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始発の地下鉄が動き出す前――。
まだ、活気づかない阿佐ヶ谷の市街地に、ナイフを持った大量のアンデッドたちが現れた。
地下鉄の線路を通り南阿佐ヶ谷駅から地上へ上がったアンデッドたちは徒党を組み、次々と民家へ押し入る。
静かな街が狂乱の血の海と化した。
逃げまどう人々の悲鳴。
殺された者を目の当たりにした者の壮絶な叫び。
ある民家では、子どもが泣き叫んでいる。
「お父さん、お父さん!!」
子供をかばい、アンデッドにナイフで刺された父親が、今、まさに命の灯を消そうとしている。
「お父さん!」
子どもは、必死になって父親の体をゆさぶった。
すでに、母親はアンデッドに殺されている。
「お父さん! やだよ!! お父さん!!」
「う……う……ぐわああぁぁぁ!!!!!」
「お父さん?!」
父親の体がみるみるうちに異様な姿へ変わり始めた。
デモノイドへ変化していく信じられない光景。
しかし、子どもは面影をなくした父親に怯えもせず、すがりつく。
「お父さん! お父さん!」
デモノイドが子どもへ、ゆっくり手を伸ばした。
だが――。
「お父……」
その手に触れるはずの子どもは、アンデッドのナイフに刺されて崩れ落ちた。
一家を惨殺し、1体のデモノイドを生み出したアンデッドたちは、デモノイドを家の外へ誘い出す。
そこは殺戮に満ちた場所。
人間であることを忘れたデモノイドは雄叫びをあげ、逃げまどう人々に拳を振り落とした。
●
「みんな、大変! 阿佐ヶ谷に鶴見岳の戦いで戦ったデモノイドが現れたよ!」
そう説明する須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の表情はせっぱ詰まっていた。
それもそのはずだ。
街にデモノイドが現れただけでも大問題なのに、今回現れたデモノイドは、何故かアンデッドの襲撃によって生み出されていたからだ。
本来であれば、ソロモンの悪魔『アモン』によって生み出されるはずだ。
「アンデッドたちがデモノイドを生み出せるはずなのに! って思っていたら、どうやらアンデッドたちが装備している儀式用の短剣のような物が原因らしいの。その短剣で攻撃されたら、全員ってわけじゃないんだけれど数人がデモノイドになっちゃうんだ。
はっきりとわかってないけれど、少し前にソロモンの悪魔の配下たちが行っていた儀式に使われていた短剣と同じな可能性はあるね。
短剣のことも気になるけれど、でも今は阿佐ヶ谷に現れたアンデッドと生み出されたデモノイドの灼滅をお願い!
このままじゃ、阿佐ヶ谷が壊滅しちゃうよ!!」
殺戮の始まった阿佐ヶ谷。
そこの民家から現れる1体のデモノイドと4体のアンデッド。
人間から変化し終えたばかりのデモノイドが、雄叫びをあげてアンデッドたちと共に殺戮を始めようとする時こそが、惨劇を止める一手を打つことができる。
まりんは、目に涙を溜めて言う。
「阿佐ヶ谷を救えるのは、みんなしかいないの! ダークネスの手から、多くの命を守って!」
参加者 | |
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斎賀・なを(オブセッション・d00890) |
九条・雷(蒼雷・d01046) |
如月・昴人(素直になれない優しき演者・d01417) |
水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607) |
野崎・唯(世迷言・d03971) |
セシリア・スペンサー(ブレイクスルー・d10807) |
ヴォルフ・ガイストリヒェ(啓示を受けた光の勇士・d10919) |
浅見・藤恵(薄暮の藤浪・d11308) |
●1
「アンデッド!」
灼滅者たちは、民家から出てきたアンデッドたちと出くわし、足を止めた。
4体のアンデッドたちは全身に返り血を浴び、デモノイドは足元に乾いていない血をつけている。
それが何を意味しているのか。何が起こったのか。
灼滅者たちは、すぐに理解した。
悲鳴が溢れる血で濁り、鳴く声が断末魔に変わる狂乱の阿佐ヶ谷の民家で血の惨劇が起きたのだろう。
そして、目の前にいるデモノイドは、かつてこの家の住人だった人間――。
如月・昴人(素直になれない優しき演者・d01417)は伊達眼鏡をはずし、握り潰した。
そして、灼滅者たちは、奇声をあげながら襲いかかろうとしてくるアンデッドたちへ走り出す。
