骨抜きアンブレイカブル

     薄暗い部屋の中。ランプの光だけを頼りに、知的な顔つきの少女が色白の肌にブラウスの袖を通す。
    「じゃあ行きます、君も風邪をひかないうちに服を着たらどうですか?」
     ケースからメガネを取り出し、かける。するとベッドに横たわっていた青年が乗り出してきた。
    「えぇ~、もう行くのかよ?」
     少女の背中にしがみつき、未練がましく言う青年の正体はアンブレイカブル。少女と同じダークネスだ。
     そして少女は、大淫魔ラブリンスターの配下の淫魔。最近自分の邪魔をしているのは他のダークネス組織ではないか? と考えているラブリンスターの指示により、友好関係を築こうと青年に接触を試みたのだ。
    「近頃、私どもの作戦を邪魔する輩が現れ出しているという話は、もうしましたよね? 私も忙しいんです」
     青年を突き放して振り返ると、メガネの奥の鋭い瞳が、訝しげに青年をとらえる。
    「言っとくけど、おれっちはなんもやってねぇぜ?」
    「信じていますとも」
     言葉ほど信用してはいない。だけど女が信じているといえば男は喜ぶ事を、少女は知っている。
     せいぜい喜ばせてやろう、使える駒は嫌いではない。
    「な~あ~、明日も会えるんけ?」
    「それは、あなた次第」
     部屋の照明をつけて、メガネをくいとあげて、女性は問うように青年を見つめる。
    「分ーってるよ、協力だったらいくらでもしてやるって」
    「なら、私の心はあなたのものです」
     そんな台詞を吐いてやれば、青年はぐっと拳を握っている。その様を冷ややかに見つめながら、女性は部屋を後にした。

     がら、とやや激しく教室の戸が開く。
    「みんな! またラブリンスターの事件なのっ!」
     飛び込んできた須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が声を荒げる、あらかじめ集められていた灼滅者は一様にまりんへと向いた。
     そのうち一人が、面倒そうに呟く。
    「また? 今度は何」
    「えぇっと、私たちが配下を集めるラブリンスターの妨害を続けてきた結果、ラブリンスターは他のダークネスと親交を深めるべく、その……だから、なんていうか、行動を始めたの!」
    「……はぁ、なんでまた、そんなことを?」
     口ごもった部分は親交を深めるその方法。それは淫魔ありきだろう。その光景を予知したからか、少し頬を赤らめているまりんにわざわざその部分を質問するものはおらず、寧ろその動機について質問した。
    「うーん、なんだかラブリンスターは、自分たちの邪魔をしているものが他のダークネス組織だと思っているみたい、私たちが邪魔して回ってるだなんて夢にも思っていないらしくて」
    「だから仲良くしましょうって? とんだ勘違いねぇ~」
     やれやれと肩をすくめる灼滅者に苦笑いして、まりんは状況の説明を始める。
    「場所はとある住宅の一室、持ち主が長い留守の間に、アンブレイカブルが占拠して住み着いているみたいだね」
     家には二人以外には誰もいない。とくに鍵もかかっておらず、さほど広い家でもないので潜入するのは容易であろう。
     その後は、他の部屋や階段の影、物置などに待機して帰ってゆく淫魔をやり過ごした後、油断しているアンブレイカブルを全員で急襲してほしいとのことだった。
    「で、今回のターゲット、アンブレイカブルの皆川 抗(みながわ こう)についてなんだけど……」
     見かけはどことなく軽薄な青年だが、いざ戦闘となればそこはアンブレイカブル。単純な近接攻撃のほか、時折炎を纏った攻撃も繰り出してくる。いずれも威力は高く、向こうは淫魔と会っていた直後で油断しているとはいえ、大きなダメージには注意しなければならない。
     説明に一区切りをつけて、開いていたノートを置くと、改めてまりんは灼滅者たちを見渡した。
    「今回の作戦の目的としては、アンブレイカブルの灼滅にとどめておこうと思うの。もし淫魔を攻撃したら、間違いなくアンブレイカブルの青年が間に入ってくると思うし、そのままダークネス二人と同時に戦うなんてことになったら、残念だけど、私たちの戦力じゃ勝つのは難しいだろうから……」
     最後に、まりんは神妙な表情で語気を強めた。
    「狙うのは、あくまでアンブレイカブル一人、みんな、ここは堅実にいこう!」


