目当てなの!」
デモノイドは恐怖に慄いていた。
この場所に……いや、この状況でそんな視線を浴びせられるとは夢にも思わなかった。そう言えば、以前にもこんな視線を感じた事がある。体育教師の今野。忘れもしない。あれは夏の暑い日、三時限目……。内申書の事で話があると呼び出され……。
「ああ、思い出しただけでも腹が立つ! お前達をここでぶち殺した後、アイツを八つ裂きにしないと気が済まないわ!」
過去に何があったのか分からないが、デモノイドがブチ切れていた。
「何だか妙に殺気立っていますの」
ただならぬ気配を感じ取り、アシリアがマテリアルロッドを構える。
デモノイドは体から放出された闇を纏い、恨めしそうにこちらを睨みつけていた。
「悪いな、元女王様。こちらも手加減はしない。殴り合おうか」
一気に間合いを詰めながら、十夜がシールドバッシュを仕掛ける。
それに気づいたデモノイドが後ろに飛びのき、高笑いを響かせた。
「あははははっ! 何か勘違いをしているようだけど、甘いわね。私は今でも女王よ」
そう言ってデモノイドが指をパチンと鳴らす。
次の瞬間、虚ろな表情を浮かべたアンデッド達が、ゾロゾロと集まってきた。
「だから、どうした……」
全く怯む事なく、宗志朗がデモノイドめがけて、閃光百裂拳を放つ。
しかし、デモノイドはアンデッドを身代りにして、狂ったように笑い声を響かせた。
「それなら、このまま氷の彫像となりなさい」
デモノイドと化した少女の死角に回り込み、悠がフリージングデスを使う。
だが、その攻撃はアンデッドと化した少女によって防がれた。
苦悶に満ちた表情を浮かべ、口を半開きにさせて、恨めしそうにこちらを見ている少女によって……。
「いい加減にしてください。あなたも苦しんだはずです。そんな体になる前は……」
仲間達の連携を組むようにして距離を縮め、ペサディージャがデモノイドにティアーズリッパーを放つ。
だが、デモノイドはまるで他人事のように、『忘れたわ、そんな事』と吐き捨てた。
●デモノイド
「女王様だかお姉様だか知りませんが……灼滅させていただきます。貴方の中に己がのこっているのならば、もしもかしたら戻れるかもしれませんが……」
すぐさまシールドリングを発動させ、悠がデモノイドに視線を送る。
「戻る……? こんなに清々しい気持ちは初めてよ。戻る必要なんてないわ。くだらない」
嫌悪感をあらわにしながら、デモノイドがアンデッド達を嗾けた。
「切り裂く……」
アンデッド達を迎え撃つようにして、宗志朗がチェーンソー斬りを放つ。
その一撃を食らったアンデッドが悲鳴をあげ、重なり合うようにして倒れていった。
(「……儀式用のナイフは持っていないようですね」)
少し残念そうにしながら、ペサディージャが溜息をもらす。
次の瞬間、デモノイドが隠し持っていたナイフを振り上げ、背後からペサディージャを切りつけようとした。
「やらせませんよっ!」
それと同時に蕪郎が華麗に飛び上がる。
そして、デモノイドの視線に飛び込んできたのは、おいなりさん的なモノ。
「いやあああああああああああああああ」
それがトラウマ的な何かに触れたのか、デモノイドが怯えた様子でしゃがみ込む。
恐怖で……、体が動かない。
何よ、あの物騒なモノは……。
それ以前に、この状況でアレは何……、何者!?
何の答えも出ないまま、デモノイドの中で恐怖ばかりが膨らんでいく。
……間違いない。あれは純粋な変態。変態を越えた変態だ。
排除せねば、この世から消し去らねば……。
そう思って立ち上がったデモノイドの視界に入ったのは、十夜であった。
「土産だ、受け取れ」
冷たい視線をデモノイドに送り、十夜が影喰らいを放つ。
次の瞬間、デモノイドが『嫌、死にたくない』と叫び、その意識は闇に消えた。
「十夜兄さま……!」
それはアリシアであった。
女性の避難を終え、ようやくここまで辿り着いた姿は、沢山の返り血で汚れていた。
一緒に行動を共にしていた榛名達も同様に返り血を浴びており、ここまでの道のりがいかに険しく困難であったのかを物語っていた。
救えぬ命、救えた命、救われぬ命……。沢山の命を散らして出来た血の道を歩き、ここまで来たのだから……。
だが、デモノイドと化した少女が倒れた事で、アンデッド達がいなくなり、ようやく悪夢のような時間が終わった。
……それだけは今思う事の出来る唯一の救いであった。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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