「光魂の進化を、ここに」
ヴォルフ・ガイストリヒェ(啓示を受けた光の勇士・d10919)がスレイヤーカードの封印を解除して武器を手にした。
次々と、戦うべき姿となった灼滅者たちに、アンデッドたちは総攻撃をしかける。
振り上げたナイフを灼滅者たちに落とそうと飛びかかる――だが、野崎・唯(世迷言・d03971)はそれらの体を凍てつかせた。
ここで止めなくてはいけない。食い止めるという強い意志が、アンデッドたちの歩みを遅らせ、仲間の陣形形勢に余裕をもたらせたのだ。
そして、高いヒールの音を鋭く響かせた九条・雷(蒼雷・d01046)は、周りにいる一般人へ建物の中へ逃げるよう警告を叫びながら前へと位置づいた。
アンデッドとデモノイドと灼滅者。
この三者がぶつかりあった以上、すでにここは戦場だ。
あっという間に死んでしまう一般人を守るため、雷は体をはって一般人への道を阻む壁となりデモノイドと向かい合う。
水綴・梢(銀髪銀糸の殺人鬼・d01607)や斎賀・なを(オブセッション・d00890)、セシリア・スペンサー(ブレイクスルー・d10807)も前に突き出て技を振るい、後方から敵の増援がないことを確認した浅見・藤恵(薄暮の藤浪・d11308)は、デモノイドへ雲耀剣の構えを取って、踏みの一歩を出す。
「今の私にできることを……これ以上、その手を血で染めさせるわけにはいきません。終わらせて差し上げますね。――アンデッドたちが倒れるまで、しばらく大人しくしていていただきます……!」
●2
「あなたたちは、絶対にしてはならないことをしたのよ!!」
鋼糸を柔らかくなびかせた梢は、一瞬にして強固な結界をはりめぐらせた。
梢たちが相手にしているのはアンデッドだ。
アンデッドとデモノイドの相手するため、灼滅者たちは二手に分かれて攻撃をしている。
梢は、手に巻き付けた鋼糸を掴んだまま手首を前に傾け、きしむ鋼の音を響かせた。
アンデッドたちは動きが上手く取れずに苛立っているが、それを見るのも忌々しい。
「人にとって、死は人生という物語の結末。それなのに――」
一般人の死を冒涜したアンデッドたちを梢は許さない。
また、エクソシストとしてアンデッドを見過ごすことの出来ないなをも、目の前の敵を倒すことに容赦はない。
「魂に遥かな眠りの旅を与える為に灼滅し、悲劇をここで終わらせる」
なをの手によって降臨した、輝ける十字架に包まれたアンデッドたちは悲鳴をあげた。
まばゆい光の中で体を歪ませるシルエットがくっきりと浮かび、その中から這い出てきたアンデッドたちは、なをと梢に刃を振るってきた。
左右挟み撃ちにされる攻撃は何度目かというわかりきった動きだったが、相手がアンデッドともあって易々と攻撃をかわしきれない。
片側へ逃げれば、もう片方がその隙を狙ってくる。
腕を、腹部を、足を、傷つけられ、足を止めれば急所を突いてくる。
だが、アンデッドと戦っているのは、梢となをだけではない。2人の後ろにいた昴人がリズムを取った足を踊らせて、アンデッドたちを傷つけていた。
まるで何かを演じているかのように踊る昴人が、アンデッドたちを2人から遠ざけると、すぐにヴォルフが治癒に光を輝かせた。
光は、アンデッドとデモノイドと戦っている前衛の血を止めて傷を薄くし、戦う仲間の手を止めないようしている。
あえて、前線に行かないのもこのためだ。
表面に出しはしないが、今回起きてしまった惨劇に怒りを感じていると同時に、己への非力さも痛感しているヴォルフは、せめてこれ以上の悲劇が起きないよう、ここでアンデッドとデモノイドを倒す最善の役を担っている。
唯も同じだ。
混戦する中、回復の手が重ならないよう声をかけ、仲間を励ましながら治癒を続けている。
その胸の内では、怒りや悲しみを抱いているが、あえて振る舞う笑顔は溢れている人の死の中で心を保てる光だ。
なをはその光を具現したかのような矢のように構えた。
「アンデッドには聖なる力を――」
冷静に、弱っているアンデッドを見極めたなをはジャッジメントレイを放ち、貫いたアンデッドの動きを完全な無へと化した。
与え続けていたアンデッドへのダメージに終わりが見えてきた。
「っ!」
デモノイドに殴り飛ばされたセシリアの体が地面の上で跳ね上がった。
デモノイドの攻撃を引きつけるように動き回っていたセシリアは、デモノイドの標的になり、攻撃を一身に受けていた。
「……ま、まだ、戦えますわ」
「ちょっと、無茶しないで自分の傷を見なさいよ! あんた自身でも治さなきゃ、間に合わないよ!」