    参加者
    和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)
    真田・涼子(高校生魔法使い・d03742)
    沢田・叶奏(中学生サウンドソルジャー・d04028)
    白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)
    坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)
    水戸・春仁(ロジカルソーサラー・d06962)
    藤柄田・焼吾(厚き心は割れ知らず・d08153)
    高原・まや(まいぺーすでまいりましょう・d11298)

    ■リプレイ


     指示された家へ到着すると、一同は玄関からそろりと侵入。随分使われていないだろう部屋を見繕って、その中に潜み静寂を維持している。
     「全く、近頃この手の依頼が多いですね……、殿方とは皆こういう事がお好きなのでしょうか……、不潔です……」
     部屋の椅子に腰を降ろす高原・まや(まいぺーすでまいりましょう・d11298)は気分を害したらしく眉を吊り上げていた。部屋での行為……今でこそ随分と落ち着いたようだが、それまでの物音はなんというか、本当に露骨なものであった。
     それは潜入がばれていないとの意味でもあるのだろうが……、そのような音を散々に聞かされて溜まった不快を、やがて我慢ならなくなってまやは口にしたのだ。
    「……それと、藤柄田様、いい加減その鼻血を拭いてください」
    「ん? うわ、わっ! いつの間にっ!?」
     呆れ口調で言われて鼻の下に手をやってみると、指についた血に藤柄田・焼吾(厚き心は割れ知らず・d08153)は小さく驚きを口にして、まやから受け取ったティッシュで慌ててそれを拭き取った。
     単に音だけだとしても、やはりそれから光景の全容まで想像してしまう。焼吾の中の若さに火をつけるには十分すぎる刺激であった。
    「いやだって、俺、やっぱり健全な男子だし?」
    「ま、男として気持ちはわからねぇでもねぇけど」
     まやには判断の難しい言い訳をする焼吾と共に、扉に耳を張り付けるようにして物音を確かめていた水戸・春仁(ロジカルソーサラー・d06962)が愉快げに笑う。ふざけているように見えても、この行動は任務の達成に必要な事ではある。でなければ、淫魔が帰って単身のアンブレイカブルを急襲する絶好のタイミングを逃してしまうだろう。
    「にしても、淫魔にそそのかされたアンブレイカブル……どんな奴なんだろうな、写メでもとっとくか」
    「あっ! ……忘れてた、携帯の電源、切らないとね……」
     肩をすくめて言う春仁を見て、壁にもたれるよう座っていた沢田・叶奏(中学生サウンドソルジャー・d04028)がはっとしたように携帯電話を取り出し、電源を切る。気付けてよかった。もし着信が入ったりしたなら……想像するだけで背に冷や汗が伝う。
    「いよいよ……僕らの闘いが始まるね」
     緊張を顔に張り付け、胸を高鳴らせる叶奏の呟きに答えるように、ぎゅっと抱き上げられたナノナノ(みにゃ)は愛らしく鳴き声を上げた。
    「まっ、でもさ、何はともあれ潜入が成功してよかったね~」
     広い目のテーブルに腰を下ろし、足をぶらつかせながら真田・涼子(高校生魔法使い・d03742)が手をひらつかせて言った。涼子の言うように潜入が成功できたのは大きい。相手が疲れていて、しかもその不意を打てるのだから非常に有利が傾くだろう。
    「……まさか、ただのプロレスごっこでした、なんてオチはないだろうな?」
     その隣に座っている坂村・未来(中学生サウンドソルジャー・d06041)が苦々しい顔で答える。相手が非凡な戦闘ばかりを好むアンブレイカブルだからこその言葉だ。まさか、女性に興味を抱く個体が現れるとは思いもしなかった。
     そのアンブレイカブルが特別なのか、淫魔の魅力が強力なのか……、行為の内容が分からない以上……分かりたくもないが、真相は闇の中である。
    「……お! みんな、いよいよみたいだぜ?」
     未来がぼんやり考えていると、焼吾が声を潜めて囁く。
     ガチャ。どこか冷たく、戸の開く音が聞こえてきて、一同は黙り込んだ。


