●戦慄の朝
ずるり……ずるり。
早朝の住宅街。何かを引き摺る様な音が、あちこちから響いている。
東の空が少しずつ白み始めると、その朝の光にぎらりと輝く刃が見えた。ぽたりと滴る赤は、今まで人の中で、命の律動を刻んでいた筈のもの。
朝焼けに徐々に鮮明になっていく景色の中に人は居ない。いや、正しくは―――。
「ひぃっ……ば、化け物!!」
「いやぁあああああああ!!!!!」
「こ、来ないで! 助けて!!!!」
静かな朝の住宅街に不似合いな、絶望の叫びばかりがこだまする。再び静けさが落ちる頃には、人の命等そこには無い。
景色の中に存在する全ての命を刈り尽くし、青く醜き獣と腐敗の体に刃携えた死者達は、道を緋色に染め、行軍する。
●狩りし存在
「アンデッドとデモノイドは、阿佐ヶ谷の住宅街を行軍しているの」
唯月・姫凜(中学生エクスブレイン・dn0070)は、努めて冷静に予知を語る。声色も表情も静か。しかし、その手は微かに震えていた。
鶴見岳で灼滅者達を苦しめた、ソロモンの悪魔『アモン』の生み出した存在・デモノイド。
その存在は今、その脅威の力で破壊の限りを尽くし、早朝の阿佐ヶ谷を血の海へと変えようとしている。
しかし――このデモノイドは、何処かから現れたわけでは無いのだ。
「そもそもは、魔方陣と共に大量のアンデッドが現れただけだった。……ううん、だけだった、なんて言い方は無いわよね。それだけでも充分異常事態よ。でも、そのアンデッドたちが手に持つ短剣を人々に振るった時――続々と人が死んでいく中、一部の人々が、デモノイドへと姿を変えたの」
短剣は、儀礼用の様な形状。少し前、ソロモンの悪魔の配下達が使っていたものか―――そう問うた灼滅者へと、姫凛は未確認だけれど、とその可能性を示唆した。
「これ以上の被害は出せない……アンデッドと、生まれてしまった新たなデモノイドの灼滅を、あなたたちにお願いしたいの」
紅の双眸で真っ直ぐに灼滅者たちを見据えて、姫凛は灼滅者達が向かうべき戦場、その惨状を語る。
まだ薄暗い早朝の住宅街の惨劇は、既に始まっている。
ぐしゃりと、デモノイドがまた1つ、民家の壁をぶち破った。腐敗の肉肌を滴らせて、数体のゾンビが民家へと突入していくと……やがて響く老夫婦の断末魔。
『グォォォオオオオオ…………!』
高く深く重く、青き獣の咆哮は、上がる悲鳴に応えてか。
民家からゾンビが再び外へと姿を見せると、獣は道の先を目指し、のそりとその歩みを進める。
ぎゅっと体を抱く様にして、姫凛は強く瞳を閉じた。
地獄絵図の様なその光景が、エクスブレインには一体どの様に見えているのだろう。これから灼滅者たちは、その惨劇の場へと赴くのだ。
武蔵坂からほど近い阿佐ヶ谷で起こるこの惨劇には、一体どんな意味があるのか―――その何一つ、見えているものなど今は無い。
ただ、目前の悲劇を、黙って見届けることなどできないから。
「……お願い、どうか」
成功、そして無事で――8人の背を見送る紅の双眸は、何処か迷う様に揺れていた。
参加者 | |
---|---|
天方・矜人(疾走する魂・d01499) |
高柳・綾沙(なりそこないソリチュード・d04281) |
リオーネ・ブランシュ(運命黙示録・d04884) |
シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090) |
射干玉・闇夜(中学生ファイアブラッド・d06208) |
月日・九十三(時を欺く観測者・d08976) |
倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392) |
神楽・紫桜(紅紫万華・d12837) |
●暗闇の朝