雷に肩を掴まれた痛みで一瞬、顔を歪めたセシリアだったが、すぐに笑みを浮かべ直して首を横に振った。
「攻撃しか使えないんです」
「――なんだって?」
「デモノイドと戦うために、抑えになるために、私の手は攻撃だけでいっぱいなのですわ。ほら、戦うにはたくさん技があったほうがいいですし。それに、戦うのは嫌いじゃありませんわ!」
「それをいうなら、あたしも戦うの大好きだよっ!」
セシリアは、雷の制止を振り切ってデモノイドと向かい合った。
雷は、再びシールドを広げて仲間の守りに入る。
雷はセシリアと同じくデモノイドと戦う片割れだったが、治癒に追われるばかりで攻撃には一切移れない。
そればかりか、今はセシリアが生死の分かれ目に立たされようとしている。
デモノイドをみつめたセシリアが手にシールドを展開して殴りにかかった。
それを迎え入れるデモノイドも、声を上げて殴りにかかる。
「セシリアさん!」
藤恵が攻撃の手を止め、セシリアの前に小光輪を投げ飛ばした。
小光輪は盾となり、ぶつかったデモノイドの拳の威力を和らげて、大ダメージを回避させる。
「大丈夫ですか?」
息を荒らし、目に涙を溜めた藤恵のとっさの判断は、窮地を救った。
藤恵の回復を得たデモノイド側の灼滅者たちは、本来の形へと戻る。
セシリアに変わって、今度は雷がデモノイドを引き寄せる。
「おいで、その暴力全部受け止めてあげる。もう、好き勝手にはさせない。仲間に手ェ出したきゃあたしを殺してから行きなァ! 」
●3
昴人が頭上にきらめかせたいくつもの輝きが、矢となってアンデッドの上に降り注いだ。
逃げる間もなく、体のあちこちを貫かれるアンデッドの1体が膝を折り、高速で駆け抜けた梢の鋼糸でもう1体が体を崩して横たわった。
アンデッドを全て倒した灼滅者たちは、ヴォルフの温かな光に包まれながら、改めてデモノイドと向かい合う。
「デモノイド……」
昴人は強く拳を握り、前衛たちを癒しの光を照らして万全の状態へと導いた。
灼滅者という身でも、誰かを救いたいという気持ちは変わらない。
そのためには、共にこの地獄を救いたいと集まった8人の存在が大事だ。
「少しでも、こんな悲しい事件が広がらないように阻止させてもらう。カーテン・コールだ、僕たちの世界から退場してもらう!」
デモノイドが雄叫びをあげた。
「地獄? 奈落? 絶望? 絶体絶命? 上等! 灼滅者がどんだけしぶとい生き物かその魂に刻みこんでやる」
口の端をあげる雷がシールドバッシュを殴りつけると、梢が素早い半回転で武器に宿した影で殴り込んだ。
デモノイドは、曲がった背中をより丸めてうめき、暴れるように拳を薙ぎ払った。
太い腕は、前衛たちを横の塀へと叩きつけ、さらに振り上げた腕を落とそうとする。
そうはさせないとセシリアが繰り出した閃光百裂拳で出来た一瞬の隙をついたなをは、デモノイドを死角から斬りつけた。
デモノイドの攻撃にひるんでいる暇はない。
怪我も、ヴォルフが怪我の酷い人から光条を、唯がひたすら闇の契約を放って治してくれているため、持ちこたえられる。
倒すべき相手は、1体――。
中段の構えを取った藤恵が雲耀剣をふるった時、デモノイドは叫びを上げ、液体となって消え去った。
●4
灼滅者たちは辺りに広がった青い液状をまたぎ、アンデッドの持っていたナイフを探し始めた。
それが、儀式用の短剣であれば、なにか危険があってもおかしくないと、それぞれが布を手にしている。
「これかな?」
昴人が、アンデッドの下敷きになっていたナイフをゆっくりと引きずり出した。
これが本物かどうかはわからないが、持ち帰ると決めていた灼滅者たちはすぐに布で来るんで運び出した。
このナイフが儀式用の短剣であれば、ゆっくりしている暇はない。
この場から立ち去ることが先決と灼滅者たちは、走り出した。
その過ぎていく先々で見る目を覆いたい光景に、ヴォルフは戦いに勝ったというのに胸が痛む。
「…………どうして……こんなひどい事ができるんだ……!!」
「……許せない」
強い思いを胸に刻みながら、灼滅者たちは阿佐ヶ谷を後にした。
作者:望月あさと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年3月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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