    「……行ったみたい……」
     戸が開く音から間もなくして、窓に映ったこの家の入口辺りの風景をカーテン越しに見下ろしながら、白伽・雪姫(アリアの福音・d05590)が自身のサイキックで出したドリンクを口にしながら呟く。二階であるこの部屋からは、入口から出てゆく淫魔の姿をしかと観察する事が出来た。
     ほんのり甘いいちごとミルクの風味を舌に転がしながら雪姫と、雪姫に手招きされた一同は、向こうに悟られないよう気を配りながらその姿を確認する。生真面目な印象の制服を着込んでいたり眼鏡をかけていたりと、一見すればただの勤勉な女学生に見えなくもない。
    「眼鏡の似合った、大人っぽい人ね……」
    「ふむ、随分とすました顔立ちじゃの」
     雪姫と和泉・風香(ノーブルブラッド・d00975)が素直な感想を口にして、その場の全員が、焼き付けるようにその姿を視認する。いずれ倒さねばならないかもしれない相手だ。覚えておくに越したことはない。
    「アイツをこのまま逃がすのはしゃくだけど、仕方ないかな?」
    「きっといつか……僕が倒す」
     ダークネスを二人も相手取るなど出来ない。涼子は真剣な眼差しで言い、叶奏もまた、覚悟の表情で呟いた。
    「それじゃ、参ろうかの?」
     淫魔はもういない。風香の言葉で一人になったアンブレイカブルへと向かうべく、一同は立ち上がった。

     バンッ!!!
    「よう、色男。いい夢は見れたかい? 残念ながら、夢は終了の時間、だ」
     突如未来により声が張られ、戸が乱暴に開かれたのに、ベッドに腰を下ろしていたアンブレイカブル……皆川 抗(みながわ こう)はこちらを向いて目を見開いている。その手はシャツのボタンにかかっていて、今しがた服を着たばかりなのだろう。
    「お疲れの所悪いけど、俺達とも楽しもうぜ!」
    「な、なんだよお前らっ!」
    「いや、お前を灼滅しにきた灼滅者だから」
     焼吾が気のせいか鬼気迫る雰囲気で吐きかける。動揺する皆川に構うことなく、カシャ、その慌てふためいた表情をフォルダに保存して、春仁は携帯をしまった。
    「灼滅者……聞いたことあるぞ! 俺たちの邪魔して回ってるって……」
     立ち上がり、一同を威嚇の目で睨む皆川は、すると、何かに気付いたように指をさした。
    「さては! ラブリンスター……とかいうヤツの邪魔して、アイちゃん困らせてんのはお前らか! アイちゃんに言いつけてやるからなっ!」
    「はっ、本気で言っているのか?」
     未来は鼻で笑って答える。アイちゃんというのが先程出て行った淫魔であるのは理解できた。だが、続くその言葉は理解できない。そんなことを、自分たちがさせる訳がない。
    「あたしたちが、ここまできてお前を取り逃がすって?」
    「ぐっ!」
     身構えた未来を中心にして、黒いサイキックの波動が皆川めがけ押し寄せる。
     腕を構えて防御した皆川の顔は苦々しく、やはりと言おうか疲労の色は濃いらしいことが伺えた。
     それでも自分へと吹きすさぶ闇をしのぎ切り、皆川は床を蹴って未来へと迫る。
    「へへっ、お前らぶっ倒して、アイちゃん驚かせてやろっと!」
    「うっ……!」
     悪戯でも思いついたかのような顔で繰り出してきた拳を、刃がノコギリ状になった剣でそれを受け止め、衝撃のままに一歩後退を迫られた。
     更に追撃の姿勢を見せた皆川、しかし割って入るように奏でられる、透き通った甘美な声。
    「……うがっ!?」
     表情を歪め頭を押さえる。流れてくる歌を辿るようにちらと目をやれば、その先に、喉を震わせ、胸元に手を置いた雪姫がいる。今も尚続くサイキックの歌声が皆川の頭をかき回す。
    「あなた、メガネをかけた子がタイプなの……? メガネフェチ……?」
     ひとまずサイキックを終え、歌声同様に落ち着いた声色で雪姫は訝しげに尋ねた。一方、皆川は頭痛を払うように頭を振るっている。催眠にはかからなかったようだがダメージはいくらか通じたようだ。
    「違うっ! メガネもそうだけど、おれっちはアイちゃんのナカミに惚れたんだ! 上品で、物静かで、冷たいけどそれがまたカワイくて……」
    「……キミもかわいそうだねぇ……いろんな意味で」
    「ほほ、すっかりホの字じゃの?」
     すっかり淫魔に躾けられたらしいその様子に、叶奏と風香は笑いながらも遠い目でそれを見つめる。
    「お前等さぁ、気に入ったら他のダークネス組織にも手ぇ貸すのかぁ?」
    「べ、別にいいだろっ! ……それで、もうちっと笑顔が見れりゃ……ごにょごにょ」
     春仁に飄々と言われたからか、火照らせた顔を俯け、しどろもどろに口ごもる皆川。それを尻目に、風香は自身の身の丈よりも大きな長大の砲を両手で構え、その砲口を真っ直ぐ突きつけた。皆川がそれに気付いた時には、すでにサイキックが集約されている。
    「安心せい、淫魔のほうも、すぐ冥土に送ってやろうぞ」
    「わっ……」
     風香は告げ、グリップを引く。同時に驚きの声があがり、間もなく砲から発射された光線を受けて、皆川は派手に吹き飛んだ。
    「く、くっそ……」
     壁に手をやってふらふら立ち上がる。光線の光に目を焼かれ、激しく明滅する視界に皆川は顔をしかめていた。