――走る、走る。
薄暗い空の下、頼りなく揺れる街灯に照らされる道が、鉄の匂いを帯びている。
今だけは呼吸が億劫だと、射干玉・闇夜(中学生ファイアブラッド・d06208)は吐き出す息に力を込めた。しかし吐き出した分嫌でも空気は肺に取り込まれ、息苦しい程に鼻腔を血の匂いが満たす。
遠くには、悲鳴。阿佐ヶ谷に突如現れた大量のアンデッド、そして生み出されたデモノイドの脅威が今、罪の無い人々の命を次々に狩っているのだ。
嗅覚、聴覚から感じる惨劇の予感――まだ仄暗い空が全貌を隠してくれているが、やがて朝日が昇れば、この目にはどんな光景が飛び込んでくるのだろう。
想像したくない嫌な予感を振り切り、神楽・紫桜(紅紫万華・d12837)は前に前に、ひた走る。
先程から、立ち並ぶ家々の壁が無残に破壊されているのが解る――つまりここはもう、惨劇の後だ。自然引き結ばれる唇が、遣り切れない紫桜の心中を如実に物語っていた。
やがて8つの足音が、一際強い獣の咆哮を耳に掴んだ。
見える道の角の先だ。天方・矜人(疾走する魂・d01499)は上体を低く、ぐん、と速度を上げる。
視界に青黒い醜獣を捉えるべく、差し掛かった角道を曲がると――。
見える青い獣も、住宅からぞろぞろと現れる腐人も、今は背を向けている!
「『Music Start!』 街に必要な声は悲鳴じゃなくて笑い声、デス!」
先手を取れる。即断するやシャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けの旋律・d05090)はいつも歌に乗せる心を、強く言葉に乗せ放った。
スレイヤーカード解錠の言葉と敵意の声。道行くゾンビが異変に気付き、灼滅者へと振り返った、その時。
中空に浮かぶ影が、手前に位置するゾンビへと踊りかかった。
(「誰も望まない虐殺だけは止めたい」)
高柳・綾沙(なりそこないソリチュード・d04281)の手に現れた身丈よりも長い鋭き槍が、加えた捻りの勢いを乗せ、垂直に腐敗の胸を貫いた。
「――ギッ!」
耳に障る小さな悲鳴に、貫いたそのまま一度槍を手放し、握り直す。
そして中空からゾンビの右胸にとん、と軽く足を付くと、蹴り出す勢いごと、槍を一気に引き抜いた!
「ギァアアアアア!」
上がるゾンビの悲鳴、ぼたりと粘質な鈍い音を立て落ちる黒く古びた血液。みるみる地に染む血溜まりを踏みつけ、続いて飛び込んだシャルロッテは、異形の腕で更に胸の風穴を抉った。
住宅の壊れた壁からはゾンビが続々と姿を現す。後方位置に立つリオーネ・ブランシュ(運命黙示録・d04884)が、戦い仕掛ける仲間の傍らで静かなる灰の瞳を戦場へ巡らせた。
標的は、前にデモノイド含む4体。やや下がって1体、最後方に2体。エクスブレインの予知通り、標的は7体。
「まずは頭数を減らそう……いくぜ、みんな!」
手に持つ真言刻む魔術の杖『-毘盧遮那-』をくるりと持ち替えて。月日・九十三(時を欺く観測者・d08976)が放った開戦の鬨の声と共、打ち鳴る剣戟が激しさを増して行く。
●序戦
「さあ、ヒーロータイムだ!」
矜人の声が、綾沙の殺界中に響き渡った。
先ずは回復手段持つゾンビを狩るべきと、標的絞り立ち回る仲間達の中、倉澤・紫苑(奇想天外ベーシスト・d10392)は1人真っ直ぐに青の獣を見つめた。
(「デモノイド……『アモン』の生み出した異形……」)
結い上げた靡く黒髪と同じ漆黒色の糸を手から奔らせ、未だ薄暗い空の闇に紛らせる。
前に駆ける矜人の、乾いた骸の仮面が体液滴る本当の骸へ近付いた時――その足を取る斬撃に合わせ、紫苑は一気に糸を引き絞った。
「こんなところに奴が出てくるとは思わないけど……こんな悲劇、無視できないし」