    「やっぱそういう“コト”って疲れんだな……自業自得だぜ!」
     追い打つように焼吾が駆け寄る。纏うサイキックには皆川が一瞬たじろぐほどの覇気があり、その顔は不服そのものの形相をして、鉄塊のように刃の厚いの刀を思いのままに振りかぶる。
     どうしてダークネス、それもアンブレイカブルが! 焼吾の斬撃が、そうした嫉妬の念と共に皆川へと叩き込まれた。
    「ぐへっ!」
    「まだまだ! ボクも行くよーっ!」
     すかさず涼子が手をかざす。その手のひらに意識を集中し、そして出現させたサイキックで構成された光の矢が、呻いている皆川へと発射される。
    「こういう……事件って苦手なんだよね~、悪いけど、さっさと終わらせるからねっ!」
     サイキックの矢は、皆川に見事命中するとともに爆発。それを確認すると、まるで射的にでも成功したように心置きなく涼子は、よしっ、とガッツポーズをした。
    「……ぐぅ、目ぇいてぇ……けど! 負けらんねぇ!」
    「ッ!!?」
     焦点が虚ろにぶれた瞳だったが、皆川に鋭い目で睨まれ、焼吾は颯爽と剣で身構えた。炎を纏った拳をで躍りかかってくる皆川に、焼吾は歯を食いしばって相対を迫られる。
    「させません」
     叫んで、まやは武器である護符を放つ。焼吾の眼前まで飛んだ護符はサイキックの障壁を展開し、構わずに放たれた炎の拳による焼吾への衝撃を和らげた。
    「すまねぇ、助かった!」
    「いえ、あのようなものはさっさと灼滅してしまいましょう。……武兄様、お願い!」
     炎によるダメージを疎んじて一歩退いた焼吾に言われ、まやはこくと頷くと皆川を見て、素早く手で合図をする。
     すると、まやの傍らに現れたビハインド(武)が、電流のようにほとばしるサイキックを手に漲らせ、皆川へ向けそれを放出する。
     全身に奔った痛みに皆川は呻き声をあげた。同時にサイキックに神経が蝕まれるような感覚。身体から力が抜けてゆくのを感じる。
    「キタッ! 新しい曲閃いた!!」
    「! ぐあっ!」
     頭の上に感嘆符でも浮かべていそうな顔をして、叶奏は咄嗟に叫んだ
     思いついたままの音譜に乗せて、指でリズムをとりつつ気分良さげに放たれたサイキックの音色が、そのまま攻撃となって皆川を襲う。
    「みにゅ! 回復お願い!」
     ふらついている皆川を尻目に、仲間の回復に勤しんでもらうべく、叶奏は自身のサーヴァントの名を叫んだ。
    「ありがとよ、どれ、あたしも歌ってやるか」
     叶奏のナノナノ(みにゅ)による回復を受け、身体の好調が完全に戻った未来は、ささやかな発声練習の後、そっと胸に手を置いた。
     そして紡がれる、雪姫や叶奏と同じ、サイキックの歌声……。
    「……!、!! !?」
     間髪置かず、皆川は耳を押さえて悶絶した。そして味方である筈の一同までも……。
     工事現場の重低音、ガラスをひっかいた音、恐竜の叫び声……それのどれとも違う暴力的な音色。もはや同じ技だとは思えない程、その歌声は雪姫や叶奏のものとは違った内容で、ただの下手ならともかくサイキックを発動していてはそれも立派な攻撃と化す。壮絶な破壊の音波は窓を割り、ランプを落とし、それどころか部屋を揺るがす。
     意識していない周辺にすらこれほどの被害をもたらしているのだ、攻撃の対象になっている者へのダメージなど言うまでもなく、彼は耳を押さえて床を転げまわっていた。
    「……いろいろ同情するよ、いや、マジで」
     こちらにもダメージが出たのではないかと錯覚するほどの音波も、その惨状を未来が目の当たりにしたことで収まった。春仁もまた、いまだ頭の片隅に頭痛を感じた気がするのだが、それでも武器である槍を手繰って、床に倒れて意識の飛びかけている皆川を悠々と見下ろす。
    「んじゃ、お疲れさん、淫魔とイロイロできて良かったな?」
     春仁が言うと、突き出した槍の先を中心にして渦巻いたサイキックの波動が、突きの衝撃と共に皆川を軽々と吹き飛ばす。
     その体は派手に床を転がった後、壁際のクロゼットへと叩き込まれた。
    「く~~……」
     コンテナの引出にもたれるよう大の字になって、くるくると目を回す。クロゼットの衣服にまみれながら、そんな状態の皆川の体はやがて黒い煙と化し、宙にかき消えていった。