暗闇と死角、2つの利を取った攻撃。戦闘開始から一度も攻守に転ずる隙を許さず、先ず1つ腐乱の肉体が物言わぬ肉片へと化した。
未だ回復は不要。癒しを第一に立ち回る心算の九十三も、今は攻撃へ転じる。足元から伸ばす影の触手は、絡み取る様にゾンビの肉体を締め付けた。
囚われの今が好機。闇夜は雷の闘気を拳に纏わせ、一気に敵懐へと間合いを詰めた。
「砕けろ!」
影に包まれ拳打たれた腐敗の肉体から、ミシミシと骨軋む音が耳に届く。その身を追い討つ様に放たれたリオーネのセイクリッドクロスが、遂に2体目のゾンビを光の中に焼き払った。
先手を取れたことは大きい――紫桜は無傷の仲間達に安堵しながらも、瞳の青で、未だ静かな青獣を見つめた。
警戒していたソロモンの悪魔の儀礼用ナイフは、既に他の場所へ移動した後なのか見た所この戦場下の敵は所持していない。
そしてここまでの戦闘で、ゾンビ1体毎の強さは苦にするほどでは無いと知れる。
ならば、問題はデモノイド――目覚めてしまった、脅威の獣。
(「元々このデモノイドも人間……なんて考えてたら灼滅出来なくなっちまうな」)
無論、それはデモノイドに限った事では無いと、紫桜は解っている。目前で腐った体を操るゾンビですら、元々は人として生きた肉体なのだ。
(「――人だって解っていたって、どうにもできない」)
綾沙の漆黒の瞳が、憐憫に曇った。鋼鉄の如き超硬度の拳に、乗せるは力と心。
「私にはあんたを助ける方法なんてない。あんたがどんな人だったかすら知らない」
拳が向かうはゾンビ。しかし、その言葉はデモノイド――その中に在るだろう、人の命へと。
「けど、こんな虐殺のために生きてたわけじゃないんだろ?」
ならば、終わらせよう――長い髪を翻し放った鋼鉄拳に、ゾンビはそのまま地へ崩れる。
ぽっかりと広がった視界の先に聳え立つ青獣は、見るだけで圧倒される様な禍々しいオーラを持っていた。
そしてそのオーラに違わず――獣が灼滅者達に圧倒を許したのも、此処までだったのだ。
●反射
「危ないデスっ、……!」
腹部を打つ鋭い打撃に、紫苑を庇い飛び出したシャルロッテは、体を折り逆流した胃液を吐き出した。
口内に広がる胃液の味は、強い鉄の香りを帯びている。仲間を守る布陣に立つシャルロッテと闇夜は、これまでの何度かのデモノイドの攻撃を全て壁として受けていた。
「シャルロッテちゃん!」
「大丈夫か!? ……回復は任せな!」
急ぎ九十三が祝福を唱えると、シャルロッテを温かな光が包み込む。その間近寄ってきたゾンビには、闇夜がレーヴァテインを見舞い、その体を炎の塵と変える。
癒しの光に不意に楽になった呼吸。シャルロッテがはっと息を吐き出し顔を上げると、布陣の穴をフォローする様にデモノイドへと向かう紫苑の背が見えた。
醜悪な獣の攻撃。その威力は圧倒的で、盾の布陣をもってしても重い。
またシャルロッテの場合、ゾンビに対しても序盤から積極的に怒りを誘ったことで全体の攻撃が集中する傾向にあった。それは仲間を守る手段としてはこの上ない効果を齎したが、或る意味では己の命を削る諸刃の剣。
開戦時の圧倒は、唯の一撃で幻と知れた。だからこそ、守るべくシャルロッテは立ち上がる。
「しかし、学園の近くでこんなデカい事起こすとは、やってくれるぜ……」
独言して、矜人は一瞬で前へと飛び出した。ソロモンの悪魔の短剣に、今回の急襲――脳裏に過る、事象の裏へのあらゆる予測は戦闘の後。
今は先ず、目前の敵を蹴散らすのみ。
黒き丈長のジャケット『スカル・フォーム』が翻る。手にした魔道の杖をゾンビの空の眼窩に突き刺すと、腐人は甲高い奇声をあげた。……急所だ。
無論、それで終わりでは無い。そこから強大なる魔力を注ぐと、ゾンビはぶくぶくと膨れ上がる。爆発を予感して、矜人がざっと後方へ飛び退ると、やがてゾンビは体内から弾ける様に霧散した。
「ゾンビもデモノイドも、元は人なのに……」
次々と散っていくゾンビに、悲しみを滲ませて。リオーネは、ふわりと手にする鎌を高く掲げた。
愛らしい容姿に反し、無数の骸骨を鎖で括る鎌――『メメント・モリ』は、忌みの力を秘め振り下ろされる。
「……悲劇はここで終わらせないと、ね」
デスサイズ。紫桜の炎にもがき苦しむ生き死人へと、真実の死を齎す断罪の刃は音も無く静かに落ち、首を狩った。
ごろり、と地に落ちた首は、ぴくりぴくりと動いたのち、静かに風化し、戦場の空に消えていく。
――全てのゾンビが、戦場に散った。
一度、布陣を整えよう――予め決めていた通りにシャルロッテが後方へと下がりかけたその時、デモノイドの刃化した腕が綾沙へ向かうのが見えた。
シャルロッテは、下がりかけた足を踏み出し手を伸ばした。……見えてしまったから。
誰にも、傷付いて欲しくない――願いは反射的に、その体を動かした。
「……シャルロッテ!」
叫ぶ声は誰だったか。
綾沙がとっさに目の前で崩れるシャルロッテの体を抱きとめる。手を覆ったぬるりとした感触に目を遣れば、今溢れたばかりの少女の鮮血に赤く赤く染まっていた。
デモノイドこそ脅威で、またデモノイド1体になってからが戦いの正念場であろうことは灼滅者達も解っていた。長期化を予測したからこそ、ゾンビを倒し切ったその後の布陣変更を想定していたのだ。
計算通りに行かないことは、必ずしも失念では無い。意思を持ち動く相手に対して、布陣、相性、命中、そして運――不確定な要素が混在する以上、何が正しく何が間違いか、それを判断することは極めて難しいのだ。
困難な戦いの中、今確かなことは、シャルロッテへ圧倒的に攻撃が集中したことでディフェンダーの闇夜を除く全員の体力がほぼ完全であること。
そして闇夜もまだ前衛に立てるだけの余力を残しているという、結果。
誰一人、俯かない。ある者はシャルロッテをそっと後方へ横たえ、ある者は歯を食いしばり、ある者は強く手を武器を握り締めた。
仲間がゾンビへ相対する間も1人デモノイドへと向かい続けた紫苑は、檜皮色の瞳で変わらず獣を見つめ、その時を告げる。
「元は人間って、知ってる。……でも、被害者だとはいえ、被害を大きくするわけにはいかないの」
最期はせめて、人らしく散ってほしい――1人欠けた戦場に思いを乗せ、灼滅者達は戦いの終焉へ向け、駆ける。
●散るは紅
攻防は、布陣整えて尚も続く。
「苦しめずに、なんて考えてられないんでな。……焼かせてもらう」
紫桜の身に宿す炎が飛び立つ千鳥を見るような美しき槍を包み、醜悪の獣を襲った。煩わしそうにその炎を振り払い弾くと、動作そのままに、デモノイドは紫桜を刃の腕で薙ぎ払う。
しかし、そこへ壁の様に飛び込んだのは綾沙だ。
「……く……!」
引き裂かれた腕が、みるみる紅に染まっていく。結果的にシャルロッテが倒れた所へ綾沙がバックアップに入った形になったが――その一撃の重さに、倒れた仲間の功績を知り、悔しさが滲んだ。
「……ここで、終わらせる……!」
ぐっと感情を押さえて、一言だけ。あとは言葉よりも、戦いで語るのだ。九十三も出て5人になった前衛を、綾沙の展開する盾の守りが包み込む。
紫苑は緩く弛ませた鋼の糸を、鋭いまでの速さでデモノイドへと放った。
素早く手繰り操る糸は、直線的に曲線的に、不可思議な軌道を生み出し、無数の回復困難な傷を青い体表へと刻みつけていく。
噴出す体液が糸を伝い、離れた場所へと染みを作った。
「さあ、真打ち登場だぜ!」
畳み掛ける様に、叫ぶ九十三、静なる闇夜とが左右からデモノイドへと肉薄する。