     戦闘が終結し、もぬけの殻になってしまった家の中を一同は捜索する。ラブリンスターに関する手掛かりがないか調べる為であった。
    「しかし、それらしい情報はないようじゃのう」
     つい先ほどまで戦場となっていたベッドルーム。派手に飛び散ったクッションの羽毛や引きちぎれたシーツなどはどうしようもなかったが、それでも随分と片づけの済んだ部屋を見渡して風香は呟いた。本当にここは、淫魔とアンブレイカブルが会う為のみに使われた空間のようだった。
     違う部屋も見て回ったが、変に使用感のある部屋は他に一つだけ。
    「……不潔です」
     冷たく言うまやの呟きは、まさしく一同の思いが口に出たものであった。食べかけの食器や脱ぎ散らかされたままの衣服など、男の一人暮らしがひどいレベルで再現されていた。アンブレイカブルが寝泊まりしていたらしく、ここの片付けには流石に苦労させられた。
     そして、そのついでに部屋を物色してみても、ラブリンスターはおろかダークネスに関する情報は見つけられなかったのだ。
    「一階は終わったわ、けど……」
    「うん、とくにラブリンスターの情報は見つけられなかったよ」
    「やれやれ、そう簡単には尻尾を出さんかのう?」
     作業を分担して、そのうち一階を調べていた雪姫と叶奏が戻ってくるのを見て、風香は嘆息なじりに呟く。
    「じゃ、早いとこ撤退しようよ! 淫魔が戻ってきたらヤバいし……」
     連続してダークネスと戦うことなど出来ない、涼子は一同の気分を変えるように手を叩いて言った。
    「うーっし、お疲れさん、なぁ、帰り皆で飯くってかねぇ?」
    「おっ、いいね!」
     それを任務終了の合図にしてか、体をほぐすように伸びをする春仁の提案に焼吾は乗り気で答える。他の全員も各々の言葉で同意を示した。
     そうして家を後にする一同。楽しげな雰囲気の一方で、ラブリンスター……大淫魔の情報は残念ながら得られず、その謎は深まるばかりであった。

    作者:ゆたかだたけし 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年3月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