左側面からは九十三が傷跡を狙い『真言杖-毘盧遮那-』を翳し、右側面では闇夜が傷口から噴出す自身の炎を拳に纏わせて。
同時に獣の体を打つと、遂に獣は苦しげな咆哮を上げた。
恐らく、終わりが近い――白き骸の仮面の下に素顔を隠し、矜人は地を蹴った。リオーネも、もう1人も欠けぬ様にと、癒しの詠唱を唱え始める。
「苦しまなくていいよ、これで楽にしてあげるから……」
デモノイドへと言葉を紡ぎながら、ふわりと、リオーネの温かな光が綾沙へ注がれた。単体回復でありながら自分へも届く光に闇夜がふと空を見上げれば、東の空が徐々に明るく白んで――朝陽が、差していた。
空の色は美しいのに、迎える朝がこんなにも息苦しいのは、辺りに漂う鉄の匂いと日常とは程遠く荒れた住宅街の景色のせいだ。
そして、目前で狂った様に蠢く青い獣は、騒がしく痛みや怒りに悲鳴を上げながら朝日を受けている。
人のかたちは跡形も無く、考えようとしなければ、元は人だった存在とは到底思えない。
(「一体、何が起こってた? ……朝陽はこんなに変わらねーのに」)
闇夜が心に問いかけても、答えは無い。
「エンディングの時間だぜ?」
突き刺し、横へ払って――矜人が急所を裂く殺人者の斬撃を繰り出す。
それが最期。獣は断末魔の叫びも上げず、また在りし日の人の面影も浮かべずに、静かな朝の光に照らされて。
まるで始めからそこに無かったかの様。醜き青の獣はグズグズとその姿を崩し、朝の静寂の中に融ける様に消えていった。
年長である九十三がシャルロッテを抱き上げ、灼滅者達は学園への道を戻る。
戦場へと向かう時に一度通った道。薄暗かった視界は朝日に照らされ、その地獄絵図を嫌でも明々と視覚へ齎してくれる。
破壊され、崩れた塀や壁。荒れた庭。
そしてそれらの景色の中――民家の窓に、壁に、庭に、そして道路に。未だ乾かず色も鮮やかに滴るおびただしい量の血液。ぐにゃりとおかしな方向に体を曲げ横たわる人々の遺体。
「……こんな……」
九十三が言葉を失うのも無理は無かった。背筋の凍る様な朝の風景。
思わず目を逸らしたくなるけれど――それでも、これが今の世界の現状であるのだと、灼滅者がその事実から逃げるわけには行かない。
綾沙は、道の傍らに横たわる少年にそっと寄り添った。恐怖に見開かれたままの瞳を指で閉じ、胸の上に手を組ませると、あやす様に柔らかく語りかけた。
「恐い夢は終わり。……お疲れ様」
デモノイドに、散った全ての命に送る言葉。紫苑も同じ様に近くに倒れる女性の遺体を整えると、両手を合わせ、冥福を祈った。
「……きっとこれは偶然じゃなく、必然的に仕掛けられたモノ」
小さな体をぎゅっと抱きしめ、リオーネが呟いた。朝日を苦々しく見つめ頷く紫桜も、瞑目し、黙祷を捧げる。
「何かの意図で利用されただけの、哀れな命も、無為に散る命も。こんな事するのは、絶対に赦さない……」
リオーネから搾り出す様に紡がれた言葉は、脅威去った静寂の中に落ち、消えていく。
灼滅者達は歩き出した。此処では無い何処かでも、エクスブレインの呼びかけに応えた灼滅者達が惨劇と戦った筈だ。
悲鳴はもう、聞こえない。
朝焼けの景色に、散るは紅――陽光に浮かび上がった惨劇の光景は、人々に恐怖を、灼滅者達に確かな戦いの決意を齎し、やがて日常の風景へと還り行く。
作者:萩 |
重傷:シャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けに響くアルペジオ・d05090) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2013年3月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|